ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第6話 ありふれた出会い

 

エミリアのアグモンがグレイモンに進化した翌日から、エミリアの評価は一変した。

 

「エミリア! 君は是非うちのチームに入るべきだ!」

 

「いいや! ここは平民クラストップである俺達のチームに!」

 

「エミリアさん、是非うちのチームに入ってくれないかしら?」

 

エミリアの周りに、エミリアを自分のチームに勧誘しようとする生徒が殺到している。

エミリアは、あわあわと慌てながら生徒達に対処していた。

それを俺は眺めていたが、

 

「…………なんという掌返し」

 

俺は率直な感想を呟く。

先日まで落ちこぼれだのなんだのバカにし続けていた奴らが、嘘のように好意的に接し始めたのだ。

端から見ていると調子のいい事を言っているようにしか思えない。

そういうことをするぐらいなら、最後まで対抗心を持ちつつ自分を磨く奴の方が好感が持てる。

 

「グレイモンに進化させたんだ。仕方ないと言えば仕方ないよ」

 

カイルはそう言って苦笑する。

 

「…………貴族クラスの方でも噂になってるみたい」

 

エリスがボソッと呟いた。

 

「ふーん…………そんなもんかね………」

 

暫くすると、

 

「はふう………断るのに疲れましたぁ………」

 

言葉通り疲れた表情でこちらに戻って来るエミリア。

 

『お疲れだね、エミリア』

 

すると、突然声が聞こえてきた。

 

「グレイモン」

 

エミリアがそう言って、制服のポケットから取り出したのは、先日現れたデジヴァイス。

その画面に、グレイモンの顔が映っていた。

何故デジヴァイスの画面にグレイモンが映っているのかと言えば、ダンジョンをクリアしてから自分達の部屋に戻る途中、エミリアがグレイモンとの生活に悩んでいる時だった。

今までは成長期で、人間の子供と同じぐらいの大きさだったので、共に生活するにも困らなかったが、グレイモンは巨大な成熟期。

流石に寮には入れない。

エミリアは残念そうにデジヴァイスを握りしめながらグレイモンを見上げ、

 

『グレイモンでも、いつも一緒に居られたらいいのに………』

 

そう呟いた。

その瞬間、エミリアのデジヴァイスが光り輝き、グレイモンがデータ粒子に分解されながらデジヴァイスの画面に吸い込まれたのだ。

エミリアは慌てるが、すぐにグレイモンの声が聞こえた事で安堵し、何度か試す内にエミリアのデジヴァイスは、セイバーズのデジヴァイスICやクロスウォーズのクロスローダーの様にデジヴァイスの中にデジモンを収納できることが分かった。

そして、デジヴァイスの中に居ても周りの事はある程度把握できるらしく、会話も勿論可能。

この機能により、グレイモンでも常に一緒に居る事が可能になった。

 

「…………だけど、良かったの?」

 

カイルがエミリアにそう尋ねる。

 

「えっ?」

 

エミリアが何の事かと声を漏らすと、

 

「エミリアのアグモンは成熟期に進化したことだし、他のチームの方が活躍できそうな気もするけど………」

 

カイルの言葉はエミリアの為を思っての事だろう。

だが、

 

「もう、見くびらないでください! カイル君やエリスさんには今まで沢山お世話になったんです! 自分達だけ成熟期になったからって、皆を放ってはい、さよなら、何て事はしませんよ!」

 

エミリアは心外だと言わんばかりにそう言った。

すると、時間になったのか先生が入室してきて今日の授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

その日の授業の終わり。

 

「さて、皆さんにお知らせです。今日から1週間後、貴族クラスと合同で、冒険者実習が行われます」

 

アリア先生が連絡事項を言う。

冒険者実習?

なんだそれ?

俺が疑問に思うと、

 

「タイシ君は初めてなので、皆さんの再確認を含めて説明します。冒険者実習とは、デジタルナイトがデジモンを失った場合、冒険者となる事が多いために、魔物や魔獣との戦闘経験を積むために行われるものです。王都の近場にある草原と森が、初級冒険者向けの狩場として知られており、そこで魔物や魔獣を狩り、素材を集める事が目的です。素材を多く集めたり、珍しい素材を手に入れる事によって評価が上がるので頑張ってください。尚、この実習ではデジモンを連れて行くことは禁止されています」

 

「ええ~っ! じゃあ俺は行けないの?」

 

ドルモンが不満そうに声を上げる。

 

「そして、訓練とは言え皆が直接戦うものです。デジタルダンジョンよりも怪我をする可能性は高いでしょうし、最悪は死ぬこともあり得ます。心構えだけはしっかりとしておいてください」

 

アリア先生は神妙な顔で言い聞かせるようにそう言う。

 

「それから、武器や防具は自前の物でも構いませんが、用意できない人は学院側から貸し出しも行っております。必要な方は実習当日の2日前までに申請してください」

 

アリア先生は報告を終えると退室した。

 

「冒険者実習ね………そんなものがあるとはな…………」

 

俺は椅子の背もたれにもたれ掛かりながら天井を仰ぐ。

正直デジソウルの身体強化を使えば楽勝なんだろうが、変に力を見せてしまえば何らかの厄介事に巻き込まれる可能性だって否めない。

ここは普通の人間が出せる身体能力に抑えておいた方がいいだろう。

万一の時は躊躇うつもりは無いが。

 

「タイシ、初めての冒険者実習だけど大丈夫?」

 

「ん? まあ、魔物とかと戦うのは初めてじゃないし、多分大丈夫だろう」

 

この世界の魔物では無いが。

 

「そう………それから、武器や防具の貸し出しの申請は如何する? 必要なら俺が一緒にやっておくけど………」

 

流石に平民出という事もあって、このクラスの殆どは学院から借りる様だ。

 

「………いや、俺は自前の物があるからいいよ」

 

「あるの?」

 

カイルが軽く驚いた顔をする。

 

「ああ」

 

多分、この世界でも最上級の物が。

 

「そう言う訳だから、俺の事は気にしなくていいぞ」

 

「あ、うん、わかった」

 

俺はそうカイルに断りを入れた。

 

 

 

 

 

 

―――1週間後。

冒険者実習当日。

俺は自室で、〝宝物庫〟から出した戦闘服を着て、デルフリンガーを携える。

 

「よし、それじゃあ行ってくるから。食事は食堂の人に言ってあるから、お腹がすいたら貰いに行ってくれ」

 

「うん、わかった」

 

ドルモンにそう言うと、

 

「じゃ、行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

ドルモンは手を振って送り出してくれた。

 

 

集合場所へ集まると、

 

「タイシ!」

 

カイルが俺に呼びかける。

 

「カイル」

 

俺がそちらに歩いていくと、エミリアとエリスの姿もある。

カイルとエミリア、エリスは革製の鎧を身に纏っている。

所謂レザーアーマーと言う奴だろうか?

まあ、貸出品だしこんなものか。

そして、カイルは背中に大剣を。

エミリアはスタッフタイプの長い杖を。

エリスはワンドタイプの短い杖を持っている。

カイルは戦士。

エミリアとエリスは魔法使い系だろうか?

 

「おはようタイシ」

 

「おはようございます、タイシさん」

 

「……おはよう」

 

3人が挨拶してくる。

 

「おはよう皆」

 

革製の装備の3人に対して、黒い戦闘服を纏っている俺はかなり浮いていた。

 

「それがタイシの装備?」

 

カイルが俺を眺めながらそう言う。

 

「ああ。俺のダチが作ってくれた特注品だ」

 

「見た目は普通の服みたいですけど………大丈夫なんですか?」

 

エミリアが心配そうに聞いてくる。

 

「ああ。こいつは特別製でな。そこら辺の金属製の鎧よりかは防御力高いぞ」

 

生身でドラゴンブレス受けても1回なら生き残れるし。

すると、

 

「おう。この3人が相棒の新しいお仲間かい?」

 

俺の携えていた剣から声がした事で、3人は驚いたように辺りを見回した。

 

「だ、誰!?」

 

「一体何処に………!?」

 

3人がキョロキョロと辺りを見わたすが、俺はデルフを鞘から抜くと、

 

「紹介が遅れたな。こいつは意志を持つ魔剣『デルフリンガー』。俺のもう1人の相棒だ」

 

3人に見せつけるように前に突き出して紹介する。

 

「デルフリンガー様だ! 覚えときな!」

 

相変わらず口の悪さだ。

 

「け、剣が喋ってる………?」

 

「そ、そんなのがあるんですね……」

 

「吃驚………」

 

3人は、唖然としてデルフを見ていた。

 

「口は悪いが頼りになる奴だ。こいつの事もよろしくな」

 

俺がデルフの紹介を終えると、時間になったので馬車に乗り込んでいく。

平民用の馬車は、荷車に布の屋根を張っただけの簡易的な馬車だ。

前の方を行く貴族用の馬車は無駄に豪華であり、貴族と平民の扱いが天と地である。

そして、忘れてはならないのが、馬車の移動という事は、

 

「気持ちワリィ…………」

 

当然の如く馬車酔いだ。

外の空気が入ってくるため幾分か楽ではあるが、それでもいつまで経っても馬車には慣れない。

 

「だ、大丈夫ですか………?」

 

エミリアが背中を摩ってくれる。

 

「大丈夫………いつもの事だから………」

 

俺は体育座りをしながら俯いて、吐き気を我慢する。

 

「相変わらず相棒は乗り物に弱ぇんだからな」

 

デルフが呆れた様にそう言う。

 

「いつもなら恋人の嬢ちゃんたちの膝枕で休んでる所だけどな! まあ我慢しな!」

 

「うっせ」

 

気分が悪いので、若干やさぐれてる自覚はある。

 

「…………って、タイシさん恋人居るんですか……!?」

 

エミリアが驚いたようにそう言った。

 

「ま、まあ………悪いけどそう言う話は後にして………」

 

吐き気を呑み込んで俺は黙り込んだ。

 

 

 

 

馬車に揺られて2時間ほど。

漸く目的の場所に到着したらしく、馬車を降りる事が出来た。

 

「は~~~~~」

 

俺は大きく息を吐く。

動かない地面が愛しい。

 

「お疲れ様」

 

カイルが苦笑しながらそう言う。

場所は、森と草原の境目。

ここから森に行くチームと草原に行くチームに分かれて行動し、日が沈むまで狩りを行いこの場で野宿。

そして、翌日に森と草原のチームが交代して昼まで狩りをして帰還である。

俺達のチームは、デジタルダンジョンの時と変わらず、俺、カイル、エミリア、エリスだ。

話を聞くに、カイル達は何度かこの冒険者実習に参加したことはあるが、余り成績は宜しくなかったらしい。

今思えば、戦術も何も無かったから当然だったようだ。

俺達が、役割分担を決めようとした時、

 

「あら? あなた、まだこの学院にいたのね?」

 

聞き覚えの無い女子の声が聞こえてきた。

そちらを振り向けば、暗めの金髪をツインテールにした蒼い瞳の少女が立っている。

その顔は、髪の長さと色の違いこそあれど、エリスと瓜二つだ。

身形は学院から貸し出される革製の装備ではなく、高性能そうな軽鎧を纏っていた。

因みにその鎧の作りから、結構胸が大きそうだという事が分かる。

 

「誰だ?」

 

俺が首を傾げると、

 

「……………アリス」

 

エリスが呟いた。

すると、彼女はスカートの両端を摘まみ、

 

「ファイル伯爵家が長女、アリス・ジエス・フォン・ファイル。以後お見知りおきを」

 

まるでお手本のようなお辞儀をしてみせた。

 

「き、貴族様っ……!?」

 

エミリアが驚愕する。

カイルも言葉を失っていた。

だが、俺達平民クラスの人間に、そんな礼儀正しい挨拶は必要ない筈。

まるで、貴族である事を見せつけるような行為に俺は目を細める。

 

「ッ……………」

 

エリスは僅かに声を漏らし、軽く俯く。

すると、アリスと名乗った彼女はエリスに目を向けると、

 

「久し振りねエリス。まだこの学院に居たなんて驚きだわ」

 

まるで煽るような声色でエリスに向かってそう言った。

 

「………………………」

 

エリスは何も言わない。

 

「あなたの噂は聞いてるわ。未だにデジモンを進化させられない落ちこぼれ。全く、あなたのような不出来な妹を持つなんて、この私の唯一の汚点だわ」

 

「………………………」

 

それでもエリスは何も言わない。

それにしても、

 

「妹?」

 

俺が呟くと、アリスは含み笑いをする。

 

「あら? 知らなかったの?」

 

「ッ……! や、やめて………!」

 

何かを感じ取ったのか、エリスは声を上げたが、

 

「その子の名前はエリス・ジエス・フォン・ファイル。ファイル伯爵家の次女で、認めたくないけど、この私の血を分けた双子の妹なのよ」

 

「えっ!?」

 

「エリスが貴族!?」

 

エミリアとカイルが驚愕の声を上げる。

エリスは知られたくなかったのか、暗い顔で俯いていた。

 

「エリスが貴族ね………じゃあ何で貴族令嬢である筈のエリスが平民クラスに通ってるんだ?」

 

貴族だと言うのなら、貴族クラスに通うのが普通だ。

 

「そんなのは簡単よ。その子はファイル伯爵家の落ちこぼれで面汚し。存在する価値も貴族クラスには通う価値もないって判断されたのよ。まあ、家族の最後の情で平民クラスには通う事を許されたってだけよ」

 

アリスはエリスに蔑む様な目を向ける。

 

「わかったかしら? その子には何の価値もないって」

 

「…………………………」

 

エリスは俯き続けている。

それにしても、アリスの言葉には何か違和感を感じる。

わざとらしいというか何というか…………

それはともかく、俺の答えは決まっている。

 

「…………で? それがどうかしたのか?」

 

「なっ!?」

 

「ッ!?」

 

驚いたように声を漏らすアリスと、驚いたように顔を上げるエリス。

 

「は、話を聞いてたの!? その子は落ちこぼれで貴族のなりそこない! 存在する価値なんて無いのよ!」

 

「貴族だろうが落ちこぼれだろうがエリスはエリス。俺はエリスをいい奴だと認識している。存在する価値が無いとは思わない」

 

「ッ……………!?」

 

アリスは目を見開く。

すると、一度目を伏せ、

 

「そう。この私の言葉に楯突く馬鹿が居るとは思わなかったわ………」

 

俺に向かって歩み寄って来た。

 

「ッ……! アリス! やめてっ!」

 

エリスが珍しく声を上げた。

その直後、

 

「思い知りなさい!」

 

アリスが目を見開くと、その瞳は金色に染まっていた。

 

「…………!」

 

吸い込まれそうなほどに美しいその金色の瞳。

俺はその金色の瞳に一瞬目を奪われた。

少しの間、その瞳に魅入られていると、

 

「なっ!? 何で平気なのよ!?」

 

アリスが驚いたように声を上げた。

 

「……? 何の事だ?」

 

アリスの反応に俺は首を傾げる。

 

「……………アリスは魔眼の持ち主。アリスと目を合わせると、体内の魔力をかき乱され、魔法の行使が阻害される上に酷い不快感を覚え、最悪は昏睡状態に陥る」

 

「へぇ~」

 

エリスの説明に、俺は声を漏らす。

 

「なんでタイシは平気?」

 

「そ、そうよ! まさか、この私を遥かに超える魔力を持っているというの!?」

 

指を指されながらそう言われ、少し考えると、その理由に思い至った。

 

「ああ、それは逆だな。俺は魔力を全く持っていないからだろう」

 

「えっ?」

 

アリスが声を漏らす。

 

「アンタの魔眼とやらは、相手の『体内の魔力』をかき乱すんだろう? だが、俺は魔力が全くのゼロだ。かき乱すものが無ければ、不快感も何も感じないだけじゃないのか?」

 

「んなっ!? 魔力を全く持たない人間が居るというの!?」

 

「ここに居るんだから仕方ないだろう?」

 

俺は呆れ気味にそう答える。

 

「ッ~~~~~~~~ふん! 同情するわね、魔力が無いなんて、生まれながらの落ちこぼれじゃない!」

 

「かもな。だからエリスを落ちこぼれ扱いする権利なんて、俺には無いのさ」

 

「くっ……! 興が削がれたから失礼するわ!」

 

アリスはそう言うと、踵を返して立ち去る。

 

「やれやれ…………」

 

俺は息を吐くと、裾をくいくいと引っ張られた。

俺が振り向くとエリスが俺を見上げ、

 

「お願いがある。アリスを嫌わないで欲しい」

 

エリスがそんな事を言って来た。

 

「…………何か訳ありか?」

 

「…………………」

 

俺がそう聞くとエリスは俯く。

 

「言いたくないのなら聞かないさ」

 

「ッ………ありがとう」

 

「別に、誰にだって聞かれたくない事の1つや2つあるだろうさ」

 

俺がそう言うと、

 

「タイシは………私が貴族だと知っても態度を変えないんだね?」

 

「無礼だから、何か罰でも与えるか?」

 

俺がそう聞き返すと、エリスはフルフルと首を横に振った。

 

「なら良いだろ? さっきも言ったが、貴族でも落ちこぼれでもエリスはエリス。それは今までと変わらない」

 

「ッ………!」

 

俺がそう言うと、エリスは驚いたように顔を上げて俺を見つめると、

 

「………………!」

 

嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ッ!?」

 

不覚にもその顔を綺麗だと思ってしまい、俺は顔を逸らす。

 

「…………どうかした?」

 

「いや、何でもない」

 

俺の言葉にエリスが首を傾げた。

 

「………そ、そう言う訳だから、お前達も今まで通りにしろよ」

 

固まっていたカイルとエミリアに向かってそう言う。

 

「え、ああ………」

 

「はわっ! わわわ………」

 

やっと我に返ったのか、2人は慌て始めるが、エリスが2人の前に歩いていくと、

 

「………今まで黙っててごめんなさい」

 

そう言って2人に頭を下げた。

 

「あ、謝らなくていいよ!」

 

「そ、そうです! エリスさんが貴族って事には驚きましたけど、エリスさんは今まで通り私達の仲間です!」

 

2人はそう言う。

 

「………ありがとう」

 

エリスは2人にも笑顔でお礼を言った。

 

 

 

そして実習が始まり、俺達は今日は草原側に宛がわれた。

 

「さあ、行こう!」

 

カイルが皆に呼びかけ、俺達は草原に繰り出す。

辺りを見渡すと、早いチームは魔物や魔獣と戦い始めていた。

とりあえず正面から来る敵に関しては問題無いと思うが、奇襲をかけられると危ないかもしれないなぁ。

優花が居れば気配感知とかで奇襲にはほぼ完全に対応してたんだが………

そう思っていると、

 

「相棒! 3時の方向から来るぜ!」

 

デルフがそう叫んだ。

 

「えっ?」

 

俺がそちらを向くと、草むらから矢が飛んできた。

 

「わっ!?」

 

俺は咄嗟にその矢を避ける。

 

「敵だ!」

 

カイルが叫んで大剣を抜いて構え、エミリアとエリスも警戒する。

その直後、矢が飛んできた草むらから、小鬼のような魔物が飛び出してきた。

ゴブリンだろうか?

錆びた剣を持つのが2匹と弓矢を持つのが1匹。

錆びた剣を持つ方が弓矢を護る様に陣取っている。

先程の矢は、弓矢を持つ方が放ったんだろう。

 

「ゴブリンとゴブリンアーチャー!」

 

カイルが叫ぶ。

名称はまんまだな。

 

「タイシ! 指示を!」

 

カイルが叫ぶ。

なんか最近、皆の俺への信頼度が爆上がりしてるような気がするんだが………

まあ、悪い気はしない。

 

「よし! まずはエリス! 得意の風魔法でゴブリンたちの陣形を崩すんだ!」

 

「了解」

 

エリスは呪文を唱え、

 

「〝ウインドブラスト〟!」

 

杖の先から風の塊を放つ。

それがゴブリンたちの間に着弾すると、そこから爆発が起こったかのような暴風が吹き荒れた。

吹っ飛ばされて地面に倒れるゴブリン達。

 

「カイル! 突っ込め!」

 

「了解っ! たぁああああああっ!!」

 

カイルは大剣を構えて突っ込むと、起き上がろうとしたゴブリンの1匹を一刀両断にする。

 

「次ッ!」

 

カイルは次のゴブリンに向かって駆ける。

そのゴブリンは起き上がって、剣を構えていたが、

 

「てやぁあああああああああっ!!」

 

カイルは大剣を横に薙ぐ。

その一振りは、ゴブリンの剣ごとゴブリンの身体を上下に分断した。

だがその時、ゴブリンアーチャーが弓を構えてカイルを狙う。

 

「くっ!」

 

カイルは咄嗟に避けるが、二の腕に掠めて血が吹き出る。

 

「カイル君!」

 

エミリアが慌てて回復魔法を行使しようとしていたので、

 

「まだだ!」

 

手を横に広げてそれを止めた。

 

「如何して……!?」

 

エミリアさんの言葉はスルーして俺はカイルを見る。

カイルはゴブリンアーチャーに駆け寄ると、そのゴブリンも一刀両断にした。

それを確認して、

 

「よし………エミリア。カイルの回復を頼む」

 

俺がそう言った時、

 

「まだだ! 相棒! 後ろに1匹潜んでるぜ!」

 

デルフから警告が飛ぶ。

俺が振り向いた瞬間、草むらからゴブリンが飛び出してきた。

そのゴブリンはカイルの元へ向かおうとしたエミリアに剣を振り被る。

 

「………え?」

 

それに気付いたエミリアは呆けた声を漏らし、

 

「ッ!」

 

俺は反射的にデルフの柄を握ると、居合の要領で鞘から刀身を抜き放つと同時にゴブリンの首を斬りつける。

斬った感触は殆ど無かったが、ゴブリンの首は宙を舞っていた。

俺は血振りをして刀を鞘に納めた。

それからエミリアに歩み寄る。

エミリアは腰を抜かしていた。

 

「大丈夫か? すまない、俺も油断していた」

 

「は、はい………ありがとうございます」

 

エミリアは俺の手を取って立ち上がる。

エミリアは治療の為に再びカイルの元に駆けて行った。

それにしても、

 

「デルフ、良く奇襲に気付けたな?」

 

最初の奇襲もそうだが、最後の不意打ちもデルフの警告が無かったら、デジソウルを使わなければ間に合わなかった。

 

「おう! 俺にもユウカの嬢ちゃんほどじゃねえが、気配感知やら魔力感知やらが使えるんだよ!」

 

「は? そんな能力付与されてたのか? 俺はハジメから聞いて無いぞ!」

 

「ハジメの旦那はこう言ってたぜ。『こんな事もあろうかと』ってな」

 

「当然の様にお約束を守るのか、ハジメ………まあ、確かに助かったが………」

 

ハジメに呆れつつ感謝する。

 

 

 

その後、日が暮れるまで狩りを続けた結果、

 

「うわぁ………こんなに狩れたのは初めてだよ………」

 

カイルが半ば呆然と呟く。

 

「魔獣の素材が数十個に魔石も多数………本当に凄いです!」

 

「タイシのお陰………」

 

「俺って言うかデルフのお陰な」

 

「もっと褒めて良いぜ、相棒!」

 

恐らく平民クラスでは、ほぼトップは間違いないとの事。

因みに、これだけ狩れた理由として、デルフの感知技能で魔物や魔獣を見つけ、無駄なく狩りが出来たからだ。

 

「明日も頑張ろう!」

 

カイルはそう言って、野宿の準備に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

夜の闇に呑まれた森の一角。

そこで、ズズゥンと不自然に木が倒れた。

月明かりに浮かび上がる不気味な影。

大きな鋏のような影が煌めき、再び木が切り倒される。

複数の足で巨体を推し進めるその姿は、巨大な蠍に酷似していた。

そして、その気配を察した野性の獣や魔獣達は、一目散に逃げていくのだった。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

翌日。

交代で見張りを立てつつ、日の出と共に起床し、食事を済ませた俺達は実習を再開する。

今日は森側の狩場で狩りを行う事になっている。

なっているのだが……………

 

「……………見つからないね」

 

カイルが呟く。

 

「デルフ?」

 

俺はデルフに感知を頼むが、

 

「いんや。魔物どころか、小動物1匹も見当たらないぜ」

 

デルフからそう返される。

 

「一体どうしたんでしょう? 全く魔物が見つからないなんて………」

 

「不思議………」

 

皆は首を傾げるが、俺はこういう場合のパターンは何となく予想が付いていた。

俺は立ち止まり、

 

「皆、ここは一旦引き返そう」

 

3人に向かってそう言う。

 

「えっ?」

 

カイルが声を漏らすが、

 

「ここまで魔物や魔獣どころか、小動物1匹も居ないのは明らかに異常だ。こういう場合、考えられるのは、身の危険を察知した魔獣や動物たちが、一斉に逃げ出したという事が考えられる」

 

「身の危険って…………」

 

「可能性が高いのが、この辺りに住む魔獣や魔物よりも、更に強大な魔物や魔獣が現れた場合だ。勘の鋭い野性の生物なら、一目散に逃げだす」

 

「「「…………………」」」

 

俺の言葉に、3人がゴクリと唾を呑み込む。

 

「このチームのリーダーはカイルだ。お前が決めろ」

 

最悪はデジソウル解禁して倒すつもりだが。

こういうのも経験だろう。

 

「………………」

 

カイルは少しの間考えていたが、

 

「………戻ろう。今の状況は確かに異常だ。戻って先生達に伝えた方がいい」

 

カイルはそう判断した。

 

「俺もその考えを支持する」

 

「わ、私も戻った方がいいと思います!」

 

「同意する」

 

満場一致で決まった。

臆病と言われようと、死ぬよりかはマシだと判断したんだろう。

その時だった。

 

―――バキバキバキッ!

 

と、遠くで木が倒れる音が響いた。

 

「な、何っ………!?」

 

カイルが辺りを見渡す。

すると、

 

「相棒! 今、感知範囲にでっけえ反応があった。こりゃ今までとは比べ物にならねえぜ!」

 

デルフの言葉に緊張が走る。

 

「ッ………! こいつはっ………!」

 

デルフが何かに気付いたように声を漏らした。

 

「そのでっけえ奴に追われてる人間が居る! 3人だ!」

 

「た、大変だ! 助けに行かないと!」

 

言うが早いか、カイルは音のした方へ駆け出していってしまう。

 

「あっ! おい!」

 

俺は呼び止めようとするが、カイルはそのまま走って行ってしまう。

 

「ああ、もう………!」

 

考え無しに走って行ったカイルに、俺は若干呆れる。

 

「俺はカイルを追う! エミリアとエリスは危険だから早くこの場を離れるんだ!」

 

俺がそう言うと、

 

「いいえ! カイル君やタイシさんを放っては置けません!」

 

「……私達はチーム。力を合わせた方が生き残る可能性は高い筈………!」

 

2人はそう言って逃げようとはしない。

 

「はぁ、皆お人好しなんだから」

 

俺が呆れると、

 

「タイシさんほどではありませんよ」

 

「同意」

 

「………俺はお人好しなんかじゃないぞ?」

 

俺が行くのは大丈夫だと言う確信があるからなんだが………

 

「まあいい。時間がないから早く追うぞ!」

 

「はい!」

 

「うん」

 

俺の言葉に2人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

バキバキバキと木が圧し折れる音が響く森の中を全長5m以上もある巨大な蠍の様な魔獣が、獲物を追って走っていた。

その獲物とは3人の人間。

3人とも女性、いや、少女だ。

 

「くっ! しつこい!」

 

1人は金糸の様な長い金髪を靡かせる少女、クラウディア。

 

「何でこんな所に危険度A級の魔獣の筈のデススコーピオンが居るのよ!?」

 

2人目は暗めの金髪をツインテールにした少女、アリス。

 

「はぁ、はぁ……! ふ、2人とも! わたくしの事は置いて行ってください!」

 

クラウディアに手を引かれるのは、薄桃色のウェーブが掛かった長い髪をポニーテールにした少女。

この少女が一番体力がない様で、既に息を切らしている。

 

「そう言う訳には行きません!」

 

クラウディアが叫ぶ。

 

「こんのっ……! 止まりなさい!」

 

アリスが杖をデススコーピオンに向けて炎の魔法を放つ。

デススコーピオンは、炎に包まれるが、鋏を一振りするだけでその炎は掻き消える。

 

「私の魔法が足止めにすらならないなんて………!」

 

アリスは悔しそうに歯ぎしりする。

その時、

 

「あっ!?」

 

薄桃色の髪の少女が木の根に躓き、転んでしまう。

 

「リティナ様!?」

 

クラウディアとアリスは立ち止まると、リティナと呼ばれた薄桃色の髪の少女を護る様にデススコーピオンと相対する。

クラウディアは槍を構え、アリスはワンドを向ける。

 

「………こうなったら、腹を括るしかないようね………!」

 

アリスは不敵に笑うが、その頬には冷や汗がタラリと流れている。

 

「せめて、リティナ様だけは逃がさねば……! 行くぞアリス! 援護を頼む!」

 

「ええ!」

 

クラウディアの言葉にアリスが答えると、複数の火球を作り出し、それをデススコーピオンへと放つ。

デススコーピオンは爆炎に包まれ、クラウディアはそれと同時に跳躍し、急降下からの槍の鋭い一突きを頭に向けて放つ。

だが、ガキィンと言う金属音を響かせて、その切っ先は甲殻で止められた。

 

「くっ……硬いっ…………!」

 

手の痺れを我慢しつつ、尚も攻撃を繰り出そうとしたが、

 

「クラウディア! 下がりなさい!」

 

「ッ!?」

 

クラウディアが飛び退いた直後、巨大な鋏がその場を通過した。

 

「あの鋏は脅威だな………!」

 

着地したクラウディアが冷や汗を流す。

すると、デススコーピオンは息を吸い込む様な仕草をして、口から黒い煙を吐き出した。

 

「「ッ!?」」

 

「2人とも下がりなさい! あれは猛毒のポイズンブレス! デススコーピオンの固有魔法です!」

 

その声が聞こえた瞬間、2人は別別の方向に飛び退く。

黒い煙は風に吹かれて間もなく四散するが、デススコーピオンは、今叫んだ少女、リティナへと身体を向ける。

 

「ッ!?」

 

それだけでリティナは身体がすくんでしまう。

 

「リティナ様! させるか!」

 

クラウディアは再び空中に跳び上がり、槍を横薙ぎに振ると、無数の氷柱が生み出され、デススコーピオンに向けて放たれる。

デススコーピオンは鋏を振る事で弾き飛ばすが、

 

「はぁあああああああああああああああっ!!!」

 

クラウディアは槍に氷を纏わせ、鋭く巨大なランスを生み出し、空中から一気に落下してきた。

その巨大な氷のランスなら、デススコーピオンの強固な甲殻も貫くだろう。

デススコーピオンの大きな鋏では切り返しは間に合わない。

クラウディアはそのままデススコーピオンの胴体目掛け、一直線に落下し――――――

 

――ドスッ!

 

「あ…………?」

 

デススコーピオンの尾の先にある鋭い毒針で脇腹を突き刺された。

 

「「クラウディア!?」」

 

アリスとリティナが叫ぶ。

クラウディアが生み出した氷の槍は消え、クラウディアの身体から力が抜ける。

槍を手放さないのは無意識だろうか。

すると、デススコーピオンは尾を振ってクラウディアの身体をアリスに向かって投げ飛ばした。

 

「クラウディア! うっ!?」

 

アリスはクラウディアの身体を受け止めるが、その勢いを受け止め切れずに共に吹き飛ばされ、木の幹に背中を打ち付けてしまう。

 

「あぐっ!?」

 

そのダメージによって力が入らなくなり、暫く動けそうもない。

 

「こんのっ………! 私の目を見なさい!!」

 

アリスは魔眼を発動し、金色の眼でデススコーピオンを睨み付ける。

デススコーピオンは一度アリスと目を合わせたが、何でもないようにリティナの方に向き直ってしまった。

 

「そんなっ………!」

 

アリスは悔しそうに表情を歪める。

アリスの魔眼は自分の魔力を視線を通して相手に送り込み、魔力をかき乱す魔眼。

自分の魔力が相手を上回る。

もしくはそれなりに近付いていないと効果が現れない。

アリスの魔力は、人間にしては最高峰を誇ってはいるが、デススコーピオンの内包魔力はアリスを遥かに上回っている。

それ故にアリスの魔眼は効果が無いのだ。

デススコーピオンはズシンズシンと足音を踏み鳴らしながらリティナへと近付いていく。

 

「あ………あ…………!」

 

リティナは恐怖で身体がすくみ、その場を動くことが出来ない。

デススコーピオンはゆっくりと巨大な鋏を振り上げた。

 

「ッ!?」

 

リティナは堪らず目を瞑った。

目を瞑った所で逃げられはしない。

ただ現実から目を逸らしただけだ。

それは、リティナの心の中でも同じだった。

 

(ああ………そう言えば、物語の中にもこんな場面がありましたね…………お姫様のピンチに、運命の勇者様(ヒーロー)が現れて…………)

 

―――ガキィン!!

 

現実逃避していたリティナを、その鋭い金属音が現実へと引き戻した。

 

「えっ?」

 

リティナが顔を上げると、そこには大剣でデススコーピオンの鋏を受け止める背中。

 

「ぐっ……お、重いっ………!」

 

癖のある跳ねた金髪が目に入る。

 

「ぐっ、うぉおおおおおおおっ!!」

 

その背中は、渾身の力で鋏の一撃を逸らした。

すると、すぐに振り向き、

 

「大丈夫? 間に合って良かったよ!」

 

澄んだ青い瞳がリティナの視界に飛び込んだ。

 

「「――――――ッ!?」」

 

その瞳を見た瞬間、リティナの心臓が跳ねた。

 

(か、格好いい……………!)

 

そしてそれは、目の前の金髪碧眼の少年――カイルも一緒だった。

 

(うわ……何て可愛い女の子なんだ………)

 

一瞬だが永遠にも思えるその刹那。

 

「グギャギャギャギャギャ!!」

 

デススコーピオンの咆哮が2人を現実に引き戻す。

 

「ッ!」

 

カイルは大剣を構え、

 

「でやぁああああああああっ!!」

 

振り下ろされるデススコーピオンの鋏と切り結ぶ。

数度の打ち合いは耐える事が出来たが、

 

「はぁあああああっ!!」

 

デススコーピオンの頭に向かって振り下ろされた大剣が、甲殻に弾かれて砕けてしまった。

 

「しまった! 剣が!」

 

カイルが飛び退きながら叫ぶ。

その直後、デススコーピオンが息を吸い込む仕草をする。

 

「下がりなさい! ポイズンブレスが来るわ!」

 

アリスが叫んだ瞬間、口から猛毒の黒い煙が吐き出された。

 

「ッ!?」

 

猛毒の黒い煙がカイルを飲み込もうとした瞬間、木々の隙間から強烈な突風が吹いてきて、猛毒の煙を吹き飛ばす。

 

「今のはっ!?」

 

カイルが驚いた直後、

 

「下がれ! カイル!!」

 

頼もしい仲間の声が聞こえた。

カイルは即座に踵を返すと、

 

「ちょっとゴメン!」

 

「きゃっ!?」

 

カイルはリティナを横抱きに抱きかかえると、その場を離れる。

カイルに抱きかかえられたリティナは、顔を真っ赤にしていた。

カイルが声のした方へ駆けてくると、木々の間から大士、エミリア、エリスの3人が現れた。

 

「また難儀な事に首を突っ込んだな………」

 

呆れた声で大士が言う。

 

「ゴメン。でも、ほっとけなくて……」

 

「謝るのは後だ。先ずはこの場を切り抜ける!」

 

「うん!」

 

すると、再びデススコーピオンが猛毒の煙を吐いてくる。

エリスはワンドを向けると、

 

「バーストウインド!」

 

突風を起こして煙をデススコーピオンに押し返した。

しかし、デススコーピオンは何でもないようにその煙の中から現れる。

 

「流石に自分の毒でやられるような間抜けじゃないか………」

 

大士はやれやれと息を吐く。

その時、

 

「エリス!?」

 

エリスの姿がある事に気付いたアリスが叫んだ。

 

「アリス……!」

 

その声に気付いたエリスもアリスに気付く。

それと同時に、

 

「クラウディア!?」

 

アリスに抱かれてぐったりしているクラウディアに気付いた大士が叫ぶ。

 

「エミリア! 彼女達の治療を頼む!」

 

「はい!」

 

大士の言葉でエミリアはアリスとクラウディアの元へ駆けていく。

 

「大丈夫ですか!? 今回復魔法を掛けます!」

 

エミリアはアリスにそう言うが、

 

「私は後で良いわ! 先にクラウディアをお願い!」

 

アリスはクラウディアを優先させるように言う。

一方、何度毒の煙を放ってもエリスに押し返されてしまうデススコーピオンは、頭に来たのか直接近付いてきた。

 

「くっ……!」

 

カイルは一度歯噛みすると、

 

「タイシ! この子をお願い!」

 

カイルが抱き上げていたリティナを地面に下ろすと、デススコーピオンに向かって行こうとする。

 

「あっ………!」

 

リティナが呼び止めようとしたが、

 

「カイル!」

 

その前に大士が呼び止める。

その声にカイルが振り向くと、

 

「貸してやる!」

 

鞘に納めたデルフリンガーをカイルに向かって放り投げた。

カイルはデルフリンガーを受け取ると、

 

「ありがとう!」

 

礼を言って刀身を抜き放った。

 

「へっ! 小僧、今回は特別だ! このデルフリンガー様が力を貸してやる!」

 

「頼むよ!」

 

カイルはデルフリンガーを構えると、デススコーピオンに向かっていく。

デススコーピオンは左の鋏を振り上げて、カイルに向かって振り下ろす。

 

「はぁあああああああああっ!!」

 

それに対し、カイルはデルフリンガーを下段から振り上げた。

その結果は、

 

「グギャーーーーーーッ!?!?」

 

左の鋏の中ほどから斬り落とされた。

そして、その事に驚いていたのは、カイル自身も一緒だった。

 

「凄い………何て切れ味………!」

 

カイルは思わずデルフリンガーの刀身を見る。

 

「まだだ! 油断するな!」

 

大士の声にカイルは咄嗟に飛び退くと、先程までいた場にデススコーピオンの尾が突き刺さった。

 

「あ、危ない………!」

 

カイルは冷や汗を拭う。

 

「カイル! 蠍で一番厄介なのは、その大きな鋏じゃない! 毒を持つ尾の先の針だ! 先に尾を切り落とせ!」

 

「わかった!」

 

大士のアドバイスに、カイルは魔力で強化された身体能力を発揮してデススコーピオンの後ろへ回り込むと、

 

「はあっ!!」

 

尾の先の毒針に注意しつつ、尾の中ほどから斬り落とした。

 

「グギャァァァァァァァァァッ!?!?」

 

叫び声を上げるデススコーピオン。

 

「カイル! 蠍の胴体の中央辺りに心臓があるはずだ! そこを狙え!」

 

「胴体の中央……!? わかった!」

 

カイルは頷く。

だが、その時デススコーピオンが再び息を吸い込む仕草をする。

カイルは猛毒の煙が来ると判断して飛び退こうとしたが、

 

「小僧! 逃げずに叩っ切れ!!」

 

「えっ? で、でも……!」

 

「いいから俺っちを信じな!」

 

デルフリンガーの言葉に、カイルは半ば困惑したが、デススコーピオンは猛毒の煙を吐き出す。

どちらにしろ間に合わないと判断したカイルはデルフリンガーを振り被り、

 

「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

がむしゃらに剣を振るった。

その瞬間、デルフリンガーによって猛毒の煙が切り裂かれ四散し、デルフリンガーの刀身に吸い込まれた。

 

「い、今のは………!?」

 

「小僧! 相手が呆けてる今がチャンスだ!」

 

「ッ!?」

 

カイルは即座に気を取り直すと、

身体強化で空中へと飛び上がり、上空からデススコーピオンを見下ろす。

そして、デススコーピオンの胴体の中央に狙いを定め、

 

「そこだぁあああああああああああっ!!!」

 

落下しながらデススコーピオンの心臓へデルフリンガーを突き立てた。

 

「グギャァアアアアアアアアァァァァァァァァァ……………!」

 

デススコーピオンは苦しそうな声を上げるが、徐々にその声にも力を無くし、やがて動かなくなる。

 

「はぁ……はぁ………やった………!」

 

カイルはデススコーピオンの身体からデルフリンガーを引き抜くと、その刀身を掲げる。

 

「ありがとう、デルフリンガー」

 

「ま、相棒ほどじゃねえけど、小僧もちったぁやるじゃねえか」

 

「あはは、手厳しいなぁ………」

 

カイルは笑うと、デルフリンガーを鞘へと納めた。

カイルが大士達の所へ戻ると、

 

「あ、あのっ! お怪我は……!?」

 

リティナが心配そうにカイルに駆け寄った。

 

「ああ、大丈夫。怪我は無いよ」

 

カイルの言葉を聞くと、リティナはホッとする。

 

「あのっ………いきなりで不躾なのですが、お名前をお聞かせ願いますでしょうか?」

 

「えっ? 俺? カイルですけど………」

 

リティナの言葉に、カイルは少々困惑しながら名前を教えると、

 

「カイル………様…………!」

 

まるでその名を心に刻む様にそう呟いた。

すると、ハッとなって、

 

「失礼しました。わたくしはリティナ…………」

 

リティナが名乗ろうとした時、

 

「クラウディア!」

 

アリスの悲痛な声が響いた。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

アリスの悲痛な叫びに、全員がクラウディアを治療しているエミリアの元へ駆け寄る。

様子を見ると、クラウディアの脇腹にあった刺し傷は既に治癒されていたが、クラウディアの顔色は悪く呼吸も荒い。

 

「如何した!?」

 

俺はエミリアに問いかける。

エミリアは、顔には汗が流れるほど必死に治療を続けていた。

 

「デススコーピオンの猛毒です……! 傷は治しましたが毒が既に全身に回っていて………毒を受けてすぐであれば解毒出来ましたが、全身に毒が回ってしまっては………」

 

手遅れ、と言いたいんだろう。

それでもエミリアは治療を止めようとはしない。

最後まで望みを繋げようとしているんだろう。

白崎さんが居れば、あっという間に解毒してくれるんだろうが………

まあ、白崎さんは居ないが、〝宝物庫〟の中に『神水』があるから助けられるが。

すると、

 

「……………もう、よろしいですわ」

 

薄桃色の髪の少女がそう言う。

 

「そんな!? 何を言ってるんですか!?」

 

エミリアが思わず言い返す。

 

「これ以上の延命は、クラウディアを苦しませるだけです………」

 

そう言いながら彼女は目を伏せ、アリスも悔しそうに目を逸らす。

 

「きっとここで生を終える事が…………クラウディアの『運命』だったのでしょう」

 

「ッ…………!」

 

『運命』と言う言葉に、俺は拳を握りしめる。

俺は口を開こうとして、

 

「……………『運命』だから何だって言うんですか…………!?」

 

その言葉に開きかけていた口が止まる。

その言葉を言ったのはエミリアだ。

 

「『運命』だから、死んでも良いって言うんですか!?」

 

「そ、それは………」

 

「私は諦めたくありません! 例え『運命』だとしても、死ぬことがその人の幸せなんて、私は絶対に認めません!」

 

エミリアの叫びに呼応する様に、回復魔法の光が強くなる。

 

「それに、君は彼女が死んでも良いって思ってるの!? 彼女に死んでほしいの!?」

 

カイルは薄桃色の髪の彼女にそう問いかける。

 

「そんな訳ありません! 彼女は……クラウディアは………幼い頃から共に居た、わたくしのお友達なんです………!」

 

その問いに、彼女は強くそう返した。

 

「だったら諦めちゃ駄目だ! 『運命』だから何だ! そんなの関係無い!」

 

カイルも叫ぶ。

 

「『運命』は………!」

 

「『運命』っていうのは………!」

 

エミリアとカイルの言葉が重なる。

 

「「自分の手で掴み取るものなんだ(です)!!!」」

 

「「「ッ!?」」」

 

カイルとエミリアの叫びに、3人が息を呑んだ。

そして、それと同時に俺も決心がついた。

 

「その通りだ!」

 

俺は2人の言葉に同意する様にそう言うと、クラウディアに歩み寄る。

 

「タイシさん……?」

 

エミリアが声を漏らす。

俺は自分の懐に手を入れ、そこから取り出す振りをして〝宝物庫〟から残り2つとなった『神水』の入った試験管の1つを取り出す。

俺はクラウディアの頭を持ち上げ、試験管の蓋を折るとその口に流し込もうとした。

しかし、意識を失っている所為で上手く飲み込んでくれない。

 

「くっ………」

 

如何にかして『神水』を飲ませようと考えを巡らせるが、その前にクラウディアの呼吸が目に見えて小さくなっていく。

 

「ッ……………!」

 

もう迷ってる暇はない。

 

「…………ッ、すまない!」

 

俺はクラウディアと、何より葵、優花、シャルロット、カトレア、ティファニアの恋人達5人に謝罪の言葉を述べる。

俺は『神水』の入った試験管を煽って自分の口に含むと―――

 

「「あっ………!」」

 

「はわっ!?」

 

「「ええっ!?」」

 

周りから驚愕の声が響いた。

それも当然だろう。

何故なら、俺は今、クラウディアに口移しで『神水』を飲ませているのだから。

残り少ない時間で確実に飲ませる方法がこれしか思い浮かばなかった。

やがて、ゴクリと『神水』を飲み込んだ事を確認できた俺は唇を離そうとして―――

離す前に開かれたその燃えるようなルビー色の瞳とバッチリ目が合ってしまった。

 

「「………………………」」

 

互いに固まる俺達。

その直後、俺は相当な力で突き飛ばされ、

 

「こここ、この不埒者ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

瞬間的に振り上げられた槍が上段から振り下ろされた。

流石にこのままでは死ぬので、バレない程度にデジソウルで身体強化して白羽取りでその刃受け止めた。

 

「ききき、貴様! 私の意識が無い事を言い事に、よよよ、嫁入り前の女の、くくく、唇をぉおおおおおおおおおっ!?!?!?」

 

槍に益々力が籠る。

 

「どどど、毒に侵されて動けない私の! 私の……………!」

 

そこでようやく落ち着いてきたのか、槍に込められた力が緩んでくる。

 

「……………これは………毒が…………?」

 

漸く自分の身体の毒が消えている事に気付いたのか、自分の身体を確認する様に見渡す。

 

「ク、クラウディア? 大丈夫なのですか………?」

 

薄桃色の髪の彼女が、半ば呆然とクラウディアに問いかける。

 

「は、はい………どうやら毒は消えたようです………ですが……何故………?」

 

クラウディアは半ば困惑していたが、改めて俺を見た。

 

「お、お前は! タイシ!?」

 

クラウディアはここで初めて俺だという事に気付いたようだ。

 

「久し振り……と言うほどでもないか?」

 

俺は片手を上げて挨拶する。

 

「な、ならば、さ、先程の口付けはお前が………!?」

 

クラウディアは自分の唇に手を当てながら顔を真っ赤にする。

 

「とりあえず、そのことについては謝罪する。すまなかった」

 

俺は頭を下げる。

 

「む、むう…………な、ならば何故あのような真似をしたかを説明しろ!」

 

クラウディアはそう言ってくる。

 

「とりあえず、さっきまでクラウディアは毒に侵されてた」

 

「ああ、それは分かっている。私も死を覚悟したぐらいだ」

 

「で、俺はクラウディアを助けられる()()()薬を持っていた」

 

俺は若干貴重を強調させる。

 

「何ッ!?」

 

「それをクラウディアに飲ませようとしたんだが、クラウディアは意識が無かったからうまく飲んでくれなかった」

 

「…………………」

 

「呼吸が弱くなってきて、早急かつ確実に薬を飲ませる為に、口移しを敢行した。それだけだ。他意は無い」

 

「本当か?」

 

「ああ」

 

クラウディアは、俺をしばらく見続けていたが、ふっと力を抜いて目を伏せた。

 

「少なくとも、嘘は言っていない様だな」

 

「まあ、少なくとも緊急事態とは言え唇を奪ってしまった事は確かだ。殺される訳には行かないが、平手の一発ぐらいなら甘んじて受け入れる覚悟はある。やってくれ」

 

俺は腕を組んでその場に座り込む。

だが、

 

「いや、そんな事はせんさ。お前は命の恩人で、貴重な薬とやらも使ってくれたんだろう? ならば、礼を言うのはこちらだ。感謝する」

 

クラウディアはそう言って頭を下げる。

 

「いずれ、礼もしよう」

 

「別にいいんだがな…………」

 

すると、

 

「ね、ねえタイシ?」

 

今まで呆然と見て居たカイルが声を掛けてきた。

 

「ん?」

 

「そっちの人って、貴族クラスの人だよね? タイシの知り合い?」

 

そう聞いてきたので、

 

「ああ。俺が世話になってるフォルダ公爵の娘のクラウディアだ」

 

俺がそう言うと、

 

「「公爵令嬢!?!?」」

 

カイルとエミリアが驚愕で後退る。

するとクラウディアは、

 

「私など大したことは無いさ。何せ、こちらにおわす御方は、この国の王女殿下であらせられるリティナ様なのだからな」

 

そう言いながら、先程からいた薄桃色の髪の少女を紹介した。

 

「サーバー王国が第一王女、リティナ・オメガ・フォン・サーバーです」

 

「「王女様ぁっ!?!?!?」」

 

先程よりも更に驚愕して後退るカイルとエミリア。

 

「あわあわあわ! 私、さっき王女様になんて口を………!?」

 

「おおお、俺なんて思いっきり抱き上げちゃったんだけど!?」

 

2人はいい感じにテンパっている。

 

「気になさらないでください。先程の言葉はわたくしの心を打ちました。感謝こそすれ、罰するなどあり得ません。そしてカイル様」

 

「は、はい!! 王女殿下!」

 

名を呼ばれたカイルは背筋をピンと伸ばして返事をする。

 

「王女殿下など、余所余所しい呼び方はおやめください。是非リティナと」

 

「ええっ!?」

 

俺は王女様のカイルに対する態度を見て、何となく察しがついた。

 

「おい、クラウディア。王女様の様子からすると、もしかしてカイルに………」

 

「あ、ああ………見るからに惚れてしまっている様だな…………」

 

「つかぬ事を聞くが、王女様は恋多き女性なんて事は………」

 

「それは無い……! 初恋もまだの筈だ……!」

 

「おいおい………危険に晒されたお姫様を助けて恋に落ちるって、何処までテンプレなんだ………!?」

 

「…………それはともかく、相変わらずお前は王女殿下にも物怖じしないのだな?」

 

「…………経験だ」

 

「………王女殿下にも物怖じしない経験とは一体何だと聞きたくなるのだが…………」

 

「機会があればな」

 

こうして、波乱の冒険者実習は幕を閉じることになる。

これが切っ掛けで、これからの日常が、大きく変わることになるとは今の俺達には知る由もない。

 

 

 

 

 

 







オリジナル異世界編第6話です。
さて、異世界編4人目のヒロイン、アリスの登場です。
分かる人には分かると思いますが、アリスのモデルは、『魔王学院の不適合者』のサーシャです。
因みにエリスのモデルはミーシャだったり。
つか、まんまと言っても過言ではない。(ただし、胸はデカい)
まだ出てきてませんが、アリスのパートナーは予想点くかと思います。
正解は次回。
んで、序に出てきたリティナはこの国の王女様でカイル君のヒロインです。
薄桃色の髪と紫の瞳を持つ可愛い系の美少女。
但し胸は控えめの為、大士のストライクゾーンからは外れています。
余談ですが、今回出てきた魔獣のデススコーピオンは、ダイの大冒険の序盤に出てきた魔のサソリみたいな奴だと思ってください。
因みにそれぞれのキャラの得意魔法は、
カイル:身体強化魔法(って言うか、使えるのがそれだけ)
エミリア:回復魔法
クラウディア:氷魔法
アリス:全属性(好むのは炎)
エリス:全属性(好むのは風)
ってな感じです。
一応リティナも回復魔法の使い手ですが、エミリアと比べると数段落ちます。
地味にエミリアは回復チートだったりする。(デススコーピオンの毒は、普通は解毒できない。毒が回り切る前だけとは言え、解毒できると言っちゃうエミリアは異常な設定)
でも、香織には及ばない。
序に、デジヴァイスにはご都合主義の如く便利機能が追加されました。
それはともかく、次回も頑張ります。
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