【Side 三人称】
大士がフェート村で葵と再会した日の翌日…………
王都の王城では、緊急の議会が開かれていた。
議題は、フォルダ領に侵攻してきた魔物の大侵攻への対策である。
だが、その議会は揉めに揉めていた。
なぜなら、国王であるアスランは、すぐさま軍を編成し、援軍を派遣すると何度も発言したのだが、
「お待ちください陛下。その判断は早計かと」
その判断に待ったを掛ける貴族が居た。
そう発言したのは、貴族達の中でも王族に次いで発言力のある2つの公爵家の内の1つ。
フォルダ公爵家とは別の公爵家である、ガイゼル・デューク・フォン・オブジェクト。
「何を言う!? 事は1分1秒を争う! すぐさま援軍を派遣せねば間に合わんのかもしれんのだぞ!!」
アスランは感情的になりながら叫ぶ。
しかし、ガイゼルはその怒りを飄々と受け流し、
「だからこそなのです、陛下。もしかすれば、アレフ市は既に陥落しているのやもしれません。そこへ中途半端に編成した軍を派遣し、無駄に戦力を消耗するより、王都に戦力を集中させ、待ち構えた方が得策かと」
そう発言する。
「この私にロレンツォとフォルダ領の民達を見捨てろというのか!!」
「その通りでございます。勿論、少なくない犠牲が出るのはこの私も心が痛みます。ですが、目先の犠牲に囚われ、この国を守り切れなければ本末転倒。大を生かすために小を犠牲にする選択も、時には必要ですぞ」
もっともらしい理由を述べるガイゼル。
しかし、このガイゼルが当主を務めるオブジェクト家は、フォルダ公爵家と対立関係にあり、あわよくば今回の侵攻でフォルダ公爵家を亡き者に、もしくは大ダメージを与える事を企んでいた。
尚、このガイゼルの娘は召喚された山口 鉄平に宛がわれており、ほぼ篭絡済みである。
よってオブジェクト家は、同家が任命したロイヤルナイツと合わせ、事実上2体の完全体を有していると言っていい状況であり、それによって発言権も増している。
対するフォルダ公爵家は、国王であるアスランの信頼は得ているものの、ロイヤルナイツを指名していないため、戦力と言う意味では他の13家よりも劣ると言ってよかった。
時間を稼げば、戦力に不安の残るフォルダ公爵家では、魔物を防ぎきれなくなる可能性が高まる。
それも踏まえてガイゼルはこのような提案を出していたのだ。
「ぐっ………!」
アスランは歯を食いしばる。
ガイゼルに賛同する貴族は多い。
無理に自分の意見を通しても、貴族達の不満が溜まり、この後の政治に大きな影響を与えてしまう。
流石にそれは拙いとアスランも分かっているのか、中々言葉が出てこない。
その時、会議室の扉が勢いよく開いた。
そして、その向こうから現れたのは、
「父上、状況は聞き及んでおります!」
この国の王子であるレオナルドだった。
「レオナルド! 会議中だぞ!」
アスランはレオナルドを叱り飛ばすが、レオナルドはそれを平然とスルーし、ワザとらしく恭しい礼を取る。
「父上、フォルダ公爵領への援軍の件。是非この私にお任せを」
「何ッ………!?」
レオナルドから出た言葉に、アスランは怪訝な声を漏らした。
「私がマリカとテッペイとサトジ………そしてロイヤルナイツの半数を率い、フォルダ公爵領へ赴きましょう」
「ッ……………」
その言葉にアスランは驚愕する。
「少数精鋭であれば、編成に大した時間もかからず、行軍も容易でしょう。勇者であるマリカとテッペイ、サトジ。そして一騎当千の猛者であるロイヤルナイツが半数も居れば、魔物の大群など容易く蹴散らせます。そして万が一、アレフ市が陥落していたとしても、少数ならばすぐに引き返す事ができ、かつ王都の防衛戦力の編成も可能です…………」
「………………………」
アスランは一瞬悩んだ。
レオナルドは戦場を舐めている。
もちろん、訓練を除けば実戦経験など一度も無い。
そんなレオナルドを戦場に送り出す事も心配だった。
だが、同時にレオナルドが出した案が無難である事も確かだ。
その時、
「………陛下、私はレオナルド殿下の意見を支持いたします」
今まで援軍を送るのに反対派だったガイゼルが、掌を返したように賛成に回った。
「殿下の意見であれば、私が心配する王都の守備の心配もございません。早急に殿下を指揮官に任命し、援軍に行かせるべきかと」
何故ガイゼルの態度が急に変わったのかと言えば、ガイゼルは次期国王にレオナルドを推しているからだ。
最近のレオナルドは支持率が低迷し、ほぼ確定的だった次期国王の座が怪しくなってきていたのだ。
よって、レオナルドの発言から、今回の騒動を利用し、レオナルドにフォルダ領の。
延いてはこの国の救世主となって貰う事を思いついた。
人は物語的な話を好む。
この国の王子が勇者と共に国の危機に立ち向かい、それを打ち破る。
これ以上無い英雄譚だ。
支持率も軒並み回復するだろう。
更に、勇者の1人である異世界から召喚された少女と良い関係であると知れば、婚約破棄での悪評も打ち消せるだろう。
もっと言えば、フォルダ公爵家に恩も売れるため、今以上に有利な状況に立てると見込んでの事だ。
「ッ………………!」
もちろんそんな事はアスランも見抜いているが、今は一刻を争う。
仕方なくレオナルドに援軍を任せようとして、
「ご報告いたします!」
1人の伝令兵が会議室に飛び込んできた。
「フォルダ公爵領より使者が到着しました! 急ぎ報告する事があるとの事です!」
「何だと……………ッ!? 通せ!」
伝令兵の言葉に、アスランは最悪の可能性が脳裏に過る。
それは、アレフ市………延いてはフォルダ領陥落の知らせだ。
その可能性が高いと思っているが、聞かないわけにはいかない。
アスランは覚悟を決めて使者を通す様に命令した。
そして、その使者が入室してくる。
その使者は今まで何度もフォルダ公爵領と王城の伝達係を任されていた者であり、アスランもよく覚えている。
だが、そこでアスランが不思議に思った事は、その使者は全く悲壮感を感じさせなかった事だ。
もし陥落の知らせを届けに来たのなら、その表情は悲壮感や悔しさを滲ませている筈だからだ。
そして、その使者が口を開く。
「報告いたします! 先に報告した魔物の大進攻によるアレフ市での防衛戦は………すでに終了しております!」
その言葉に、何人かが唾をゴクリと呑み込んだ。
その使者が言葉を続ける為に口を開く。
「………結果だけを先に言えば、アレフ市の防衛は成功! 魔物の大群は、全て殲滅されました!」
その言葉に、会議に参加していた者達の間に驚愕が広がる。
「バ、バカな!? 報告では10万以上の大群だった筈だ! それをアレフ市の防衛戦力で殲滅できるわけが………!?」
動揺しながらそう叫んだのはガイゼル。
「はい。確かにアレフ市の防衛戦力では、冒険者ギルドの協力があろうとも防ぎきれる戦力ではありませんでした」
使者は冷静にそう語る。
「ならば何故……!?」
思わずガイゼルが聞き返すと、
「順を追ってご説明いたします。先ず、大進攻が始まった際、魔物の大群は魔族領の近くにあった村々を滅ぼしながら、アレフ市に攻め入って参りました。その数は目測で10万を超え、とてもではありませんが、アレフ市の防衛戦力では数日持ち堪えるのが精一杯でした」
「……………」
話を聞く貴族達は、早く次を話せと視線で促す。
「数日の戦闘の後、こちらの戦力が半減した所を見計らって、敵が総攻撃を仕掛けてきました。我々も、流石に死を覚悟いたしました」
使者はその時の事を思い出しながら話しているのか、その声には悲壮感が漂っていた。
「…………それで、どうなったのだ?」
アスランが続きを促す。
「はい。ですがその時です。リティナ王女殿下とクラウディア公爵令嬢が、学友と共に完全体6体を引き連れて、援軍に駆けつけたのです!」
「リティナとクラウディア嬢が!?」
「なっ!?」
アスランとレオナルドが驚愕の声を上げる。
ガイゼルも驚きで口をあんぐりと開けていた。
「完全体6体の力は凄まじく、また、それを指揮していたタイシ殿の指示も的確で、10万の魔物達も瞬く間に数を減らし、1時間ほどで殲滅が完了。更に、リティナ王女殿下自身も治癒師として負傷兵の救護に当たり、治療された者からは感謝の念が堪えませんでした」
「そう……か……」
アスランは力が抜けた様に椅子の背もたれに体を預ける。
「リティナの奴め………王女とあろうものが最前線に出向くなど、何を考えている………」
天井を仰ぎながらアスランはそう漏らすが、その声には呆れの他に歓喜に似た声色も混じっていた。
「ぐっ………リティナの奴………勝手な事を………!」
レオナルドは悔しそうに歯を食いしばる。
レオナルドが許可を取りに王城に来ている間に、リティナは自分の判断で即座に動いていたのだ。
レオナルドの目論見を、リティナが丸々掻っ攫ったに等しい。
貴族の間に安堵の息を漏らすもの、今後の策謀に考えを巡らす者など、いろいろな反応があったが、
「失礼ですが、まだ報告は終わっておりません」
使者がそう発言する。
「む……? 魔物達は殲滅されたのだろう? まだ何かあるのか?」
「いえ、寧ろここからが本題なのです」
使者の言葉に、アスランを含めた貴族達は驚愕した。
今までの報告が、全て前置きだというのだ。
「……………続けよ」
アスランが姿勢を改めると続きを促す。
使者が再び口を開いた。
「10万の魔物達を殲滅した後、程なくして1人の『魔族』が姿を現したのです」
「魔族だと!?」
アスランが驚愕の声を上げる。
「その魔族は、『魔将軍ガビエル』と名乗っていました。そして驚くことに、10万の魔物の大群は唯の先遣隊でしかなく、本隊はその更に10倍………100万を超える驚くべき数の魔物達だったのです」
「ひゃ、100万だと………!? いや、だがしかし、6体の完全体をもってすれば、その数とて………」
アスランはその数に驚愕するが、改めて考え直す。
すると、使者はそこで神妙な表情をして、
「そして………ここからが信じられない話なのですが……………その魔族は『究極体』デジモンを引き連れていたのです………!」
「『究極体』だと!? バカも休み休み言え!!」
その言葉を聞いた貴族の1人が叫んだ。
「『究極体』は神話や御伽話に出てくる空想上の世代だ! そのような虚偽の報告をするとは如何いうつもりだ!」
それに便乗して他の貴族も叫ぶ。
だが、使者は冷静な態度を崩さず、
「信じられぬのも無理はありません。ですが、わが命………そして主であるフォルダ公爵に誓って虚偽はありません………!」
「………………本当に……『究極体』が現れたのか………?」
アスランが問いかける。
「はい………事実、6体の完全体が束になって掛かっても、まるで歯が立たちませんでした」
そう語る使者をジッと見つめるアスラン。
「……………ならば、何故貴君は無事なのだ?」
使者は顔を俯かせ、
「はっ………情けない事に、『究極体』の力を前にして、私を含めたほぼ全員が抗う気も無くしました。最後まで『究極体』に立ち向かったのも、クラウディア嬢を含めた数人のみ。誰もが、『運命』を受け入れる覚悟をしたと思います………」
そこで使者は顔を上げる。
「ですが、クラウディア嬢達は抗い続けました。そして、そんなクラウディア嬢達の思いに応えるように、タイシ殿がその真の力を解放したのです」
「真の力………?」
アスランが声を漏らすと、
「はい、タイシ殿が自分のデジモンを『究極体』へと進化させ、敵『究極体』を一撃にて粉砕。更に、魔族が引き連れていた100万の魔物達も、一撃の下に消滅させました」
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
その言葉には、その場に居た全員が驚愕した。
「タ、タイシ殿のデジモンが………『究極体』に進化したと………?」
アスランが震える声で問いかける。
「はい。そして、彼の口振りから、以前から『究極体』への進化は可能だったと思われます」
「そう……か…………」
アスランは再び背もたれに身体を預ける。
だが、それは先程とは違う。
「………………彼がその気になっていたら、この国などいつでも滅ぼせたわけだ………」
大士が想像以上の力を持っていた事に………
そして、この国の命運が、余りにも綱渡りだった事を今になって初めて実感したのだ。
「…………………レオナルド。お前は本当に敵に回してはならない者を敵に回してしまったようだな………?」
「ち、父上………? 『究極体』などと言う戯言を信じるのですかっ………!?」
「何故タイシ殿が今まで誰にも媚びなかったのかがようやくわかった………『国』を相手にしても、勝てる自信があったからだ。そして………タイシ殿自身が基本的に温厚な性格だった事も幸運だった。もし感情に流されるままに『力』を振るう様な者であれば、召喚されて不当な扱いを受けた時点でこの国が終わっていても不思議では無かった………いや、フォルダ公爵がその場に立ち入らなければ、おそらくはそうなっていただろう………」
アスランはそう予測する。
「ち、父上……私は………!」
「お前は自分が王子と言う立場故、国の為と言う名目の下何をしても許されると勘違いしている様だが、『国』を超える力の前では、相手を怒らせるだけだという事を理解しろ。ハッキリ言えば、タイシ殿のお前に対する心象は最悪だと言ってもいい。それでもこの国が無事なのは、フォルダ公爵が『保護』を申し出たお陰だ。それによってタイシ殿はギリギリで踏みとどまってくれたのだろう」
「うっ…………」
「忘れるな。王族とは国の未来を左右する立場だ。それは、国を思い通りに動かすだけでは無い。国を滅ぼしてしまう可能性すらあることを忘れるな………!」
そこでアスランは息を吐くと、
「唯一の救いは、リティナを始めとした同チーム内の者達とは友好的な事か…………そうでなければ、フォルダ公爵の危機に力を貸してくれはしなかっただろうな」
それからもう一度使者に視線を向け、
「タイシ殿は今如何している?」
「はっ! タイシ殿は現在、仲間に魔物の侵攻によって滅ぼされてしまったであろう村の出身者が居たため、その村の者達を弔うために仲間達と共に向かいました。リティナ王女殿下もご同行しています。その後、アレフ市のフォルダ公爵家の屋敷において、彼を持て成すための宴が開かれる予定です」
「そうか………その宴には私も出席しよう。救国の英雄には、直々に礼を述べなければな」
「はっ! ではそのようにフォルダ公爵にお伝えします!」
そう言うと、使者は会議室から出ていく。
そして、
「フォルダ領へ向かう! すぐに準備せよ!」
そう言い放った。
魔族領、某所。
暗雲が広がる荒れ地の一角に、石造りの城が立てられていた。
その中のとある部屋で、長方形のテーブルの両サイドにそれぞれ2人と1人が座っており、そのテーブルの上座には、他の3人が座る椅子よりも立派な椅子が置かれ、そこにも1人が腰かけていた。
薄暗くてよく見えないが、上座に座る者は腰の辺りから一対の悪魔の翼を生やし、頭には捻じれた角。
そして魅惑的なボディラインを持った女性の様だ。
すると、
「ガビエルが敗れたようだな………」
テーブルの両側に座る者の1人が口を開いた。
「ふん、人間共に敗れるとは情けない奴め!」
「だが、ガビエルは我々魔将軍四天王の中では最弱………何も問題はあるまい」
ガビエル……仲間が負けたというのに、好き勝手言う者達。
だが、
「…………貴様達は、何を言っている………?」
凄まじく重く、凄まじく呆れの混じった女性の声が、その場に響いた。
「「「ッ!?」」」
その言葉が響いた瞬間、3人は硬直する。
「余が人間族の国への侵攻を許したのは、『確実に勝てる』と貴様達が言い切ったからだ。それが蓋を開けてみればどうだ? 国1つどころか領の1つも落とせず、挙句の果てに我が国の戦力の1/3を失った…………この責任を如何取る?」
「そ、それはガビエルの奴が無能で…………」
「貴様らも賛同したのであろう………? ならば全員が同罪だ………! それにガビエルが四天王最弱とは言え、貴様らと絶対的な差がある訳では無かろうに………そのガビエルが破れて危機感を持たぬ所か、余裕を見せて笑うとは、ほとほと呆れ果てた奴らよ………」
言葉通り、その声色には呆れが感じられる。
「ま、魔王様…………! 申し訳ありません………!」
怯えながら頭を下げる1人。
魔王と呼ばれた女性は、軽く息を吐き、
「ふん………まあよい。だが、報告にあった『究極体を殴り倒した人間』か……………」
その声は、逆に興味深そうな雰囲気を感じさせる。
「そのような事ができる者が、
その声の主が軽く手を掲げ、握りしめると黒いデジソウルが発生した。
「いずれ、相見えてみたいものよ……………!」
その言葉が、暗闇の中に響いた。
オリジナル異世界編第29話です。
今回は短いけど幕間の話。
それぞれの国の上層部の話でした。
王国ではドロドロとした貴族の駆け引きが。
魔族領では、人間見下したテンプレがご披露されました。
でも、その最後に出てきた『魔王様』は…………
続きをお楽しみに。
新しいヒロインを増やしていいですか?
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ここまで来たならどこまでもやってしまえ!
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女帝サキュバスのみ
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狐耳尻尾未亡人娘付きのみ
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流石にこれ以上は自重しましょう