【Side 三人称】
黒いインペリアルドラモンのポジトロンレーザーランスに翼を貫かれ、地に墜ちたヤタガラモン。
その姿を見て、
「ヤタガラモン!!」
カトレアが叫び、居ても立ってもいられなくなった。
「お願いです! 私を、ヤタガラモンの傍に!」
カトレアは、シスタモン達に向かってそう頼んだ。
「………危険だぞ?」
シエルが警告するが、
「構いません! 私をヤタガラモンの所へ連れて行ってください! 何なら、置いてくるだけでも構いません!」
カトレアはそう言い切る。
すると、シエルは溜息を吐き、
「しゃーねーなぁ。アタシが連れて行ってやるよ!」
そう言ってカトレアを抱える。
「よろしくお願いします」
「口は閉じてろよ! 舌を噛むぞ!」
シエルはそう言って、カトレアを抱えたまま跳躍した。
人間ではとても通れない僅かな足場を、シスタモンシエルはカトレアを抱えたまま飛び移り、ヤタガラモンの所へ向かう。
やがてヤタガラモンが倒れている場所へ辿り着くと、
「ヤタガラモン!」
シエルの腕から飛び降りたカトレアがヤタガラモンの顔の近くに駆け寄った。
「ヤタガラモン、大丈夫ですか?」
カトレアが呼びかけると、ヤタガラモンの瞼がゆっくりと開く。
「カ、カトレア………」
問いかけに対する反応があった事で、カトレアは幾分かホッとする。
ヤタガラモンは倒れ伏していた身体を3本の足で支えながら、ゆっくりと起き上がる。
しかし、先程貫かれた右の翼には、大きな穴が開いていた。
見るからに飛べそうにない。
「翼が………!」
カトレアは悲痛な表情でそう漏らす。
「………………」
しかし、ヤタガラモンは空を見上げ、黒いインペリアルドラモンと戦うインペリアルドラモンとビクトリーグレイモンを見つめた。
先程までは、ヤタガラモンのサポートがあったが故に互角以上の戦いを繰り広げる事が出来ていたが、ヤタガラモンが戦闘不能になった上、黒いインペリアルドラモンは戦い方を学習し、ますます手に負えなくなってきている。
今は何とか凌いでいるが、黒いインペリアルドラモンが更に学習すれば、いずれ押し切られてしまうだろう。
「…………………」
ヤタガラモンは、もう一度穴が開いてしまった自分の翼を見た。
すると、
「カトレア、すまない。君から貰った翼を台無しにしてしまった………」
突然謝罪の言葉を口にした。
「ヤタガラモン?」
カトレアは何の事かと聞き返す。
すると、ヤタガラモンはカトレアを見下ろし、
「カトレア、覚えているか? 私がまだディアトリモンだったころ………まだ、空を飛べずにいた時の事を………」
「ええ、もちろんです。あれからまだ数日しか経ってない筈なのに、随分と昔の事のように思えます」
ヤタガラモンの言葉に答えるカトレア。
「その時、君が私に言ってくれた言葉があっただろう? その言葉を、もう一度聞かせてくれないか?」
「ッ………!」
ヤタガラモンがそう言うと、カトレアは少し驚いた後、小さく微笑み、
「ヤタガラモン、諦めないでください。諦めなければ、きっと飛べます。何故なら、デジモンには無限の可能性が秘められているのですから………」
カトレアがあの時の言葉を口にする。
「ああ…………」
ヤタガラモンは瞼を閉じ、その言葉を心に刻み付けるように息を吸う。
そして目を開けると、
「………カトレア。私はもう一度飛ぶ。今度はもっと高く………もっと遠くへ………!」
「はい、あなたなら飛べます……!」
ヤタガラモンの決意の言葉に、カトレアは迷いなく頷く。
「………だから、もう一度私と飛んでくれないか?」
ヤタガラモンは、以前の様にカトレアと共に飛ぶことを望んだ。
「はい! 勿論です!」
カトレアは当然の如く頷く。
ヤタガラモンは笑みを浮かべると身を屈め、カトレアに乗る様に促した。
カトレアは、身を屈めても大きなヤタガラモンの身体によじ登り、
「ならば飛ぼう! カトレア!」
「はい! ヤタガラモン!」
2人が言葉を交わすと、ヤタガラモンは翼を大きく広げる。
だが、右の翼に空いた穴が痛々しい。
しかし、ヤタガラモンは構わずに大きく羽搏く。
それでも穴が開いた翼では飛べないのか、浮き上がる気配は無い。
いや、よしんば浮けたとしても、左右のバランスが取れずに墜落するだけだろう。
だが、
「…………飛べる!」
ヤタガラモンはそう口にする。
「はい! あなたなら飛べます!」
カトレアもヤタガラモンを後押しするようにそう叫ぶ。
「そうだ。私にはカトレアが居る。カトレアは、私に翼を与えてくれる! もっと高く、もっと遠くへ飛べる翼を………!」
ヤタガラモンの羽搏きに力強さが増す。
「ヤタガラモンに………新たな翼を………!」
カトレアは、祈るようにデジヴァイスを握りしめる。
その手の隙間から、光が漏れ始めた。
それに伴い、ヤタガラモンが光を纏っていく。
すると、バサッ、バサッ、と今まで1対しか聞こえなかった羽搏きの音が、
――バササッ! バササッ!
と、複数の羽音が重なる音へと変わった。
見れば、ヤタガラモンが纏った光が新たな翼を形作っており、しかもそれは1対ではなく、3対6枚の光の翼が生まれていた。
そして、
「おおおおっ!!」
ヤタガラモンの力強い掛け声と共にその身体が浮かび、上昇していく。
ヤタガラモンは光の翼を羽搏かせ、戦場へと飛んでいく。
そして、それは戦っていたインペリアルドラモンとビクトリーグレイモンも気付いた。
「「ヤタガラモン!?」」
「あの光は……!」
ヤタガラモンを包む光は更に強く輝き、
「ヤタガラモン! 究極進化!!」
ヤタガラモンを、更なる進化へと導いた。
光に包まれたヤタガラモンは、流星の様に尾を引く輝きとなる。
そして、徐々にその姿が露になって行った。
巨鳥の姿であることは変わりないが、その翼は3対6枚となっており、足も2本になっている。
漆黒だった体毛は青みがかった白へと変わり、神聖さを感じさせる虹色の光を纏う。
翼を広げると、30mにもなる巨大な聖鳥型デジモン。
「ヴァロドゥルモン!!」
ヤタガラモンが究極体へと進化したその姿を現す。
「ヤタガラモンが……!」
「進化した……!」
それを見ていたアリス達が驚愕の声を漏らす。
「うぉおおおおおおおおおっ!!」
ヴァロドゥルモンは、黒いインペリアルドラモンの頭部へと組み付く。
視界が塞がれ、暴れ出す黒いインペリアルドラモン。
右手でヴァロドゥルモンの足を掴んで投げ飛ばすが、ヴァロドゥルモンはその6枚の翼で上手く制動を取った。
その瞬間、
「「ポジトロンレーザー!!」」
インペリアルドラモンのポジトロンレーザーが、投げた後の隙を突き、左肩に命中して体勢を崩す。
ダメージは致命的では無いものの、無傷と言う訳では無い。
「はぁああああああああっ!!」
更にビクトリーグレイモンが、頭部に向かってドラモンブレイカーを叩きつけ、大きく仰け反らせる。
だが、黒いインペリアルドラモンは仰け反らせた体勢を強引に戻すと、左腕のポジトロンレーザーをインペリアルドラモンへ向けた。
「「しまった!」」
突然の行動にインペリアルドラモンは驚愕の声を漏らす。
黒いポジトロンレーザーが放たれ、インペリアルドラモンへと突き進む。
そのまま直撃するかと思われたその時、
「させん!」
ヴァロドゥルモンがその前に割り込み、ポジトロンレーザーの直撃を受けた。
「ああっ!?」
「カトレアさん!」
カイルとアリスが叫んだ。
しかし、直撃したかに思われたポジトロンレーザーは、ヴァロドゥルモンが纏う虹色の光により、ヴァロドゥルモンに届く前に四散していた。
ポジトロンレーザーの放出が終わると、ヴァロドゥルモンは無傷の姿を見せつける。
これは、ヴァロドゥルモンの纏う光、『パージシャイン』の効果だ。
それは邪悪な思念を持つ攻撃に対し、絶大な耐性を持つバリアのような役目を果たしている。
それによって黒いインペリアルドラモンの攻撃を防いだのだ。
「凄い………!」
エリスも驚愕する。
「相手の攻撃も防げるようになった………! これなら………!」
アリスが希望が見えたと表情を綻ばせる。
「………………」
黒いインペリアルドラモンは、呆然と立ち尽くすようにその場に佇んでいた。
「…………どうしたんだ?」
ビクトリーグレイモンがその様子に怪訝な声を漏らす。
すると、黒いインペリアルドラモンは左腕のポジトロンレーザーの砲口を前に向けた。
「むっ!」
すぐにヴァロドゥルモンが前に出る。
いつでも防げるように意識を集中し、警戒していた。
だが、突如として黒いインペリアルドラモンはその砲口を眼下へ向けた。
「「「「なっ!?」」」」
デジモン達が驚愕する。
その矛先には、アリス、エリス、カイル達が居る。
次の瞬間、漆黒のポジトロンレーザーが放たれた。
「「「なっ!?」」」
アリス達が驚愕する。
「皆っ!?」
ヴァロドゥルモンが叫ぶ。
ヴァロドゥルモンのスピードではカバーに間に合わない。
それに間に合うのは、
「「させるかっ!!」」
インペリアルドラモンが全速力で射線軸上にその身を割り込ませ、ポジトロンレーザーをその背で受けた。
「「うわぁあああああああああああああああっ!?!?」」
しかし、その威力はインペリアルドラモンにとって致命的。
大ダメージを受けたインペリアルドラモンは、そのまま墜落する。
そして、墜落した先はアリス達のすぐ傍だ。
「インペリアルドラモン!?」
「大丈夫………!?」
アリスとエリスが咄嗟に駆け寄る。
「「ううっ………」」
インペリアルドラモンは呻き声を上げるが、意識を失ったのか目から光が消え、動かなくなる。
その時、ヴァロドゥルモンとビクトリーグレイモンが即座に黒いインペリアルドラモンとの直線上に立ち塞がった。
同じ事を繰り返させないためだ。
「くっ! インペリアルドラモンが………!」
カイルが苦しそうな声を漏らす。
みて分かる通り、インペリアルドラモンは戦闘不能だ。
そして、インペリアルドラモンがこの戦いで担っていた部分は大きい。
ヴァロドゥルモンで黒いインペリアルドラモンの攻撃は防げても、ビクトリーグレイモンだけでは攻撃力が足りないのだ。
「インペリアルドラモン! 目を覚まして!」
「お願い………!」
アリスとエリスはインペリアルドラモンに声を掛け続けている。
その時、周りで戦っていたデーモン軍の攻撃の流れ弾の火球が飛んできた。
「「ッ!?」」
アリスとエリスは驚愕で反応できなかったが、
「はあっ!」
カイルがデジソウルを纏った大剣でその火球を掻き消す。
「こっちは俺に任せて、2人はインペリアルドラモンを起こすんだ!」
カイルはそう言って流れ弾にも注意を向ける。
アリスは頷いてインペリアルドラモンに声を掛けようとしたが、エリスがカイルの背をジッと見ている事に気付いた。
「………エリス?」
アリスがその名を呼ぶと、
「………デジソウル」
「えっ?」
エリスが呟いた言葉に、アリスが声を漏らす。
「タイシも………カイルも、シャルロットも…………デジソウルでパートナーに力を与えてる………」
「え? ええ……そうね………」
「なら……私達も………」
「ッ!」
その言葉にアリスはハッとなる。
「私達のデジソウルをインペリアルドラモンに与えれば、目を覚ますかもしれないって事ね!」
「可能性の話………私達に、タイシやカイル程のデジソウルを出せるか分からない………」
「だったら、足りない分は2人で補い合いましょ?」
アリスの言葉に、エリスは目を見開く。
「私達は、2人で1つよ。1人じゃ出来ない事も、2人なら出来るわ!」
「…………………うん!」
アリスの言葉に、エリスは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、やるわよ!」
アリスはその手に朱色のデジソウルを発生させる。
「んっ………!」
エリスもその手に緑色のデジソウルを発生させた。
「久し振りに出してみたけど、結構大きなデジソウルが出せるようになってたのね」
アリスは自分のデジソウルを見ながら多少驚く。
デジソウルは、リジアルではデウルの灯と呼ばれており、普通なら指先が僅かに光る程度が普通なのだ。
エリスは決闘の時にはパートナーと絆を結んでおり、そのデジソウルの大きさも他者とは比較にならない程大きかったが、今はそれよりも更に大きい。
「って、驚くのは後ね」
アリスとエリスはインペリアルドラモンに向き直り、手を添える。
「インペリアルドラモン! 私達の力を受け取って!」
「私達のデジソウル………! 私達の思いを………!」
朱色と緑色のデジソウルが、インペリアルドラモンに流れ込んでいく。
「「…………………………………」」
しかし、インペリアルドラモンに反応は無い。
「インペリアルドラモン!」
「目を覚まして………!」
アリスとエリスはデジソウルを流し続ける。
その時、空中の黒いインペリアルドラモンが行動を起こした。
左腕のポジトロンレーザーが分離し、胸部のドラゴンヘッドに接続。
その砲口が向けられる。
「くっ! 明らかにヤバそうな攻撃が来そうだ……!」
ビクトリーグレイモンが、その様子に戦慄を感じる。
そして、その予感は正しい。
インペリアルドラモン:ファイターモードの必殺技、『ギガデス』。
それはメガデスの10倍以上の威力を持っていると言われ、その破壊力は測り知れない。
「防ぎきれるか………?」
ヴァロドゥルモンも余裕が無い様子で呟く。
いくらパージシャインを持つとはいえ、ギガデスを防げるかと言われれば、うんとは言えない。
「インペリアルドラモン…………!」
「まだ、足りないの…………?」
アリスとエリスはインペリアルドラモンにデジソウルを与え続けていた。
しかし、一向に目を覚ますどころか身動ぎもしない。
そして、黒いインペリアルドラモンは砲口にエネルギーを集中させ始めた。
それが放たれれば、眼下全てが吹き飛ぶだろう。
アリスとエリスは力を振り絞り、
「お願い………!」
「目を覚まして………!」
全ての思いを込めて叫んだ。
「「インペリアルドラモォォォォォン!!!」」
その瞬間、2人の纏うデジソウルが爆発的に高まり、更に交じり合って強く輝き、インペリアルドラモンの全身を包み込んだ。
その瞬間、インペリアルドラモンの目に光が灯り、
「「インペリアルドラモン! モードチェンジ!!」」
インペリアルドラモンが2足歩行で立ち上がると、ドラゴンヘッドが胸部へ移動。
人型の頭部が現れる。
更に前足が変化し、アーマーの一部が肩へと移動し、完全な腕となる。
更に下半身も竜の骨格から人型の骨格へと変化し、2本の足でしっかりと立つ。
更に背中のポジトロンレーザーが右腕へと移動した。
これが、インペリアルドラモンが全てのパワーを解放した姿。
「「ファイターモード!!」」
インペリアルドラモン:ファイターモードがその姿を現した。
「インペリアルドラモンが………」
「ファイターモードに…………」
アリスとエリスがインペリアルドラモンを見上げながら驚愕の声を漏らす。
同じインペリアルドラモンと言うだけあり、黒いインペリアルドラモンとインペリアルドラモンは鏡写しの様にそっくりだ。
色が違う以外の差異は、ポジトロンレーザーが、黒いインペリアルドラモンが左腕に装備されているのに対して、アリスとエリスのインペリアルドラモンは、右腕に装備されている事ぐらいだろう。
アリスとエリスのインペリアルドラモンは、砲口を向ける黒いインペリアルドラモンを見据えると、右腕のポジトロンレーザーを分離、同じようにドラゴンヘッドに装着する。
上から見下ろす黒いインペリアルドラモンと、下から見上げるアリスとエリスのインペリアルドラモン。
「………………」
「「………………」」
互いの視線が交差し、
「ォォォオオオオッ!!!」
「「ギガデェェェェス!!!」」
最大の必殺技が同時に放たれた。
互いの中央で激突するギガデス。
ぶつかり合うその場所には空間すら揺らがす衝撃が発生し、デジタルワールドそのものを揺らがす。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!!」
「「うぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」
威力は互角。
互いにエネルギーの放出を続けるが、どちらも一歩も引かない。
しかし、インペリアルドラモンは、全く負ける気がしなかった。
何故なら、
「トライデントガイア!!」
ビクトリーグレイモンが大気中のエネルギーを集めて放ち、
「オーロラアンジュレーション!!」
ヴァロドゥルモンがパージシャインの光を最大限に増幅し、それを圧縮して放った。
その2つの必殺技がアリスとエリスのインペリアルドラモンのギガデスへ重なった事で、形勢は一気に傾いた。
黒いインペリアルドラモンのギガデスを一気に押し返す。
「オオオ………!」
黒いインペリアルドラモンは力を振り絞ろうとするが、押し返すどころか減速すらしない。
そんな黒いインペリアルドラモンを見据え、
「「インペリアルドラモン………お前は確かに強かった…………だけど、俺達にはアリスが………エリスが………仲間達が居る! たった1人のお前に負ける気はしない!!」」
その言葉と共に、ギガデスのエネルギーが増し、一気に打ち破った。
「オオォォォォッ………………!?!?」
黒いインペリアルドラモンはその凄まじいエネルギーの濁流に呑み込まれる。
ドラゴンヘッドに装着されていたポジトロンレーザーが吹き飛び、各部のアーマーも砕け散る。
そしてそのまま全身を消し飛ばされ、今度こそ黒いインペリアルドラモンは跡形もなく消滅するのだった。
オリジナル異世界編第52話です。
流石に全員一気に進化は無理なので、今回はヴァロドゥルモンとファイターモードの登場でした。
まあ、アリスもエリスも一応デジソウル使えるので、ファイターモードへのモードチェンジに使わせてもらいました。
さて次回はいよいよあの聖騎士の登場です。
お楽しみに。