パーティーの日から3日後。
約束の決闘の日だ。
決闘の場は学院内にあるコロシアムの様な闘技場で、デジモン専用という事でその大きさはかなりの物だ。
闘技場内は直径200mほどあり、その中央に直径100mほどのリングがある。
尚、観客の安全の為に、学院長のデジモンらしいルークチェスモンがキャッスルウォールでバリア代わりをやるらしい。
それにしても、
「なんとまあ、お祭り騒ぎだなこりゃ……」
俺は呆れながら呟いた。
観客席は満員御礼で、生徒達がごった返している。
賭け事も行われているらしく、オッズの倍率は99:1らしい。
勿論俺達が99だ。
因みに俺はアリスに頼んで俺達の方に賭けて貰っている。
丁度いい小遣い稼ぎだ。
王子サマ達はリングを挟んで俺達とは反対方向に居る。
「お~お~! あれが噂の王子様かい? 相棒よりも男前な顔してるじゃねえか!」
腰に携えたデルフがそんな事を言う。
すると、クラウディアが俺達に向き直って一度見回すと、
「皆…………私の到らなさに皆を巻き込んでしまった事、本当に申し訳なく思っている………」
そう言って頭を下げた。
あのパーティーであった事は、手紙を書いてフォルダ公爵に知らせたが、3日と言う短い期間ではまだ返事が届いていない。
因みに、クラウディアを嵌める為に手袋を投げ付けた奴だが、元王女達のチームの1人だったらしい。
恐らくは、王子サマに取り入る為に手駒になったんだろうと予想している。
「この決闘の勝敗に関わらず、皆に不都合が行かないよう私のあらゆる伝手を使って尽力する事を約束する」
そう言うクラウディアは、思い詰めた表情だ。
「そう気負うな。少なくとも、カイル達はそんな事を気にする奴らじゃないって事は分かってるだろ? 極度のお人好しだし」
そんなクラウディアに俺はそう言う。
「ははは、一番のお人好しに言われたくは無いよ。一番最初に名乗り出たのはタイシじゃないか」
カイルは苦笑する。
「…………そう思いたいならそう思ってくれ」
俺は溜息を吐いた。
「……でも、あの王子は許せないな……!」
俺達の後ろで控えていたガルルモンが、頭を前に寄せて来てそう言う。
「今までどれだけクラウディアが婚約者として頑張って来たか………! それなのに……!」
怒りと悔しさが入り混じった声でガルルモンはそう零す。
「ガルルモン………」
その姿に、クラウディアは申し訳なさそうな顔をする。
「だったら、俺達であの王子に目にもの見せてやればいいんだ!」
アグモンがそう叫ぶ。
「その通りだ。その為に僕達はここに居る」
スティングモンも同意する。
「僕も同じ気持ちだ」
グレイモンも頷く。
「お前達………」
クラウディアはデジモン達を見回し、
「………ありがとう」
デジモン達の言葉が心に届いたのか、目尻に涙を浮かべていた。
すると、
「両チーム! 前へ!」
審判役の教師がリングの中央で声を上げた。
俺達と王子サマのチームとデジモン達がリングへと上がり、中央で向かい合った。
エミリアとグレイモン。
エリスとスティングモン。
クラウディアとガルルモン。
カイルとアグモン。
俺とドルモンに対し、王子サマのチームは、
山口と、サイのような角を持った鎧竜型の成熟期デジモンのモノクロモン。
中島さんと、4枚の翼を持ち、仮面を被った女性天使型デジモンのダルクモン。
パチモン勇者は、デジモンをモンスターボックスの中に入れているのか1人だけ。
王子の取り巻きだろう青髪イケメンと、巨大なクワガタの様な昆虫型デジモンのクワガーモン。
そして、王子サマと、赤い恐竜型デジモンのティラノモンだ。
俺達がリング中央で対面すると、観客達からドッと笑いが起こった。
「なんだよ? 成長期が2匹も混じってるぜ!」
「知らないのか? 平民クラスでも落ち零れなんだぜ!」
「何て卑しい。どうやって王女様に取り入ったのかしら?」
成熟期7体に対して、成長期が2体混じっていると、やはり悪い意味で目立つ。
ま、今更そんな事は気にしないが。
「これより決闘を執り行う。形式は1対1を5戦行い、先に3勝した方の勝利とする」
審判がルールを説明する。
まあ基本的に相手を殺さないように戦えという注意事項みたいなものだ。
これは事前に聞いていた話と同じだだった。
だが、
「そして試合順だが、『デウルの灯』の大きさで決める」
審判がそんな事を言い出した。
「なっ!?」
クラウディアも驚愕している。
「それは如何いう………!?」
「言った通りだ。試合順は『デウルの灯』の大きさで決める。一番小さいものが先鋒。一番大きいものが大将となる。尚、ありえんことだが、『デウルの灯』を灯せない者は決闘に参加する権利は無い」
「ッ!?」
クラウディアは思わず絶句する。
そんなルールは今までは存在していなかった。
俺は王子サマの方を窺うと、俺を見ながら得意げな顔をしている。
「……………………」
どうやら俺が異世界人で、『デウルの灯』について何も教えられていないと情報を得たのだろう。
どうやら、どうあっても俺を除け者にしたいらしい。
「…………困ったな」
俺は頭を掻く。
正直未だに『デウルの灯』については理解できていない。
そもそも、初日の授業以外で見た事無いし。
俺がそう思っていると、
「それでは殿下のチームからデウルの灯を灯してください」
審判は話を進める。
審判も買収されてるかなぁ?
もしくは、上から言われた事にそのまま従っているだけか。
「フッ………」
王子サマが余裕の笑みを浮かべて右手を上げて人差し指を軽く上げる。
するとそこに、赤い光がパッパッと点滅する。
そして同じように他の4人も同じように右手の人差し指を掲げると、山口は赤銅色、中島さんは薄いピンク色、パチモン勇者は紫色、青髪イケメンは薄い水色の光をそれぞれ灯した。
俺から見ると似たり寄ったりだが、パチモン勇者の光だけは、パパッ、パパッと他の4人よりも点滅が早い。
「殿下のチーム。先鋒、テッペイ・ヤマグチ! 次鋒、ルーカス・ロードナイト・フォン・プロパティ! 中堅、マリカ・ナカシマ! 副将、レオナルド・オメガ・フォン・サーバー! 大将、サトジ!」
俺にはパチモン勇者以外の光は判断がつかないのだが、審判は迷うことなく順番を決定した。
っていうか、やはりデウルの灯と言うのが何か全く分からない。
まあ、相手のデジモンを見てると、パチモン勇者以外ならエミリア、エリス、クラウディアで勝てそうだから、俺が出なくても問題ないかな?
俺はそう思いつつ、王子サマを殴れる機会を失って内心ガッカリしていた。
「それではクラウディア嬢のチーム。デウルの灯を灯しなさい」
向こうのチームとこちらのチームに掛ける声の温度差が激しい。
すると、クラウディアが一歩前に出る。
「いきなりお前が見せるのか? ククッ、他の者が気後れしなければいいがな………」
王子サマは嘲笑うようにそう言う。
「…………リア達は、その程度では屈しないさ」
クラウディアはまっすぐ前を向くと右手を上げる。
しかし、王子サマのチームがやった様に人差し指は立てず、掌を上に向け、手を自分の前に突き出すような形だ。
そして、
「ッ!」
クラウディアの掌の上に、無数の青い四角い粒子がまるで炎の様に揺らめいていた。
大きさとしては、拳大位だろうか?
そしてそれは、俺にとってとても見覚えのあるモノだった。
「ッ…………! それはっ!?」
俺は思わず声を上げるが、
「フン、相変わらず馬鹿げた大きさのデウルの灯だな」
王子サマは忌々しそうに吐き捨てる。
「他の者もさっさとしたらどうだ? クラウディアのデウルの灯を見た後で、堂々と見せれるかは知らんがな?」
王子サマは俺やカイル達を見回して嘲笑うようにそう言う。
だが、
「…………なら、見せてやる………!」
カイルが前に出て、それに習ってエミリア、エリスも前に出た。
そして、
「これが今の俺達の、デウルの灯だ!」
カイルが右手を前に、エミリアとエリスは両手を前に突き出した。
次の瞬間、エミリアとエリスの手の上には、クラウディアと同じぐらいの大きさのオレンジ色と緑色の輝きが。
カイルの手の上には、クラウディア達よりも一回り大きな真紅の輝きが炎の様に揺らめいた。
「なっ!?」
王子サマは驚愕の声を上げた。
どうやらカイル達があそこまでの大きさの輝きを見せるとは思わなかったようだ。
「ッ………………!」
王子サマは目を見開いていたが、気を取り直して平静を装うと、
「フ、フン………平民ごときにそこまでの大きさのデウルの灯が灯せるとは………どうやらデウルの灯の大きさがデジタルナイトの資質の大きさだという説は間違っていたようだな………!」
そう言いながら俺の方に向き直り、
「さあ、最後は貴様だ。早くデウルの灯を灯せ! 灯せるものならな!!」
俺を指差しながらそう叫んだ。
「タイシ…………」
「タイシさん………」
「タイシ………」
カイル、エミリア、エリスが心配そうに俺を見つめる。
「………タイシ、気にしなくていい。私はお前が名乗り出てくれただけで嬉しかった。後は私達に任せて…………」
「ちょっと待て。勝手に俺が不参加みたいな言い方は止めてくれ」
クラウディアの言葉を俺は止める。
「ッ………し、しかし、異世界から来たお前はデウルの灯の事は…………」
「ああ。デウルの灯って言葉はこの世界に来て初めて知った。前に教師が見せた奴や、王子サマ達の奴を見ても、一体何なのか見当もつかなかった」
「ならば…………!」
「けど、お前やカイル達の奴を見て、漸くその正体が分かった」
「えっ………?」
「デウルの灯は俺の知ってるものだったんだが、今まで見てきた奴が余りにもショボ過ぎたから同じものだと気付かなかったんだよ」
「ッ!?」
俺は王子サマに向けて皮肉を飛ばす。
それから俺は前に出ると、右手を横に伸ばし、軽く手を広げ、
「そして俺は、これをこう呼んでいる……………! 『デジソウル』ってな!!」
そう言い放つと同時に右手を握りしめ、その拳に金色の輝きを宿す。
その大きさはカイルのデジソウルの大きさを遥かに凌駕し、拳から漏れだす輝きだけで自分の身長と同程度の大きさはある。
「金色の…………光………」
「何て大きさ………」
エミリアとエリスが俺のデジソウルを見て呆然と声を漏らす。
そして、同じように呆然としていた審判に向けて、
「おい、これでいいだろ? 早く進めてくれ」
「うっ………ク、クラウディア嬢のチーム。先鋒、エミリア! 次鋒、エリス・ジエス・フォン・ファイル! 中堅、クラウディア・アルファ・フォン・フォルダ! 副将、カイル! 大将、タイシ!」
審判は予想外だったのか、少しどもりながら順番を口にした。
同じぐらいの大きさのデジソウルの3人は、位の低い順か?
王子サマをみると忌々しそうに歯を食いしばっていたが、
「ッ…………! まあいい。予定とは違ってしまったが、所詮成長期の役立たず。いくら巨大なデウルの灯を灯そうとも、それだけでは何の役にも立ちはしない……!」
ま、一欠けらのデジソウルを灯すのが精々の奴らからしてみれば、無意味に等しいのは確かだな。
「それに、貴様の相手は3人の勇者の中で最強の勇者であるサトジだ。貴様の勝ち目など万に1つもありはしない!」
「はいはい……」
この王子サマは、一々人を乏しめないと気が済まないのか?
「両チーム! 先鋒を残して下がりたまえ!」
審判にそう言われる。
リングから降りる際、
「エミリア。モノクロモンは防御力と突進力に長けたデジモンだ。いくらグレイモンでもモノクロモンの突進をまともに受けるのは危ない。気を付けろ」
「タイシさん………はい!」
俺はエミリアにモノクロモンの注意点を告げる。
「頑張れよ」
俺はそう言い残してエミリアとすれ違う。
「リア、相手は異世界の勇者の1人………勝てなくても責めはしない。思うようにやれ」
クラウディアもエミリアにそう言った。
「はい!」
エミリアは嬉しそうに返事をする。
エミリアとグレイモンを残し、俺達はリングを降りる。
相手は山口とモノクロモンが残った。
「さあ! 勇者である俺の力! 見せてやるぜ!!」
山口がやる気満々でそう叫ぶ。
「ッ………!」
エミリアも身構えた。
「両者、準備はよろしいか?」
「「…………………」」
審判の言葉に、2人は沈黙で答える。
審判は片手を上げ、
「それでは先鋒戦………始め!!」
その手を振り下ろした。
その瞬間、
「行けっ! モノクロモン!!」
山口が号令を掛け、モノクロモンがグレイモンに突進する。
グレイモンは身構えていたが、
「グレイモン! 横に避けて!」
エミリアがそう指示を出す。
グレイモンが指示通りに横にステップすると、モノクロモンがグレイモンが居た場所を通り過ぎ、
「今っ!」
「はぁああああああああっ!!」
グレイモンが強烈な尾撃をモノクロモンの側面にお見舞いした。
吹き飛び倒れるモノクロモン。
「なっ!?」
山口が驚愕の声を漏らす。
「いい攻撃だよ、グレイモン!」
「ああ!」
エミリアとグレイモンは声を掛け合う。
「くっそ! 油断した! モノクロモン! 今度は外すなよ!」
モノクロモンはダイヤモンド並み甲殻に包まれた防御力に長けたデジモン。
グレイモンの一撃とは言え、そこまで大きなダメージにはならない。
まあ、全く効いていないわけではないが。
モノクロモンは立ち上がって再び突進する。
「グレイモン!」
「わかってる!」
グレイモンは再びモノクロモンの突進を横ステップで躱し、今度は尻尾ではなく、鼻先の角による突き上げを行う。
重厚なモノクロモンの巨体が宙を舞い、リングの上に激突する。
リングにはひびが入り、その激突の衝撃を物語った。
その光景を見て、周りの観客達は静まり返っていた。
観客達の予想としては、王子サマチームの圧勝だと思っていたんだろう。
しかし、蓋を開けてみれば優勢なのはエミリアとグレイモンだ。
山口の戦い方は、この世界では一般的な力で捻じ伏せる戦い方。
ある意味それはモノクロモンに合っている戦い方だが、それにしてももう少し頭を使わなければ、その強みも意味が無いだろう。
それに対し、エミリアは俺がテイマーとしての戦い方を教えた結果、自分でも考え、グレイモンに的確な指示を出す様になっている。
成熟期同士が互角の力を持っていると仮定しても、テイマーの差でエミリア、グレイモンコンビに軍配が上がるだろう。
「くっそー! モノクロモン! ヴォルケーノストライクだ!」
起き上がったモノクロモンが口を大きく開け、そこに炎が集中した。
「ッ! グレイモン!」
エミリアはデジヴァイスを握りしめ、グレイモンに呼びかける。
握りしめたデジヴァイスが光を放つ。
それと同時にグレイモンが駆け出す。
「ヴォルケーノストライク!!」
モノクロモンがその口から火炎弾を放つ。
その火炎弾は真っ直ぐにグレイモンに向かっていくが、グレイモンは口を開けると、
「はっ!」
その口内から火炎弾を放ってヴォルケーノストライクを相殺する。
グレイモンはそのままモノクロモンに突進。
モノクロモンが迎撃の為にヴォルケーノストライクを放つが、グレイモンは同じように火炎弾を放って相殺した。
そのままモノクロモンに組み付く。
モノクロモンの突進力は脅威だが、それは重い身体がスピードに乗った時こそ一番力を発揮する。
走り出す前や走り始めた瞬間であれば、その力は十分ではない。
グレイモンはモノクロモンの首を抱えるように持つと、そのままモノクロモンを持ち上げ、
「うおりゃぁっ!!」
思いきり投げ飛ばした。
リングに叩きつけられるモノクロモン。
横倒しになり、甲殻に包まれていない腹部が露になる。
「グレイモン! 今!」
エミリアが叫ぶ。
グレイモンは口の中に炎を圧縮させ、
「メガフレイム!!」
豪火球を放つ。
その豪火球はモノクロモンの腹部に狙い違わずに命中、モノクロモンを更に大きく吹き飛ばした。
リングの外周ギリギリまで吹き飛ばされるモノクロモン。
「モノクロモン! 何やってる!? 立て! 立つんだ!!」
山口がそう叫ぶが、モノクロモンは身動ぎするだけで立ち上がろうとしない。
立ち上がるだけの力が残って無いのだ。
「これ以上は無理です。その子はもう戦えません。降参してください」
エミリアは降参を促す。
「そんな筈はない! 俺は勇者なんだ! 勇者がこんな所で負けて良い筈ない! 勇者が負けるわけないんだ! 勇者が、悪役令嬢の手下なんかに負ける筈が無いんだぁぁぁぁぁぁっ!!」
その叫びを聞いて、俺は溜息を吐く。
こいつは召喚された事で、自分を主人公だと思い込み、同時に世界を物語だと勘違いした奴だ。
「取り消してください!!」
だが、エミリアはその言葉に強く反発した。
「クラウは悪役令嬢なんかじゃありません!」
エミリアはそう叫ぶ。
「リア………」
クラウディアはエミリアの言葉に胸を打たれた様だ。
「うるさい! 悪役令嬢の取り巻きが勇者である俺に意見するな! モブはモブらしく主人公である俺にやられてればいいんだよ!!」
「わ、私は取り巻きなんかじゃ………」
元々あまり気が強くないエミリアは、山口の思い込みの激しさに言い淀む。
とは言え、モノクロモンにはもう力は残っていない。
如何足掻いてもエミリアの勝ち。
俺は、そう思っていた―――――――
【Side 三人称】
闘技場の遥か上空。
そこに2つの人影があった。
その2つの人影は、白い翼を持ち、空を飛んでいる。
その2人は眼下を見つめ、
「あ~あ。いいようにやられちゃってるよ。召喚された勇者って言っても大したことないなぁ」
「所詮は人間。異世界から召喚したと言ってもこの程度なのだろう。だが、召喚の影響で『運命』が変わる可能性があったとはいえ、これは少々予想外だ」
「本当だね。『死ぬはずだった運命』を持った奴がまだ生きてるし、落ち零れのままくすぶるはずの奴もデジモンを進化させてるし」
「だが、ここであの勇者に負けて貰っては、我が主の名に傷が付く可能性もある」
「そうだね。デニティス様の導きで召喚されてるんだから、勝って貰わないと困るよ」
「……………仕方ない。もしもの時の為にと渡されたアレを使うか」
「え~? もう使っちゃうの? 今溜まってるエネルギーだと2回しか使えないんでしょ?」
「主の名に傷が付くよりはマシだ」
そう言うと、落ち着いた雰囲気の方の人影が懐から何かを取り出す。
それは、楕円形の中心に赤い宝石が埋め込まれたペンダントだった。
「『デジメンタル』…………デジモンを進化させるエネルギー体……か。勿体ない」
「フン…………やるぞ」
そのペンダントを掲げると、そこから赤い光が直下に向かって放たれた。
【Side Out】
俺がエミリアの勝ちだと確信した瞬間だった。
突如として天空から赤い光がモノクロモンに降り注いだ。
「何だ!?」
俺は思わず叫ぶ。
すると、力を使い果たしたはずのモノクロモンが起き上がり、赤い輝きを放つ。
「こ、これは………!?」
モノクロモンの身体が徐々に巨大化していき、その身体が赤銅色に染まる。
「ヴァーミリモン…………このタイミングで進化だと……!?」
完全体に進化したヴァーミリモンは、その全高だけでグレイモンの大きさを凌駕する。
「は……ははは! やったぞ! やっぱり俺は主人公なんだ! 悪役なんかに負けない『運命』なんだ! そうか! ピンチになった後、力が覚醒して大逆転って言う王道パターンだったんだな! あはは! 焦って損した!」
山口は明らかに調子に乗っている。
「完全体…………!」
エミリアが戦慄する。
「ッ……! だけど!」
エミリアは心を震わせて立ち向かう事を選ぶ。
「グレイモン!」
「おおっ!」
グレイモンがヴァーミリモンに突進を仕掛ける。
「うぉおおおおおおおっ!!」
鼻先の角で突き上げを繰り出すが、ガキィッという音と共にヴァーミリモンはその攻撃に耐える。
すると、ヴァーミリモンはグレイモンの目の前で口を開けると、
「ッ!?」
「ヴォルケーノストライクS!!」
先程よりも強烈な火炎弾を放った。
「うぐぁあああああああああああっ!?!?」
グレイモンはその火炎弾を受けて吹き飛ばされる。
「グレイモン!?」
エミリアは悲鳴に近い声を上げる。
「うぐぐ………」
吹き飛ばされたグレイモンは、ボロボロになりながらも立ち上がるが、ヴァーミリモンが間髪入れず突進してくる。
「くっ! メガフレイム!!」
グレイモンがその口から豪火球を放つ。
だが、
「ハードタックル!!」
ヴァーミリモンは熱に対して高い耐性を持つ。
グレイモンのメガフレイムを物ともせずに突き破り、その巨大な角でグレイモンを吹き飛ばした。
「ぐぁああああああああっ!?!?」
グレイモンは吹き飛ばされ、リング外に落ちた。
そのダメージは酷く、これ以上は戦えない。
「そこまで! 勝者、テッペイ・ヤマグチ!!」
審判が勝者を告げた瞬間、観客が爆発的に盛り上がった。
端から見ればピンチからの進化の大逆転劇だ。
盛り上がるのも分かる。
だが、俺は今の進化に不自然さを感じていた。
あの時空から降り注いだ赤い光。
あの光は、まるでクルモンが放つデジエンテレケイヤの光に似ていた。
「…………進化を促す光………?」
だとすれば、あれは外部からの干渉による強制的な進化。
だが、王子サマ達が何かした様子は無い。
その時、エミリアが俯きながら戻って来る。
「…………ごめんなさい」
エミリアは頭を下げる。
「いや、今のは仕方ない。あのタイミングで進化するのは誰にも予想出来ないからな」
パートナーとの絆も無く、戦闘経験も足りていないだろうタイミングでの進化。
俺にも予想出来なかった。
「先ほども言ったが気にするな。リアとグレイモンはよく頑張った。相手が進化しなければ、間違いなく勝っていたさ」
クラウディアもそう言う。
「クラウ………」
クラウディアの言葉に、エミリアは力無く笑う。
「グレイモンも大丈夫?」
エミリアがグレイモンに声を掛ける。
「ああ………何とか…………」
「頑張ってくれてありがとう……デジヴァイスの中で休んでて」
「ああ、そうするよ……」
エミリアがデジヴァイスを掲げ、グレイモンがその中に吸い込まれる。
エミリアは俯き、少し悔しそうにデジヴァイスをギュッと握りしめた。
「……………大丈夫。エミリアの仇は討つ!」
そんなエミリアの姿を見て、エリスがそう言う。
「エリスさん………」
エリスの姿に、エミリアはほんの少しだけ笑った。
「次鋒、前へ!」
審判の言葉に、
「スティングモン……行こう」
「ああ」
エリスはスティングモンと共にリングへ上った。
エリス達はリング中央で相手のルーカスとか言う青髪イケメンと、そのデジモンであるクワガーモンと向かい合う。
「両者、準備はよろしいか?」
「「……………」」
審判の言葉に沈黙する2人。
「それでは次鋒戦………始め!」
審判が手を振り下ろす。
「ふっ………君がファイル家の落ちこぼれか。残念だが、私は落ちこぼれだろうと油断はしない」
青髪イケメンは気障ったらしく髪をかき上げる。
「君も貴族なら潔く降参…………」
そう言いかけた所で、
「はぁああああああああああああっ!!」
スティングモンがクワガーモンの眼前に飛び、無数の蹴りを叩き込んだ。
「ギャァアアアアアッ!?」
クワガーモンは悲鳴を上げて後ろ向きに転倒する。
「なっ!? 貴様、口上の途中で………!?」
「戦いはもう始まってる………戦場で油断してる方が悪い………」
エリスはそう言うと、
「スティングモン、畳み掛けて……!」
倒れたクワガーモンに、巧みな格闘術でパンチやキックを叩き込む。
「ギャァアアアアアアアアアアッ!!」
クワガーモンも巨大な顎や腕で反撃するが、小回りの利くスティングモンには掠りもしない。
「おのれ……! 何をやっているクワガーモン! 飛べ!」
クワガーモンは羽を広げると羽搏かせて飛び立つ。
クワガーモンは空へ飛び立つと、勢いをつけてスティングモンに突撃する。
スティングモンはそれを躱すが、リングにクワガーモンの顎が掠ってリングの石板を切り裂く。
クワガーモンは再び上昇しようとしたが、
「ガイアウォール………!」
突然目の前に突き出した岩の壁に足を引っかけ、大きくバランスを崩す。
エリスが唱えた土属性の魔法だ。
その隙にスティングモンが蹴りを叩き込んでクワガーモンをリングに叩きつける。
「なっ!? き、貴様っ………!?」
「別にデジタルナイトがデジモンに攻撃してはいけないというルールは無い」
驚愕する青髪イケメンにエリスはしれっと言った。
クワガーモンは起き上がって飛び立とうとしたが、
「スパイキング………フィニッシュ!!」
それよりも早くスティングモンの必殺の一刺しがクワガーモンの腹部に叩き込まれた。
「ギガッ!?!?!?」
クワガーモンはそのまま力尽き、その場に倒れ込んだ。
審判がそれを確認すると、
「しょ、勝者! エリス・ジエス・フォン・ファイル!」
少し慌てながらエリスの勝利を宣言した。
その言葉に、さっきとは打って変わって静まり返る観客席。
俺達の勝利は誰も望む所では無いのだろう。
賭けにも負けるしな。
しかし、たった1人だけエリスの勝利にはしゃぎまくっていた金髪のツインテールの少女が居たりする。
エリスはスティングモンと共にリングを降りて来る。
「流石だな」
「………相手が弱かっただけ」
俺の言葉にエリスは淡々と、だが、何処か嬉しそうにそう言う。
「次はクラウディアか」
「ああ………」
クラウディアは何処か思い詰めた表情をしている。
それもそうだろう。
相手は婚約破棄の原因となった中島さん。
思う所もあるんだろう。
「中堅! 前へ!」
「………では、行ってくる。ガルルモン!」
「ああ」
クラウディアはガルルモンを伴ってリングの中央へ向かう。
クラウディアとガルルモンは中島さんとダルクモンに向かい合った。
「……………………」
クラウディアは無意識なのか、中島さんを睨み付ける。
「ッ……!?」
中島さんはビクつき、身を竦める。
すると、
「大丈夫だマリカ。君なら勝てる」
何かの魔法を使っているのか、王子サマの声が彼女の元に届いた。
すると、中島さんがクラウディアを睨み返し、
「あなたには……絶対に負けない!」
そう言い返した。
それにしても、中島さんは王子サマの伴侶になる…………
つまり王妃になるって意味をちゃんと解ってるのかね?
「両者、準備はよろしいか?」
「「………………」」
「それでは、中堅戦………始め!!」
開始の合図と共に、
「ガルルモン!」
クラウディアの呼びかけでガルルモンが、
「ダルクモン!」
中島さんの呼びかけでダルクモンが飛び出した。
「はぁああああああああっ!!」
ダルクモンが手に持った剣でガルルモンを斬りつける。
だが、ガキィッ!と金属音がしてガルルモンの体毛に弾かれた。
ガルルモンの体毛はミスリルと同じ硬度を持つと言われ、ガルルモンは中々防御力も高い。
ただの剣の斬りつけではダメージは与えられない。
デジモン世界での『ミスリル』ってどの程度なのか分からんが。
「くっ!」
ダルクモンは声を漏らす。
「はあっ!」
そこへガルルモンが飛び掛かった。
「ちっ!」
ダルクモンは舌打ちしつつ飛び退いて空中へ退避する。
空を飛べないガルルモンは、反撃を警戒して迂闊に飛び掛かる事が出来ない。
「ガルルモン!」
「フォックスファイヤー!!」
クラウディアの呼びかけに、ガルルモンは高熱の青い炎を吐き出す。
「ッ!?」
ダルクモンは一瞬不意を突かれた様だが、間一髪で回避に成功する。
「くそ、外した……!」
ガルルモンは悔しそうに顔を顰めた。
「ダルクモン! ヒット&アウェイよ!」
中島さんがダルクモンに呼びかけると、ダルクモンは翼を広げて空中からガルルモンに斬りかかる。
その一撃は体毛に弾かれ、ガルルモンは反撃しようとしたが、ダルクモンは勢いを緩めずにそのまま再び空中へ飛び上がる。
「なっ!?」
すると、空中で弧を描いて再びガルルモンに向かってくる。
「くっ!?」
再び斬りつけられた。
斬撃こそ体毛で防いでいるが、その衝撃はガルルモンに伝わっており、ダメージは僅かだが蓄積していく。
「その調子よ! ダルクモン!」
一撃離脱を繰り返し、ガルルモンに反撃の隙を与えないダルクモン。
その時、
「くっ……!」
ガルルモンの足が崩れ落ち、地面に伏せる形になる。
「ガルルモン………!?」
クラウディアが叫ぶ。
「今よダルクモン! 一気に決めて!!」
「バテーム・デ・アムール!!」
ダルクモンの剣に光が宿り、華麗な剣技でガルルモンを斬りつけていく。
その攻撃にはガルルモンの体毛も切り裂かれ、確実なダメージが入っていた。
「ダルクモン!」
「止めだ!」
ダルクモンは、ガルルモンの頭部に剣を振り下ろすために振り上げた。
「ガルルモンッ!?」
クラウディアが悲痛な声を上げる。
だがその瞬間、伏せられていたガルルモンの目が見開かれた。
立ち上がると同時に、剣を振り上げ隙だらけになったダルクモンに向かって口を大きく開ける。
そして、
「フォックスファイヤー!!!」
渾身のフォックスファイヤーをダルクモンに叩き込んだ。
「ぐわぁああああああああああああああああああっ!?!?」
その直撃を受けたダルクモンは吹き飛ばされ、あちこちを焼け焦げさせた状態でリングに倒れる。
「はぁ……はぁ………」
ガルルモンは息を吐きつつ立ち上がる。
「ガルルモン………!」
クラウディアは立ち上がったガルルモンに安堵の息を零す。
「大丈夫か? ガルルモン………」
「ああ。飛び回っていると厄介だったからね。タイシ達を手本にして、作戦を立ててみたんだ………」
「ガルルモン………」
クラウディアは安心した笑みを零す。
「ダルクモン!」
中島さんがダルクモンに駆け寄る。
「ダルクモン! お願い! 立って! 立ってよぉっ! 私はあの人に負けるわけには行かないの! お願いダルクモン! 立って………!」
中島さんは涙を浮かべると、
「立ってよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
天に向かって泣き叫んだ。
その瞬間、先程と同じ赤い光が降り注ぐ。
「これはっ………!」
俺は思わず声を上げる。
ダルクモンが光に包まれ、その姿を変貌させていく。
天使型で人に近い姿だったそれが獣の姿へ。
グリフォモンに似た形状を持つ、幻獣型の完全体デジモン。
「ヒポグリフォモン……!」
俺はその名を口にする。
「バカな………このタイミングで再び進化だと…………!」
クラウディアが驚愕の声を漏らす。
すると、ヒポグリフォモンが口を大きく開け、
「ヒートウェーブ!!」
そこから超高温の熱風を吐き出した。
「うあぁああああああああああああああああああっ!?!?!?」
その熱風に巻き込まれたガルルモンは、為す術無く吹き飛ばされ、リング外まで押し出された。
「がはっ………!?」
ガルルモンは力尽きた様に気を失う。
「そこまで! 勝者、マリカ・ナカシマ!」
そう宣言され、再び観客席が盛り上がった。
「…………………………………」
そんな中、クラウディアは呆然と立ち尽くしていた。
「………私の勝ちです!」
中島さんがそう言い放つ。
すると、
「フッ、これでどちらが王妃に相応しいかハッキリしたな………!」
王子サマが笑みを浮かべ、中島さんの隣に歩み寄る。
「やはり君は勇者であり、私の伴侶に相応しい………」
「レオ…………」
王子サマは中島さんの背中に片手を回し、仲睦まじげな姿を見せつける。
クラウディアは俯くと、無言で踵を返して背を向けた。
その姿を見て、観客席からはチラホラとクラウディアを嘲笑う声が聞こえてくる。
「クラウディア………」
俺はこちらに向かってくるクラウディアに声を掛けるが、
「………すまない。今は何も言わないでくれ………」
そう言って俯いたまま俺の横を通り過ぎる。
だが、俯き、目を伏せたその目尻には、涙が浮かんでいた。
「…………………………」
俺はその後姿を見つめる。
クラウディアはガルルモンに歩み寄ると、その隣に寄り添い、
「………うっ………ううっ……うっ………!」
声を押し殺して泣いていた。
「…………………………」
その姿に、俺はまた知らず知らずの内に拳を握りしめていた。
【Side 三人称】
闘技場の上空。
「やれやれ、世話の焼ける」
「結局デジメンタルの力を2回とも使っちゃったね」
「まあいい………ここまでお膳立てすれば勇者達が負けることは無いだろう」
「そうだね。残りの2人のデジモンは成長期だし。もし万が一にあの王子が負けても、次に控えるのはあの勇者だからね」
「ああ。いくら奇跡が起ころうとも、成長期であの勇者に勝つ事など絶対に不可能だ。まさしく『運命』だな」
「なら、さっさと帰ろうよ。こんな遠い所まで来て疲れちゃった」
「ああ。戻るぞ」
2人の人影はそう言うと、翼を羽搏かせてその場を飛び去って行った。
オリジナル異世界編第10話です。
書きたかった所なので筆が進みました。
さて、決闘の前半ですが3人をサクサクと終わらせてしまいました。
この決闘の本番は後の2人なので。
って言うか、どうやって2敗させようかと言う方に頭を使いましたね。
普通に戦っちゃえば、確実に3勝してしまいますので。
ってわけで、外部からの干渉で勇者たちのデジモンの強制進化という荒業をぶっこんでみました。
ぶっちゃけこうでもしないと完全体に進化出来そうになかったので。
謎の2人が持ってたデジメンタルは、Vテイマー01の方に出てきたデジメンタルと思ってください。
では、次は出来るだけ明日更新出来るように頑張ります。