ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

164 / 298
前話の一夏の説教を書き忘れていたので追記しました。


第23話 電脳戦線

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

「あーもー! 何なんだよ~!?」

 

暗闇に呑まれた室内で、ディスプレイの明かりに照らされて浮き上がる、それを眺める人影が不満そうに愚痴る。

ディスプレイの明かりで浮き上がるその顔は篠ノ之 束であった。

 

「あれだけの数の『ゴーレムⅢ』を投入したのに全機破壊されるとか、予想外にも程があるよ~!」

 

モニターに映し出されているのは、大士、葵、優花とそのパートナーデジモン達。

そして、

 

「しかもこのISは何なのさ!? こんな技術、束さんだって知らないよ!」

 

簪の打鉄・凶鳥と、神の使徒の姿となった簪の姿。

 

「コア・ネットワークで情報を引き出そうとしても、なーんにも分かんないし………」

 

この世界で自分に分からない事があるのが気に食わないと言わんばかりの態度だ。

 

「箒ちゃんのデータはある程度取れたから、まあいいとして………ちーちゃんが出撃しなかったのもね~………!」

 

束は、顎に手を当て思考の海に没頭する。

すると、

 

「ああ、もしかして………」

 

束はふと思い出したような仕草をする。

 

「そっかそっか。あそこにあるんだ」

 

束は自己完結して納得すると、くるりと後ろを振り向き、

 

「ねえねえ、くーちゃん」

 

後ろに控えていた銀髪の少女に声をかけた。

 

「はい、束さま」

 

「あのね、ちょっとお使い頼まれてくれないかな?」

 

「何なりと」

 

「もー、堅い。硬いよー。くーちゃんは束さんの事、ママって呼んでいいんだよ?」

 

銀髪の少女は、束の言葉に僅かに困ったような雰囲気を見せた。

 

「それで、使いというのは?」

 

「うん、届け物をして欲しいんだよねー」

 

「はい。場所は何処でしょうか?」

 

「IS学園、地下特別区画」

 

「わかりました。では、直ちに」

 

銀髪の少女がお辞儀をして、準備に取り掛かろうとした時、束はふと思い出したようにハッとなり、

 

「あ、そうだ! ついでにこれも持ってってよ!」

 

束はモニターに向き直ると、パネルを操作してモニターにとあるモノを映し出した。

 

「この前ネットワークを探索してた時に見つけたんだけど、少しは役に立つと思うよ?」

 

そのモニターには、薄い緑色に染まった、脈動するタマゴの様なものが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

無人機の襲撃から数日後。

襲撃の被害を改めて確認した結果、専用機持ち達のISは物の見事に深刻なダメージを負っており、暫くISの使用を禁止されることになった。

但し、簪以外だが。

俺達は元々専用機など持ってないので関係の無い話だ。

そして現在は休み時間。

俺は何をしているのかと言うと、

 

「…………これで私の勝ち」

 

「くっ………今回は俺の負けか………」

 

簪を交えてデジモンのカードゲームに勤しんでいた。

簪は、俺に想いを伝えてからというもの、以前にも増して俺との交流を持つようになった。

自分の魅力をアピールしようとしているんだろう。

とは言え、あからさまにグイグイ来るわけではなく、なるべく俺と一緒にいる時間を多くして、自然なままの自分を見て貰おうとしている様だ。

俺はふと簪の顔を見る。

以前は少し影があったが、楯無と仲直りし、織斑の白式の事も、ケジメは付けたようで既にその表情に影は無い。

ふと、俺の視線に気付いたのか、簪は小さく笑みを浮かべる。

 

「ッ…………!?」

 

その表情に、思わず顔が熱くなるのを感じた。

葵や優花は納得しているとは言え、自分を好いてくれる女の子として見ているだけで、こうも簡単に簪に惹かれつつある自分はチョロイ男だと、若干自己嫌悪に似た感情を覚える。

因みにその後ろでは、ジトーッとした目で楯無から見つめられている。

楯無は、簪と仲良くしている事に対する嫉妬だろう。

因みに先程楯無ともカードバトルしたんだが、初戦とは言えボロ負けした。

ルキやリョウクラスのカードバトルの腕前だと驚愕したものだ。

 

「じゃあ次は………」

 

そして次のバトルを始めようとした時、突如として照明を含めた電子機器が落ちる。

続けて窓の防火シャッターも閉まり、辺りが暗闇に包まれた。

 

「ッ!」

 

即座に優花が警戒に入った事が分かった。

優花は〝夜目〟の技能も持っているので、暗闇でも余裕で視界が利く。

 

「……………2秒経ったけど、非常灯が点かない………?」

 

「ええ。それに、緊急用の電源にも切り替わってないわ。明らかに異常ね………!」

 

簪と楯無が異常性を口にする。

すると、

 

『専用機持ちは、全員地下のオペレーションルームへ集合。今からマップを転送する。防壁に阻まれた場合、破壊を許可する』

 

織斑先生の声が楯無と簪のISの、待機状態から聞こえてくる。

どうやらこのIS学園で再び事件が起こったようだ。

更に、

 

『それから、黒騎達の近くにいる者は居るか?』

 

織斑先生がそう聞いてきたので、

 

「あ、はい。私と簪ちゃんが一緒に居ます」

 

楯無がそう返事をする。

 

『黒騎達の力も借りたい。一緒に連れて来てくれ。デジモン達も一緒で構わん』

 

織斑先生の言葉に、俺達は肩を竦めた。

 

 

 

 

 

指定されたオペレーションルームへ辿り着くと、既に織斑、篠ノ之さん、オルコットさん、鈴、デュノア、ラウラが揃っていた。

まあ、ドルモン達を連れてくるために遠回りをしたのだから仕方ないだろう。

 

「では状況を説明する」

 

織斑先生が説明を始める。

現在ハッキングによって、IS学園の全てのシステムがダウンしているらしい。

独立しているIS学園のシステムにハッキングを掛けている手段、目的ともに不明。

それにより、専用機持ちは電脳ダイブでシステム侵入者を排除することとなった。

 

「それでは、これから織斑君、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、更識 楯無さんは、アクセスルームへ移動。そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。更識 簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

山田先生の指示でそれぞれがアクセスルームへ移動する。

すると、織斑先生が残った俺達に向き直り、

 

「さて、お前達には別の任務がある」

 

織斑先生がそう切り出す。

 

「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」

 

まあ、ISが大量に揃っているIS学園だ。

条例違反と分かっていても、ISのコアをより多く確保したい国や組織はいくらでもいるんだろう。

 

「俺達に、そのやって来る勢力を撃退しろって事ですか?」

 

俺がそう確認をとると、

 

「ああ。更識姉妹はともかく、他の専用機持ち達は戦えない。悪いが頼らせてもらう。

 

織斑先生がそう言って来たので、

 

「別に構いませんよ。この学園には美姫も居ますし。それだけでこの学園と敵対する勢力を潰す理由になります」

 

家族が傷付く可能性は、早々に潰すに限る。

 

「お前達なら心配は無いだろう。任せたぞ」

 

「了解」

 

織斑先生の言葉に、俺はそう返した。

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

IS学園の廊下に最新型の光学迷彩で姿を隠した特殊部隊の兵士達が辺りを警戒しつつ進んでいた。

彼らは、IS学園を常時監視しており、異常を確認したと同時に侵入してきたのだ。

だが、

 

「…………実質女子高のこの学園に忍び込んでくるなんて、変態集団と言われても否定できないわよ」

 

突然聞こえたその声に、兵士達は慌てて辺りを確認する。

その瞬間、

 

「ぐあっ!?」

 

突然兵士の1人が倒れる。

すぐに他の兵士達が銃を向けるが、倒れた兵士以外の人影は確認できない。

だが、

 

「がっ!?」

 

また別の兵士が悲鳴を上げて倒れる。

 

「何者だ!?」

 

この小隊の隊長と思わしき男が声を上げるが、敵影は確認できない。

 

「ぐあっ!?」

 

「がはっ!?」

 

隊長の目の前で2人の兵士が次々と倒れる。

 

「くっ! うぉおおおおおおっ!」

 

隊長はアサルトライフルを乱射する。

敵は、自分達以上のステルス機能を有していると判断したのか、数撃ちゃ当たると言わんばかりに撃ちまくる。

兵士達を次々と倒している敵………優花は、その銃弾を悠々と避けていた。

特殊部隊がいくら最新型の光学迷彩を使用しているとは言え、それで隠せるのは姿だけ。

〝気配感知〟や〝熱源感知〟などの感知系技能に優れる優花にとっては、堂々と姿を見せて歩いているだけに等しかった。

更に、優花の持つ〝隠蔽技能〟も普通の人間には見抜くことは出来ず、優花の姿を捉える事は出来なかった。

そして、隊長は前方にばかり気を取られ、後方の警戒を怠っていたため、

 

「ふんっ!」

 

「ぐはっ!?」

 

背後からハックモンの奇襲を受け、隊長は呆気なく気絶した。

気絶したことを確認し、優花は姿を現してハックモンと笑みを向け合った。

 

 

 

また別の場所では、特殊部隊の別動隊がいたのだが、

 

「ジャミングヘルツ!」

 

カードスラッシュによって、リュウダモンがサーチモンの能力を付加させ、妨害電波を放って特殊部隊が纏う光学迷彩機能をマヒさせる。

突如姿を現してしまった事に、兵士達は一瞬動揺した。

その瞬間、

 

「はっ! せいっ!」

 

飛び込んできた葵が二刀を振り、峰打ちによって兵士を気絶させる。

残った兵士達は、咄嗟に銃を構えようとしたが、それよりも早く葵が駆け抜けていき、

 

「せぇぇぇぇぇいっ!!」

 

一瞬にして全員に峰打ちを食らわせ、気絶させたのだった。

 

 

 

 

 

 

「……………………………」

 

上の騒動とは別で本命とも言うべき、IS『ファング・クエイク』を纏った女が地下特別区画の通路に侵入してきた。

その女は『任務』を果たすために通路を進む。

その時、

 

「メタルキャノン!!」

 

突如として鉄球がかなりの速度で飛来し、けたたましい音を立ててシールドバリアに弾かれる。

女は咄嗟にその場で停止した。

そして、前方を確認すると、2つの影が見えた。

片方は人の様だが、もう片方は良く分からない。

女には見た事も無い生物だった。

すると、通路の照明が点灯し、その姿が露になる。

片方は男だった。

ほぼ青年と言える位の少年だ。

そして、もう片方の影はやっぱりわからなかった。

獣の様にも見えるし、何処か爬虫類っぽくも見える。

良く分からない生物だった。

その女の目の前に立ちはだかった少年と謎の生物………大士とドルモンは女に向かって歩き出す。

その姿は、女から見れば間抜けだった。

生身の人間………しかも男がISを纏っている自分に対し、無防備に向かってきている。

IS学園に居る男という事で、2人の男性IS操縦者の片割れだという事は容易に予想出来たが、脅威とは認識していなかった。

そして、任務外だが貴重な男性IS操縦者のサンプルとして捕獲する事も視野に入れようと考えていた。

そして、女が大士の捕獲に乗り出そうと、行動を起こそうとした瞬間だった。

10m以上離れていた筈の大士が一瞬にして目の前に踏み込んでいた。

 

「ッ!?」

 

ハイパーセンサーでも認識できなかった事に、目を見開いた瞬間、女の腹部を衝撃が貫いた。

金色の光を纏った拳がシールドバリアも絶対防御も突き破って腹部に突き刺さっている。

女は、何が起きたのか理解する事が出来ないまま、その意識を闇に落とした。

 

 

 

 

 

 

 

一方、アクセスルームに辿り着いたメンバーは、簪のサポートで電脳ダイブを行っていた。

専用のベッドチェアにダイブするメンバーが身体を預け、一度意識が落ちた。

そして、次に目が覚めると、

 

「……………うわぁ…………」

 

一夏が思わず声を漏らした。

そこは、まるでとても広大な管の中に居る様で、四角いブロックの様な物があちこちに浮遊し、広大な管の中を行ったり来たりしている。

そして、その管の壁面に、浮遊しているブロックと同じ物質で出来たビルの様なオブジェが所狭しと並んでいた。

電脳ダイブしたメンバーは、その広大な管の壁面にあるビルの様なオブジェの合間に居るようだった。

電脳ダイブしたメンバー、一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、楯無は辺りを見回す。

 

「ここが………電脳空間………?」

 

「思った以上に広いわね…………」

 

シャルロットと鈴音がそう零す。

 

「あの空中を行ったり来たりしてる四角いブロックは何なんだ?」

 

一夏が電脳空間の中を行き来している四角いブロックを見て疑問を零す。

すると、

 

『おそらくそれは、可視化したデータ。あれが行き来することでデータのやり取りをしていると推測する』

 

突然空間モニターが開いて簪がそう言う。

 

「うわっ!? びっくりした………!」

 

突然開いた通信に一夏は驚いた。

 

「ところで、こんな広大な空間で、どうやってシステムの侵入者を見つけるのだ? 移動が自分の足だとしたら、どれほど時間がかかるか分からんぞ」

 

箒がそう言うと、

 

『少し待って…………』

 

簪がそう言うと、何やら手元の空間パネルに指を走らせる。

すると、電脳空間内の一夏達にそれぞれのISが装着された。

 

「これは………私達のIS!」

 

ラウラが驚く。

 

『皆の専用機のデータを元に、電脳空間内で疑似的に再現してみた。武装も再現しているから、侵入者排除に役立てて』

 

「助かりますわ。簪さん!」

 

「さっすが簪ちゃん! 私の自慢の妹ね!」

 

セシリアと楯無が簪を称賛する。

簪は照れたのか頬を赤くするが、実際短時間でこんなプログラムを組んだ簪の能力は相当なものだろう。

 

「よし! 行こうぜ皆!」

 

一夏がそう言うと空中へ飛び立つ。

 

『私がナビするから、皆は言う通りに進んで』

 

簪のナビを頼りに、一行は電脳空間を進んでいく。

 

 

暫くすると、

 

「あら………? あれは何でしょうか?」

 

最初に気付いたのはセシリアだった。

視線の先に、可視化したデータのブロックとは違う、無数の影が見える、。

可視化したデータである四角いブロックが流れていくが、それに突如として、その影が飛びつき、そのブロックを飲み込む。

 

「何!? 今の!?」

 

鈴音が叫ぶ。

 

『恐らくあれがシステムの侵入者。システムのデータを取り込んでる………? その所為でIS学園のシステムが障害を起こしたんだと思う』

 

簪はそう推測する。

 

「良く分からねえけど、とにかく、あれを倒せばいいんだな!」

 

一夏は右手に雪片を展開する。

 

『多分………でも、どんな相手か分からないから注意して………』

 

簪はそう言って慎重に行動する様に言う。

とは言え、

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

近接主体である白式では仕方ないとはいえ、真っ直ぐ影に向かって突っ込んでいく一夏。

 

『………………………はぁ』

 

簪は軽く溜息を吐いた。

だが、一夏がその影に近付いた事でその影の全貌が見えてくる。

それはまるで、赤い一つ目の付いた緑色のスライムだった。

頭には2本の突起が角の様に突き出ており、目の両側には、手の様な触手がある。

それは流れてきたデータのブロックに跳び付くと、底面にある口でデータのブロックに齧りつき、データを食べてしまう。

 

「データを食べてる………?」

 

楯無が呟く。

 

『多分、コンピューターウイルスが可視化したものだと思う……』

 

簪もそう言うと、一夏がその1匹に辿り着き、雪片の刃を振り下ろした。

 

「はぁっ!!」

 

その一振りは、見事にその緑のスライムを真っ二つにし、消滅させる。

 

「へへっ! 何だよ。全然弱いじゃねえか………!」

 

一夏はニヤッと笑みを浮かべて、今度は左腕の雪羅から荷電粒子砲を放つ。

その閃光は、纏めて数匹を貫き、消滅させた。

その様子に一夏は得意げな顔をするが、今までデータを食べる事に夢中だったスライム達が一斉に一夏の方に向き直った。

その揃った動きに、流石の一夏も冷や汗を流す。

そして、一夏に向かって一斉に殺到してきた。

一夏も荷電粒子砲で反撃するが、一部を消滅させるが、そんなのは焼け石に水だった。

 

「おわっ!? ちょ、タンマ……!」

 

一夏は慌てるが、その大群に呑み込まれる…………

直前に、無数のレーザーが一夏に襲い掛かろうとしたスライムを打ち抜く。

そして、

 

「何やってんのよ! 一夏!」

 

「油断大敵だよ!」

 

鈴音とシャルロットが一夏の前に立ちはだかって、衝撃砲の連射とサブマシンガンの2丁持ちで近付いてきたスライム達を掃討していく。

 

「はぁああああっ!!」

 

ラウラのワイヤーブレードが広範囲をカバーし、

 

「はっ!!」

 

楯無の振るった連節剣(ラスティ―ネイル)が、複数のスライムを一気に切り裂く。

 

「せやっ!」

 

箒の放つエネルギーの斬撃が、多くのスライムを巻き込む。

 

「皆! 助かったぜ!」

 

嬉しそうにそう言う一夏だが、

 

「簪さんの忠告を無視して突っ込んでいった織斑さんの自業自得ですわ。得体の知れない相手なのですから、もう少し思慮深い行動をお願いしますわ」

 

セシリアが注意を促す。

 

「うっ………す、すまん………」

 

反省する一夏。

 

「まあでも、良いじゃない。一夏のお陰で数が多いけど大した敵じゃないって分かった事だし!」

 

鈴音がそう言う。

 

「うむ、一夏の勇気ある行動が実を結んだという事だ」

 

箒も一夏をフォローする。

 

「鈴……箒………へへっ………!」

 

2人の言葉で、自分は間違ってなかったと自信を取り戻す一夏だったが、

 

『勇気と無謀は似て非なるもの。精々蛮勇と言った所』

 

簪は辛辣な一言を放つ。

 

「うっ………」

 

一夏は言葉に詰まる。

 

「一先ずその話は後よ。今はこいつ等を片付けましょう」

 

動きの止まっていた一夏にそう声を掛ける楯無。

 

「は、はい!」

 

慌てて行動を再開する一夏。

全員の活躍もあり、徐々にその数を減らしていくスライム。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

2本の青龍刀をドッキングさせ、回転させながら投擲する鈴音。

多くのスライムを切り裂いて戻って来た青龍刀をキャッチすると、

 

「ああもう! キリがない!!」

 

鈴音は思わず叫ぶ。

出力を最低まで落とした衝撃砲の連射でスライムの数を減らしていく。

今まではこれで片付いていたので、鈴音は着弾した事だけを確認して次のスライムへ向き直ろうとした。

その時、

 

『まだ! 気を付けて!』

 

簪から警告が飛んだ。

 

「えっ?」

 

鈴音が思わず振り向くと、衝撃砲の爆煙の中から、1つの影が飛び出してきた。

その影は腕の様な物を振るい、鈴音に殴りかかった。

 

「きゃあっ!?」

 

鈴音は衝撃を受けてよろける。

 

「くっ! 一体何よ!?」

 

鈴音は目の前に出てきたスライムを確認した。

いや、それは既にスライムとは言えなかった。

スライムよりも一回り大きくなり、頭は球体となり紫色に。

その頭の下から無数の触手が脚の様になり、同じく無数の触手が玉巻きとなって拳の様な手を形作っている。

先程の一撃は、その拳の様になっている触手の手で殴られたのだ。

 

「今までと違う………?」

 

鈴音が呟く。

すると、それが切っ掛けになったかのように、他のスライム達にも変化が訪れた。

全てでは無いが、大よそ半分ほどのスライムが光に包まれたかと思うと、鈴音を殴りつけたのと同じ姿へと変貌したのだ。

 

「か、変わった!?」

 

箒が思わず叫ぶ。

 

「気を付けて! そいつら強くなってるわよ!」

 

鈴音が注意を促す。

その瞬間、再び襲い掛かってくるスライム達。

 

「くっ! このっ! うあっ!?」

 

「ちっ! こいつ等……!」

 

その変化したスライム達は、攻撃力だけではなく耐久力も上がっており、今まで最低限の攻撃で倒せていたのに、それなりに強力な一撃でなければ消滅しなくなっていた。

 

「このっ!」

 

楯無がランスに、ドリルの様に水を纏わせた『蒼流旋』によって変化したスライムを貫く。

 

「くらえっ!」

 

ラウラがレール砲で吹き飛ばし、

 

「はぁぁぁっ!!」

 

一夏が至近距離から荷電粒子砲を放つ。

明らかに先程より殲滅のペースが落ちていた。

 

「少し強くなった程度で!!」

 

箒が2刀で切り裂く。

 

「ブルー・ティアーズ!!」

 

セシリアがビットで集中攻撃を掛ける。

 

「これでっ!」

 

シャルロットがグレネードを放つ。

ペースこそ落ちたが、それでも確実に数を減らす事には成功している。

突然敵が変化して慌ててしまったが、時間が経つにつれ落ち着き、十分に対処可能であることが分かると、再び殲滅のペースが上がってきた。

敵の総数が半分を切り、漸く終わりが見えてきたと、それぞれが気力を振り絞る。

 

「ええいっ!」

 

シャルロットがグレネードを変異したスライムに放つ。

爆発に呑まれた事を確認するが、シャルロットは違和感を感じた。

すると、

 

『気を付けて………! また……!』

 

「ッ……!」

 

簪が警告を飛ばすのと、シャルロットが反射的に回避行動を取ったのは同時だった。

爆煙を切り裂いて、ISも一掴みに出来そうな三本指の巨大なマニピュレーターが飛び出してきた。

シャルロットはそのマニピュレーターを紙一重で躱す。

 

「今度は何っ!?」

 

シャルロットは叫びながら未だ煙に包まれたそれに目を向ける。

そして、煙が晴れていくと、そこには、今までの比ではない巨大な怪物が存在していた。

紫色の巨大な球状の頭。

100本以上は確実にあるだろう無数の触手の脚。

そして両手は巨大な金属製マニピュレーターとなっている。

見た目的に10m近い巨体を持った怪物だった。

そして、それを見ていた簪が、何かに気付いたように呟いた。

 

『………最初が幼年期………次に成長期…………そして成熟期…………………もしかして、これって…………デジモン…………!?』

 

簪はこの怪物がデジモンであると推測した。

 

『気を付けて! これがデジモンなのだとしたら、成熟期になった強さは今までの比じゃ…………!』

 

簪は全員に警告を促すが、その直後、

 

「クァァァァァァァァァッ!!」

 

球形の頭の中央からX字に線が入った所から捲れるように4つに開いていく。

それは口だった。

開かれた口の中央に舌のような触手が束ねられており、そこにエネルギーが集中。

次の瞬間、電撃となって放たれた。

 

「「「「「「「ッ!?」」」」」」」

 

放たれた電撃が辺りを蹂躙する。

直撃こそしなかったが、今までとは桁違いの攻撃に全員は一瞬絶句した。

すると、その1体に呼応したかのように、更に2体が光を放ち始め、進化した。

合計3体の成熟期デジモンがその場に立つ。

体感的に10m近い怪物が3体いるという事は、その場に居る者達に大きな威圧感を与える。

すると、3体のそれぞれが口を開き、電撃を放とうとしていた。

 

「ッ! 皆! 動いて!!」

 

一瞬早く我に返った楯無が叫ぶ。

その声で他の皆も我に返り、一斉に回避行動を取った。

一夏達は電撃を躱すが、電撃はそのまま辺りを蹂躙する。

システムを構築していると思われるオブジェクトが破壊され、簪の元に異常を知らせるアラートが次々に届く。

 

『くっ………このままだと、システムがとんでもないエラーを起こす可能性も………!』

 

簪もエラーを修復する為に、システムを組み替えようと試みる。

そんな簪の様子を見て、楯無は決意した表情で皆を見る。

 

「…………皆、これ以上あいつを放っておくわけにはいかないわ。長期戦は不利よ。最大攻撃で一気に決めるわ!」

 

「「「「「「ッ!」」」」」」

 

楯無の言葉に、全員も覚悟を決めたのか、力強く頷く。

3体が一斉に放ってきた電撃を、散開することで避ける。

 

「一夏君! シューターフローよ! あの真ん中の奴をターゲットに見立てて!」

 

「は、はい!」

 

楯無の言葉に一夏は真ん中のデジモンを中心に円運動を始める。

そのデジモンは、マニピュレーターを伸ばして一夏を捕らえようとするが、その機動性を捉える事が出来ず、別のデジモンを殴りつけてしまう。

 

「鈴ちゃん! ラウラちゃん! 殴られたデジモンに砲撃!!」

 

「くらぇぇぇぇっ!!」

 

「了解した!」

 

鈴の衝撃砲の最大出力と、ラウラのレール砲が炸裂する。

デジモンに直撃した弾丸は爆発を起こし、そのデジモンは立っていたオブジェクトから落下していく。

 

「セシリアちゃん! シャルロットちゃん! サークルロンドの要領でもう1体を集中攻撃!」

 

「「了解(ですわ)!!」」

 

セシリアとシャルロットが2人で挟み込む様に円運動をしながら射撃による攻撃を加えていく。

 

「箒ちゃん!!」

 

「はい!!」

 

楯無の合図で勢いをつけた箒が2本の刀にエネルギーを溜めた状態で突撃する。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

そのまま勢いで、セシリアとシャルロットの攻撃で動きを止められていたデジモンを貫いた。

光の粒子に分解されていくデジモン。

 

「最後は私が………!」

 

楯無が全ての水をランスに集め、槍状に圧縮する。

 

そのまま一夏に翻弄されている最後の1体に突撃し、

 

「ミストルテインの槍!!」

 

槍をデジモンの身体に突き刺し、その内部で炸裂させる。

そのデジモンは内側から膨れ上がり、弾けるように爆発した。

同じように粒子に分解されていくデジモン。

それを見届け、

 

「やったぜ!」

 

一夏が喜びの声を上げ、他のメンバーも無事倒せたことに笑みを浮かべる。

それを見ていた簪もホッと息を吐いたが、

 

『………………え?』

 

進化した3体の内、1体の反応がまだ残っていた。

いや、それどころか、そのデータ量が増大していく。

 

『お姉ちゃん! 1体がまだ生きてる!』

 

「ッ!?」

 

簪の言葉に楯無は即座に確認する。

すると、先程鈴音とラウラが砲撃し、落下していたデジモンが、ボロボロだったがまだ生きている事が確認できた。

しかも、その最後の1体は、他の2体倒した際に変化した光の粒子を吸収しているように見える。

 

「………ッ!!」

 

このままでは拙いと直感した楯無が、ランスを構えながら全速でそのデジモンに向かって飛ぶ。

しかし、

 

「…………間に合わないっ!」

 

光の粒子を吸収しきった最後の1体が光に包まれる。

楯無は咄嗟に急停止した。

 

「…………進化する………!?」

 

その光は更に巨大化し、無数の蔦で身体を構成したような姿のデジモンとなる。

 

『更に進化したって事は…………完全体………!』

 

簪が呆然と呟く。

 

「ッ! 簪ちゃん! すぐに全員を電脳空間から強制排除!! 急いで!!」

 

『ッ!? わ、わかった!』

 

簪は一瞬呆けるも、すぐにハッとなって作業を始める。

その時、完全体に進化したデジモンが無数の蔦を伸ばしてくる。

 

「くっ!」

 

楯無はランスを振るうが、その蔦は強靭で切断する事が出来なかった。

逆にランスを絡めとられ、他の蔦が楯無の身体に巻き付いていく。

 

「ううっ……!?」

 

「楯無さん!!」

 

一夏が楯無の方に向かってこようとしていたので、

 

「来ちゃ駄目よ!!」

 

楯無は強い口調でそう言った。

その声に、一夏は思わず止まってしまう。

 

「これはもう、私達の手に負える事態じゃないわ! 撤退するのよ!」

 

「そんな! 敵を前に逃げるなんて………!!」

 

「言う事を聞きなさい!! また同じ過ちを繰り返すつもりなの!?」

 

「ッ………!」

 

楯無の言葉に、一夏は言葉を詰まらせる。

 

「簪ちゃん!」

 

『………準備完了! 強制排除開始!』

 

楯無の言葉に応えるように、簪も作業を終わらせ、強制排除を開始するためのエンターキーを押す。

一夏達が光の膜に包まれたかと思うと、その姿が消えていく。

電脳空間から強制排除されているのだ。

一夏、箒、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラと順番に強制排除が進んでいく。

そして、最後の楯無の強制排除が始まった時だった。

ピーッと、エラーを示す警告音が鳴る。

 

『えっ…………?』

 

簪が何故と言いたげに声を漏らす。

簪は急いで強制排除を再開しようとしたが………

再び、ピーッという警告音と共に、強制排除が不可能と表示される。

 

『そ………そんな…………電脳空間から脱出できない………!?』

 

簪が絶望的な声を漏らす。

 

『お……お姉ちゃん………!!』

 

楯無は完全体デジモンの蔦に囚われ、脱出できないでいる。

ISは解除されており、両腕は頭上で蔦によって纏めて縛り上げられ、胸、腰、脚と完全に動きが封じられる状態で束縛されている。

楯無を捕えているデジモンによって、楯無の電脳世界からの脱出が妨害されているのは明らかだった。

 

『お姉ちゃんっ!!!』

 

簪の慟哭の様な叫び声が、電脳空間内に響いた。

 

 

 

 

 

 

 








IS編第23話です。
はい、ワールド・パージ編とか言っておいて、ワールド・パージがどっかに放り投げられました。
そして分かっていると思いますが、出てきたのはアルゴモンです。
アルゴモンはこの小説2度目の出演。
でも今回は幼年期からですね。
ディアボロモンとどっち出そうか迷いましたが、楯無が囚われる事は決まってたので、都合が良いアルゴモンになりました
電脳空間は、デジモンアドベンチャー:の第1話に出てきたネットワークの世界を思い浮かべてください。
さて、完全体に進化したアルゴモン。
囚われてしまった楯無。
無事助ける事が出来るのか!?
次回をお楽しみに。

一夏の今後の扱いをどうするか?

  • アンチ路線を突っ切れ!
  • いやいや、矯正しましょう!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。