ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第26話 大運動会

 

 

 

アルゴモンとの戦いから少し経ったある日。

放課後、授業を終えた俺達が教室を出ると、

 

「大士さん……!」

 

4組の教室から出てきた簪が嬉しそうに駆け寄ってくる。

簪はそのまま腕に抱き着く。

 

「簪………」

 

俺もそんな簪を微笑んで見下ろす。

簪を恋人にしてから行われるようになった光景だ。

因みに葵と優花だが、特に不満顔をする事も無く一歩引いて簪に譲っている。

どうやら簪は別のクラスという事で、多少はこう言う時に優遇させるようにしているらしい。

そして、簪を恋人にしてから行われるようになった光景はもう1つある。

それは、

 

「た~いしさんっ♪」

 

簪が抱き着いている腕とは反対の腕に、いつもの如く気配を感じさせずに近付いてきた楯無が抱き着いた。

その際にムニュンと豊かな胸が腕に押し付けられるわけで、俺は平静を保つのに精神をすり減らしている。

楯無は、俺への好意を持ってからは、こうして毎日猛アピールをしてくるようになった。

当然だが、優花は楯無の接近には気付いているだろうが、邪魔をしないという事は折り合いをつけているという事なんだろう。

 

「………………ッ!」

 

そしてそんな俺達を、後ろから複雑な表情で見ている織斑の姿。

これも毎度の光景だ。

だが、今日は少し違っていた。

 

「…………なあ、楯無さんに簪さん?」

 

織斑が話しかけてきたのだ。

 

「一夏君?」

 

「………何?」

 

楯無と簪は首だけで振り返る。

楯無は平然を装っているが、簪はやや表情を曇らせている。

俺も立ち止まって織斑の方を見た。

すると、

 

「その………少しはしたな過ぎやしないか? 友好の表現とは言え、()()()恋人がいる男に対して抱き着いたりするなんて…………」

 

『仮にも』を強調しやがったなコイツ。

そんな織斑の言葉を聞いて、楯無と簪は俺を挟んで顔を見合わせると、呆れた様に溜息を吐いた。

 

「……………一夏君? 君は年頃の女の子が、唯の友好の表現でこんな事すると思ってるの?」

 

楯無がそう言うと、

 

「いや、楯無さんは俺にからかい半分でそれに近い事してたでしょう?」

 

「………………………」

 

織斑の思わぬ返しに、楯無はサッと視線を逸らした。

すると、

 

「それでもある一線は引いてたはず。今のお姉ちゃんの大士さんへの行動は、その一線を越えてる。『仕事』の上であなたとの距離を詰める為にやってた時とは違う」

 

簪が楯無をフォローする様にそう言う。

 

「簪ちゃん………」

 

「でも………だったらどうして………?」

 

織斑は納得いかなそうな表情で問いかける。

 

「……………だって、私は大士さんの『恋人』になったんだもん」

 

ばらすのか簪。

 

「なっ………!?」

 

織斑が驚愕で声を漏らす。

 

「因みに私は正式な恋人じゃないけど、大士さんが『好き』だと伝えて、その答え待ちかな」

 

楯無が続ける。

 

「たっ、楯無さんも………!? 一体如何して………!?」

 

織斑が驚愕の表情のまま、理解できないと狼狽える。

 

「どうして、って…………そんなの『好き』になっちゃったんだから仕方ないじゃない」

 

楯無は、当然とばかりにそう言う。

 

「なんで………? 大士は唯でさえ恋人を2人作ってて、女の人の気持ちを弄んで…………」

 

「恋人を2人作ってたのは否定せんが、弄んだつもりは無い」

 

そこだけは否定しておく。

俺は真剣に考えて2人と付き合っていた。

 

「私も弄ばれたとは思ってないよ」

 

「右に同じ」

 

葵と優花も同意する。

 

「だけど………同時に複数の女の人と付き合うことは、不純で………いけない事で………」

 

織斑は尚も俺達を認められない様だ。

 

「ふむ…………」

 

楯無はそんな織斑を見て、片手に持っていた扇子を顎に当て、何かを思案する様な表情になると、

 

「……………要するに、一夏君は『悪い人』を見過ごせないわけだね?」

 

織斑の行動原理の結論を口に出す。

 

「それは当然でしょう? 間違っている事は正さないと………」

 

「なるほどなるほど…………」

 

楯無は、織斑の言葉にうんうんと頷く。

そして、パッと扇子を開くと、

 

「ちょっと生徒会室に集合しよっか?」

 

その扇子に『審議』と達筆で書かれていた。

 

 

 

 

そのままのメンバーで生徒会室に集まると、楯無はホワイトボードを引っ張ってくる。

そして、そのホワイトボードにペンで議題を書いていった。

その議題は、

 

「では、これより『大士さんは悪人か否か?』の審議を始めます!」

 

ドドンとでっかい文字でそう書かれる。

別に自分が正しいか悪いかなんて如何でもいいんだが………

楯無がホワイトボードに『悪業』と書き込む。

 

「ではまず、大士さんの『悪業』を計っていきたいと思います。それで一夏君」

 

「は、はい」

 

「『悪業』を仮に5段階で表した場合、複数の女性と付き合うことは、どの程度になると思う? 目安として、一番深い『悪業』の5段階目を『殺人』、1段階目を不良と言われる問題児って事にしておこうか」

 

「………………それで言えば、2か3だと思いますが………」

 

「じゃあ3段階目にしておこうか。で、大士さんは合計4人と付き合ってるから、正妻の葵さんを除いて3人分の『悪業』として、3倍の9だね」

 

楯無はホワイトボードに9と書く。

楯無の奴、しれっと自分も含めて『4人』と言ったな。

 

「他に大士さんの悪いと思う所は?」

 

楯無が更に聞くと、

 

「えっ………その…………困ってる奴に手を差し伸べない所とか………?」

 

「ふむふむ、それは『悪業』の何段階目になるのかな?」

 

「そ、それは…………2段階目位だと思いますが………」

 

「じゃあ足して11だね」

 

楯無は2を足して11と記す。

 

「他には?」

 

「そ、それは…………」

 

織斑は言い淀んだ。

そう言えば、コイツが突っ掛かってくる原因になったのは、恋人が2人いるって所だったからな。

 

「そ、そうだ! こいつは臨海学校の時に暴走したISから密漁船を見捨てるって言ったんだ!」

 

織斑は思い出したようにそう言う。

っていうか、その事は漏らしちゃいけなかったんじゃ………

すると、楯無がパチンと扇子を閉じて左手の掌を叩く。

そして、厳しい目で織斑を見つめ、

 

「……一夏君。今の君の発言は、大問題だよ」

 

「………えっ?」

 

「私は家の事情で知ってたからいいけど、本来その情報は伏せられていなければならないもの………『情報が漏洩した場合、査問員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる』……………これは冗談なんかじゃないんだよ?」

 

「あっ……………!」

 

織斑はしまったと口を塞ぐ。

 

「私の家系は裏の世界にも通じてるからその話は知ってたけど、私や簪ちゃん以外だったら、本気で裁判に掛けられてたよ?」

 

「うっ…………」

 

織斑は自分の失態を認めたのか縮こまる。

 

「………………まあいいよ。なら、密漁船に乗ってた人が仮に10人と仮定して、見捨てた場合全員死亡と考えて、『悪業』が50足される。これで大士さんの『悪業』は61」

 

楯無はホワイトボードに61と書き込んだ。

 

「これが一夏君の考える大士さんの『悪業』。まあ、簡単に言えば悪人度って所だね」

 

楯無はそう言うが、実際にはトータスで魔人族の首都を壊滅させてるから、そこから更に数十万の『悪業』が加わるんだがな。

 

「じゃあ、今度は大士さんの『善業』を考えてみようか」

 

ホワイトボードに『善業』と書き込む。

 

「こっちも5段階ね。『悪業』とは反対で、人の命を救うことが5段階目ね」

 

楯無はそう言うと一旦言葉を区切り、

 

「ところで一夏君。今現在の世界の全人口はどの位か知ってる?」

 

突然そう質問した。

 

「えっ………? 60億は超えてるって前にセシリアから聞きましたけど………」

 

「そうだね。それで、大士さんはデ・リーパー事件を解決に導いた立役者の1人って事は聞いてるよね?」

 

「え、ええ………」

 

「つまり大士さんは、60億人を救ってるって事なのよ」

 

「え………? あっ!」

 

「単純にそれだけ考えても大士さんの『善業』は300億以上。『悪業』差し引いても有り余るほどの『善業』だよね?」

 

「………………………」

 

「そもそも、大士さんは結果的とはいえ世界を救った英雄。『英雄色を好む』とは言うけど、世界を救うほどの偉業を成し遂げた大士さんは、ハーレム作って他人よりもちょっとぐらいいい思いをしたってバチは当たらないと思うよ?」

 

「更に言うなら、半年前にも世界を2つ救ってるから、『善業』は更に倍以上だね」

 

葵が口を挟む。

 

「要は世界を救った対価に数人のハーレム位認めなさいって事よ」

 

「ううっ…………」

 

織斑としては『悪人』の俺を責めているつもりだったのだが、楯無によって『悪業』より比較にならない『善業』を俺はしていると指摘され、言葉が出なかった。

別に俺は『善業』を積んでいるつもりは無いので、要は織斑に対する理由付けだろう。

 

「そう言う訳で、大士さんはちょっとぐらい良い思いをする権利があるって事だから、そうそう目くじら立てる必要は無いって事」

 

楯無は織斑に言い聞かせるように改めてそう言う。

 

「…………………………」

 

織斑は納得できない様な表情をしていたが、しっかりと数字で表されているため、反論が出来ない様だ。

 

「ううっ…………!」

 

織斑は納得いかないというか、悔しそうに俯く。

 

「……………前から思ってたんだけどさ、一夏君って高校に入るまで挫折と言える挫折をした事無いんじゃないのかな?」

 

その様子を見て、楯無がそう言った。

 

「どういうことだ?」

 

俺がそう聞くと、

 

「一夏君って、見た感じ『才能』はあるのよ。やろうと思えば、大概の事は出来ちゃうって言う位の。だから、普通の人なら挫折してしまう『壁』も、その『才能』で乗り越えて来れたんだと思うわ。つまり、一夏君は今まで殆ど『挫折』という経験をせずに、ある程度『思い通りの人生』を歩んでこれたんじゃないかと思うの」

 

「…………………天之河と同じタイプって事か」

 

「そう言うタイプは稀に居るけど、『自分は間違って無い』と思い込む事が多いのよ。それに、一夏君に近い人達が、『織斑 千冬』や『篠ノ之 束』といった『我』を通せる世界屈指の実力の持ち主だった事も、その思い込みに拍車をかけていると思うわ」

 

ああ、篠ノ之 束は言わずもがな、織斑先生も我が道を行くタイプだから、それを見て育った織斑もそれを手本にする可能性は高いな。

ただ、織斑先生は色々考えた上で『我』を通している様だが、織斑はただ自分の考えを押し付けようとしているだけだ。

 

「だから、このIS学園に入って大士さんという大きな『壁』にぶつかって初めて『挫折』を経験しようとしてる。『我』を通せない事態に如何すればいいか一夏君本人も分からないのよ。だから『壁』である大士さんに余計に突っかかってしまう………っていうのが私の見解」

 

「なるほどな…………」

 

俺は今まで、織斑は俺が気に食わないという理由だけで突っ掛かってきていると思っていた。

だが、織斑にも、織斑なりの葛藤があったんだろう。

 

「それで? 如何するつもりなんだ?」

 

俺が楯無に問いかけると、

 

「フフフ………この私にまっかせなさい!」

 

自信あり気にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、1週間後。

 

『それではこれより、1年生による男性操縦者ヴァーサス・マッチ大運動会を開催します!』

 

楯無の声に歓声が広がる。

1年生のみの大運動会が、楯無の生徒会長権限によって急遽開かれる事となった。

楯無曰く、『一回徹底的に挫折を経験させましょう』との事。

因みに組み分けも何も決まっていない。

俺は一体どうするのかと思っていたのだが、

 

『それでは、組み分けの発表です!』

 

楯無の言葉に、楯無が決めてたのかと安堵する。

 

『紅組。黒騎 大士』

 

いきなり呼ばれた俺は、裏方役の上級生に紅いハチマキを渡され、紅い旗が経っている場所に案内される。

 

『白組。織斑 一夏』

 

同じく織斑にも白いハチマキが渡され、紅い旗から少し離れた場所に立っていた白い旗の所に立った。

 

『以上! あとの人は自分が入りたいと思った色の組に入ってね!』

 

適当だなおい!

 

『あ、あと、どちらか決めかねるって人は、真ん中の中立地帯に立ってね』

 

楯無が言い終わると、生徒達が移動を始め、程なく移動し終える。

その結果は…………

 

紅組――葵、優花、簪、ラウラ。

 

中立――オルコットさん、デュノア、本音さんを始め全体の約1割。

 

白組――篠ノ之さん、鈴を始め、残り全員。

 

ものの見事にすさまじく偏ったな。

 

『はーい! それでは中立の人~!』

 

俺は、中立の人間を紅組に入れると思ったのだが、

 

『全員()()に移動してくださ~い!』

 

楯無は全員白組にぶっこみやがった!

 

「おい! 楯無!!」

 

俺は思わず叫ぶが、

 

『は~い! 反論は受け付けません!』

 

楯無はぴしゃりと言い放った。

 

『それではルール説明よ! ルールは単純。男子は全ての競技に参加する事! これだけよ! 勿論ISの使用は自由よ』

 

めちゃめちゃ適当だな!

 

『では早速競技に移りましょう!』

 

楯無は開会式を適当に終わらせると、さっさと次に進んだ。

 

『第1種目は…………『50m走』よ!』

 

競技は普通だな。

内容は各組3名の代表選手を出し、一斉にスタート。

1位から3位まで順位に応じて特典が入る。

と言うことらしい。

という事で出場者は、

 

紅組――俺、葵、優花

白組――織斑、篠ノ之さん、鈴

となった。

因みに白組は全員IS装着済みだが、俺達は生身でスタートラインに立っている。

織斑は俺に対抗意識をバリバリ出しているのが分かる。

まあISならゴールするまで数秒だろう。

 

「それでは位置について……!」

 

審判役の生徒がスタート用のピストルを構える。

 

「用意………!」

 

――パ……………

 

音が鳴り始めた瞬間にスタートを切る。

デジソウルで身体強化し、地面が爆発する程の強さで地面を蹴った。

 

――…ァ…………

 

同時にスタートしていた優花は既にゴールインしている。

 

――……ン………

 

少し………と言っても、優花の倍ぐらいの時間をかけて俺がゴールインする。

 

――………ッ!……

 

更に俺より少し遅れて葵がゴールする。

ピストルの音が鳴りやむころには、俺達は既に全員ゴールしていた。

因みに白組は、瞬時加速(イグニッション・ブースト)の準備に取り掛かった所で唖然としていた。

 

『はーい! 勝者、紅組!』

 

楯無が陽気に宣言する。

因みに周りには魂魄魔法で何が起きても疑問を持たないようにしている。

 

『続いての種目は………IS学園特別競技『玉打ち落し』だ~!』

 

玉入れじゃなく、玉『打ち落し』って一体なんだ?

俺は疑問符を浮かべる。

 

『何も知らない新入生の為に説明するわね。これは伝統ある我が校の競技よ! 各チームは空から降って来る玉をISを使ってひたすら撃墜! なお、小さいほど得点が高いのよ』

 

まあ、銃器が使えるIS学園ならではという事か。

因みに伝統とか言ってるが、ISが世に出てまだ10年しか経ってないから、この学園の歴史はまだ5年かそこらだと思うんだが?

それはともかく、

 

「あ~、これは俺はあまり役に立てそうに無いな~」

 

『ISを使って』とあるから俺もISに乗らなきゃいけないだろうし、デジソウルが使えたとしても広域殲滅は出来ないからなぁ。

こういうのはハジメやユエ、ティオ辺りが得意としている事だ。

 

「大丈夫。任せて………!」

 

「お兄様の分まで私達がカバーしようではないか!」

 

簪とラウラが頼もしい言葉を放つ。

今回の選手はISを使うために自動的にこの2人となった。

白組の選手は、織斑は勿論だが、オルコットさんとデュノアだ。

どちらも射撃が得意なため、今回は不利かと思っていた。

 

『それじゃあフィールド中央に全自動標的投擲機、設置!』

 

グラウンドの真ん中に量子の光が集まり、装置が設置される。

運動会に最新技術を投入するのはなんだかな~っと思うが………

俺達は、その装置を囲む様に位置に着いた。

 

『それではISによる玉打ち落し、スタート!』

 

楯無の合図で装置から色とりどり大小さまざまなボールが吐き出される。

 

「『レイン・オブ・サタディ』!」

 

デュノアが両手にサブマシンガンを呼び出して、2丁持ちで次々にターゲットを撃ち抜いていく。

白組に順調に得点が加算されていく中、デュノアが次のターゲットに狙いを定めようとした時、そのターゲット複数を黒い閃光が纏めて呑み込んでいった。

 

「好きには………させない……!」

 

簪がグラビトン・ライフルを構えている。

 

「やるね、簪」

 

デュノアも不敵に笑って次のターゲットに目を向ける。

それとは別で、青い閃光が次々と的確にターゲットを撃ち抜いていた。

オルコットさんのレーザーだ。

彼女のISは精密射撃が得意だ。

得点の高いターゲットを選んで的確に撃ち抜いている。

 

「フフフ、狙撃こそわたくしの本領でしてよ!」

 

優雅にそう言うオルコットさん。

その時、宙を舞っていたターゲットが突然停止した。

 

「これは……ラウラか」

 

「ふっ……もらった!」

 

俺がそちらを見ると、ラウラがAICでターゲットの動きを止め、レール砲で纏めて撃ち抜いた所だった。

 

「流石だな、セシリア! シャルロット! 俺も負けていられないな!」

 

活躍する味方に触発されたのか、織斑が果敢に前に出て、雪片を振るい、余裕がある時に荷電粒子砲を放つ。

織斑も得点を重ねていく。

で、最後に俺だが、

 

「よっと………!」

 

アサルトライフルを手に、得点は低くても確実に撃ち落とせるものだけを選んで撃ち落とす。

頼れる仲間が居るので無理に俺が活躍する必要も無し。

紅組、白組共に得点が加算されていく。

因みに、個人別でも得点が表示されており、俺の得点は断トツのビリだったりする。

それを横目で見た織斑が、口元を吊り上げニヤッと笑う。

どうやら俺よりも得点が多い事が嬉しい様だ。

それに気を良くしたのか、織斑は更に前に出るようになる。

だが、忘れてはいけないのが、これは俺と織斑の勝負ではなく、紅組と白組の勝負なのだ。

オルコットさんが最高得点のターゲットである黄金玉に狙いを定める。

引き金を引こうとした時、別のターゲットを狙っていた織斑が射線軸上を横切る。

 

「きゃあっ!? 織斑さん! いきなりこちらの射線軸上に入ってこないでくださいまし!」

 

「わ、悪い!」

 

オルコットさんの言葉に織斑は謝るが、その隙に黄金玉が黒い閃光に呑み込まれる。

 

「最高得点……いただき……!」

 

簪が好機を逃さずに黄金玉を撃ち落としたのだ。

また、得点を順調に稼いでいたデュノアの方にも、

 

「一夏! 危ないよ! 味方の位置関係をよく見て!」

 

ターゲットにつられて前に出ていた織斑がデュノアの狙いを邪魔していた。

 

「す、すまん……!」

 

近距離重視なので仕方ないとはいえ、味方の射線軸上に割り込んで邪魔をしてしまうことが多々あった。

そして、やがて時間切れとなって競技が終了する。

俺の得点は、相変わらず断トツのビリ。

2番目に低い織斑と倍ほどの差がある。

それをみた織斑が、無意識だろうがドヤ顔を浮かべだ。

だが、

 

『結果発表! 勝者、紅組!』

 

楯無が俺達の勝利を宣言する。

 

「なっ………!?」

 

織斑は意外そうに目を見開きながら互いの組の合計得点を確認する。

そこには、少なくない点差が付いた結果が表示されていた。

 

「ど、如何して………!?」

 

納得いかなそうな織斑はほっといて、俺は簪とラウラに近付く。

 

「2人とも、よく頑張ったな。凄かったぞ」

 

俺は2人を労う。

 

「フフッ………」

 

簪は嬉しそうに微笑み、

 

「お兄様の分までカバーすると言っただろう?」

 

ラウラは有言実行だと笑みを浮かべる。

 

「ああ、本当に助かったよ。俺にはあんなことは無理だからな。俺は精々、2人の邪魔をしない事だけだ」

 

俺はそう言う。

織斑を見ていれば分かったが、初心者が無理に前に出ても玄人の邪魔をするだけだ。

 

「だけど、大士さんもちゃんと出来る事は頑張ってた」

 

「ああ、お兄様の得点が無ければ、負けていた点差だったからな」

 

2人も俺を労ってくる。

俺も嬉しくなり、

 

「じゃあこれは、俺達3人の勝利だな」

 

俺は拳を前に出す。

 

「うん……!」

 

「ああ!」

 

簪とラウラも拳を前に出してぶつけ合った。

一方、白組は険悪と言うか、若干ギクシャクとした雰囲気だった。

オルコットさんとデュノアは何も言わない様だが、織斑の行動が結果的に2人の得点の低下に繋がった事は間違いないからだ。

その後も競技は続いていき、『軍事障害物競走』では、葵が再生魔法で分解されたアサルトライフルを一瞬で組み立てて1位を独走し、『騎馬戦』では俺達が生身で相手のIS装着した騎馬を吹っ飛ばし、『コスプレ生着替え走』では特に問題なく優花がぶっちぎりの1位だった。

そして最終種目。

俺と織斑は、現在別々の籠に入れられ、大量の風船によって地上50mの高さに浮いていた。

 

「何ですかこれは!?」

 

隣の籠から織斑が叫んだ。

 

『さあ最終種目はバルーンファイト! ルールは簡単! 先に男子の足が地上に着いた方の勝ちです! 得点は何と1億点!!』

 

織斑の叫びに応えるように楯無が説明する。

今までの競技が全部無駄だな。

だが、そのお陰で今まで負け決定だと思っていた白組の士気が一気に高まる。

紅組からの参加者は簪と優花。

白組からは篠ノ之さんと鈴だった。

 

「それでは~~~~~~~~~開始!!」

 

織斑の叫びを一切合切無視して楯無は開始を告げた。

その瞬間、篠ノ之さんと鈴が凄い勢いで風船を割り出し、織斑の乗った籠の高度がガクンと下がる。

 

「うおおおっ!? 死ぬ!? 死んでしまう!? このペースで落下して行ったら俺は確実に死んでしまう!!」

 

織斑は高度が下がる事にビビったのかそんな事を言う。

 

「まだ死ぬわけにはいかないっ! 白式っ!!」

 

織斑は白式を起動させて逃げようとしたが、織斑の白式はうんともすんとも言わない。

 

『一夏くーん! 今、白式は半強制スリープモードに入れておいたから!』

 

地上で楯無が叫ぶ。

 

『その代わりー! 大士さんもデジソウル禁止ですからねー!』

 

俺にもそう言って来た。

 

「……………………ふむ」

 

俺は籠の端から地上を見下ろす。

それから、先程楯無が言ったルールを思い出す。

要は先に地上に足が付いた方の勝ちだと。

それなら…………

俺は籠から身を乗り出し、手摺に後ろ向きに腰かけた。

 

「大士さん………? 何を………?」

 

風船を割ろうか迷っていた簪が怪訝な声を漏らす。

俺は、そんな簪に首だけ向けて微笑むと、そのまま前を向き、後ろ向きに空中に身を躍らせた。

当然だが、俺の身体は重力に引かれて地上に向かって落ちていく。

デジソウルを使わなければ、このまま地上に激突して死ぬだろう。

だが、俺は恐怖の一欠けらも感じては居なかった。

何故なら、

 

「大士さんっ!!」

 

その声と共に、銀の流星が俺に追いつき、その体を抱え上げた。

それは、神の使徒の姿となった簪だった。

 

「何をやってるんですか!? 大士さん!?」

 

簪にしては珍しく声を荒げる。

 

「いや、一番手っ取り早い方法を選んだだけだ」

 

「だからと言って……! 万一の事があったらどうするつもりだったんですか!?」

 

「その心配はしてないさ」

 

「如何して………!?」

 

「お前達を信頼してるからな」

 

「ッ………!?」

 

俺の言葉に、簪は顔を赤くする。

 

「………それから、そろそろ降ろしてくれないか? 人前でこの格好はいささか羞恥心にくる」

 

俺は今、神の使徒の姿の簪にお姫様抱っこされてる状態なのだ。

 

「あ、は、はい…………」

 

元からかなり高度が落ちていたので、すぐに地上に着地し、地面に下ろして貰った。

その瞬間、

 

『はい! 勝者、紅組! 同時に優勝も紅組です!』

 

楯無が宣言した。

 

「…………………」

 

そんな様子を呆然と見ている織斑。

何処か打ちのめされたような雰囲気だ。

何だかんだで楯無の狙いは成功したらしい。

これが吉と出るか、凶と出るかは分からないが、誰もが味わう『挫折』を、織斑は今日初めて本気で味わうことになったのだった。

 

 

 

 

 

 







IS編第26話です。
如何するか迷った結果、結局運動会やることにしました。
でもその理由が一夏に本気の挫折を味合わさせるという鬼畜な内容。
ありとあらゆる意味で打ちのめされた一夏ですが、真面な人間になるのだろうか?
次回は………戦艦潜入かなぁ?

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