ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第26話 究極体、現る………!

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

『学院披露会』が終わってから程なく。

カイルとエミリアの故郷のフェート村。

その村では、いつもの様に村人たちが農作業を行っていた。

いつもの様に変わらない『日常』の光景。

だが……………

それは突然起こった。

村人の1人、カイルとエミリアの幼馴染でもあるダンが自分の仕事をしていた時、ふと麦畑の向こう側に見える森が、ざわついた様に感じた。

 

「…………何だ?」

 

ダンが怪訝な声を漏らしながら背伸びをして、森と麦畑の境目を注視する。

するとその直後、森の中から夥しい数の魔物や魔獣が溢れ出してきた。

 

「なっ!?」

 

魔物の津波。

そう言い現わして然るべきものだった。

魔物達は、全てを呑み込まんとフェート村に迫った。

 

 

 

 

そして、異変が起こっていたのはフェート村だけでは無かった。

魔族領と隣接しているフォルダ公爵領。

その魔族領に近い辺境の村々が次々と魔物の大群に襲われ、壊滅していた。

そして、村々を壊滅させた魔物の大群は合流して1つとなり、フォルダ領の中心都市『アレフ』に迫っていた。

そして、その知らせは王都に………

勿論、学院やタイシ達の耳にも届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………」

 

俺は、何と声を掛けていいか分からなかった。

先程学院に届いた報せ。

それは、魔族領から魔物や魔獣の大群がフォルダ公爵領に侵攻してきているとの知らせだった。

そして同時に、フォルダ領の魔族領に近い辺境の村々が壊滅したという報せも………

それはつまり、エミリアやカイルの故郷であるフェート村も、その中に入っているという事だ。

 

「ッ………!」

 

カイルが悔しそうに僅かに声を漏らし、拳を握りしめる。

 

「カイル………」

 

リティナ王女は、心配そうにカイルに寄り添っていた。

 

「…………………」

 

エミリアも、暗い表情で俯いている。

我慢しているのか、涙は流していないが、大分堪えている様だ。

普段なら、そんなエミリアを見ればクラウディアが放っておくはずは無いのだが、

 

「父上………母上………兄上…………」

 

そのクラウディアも、家族がいるアレフ市に魔物の大群が迫ってきている現在、気が気でなかった。

今更だが、クラウディアには5歳ほど年上の兄がおり、フォルダ公爵の息子だけあって人格者で、次期領主として期待が持てる人物だ。

アレフ市にも防衛戦力や冒険者達が存在するが、どれだけ持ちこたえられるか不明だ。

デジタルナイトも数が少なく、成熟期ではそう長くは戦えないだろう。

 

「……………………」

 

俺は、そんな彼女達を見て、心の中に燻る何かを感じていた。

彼女達にそんな暗い顔をさせたくない。

何とかしてやりたいという思いが少なからずある事に気付いていた。

過ぎてしまったエミリアのフェート村だけはどうにもならないが、クラウディアの家族がいるアレフ市はまだ間に合う。

 

「…………………」

 

ドルモンを究極体に進化させれば、魔物や魔獣の群れ如き、一撃で粉砕できるだろう。

だが、それは同時にこの世界全てから目を付けられることを意味する。

彼女達に惹かれ始めているのは自覚しているが、世界全てから目を付けられてまでやるべきかどうか、踏ん切りがつかなかった。

すると、

 

「どうか、無事で………………」

 

クラウディアが祈る様に胸の前で手を組み、目を伏せると一筋の涙が零れた。

その時だった。

 

「行きましょう! クラウ!」

 

突然エミリアがそう叫んだ。

 

「リア………?」

 

エミリアの言葉に呆気に取られるクラウディア。

 

「助けに行きましょう! クラウの家族を!」

 

エミリアは更に叫ぶ。

 

「リア………だが、お前は………」

 

「もちろん凄く悲しいです! でも、クラウの家族はまだ生きているんです! 今すぐ行けば間に合うかもしれない! クラウには、こんな悲しい思いはして欲しくありません!」

 

エミリアは、自分の思いを口にした。

 

「………………エミリアがそう言うなら、俺も落ち込んでばかりじゃいられないね………!」

 

すると、エミリアに感化されたようにカイルも顔を上げた。

 

「カイル………!」

 

「今の俺達は、ただの学生。軍やギルドに所属してるわけじゃないから、俺達は俺達の意思で救援に向かえる!」

 

カイルは握り拳を作り、そう叫ぶ。

カイルの言う通り、俺達は何処の指揮系統にも属していない。

軍上層部の命令や許可など取る必要が無いのだ。

まあ、勝手な行動を取れば、学院の先生からはお叱りを受けるだろうが………

 

「私達も忘れて貰っちゃ困るわね!」

 

「クラウディアは大事な仲間。助けるのに理由は要らない」

 

アリスとエリスも乗り気な発言をする。

 

「アリス……エリス………」

 

クラウディアが声を漏らすと、

 

「…………わたくしも参りますわ」

 

リティナ王女までそう言い出した。

 

「リティナ様!? いけません! 訓練でもない危険な場所にリティナ様を連れて行くわけには……!」

 

流石にそれにはクラウディアも驚愕の声を上げた。

しかし、

 

「いいえ、行かせてください。あなたが家族や領民を護りたいのと同じように、私も王族として国民を護る義務があります。それに万が一、勝手に救援に向かった事であなた達に責任が及んだ時に、わたくしがあなた達を率いて勝手に出撃したと良い訳が立ちます」

 

「リティナ! これは俺達の意思なんだ。リティナが責任を負う必要は………」

 

「これはわたくしの意思です。わたくしはわたくしの意思であなた達を護りたいと思っているのです。この位はさせてください」

 

「リティナ………」

 

カイルは自分で言った言葉を逆に言われてしまい、口を噤む。

 

「………決まりですね」

 

リティナ王女は笑みを浮かべてそう言った。

となれば、まだ発言していない俺の方に全員の視線が向く。

すると、クラウディアは軽く目を伏せ、再び開くと、

 

「心配しなくても無理強いはしないさ。これは私の我儘だ。私の我儘に巻き込むことはしない……!」

 

真剣な表情でそう言った。

それを聞いて、俺は軽く息を吐く。

そして、

 

「確かに、俺は見ず知らずの誰かの為に命を懸けるような真似は御免だ」

 

「「「「「「……………………」」」」」」

 

俺はそう言うが、皆は黙って話を聞いている。

 

「だが…………()()()()()()()()()に手助けするのは吝かじゃない」

 

「タイシ………それは…………!」

 

クラウディアが目を見開く。

 

「ヤバくなったら逃げる。それでいいなら手を貸そう」

 

「ッ! ありがとう!」

 

クラウディアが万感の思いで感謝の言葉を口にした。

すると、

 

「はあ、以前から思ってたけど、タイシってひねくれ者よね」

 

アリスが呆れた様に呟く。

 

「………何がだよ?」

 

そのアリスに俺が聞き返すと、

 

「何だかんだ言ってるけど、結局は助けてくれるって所よ」

 

「………別に嘘は言って無いぞ? 本気で危なくなれば逃げるだろうし」

 

「その『本気』が一体何処までなのやら………」

 

アリスは呆れながら肩を竦めた。

 

「素直じゃない」

 

エリスもそう言った。

 

「ふふっ、皆大士のこと、よくわかって来たね」

 

ドルモンが嬉しそうに笑みを浮かべながらそう言った。

 

「……………まあいい。行くと決まったのならここからは時間との勝負だ。すぐに出るぞ!」

 

俺の言葉に、全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

 

 

フォルダ公爵領の中心都市、『アレフ市』。

そこでは、迫りくる魔物や魔獣の群れに対し、激しい防衛戦が行われていた。

アレフ市は、元々魔族領が近い事から、このような襲撃も想定しており、高い市壁に囲まれている。

その為、都市内部への本格的な侵入は防がれており、空を飛べる一部の魔物には侵入されるが、それらは全て撃退する事に成功していた。

大規模な衝突が何度か行われ、その間の戦闘が小規模になる僅かな時間。

市壁の上で、防衛軍の指揮を執るフォルダ公爵が戦況を見守っていた。

すると、彼の近くにフォルダ公爵と同じ金髪とエメラルドの瞳を持つ男性が近付いた。

 

「父上」

 

「クラウスか………」

 

その男性の名はクラウス・アルファ・フォン・フォルダ。

フォルダ公爵の息子でクラウディアの兄だ。

 

「戦況は如何だ?」

 

「騎士や冒険者達の奮闘により、これまでは何とか持ちこたえてきました………ですが、既に脱落者が半数を超えました。もし敵の本隊が動き出せば、勝ち目はありません………」

 

クラウスは悔しそうに声を絞り出す。

クラウスの言う通り、今まで何度か大規模な戦闘はあった物の、それらは全て別動隊であり、敵の本隊は10万以上の大群だ。

 

「やはり、今までの戦闘は、こちらを疲弊させるのが目的か………」

 

「はい。単なる魔物の侵攻にしては、統率が取れ過ぎています。となれば、考えられるのは………」

 

「『魔族』………か?」

 

「おそらく」

 

「そうか…………」

 

フォルダ公爵は軽く息を吐くが、俯かずに背筋を伸ばして前を向く。

 

「王都からの応援は?」

 

「侵攻を受けてすぐ要請は出しました。しかし、軍の編成には数日………長ければ一週間ほど掛かるでしょう………それに、考えたくはありませんが、この都市を囮にして、王都の防衛を万全にする、という策が取られる可能性も………」

 

「私を快く思っていない貴族は多い。これ幸いにと軍の編成を遅らせる策謀を巡らせておるやもしれんな………」

 

フォルダ公爵は自嘲する様に呟く。

そして、眼下で戦闘を繰り広げる者達の中で、数少ないデジモンを従えた者達に目を向ける。

 

「クラウス………つかぬ事を聞くが、私が『ロイヤルナイツ』を指名しなかった事は、間違いだと思うか?」

 

フォルダ公爵はそう口にした。

 

「…………確かに、完全体を従えたロイヤルナイツが居れば、もう少し持ち堪える事ができたでしょう」

 

「そうか………」

 

「ですが、ロイヤルナイツを指名しないことは、フォルダ公爵家に言い伝えられてきた事であり、誇りです。例え私が父上の後を継いだとしても、ロイヤルナイツを指名する事は無かったと言い切れます!」

 

クラウスは自信を持ってそう言う。

 

「…………………」

 

クラウスの言葉に、フォルダ公爵は目元が熱くなるのを感じた。

だが、フォルダ公爵は気を取り直すと、

 

「クラウス。ここは私に任せ、お前はこの街を脱出しろ。貴族の義務を果たすのは、この私だけで十分だ」

 

フォルダ公爵は、クラウスに避難する様に言う。

だが、

 

「いいえ。それは聞けません。私も未熟ながら公爵家の次期当主。護るべき民を置いて、逃げる訳には行きません」

 

都市内部には、避難が間に合わず、取り残された領民が数多くいた。

 

「だが………」

 

「我々が居なくとも、クラウディアが居ます」

 

「クラウディアか………思えば、あやつには随分と苦労させてしまったな」

 

「幼き頃に決まった殿下との婚約。殿下の婚約者の名に恥じぬようあらゆる努力を惜しまず、それ以外の事を碌に教えてやれませんでした」

 

「挙句の果てに、殿下からの婚約破棄か…………」

 

「私もそれを聞いた時は腸が煮えくり返る思いでした。クラウディアは殿下の為にその人生を投げ打ってまで尽くそうとしていたのに、その仕打ちがこれか、と………」

 

「私も同じ気持ちだったよ。殿下を本気で殴りたいと思った事はあれが初めてだった。ここだけの話だがな、タイシ殿が殿下を殴り飛ばしてくれた時には、思わず喝采を上げたくなったよ」

 

「私もです。その話を聞いた時には、『信じられない』と思う前に、『よくやってくれた』と思いましたから」

 

フォルダ公爵とクラウスは、ハッハッハと笑い合う。

その時だった。

伝令役の兵士の1人が、切羽詰まった表情で駆け寄って来た。

 

「伝令!! 魔物達の本隊が動き出したとの事です!!」

 

2人はその知らせを聞き、

 

「遂に来たか………結局、お前を逃がす暇は無かったわけだ………」

 

フォルダ公爵が遠くを見やると、10万を超える魔物の大群が押し寄せてくるのが見えた。

 

「クラウス、覚悟はいいか?」

 

「元より! 1匹でも多く道連れにしてやりましょう!」

 

フォルダ公爵の言葉に、クラウスは勇ましく応える。

そして、決死の覚悟で魔物達の大群に向き直った。

その時………!

 

「メタルメテオ!!」

 

突如として影が一帯を覆ったかと思うと、2人の頭上を巨大な球体が横切り、そのまま魔物の大群へと向かっていく。

それは直径が200mはあろうかと言う超巨大な鉄球だった。

その超巨大な鉄球は、迫りくる魔物達の大群を前方中央から圧し潰し、その勢いは大群の中程まで達した。

魔物達で黒く染まって見えた大地に、白い線が引かれた様に鉄球によって抉り取られている。

もちろん、先程までそこにいた魔物達は圧し潰されていた。

大群の総数から見ればほんの一部。

だが、それでも無視できない数が、一瞬にして倒されたのだ。

 

「い、今のは一体………?」

 

クラウスが思わず呟く。

更に、

 

「ギガデストロイヤー!!」

 

「トライデントリボルバー!!」

 

続けて放たれた2発のミサイルと、3発の巨大な弾丸が魔物の群れに着弾。

それぞれが大爆発を起こして、数えきれない数の魔物達を一瞬で吹き飛ばした。

それを見て、呆気に取られているフォルダ公爵とクラウスだったが、

 

「父上! 兄上!」

 

聞き覚えのあるその声に、思わず振り返った。

そこには、ドルグレモンを先頭に、メタルグレイモン:アルタラウスモード、ライズグレイモン、ワーガルルモン:サジタリウスモード、パイルドラモン、エンジェウーモンが飛行しながら、2人が居る所に近付いてくるところだった。

そして、ドルグレモンの背の上には大士が。

メタルグレイモンの上にはエミリアとクラウディアが。

ライズグレイモンの上にはカイルとリティナが。

パイルドラモンの上にはアリスとエリスが乗っていた。

 

「「クラウディア!?」」

 

メタルグレイモンの肩に乗っているクラウディアの姿を見て、思わず驚愕の声を上げる2人。

ドルグレモン、メタルグレイモン、パイルドラモン、ライズグレイモンが、一度市壁の近くに滞空すると、大士達がそれぞれのデジモンから市壁の上に降り立つ。

 

「父上! 兄上! ご無事で!」

 

メタルグレイモンの左腕を伝って駆け下りたクラウディアが、安堵の声を上げながらフォルダ公爵とクラウスに駆け寄る。

2人に近付くと、

 

「何故来た!?」

 

フォルダ公爵が思わず叫ぶ。

その言葉は父として、純粋に娘を思っての事だ。

クラウディアは一瞬バツが悪そうな表情をするが、

 

「フォルダ公爵、その話は後です」

 

ライズグレイモンから降りてきたリティナが歩み寄りながらそう語りかける。

 

「お、王女殿下!? 何故このような危険な場所に!?」

 

クラウスもリティナの登場に驚愕を隠し切れない。

 

「もちろん民達を救う為です。何より、今はこの場を乗り切る事が先決」

 

リティナは大士に向き直ると、

 

「ではタイシ殿………皆に指示を………勝つための指示をお願いします」

 

その言葉を口にした。

大士は魔物の大群を見ながら少し考える仕草をすると顔を上げ、

 

「よし! ドルグレモン! メタルグレイモン! ライズグレイモン! お前達は、魔物達が固まっている場所を中心に攻撃しろ! とにかく数を減らす事を最優先だ!」

 

「わかった!」

 

「おう!」

 

「任せとけ!」

 

ドルグレモン、メタルグレイモン、ライズグレイモンが迷いなく応える。

 

「パイルドラモンは、デスペラードブラスターで最前列を掃射だ! こっちも数を減らす事が優先で、無理に全てを倒そうとする必要は無い!」

 

「「了解だ!」」

 

パイルドラモンが頷く。

 

「ワーガルルモンとエンジェウーモンは、パイルドラモンが撃ち漏らした敵の内、他の騎士や冒険者達が手古摺りそうな大物を中心に狙って行くんだ! 小物は騎士や冒険者達に任せればいい!」

 

「ああ!」

 

「任せて!」

 

ワーガルルモンとエンジェウーモンも頷いた。

そして、それぞれは各々の役割を果たすために飛び立つ。

それから、皆の方に向き直ると、

 

「エミリアとアリス、エリス、リティナ王女は救護班の手伝いを。軽症者はリティナ王女が。重傷者はエミリアが。アリスとエリスは手遅れを担当しろ」

 

「はい!」

 

「わかったわ!」

 

「ん」

 

「お任せください!」

 

それぞれが返事をして踵を返し、

 

「あ、ちょっと待て!」

 

大士は思い出したように呼び止めた。

 

「「「「?」」」」

 

4人が振り返ると、

 

「こいつも持ってけ」

 

大士は宝物庫から、いくつかの魔晶石を取り出して差し出した。

 

「この石は……?」

 

エミリアが尋ねると、

 

「この石は魔晶石。簡単に言えば、魔力を溜め込んで置ける物だ。自分の魔力を使い果たしたら、この石に溜め込んである魔力を使え」

 

この魔晶石は、大士が使う魔力駆動四輪や二輪の予備動力源として持っていた物だ。

 

「………まあ、今更アンタが何を出そうと驚きはしないけどさ………とりあえず貰ってくわ」

 

アリスが呆れた様な表情を見せたが、すぐに魔晶石を手に取ると、再び駆け出した。

それを見送ると、

 

「俺達はこの場でフォルダ公爵達の護衛だ。この街の為にも、フォルダ公爵には生きて貰わなければ困るからな」

 

「もちろんだ」

 

「わかったよ」

 

大士の言葉に、クラウディアとカイルは頷いた。

 

 

 

そして、

 

「メタルメテオ!!」

 

ドルグレモンが、超巨大な鉄球が魔物の群れを圧し潰す。

 

「ジガストーム!! ギガデストロイヤー!! ポジトロンブラスター!!」

 

メタルグレイモンが、エネルギー波で薙ぎ払い、ミサイルで吹き飛ばし、陽電子砲で消し飛ばす。

 

「ライジングデストロイヤー!!」

 

ライズグレイモンが拡散するレーザービームで広範囲を薙ぎ払う。

 

「デスペラードブラスター!!」

 

パイルドラモンが、空中を跳びまわりながら、最前列にエネルギー弾の雨を降らせて魔物達の数を減らす。

 

「ホーリーアロー!!」

 

「カイザーネイル!!」

 

エンジェウーモンが上空でドラゴンなどの大型の魔物を撃ち抜き、ワーガルルモンは、上がった機動力で戦場を飛び回りながら、危機に陥った騎士や冒険者達に襲い掛かろうとする魔物を切り裂いていく。

そうして、この都市の防衛戦力が接敵するころには、大幅に数を減らした小物の魔物だけが残り、問題なく駆逐していった。

一方、怪我人が運び込まれている救護所では、

 

「次の方、どうぞ!」

 

リティナが、意識がハッキリしている比較的軽傷の患者に治癒魔法を掛ける。

 

「おおっ………まさか王女殿下に治療していただけるとは………!」

 

治療を受けた兵士が感動の声を漏らす。

 

「早く! こちらへ!」

 

エミリアが重傷者に対して治癒魔法を掛けると、見る見るうちに傷が塞がっていく。

 

「あ、あれ程の重傷があっという間に………!?」

 

それを見ていた治癒師の1人が、その回復魔法の力に驚愕する。

一方、別の場所では1人の騎士隊長が部下に看取られながら息を引き取った所だった。

 

「隊長………隊長ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?」

 

部下の様子から、その隊長がどれだけ慕われていたのかよくわかる。

部下の騎士は、悔しさに涙を滲ませていたが、

 

「ちょっと邪魔! 早く退いて!」

 

その部下をアリスが突き飛ばした。

 

「うおわっ!?」

 

部下は素っ頓狂な声を上げたが、

 

「エリス! やるわよ!」

 

「うん!」

 

アリスとエリスは息を引き取った騎士隊長に手を翳し、アリスが〝魂魄魔法〟を。

エリスが〝再生魔法〟を行使する。

すると、

 

「ううっ………」

 

息を引き取った筈の騎士隊長が息を吹き返した。

 

「隊長!?」

 

驚愕の声を上げる。

その奇跡を見届ける事無く、アリスとエリスは次の患者へと急いだ。

 

 

 

 

 

戦いの様子を市壁の上から見ていたフォルダ公爵やクラウスは、驚愕の表情を隠し切れなかった。

つい先ほどまで、決死の覚悟で戦いに臨もうとしていたのに、10万以上いた魔物の大群は、瞬く間にその数を減らしていっていたからだ。

 

「完全体の力………これほどとは………!」

 

クラウスが声を漏らす。

だがその時、デジモン達の攻撃を運よく掻い潜ったドラゴンの1匹が、彼らに襲い掛かった。

 

「来るぞ! 迎え撃て!」

 

市壁の上に配備されていた騎士や魔法使いたちが、向かってくるドラゴンに向かって弓矢や魔法を放つ。

だが、ドラゴンの強靭な鱗の前にそれらの攻撃は成す術無く弾かれた。

ドラゴンはそのままフォルダ公爵やクラウスに向かってくる。

2人は、情けない姿は見せまいと、気丈にも向かってくるドラゴンを睨み付け、

 

「おらぁっ!!」

 

寸前で大士のデジソウルを纏った拳によって頭をかち上げられたドラゴンを目撃した。

 

「「ッ!?」」

 

その事に驚愕する間もなく、

 

「「はぁあああああああああああああっ!!」」

 

黒いクロススピアを持ったクラウディアと、大剣を振り被ったカイルによる同時攻撃で、ドラゴンは首を落とされて絶命した。

 

「「ッ!?!?!?」」

 

驚愕で声も出ない2人。

 

「ク、クラウディアがドラゴンを倒した………!?」

 

「し、信じられん…………」

 

漸く出た言葉がそれだった。

 

「この武器のお陰です」

 

クラウディアは手に持った黒い柄の槍を見せながらそう答える。

試作品とは言えハジメが作成したその槍は、雫が持つ黒刀の強化前の物に匹敵する性能を持つ。

並の竜種の鱗なら、容易く切り裂けるのだ。

 

 

 

そうして、絶望的に思われたこの戦いは、次第にアレフ市の優勢に次第に傾いていった。

ドルグレモン、メタルグレイモン、ライズグレイモンの範囲攻撃が多くの魔物を巻き込み、パイルドラモンの掃射が防衛隊に近付く魔物の数を減らし、エンジェウーモンとワーガルルモンが大物の魔物を狙い撃つ。

正に大士の狙い通りに事が進んだ。

そして、大士達が合流してから約1時間後。

 

「はぁあああああああああああっ!!」

 

ワーガルルモンが、最後の魔物を切り裂いた。

それを見たフォルダ公爵は、安全を確認しながら市壁の上からから地上に降り立ち、地上で戦っていた者達を見回すと、

 

「皆の者、よくやってくれた! 我々の勝利だ!!」

 

「「「「「「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」」」」」」

 

フォルダ公爵の宣言と共に、戦っていた兵士や冒険者達が勝鬨を上げる。

絶望的だった戦いを、大士達の助力があったとはいえ、奇跡的に勝利したのだ。

その喜びは一押しだった。

その時、救護班の応援に行っていたエミリア達が戻って来る。

 

「お疲れ様だな」

 

大士は労いの声を掛ける。

 

「はい! 救護所に運ばれてきた人達の治療は、無事終わりました!」

 

エミリアが嬉しそうにそう言う。

自分の力で人々を救えたのが嬉しいんだろう。

 

「でも、お陰で私達の魔力はスッカラカンよ。貰った魔晶石も全部使っちゃったわ」

 

「神代魔法は、魔力の消費が激しい………」

 

アリスとエリスがそう言うと、

 

「それは構わない。元々そのつもりで渡したものだからな」

 

大士はそう言って気にしない様に言う。

戦いに勝利し、皆の心に余裕が生まれ、和やかな空気が流れ始めた……………

 

―――パチパチパチ

 

その時、何処からともなく拍手の音が響き渡った。

そして、

 

「いやぁ、お見事お見事。まさか、あの戦力で都市1つ落とせないとは予想外だったよ………」

 

その声は空中から聞こえ、その場に居た者達は上を向く。

すると、そこにはコウモリのような翼が背中から生え、浅黒い肌に尖った耳。

長い爪や鋭い牙が特徴的な、人間に近い容姿をした種族の男が空中に浮いていた。

 

「……ま、魔族………!?」

 

「魔族だ………!」

 

兵士達の間に動揺が広がる。

 

「あれが魔族…………」

 

その言葉を聞いて、大士は呟く。

トータスの魔人族に近い肌の色と耳の形をしているが、コウモリのような翼や鋭い爪や牙が、それよりも凶悪に見せている。

その魔族の男は、こちらを称えるように拍手をしていたが、その手をピタリと止めると、

 

「本来なら、この国の王都を落とすために使うためのものだったが…………まあいい」

 

その言葉と共に、平原の遥か向こうから、地鳴りの様な音が響いてきた。

すると、平原の向こうに砂煙を上げながら、アレフ市に向かってくる大群が居た。

 

「お、おい……あれってまさか………!?」

 

「ま、魔物の大群!? まだいたのか!?」

 

「いや違う! さっきよりも遥かに多い!」

 

平原の向こうから迫って来たのは、先程までの大群より、遥かに多い魔物達の大群だった。

先程の10倍。

100万に達するかと思われる大群だ。

その事実に、戦いが終わったと思い、緊張感が切れた騎士や兵士、冒険者達は狼狽える。

 

「迫り来る敵の大群。絶望の中、奇跡的に掴んだ大勝利。だが、やっと掴んだ希望の中、更なる絶望が襲い掛かる…………面白いシチュエーションだろう? 掴んだはずの希望が、指の隙間から零れ落ちる気分は如何だ………?」

 

この場の大半が抱いているだろう思いを、態々口に出して説明する魔族の男。

その言葉は、先程の戦いで疲弊した者達の心を折るのには十分だった。

 

「う、うわぁああああああああああっ!?」

 

「に、逃げろ!?」

 

「勝てるわけが無い!」

 

心を折られた者達が、我先にと逃げ出し始める。

 

「クックック…………」

 

その様子を、楽しそうな様子で魔族の男は眺めていた。

このままでは、全員にその気持ちが伝播してしまう。

そうなれば、防衛線は完全に瓦解するだろう。

だが、その時、

 

「狼狽えてはなりません!!」

 

凛とした声がその場に響いた。

その声に、逃げ出そうとした者達が踏みとどまる。

 

「恐れる気持ちも分かります………逃げたくなる気持ちも分かります………ですが、そこで逃げたら、誰がこの街を、人々を護るのですか!?」

 

そう叫ぶのはリティナだ。

 

「わたくしは戦います。例えこの街が滅ぶのが『運命』だろうと、わたくしはそれに抗って見せます!」

 

その言葉は、この場にいる兵士や冒険者達の心に響いていく。

 

「皆さん! 希望を捨ててはいけません! 希望とは掴む物ではなく、心に持ち続けるものです! ですから、皆さんが諦めない限り、『希望』が失われる事などありはしないのです!」

 

リティナの言葉が、戦う気力を失っていた者達に、再び力を取り戻させていく。

 

「そして、『希望』が集まれば、『絶望』を振り払う大きな力となるのです!!」

 

その言葉を肯定する様に、エンジェウーモンがリティナの真上に飛び立ち、翼を広げてその輝きを見せる。

そして、ドルグレモン、メタルグレイモン、ワーガルルモン、ライズグレイモン、パイルドラモンが、リティナの周りに降り立ち、魔物の大群へ立ち向かう気概を見せた。

 

「戦士達よ! 武器を取りなさい! そして戦うのです! 自分の大切なものを護る為に!!」

 

その姿に、兵士達や冒険者達は感銘を受けた。

 

「総員抜剣! 守備隊の意地を見せろ!」

 

兵士の隊長がそう叫ぶと、兵士達が剣を抜き、掲げる。

冒険者達も、意地を見せるようにそれぞれの得物を構えた。

それを見て、魔族の男は興味深げにリティナを眺めた。

 

「あれだけの言葉で総崩れになりかけだった状況を覆すとは…………余程の名のある御仁とお見受けするが………?」

 

その男はリティナにそう問いかけた。

 

「わたくしは、サーバー王国第一王女、リティナ・オメガ・フォン・サーバー! この国を魔族の好きになどさせません!」

 

名乗りながらそう言い返す。

 

「これはこれは、まさか王女殿下だったとは…………それならば、こちらからも名乗り返さねば失礼というもの………」

 

魔人族の男は、恭しく、ワザとらしい態度で深々に礼をすると、

 

「この私は、魔将軍ガビエル。これより貴殿を………そしてこの国を滅ぼす男の名だ!」

 

堂々とそう宣言した。

 

「そう簡単に行くとは思わない事です」

 

リティナの周りに集まった完全体デジモン達が、威嚇する様に睨み付ける。

 

「なるほど、確かに完全体が6体も居れば、100万の魔物の軍勢だろうと打ち破られてしまう可能性がある………少なくとも、無視できない被害を被るだろう………」

 

ガビエルと名乗った魔人族の男は、リティナの言葉に対して、まるで分っているかのようにそう答える。

だが、その表情に焦りはなく、寧ろ余裕を持った表情だ。

 

「そう仰る割には、随分と余裕をお持ちですね?」

 

リティナもそれを怪訝に思ったのか、そう問いかけた。

 

「…………知りたいか?」

 

ガビエルは、その質問を待っていたかのように、ニヤリと口元を吊り上げた。

 

「では教えてやろう………」

 

そして、何かの合図の様に手を掲げる。

すると突然、空を暗雲が覆い始めた。

 

「な、何だ………?」

 

突然の事態にカイルが声を漏らす。

暗雲が空を覆うと、その暗雲の中から、何かがゆっくりと降下してきた。

暗雲を突き破る様に現れたのは、鋭い爪の付いた獣のような巨大な脚。

その姿が徐々に露になる。

黒い毛皮に覆われ、長い尻尾もある獣のような下半身。

上半身が赤い甲殻に覆われた、全長が200mもある、人型の巨人。

それがアレフ市から少し離れた場所に着地する。

 

「あ、あれは………!」

 

大士が思わず声を漏らした。

何故なら、それは大士にも見覚えのある存在だったのだから。

 

「これが私の切り札、『ヴェノムヴァンデモン』だ!!」

 

ガビエルが高らかに叫ぶ。

 

「ヴェノム………ヴァンデモン………?」

 

「デジモン………なのか………?」

 

エミリアとクラウディアが、その名を聞いて思わず声を漏らす。

すると、

 

「何が切り札よ! デカいだけならただのいい的じゃない! パイルドラモン!!」

 

「「おおっ!!」」

 

アリスの言葉にパイルドラモンが勇ましく応え、飛び立ってヴェノムヴァンデモンに向かっていく。

 

「何が相手だろうと戦うだけだ! ライズグレイモン!!」

 

「あんな奴ぶっ飛ばしてやる!」

 

カイルの言葉にライズグレイモンが続く。

 

「メタルグレイモン!」

 

「ワーガルルモン!」

 

「分かってる!」

 

「行くぞ!」

 

気を取り直したエミリアとクラウディアも、メタルグレイモンとワーガルルモンに呼びかける。

 

「エンジェウーモン!」

 

「ええ!」

 

エンジェウーモンも飛び立った。

 

「ま、待てお前達!!」

 

大士が咄嗟に制止の言葉を呼びかけるが、デジモン達は攻撃を開始する。

 

「デスペラードブラスター!!」

 

「トライデントリボルバー!!」

 

「ギガデストロイヤー!!」

 

「アルナスショット!!」

 

「ホーリーアロー!!」

 

5体の完全体の必殺技が、ヴェノムヴァンデモンの各部に直撃し、爆発を起こして爆煙に包む。

 

「どんなもんよ!」

 

アリスが自信満々にそう言うが、

 

「………フッ」

 

ガビエルは余裕の笑みを浮かべた。

煙が晴れていくと、そこには全くと言っていいほどダメージを受けていないと思われるヴェノムヴァンデモンが平然と立っていた。

 

「そんな………!?」

 

エリスが思わず声を漏らす。

 

「やれ、ヴェノムヴァンデモン!」

 

ガビエルがそう宣言すると、ヴェノムヴァンデモンが長い腕を振り被り、殴りかかって来た。

 

「なっ!?」

 

「早い!?」

 

思った以上の攻撃スピードに、メタルグレイモンとライズグレイモンは避け切れずに纏めて殴り飛ばされる。

 

「メタルグレイモン!?」

 

「ライズグレイモン!?」

 

エミリアとカイルが叫ぶ。

殴り飛ばされた2体は地面に叩きつけられ、動かなくなる。

 

「メタルグレイモン!」

 

「ライズグレイモン!」

 

思わずワーガルルモンとエンジェウーモンがそちらを振り返ってしまう。

その時、ヴェノムヴァンデモンが殴りつけた体勢から裏拳の様に拳を振るい、気を取られていたワーガルルモンとエンジェウーモンを吹き飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

「うぁああああああああっ!?」

 

2体も別方向に叩きつけられた。

 

「ワーガルルモン!?」

 

「エンジェウーモン!?」

 

クラウディアとリティナが声を上げる。

 

「「くっ! エスグリーマ!!」」

 

パイルドラモンが腕からスパイクを伸ばし、ヴェノムヴァンデモンの胸に突き立てようと突撃した。

だが、その一撃は赤い甲殻に阻まれ、全く効いてはいない。

その隙に伸びてきた腕がパイルドラモンを鷲掴みにする。

 

「「しまった!?」」

 

ヴェノムヴァンデモンはパイルドラモンを握りしめると振り被り、思い切り投げ付けた。

 

「「うわぁあああああああああああああっ!?」」

 

投げ付けられたパイルドラモンは市壁に激突し、その市壁を大きく崩す。

 

「「パイルドラモン!?」」

 

アリスとエリスが叫ぶ。

 

「くっ! ドルグレモン!」

 

大士は歯噛みしながらドルグレモンに呼びかける。

 

「メタルメテオ!!」

 

ドルグレモンは、ヴェノムヴァンデモンと同等の大きさの鉄球を生み出すと、それをヴェノムヴァンデモンに向けて放つ。

ヴェノムヴァンデモンは、その鉄球を全身で受け止める形になり、一歩後退した。

だが、長い両腕が鉄球を抱えるように掴むと、ビシビシビシッとその鉄球に罅が入り、次の瞬間にはベアハッグさながらの締め技の様に巨大な鉄球が砕かれた。

 

「くぅっ………!」

 

ドルグレモンは、悔しそうな表情をしたが、ヴェノムヴァンデモンは即座に腕を振り被り、ドルグレモンを殴り飛ばした。

 

「うわぁあああああああああああっ!?」

 

ドルグレモンはそのまま殴り飛ばされて地面に激突。

その拍子に進化が解けてドルモンに退化してしまう。

 

「ドルモン!」

 

大士がドルモンに駆け寄る。

 

「そんな………………」

 

エミリアが信じられないと言わんばかりの表情でそう呟く。

 

「何故…………!?」

 

クラウディアは、その疑問を口にする。

 

「ククク………ヴェノムヴァンデモンの力の前に、声も出ない様だな?」

 

ガビエルはエミリアやクラウディア達が浮かべる表情を満足気に見つめる。

 

「お前達はこう考えている筈だ。同じ完全体の筈なのに、どうしてここまでの力の差が……? と」

 

「ッ……!」

 

クラウディアが悔しそうに歯を食いしばる。

 

「教えてやろう。ヴェノムヴァンデモンは完全体などでは無い………! 完全を超え、究極へ至った存在なのだ………!!」

 

ガビエルは高らかに宣言する様に言い放つ。

 

「完全を超え、究極へ至った存在…………!? それって、まさか………!」

 

アリスが何かに気付いたように、驚愕の表情を隠し切れずに声を漏らす。

 

「………………『究極体』………!?」

 

エリスもその表情を驚愕に染めて呟いた。

 

「『究極体』…………御伽話や神話で聞いた事はありましたが………実在したというのですか…………!?」

 

リティナも平静を装ってはいるが、その声からは動揺が感じられる。

 

「その通り。ヴェノムヴァンデモンは究極体なのだ! 完全体まで進化させるのが精々のお前達と違い、私は選ばれた存在なのだ!!」

 

ガビエルは自尊心を隠さずに大仰に叫ぶ。

それを聞いた兵士達は、今度こそ、完全に心が打ち砕かれた。

逃げる気力も無くし、剣を取り落として膝から崩れ落ちる。

 

「…………………」

 

そんな中、クラウディアは無言で俯いていた。

だが、顔を上げると、大士の方を向き、

 

「タイシ………お前は逃げろ」

 

そう口にした。

 

「クラウディア………?」

 

その言葉に、大士は思わず聞き返した。

 

「相手が究極体であり、伝説の通りの力を持っているのだとすれば、私達に勝ち目はない。約束通り、お前はドルモンと一緒に逃げろ………」

 

クラウディアはそう言うと、ヴェノムヴァンデモンの方に向き直る。

 

「勝ち目は無いが………お前が逃げる時間位は稼いで見せるさ………」

 

その言葉で大士は悟った。

クラウディアは自分を犠牲に大士を逃がそうとしているのだと。

 

「カイル、お前はリティナ様を頼む。リティナ様は、この国の未来の為に、ここで死んではならないお方だ」

 

「クラウディア!? 何を!?」

 

その言葉にリティナは思わず叫ぶ。

 

「そうだよ! ここは力を合わせて………!」

 

カイルもそう叫ぶが、

 

「究極体はそのような甘い相手ではない……! 伝説では、一昼夜で一国を滅ぼす力を持つとも言われている。全滅するのがオチだ………!」

 

「ッ………!」

 

「ワーガルルモン!!」

 

クラウディアが叫ぶと、傷付き、ボロボロになりながらも、ワーガルルモンはその声に応えてクラウディアの近くに飛んできた。

 

「ワーガルルモン………すまないが、私の我儘に付き合ってくれ!」

 

「謝る必要は無いさ。クラウディアと共に行くのが、俺の道だ!」

 

「ありがとう……………行け! ワーガルルモン!!」

 

「おおっ!」

 

ワーガルルモンはヴェノムヴァンデモンに向かっていく。

 

「今の内だ! 逃げろ!」

 

クラウディアはそう叫ぶ。

だが、ワーガルルモン1体ではヴェノムヴァンデモン相手に時間稼ぎも難しい。

伸びてきた腕がワーガルルモンを捉えようとした。

 

「くっ!」

 

躱し切れないとワーガルルモンが覚悟した瞬間、

 

「うおりゃぁっ!!」

 

メタルグレイモンが、武装化した右腕をヴェノムヴァンデモンの腕に叩きつけ、軌道を僅かに逸らせる。

そのお陰でワーガルルモンはその手から逃れる事ができた。

 

「ッ!? リア!?」

 

クラウディアが驚愕の声を上げると、

 

「私も戦います!」

 

「駄目だ! お前まで巻き込むわけには………!」

 

「違います! 私が戦いたいんです! タイシさんを護る為に………!」

 

「ッ!?」

 

エミリアの言葉に、大士は目を見開いた。

エミリアは大士に歩み寄ると、

 

「タイシさん、私はあなたが好きです。好きな人には幸せになって欲しいと思います。ですから、早く逃げてください。逃げて生き延びて、元の世界に帰れたら、恋人と一緒に幸せになってください。それだけが、私の望みです」

 

エミリアはそう言って笑みを浮かべる。

それからすぐに振り返ってクラウディアの横に並ぶと、

 

「メタルグレイモン!」

 

「ポジトロンブラスター!!」

 

メタルグレイモンが砲撃を放つ。

すると、

 

「………アリス」

 

エリスが縋るような視線をアリスに向けた。

 

「………分かってるわよ。ここで逃げたら色々と負けだしね」

 

「アリス、エリス………まさかお前達まで………」

 

2人の様子に、クラウディアが声を漏らす。

 

「理由はエミリアと一緒よ。惚れた男を護りたい。ただそれだけ」

 

「ッ!?」

 

アリスが何気に言ったその言葉に、大士は驚愕する。

 

「アリス……!? お前………」

 

「うっさい! 何も言わないで! これでも結構恥ずかしかったんだから!」

 

アリスはそう言いながら頬を赤らめてそっぽを向く。

 

「何で………」

 

「何でも何も惚れちゃったんだから仕方ないでしょう!? 何より、あんたはあれだけ私達の事を助けてくれたのに、それで惚れられないなんて思ってるなんて、おかしいんじゃないの!?」

 

アリスはそう捲し立てる。

大士からしてみれば、女性から好かれないのは『運命』なので、そう思うのも仕方ない事なのだが。

続けて、エリスが大士の前に立ち、

 

「私もタイシが好き」

 

「エリス………」

 

その告白に驚愕しつつもエリスの名を呟く。

 

「タイシが私の人生に奇跡をくれた。アリスと仲直りさせてくれた。別れたままだった筈の『運命』を変えてくれた…………タイシのお陰で、私は幸せになれた……………それに……」

 

エリスは笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

「『初恋』もできた…………タイシの恋人になれたらもっと嬉しい。だけど、それは無理な事は分かってる。でも、タイシが居なかったら私は幸せになれなかった。だから…………ありがとう」

 

エリスはそう言ってアリスと共に、ヴェノムヴァンデモンに向き直る。

 

「「パイルドラモン!!」」

 

2人が同時に叫ぶと、市壁が崩れて瓦礫に埋もれている場所から、爆発する様にパイルドラモンが飛び出した。

 

「デスペラードブラスター!!」

 

エネルギー弾をヴェノムヴァンデモンに撃ち込んでいくパイルドラモン。

 

「何やってるの!? 早く逃げなさい! 長くは持たないわ!」

 

アリスが大士に向かってそう叫ぶ。

その大士は、俯きながら拳を握りしめていた。

 

「ええい! 諦めの悪い奴らめ! さっさと諦めて、おのれの『運命』を受け入れるがいい!!」

 

ガビエルが叫ぶ。

 

「はっ! その手のセリフは聞き飽きたわ!」

 

「その問いに対する答えは決まっている………!」

 

アリスとエリスが、

 

「私達は、そんな『運命』には従いません!」

 

「最後まで抗って見せる!」

 

エミリアとクラウディアが、

 

「そうだ! 最後まで諦めない!」

 

「力尽きるまで戦い続ける!」

 

「「俺達のパートナーと共に!!」」

 

そしてデジモン達がその信念を口にした。

どんなにヴェノムヴァンデモンが強大な力を見せても、絶望に屈しない彼女達の姿に、ガビエルはイラつきを覚えていた。

 

「くっ! ならば、その無駄な思いと共に叩き潰されるがいい!!」

 

ヴェノムヴァンデモンが大きく腕を振り被った。

その狙いは、エミリア、クラウディア、アリス、エリスの4人。

 

「やらせるかぁっ!!」

 

「うぉおおおおおおおっ!!」

 

「「はぁあああああああああああっ!!」

 

その繰り出されようとする拳に、攻撃を加える3体。

 

「無駄だぁ!!」

 

ガビエルの叫びと共に、ヴェノムヴァンデモンの拳が繰り出される。

 

「うぐあっ!?」

 

「ぐあっ!?」

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

3体はその拳に弾き飛ばされる。

そして、その拳は一直線にエミリア達4人に振り下ろされ……………

轟音と共に巻き起こった煙に包まれた。

 

「皆ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

カイルの慟哭に似た叫びが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵とリュウダモンだけでも早く合流させるべきか?

  • 早く合流させるべき。
  • 合流する時は嫁全員で。
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