8月も下旬に入り、夏休みも残り少なくなった頃。
夏休みの最後の思い出という事で、定番の夏祭りに行くことになった。
行くことになったのだが、その神社の名前が、
「……………篠ノ之神社………ねぇ………」
聞き覚えのある名前だった事に、思わず声を漏らした。
「もしかして篠ノ之さんの実家とか親族がやってる神社なのか………?」
俺は神社の入り口の鳥居の前で、石柱に刻まれた名前を眺めながら呟いた。
すると、
「お待たせ~!」
後ろから声を掛けられた。
振り向くと、そこには青い着物に身を包んだ葵と、藤色の着物を着た優花が立っていた。
葵は長い黒髪を結い上げており、いつもとはまた違った雰囲気を見せ、大和撫子と言った装いだ。
優花はいつも同じ髪型だが、着物を着ている事から清楚な雰囲気が伺える。
「ああ、2人とも………着物姿も良く似合ってるよ」
俺は、そのままの感想を口にする。
2人は嬉しそうにはにかんだ。
「じゃあ、行こっか」
俺達は鳥居を潜る。
2人は当然の様に俺の両腕に腕を絡めて両側に着いた。
出店を回りながら、たこ焼きや綿あめなどの祭りの定番メニューを摘まみながら、神社の奥へと歩いていく。
時折男達から嫉妬の視線が飛んでくるが無視だ。
そうしておみくじ売り場に差し掛かった時、
「………あれ? あそこにいるのって………」
葵が立ち止まっておみくじ売り場の方を見ながら呟いた。
「どうした?」
俺が葵の視線を追っていくと、
「…………織斑と篠ノ之さん?」
おみくじ売り場で売り子をしている巫女装束の篠ノ之さんと、そのおみくじ売り場の前にいる織斑の姿があった。
「箒が売り子をしてるって事は、やっぱりこの神社って箒と関係があるようね」
優花も納得したように頷く。
様子を窺うと、篠ノ之さんは動揺しているようで、酷く狼狽えている。
どうやら篠ノ之さんにとっても織斑が居たことは想定外の様だ。
「織斑の奴………この状況で変な事言わんだろうな………?」
デリカシーの無いあいつの事だから、『
すると、
「凄いな………サマになってて驚いた………」
織斑が口を開く。
「はっ?」
俺はその台詞を聞いて思わず声を漏らす。
「お前って、女らしい格好も似合うんだな………綺麗で吃驚した………!」
照れ笑いをしながらそう言う。
っていうか誰だお前は!?
「…………………なあ、葵、優花。見て見ろよ。あそこに織斑のそっくりさんが居るぞ」
俺は思わずそう言ってしまう。
「ちょっと大士。現実を否定しない。気持ちは分かるけど………」
「あはは………私も一瞬耳を疑ったよ」
優花と葵に現実逃避を否定される。
すると、
「………夢だ………これは夢だ……! 早く覚めろぉっ!!」
篠ノ之さんが力一杯叫んだ。
どうやら篠ノ之さんも現実だと認識して無かったらしい。
とは言え、こんな人通りの多い所でそんな力一杯叫べば注目を集めてしまう。
「………これ以上ここに居るのも野暮ね。行きましょう」
優花がそう言って俺を促す。
「あ、ああ…………」
俺はどうしても目の前の光景が現実だと信じられず、呆けた声を漏らすのだった。
この祭りのメインである神楽舞の時間がある程度近付いてきた時、俺達は場所を取る為に早めに神楽舞が行われる場所へ向かう事にした。
その途中、
「「あ………」」
篠ノ之さんと、赤毛の女の子を連れた織斑とバッタリと出くわしてしまった。
「…………お前も来てたのか………!」
織斑は無意識だろうが俺を睨み付けるような目付きで見てくる。
「まあな。夏祭りは定番のデートスポットだろ?」
俺はその目を受け流す。
「黒騎さん、神代さん、園部さん………」
篠ノ之さんも驚いた表情をしている。
「えっと………どなたですか………?」
赤毛の女の子が首を傾げる。
「まあ、同級生のクラスメイトって所だ」
俺はそう答える。
「一夏さんの同級生………って事は、あなたが2人目の男性IS操縦者!?」
「まあ、そうなる」
赤毛の女の子の驚愕の問いかけに頷く。
すると、
「気を付けろよ蘭。こいつこう見えて凄い女誑しだからな………!」
織斑は赤毛の女の子に注意する様にそう言った。
「ええっ!? そうなんですか………!? でも、確かに女の人2人連れてるし………」
赤毛の女の子は訝しむように俺達を見てくる。
「1つ弁明させてもらえるのなら、2人の女を連れてることは否定しないが、この2人以外の女を誑し込んだ覚えは無いと言わせてもらおう」
「………………正確には、もう1人は確実に誑し込んでるんだけどね」
葵が何やら呟いたようだが何も聞こえなかった。
「…………それに、女を2人連れてるっていうのなら、今現在のお前にも同じ事が言えるんじゃないか?」
俺はそう言い返す。
「なっ………!? 違う! 箒は幼馴染で、蘭は俺の友達の妹なだけだ!」
「「…………………」」
織斑の一言に、篠ノ之さんと赤毛の女の子はガッカリした表情になる。
俺の方を向いている織斑は全く気付いていないが。
「お前自身はそう思ってるだけかもしれないが、他の2人はそう思ってないかもしれないぞ」
「そんな事は無い! 俺は2人の事はよくわかってる!」
「何でそう言い切れる?」
「箒は幼馴染だし、蘭とも弾の家で何度も顔を合わせてる! 知らない仲じゃない!」
「俺が言っても説得力は無いかもしれんが、女心っていうのは分かりにくいものなんだよ。男から見たら特にな。だから、お前は自分が思ってる以上に、女の子の気持ちを理解して無いのかもな」
俺はそう言うと歩き出し、織斑の横を通り過ぎる。
「どういう意味だよ?」
「そこからは自分で考えろ」
俺はそのまま通り過ぎる。
葵と優花も俺の後に続く。
「何だよ………好き勝手言いやがって…………」
「いや、今のは黒騎さんの言葉が正しい!」
「そうです! 正しいです!」
「は!?」
等と言う言葉が聞こえたが、俺達は構わず先に進むのだった。
それから暫くして、神楽舞が始まった。
ここの神楽舞は独特なようで、左手に扇を持つ事はまだいい。
右手に持つのは、なんと刀。
右手に刀、左手に扇を持つのがこの神社の習わしの様だ。
そして、その神楽舞を舞っていたのが、
「ほぉ~………」
「箒ちゃん………綺麗………」
「ええ………ホント綺麗だわ………」
まさかの篠ノ之さんその人だった。
ふと見れば、客の中に織斑の姿もあり、篠ノ之さんに見惚れているのが分かる。
あいつも少しは自覚出来たか?
舞装束も相まって神秘的な雰囲気で舞う篠ノ之さんは、正に輝いて見えた。
神楽舞も終わり、祭りは最後の締である打ち上げ花火が行われていた。
人気のないスポットを見つけたので、俺達はそこで花火を眺めていた。
すると、葵と優花が両側から俺の肩に頭を乗せてくる。
「どうした? 2人とも?」
「ん~ん、何でも」
「何となくこうしていたいだけよ」
2人はそれだけ言って目を瞑る。
まるで安心する様に。
「そうか…………」
俺も呟いてされるがままになる。
「もうすぐ新学期か…………」
またあの騒がしい日々が始まるのかと思うと、期待と憂鬱が半々ぐらいだ。
せめて二学期は何事もなく終わりますように。
俺はそう祈る。
しかし、それは正にフラグであることを、俺は後々知ることになるのだった。
IS編第13話です。
特にこれと言って見どころの無い1話。
まあほのぼのデート回って事で………
次回からは二学期に入ります。
漸く楯無が本格的に登場してくるよ。
打鉄弐型は如何するか?
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原作通り。シンプルイズベスト
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ワイルドバンチを呼んでデジモン的魔改造
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ハジメを呼んで魔法的魔改造