「えええええええええええええええええええええええええっ!?!?!?」
神の使徒の姿となった簪が驚愕の声を上げる。
前に見た神の使徒は、全員無表情だったから、いくら天使の様な姿だったとしても『人形』という印象が強くて、何というか………そそらなかったわけだが、今は中身が簪なので、その表情には人間味がある。
以前に見た神の使徒とは違い、天使フェチである俺にグッと来た。
「こ、これ………私………!? 一体どうなったの………!?」
簪は狼狽えながら自分の身体を何度も見回す。
「あ~………とりあえず落ち着け簪。おそらくハジメが組み込んだ機能だから、さっき起動させたシステムを解除してみろ」
「う、うん………」
簪が頷くと、空間パネルを操作してシステムを停止させる。
すると、光に包まれて、元の姿の簪に戻った。
「も、戻った………」
簪はホッと息を吐く。
「ハジメの奴………何を考えてこんな機能を………」
それ以前に何時神の使徒の身体を手に入れてたんだ?
神の使徒は、デクスドルゴラモンに進化した時に全部残らず消滅させたはずだが………
……………そう言えば、愛子先生が攫われた時に、ハジメが神の使徒の1人と戦ったと言っていたか…………
その時に回収していたんだな…………!
一先ず他の所でも戦闘が終わったようなので、とりあえず一息つくことにした。
そして、案の定織斑先生に俺達は呼び出された。
「………で? これは一体どういうことだ?」
織斑先生が結構な威圧感を出しながら問いかけてくる。
織斑先生の背後には、打鉄・凶鳥の圧倒的な戦闘力と、傷だらけで倒れる楯無の姿。
そして、神の使徒の姿に変身した簪の姿がモニターに映し出されている。
織斑先生の目の前には、デジモン達を含む、俺、葵、優花、簪。
それから、〝無傷〟の楯無の姿があった。
簪や楯無は困った顔をしているが、俺達は涼しい顔だ。
「更識妹が別人の姿になった事もそうだが、何故見るからに重傷だった更識姉が無傷でそこに立っている? それに更識妹の使うISの異常な戦闘力もだ。重力を武器にする兵器など聞いた事が無い………いや、研究位はされているだろうが、それを実用レベルで仕上げる事は、どの国も成功していない…………それと、今までは黙認してきたが、黒騎達の人間離れした力もだ」
織斑先生は、いい加減全部吐けと言いたげな様子だ。
俺は頬を掻き、
「別に話すことはやぶさかではありませんが、正直信じられない話ですよ?」
俺は一応そう伝える。
「構わん。ついさっき起こった出来事も、他人が聞けば信じられない話ばかりだ」
「そりゃごもっとも………」
織斑先生の態度に俺は納得してしまう。
「……………話すにしても、そこそこ長い話になるんだが…………お前達も聞くのか?」
俺は同じ部屋にいる織斑を始めとした1年の専用機持ち達に問いかける。
「えっと……いいの?」
デュノアが遠慮がちに問いかける。
「別に聞くのは自由だ。ただ、さっきも言った通り、正直信じられない内容だけどな」
俺がそう言うと、
「それなら私は聞きたいです。お姉様達が、一体どの様な経験を経て、そこまでの境地に至ったのかを知りたいです!」
ラウラがそう発言する。
「正直アタシも興味あるわね。あんた達3人が恋人って話も、あんた達の過去に関係がありそうだし」
鈴も興味あり気だ。
興味の対象が若干ズレているが。
「わたくしも知っておきたいです。何故そこまで『強い』のかを………」
オルコットさんも聞きたい様だ。
「…………………ッ」
「…………………」
織斑と篠ノ之さんは何も言わなかったが、部屋から出る気はないらしい。
俺は一呼吸置くと、
「なら、順を追って話していくが、皆は1年半位前に、とある高校のとある教室に、昼休みに居た生徒が全員消えたという話を知っているか?」
「えっ………?」
「そ、そんな事があったんですの………?」
デュノアやオルコットさんが驚きの声を漏らす。
「………日本人でない者には馴染みが薄いだろうが、1年半位前に、黒騎の言った通り、とある高校のとある教室に居た生徒達と教員1名が突如として行方不明になるという事件が起きた。教室には、食べかけの弁当やスマートフォンなどが残されており、人だけが突如として姿を消したことによって、現代の神隠し事件として、日本国内では大きなニュースとして取り上げられた。」
織斑先生が説明する。
「はい、で、俺や葵、優花は、その時の神隠し事件に巻き込まれた人間です」
織斑先生の説明を引き継いで、そのまま答える。
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
楯無以外の全員が驚愕する。
「お前達が……あの神隠し事件の被害者だと………?」
「はい。で、半年ほど前に無事戻ってこれたんですけど」
「バカな……そんなニュースは………いや、半年前?」
織斑先生は驚愕するが、その時期を思い返して考えを改めた。
「ええ。俺の知り合いに政府の関係者が居て、余り大事にならないように仕向けたのもそうですが、何よりも、丁度その時期に世界を震撼させるニュースが飛び交っていたので、俺達の帰還はそのニュースに埋もれてしまったんですよ」
「何だよ………? 世界を震撼させるニュースって…………?」
と、織斑は本気で分かっていないのか呆れる質問をしてきた。
思わず織斑をジト目で見てしまう。
織斑先生も呆れるように溜息を吐いていた。
「馬鹿者……! 半年前と言えば、お前がISを動かした時だろうが……! そんな事も忘れたのか……!」
「えっ……? 俺!?」
「ふう………まあいい。話を続けろ」
織斑先生は織斑の事をスルーして話を続けるようにしたようだ。
「…………まあ、ここからが信じられない話なんですが…………あの時教室に居たメンバーは、異世界に召喚されたんです」
「…………………………………は?」
織斑先生はしばらくの沈黙の後、素っ頓狂な声を漏らした。
他のメンバーも、何言ってるんだコイツ?みたいな表情だ。
「異世界召喚………!? 最近の創作小説のテンプレ………!? 本当に………!?」
いや、簪だけは目をキラキラさせていた。
簪も
「その異世界………『トータス』に召喚された俺達は………」
「待て待て待て! 異世界だと!? いきなりそんな事を言われても信じられる筈が………!」
織斑先生が咄嗟に話を止める。
「だから言ったじゃないですか。信じられない話だって」
「いや、しかし…………」
「そう言えば、こっちでも半年ぐらい前に空に逆さまの大地が映ったんですよね?」
葵が口を出す。
「む………? ああ、原因は不明だそうだが…………そう言えばお前達がその原因を解決したと政府の人間が言っていたな………」
織斑先生は臨海学校の時の話を思い出したのか、ハッとなる。
「その時映った逆さまの大地が、私達が召喚された『トータス』です」
「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」
その言葉には今度は楯無も含めて全員驚いた。
「じゃあ、手っ取り早く証明するために言いますが、その世界は魔法が存在する世界です。なので………」
俺はそう言いながら優花に目配せする。
優花は掌を上に向けると、そこに火の魔法で炎を発生させた。
「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」
「この通り魔法が使えます」
全員の視線が、優花の発した炎に釘付けになっている。
「それで、魔法の種類の中には回復に関する魔法も勿論あります」
「それで私の怪我を治したのね」
俺の言葉を引き継いで、楯無が納得したように頷いた。
「そういうことだ」
俺が肯定すると、
「なるほど………クラス代表戦の時の襲撃に巻き込まれた子達も、これで助けてくれたわけね」
「まあ、そういう事だ」
より正確に言うなら、あの時は死人も出たので魂魄魔法も使ったが。
「……………あの時も、被害の状況に対して怪我人が少なすぎると思っていたが………そう言うことか……………改めて感謝する」
織斑先生はそう言うと頭を下げる。
「偶々その場に居ただけの話です。礼なんか要りません。運が良かった程度に思っといてください」
俺が興味無さげにそう言うと、
「大士! お前っ、千冬姉が感謝してるのに何て態度を………!」
俺の態度が気に食わなかったのか、織斑が猛る。
「やめろ一夏!」
「千冬姉……! でも………」
「黒騎は生徒達を救った事に対して、対価も何も要らないと遠回しに言っているのが分からんのか!?」
織斑先生は叱るような口調で織斑を諫める。
「えっ………?」
織斑は呆けた様に声を漏らす。
「理由が如何あれ、彼らはあの場に居た数十人の生徒達の命を救ったのだ。本来であれば、助けた対価を求められてもおかしくはない。黒騎はそれを気にするなと言っているのだ」
「なっ………? だったら、それならそうと直接言えば………」
「それは黒騎なりの気遣いだろう。人は礼儀正しく『礼は要らない』と言われてもどうしても気にしてしまう。親しい間柄ならともかく、そこまで深い関係でない相手には、多少悪く言った方が相手も気にしなくて済む………と考えているのだろう?」
織斑先生がそう言いながら俺に視線を向けてくる。
「買い被りですよ。単に他人と関わるのが面倒なだけです」
「ならば、そういう事にしておこう」
織斑先生はやれやれと言わんばかりに小さく笑みを浮かべながらその話を終わらせた。
「話が逸れたな。異世界云々は正直半信半疑だが、一先ず本当の事と仮定しておこう。続きを頼む」
織斑先生にそう言われ、俺は話を続ける。
「細かい所まで話すと日が暮れてしまいますから要約しますと、『その異世界トータスは、人間族と魔人族に別れて戦争をしていて、最近になって人間族が不利になって来たので、人間族の神が、勇者として俺達を召喚した。人間族を救う為に魔人族と戦って我々を救って欲しい』と言われたんです」
「勇者召喚………! 王道だ………!」
簪が期待に満ちた目をしているが、実際はそんないいもんじゃなかったけどな。
「まあ、常識的に考えて、召喚されたクラスメイト達は困惑してましたよ。いきなり日常から非日常に放り出されて、『戦争』に参加しろなんて言われたんですから。唯一の大人だった先生も猛反対しました。すぐに帰せとも言いましたが、それは不可能だと言われて絶句してましたが…………その中でも、俺はデジモン達との交流やデジモン達が済む世界、デジタルワールドを旅した経験があったので、皆程混乱せずに物事を考えられましたけどね」
「それで………? 結局『戦争』に参加することになったのか?」
「ええまあ…………クラスメイトの中にリーダーシップというか………妙にカリスマ性のある正義感の強い男子生徒がいて、そいつが率先して戦争に参加するなんて言うもんだから、他の生徒達も済し崩し的に参加することになりました。俺も相手の言ってることが本当かどうかも分からない内に決めるのは早計だと思ったんですが、今思えば、あの国は宗教国家だったので『神』の意に背けば最悪処刑なんて可能性もあったかもしれないんで、あの時はあの選択がベターだったと思いますよ。その当時は生き残れる『力』も無かったわけですし………」
「その頃は、私も今ほどの『覚悟』を持ってたわけじゃなかったら、普通に流れに身を任せてただけだったのよね………」
優花がその時を思い出しているのか、遠い目をしている。
「それで、結局戦争に参加することになった俺達ですが、当然ながら戦闘訓練が課されました。あと、召喚された俺達には大きな力が宿っている…………筈だったんだが、俺と葵、あと、友達のハジメは能力が諸に平均値だったんだよな。俺に至っては魔力ゼロだったし」
俺はしみじみと呟く。
「私は天職が〝投術師〟で、そこそこ戦える位の力は持ってたわね。それでもISと比べて全然弱いぐらいだったけど………」
「で、そんなこんなで戦闘訓練を受けて2週間ぐらいした時に、オルクス大迷宮………ゲームで言うダンジョンに、魔物……これもゲームで言うモンスターだな……を相手に実戦訓練に行くことになった訳だ。勿論騎士団の護衛は居たし、あまり深い階層までは潜らないからそこまで危険は無い………筈だったんだが、クラスメイトのバカの1人が勝手な行動でトラップに引っかかって、遥か下層に転送された………らしい」
「らしい………って?」
鈴が俺の言葉に違和感を持ったのか聞き返してくる。
「あ~、俺と葵はその時、勝手に別行動を取ってたんだよ。パートナーデジモンとの絆であるDアークに反応があったからな。まあ、魔物に襲われるなんかのトラブルはあったが、無事ドルモンやリュウダモンと再会できたから結果オーライだったんだが」
「大士や葵はトラップに掛からなかったけど、私は他のクラスメイトと一緒に65階層に転送されたわ。そこで待ち構えていたのは、ベヒモスと呼ばれるボスモンスター。後はスケルトンみたいな骨の魔物の大群が待ち構えていた。突然の事態に私を含めた皆は混乱。そんな状態でいつもの実力が発揮できるはずもなく徐々に追い込まれていき、私はスケルトンの魔物に殺されそうだった。そんな時に私を救ってくれたのが南雲よ。戦闘向きの天職じゃない上にステータスも最底辺だったにもかかわらず、あいつは前に出てベヒモスの動きを封じ込める役を買って出た。そして、そのお陰で状況を立て直した私達は、スケルトンの魔物達を片付けた後、魔法の一斉攻撃で南雲の逃げる隙を作ろうとした…………だけど、クラスメイトの1人が嫉妬からの裏切りで、魔法を南雲に当てて、南雲はそのまま橋の崩落に巻き込まれて奈落の底に消えていったわ…………」
「「「「「「「「「「ッ………!」」」」」」」」」」
優花の言葉に全員が息を呑んだ。
「その後、トラップから脱出した皆と俺達は合流できたんだが、俺はハジメが居ない事に気付いて助けに行こうとしたんだが、騎士団長に気絶させられてそのまま王城まで連れて帰られたんだよ」
「しかも、大士が気絶してる間に、裏切ったクラスメイトがトラップに掛かった罪を大士と私に擦り付けた上に、クラスのリーダー的存在の彼が、『デジモンは魔物の様な物』って説明したものだから、私と大士の立場まで悪くなっちゃって…………今思い出してもムカつくなぁ…………」
葵がその時の事を思い出してるのか、不機嫌な顔をしている。
「で、目を覚ました俺が葵からその時の状況を聞いた時、当然ながらクラスメイトへの信用は大暴落だな。例外として、俺と葵に顔を合わせた瞬間に謝ってくれた優花と八重樫さん。俺と同じように眠っていた白崎さん。後は最後まで反対し続けていた愛子先生位だな。当時俺が『信用』できると判断した関係者は…………それで、奈落に落ちたハジメが生きている可能性を考えていた俺は、八重樫さんと優花の協力で食料を用意して貰ってから、ドルモンと一緒に迷宮へ再度向かう事にしたんだ。その時に、ハジメの恋人だった白崎さんはともかく、葵と優花まで付いてくる事になったけど………」
「私は大士と一緒で立場が悪くなってたし、冤罪掛けられてまで別の世界の為に戦おうなんて殊勝な考えは持てなかったからね~」
「私はその時は、助けてくれた南雲にどうしてもお礼が言いたいって自分勝手な理由だったけどね」
「まあ、一悶着あったが無事に王城を出た俺達は迷宮に再挑戦。ドルモンの力もあって、順調………とは言い難いが、迷宮を攻略していった。そして、ハジメが落ちたという場所からドルガモンで降下していき、知られていない階層………所謂隠しステージみたいな場所へ辿り着いた。そこは、普通の闊歩している魔物がどれもベヒモスクラスというとんでもない場所だった。そしてそこで…………生き延びていたハジメと合流した」
ハジメが生きていたという言葉で、何人かが安堵の息を零したのが聞こえた。
「…………だが、そんな過酷な環境にたった1人で………2週間以上孤独に生き延びてきたハジメの精神状態が普通でいられるわけが無かった」
「「「「「「「「「「ッ………!?」」」」」」」」」」
「元々オタク気味の大人し目だったハジメは、左腕を魔物に食われ、過酷な環境で生き延びる為に一切の甘さを捨て、『敵は殺す』、『殺られる前に殺る』という過激な思考の持ち主へと変貌していた」
「生きるか死ぬかの状況に、2週間以上1人で放り出されれば………そう言う考えに至っても不思議ではありませんわね………」
オルコットさんが痛々しそうに呟く。
「まあそれでも、恋人である白崎さんへの愛情は失われていなかったし、白崎さんも普通にハジメを受け入れたことで、人としての最後の一線は超えなかったけどな。ただ、『敵に容赦しなくなった』だけだ」
「………………お前は、何とも思わなかったのか?」
織斑がそう問いかけてきた。
「ん?」
「お前は、そんな風になった奴を信用したのか?」
「愚問だな。ハジメは元から友達だったし、性格が過激になったとはいえ、ハジメがハジメであることは変わりなかった。少なくとも、俺に冤罪吹っ掛けてきたクラスメイト達よりは、遥かに『信頼』に値する」
「だけど………! そんな簡単に『殺す』とか口にする奴を………!」
「『敵は殺す』、『殺られる前に殺る』…………そう言う考えは別に否定しない」
「なっ………!?」
俺の言葉に、織斑は驚愕する。
「別にハジメは目に映るもの全てを殺そうとしていた訳じゃない。あくまでハジメの行動原理は『生き延びるため』、『自分の大切なモノを護る為』だ。その行き付いた先が『敵は確実に殺す』という手段だっただけに過ぎない」
デジモン達との戦いも、生存競争と言う側面が大きかったわけだし、極論とも言えるが否定する気にはならなかった。
「だけど…………そんな簡単に命を軽く考える奴に…………」
「前にも言ったがお前が如何いう考えを持っていようと俺は別に否定しない。だが、その考えを俺達に押し付けるな。俺達は俺達の道がある」
「ッ…………」
「ついでに言うなら、織斑が大士を良く思ってない大きな理由の一つである、私と葵の2人を恋人にしている理由もここにあるわ。今言ったわよね? その時私達が居た場所は、ベヒモスクラスの魔物がごろごろいる場所だって。そんな場所で生きるためには手段を選んでいられなかった。私が選んだ手段は、『魔物を食べる事』」
「魔物を食べる?」
鈴が首を傾げる。
「魔物の肉っていうのは、人間が食べれば身体がバラバラになって死ぬって言われてるものなのよ。事実、南雲は空腹感に耐えきれず魔物の肉を食べて死にかけたわ。だけど、南雲はその時、神水っていう最高級の回復アイテムを偶然にも手に入れてて、何とか生き延びた。それで分かった事だけど、魔物の肉を食べると、ステータスが大幅に上がって、魔物が使う固有技能も覚えられることが分かったの。勿論、そんな『力』が何のリスクも無く手に入るはずが無いわ。その為には、地獄の苦しみとも言える痛みを長時間伴うわ。それこそ、心が壊れるってぐらいのね」
「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」
優花のニヤリとした笑みに、ゾクッとした悪寒が駆け巡る一同。
「ドルモンとリュウダモンが居た大士と葵は奈落でも生きていける力があった。だけど、明らかに力不足だった私は、生き残る力を得る為に魔物の肉を食べる事を決めた」
「……………あれ? ハックモンは居なかったの?」
デュノアが首を傾げて疑問の声を漏らす。
「私がデジモンテイマーになったのは、トータスの旅の最中よ。当時はまだハックモンに出会ってなかったわ。話を戻すけど、私と、一緒に来てた香織は魔物の肉を食べたわ。正直、南雲の話を聞いて十二分に覚悟しているつもりだった。だけど、その覚悟すら甘すぎたわ。想像を絶する痛みに、私は心が壊れそうだった………いえ、実際あのままだったら本当に心が壊れてたでしょうね」
優花の言葉に、女性陣達がゴクッと唾を飲むのが分かった。
「一緒に魔物の肉を食べた香織は、南雲っていう恋人に縋り付くことで何とか耐える事が出来ていた。だけど、縋るものの無かった私は、1人でその苦しみに耐える事しか出来なかった。って言っても、耐えられそうも無かったんだけどね」
優花は自嘲する様に笑みを浮かべた。
「何にも縋る事が出来なくて、心が壊れるかと思ったその時、私の手を握ってくれたのが大士だったわ。心が限界だった私は、その手に全力で縋り付いた。そのお陰で、何とか心を保てたのよ」
その言葉で、女性陣達から感心した視線を向けられる。
「もしかして、優花さんはその時に大士さんを好きになったんですか?」
楯無が揶揄う様な笑みを浮かべてそう聞く。
「悪いけど、その程度で好きになる程チョロくはないつもりよ……………ただ、気に掛ける切っ掛けにはなったと思うわ。今まで『無い』と思っていたのが『有り』に変わったって所かしら?」
優花の言葉に、楯無は含み笑いをして、
「因みに葵さんは?」
「私はその時には好意を持ってたと思うけど、大士とは別に好きな人がいた………ううん、『居ると思ってた』………かな?」
「どういうことです?」
「私、昔にある人に助けられたことがあって、その人にずっと運命を感じてたんだ。後になってその人が大士だったって分かったけど、その時はまだ知らなかったから」
葵はそう言って続きを促す。
「それで、いくら強くなったとは言っても、気を抜けば即『死』が隣合わせの迷宮攻略が始まったわ。そんな死が隣り合わせの極限状態の中で、互いに助け、助けられての繰り返し。時にはデジモンが出てきて大士とドルモンが居なかったら確実に死んでた状況だってあった。頼れるのは、すぐ近くにいる仲間だけ。そんな状況が1カ月以上も続いたのよ。近くにいた頼りになる男性に惹かれるのは、自然の成り行きじゃないかしら?」
「私も一緒だね。現れない運命を感じた人より、目の前の頼りになる大士に惹かれるのは自明の理だったね。まあ、その運命を感じた人も、結局大士だったわけだけど………それで、そんな極限状態で1カ月も暮らしてれば、日本の常識なんてどうでもよくなるよ。だから、迷宮の攻略が完了した時点で2人揃って大士に告白したの。一緒に死線を何度も乗り越えた優花なら、一緒に大士を愛せるってね」
「私も葵が相手だったら許せたわ…………正直、葵以外の女なら増えるのは許せないって思ってたけど…………」
優花は視線を簪に移す。
だが、簪はその視線を真っすぐに受け止め、見つめ返した。
それを見ると、優花はやれやれと目を伏せる。
「だから、誰に何と言われても、私達が大士を2人で愛することは止めるつもりは無いし、気に食わないと言って無理やりにでも私達を引き離そうとするのなら、力付くでもその障害を排除するわ…………!」
その言葉は特に織斑に向けたものだろう。
「ッ…………!?」
織斑はウッと一歩後退った。
「まあ、俺達の関係はこの位にして、迷宮攻略の話に戻るが、迷宮の最下層で、俺達はその世界の真実を知った」
「世界の真実?」
俺の言葉に、簪が呟く。
「ああ。俺達が召喚されたそのトータスは、『神の遊戯盤』だという事だ」
「神の………遊戯…………?」
意味が分からなかったのかラウラが呟いた。
「ああ。その世界で信仰されている神『エヒト』は、世界をボードゲームに見た立てて、『戦争』という遊戯を楽しんでいたんだ」
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
「神託と称して人間側を『エヒト』が。魔人族側をエヒトの眷属である『アルヴ』が互いを神敵であると認識させ、ずっと争い合わせていたんだ」
「何て奴だ………! そんなのが神様なのかよ………!」
予想通りと言うべきか、織斑が義憤に駆られている。
「当然の事だが『エヒト』が召喚したという俺達も、現状に飽きたエヒトがゲームを面白くするために用意した新しい『駒』だったんだろう」
「駒…………!」
篠ノ之さんが何とも言えない表情になる。
「で、そんな世界の真実を知った俺達だが………」
「おお! そりゃそのふざけた『神』を倒すために………!」
「特に目的の変更も無く、『元の世界へ帰る』という目的の元、大迷宮を攻略するための旅に出た」
「って、何でだよ!? その世界の人達を助けようとは思わなかったのかよ!?」
「逆に聞くが、何で俺達がそんな事をしなきゃいけないんだ?」
「なんでって………普通助けようと思うだろう!?」
「それは『お前』の普通であって俺達の普通じゃない。駒としてこの世界に呼び出されて、冤罪吹っ掛けられた挙句に投獄される寸前だったんだぞ? 協力する気も無くすし、そんな世界の為に命を懸ける気も無い。俺は虐げられても、虐げた奴を助けられるような聖人君子じゃないんでな」
「うっ……だ、だけどよ…………」
「何度も言うがお前の『正義』を押し付けるな。俺達には俺達の『正義』がある」
「世界を見捨てるのが『正義』な訳無いだろ………!」
何を言っても聞いてくれない織斑の事はスルーする事にした。
「で、世界に七つあると言われる大迷宮を探す旅に出たんですが、大迷宮はクリアすると『神代魔法』と呼ばれる特殊な魔法を覚える事が出来ます。そして、その神代魔法の中に重力を操る『重力魔法』と、鉱石に魔法を付与する事が出来る『生成魔法』というものがあります。ハジメは、その2つの魔法を応用して簪のISを作り上げたんです」
「…………即ち、そのハジメと言う人物の協力が無ければ………」
「いくら簪のISを解析しても無駄という事ですね」
正確に言えば、葵や優花でも多少の解析は出来るが。
「では、更識妹が別人の姿になったのは…………」
「あ~まず、あの姿は『神の使徒』と呼ばれるエヒトの生み出した手駒………人形の様な存在です。エヒトがトータスの長い歴史の中で、要人たちを思い通りに動かすために、介入していたようですが…………エヒトが俺達をイレギュラーと判断した際、ハジメを消すために襲撃したようなのですが、ハジメはそれを返り討ちにして、その際に身体だけ回収してたみたいです。語弊が無いように言っておきますが、おそらく神の使徒の力を研究する為に回収したのであって、変な理由ではないという事だけは間違いないかと」
『変な理由』と聞いて女性陣達は顔を赤くする。
言いたいことは伝わっただろうが、
「…………変な理由って何だよ?」
「そこは自由に想像してくれ」
唯一分かってない織斑はやはり精神年齢が低すぎるんじゃなかろうか?
「それで、神代魔法の中には空間を操る『空間魔法』や魂に干渉する『魂魄魔法』があります。ハジメはその魔法を組み合わせて、神の使徒の身体を別空間に保存し、魂魄魔法で一時的に簪の魂を神の使徒の身体に入れ替えてるんじゃないかと思います」
「…………………正直信じられん話ばかりだが、現状の科学力では説明が付かない事も確か……か」
「まあ、俺の話を信じる信じないかはそちらにお任せします」
俺がそう言うと、くいくいと袖を引っ張られる。
俺がそっちを向くと、簪が目をキラキラさせて俺を見ていた。
「それで? その旅の最後はどうなったの?」
「あ、ああ………俺達としては『神』に関わるつもりは無かったんだが、俺達の行動が結果的に魔人族の策を尽く潰すことになって魔人族から目を付けられたもんだから、事ある毎に目の敵にされるようになったな。それで、旅の途中でハックモンを含めた複数のデジモン達と出会い、旅の仲間のパートナーデジモンとなったんだ。そのまま旅を続けていく内に結果的にエヒトと敵対する流れになって倒すことになった」
ミュウとレミアを人質に取ったり、ユエの身体を乗っ取ろうとしたもんだから、ハジメの怒りを買ったのだ。
最終的にエヒトを消したのは女神として目覚めた葵だが。
葵が女神という事は話す気はない。
「で、エヒトを倒したところまでは良かったんだが、エヒトにはデジタルワールドの神と言うべき『イグドラシル』が関与していて、そのイグドラシルが人間をデジモンにとって害悪だと判断してしまったんだ。それで、人間を駆逐する手っ取り早い方法として、トータスとこの世界を衝突させる手段を取った」
「世界を………衝突………?」
「もしかして、あの時空に映った大地って………」
簪と楯無が声を漏らす。
「ああ。あれは世界同士が急接近したために起きた現象だ。勿論、トータスの空にも地球の様子が映し出されていた。因みにあのままほっといたら数日で世界は衝突。最悪両方の世界が消滅してたからな」
「「「「「「「「「「嘘ッ……!?」」」」」」」」」」
「まあ、世界が滅ぶとなれば、家族や仲間が巻き込まれるから、それを防ぐ為にイグドラシルに戦いを挑んで、激しい戦いとなったけど、仲間達と力を合わせてイグドラシルを倒して、世界の消滅は免れたと…………大まかに言えばそんな感じだ」
「お、思った以上に壮絶な事になっていたのね…………」
楯無が俺の話を聞いて唖然としている。
「………………ふふっ!」
すると、突然簪が笑みを浮かべた。
「いきなりどうした?」
俺が尋ねると、
「ううん。やっぱり大士さんは世界を救ったヒーローだったんだな………って」
簪はそんな事を言う。
「買い被るな。俺は自分の『大切』の為に戦っただけだ。世界を救ったのは結果的にってだけで、『世界中の人々は俺が救う!』なんて崇高な考えは持ち合わせちゃいなかったさ」
俺は勘違いさせないようにそう言うが、
「でも、『世界中の人々は俺が救う!』って考えは、見方を変えれば単なる傲慢………そんな人より、自分の『大切』を護る為に戦う大士さんの方が、ずっと親近感が持てる………」
簪は熱っぽい目で俺を見つめる。
フィルターかかってるんじゃないのか?
「…………っていうか、今更なんだけど、そんな重要な事アタシ達に話しちゃって良かったの?」
鈴が今更な事を聞いてくる。
「別にいいぞ。今話したことは、普通に発表したことだし。話を聞いた人達は、『本当の事を話すつもりは無い』って判断したようだけど」
「言われてみれば、信じられる要素が何処にもありませんわね。わたくし達は、簪さんのISや、変身した所をモニター越しとは言え見てますから、ある程度信用できますが………」
オルコットさんも、苦笑しながら頷いている。
すると、織斑先生がパンッと手を叩いて皆を注目させると、
「話が長くなってしまったが、一先ず聞きたいことは聞けた。正直まだ半信半疑だがな。まだ気になる者が居るのなら、各自聞きに行け。言っておくが、聞いた事は迂闊に周りに話すなよ。言っても信じられんかもしれんが、余計な印象を黒騎達に与えかねんからな」
織斑先生はそう言うと、
「……………さて、黒騎達の話が終わった所で、まだ話を聞かなければいけない奴が残っていたな………!」
そう言って織斑に向き直った。
その目は明らかに厳しい目付きをしている。
「な、何だよ千冬姉……?」
織斑はそんな織斑先生の目に腰が引けながらもそう聞き返す。
その瞬間、織斑の頭に拳骨が落とされ、
「織斑先生と呼べ! 何度言えば分かる!? いい加減学習しろ! 学習できなければ死ね!」
「は、はい………織斑先生………!」
拳骨の痛みに蹲りながら返事を返す。
「さて織斑………お前には聞きたいことがある」
「何だ………何でしょうか、織斑先生?」
いつもの口調が出かかったが、慌てて言い直す。
「お前は襲撃があった時、何故すぐに避難しなかった?」
「えっ………? それは、俺にも何か出来るんじゃないかって………」
「ほう? ISを相手にか? ならば、何ができるか言ってみろ」
「それは………怪我した人の救助とか………」
「なるほど。レーザーや銃弾が飛び交う戦場の真っ只中で、生身であるお前が救助か………」
織斑先生が一度大きく息を吐くと、続けて大きく息を吸い込み、
「このっ………馬鹿者がっ!!!」
渾身の 咤と共に、強烈な拳が振り下ろされた。
「ぐあっ!?!?」
織斑は頭を押さえて蹲る。
「な、なにするんだよ………?」
「お前の考えの甘さにはほとほと呆れる!! お前は自分が絶対に死なないとでも思っているのか!?」
「えっ………?」
「いいか!? 人間など銃弾一発で簡単に死ぬ! それがIS用であればなおさらな! お前は自分を絶対無敵のヒーローとでも勘違いしているのか!?」
「そ、そんなこと………」
「ではなぜ、あの状況で避難しないという結論が出てきた!? 普通に考えれば、ISを使えなければ足手纏いにしかなりえん! 故に、足手纏いにならないように素早く非難するのが最善なのだ! 自分にとっても、仲間にとってもな!」
「で、でも………実際に楯無さんが怪我をして………俺はそれを助けに………」
「お前はまだ分かっていない様だな………! そもそも前提が間違っている。更識姉ほどの実力者が、何故相打ち覚悟であのような大怪我を負う無茶をしたと思っている?」
「えっ?」
「それはお前が避難しなかったからだ! あのまま戦いを長引かせていれば、お前が戦いに巻き込まれて死ぬ可能性が高かった! だから更識姉は自分を顧みずに敵を倒す事を優先したのだ!!」
「お、俺の所為で………楯無さんが怪我を………?」
「そうだ。お前がさっさと避難していれば、更識姉の実力なら更識妹や篠ノ之と上手く協力してさほど苦労せず敵を倒せただろう。お前は自分の独り善がりで更識姉に余計な怪我を負わせたのだ。いや、大怪我で済んだ今回はまだ運が良かっただろう。あれ程の爆発に、絶対防御が上手く機能しない状況で巻き込まれたのだ。死んでいた可能性も決して低くはなかっただろうな」
「楯無さんが………死んでいた………」
まあ、もし死んでいたとしても、葵なら生き返らせる事ができるけどな。
そんな事を言えばややこしい事になることは分かっているので言わないが。
「そうだ。お前の独善的な行動は、味方を助けるどころか『殺す』事に繋がっているのだ」
「そんな………俺はただ……皆の為に何かをしたくて…………」
「ハッキリ言うが、お前は『皆の為に何かをしたい』のではない。『皆の為に何かしたという自己満足』に浸りたいだけだ」
「お、俺は…………」
「そうでなければ、生身で戦場に残るなどと言う結論は出てこない筈だからな」
「…………………」
遂に織斑は項垂れる。
すると、織斑先生は楯無に向き直り、
「更識姉。愚弟が迷惑を掛けた。姉として謝罪する。すまなかった」
そう言って頭を下げた。
「ええ、まあ………しっかりと反省して、同じ事を繰り返さないようにしていただければ、それで………」
楯無は、流石に織斑先生に頭を下げられるのは気が引けるのかそう言う。
「しっかりと言い聞かせておく」
織斑先生は頭を上げる。
「では、解散する。織斑は反省文の提出だ。最低でも100枚は出せ! いいな!?」
織斑先生はそう言って手を叩いて、解散の合図を出すのだった。
IS編第22話です。
ワールド・パージ編に行くとか言っておきながら、何故か事後の事情説明の回となりました。
流石にアレをスルーして次に行くのは如何なものかと思ったので。
まあ、トータスでの旅を大まかに話してみました。
大事なところはぼかしてますがね。
次こそはワールド・パージ編に入りますが…………はてさて。
P.S 本日の返信はお休みします。
一夏の今後の扱いをどうするか?
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アンチ路線を突っ切れ!
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いやいや、矯正しましょう!