翌日。
俺は窓から差し込む光で目が覚めた。
「………う………くぁ…………」
欠伸をしつつ、大きく伸びをする。
「…………うん………? あ、おはよ、大士………ふぁ………」
俺が伸びをした拍子にドルモンも起きて、あくびをしながら挨拶した。
「ああ。おはよう、ドルモン」
ベッドから立ち上がって、窓から外を見れば、丁度朝日が顔を出し切った所だ。
「朝日は何処の世界も変わらないな………」
そんな言葉が出てくる。
「さて………」
俺はドルモンを伴って部屋を出る。
やはりと言うべきか、使用人やメイドさんの朝は早いらしく、既に何人かが廊下を行き来している。
俺はメイドさんの1人に声を掛けた。
「おはようございます。ちょっといいですか?」
「おはようございます。何か御用でしょうか?」
俺の事は客人として見ているらしく、礼儀正しく応対してくれる。
「ちょっと散歩に出たいんですけど、構いませんか?」
「はい、その程度なら問題無いと思いますが………」
「そうですか。ありがとうございます」
俺はお礼を言うと、ドルモンを伴って外へ向かった。
昨日の記憶を頼りに玄関へ辿り着くと、その扉を開けて外へ出る。
すると、目の前にはよく手入れされているであろう芝生が広がる、広い庭があった。
そう言えば昨日は、馬車酔いで庭を眺めているどころじゃなかったからなぁ………
庭を眺めていると、公爵家の庭にしては質素と言うか………あまりお金を掛けていないように思える。
俺の偏見で言うと、立派に見えるように色んな木々が植えられ、庭師によって芸術的に彩られているというイメージがあるのだが、フォルダ公爵家の庭は、確かに広いが植えられている木々は少ない。
とりあえず屋敷をぐるっと一周してみるかと思い、俺は歩き出す。
その時、ザッ、と大地踏みしめる音と共に、俺を一瞬影が遮った。
「ッ!?」
思わず見上げれば、蒼い毛皮を持つ巨大な狼
「ガルルモン………!?」
それは、蒼き狼の姿をしたデジモン。
ハジメの恋人である白崎さんのパートナーの進化先であるガルルモンだった。
俺は一瞬、ハジメがもう迎えに来たのかと思ったが、それはすぐに違うと分かった。
何故なら、ガルルモンが地に降り立ち、その姿の全貌が見えると、その背に乗る女性の靡かせる長い髪は、白崎さんの黒髪ではなく、金糸の様に美しい金色の髪だったからだ。
そして、その金の髪の持ち主は、
「………………クラウディアさん、か………」
フォルダ公爵の娘のクラウディアさんだった。
昨日のようなドレスではなく、軽鎧を纏い、動きやすそうな服装をしている。
そして、その右手には槍が握られていた。
「はぁああっ!!」
ガルルモンが跳躍すると同時に槍を振り、複数の氷の矢が生み出されて放たれる。
その矢は、その先に用意されていた複数の木製の的を、正確に貫く。
「おお…………!」
俺は思わず声を漏らす。
白崎さんがガルルモンに跨る姿は、本人が治癒師という事も相まって戦場を駆ける慈愛の聖女と言った所だが、クラウディアさんがガルルモンに跨る姿は、戦乙女や姫騎士という言葉がしっくりきた。
丁度訓練が一段落したようで、クラウディアさんは息を吐いて汗を拭った。
――パチパチパチ
俺は拍手しながら彼女に近付く。
「ッ…………!? タイシ殿!」
クラウディアさんは一瞬驚いたようだが、俺と分かると名を呼んだ。
「おはよう、クラウディアさん。それにしても見事なものだったよ」
俺は称賛の言葉を述べながら彼女とガルルモンに近付く。
「おはようタイシ殿。いや、私などまだまだ未熟だよ」
謙遜か本心か、クラウディアさんはそんな風に言う。
「そっちのガルルモンはクラウディアさんのパートナー?」
「ああ。私のデジモンのガルルモンだ」
クラウディアさんは、跨っているガルルモンの背を撫でながらそう言う。
「ガルルモンだ」
ガルルモンがそう名乗る。
「俺は大士。こっちは俺のパートナーのドルモンだ」
「よろしくね」
俺は自分とドルモンの自己紹介をする。
「……………タイシ殿は、全く臆さないのだな………」
クラウディアさんがポツリと呟いた。
「ん?」
意味をわかりかねた俺が聞き返すと、
「いや、デジモンの成熟期ともなれば、普通の人間にとっては恐怖の対象とも言っていい………少なからず恐れを抱くのが普通だからな」
「まあ、怖がる人間が居るのは否定しないさ。だけど、そのガルルモンからは、敵意や凶暴性を感じなかった。なら、必要以上に警戒する必要は無いさ」
「ッ…………………」
その言葉に、クラウディアさんは意外そうな表情で俺を見た。
「初めて会ったデジモンをそこまで信じられるのか………」
「こっちでは如何か知らないが、俺は人間もデジモンも心を持つ生き物としては同じと考えているからな。少なくとも、クラウディアさんのパートナーだ。君のパートナーなら誰彼構わず襲い掛かるようなデジモンじゃないと思っている」
「…………………………」
クラウディアさんは、どこかポカンとしたような表情をしていた。
「ありがとう。クラウディアを信じてくれて嬉しいよ」
ガルルモンがそう発言する。
「何、まだ会って丸一日も経ってないが、クラウディアさんが好感を持てる人間だという事は分かってるつもりだ」
「………………デジモンに対してもそうだが、タイシ殿は私に対しても物怖じしないのだな?」
「それは公爵令嬢に対してって意味でか?」
クラウディアさんの言葉に俺はそう判断して問い返す。
「ああ。私が公爵令嬢だと知ると、媚び諂うものや、ご機嫌を窺おうとするものが殆どだからな…………その点、タイシ殿は昨日はある程度礼儀を尽くしていたが、今は気軽な口調だ」
「まあ、基本的に俺の故郷じゃ皆『平等』が原則だ。王族も貴族も平民も無いからな。畏まる事を知らないと言った方が正確かもしれないな。まあ、知識としては知っているが」
より正確に言うなら、公爵令嬢のような高貴な身分は身近に要るし。
カトレアも公爵令嬢だし、シャルロットに至っては王族だし。
テファも王族の血を引いているし、ハジメの恋人の1人にリリアーナ王女が居るし。
極めつけに葵に至っては女神だし。
今更公爵令嬢ぐらいでは驚く方が難しい。
まあ、言っても信じないだろうから黙っているが。
「…………口調を改めた方がいいか?」
俺はそう聞く。
すると、クラウディアさんは首を横に振り、
「いや、そのままでいい。名前も呼び捨てで構わん」
「良いのか?」
「ああ」
「なら、これからはクラウディアと呼ばせてもらうよ。そっちも俺の事は大士でいい」
「わかった。タイシ」
「ああ」
俺は頷くと、
「そう言えば、さっきクラウディアは氷の魔法を使ってたようだったが、氷の魔法が得意なのか?」
「あ、ああ………私に最も適性のある魔法属性は氷属性だ………」
俺の質問にクラウディアは頷くが、何処か落胆したような雰囲気を伺わせた。
「………どうした?」
その事が気になって尋ねると、
「……………これは私の我儘なのだが………どうせならガルルモンと同じ火属性の適性がよかったと思っているだけだ…………」
俺は一瞬意味が分からなかったが、ガブモンやガルルモンの必殺技は炎を吐く必殺技だから、その事を言っているのだと理解する。
だが、俺から言わせてみればそんな事は無い。
「いいや。クラウディアとガルルモンの相性は抜群だと思うぞ」
「えっ………?」
俺の言葉にクラウディアは声を漏らす。
だが、
「思ったよりも話し込んでたな……訓練の邪魔をして悪かった」
俺はそう言って踵を返し、自分の部屋へと戻って行った。
それから数日後。
フォルダ公爵は、この数日の間に王宮と屋敷を行ったり来たりしていた。
そして、
「デジタルナイト養成学院?」
フォルダ公爵の口から出てきた言葉に、俺は思わず聞き返す。
「ああ。名前からも分かる通り、サーバー王国のデジタルナイトの資質を持つ者を集め、育成する養成機関だ。今は長期休暇中だが1週間後に再開予定だ。クラウディアもそこに通っている」
「クラウディアも………」
「そして、召喚された勇者達もその学院に通うことになった」
「あいつらか…………まあ、あいつらの動向は特に興味がないんでいいんですけど。それで、その話を俺にして如何するんです?」
何となく話の流れは見えてきたが、俺は確認の為にそう問いかける。
「ふむ………それでは本題だが、君もその学院に入ってみないか?」
俺はやはりと思った。
「…………そうしようとした理由は何ですか?」
俺が聞き返すと、
「理由は幾つかある。1つは、私はそう遠くない内に自分の領地へ戻らなければならない。君を連れて行くことも考えたが、フォルダ公爵領は魔族領に面し、襲撃も少なくない。恥ずかしい話、王都よりも危険が多いのだよ。そんな所へ君を連れて行くことが憚られることが1つ。2つ目は、君がこの世界を知るには学院へ入るのが丁度いいと思ったからだ。学院は、デジモンの育成だけではなく、座学にも力を入れており、もしデジタルナイトとして落第しても、平民でも下級貴族並の教育を受ける事ができ、将来への選択肢が増やせる。君も帰れる時がいつになるか分からないため、この世界を知っておくことは決して損にはならないだろう」
まあ、それは否定せんな。
「それに、ここ数日の君の様子を見ていると、君にとって貴族に近い待遇は、どうやら落ち着かない様子。その点、学院は寮生活だ。この屋敷よりかは気楽に過ごせると思う」
「あ~、あはは………」
図星だったので思わず苦笑してしまう。
「学院は貴族クラスと平民クラスに分けられている。幼い頃から学んでいる貴族はより高度な知識を得る為に………平民は、読み書きや計算など、基本的な知識を学ぶ為に分けられる措置だ。召喚された3人は、貴族クラスに入る事になっている。私が後ろ盾となれば、君も貴族クラスに編入できるが………どうする?」
フォルダ公爵はそう問いかけてくる。
最終判断は俺に任せてくれるようだ。
そう言う所にも好感が持てる。
俺は少し考え、
「………………そうですね。折角なので学院に通わせてもらいます」
「そうかね。では、早速手続きを………」
「ですが、貴族クラスではなく、平民クラスでお願いします」
フォルダ公爵が話を進める前に大事な事を言っておく。
「平民クラス………かね?」
「はい。貴族のしがらみなんて、俺にとっては面倒この上ないんで」
「君がそう望むなら、私は構わないが…………」
「あと、序と言ってはなんですが、聞いておきたいことが」
「言ってみたまえ」
「この世界にも貴族と平民の確執はあると思います。例えば、不機嫌な貴族が腹癒せに俺を殴ってきた場合、俺は構わず殴り返します。そう言った場合、フォルダ公爵には何処まで便宜を図って頂けるんですか?」
「なるほど………確かにそのような暴挙に出る貴族も居るだろう…………その時は………そうだな。クラウディアの裁量に任せるとしよう」
「クラウディアに?」
「うむ。公爵家が後ろ盾になると言っても、学院に居るフォルダ公爵の関係者はクラウディアのみだ。君がもし貴族と揉め事を起こした場合、クラウディアが君を庇っても良いと判断した場合は公爵家の力を以って君を守ろう」
「わかりました。それで構いません」
「それから注意しておくが、我が公爵家は爵位の中では一番上だ。だが、それでも王族相手ではそこまで力にはなれない事を理解してくれ」
「了解です。王族を殴る時は自己責任って事ですね」
「う、うむ………?」
俺の答えに、フォルダ公爵は困惑しながら頷くのだった。
それから1週間後。
「大士です。よろしく」
俺はデジタルナイト養成学院の平民クラスの教室で、編入の挨拶をしていた。
この1週間で用意して貰った黒色の制服に身を包み、先生に紹介されている。
教室の内装は、ゼロの使い魔の世界の、トリステイン魔法学院の作りに近い。
まあ、文明レベルも同程度みたいだから、自然と同じような作りになるんだろう。
ただ、トリステイン魔法学院が塔のような建物だったのに比べ、こっちの学院は巨大な宮殿のような外観だった。
突然の編入に、教室の生徒達はどよめく。
「それから、こっちが俺のパートナーのドルモンです」
「俺、ドルモン。よろしくね」
俺は傍らに連れていたドルモンも紹介する。
だが、ドルモンに向けられる視線の大部分は困惑だ。
その理由は分かっている。
デジタルナイトは、デジモンを『従える』ため、デジモンの立ち位置は騎馬に近い。
その為、騎馬が専用の厩舎で飼われる事と同じように、デジモンもデジモン専用の厩舎で生活し、厩舎にはデジモン達を世話する世話師が存在する。
つまり、人とデジモンの生活はスッパリと分けられているのだ。
なのでデジモンを連れて回る者など皆無。
俺の様にドルモンを連れて回っている人間が居る事に驚いているのだろう。
その実態を知った時には、そんな付き合い方ではデジモンとの絆を深められないため、完全体まで進化するのが精々だろうなと、逆に納得したものだ。
とは言え、俺はそんなの知った事では無い。
俺は俺のスタンスを崩すつもりは無いし、ドルモンもそれは一緒だ。
どんなに奇異の目で見られようとも、俺達は俺達のまま進む。
そう決めているため、俺とドルモンは堂々とその場に立っている。
「ええっと、席は…………あそこの空いている席に座ってください」
先生は空いている席を探し、そこを指差す。
「わかりました」
俺はドルモンを連れてその席に歩いていく。
周りから視線が向けられるが、俺は気にせず歩いていき、指定された席へと座る。
すると、
「初めまして」
横から声を掛けられた。
そちらを向くと、俺と同じ長机の隣の席に座っていた少女がこちらを向いて笑みを浮かべていた。
肩辺りで切り揃えられた明るい茶髪に、優しそうなエメラルドの瞳を持つ、16、7歳ほどの少女。
制服の上からでは分かり辛いが、胸も結構大きそうだ。
因みにこの学院の女子の制服は茶色だ。
余談だが、貴族クラスの男子の制服は白、女子の制服は赤である。
「あ、ああ。初めまして」
とりあえず挨拶を返す。
「私は、エミリアって言います。これからよろしくお願いします」
エミリアと名乗った少女は、礼儀正しくそう名乗る。
「さっきも名乗ったが大士だ。こちらこそよろしく頼む」
「はい、タイシさん!」
平民と言うだけあってか物腰は柔らかく、付き合いやすそうな雰囲気に俺は好感を持つ。
すると、先生が授業を始めた。
この世界では紙は高価であり、教科書の様なものは存在せず、先生から教えられる知識が全てだ。
どうやら算術の授業の様で、エミリアさんは羊皮紙に羽ペンを走らせ、先生の言葉を一語一句聞き漏らさないようにと集中している。
どうやらエミリアさんは真面目な性格の様だ。
それと、今更なんだが、この世界の読み書きに関しては、トータスに召喚された時に得た〝言語理解〟の技能のお陰で問題なく可能だ。
因みに授業の内容なんだが…………
「……………小学生レベルかよ」
元から学んでいない平民の授業と言うべきか、足し算引き算、掛算割り算のレベルだ。
俺にとっては当たり前の知識だとしても、この世界の平民にとっては貴重な知識なんだろう。
すると、
「ううっ………」
エミリアさんが難しい顔をしていた。
見れば、3ケタの掛算で苦しんでいる様だ。
なので、
「エミリアさん、ここはこういう風に計算すれば………」
俺は横からエミリアさんが悩んでいるだろう計算式を教える。
「あっ! そう言う事だったんですか!」
エミリアさんは理解したようで、パッと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、タイシさん。計算お得意なんですね!」
エミリアさんは俺に尊敬の眼差しを向ける。
「あはは………俺はこの辺りはもう学んでるからね」
俺は思わず苦笑する。
この程度で尊敬の眼差しを向けられると逆に困る。
エミリアさんが躓いた所をフォローしつつ、授業が進んでいく。
次の授業は歴史の授業。
これは全く分からないので、エミリアさんにフォローして貰いつつ授業を乗り越えることになった。
そして次の授業は、
「ではこれより、デジタルナイトに必要な知識を教えてやる。下賤な平民が貴族である私の知識を得られることを光栄に思うが良い」
第一印象から最悪な男性の先生が教壇に立った。
人を見かけで判断してはいけないが、その顔も性根が悪そうだ。
「何だあの先生は? のっけから偉そうに………」
俺が思わずそう呟くと、隣のエミリアさんがわたわたと慌て、
「そんな事言っては駄目ですよタイシさん! あの先生は貴族なんです!」
俺を止める様にそう言う。
俺は逆にその言葉で納得した。
「ああ。典型的な性悪貴族なのね………」
「タイシさん……!」
エミリアさんは俺を注意する様に小声で叫ぶ。
すると、ギロリとその先生に睨まれた。
「ウォッホン!」
その先生は一度大きく咳払いをすると、
「諸君らも知っての通り、デジタルナイトになる為には資質が必要だ。その資質は、主に『デウルの灯』を灯せるかどうかで判断している」
その先生が右手を掲げると、その人差し指の指先に、チカッ、チカッ、と小さな光が点滅するのが見えた。
何だあれ?
「この輝きこそ『デウルの灯』デジタルナイトの資質が大きければ大きいほどこの輝きも強くなるのだ! まあ、君ら平民の『デウルの灯』など、暗闇の中で僅かにわかる程度の光しか灯せないと思うがね」
何となくわかったが、あの偉そうな口調の所為で如何にも真面目に聞く気にはなれない。
とは言え、貴族と言う肩書の所為か、生徒達からは反論の声も上がらない。
「そして何より、デジタルナイトには魔力量が大きく関係している! デジタルナイトの魔力量が多ければ多いほど強いデジモンに進化する可能性が高く、過去を遡ってもデジモンを完全体に進化させる事が出来たデジタルナイトの多くは、高い魔力量を誇っていた事が分かっている!」
威張るような口調でそう言う先生。
すると、
「そこの編入生!」
俺を名指しされた。
「今の私の話を考慮し、デジモンの進化と魔力の関係性についての考察を述べよ!」
どうやら最初のあれで目を付けられた様だ。
多分、何を言ってもダメ出しを喰らうんだろう。
ま、それならいっその事…………
俺は立ち上がる。
「では、自分の考えを申し上げます」
俺は態々丁寧な口調で話し出す。
「自分の考察において、デジモンの進化と魔力の関係性は………………………
「なっ!?」
俺の言葉が予想外だったのか、先生は驚愕の声を漏らし、教室中がザワッとどよめく。
「そもそも、デジモンを構成するデジタル物質と魔力は、最悪と言っていいほど相性が悪いです。試したことがあるかは分かりませんが、怪我をしたデジモンに回復魔法を使っても一切効果がない筈です。魔力によって生じる熱や衝撃には影響を受けても、魔力そのものに対して、デジモンは一切影響を受けないのがその証拠です」
「タ、タイシさん…………!?」
俺の横でエミリアさんが呆気に取られている。
「で、では、完全体に進化させることが出来たデジタルナイトの多くが高い魔力量を保有していた事には、如何説明するつもりだ!?」
先生は動揺した様子で問いかけてくる。
「それは単に、高い魔力を保有していた方が戦場で生き残り易いからでしょう。デジモンの進化に必要な物の1つに、戦闘の経験があります。高い魔力を持っていれば、それだけ戦場で活躍しやすく、生き残る可能性が高いので戦闘経験が積みやすいってだけです。完全体まで進化させたデジタルナイトの多くが高い魔力保有者だった。逆に言えば、高い魔力保有者じゃなくても、完全体まで進化させた実例はあるという事です。以上を踏まえ、魔力自体にはデジモンと全く関係が無いと愚考いたします」
俺はそれだけ言って席に着く。
先生はわなわなと手を震わせ、
「み、認めん! そんな事、認めるものか!!」
先生はそう言うと教室を出て行ってしまった。
あれ?
最悪停学ぐらい喰らうかなと思ってたんだけど………?
すると、
「凄いじゃないか!」
前の方の席から、1人の男子生徒が俺の方を向いて尊敬の眼差しを向けていた。
「あの先生を言い負かすなんて!」
その男子生徒は、金髪で隻眼のイケメン……とまでは行かないが、十分カッコいい部類に入る容姿をしていた。
「俺はカイル! 君はタイシでよかったよな? さっきの考察は凄かったよ!」
カイルと名乗った少年は、人懐っこそうな笑みを浮かべて俺を称賛する。
「いや、俺は普通に自分の考えを言っただけだったんだが………」
「………でも、説得力があった」
続いて静かな声が聞こえた。
俺の席から通路を挟んで向こう側の席に座っていた銀髪ショートカットの少女が俺の方を向いていた。
「先生の説明よりも、あなたの説明の方が筋が通っていた………先生の反論にも、すぐに言い返していた」
「……………あくまで俺の考えだ。本当の所は定かじゃないさ」
俺はそう言うと黙り込む。
先生が何処かへ行ってしまったので、結局その後は自習となった。
その日の授業の終わりになると、担任の先生から連絡があった。
「明日は早速デジタルナイトとしての実戦訓練があります。各自、自分のデジモンを連れて、訓練用デジタルダンジョン前へ集合してください」
デジタルダンジョン?
名前からして何となーく予想は付くけどな。
何だかんだで1日目の授業が終わり、食堂で夕食を終えると、俺は指定された寮の部屋へとやって来る。
勿論ドルモンを連れて。
周りに居る生徒達は、やはりデジモンを連れている者は1人も居ない。
奇異の目で見られているが、俺は構わずに部屋に入る。
寮の部屋は1人部屋で、ベッドと勉強用だろう机と椅子。
後はタンスとクローゼットがあるだけの簡素な部屋だ。
風呂は無く、外の井戸で水を汲んで身体を拭くのが平民の当たり前らしい。
貴族寮には風呂があるそうだが。
まあ、我慢できなくなったら〝宝物庫〟にあるテントを出して、そこにある風呂に入るだけだ。
制服を脱ぐ序に身体を拭いて寝間着に着替えると、俺はドルモンとベッドに寝っ転がる。
「さて、また新しい学校生活のスタートか…………」
俺は若干の寂しさを感じつつ、眠りに着くのだった。
オリジナル異世界編第3話です。
アニメ化作品第一期張りに時間をすっ飛ばしました。
細かく書いてると全然進まないし、モチベーションが持たないのが理由です。
クラウディアのパートナーはガルルモン。
そんでヒロインその2のエミリア、親友ポジのカイル君が出てきました。
エミリアのイメージは、『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』のオリヴィア。
カイル君のイメージは、テイルズオブデスティニー2の主人公のカイルを、もうちょい落ち着かせた感じ………かな?
まだ出てきたばかりなので性格が安定しないかもしれませんが悪しからず。
因みに名前が出て来てませんが銀髪ちゃんもヒロインその3です。
次回は実戦訓練。
主要キャラ達のパートナーデジモンが出てきます。
お楽しみに。