シアが見つけたという大迷宮の入り口。
しかし、そこに設置されていた看板は、どう見てもふざけているとしか思えなかった。
「…………なあ? これって本物か………?」
俺が思わずそう言うと、
「実は俺も疑ってる………」
ハジメも同意らしい。
だが、
「…………多分本物………」
ユエがそう呟く。
「……根拠は?」
ハジメが聞き返すと、
「…………名前。オスカーの手記と一緒……」
「あっ、そう言えば、『ライセン』の名前は有名だけど、『ミレディ』の名前は伝わってない筈だよね?」
ユエの言葉に白崎さんが気付く。
「やっぱそこだよなぁ…………」
ハジメも薄々感じていたのか頭を掻きながらそう言った。
「何でこんなチャラいんだよ……」
「信憑性が減るな」
ハジメの言葉に俺も頷く。
「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」
シアが看板の周りを見回したり、ペシペシと叩いたりしている。
「おい、そんな所に入り口があるわけが…………」
ハジメがそう言おうとした瞬間、
「ふぎゃっ!?」
ガコンとシアが叩いた壁が回転し、シアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。
「「「「「「「嘘………」」」」」」」
その光景を見た全員が同時に呟いた。
回転扉を潜った俺達を出迎えたのは、矢の嵐だった。
とは言え、ハジメ達がその程度で如何にかなるわけも無く、銃で撃ち落としたりそのまま矢を掴んだりして簡単に防いだ。
まあ、シアがお漏らしをしてしまったというアクシデントがあったが…………
最初のトラップをクリアした俺達の前に現れたのは石板だった。
少し見ていると、その石板に文字が浮かび上がる。
『ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ』
『こんな簡単なトラップに引っかかっちゃった奴は相当マヌケだね! ぶふっ』
それを読んで一呼吸後、
「ふんぬーーーーーーーーーっ!!!」
シアが切れて、ハジメに作って貰った専用武器、戦槌『ドリュッケン』で石板を叩き壊した。
まあ、気持ちは分かる。
だが、
『ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!』
その行動すらも読まれていたのか床にそんな文字が表示される。
「ミレディ・ライセンだけは〝解放者〟云々関係なく、人類の敵で問題ないな」
「……激しく同意」
「あはは…………落ち着いてハジメ君、ユエ。ねっ………」
ハジメとユエの言葉に白崎さんが苦笑する。
すると、
「大士………この迷宮吹っ飛ばせねえか?」
ハジメがめんどくさいと言わんばかりに俺に問いかけてくる。
「まあ、出来るけど………その場合、迷宮を攻略したって認められないんじゃないのか?」
実際頼り切ってた俺や葵は【オルクスの大迷宮】の攻略者とは認められなかったわけだし。
「チッ…………そうだったな………」
舌打ちするハジメ。
仕方なく道なりに進むことにした。
「こりゃまた、ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だな」
「……ん、迷いそう」
「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」
「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着けよ」
シアは入り口の事で未だに憤慨している。
この場にいる全員、シアの気持ちは理解できるので強くは言えない。
「それはそうと、どう進む?」
優花がそう言うと、
「ん~、まぁ、そうだな。取り敢えずマーキングとマッピングしながら進むしかないか」
「そうだね」
ハジメの言葉に白崎さんが頷く。
そのまま道を進んでいると、
「入り口とは違って明るいね」
葵がふと周りを見ながら呟いた。
「そう言えばそうだな。どうやら壁自体が発光しているみたいだけど…………」
「鉱物鑑定で調べてみたが、『リン鉱石』だな。オルクス大迷宮には無かった鉱物だ。これを使えば………」
ハジメがそう言いかけた時、ガコンと言う音と共に、ハジメの足元が少し沈んだ。
「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」
沈黙する俺達。
「……このパターンでありがちなのは…………」
俺がそう言った瞬間、目の前の両側の壁から一枚ずつの回転ノコギリの刃が飛び出し、回転しながら迫ってきた。
「回避っ!!」
「うぉおおおおおおっ!?」
俺達は慌てて伏せる。
回転ノコギリが俺達の頭上を通過し、後方に通り過ぎると何事も無かったかのように引っ込んだ。
「し、死ぬかと思った…………」
ハジメ達ならともかく、俺や葵は致命的だ。
危うくスプラッターな状態になる所だった。
「南雲君! 分からなかったの!?」
葵も珍しく叫びながらハジメに文句を言う。
「今のは完全な物理トラップだ。魔眼石じゃ感知できない。今までが魔法トラップばっかりだったから油断してたな………! 厄介だ………」
ハジメはそう言う。
「って言うか、あれぐらいハジメさん達の攻撃で壊してくださいよぉ!」
ウサ耳の先の毛をちょっぴり切られたシアがそう言うが、
「あぁ………その事なんだが……………」
ハジメは白崎さんやユエに視線を向けると、
「ん………困った。まともに魔法が使えない………使えても中級以下の魔法が数秒程度………」
「ライセン大峡谷より遥かに強い魔法の分解作用が働いてるみたいなの」
ユエと白崎さんが試しに魔法を使おうとするが、すぐに魔力が霧散する。
「外部に魔力を放出するとすぐに分解される。逆に言えば、体の内部の魔力には分解作用は働かない。これが如何いう事か分るか?」
「え、えっと………?」
ハジメの言葉にシアが首を傾けた。
「つまり、この迷宮では身体強化が重要なファクターを占めるって事だろ?」
俺が代わりに答える。
ハジメは頷き、
「そういうことだ。シア、ここの攻略はお前の活躍に掛かってるぞ」
皆が期待の眼差しをシアへ向けた。
「うわぁああああああああっ!?」
「「「きゃぁあああああああっ!?」」」
その俺達は、急な斜面を滑りながら絶賛降下中だった。
「このドジウサギ! 言った傍からへましやがって!!」
「すみません~~~~!」
滑り落ちながらハジメが怒鳴る。
階段を降りていた時、シアが何かトラップを踏んだようで、階段の段差が無くなり、急なスロープとなった事で俺達は猛烈な勢いで階下に向かって猛スピードで滑り落ちているのだ。
その時、
「ハジメ君! 道がっ!」
白崎さんが気付いたのか叫ぶ。
道の先が途切れ、広い空間に繋がっているのが見えた。
そのまま俺達がその空間に放り出されると、
「うおっ!?」
床一面に鋭利な突起が無数に敷き詰められた光景が映った。
「げえっ!?」
俺は思わず叫び声を出す。
このまま落ちたら俺と葵は間違いなく死ぬ。
その時、
「大士!」
「葵!」
ドルモンとリュウダモンが叫ぶと光に包まれた。
―――EVOLUTION
「ドルモン進化!」
「リュウダモン進化!」
俺達の危機に、2体は自分の意思で進化する。
「ドルガモン!!」
「ギンリュウモン!!」
成熟期に進化した2体は、ドルガモンが俺、優花、ハジメ、白崎さんを拾い、ギンリュウモンが葵、ユエ、シアを拾う。
「大士、大丈夫?」
ドルガモンが背中を覗きながら声を掛けてくる。
「あ、ああ…………助かったよドルガモン」
俺はドルガモンの背中で大きく息を吐いた。
「ありがとうギンリュウモン………!」
葵はギンリュウモンの首に抱き着くようにお礼を言っている。
「さ、流石に焦ったわね………!」
優花もこれには冷や汗を流していた。
すると、
「…………ん、あそこ」
ユエがある方向を指差した。
そこには奥へ続く通路。
俺達はそこへ行くと、また広い空間出た。
俺達はいったん休憩しようとしたが、そこにはまた石板があり、
『焦ってやんの~~~~ダッサ~~~~イ!』
『この位で疲れるようじゃ先が思いやられるねー、ププッ』
見事に神経を逆撫でされる台詞が浮かび上がった。
それにイラッとした俺は石板を指差し、
「ドルガモン………」
「パワーメタル!」
ドルガモンに石板を破壊して貰った。
まあ、どうせ一定時間立つと自動修復されるとかそういうメッセージが床に浮かび上がるだろうと、心構えをして床を見ると、
『この程度でキレてやんの~~~~! プッ♪』
『最近の若者は短気でイカンな~~~~~♪』
『や~い、短気短気~~! プ~クスクス!』
予想を遥かに超える煽り文句に頭に血が上った。
「た、大士、落ち着いて!」
「そ、そうだよ! ここで怒ったら相手の思う壺だから………!」
優花と葵に宥められ、俺は深呼吸する。
「そうだな………すまん………」
何とか落ち着いた俺は、休憩を取った後に再び探索を再開する。
何も変哲もない通路を歩いていたが、
「やたら広い所に出ましたね。こんな如何にもな所にトラップが無い訳が………」
とシアが言った所で、足元でガコンという音が。
「フラグウサギめ…………」
ユエが恨みがましい眼を向ける。
「わ、わざとじゃないですよぉ~~!」
シアが弁明するが、何処からともなくゴロゴロと言う音が。
「おい………この音………」
ハジメが呟くと、通路の奥から巨大な丸い岩石が転がってきた。
「だあぁっ! ベタなトラップだが、実際に掛かると笑えねぇっ!!」
俺達は思わず逃げ出そうとした。
だが、ハジメはその場で立ち止まり、
「いつもいつも………やられっぱなしじゃ…………」
ハジメは左腕の義手の拳を握りしめ、振りかぶる。
「性に合わねえんだよ!!」
その言葉と共に『剛腕』と、義手に搭載されたギミック、『振動破砕』を使って岩石に殴りかかった。
「オオオォォォォォラァアアアアアアアアアッ!!!」
気合いの入った声と共に拳を振り抜くと、岩石が粉々に砕け散った。
すると、ハジメはニッと笑って、
「どうだ? 少しはスッキリ…………」
スッキリしたと言い掛けるが、直後にズドンと重そうな音が聞こえる。
ハジメが振り向けば、そこには先程とは違い、光沢のある球体。
即ち、金属で出来た巨大な鉄球が上から落ちてきたのだ。
結局俺達は全力で逃げることとなった。
何とか突き当りの部屋まで逃げ切った俺達は、ゼエゼエと息を吐いていた。
因みに俺と葵は優花の両脇に抱えられてここまで逃げ切った。
あと、ユエはハジメに、ドルモンは白崎さんに、リュウダモンはシアに抱えられていた。
今ふと思ったが、咄嗟に逃げてしまったがドルモンを進化させれば余裕で破壊出来たことを思い出した。
すると、
「なぁ、何かこの部屋見覚え無いか?」
「ある。特にあの石板」
ハジメとユエの言葉に俺達が顔を上げると、確かに見覚えのある部屋に石板が配置されていた。
より厳密に言えば、一番初めの部屋だ。
その時案の定文字が浮かび上がった。
『ねえ今どんな気持ち?』
『お察しの通りここはスタート地点でーす!』
『苦労して進んだ部屋が最初の部屋なんだけど今どんな気持ちー?』
『ちなみに来た道を戻ろうとしても無駄だよ!』
『この迷宮は一定時間ごとに変化してるから!』
『ねぇねぇ今どんな気持ち?』
「「「「「「「「「……………………………………………………」」」」」」」」」
全員が沈黙する。
そして俺は口を開いた。
「なあハジメ?」
「…………何だ?」
「……………もうこの迷宮アルファモンで消し飛ばしてもいいかなぁ!!??」
俺はDアークを手に持ちながら本気でそう聞いた。
本気と書いてマジと読むぐらいに
「…………気持ちは分かるが止めてくれ。試練を突破したら好きにしろ」
「…………………………わかった」
迷宮に潜って1週間後。
ずっと続けていた探索は漸く進展を見せた。
その部屋は今までの部屋とは様子が違っていた。
壁際には騎士の甲冑がズラリと並び、部屋の奥にはオルクスの大迷宮でも見た隠れ家への扉。
「どうやら当たりのようだな」
ハジメがニヤリと笑う。
まあこの様子からするとあの扉に近付こうとすると、周りの騎士甲冑が襲って来るって言うのがお約束だろうな。
「おいお漏らしウサギ!」
「は、はい! 何でしょう?」
「お前は強い。俺達が保証してやる。ヤバい時は助けてやる」
「………うん、弟子の面倒は見る」
「ハジメさん………ユエさん………!」
ハジメとユエの言葉に感極まるシア。
「ッ………! ミレディ・ライセンを、ぶっ潰します!」
シアが戦槌ドリュッケンを振りかぶる。
更にハジメがドンナーとシュラークを構えて駆け出すと同時に周りの騎士甲冑が動き出した。
「葵!」
「うん!」
俺と葵もドルモン達の進化カードを取り出し、
「「カードスラッシュ! 超進化プラグインS!!」」
―――EVOLUTION
「ドルモン進化!」
「リュウダモン進化!」
パートナーを進化させる。
「ドルガモン!」
「ギンリュウモン!」
「行け! ドルガモン!」
「お願い! ギンリュウモン!」
俺達の呼びかけに応え、2体の成熟期デジモンは騎士甲冑のゴーレム達に突撃していく。
成熟期の能力はハジメ達と比べれば低いのだが、その巨体と攻撃範囲の広さはハジメ達と比べて制圧力では勝る。
尾の一撃がゴーレム達を薙ぎ払い、必殺技は複数のゴーレムを一気に粉砕する。
前衛で戦槌を振り回すシアを、ハジメ、ユエが的確に援護し、そのハジメとユエの背中を白崎さんが護るように銃でカバーする。
なんだかんだ言って、あの4人は上手くやっていけるパーティーになると思う。
そう思っていると、背後でガシャッと音がして振り返れば、生き残ったゴーレムがいつの間にか回り込んでいたのか、剣を振り上げていた。
「やべっ!?」
「大士!」
俺は声を漏らし、葵が悲鳴に近い声を上げる。
その瞬間、ゴウッっと俺の頭上を何かが勢い良く通過し、ゴーレムの上半身を抉り取った。
見れば、壁に槍が突き刺さっている。
「油断大敵よ。大士」
優花が笑みを浮かべてそう言った。
「優花! 助かった!」
「優花!」
「安心しなさい! 2人は私が護るわ!」
優花は俺と葵を護るように背を向けて立ちはだかり、その手に手裏剣と苦無を構えた。
際限なく出てくるゴーレムを倒しながら前進し、漸く扉の前に辿り着く俺達。
だが、ゴーレムは未だに迫ってくる。
「チッ! キリがねえ!」
舌打ちするハジメ。
するとシアが扉の前に降り立ち、
「うぉらぁああああああああっ!!」
戦槌を振り下ろしてその扉を叩き開けた。
その扉に駆け込む俺達だったが、
「ッ! 皆! 跳ぶぞ!」
ハジメが叫ぶ。
その先が途切れており、少し先(と言っても5mぐらいある)に足場が見えた。
俺と葵はそんな距離を跳べる力は無いのでドルガモンとリュウダモンに飛び乗る。
ハジメ達は足場に着地し、俺と葵はドルガモンとリュウダモンに乗ったまま滞空していると、ハジメ達の足場が上昇していく。
それを追いながらこの空間の不可思議さに気が付いた。
「足場が浮いてる?」
この空間内には複数の足場があるが、そのどれもが空中に浮いていたのだ。
そのまま上昇していくと一際広い足場があり、上昇していくにつれその上にあった存在の姿が露になっていく。
「おいおい………マジかよ………!」
ハジメが思わずそんな声を漏らす。
そこには今までのゴーレムとは比較にならない大きさを持つ巨大なゴーレムが存在していた。
それは上半身だけで浮いており、下半身はないがそれでも20m近い大きさを誇っている。
「いかにも親玉って感じですね………」
シアの言葉が切っ掛けになった様に、その巨大ゴーレムの目が怪しく光る。
それが瞳の様に俺達の姿を捉え、俺達は警戒する。
すると、
「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンちゃんだよぉ~」
そんな空気をぶち壊すお気楽な挨拶がその巨大ゴーレムから聞こえた。
「「「「「「「「「………………は?」」」」」」」」」
俺達は思わず固まる。
「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」
その言葉と共に、左手に持った棘付き鉄球のメイスを肩に担ぎ、やれやれと首を振る。
その言葉と仕草に俺達全員が無性にイラッとした。
しかし、ハジメはそのイラつきを抑えて問いかける。
「そいつは、悪かったな。だが、ミレディ・ライセンは人間で故人のはずだろ? まして、自我を持つゴーレムなんて聞いたことないんでな……目論見通り驚いてやったんだから許せ。そして、お前が何者か説明しろ。簡潔にな」
「あれぇ~、こんな状況なのに物凄く偉そうなんですけど、こいつぅ」
「ん~? ミレディさんは初めからゴーレムさんですよぉ~何を持って人間だなんて……」
「オスカーの手記にお前のことも少し書いてあった。きちんと人間の女として出てきてたぞ? というか阿呆な問答をする気はない。簡潔にと言っただろう。どうせ立ち塞がる気なんだろうから、やることは変わらん。お前をスクラップにして先に進む。だから、その前にガタガタ騒いでないで、吐くもん吐け」
「お、おおう。久しぶりの会話に内心、狂喜乱舞している私に何たる言い様。っていうかオスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」
「ああ、オスカー・オルクスの迷宮なら攻略した。というか質問しているのはこちらだ。答える気がないなら、戦闘に入るぞ? 別にどうしても知りたい事ってわけじゃない。俺達の目的は神代魔法だけだからな」
「……神代魔法ねぇ、それってやっぱり、神殺しのためかな? あのクソ野郎共を滅殺してくれるのかな? オーちゃんの迷宮攻略者なら事情は理解してるよね?」
「質問しているのはこちらだと言ったはずだ。答えて欲しけりゃ、先にこちらの質問に答えろ」
「こいつぅ~ホントに偉そうだなぁ~、まぁ、いいけどぉ~。間違いなく私はミレディ・ライセンだよぉ~。この姿の秘密は神代魔法で解決! 詳しく知りたければ私を倒してみよ! って感じかなぁ?」
「おい! それじゃ質問に………!」
「質問には答えた………!」
ハジメがいい加減な回答に異を唱えようとした瞬間、声色の変わったミレディの言葉が被せられる。
「今度は、こっちが質問する番。君達の目的は何? 何のために神代魔法を求める?」
嘘偽りは許さないと言わんばかりの、先程までおちゃらけた雰囲気を微塵も感じさせない声。
「…………俺達はお前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられた。お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない。まあ、俺達の世界にまでその狂った神が干渉してくるなら話は別だが。俺の一番の目的は香織と一緒に故郷へ帰る事だ。邪魔する奴は誰であろうと殺す!」
「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」
「脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』なんだよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど? それとも転移系なのか?」
「んふふ………それはね……………教えてあ~げない!」
「死ね」
勿体ぶって最後には秘密にしたミレディにハジメは遂に我慢できなくなった。
いきなりミレディゴーレムに向けてドンナーをぶっ放す。
ミレディゴーレムは後ろに仰け反るが、あまりダメージを受けていない仕草で体勢を立て直すと、
「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~。だけど、この程度じゃ私は倒せないよぉ~。言っとくけど私は強いよ~。死なないように頑張ってね~」
「悪いが俺にはさっきのゴーレムと大差ない様に見えるがな」
「ほんっとに生意気な奴だなぁ~。いいよ、教えてあげる」
ミレディがそう言うとミレディゴーレムの背後に、騎士型ゴーレムが浮遊していた。
「これが私の
ゴーレムはともかく航空力学を無視して飛ぶ奴ならいくらでも。
デジモン達しかり、デ・リーパーしかり。
内心突っ込んでいると、
「これが君達に一斉に襲い掛かるわけ! どう? ビビった? 今謝ったら………」
ミレディが得意げに語る。
その瞬間、ゴーレム達が細切れになる。
「アレ………?」
「浮いているだけなら只の的。あと、いちいちうるさい………」
ユエがそう言う。
因みに今更だがユエの持つ武器は、内部に水が入っており、それを『破断』という水魔法で圧力を掛けて、ウォーターカッターとして放てるようになっている。
「お~怖い怖い。話している最中に容赦ないな」
ミレディは未だに余裕を見せているが、ハジメが眼帯を外して魔眼石でミレディゴーレムを見る。
すると、
「何だ。お前には核があるじゃないか。皆、心臓の位置を狙うぞ!」
ハジメが核の位置を看破し、それを皆に伝える。
「な、何なの君達!? ここって魔法が使えない筈なんですけど!?」
見破られた事が予想外だったのか、焦った声を漏らす。
ハジメ、白崎さん、ユエ、シア、優花が散開してミレディゴーレムと対峙する。
すると、シアが飛び込んで戦槌を振るうが、メイスの鉄球部分で防がれる。
シアはそのまま力尽くで押し切ろうとしたが、背後に先程細切れにされた複数のゴーレムが再生されてシアに襲い掛かろうとしていた。
「あれれ? 忘れてたの? ゴーレムはいくらでも再生できるんだよ?」
ゴーレム達が剣を振り下ろそうとした瞬間、あるゴーレムは切り裂かれ、あるゴーレムは撃ち抜かれる。
「………そんな事知ってる」
「忘れてると思ったのかな?」
ユエと白崎さんがそれぞれ武器を構えながらそう言った。
「流石カオリさんとユエさんです! 思いっきり行きますよぉ~!!」
「中々いいコンビネーションだね。だけど、ゴーレムがパワーで負けるはずないよぉ!」
シアの戦槌とゴーレムの右の拳がぶつかり合う。
「ぐぬぬぬ…………!」
シアは何とか振り切ろうとするが、パワーでは宣言通りゴーレムの方が勝っていた。
「中々いいパワーを持ってるね。だけど、ちょーっと力不足かな~~~~?」
そのままシアが押し切られようとした時、真上から飛来した槍がゴーレムの右肘の関節部分を貫いた。
「あり?」
ミレディゴーレムが上を見上げると、優花が上の足場に足を着けた所だった。
「私を忘れてた?」
優花は得意げに笑って見せる。
その時、
「どぉりゃぁあああああああああっ!!」
シアが気合を入れた声を上げる。
槍が突き刺さった関節部分から罅が広がり、シアのパワーに耐えきれずに砕け散る。
「やるじゃん」
右腕を砕かれても余裕の声を漏らすミレディ。
しかし、
「だろ?」
ミレディの言葉に同意するような声がミレディゴーレムの胸部から聞こえた。
対物ライフル『シュラーゲン』を至近距離から核がある部分に向けたハジメだ。
「ッ………! いつの間…………」
ミレディが驚愕の声を言い終わる前に引き金が引かれ、弾丸が直撃する。
ハジメが反動で後ろに飛び退き、他のメンバーもハジメの元に集まる。
「………いけた?」
「手応えはあったが………」
「これで終わって欲しいですけど…………」
それぞれがそう言うが、これで終わるほど甘くないだろう。
倒れかけたゴーレムがゆっくりと起き上がり、
「いや~~、ちょっとヒヤッとしたよ~。でも、まだ足りないね」
そう言うと、胸の着弾地点が露になる。
ゴーレムの装甲の下に、もう1枚黒い装甲が見えた。
「ハジメ君、あれって………!」
「……アザンチウムか、くそったれ」
アザンチウム鉱石。
この世界で最も硬い鉱石と言われており、ハジメの装備にもいくつか使われている。
「流石オー君の迷宮攻略者。知ってて当然だよね~。それじゃあ、第2ラウンドいってみよっか!」
ミレディがそう言った瞬間、ハジメ達の上に浮いていた足場が突如として落下した。
ハジメ達は散開して避ける。
その瞬間、ハジメの横にあった足場が横滑り………というより横に落下したような動きを見せた。
ハジメは咄嗟に避けるがその顔は驚愕の表情だ。
というか、今のでコイツの神代魔法は大体の予想がついた。
俺がそう思った直後、
「皆! こいつの神代魔法は恐らく『重力』だ! 浮いているゴーレムも、動く足場もそれで全て説明が付く!」
ハジメも同時に気付いたのかそう叫ぶ。
「重力魔法………それも結構チートな魔法だね」
俺の横で葵が呟く。
「おや、思ったより早く気が付いたね。その通り! 重力を操れば例えば……」
ミレディゴーレムが左手に持ったトゲ付き鉄球のメイスをハジメ達に向けると、
「こんな事も出来るんだよ!」
その瞬間、鉄球がハジメ達に向かって放たれた。
メイスに見えたそれは、内部に鎖が繋がっている、所謂モーニングスターだったようだ。
正確にはハジメ達に向かって鉄球が『落下』しているのだろうが、そんな事は如何でもいい。
「ここは俺が何とかする! 皆で奴の動きを封じてくれ!」
ハジメがそう言うと、左腕の義手を振りかぶって鉄球に殴りかかった。
鉄球にひびが入るほどの衝撃で鉄球を止める。
「マジ? これを正面から受け止めるとか………」
「似たようなトラップがあったからな。そして、これがお前の命取りになる! 行け! 皆!!」
ハジメの言葉で全員がミレディゴーレムに向かって行く。
「く、来るな!」
ミレディゴーレムは再生された右腕で薙ぎ払おうとしたが、
「どぉりゃぁああああっ!!」
その右腕をシアの戦槌が止める。
「ふぎぎ…………!」
シアが何とか耐えている所に、
「上出来!」
「頑張れ! シア!」
優花と白崎さんが両肩部分目掛けて手裏剣、苦無と銃で攻撃。
罅を入れる。
更に、ユエが飛び出し、
「…………ここ」
ウォーターカッターで罅の入った両肩を切断した。
「くっ、このぉっ………!」
ミレディが何とか逃れようとした時、
「まだです!」
右腕を抑えていたシアが、両腕を切断された事で自由になり、戦槌を思い切り振りかぶる。
そのまま思いっきり振り切ってミレディゴーレムを吹き飛ばした。
足場の1つに叩きつけられるミレディゴーレム。
「や、やるじゃないか………でも、こんな事しても無駄だよ。私もゴーレムだって事忘れてないよね? 核が破壊されない限り素材があれば何度だって再生できるんだよ」
そう言いながら再生を始めようとしていた。
だが、
「そうはさせない………」
ユエがミレディゴーレムの近くに降り立つと足場に手を着き、
「………凍って。“凍柩”!」
その瞬間、ミレディゴーレムの足場に接している部分から凍り付いていき、体の大半を氷漬けにする。
「嘘!? どうしてここで上級魔法が使えるのさ!?」
ミレディが驚愕の声を上げる。
「水を使った攻撃をしていたお陰。これなら水を凍らせるだけで使える。それでもほぼすべての魔力を使うけど………」
「よくやったぞ、ユエ」
「ん、頑張った………」
ユエはハジメに褒めてもらって嬉しそうな声を漏らす。
「終わりだミレディ。この状態じゃ再生も身動きも出来ないだろ? 諦めて神代魔法を渡すか、それともこのまま止めを刺されるか…………」
ハジメがそう言った瞬間、シアがバッと上を見上げた。
「ハジメさん!! 『未来』が見えました! 天井が降ってきます!!」
その言葉に上を向けば、天井に正方形の亀裂が無数に入る。
「まさかこれは!?」
ハジメが目を見開く。
「………ふふふ、とっておきのお返しだよ。今からこの部屋の天井全てを、君達の頭上に『落とす』」
天井が正方形のブロックに分かれて落下を始めた。
この部屋の天井は重力魔法によって支えられていた物の様だ。
「さあ、見事これを凌いで見せてよ」
ミレディが楽しそうにそう言った。
「香織、ユエ! 俺の所まで来い!」
「ハジメ君!」
「ん………!」
「シアは私が!」
「お願いします、ユウカさん!」
ハジメは空力の最終派生技能である『瞬光』を。
優花は『縮地』で対応する。
ハジメは落下してくるブロックを破壊しながら潜り抜けていくが、優花はハジメより俊敏が高いとはいえ、『縮地』では『瞬光』に及ばない。
徐々に余裕が無くなっていく優花を見て、俺は助けに行こうとした。
だが、一瞬優花の目がこちらに向き、手出し無用と言ってきたのだ。
「ッ……………!」
俺は一瞬迷ったがその意を汲み取り、信じて待つことにした。
優花はそのままブロックの嵐を掻い潜っていく。
やがて更なるブロックの嵐にハジメ達も優花達も呑み込まれていき、巻き起こる砂煙と共に姿が見えなくなった。
やがてブロックが落ち切ると、
「ふう~、終わったかな?」
ミレディゴーレムが氷の束縛を振りほどき、起き上がった。
そのまま各部を再生させ、
「ミレディちゃん、ふっかーつ!!」
そのままブロックの山に目を向け、
「うーん、流石にちょっとやり過ぎちゃったかなぁ………でも、この位何とかできないとね。あのクソヤロー共には勝てないし…………それよりも…………」
ミレディゴーレムが『こちら』を振り向いた。
「君達も薄情だねぇ~。仲間が押しつぶされようとしているのに助けようともしないなんてさ。それじゃあ例え私を倒せても、試練を突破したとは認められないよ?」
ミレディの言う通り、俺と葵、ドルガモン、ギンリュウモンはこの部屋の入り口近くに滞空してずっと見ているだけだった。
「…………まあ、俺達には元々魔法の適性は無いし。たとえ認められても宝の持ち腐れだからな。それに、俺達が参加したら、今度はハジメ達が試練を突破したことにはならなくなる可能性があったからな」
「何それ? それって君達ならこの私を簡単に倒せるって聞こえるんだけど?」
「そう言ったつもりだが?」
「さっきの彼もそうだったけど、見た事ない魔物を従えてるからって、君も大概生意気だね」
「そりゃどーも」
「それよりも、君の仲間達はもう瓦礫の下だよ? 助けてあげたら? もしかしたらまだ生きてるかも…………」
「その必要は無い」
俺はそう言ってやる。
「あいつらを舐めるな………!」
その瞬間、ブロックの山の2ヶ所がほぼ同時に吹き飛んでハジメ、白崎さん、ユエと、優花、シアが姿を見せる。
優花の姿が見えた時、俺は内心ホッとしていた。
更に、後で気付いた事だが優花はこの時に『空力』の最終派生である『瞬光』に目覚めていた。
「なんだ………生きてたの? じゃあ第3ラウンドいってみようか! あ、そうそう、そっちの君達も参加していいよ! 心配しなくてもこのミレディちゃんを倒せたらどんな結果でも全員の試練突破を認めてあげるから!」
「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」
ミレディの言葉に、俺達は一瞬沈黙し、
「あれ? どうしたの?」
ミレディが首を傾げるとハジメはやる気を無くしたように踵を返した。
優花や白崎さん、ユエもそれに続く。
唯一シアだけは困惑していた。
「あ、あの、皆さん? どうされたんですか?」
シアがそう尋ねると、
「………ったく、それならそうと早く言えよ。お陰で余計な労力使っちまった………!」
ハジメは呆れた様に頭を掻きながらそう言うと、俺達の近くの足場まで下がってくる。
「えっ? ハジメさん?」
シアは未だに困惑してるが、
「シア、良いから下がる。ここに居ると邪魔………」
ユエもハジメに続き、
「え、え? ユエさん?」
「いいからいいから」
白崎さんが笑顔でシアの背中を押す。
シアは納得できないながらも皆に急かされて戻ってくる。
「え? 何なのさ一体…………?」
俺と葵もハジメ達の居る足場に降りると、
「ミレディ・ライセン。再度確認するが、俺達が参加しても全員を試練突破と認めるんだな?」
俺は確認の為にそう問いかける。
「え? そう言ったじゃん。頭悪いの君?」
「二言は無いな?」
念のために再度確認する。
「しつこいなぁ君も。このミレディ・ライセンの名に誓って二言は無い事を約束するよ」
そこまで聞いて俺は口元を吊り上げた。
「言質は取ったぞ?」
俺はそう言うと、葵と共に1枚のカードを取り出す。
「それじゃあ、行くぞ葵!」
「うん、大士!」
俺達はDアークを取り出し、そのカードをスラッシュする。
「「カードスラッシュ!」」
カードをDアークにスラッシュする最中に、カードがブルーカードへと変貌を遂げる。
「「マトリックスエボリューション!!」」
――MATRIX
EVOLUTION――
Dアークが光を放ち、ドルガモンとギンリュウモンが光に包まれた。
「ドルガモン進化!」
「ギンリュウモン進化!」
2体の成熟期は、完全体へと進化する。
「ドルグレモン!!」
「ヒシャリュウモン!!」
2体の完全体デジモンが目の前に現れる。
「わわわっ!? ドルモンちゃんとリュウダモンちゃんがまた変わりました! あれも『進化』って奴ですか!?」
完全体への進化を初めて見るシアが声を上げる。
「へぇ~? 姿が変わるなんてホント不思議な魔物なんだね…………まさか変成魔法? いや、それとは別物だね。だけど、ちょっと姿が変わったぐらいでこの私を倒せると思っているのかな?」
「……………………………ドルグレモン」
俺はミレディの言葉を無視してドルグレモンに呼びかける。
ドルグレモンは身体を仰け反らせて口を上に向けると、口の先に直径1mほどの鉄球を生み出す。
「おやおや~? もしかして、そんな小さな鉄球でこの私を倒そうとしているのかな?」
相変わらず舐めた口を利き続けるミレディ。
だが、
「…………………………………………………………………………………え?」
次の瞬間には絶句していた。
何故なら、ドルグレモンが生み出した鉄球はドルグレモンの十数倍…………
つまり、直径200mほどの大きさにまで膨れ上がったからだ。
「ちょ~~~~~~~~~~~~っ!? 何なのさコレ!? デカすぎっしょ!? 完全に物理法則無視してるよ!?」
ミレディは焦りを隠せずにそう叫ぶが、魔法使ってるこの世界の奴らに物理法則云々とか言われたくないな。
「覚悟は良いな?」
俺はミレディに問いかける。
ミレディゴーレムはギギギとブリキ人形のように俺に顔を向けると、
「ちょ、ちょっとタンマ…………!」
そう言って来た。
なので俺はニッコリ笑って右手に拳を作って前に出し、親指を上に立てる。
「え、えへへ…………」
ミレディゴーレムも乾いた笑いを零し、震えながら同じように親指を立てる。
そして俺は手首をクルッと返して親指を下に向け、
「タンマなーし!」
良い笑顔のままそう言ってやった。
その瞬間、
「メタルメテオ!!」
ドルグレモンが投げ付けるかのように上半身を振り下ろすと、巨大な鉄球がミレディゴーレムに向かって放たれた。
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!???」
向かって来る超巨大な鉄球にミレディは情けない悲鳴を上げる。
ミレディゴーレムは慌てて逃げようとしたが、その大きさと、放たれるスピードの前にそれは無意味。
ミレディゴーレムは成す術無く超重量の前に押しつぶされる。
そのまま空間の端まで鉄球が突き進み、ドゴォォォォォンと迷宮全体を揺らがせた。
やがて勢いを失った鉄球はデータ粒子に分解されて消える。
すると、ミレディゴーレムは全身をひしゃげさせ、胸部装甲全体に罅を走らせてはいるが、原型を残した状態でクレーターの底に埋もれていた。
「ううっ…………死ぬかと思った…………だけど、重力を反転させて身を守ったからギリギリ生き残れたよ…………今の内に修復を…………」
だが、そんなミレディの前に影が過った。
ヒシャリュウモンだ。
「ヒシャリュウモン!」
葵の掛け声に合わせて、前方にクルリと一回転すると、その身を巨大な剣に変える。
「成龍刃!!」
その切っ先をミレディゴーレムの胸部に向け、一気に突撃した。
この世界で最高の硬度を誇るアザンチウム鉱石と言えど、罅だらけの上に完全体の近距離必殺技の前には成す術は無い。
呆気なく装甲を抜かれ、コアを貫かれた。
「きゃぁああああああああああああっ!?」
ミレディゴーレムは力を失い、そのまま目の光を失う。
俺達はドルグレモンに乗ってミレディゴーレムの傍まで来ると、
「やれやれ、手古摺らせやがって………」
ハジメがダルそうにそう言った。
すると、視線をシアに向け、
「シア、今回の迷宮攻略はお前がいなければ危ない所は沢山あった…………まあ、なんだ………? よくやった………見直したぞ………!」
ハジメは少し照れ臭そうにそう言う。
一方、シアは鳩が豆鉄砲食らったような顔をして、
「ハ、ハジメさんが凄く優しい眼をしてる気が………ゆ、夢………!?」
どうやらハジメに褒められたのが信じられないらしい。
「お前な………」
そんなシアの反応にハジメは呆れるが、自業自得だ。
すると、ユエがシアに歩み寄り、
「ハジメは撫でないだろうから代わりに………よく頑張りました………」
そう言いながらシアを抱きしめた。
その行動にシアは感動の表情をして目を見開いた後、気が緩んだのか目に涙を浮かべ、
「ユエさん………私………わたし…………怖かったですぅ! 何度も死んじゃうかもって思いましたぁ!!」
ユエに抱き着いて大泣きした。
そんな様子を皆は優しい眼差しで見つめる。
すると、
「………あのぉ~、良い雰囲気の所悪いんだけど、ちょっといいかな?」
ミレディゴーレムが目に光を取り戻し、動き出していた。
それに気付くと優花が槍を持ち、更にその後ろでシアが戦槌を準備する。
「ちょっとちょっと!? 待ってってば! 少しだけ話をさせてよ!!」
ミレディは慌ててそう言うが、今までおちょくられ続けた俺達は聞く耳を持たない。
「園部、シア、全力でやれよ………!」
ハジメが確実にトドメを刺すようにそう言う。
「「勿論(ですぅ)!」」
2人は間髪入れず頷く。
「大丈夫だって! 試練はクリア! あんた達の勝ち! 約束通り全員合格!!」
ミレディはあっさりと負けを認める発言をする。
「核の欠片に残った力で話してるだけ。後数分も持たないよ」
「…………何の話だ? 狂った神を倒してくれなんて話は聞かないぞ」
本当に話したいだけと判断したのかハジメが続きを促す。
「言わないよ。話したい………というより忠告だね。必ず私達『解放者』全員の神代魔法を手に入れる事。君の望みを叶えるには必要な事だよ」
「なら、他の迷宮の場所を教えろ。ほとんどが記録にも残ってねえんだよ」
「あぁ、そうなんだ……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……じゃあ、一回しか言えないと思うからよく聞いてね。砂漠の中央にある大火山『忍耐の試練』、『グリューエン大火山』。西の海の沖合周辺にある『狂気の試練』、『メルジーネ海底遺跡』。教会総本山『意志の試練』、『神山』。東の樹海にある大樹ウーア・アルト『絆の試練』、『ハルツィナ樹海』。そして最後は……………」
全ての迷宮の場所を告げ終えると、
「………以上だよ。頑張ってね」
「随分しおらしいな。あのうざったい口調はどうした?」
「あはは……ゴメンね。
「おい、狂った神の事なんて関係ないと言っただろうが?」
「戦うよ。君が君である限り………必ず神殺しを成す………」
ミレディはそう断言しきった。
「君は君の思った通りに生きればいい………それがきっと………この世界にとって最良の選択だ………」
限界が迫っているのか言葉が途切れ途切れになってくる。
「…………そう言えばそこの見慣れない生物を従えている君達?」
「何だ?」
ミレディの見慣れない生物というのはデジモンの事だろう。
「確かに君の言う通りだ…………言質を取っていなければ試練の突破は無しになるところだったよ…………」
「だろう?」
「……………だから、君達には伝えておく…………最近、あの
「どういうことだ………?」
「詳しくは分からない…………だけど、この世界の『
「ッ!? デジモンが!?」
「デジモン………って言うのかい? 魔人族側にチラホラとそのデジモンって生物が現れているようなんだ…………」
「何だって!? それは一体………!?」
「さっきも言ったけど、詳しくは分からない…………ただ、この世界の生物とは根本的に異なっている…………だから、あの
「デジモンに関係する…………神と対等な存在……………? ッ!? まさか………!」
俺はデジモンの神ともいえる存在を知っている。
この世界の地球では認知されていないが、デジタルワールドが存在する以上、デジタルワールドを管理するあの存在が居てもおかしくはない。
「何か心当たりがあるようだね…………?」
ミレディの言葉に俺はハッとなる。
「大士………?」
葵が心配そうに俺の顔を覗き込む。
「……………まだ断言はできない」
だが、本当にあの存在がこの世界に居るならば、この世界にデジモンを呼び込むことも不可能では無いだろう。
デジタルワールドを管理するホストコンピューター。
デジモン達の神と言っていい存在。
「この世界にも存在するのか…………? イグドラシルが…………」
俺は小声でそう呟いた。
「そう………もうちょっと話したいけど残念だけど時間の様だ。大丈夫………先には進めるようにしておくから…………」
しおらしいミレディの言葉。
そんなミレディの前にユエが立つ。
「何………かな………?」
ミレディが問いかけると、
「………お疲れ様。色々考えたけど、これ以上の言葉が見つからない」
すると、白崎さんや優花、葵もミレディの近くに行き、
「あの、本当にありがとうございました!」
「あの言い方にはイラッと来たけど、アンタのその信念には敬服するわ」
「あなたの期待に応えられるか分からないけど、あなたから聞いた話は無駄にはしません」
それぞれが言葉を贈る。
「ふふっ………ありがとね…………」
そう言い残すとミレディゴーレムは消え去った。
「嫌な人だと思っていましたけど、違っていたのかもしれませんね」
「ん…………」
消え去ったミレディゴーレムを見てシアとユエはそう呟いた。
が、俺は人をおちょくってきたミレディの性格を考えて、この後にとある可能性を考えていた。
なので、まだ素直に敬服することは出来ない。
可能性が消えた時に改めて敬服しよう。
そう思っていた時、
「もういいだろ? さっさと行くぞ」
ハジメはサラッとそう言った。
「「「「「ハジメ/南雲(さん)(君)…………空気読んで…………」」」」」
女性陣から若干非難の目を向けられる。
ミレディが用意した足場に乗ると、勝手に動き出して通路の先へ進んでいく。
「動く床で案内してくれるなんて優しいですね!」
「ミレディは演技してただけなのかも………」
女性陣は笑みを浮かべながらそう話し合っているが、
「いいや、断言する! あの性根の悪さは間違いなく素だ!」
「ハジメさん! 先ほどから空気読めてないですよ!」
「あの意地の悪さは演技ってレベルじゃねえよ。あと、俺は空気が読めないわけじゃない。あえて読んでいないだけだ」
その言葉と共に足場が通路の奥に辿り着き、その先にある扉が開く。
そこで出迎えたのが、
「やっほーー! さっき振りーー! ミレディちゃんだよーーー!」
先程と同じ声で動く、子供位の背丈のゴーレムだった。
可能性が的中したことに俺は頭を押さえる。
「ほらみろ。こんなこったろうと思ったよ」
ハジメはあっさりと納得する。
俺は可能性として考えていただけだったが、ハジメは完全に確信していたようだ。
「ミレディが消えたら、このあといったい誰が案内役をやるんだよ?」
何気に確信の理由があったことに俺は驚いた。
「あっちゃー! バレてたか。流石は私の試練の攻略者だね!」
ミレディはあっけらかんとそう言うが、
「…………さっきのは?」
ユエを筆頭に女性陣が白けた目を向ける。
「おっ? さては女の子達は消えたと思ってた?」
ミレディの小型ゴーレムはしてやったりの笑みを浮かべ、
「ないな~い! そんな事あるわけないよ~! じゃあ女の子達にはドッキリ大成功~☆騙されてやんの~! プークスクス!」
その言葉に俺は周りの空気の温度が下がったのを感じる。
ミレディはゴーレムだからなのか、その変化を感じ取れないらしい。
「良かったでしょあの“演出”! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて………」
と、そこまで言ってようやく女性達の周りに流れる冷たい空気に気付いたらしい。
冷ややかな視線を受けて狼狽え始める。
「あ………あの………? もしかして………ちょっとやり過ぎちゃった………?」
女性達に囲まれ、ミレディは…………
「……………ゴメンね☆」
テヘペロという反省ゼロの態度で謝った。
その少しあと、
「………はい、魔法陣の中に入って………じゃ、起動するよ」
ミレディの言葉で魔法陣が輝き始める。
因みにミレディの小型ゴーレムの各部には所々に苦無が刺さっていたり、被っているフードに銃創があったり、殴られた跡があったりと、全く同情の出来ない有様だった。
「………次ふざけたら破壊するから」
ユエの言葉に、
「はい! 全力でやらせていただきます!」
ミレディは背筋を伸ばして敬礼することで答えた。
魔法陣が輝くと頭の中に重力魔法がインプットされていくのが分かる。
まあ、魔力の無い俺には使えないわけだが。
「思ってた通りだな」
「ん、重力操作の魔法」
ハジメとユエがそう言う。
「金髪ちゃんと黒髪ちゃんは適性ばっちり! そっちの白い髪の女の子と中途半端な髪の子はそれなりだね。ウサギちゃんは出来て体重を変える事ぐらいかな」
「私、適性無いんですね?」
シアが残念そうに言う。
「私は適性があっても魔力が少ないから宝の持ち腐れなんだけどね………」
葵は苦笑する。
「男の子2人はビックリするほど適性無いね」
「やかましい、錬成が使えればそれでいいんだよ」
「初めから分かってた事だよ………」
ミレディの言葉にそう返す。
「あと君にはコレ」
そう言ってミレディがハジメに指輪を投げ渡す。
「攻略の証だよ。大切に取っておいてね」
すると、
「これだけか?」
「え?」
ハジメがミレディに詰め寄る。
ガっとミレディの頭を掴むと、
「攻略報酬だよ! オルクスは他にもいろいろな物をくれたぞ!?」
「ひぃいいいいいっ!?」
ハジメ、完全に強盗の顔だぞお前。
そう思う俺を他所に、ハジメは次々とミレディを強請っていった。
「何だよ、色々貯め込んでるじゃねえか!」
ハジメは笑顔で倉庫らしき場所に貯め込んであった物を一つ残らず宝物庫に回収していく。
「ううっ………こんなの完全に強盗じゃないか………」
膝を着いて項垂れるミレディだが、ちっとも可哀想とは思えないのは先程までのミレディの態度ゆえだろう。
「さーて、どんな武器を作るかな?」
ハジメは楽しそうに笑いながらそう言う。
「楽しそうな声で凄い事言ってるよ………」
ミレディは半ば呆れた声を漏らす。
「じゃあ、もうやることは済んだかな?」
「まぁ、そうだな」
ミレディの言葉にハジメがそう返事をすると、
「オッケー☆ それじゃ、とっとと出ていってね♪」
いつの間にかミレディの横に垂れて来ていたロープを引っ張った。
すると、スルスルとミレディがロープに引っ張られて宙に浮くと、突如としてこの部屋に水が流れ込むと同時に部屋の中央に穴が開く。
「黒騎君! 葵ちゃん! “聖絶”!!」
白崎さんが咄嗟に俺と葵の傍に駆け寄ってきて『聖絶』で球体の結界を張り、俺達を包む。
他のメンバーはそのまま水に飲まれる。
「おい! これってまさか!」
ハジメが気付いたように声を上げる。
「いやな物は水に流すに限るね! それじゃ、引き続き攻略頑張るんだよ~~~~!」
ロープで空中に退避していたミレディが気楽な声でそういう。
「てめえ! 覚えておけよ!!」
「………許さない!」
「いつか絶対破壊してやるですぅ~!」
俺達はそう言うが水の流れには逆らえず、まるで便所に流される“ピーー”の様に部屋の中央の穴に呑み込まれて迷宮から強制排出されたのだった。
因みに俺も機会があれば絶対に迷宮ごと消滅させてやると心に誓った。
第18話の完成。
やたら長くなった。
まあ大筋は原作通り。
最後にデジモン出そうと思ったけど、やっぱりミレディゴーレムを思いっきり叩き潰したかったので…………
あと、漸く名前が出てきたイグドラシル。
まあ、推測ですけど。
イグドラシルの存在に何となくミレディが気付いてましたけど、この世界のミレディは偶に外の世界を覗いていたって事で。
次回は多分フューレンまでの道程。
さて、先生達との再会までもう少し。
何と先生達には…………フフフ…………
お楽しみに。