ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第22話 降臨! 女神の騎士!?

 

 

 

 

ベルゼルモンと共に、現れたデジモン達を退けることに成功した俺達だったが、ハジメ達の様子を確認しようとした瞬間、

 

「ケツから死ね。駄竜が………!」

 

「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!? なのじゃぁっ!!」

 

目の前の光景に絶句してしまった。

黒竜が女性の声で悲鳴を上げたのもそうだが、それよりもハジメが竜の尻に鉄杭を突っ込んだ光景が衝撃的だった。

 

「お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~!」

 

「何だこの声? こいつのか?」

 

ハジメは怪訝な声を漏らす。

 

「ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~!」

 

「人の言葉を話す魔物なんて居ない筈…………」

 

ユエが呟くと、

 

「もしかしてコイツ魔物じゃなくてデジモンなのか? 大士!」

 

ハジメに呼びかけられて俺はハッとなる。

俺は慌ててDアークを確認するが、

 

「……………データが来ない。少なくともデジモンでは無さそうだ」

 

暫く待ってもデータが表示されないので俺はデジモンでは無いと判断する。

 

「そうか……………するってぇと……………」

 

ハジメは今まで得た知識から可能性の高そうなものを推測し、

 

「お前……まさか、竜人族なのか?」

 

その予想を口にする。

竜人族とは500年以上前に滅びた『竜化』という竜に変身する固有魔法を使える一族だ。

 

「む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が………」

 

その言葉を聞いて、ハジメが呆れた様に頭に手を当てた。

 

「……なぜ、こんなところに?」

 

「いや、そんなことよりお尻のそれを……魔力残量がもうほとんど…ってアッ、止めるのじゃ! ツンツンはダメじゃ! 刺激がっ! 刺激がっ~!」

 

ユエの質問に答えずに自分の要望を口にした黒竜に、ハジメが黙って質問に答えろと、尻に刺さったままの鉄杭をガンガンと殴りつける。

情けなく悲鳴を上げる黒竜姿をみて、俺はさっきまでの凶暴さは一体何だったのか?と首を傾げる。

 

「滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、一介の冒険者なんぞ襲っていたのか……俺も気になるな。本来なら、このまま尻からぶち抜いてやるところを、話を聞く間くらいは猶予してやるんだ。さぁ、きりきり吐け」

 

ハジメは鉄杭を手でグリグリしながら容赦なく質問を続ける。

 

「あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!」

 

ハジメの行動にクラスメイトとベルゼブモンはドン引き。

慣れている俺達は呆れているだけだ。

 

「妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ」

 

黒竜はウィルを見ながらそう言う。

 

「どういうことだ?」

 

「うむ、順番に話す。妾は……」

 

黒竜の話を要約すると、異世界からの来訪者について調べる為に竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。

本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで『竜化』状態で休んでいたらしい。

すると、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。

その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だが、竜人族は竜化して睡眠状態に入った場合まず起きないのだ。

『竜の尻を蹴り飛ばす』という諺の通り、鱗の無い尻を蹴り飛ばされでもしない限り。

それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。

なら、何故完璧に操られていたのかと言えば………

 

「恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……」

 

「闇魔法…………!」

 

宮崎がハッとなる。

 

「………まだ清水君と決まった訳じゃありません」

 

愛子先生も神妙な顔になる。

確か、清水の天職も『闇術師』らしい。

だが、

 

「それはつまり、調査に来ておいて丸一日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」

 

ハジメの言葉に、全員の黒竜を見る目が何となく馬鹿を見るようなものになる。

 

「し、仕方なかったのじゃ! 〝竜化〟は魔力消費が激しく一度眠ると丸1日は起きられず…………」

 

「……ふざけるな!」

 

黒竜の言葉を遮ってウィルが叫んだ。

拳を握りしめ、怒りの籠った瞳で黒竜を睨んでいる。

 

「……操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

今の名は殺された冒険者達の名前だろう。

 

「……………………………」

 

対して黒竜は言い訳もせず、黙ってその言葉を聞いていた。

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

「……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」

 

その言葉に尚もウィルが言い募ろうとするが、その前にユエが口を開いた。

 

「……きっと、嘘じゃない」

 

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 

ウィルは思わず言い返してしまうが、

 

「……竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は『己の誇りにかけて』と言った。なら、きっと嘘じゃない」

 

ユエは静かにそう言った。

 

「ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは……いや、昔と言ったかの?」

 

「……ん。私は、吸血鬼族の生き残り。300年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

「300年前………もしやあの吸血鬼か…………? 名は確か…………」

 

「〝ユエ〟……それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

黒竜の言葉を遮ってユエはそう言った。

おそらく黒竜の言っていることは本当なんだろう。

それでも、割り切れない感情というものはある。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

見事な死亡フラグを立てていた事に若干脱力したが、俺は口を開いた。

 

「…………自分の無力さを嘆きたい気持ちはわからんでもないが、それをこの黒竜に八つ当たりするのは違うんじゃないか?」

 

「…………八つ当たり?」

 

ウィルは自分でも気付いて無いのか疑問の声を漏らす。

 

「あんたはこの黒竜が許せないんじゃない。自分が許せないんだ」

 

「ッ…………!」

 

「聞いた話によれば、あんたは本来この辺りに来れるような実力は持ってないんだろ? それを無理言って腕利きの冒険者のパーティーに混ざって来たそうじゃないか。冒険者達は普通ならこの黒竜に遭っても、勝てないまでも逃げることは出来たかもしれない。だけど、今回に限って『アンタ』という足手纏いが居た。しかもあんたは三男とは言え伯爵家の息子だ。見捨てて逃げれば結局は自分達の首が飛ぶ。見捨てるという選択肢は選べない。だから冒険者達はあんたを逃がすために黒竜と戦うしかなかった。確かに直接的に冒険者達を殺したのはこの黒竜だ。だけど、その冒険者達を死地に向かわせることになった要因の1つには、間違いなくあんたの存在があった。あんたはそれに気が付いてるからこそ苛立ちを黒竜にぶつけているだけだ」

 

「ッ……………………………!」

 

顔面を蒼白にするウィル。

それを見かねたのか、

 

「ウィル、ゲイルってやつの持ち物か?」

 

ハジメがここに来るまでに拾ったロケットペンダントをウィルに放った。

すると、表情がパッと明るくなり、

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

 

「あれ? お前の?」

 

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

 

「マ、ママ?」

 

その言葉に俺も呆気にとられた。

そのまま次から次へと出てくる母親への言葉に、この場の全員がウィルを『マザコン』認定したことは仕方ないだろう。

そんな中、黒竜が懺悔するように、声音に罪悪感を含ませながら己の言葉を紡ぐ。

 

「操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ……勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」

 

「……………………さて、どうするか?」

 

ハジメはこちらに振り返りながら皆に意見を求める。

 

「…………やっぱり殺すべきです! もしまた操られたりしたらどうするんですか!?」

 

ウィルは殺すことを主張する。

理由を述べてはいるが、本音は復讐だろう。

 

「………殺すべきじゃない」

 

ユエがそう言う。

 

「私も殺しちゃうのはかわいそうだと思う………操られてただけなら『敵』じゃないよ?」

 

白崎さんも殺さない派だ。

 

「俺はさっきも言ったが八つ当たりで殺すのは反対だ」

 

「私は大士の意見に賛成」

 

「同じく」

 

俺と葵、優花も同じだ。

ドルグレモンとヒシャリュウモンは言うに及ばず。

ベルゼブモンも無意味な殺しは好まない。

 

「つーわけで反対多数で可決。感謝しろ、殺さないでおいてやる」

 

愛子先生やクラスメイトには意見を求めないのもまたハジメクオリティー。

無視されたメンバーは微妙な表情をしていた。

 

「許された事は感謝するのじゃが………取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ」

 

「ん、どういう事だ?」

 

「竜化状態で受けた外的要因は、元に戻ったとき、そのまま肉体に反映されるのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を……妾が生きていられると思うかの?」

 

それは悲惨な光景だった。

愛子先生やクラスメイトの女子達だけではなく、葵に優花、ユエ、白崎さんまでお尻を押さえて青ざめている。

 

「でじゃ、その竜化は魔力で維持しておるんじゃが、もう魔力が尽きる。あと一分ももたないのじゃ……新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ」

 

死ぬことはともかく、そんな死に方は誰だって御免だろう。

つーか今、怪しい発言があったんだが?

するとハジメは黒竜の尻に刺さった鉄杭に手を掛けると無造作に引き抜き始めた。

 

「はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~!」

 

やがて、ズボッ! と泥に刺さった杭を抜くときの様な音を立ててハジメが杭を引き抜いた。

 

「あひぃいーーー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……」

 

危ない発言をしながら黒竜は黒い魔力に眉の様に包まれると、その大きさが小さくなっていき、

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」

 

黒髪金眼のプロポーションの抜群な美女となって現れた。

荒い息が全てを台無しにしているが。

すると、その女性は地面の上で正座すると、

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

頭を深く下げた後、そう自己紹介をした。

 

「先程の話じゃが、妾を闇魔法で操った男は魔物を使い、街を襲おうとしておる」

 

ティオの言葉にクラスメイト達が反応した。

 

「そ、そうだよ! その闇魔法を使う奴!」

 

「どんな奴か覚えてますか?」

 

宮崎と玉井が問いかける。

 

「奴は黒髪黒目の人間族じゃった。『俺が本当の勇者だ』などと口にしておったよ」

 

「まさか………!」

 

愛子先生は信じられないと言わんばかりの表情だ。

すると、ハジメが遠くを見るような仕草をする。

どうやらオルニスで辺りの哨戒をしていたようだ。

 

「こりゃあ、3、4千ってレベルじゃないぞ? 桁が1つ追加されるレベルだ」

 

つまりは3万以上の大群だ。

その報告に全員が目を見開く。

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

愛子先生が混乱しながら今後のすべきことを纏めようとする。

他のクラスメイト達も動揺している。

その時、

 

「あの、ハジメ殿達なら何とか出来るのでは……?」

 

その言葉に、一斉に期待の眼差しがこちらに集中した。

ハジメはめんどくさそうに顔を逸らす。

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

 

「ん? いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

その言葉に、愛子先生はこの騒動を起こしているのが本当に清水なのか確認したいという思いもあるのだろう。

しかし、街の方も放置するわけにはいかない。

その狭間で揺れている状態だ。

というわけで、

 

「ハジメがめんどくさいなら俺とドルグレモンで殲滅してこようか?」

 

俺はそう提案する。

アルファモンになれば大して時間もかからず殲滅できるだろう。

ただし、

 

「山が更地になるぐらいは勘弁してくれよ。取り逃しが無いようにするには辺り一面吹っ飛ばすのが手っ取り早いから」

 

一々魔物を探して周りに気を使いながら戦うなんてやってられない。

 

「だったら、俺も手を貸そう」

 

ベルゼブモンがそう言ってくる。

ベルゼブモンは殲滅戦にはあまり向かないが、撃ち漏らした魔物を仕留めてもらう役を担ってくれるとこっちも楽だ。

ハジメは顎に手を当てて何やら考える仕草をしている。

 

「…………山を更地にすると言うのは冗談だと思いますが、今は街の人達が最優先です。多少の破壊は目を瞑りましょう」

 

ウィルがそう言うが、多少じゃ困る。

 

「教師として生徒を戦いに送り出すなどあってはならない事です。しかし、今頼れるのは黒騎君達しかいません。どうか、街の人達を助けてください!」

 

愛子先生からもそう言われ、

 

「じゃ、行って………」

 

行って来ると言おうとした瞬間、

 

「ちょっと待て」

 

ハジメに止められた。

 

「何だ?」

 

すると、ハジメが愛子先生に近付き、

 

「……先生は、この先何があっても、俺達の先生か?」

 

そう問いかけた。

おそらくその問いは、『俺達の味方』であり続けるのかという意味だろう。

 

「当然です」

 

その言葉に戸惑うことなく即答で返す愛子先生。

 

「……俺達がどんな決断をしても? それが、先生の望まない結果でも?」

 

「先生の役目は、生徒の未来を決めることではありません。より良い決断ができるようお手伝いすることです。皆さんが先生の話を聞いて、なお決断したことなら否定したりしません」

 

相変わらず『教師』であろうとする愛子先生に俺は感心と敬意を感じる。

自分を真っすぐに見つめてくる瞳を見てハジメはフッと笑みを浮かべると俺に顔を向け、

 

「大士、殲滅するのはちょっと待て」

 

ハジメにそう言われた俺が疑問符を浮かべた。

 

「何でだ?」

 

「こうなりゃトコトン先生には協力してもらう」

 

ハジメは悪い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

【Side 葵】

 

 

 

 

 

その後、私達は街に戻り、魔物の群れが近付いてきているという報告はしたものの、住民たちは避難をさせずに街から出ないようにした。

魔物が散り散りになって殲滅が面倒になるリスクを避けるためだ。

万一の時の為に女子供だけでも避難させようという意見が出たが、アルファモンとベルゼブモン。

更にはその後方に南雲君達やヒシャリュウモンもいる為、万に一つの可能性も無いのでそれは遠慮してもらった。

ただ、街の山脈側にある平原が見える広場に街の住人を集める、という事を南雲君が指示した。

ウィルさんはわざわざ魔物の群れが来る方向に街の人達を集めるのは危険だと言ったが、南雲君が街の住民の安全は保障すると無理矢理通した。

そして夜が明けて日が高く上るころ、住民達は南雲君の指示通りに街の北側にある広場に集まっていた。

そこからは平原が一望でき、もし魔物の群れが現れれば住民の誰もがそれを目撃することになるだろう。

ただ、広場から平原側に少し出た所に一辺2mほどの立方体の台座が出来ており、その上に愛子先生と南雲君が並んで立っている。

私達はその台座の横に並んでいる。

そして、大士とドルモン、インプモンは、住民側からは見えない台座の後ろにいた。

愛子先生は何故自分がこんな所に連れて来られたのか理解しておらず呆気に取られており、南雲君からただ黙って立ってればいいと言われていた。

やがて、予定よりも少し早かったけど、魔物の群れが見えてきた。

昨日では3万という話だったけど、あれから更に増えて目測で5~6万ぐらいにおもえる大群だった。

その光景に住民たちに不安と動揺が広がる。

すると、そこで南雲君が狙ったように声を張り上げた。

 

「聞け! 『ウル』の街の住民達よ!! 現在この街は大いなる魔物の脅威にさらされようとしてる!! しかし! 案ずる事なかれ! この戦いは既に勝利が確定している!! 我々は女神の加護の下にあるのだ!!」

 

南雲君はどっかの宗教演説の様に芝居がかった仕草で叫ぶ。

その『女神』という言葉に、ウルの人々に『女神?』『エヒト神ではなく?』と言う騒めきが広がる。

 

「その女神の名は………!」

 

南雲君は愛子先生の傍らに跪き、両手で愛子を指し示す。

 

「〝豊穣の女神〟愛子様だ!!」

 

「え? えっ?」

 

突然南雲君に女神呼ばわりされた愛子先生は一瞬呆けた顔をしたが意味が分からず狼狽え始める。

南雲君はすぐにその姿を自身の体で見えなくすると、

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である! 愛子様こそ人類の味方! 現に6年前に世界は知られざる危機を迎えていた! しかし、それは女神に仕える6人の戦士たちによって人知れず防がれた! そして今! このウルの街の危機に、女神様は再び憂いている! 人々を想う女神様の祈りに応え、世界を救いし女神の戦士の1人が再び降臨する!!」

 

南雲君はバッと右手を天へ掲げると、

 

「〝豊穣の女神〟愛子様の名の下に、光と共に降臨せよ! 女神の騎士よ!!」

 

南雲君がそう叫んだ瞬間、台座の後ろで大士が行動を起こした。

 

――MATRIX

  EVOLUTION――

 

「マトリックスエボリューション!」

 

大士が輝くDアークを自分の胸に押し付ける。

すると、ドルモンと共に光に包まれ、光の柱が立ち昇った。

その光景に住民たちは驚きで声を上げた。

その光の中で大士とドルモンが一つになって進化する。

 

「ドルモン進化!」

 

ドルモンの手のデータが分解され、鎧を纏った騎士の腕として再構築される。

ドルモンの足のデータが分解され、鎧を纏った騎士の足として再構築される。

ドルモンの体のデータが分解され、鎧を纏った騎士の体として再構築される。

ドルモンの頭のデータが分解され、大士の決意の篭った瞳を持った騎士の頭部として再構築される。

丸みを帯び、金の装飾が施された黒く輝く鎧を身に纏い、背中には外側が白、内側が青のマントをはためかせた、『最初』の名を冠せし黒き聖騎士。

 

「アルファモン!!」

 

光の柱の中より、黒き聖騎士が舞い降りる。

愛子先生の背後に現れた4mほどの大きさを持つ騎士の姿に住民たちは静まり返る。

すると、

 

「我が名はアルファモン!! 女神を護る聖騎士にしてロイヤルナイツの1人也!!」

 

アルファモンは腕を組んで堂々とした姿でそう名乗りを上げる。

その時に吹いた風が背中のマントをはためかせ、その姿を一層頼もしく見せる。

 

「こ、この騎士は…………!」

 

愛子先生が驚いているのか、口をあんぐりと開けている。

それにしても、口上は任せるって南雲君に言われてたけど、『ロイヤルナイツ』って何?

まあ、簡単に言えばこれは演出。

愛子先生を女神にして人々の人気を集めて発言権を強め、私達が教会とぶつかった時に、なるべく私達に有利に進むようにしたいという南雲君の目論見だ。

まあ、言いたいことは分かるし、愛子先生の発言力が高まれば私達の後ろ盾になってくれそうだという事も理解している。

でも、一つだけ。

たった一つだけ納得できない事がある。

それは、

 

「アルファモンは、私と優花の騎士なんですけど…………!」

 

「あ、葵………落ち着いて、ね? これは演出だから………」

 

優花はそう言うが、演出とは言え私達の騎士であるアルファモンが先生の騎士と名乗ってる所に異議が大いにある。

すると、アルファモンは魔物達に半身(はんみ)を向け、右手を翳す。

 

「女神の名の下に、魔物達に神罰を下す!」

 

アルファモンが翳した右手にエネルギーが集中し、魔法陣が展開される。

そして、

 

「デジタライズ・オブ・ソウル!!」

 

魔法陣から秒間数十発という速度で放たれる光弾が魔物達を蹂躙していく。

その光弾一発一発は射線上に居る魔物達を全て貫き、地面や丘、山に当たるまで突き進む。

アルファモンは光弾を放ちながら手をゆっくりと移動させ、それに合わせて光弾が魔物達を扇状に薙ぎ払って行く。

一通り薙ぎ払って光弾が止んだ時には既に魔物の大群の8割以上が消し飛んでおり、生き残っているのは幸運にも光弾の射線軸上にから外れた魔物と、元から空中に居たプテラノドンの様な魔物だけだ。

更に、そのプテラノドンの様な魔物の中に一回り大きいものが居て、その背中にローブを纏った人影がうっすらと見える。

多分清水君だろうと私は思う。

それにしても、

 

「…………これがアルファモンの本当の力…………」

 

唯の平原だった目の前の光景が隕石群が落ちたかのようにクレーターだらけで丘や山の一部もぽっかりと抉れいている部分がある。

見れば、愛子先生やクラスメイト達も、目を点にして、口を半開きにしたまま固まっている。

すると、

 

「更に! 愛子様の御威光はこれだけにはとどまらない!! 愛子様の力を持ってすれば魔王ですらも改心し、正義の使者となる!!」

 

その瞬間、台座の後ろでインプモンがベルゼブモンに進化し、黒い翼を羽搏かせて空へ飛び立つ。

まあ、ベルゼブモンは確かに『魔王』型デジモンではあるけど。

そして右手の陽電子砲を向け、

 

「デススリンガー!!」

 

プテラノドンの様な魔物に向けて陽電子砲を放った。

閃光が魔物達を貫き、清水君が乗る魔物を掠める。

それだけで魔物は大ダメージを負ったのか、フラフラと地上へ落ちていった。

その瞬間、

 

「愛子様、万歳!!」

 

その言葉にウルの住民たちは大歓声を上げた。

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

 

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

その言葉に愛子先生は狼狽え続けていたが、

 

「ほら、女神様。皆がお待ちかねだぜ」

 

南雲君がそう言うと、台座の周りに集まってきた住民たちに向かって愛子先生を放り投げる。

 

「うきゃぁああああああああっ!?」

 

愛子先生の悲鳴も民衆の大歓声の前にかき消され、愛子先生は祭り上げられる。

 

「さて…………」

 

南雲君は振り返ると、ベルゼブモンの左手に首根っこを掴まれてぶら下げられたローブを纏った人物へと視線を移した。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

アルファモンに進化して魔物をほぼ殲滅し終えた俺は、ベルゼブモンが清水を確保したことを目にしてウルの街から少し離れた所で合流した。

ウルの人達に清水の存在を悟られないためだ。

いくら『神の使徒』と言われているとはいえ、街の人達へ魔物を差し向けたという事実は『裏切者』の烙印を押されるには十分だろう。

しばらくしてハジメや葵達、少し間を置いて愛子先生達が合流した。

愛子先生の髪がやけに乱れていたがお察しだ。

愛子先生が清水に呼びかけると、少しして清水が目を覚ました。

目を覚ました清水は現状に気付くとビクッと一瞬怯えた表情をみせるが、

 

「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

仰向けの状態から上半身を起こしている清水に、愛子先生は膝立ちになって視線を合わせながら問いかけた。

すると、顔を俯かせてぼそぼそと喋り始めた。

 

「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

 

「……………何言ってんだコイツ?」

 

ベルゼブモンが意味不明と言わんばかりにこちらに視線を向ける。

まあ、俺も知らなかったが、清水も俺やハジメと同類の人間(オタク)だったようだ。

ただし、割と公にしていた俺達とは違い、こいつは徹底的に秘匿した上でそれを拗らせたタイプだ。

 

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

 

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

 

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や宮崎など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。

その勢いに押されたのかますます顔を俯かせ、黙り込む清水。

愛子先生はそんな生徒達を手で制するとなるべく優しく清水に語り掛けた。

 

「そう、沢山不満があったのですね……でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか? もし、あのまま町が襲われて……多くの人々が亡くなっていたら……多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の〝価値〟を示せません」

 

愛子先生はもっともな事を聞く。

俺達が居なければ、間違いなく大勢の人が亡くなっていただろう。

 

「……示せるさ……魔人族になら」

 

「なっ!?」

 

だが、清水から出た言葉に愛子先生は驚愕した。

 

「魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな……その魔人族は、俺との話しを望んだ。そして、わかってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと……魔人族側と契約したんだよ」

 

「契約……ですか? それは、どのような?」

 

話を続ける清水に愛子先生は何とか冷静さを保ちながら問いかける。

 

「……畑山先生……あんたを殺す事だよ」 

 

「……え?」

 

その答えに愛子先生はポカンとした。

だが、俺は愛子先生が狙われる事については驚きは無い。

戦争において食料の確保………つまり兵糧は軍を維持するうえで避けて通れない問題だ。

それをあっさりと解決してしまう愛子先生の存在は相手にとって最大級の障害だ。

そんな存在を狙うのは至極当然。

 

「何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか? ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ! 何なんだよっ! 何で、六万の軍勢が負けるんだよ! お前は、お前は一体何なんだよっ!」

 

清水は俺…………ドルモンと融合進化したアルファモンを指差しながら叫ぶ。

愛子は、一つ深呼吸をすると激昂しながらも立ち向かう勇気はないようでその場を動かない清水の片手を握り、静かに語りかけた。

 

「清水君。落ち着いて下さい」

 

「な、なんだよっ! 離せよっ!」

 

清水は愛子先生の手を振り払おうとしたが、愛子先生は離さないと言わんばかりにギュッと握りしめて清水を見つめ続ける。

清水はやがて落ち着いてきたのか、俯いて表情を隠す。

 

「清水君……君の気持ちはよく分かりました。〝特別〟でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと〝特別〟になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから……でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません……清水君。もう一度やり直しましょう? みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?」

 

清水は、愛子先生の話しを黙って聞きながら、何時しか肩を震わせていた。

生徒達も護衛隊の騎士達も、清水が愛子の言葉に心を震わせ泣いているのだと思った。

おそらく愛子先生が最大限考えただろう説得の言葉。

だけど、俺は気付いた。

それじゃダメだ。

現実を語ったところであいつの心に届かない。

次の瞬間、握られていた手を逆に握り返しグッと引き寄せ、愛子の首に腕を回してキツく締め上げ、隠し持っていた針を突き付けた。

 

「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」

 

その言葉に飛び出しそうだった騎士やクラスメイト達が体を必死に押し留めた。

 

「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」

 

その言葉に、騎士や生徒達が武器を手放す。

しかし、ハジメや優花達は武器を捨てる素振りさえ見せてなかった。

 

「おい、お前ら、武器を捨てろ! どうせどっかに持ってるんだろ!? 厨二野郎、お前らだよ! 後ろじゃねぇよ! お前だっつってんだろっ! 馬鹿にしやがって、クソが! これ以上ふざけた態度とる気なら、マジで殺すからなっ!」

 

人質が居るのに割と余裕なのはちゃんとした理由がある。

 

「いや、お前、殺されたくなかったらって……そもそも、先生殺さないと魔人族側行けないんだから、どっちにしろ殺すんだろ? 捨てても捨てなくても一緒じゃねえか」

 

「って言うか、毒針を刺してから数分間で死に至るって事は、死ぬまでに数分間あるって事でしょ? だったら私、普通に解毒できるけど?」

 

クラスメイトや騎士が『えっ?』という表情になる。

奈落の底では数分どころか数秒で死ぬ猛毒も珍しく無かったら、死ぬまでに数分も余裕がある毒など、白崎さんの前では無害に等しい。

ぶっちゃけ俺も毒を食らったことがあり、あと数秒白崎さんの治療が遅かったら死んでたかもって状況もあった。

その時、俺は究極体になって鋭敏になった感覚で何かが飛来してくるのを感じ取った。

方向は清水の後方から。

恐らくは攻撃。

狙いは清水………いや、清水が捕えている愛子先生!

俺はそう判断した瞬間、アルファモンの身体を動かして瞬時に清水の後方に移動する。

 

「なっ!?」

 

清水が驚くが、俺は目前に迫っていた攻撃をアルファモンの掌で受け止めた。

アルファモンの手には傷一つ無いが、清水の身体を貫通して愛子先生を殺すぐらいの威力はあっただろう。

 

「う、うわぁっ!?」

 

清水は漸く自分が攻撃されそうだったことに気付いたのか、腰を抜かす。

 

『ベルゼブモン!』

 

「おうよ!」

 

俺の呼びかけにベルゼブモンは羽ばたくと空へと飛びあがり、攻撃が来た方向へ陽電子砲を向ける。

 

「デススリンガー!」

 

そこに居た清水の話にあった魔人族と思われる人物に向かって陽電子砲が放たれた。

閃光に呑まれる魔人族。

おそらく消え去っただろう相手から、視線を戻すと腰を抜かした清水とその横で苦しそうに呻く愛子先生の姿があった。

どうやら倒れた拍子に毒針が頬に掠ってしまったらしい。

 

『白崎さん』

 

俺は白崎さんに呼びかける。

 

「うん!」

 

白崎さんは頷いて愛子先生に駆け寄ると、

 

「〝万天〟」

 

詠唱も魔法陣も何もない一言で状態異常を回復させる光属性の中級回復魔法を発動させ、愛子の毒を一瞬で解毒する。

 

「ほう…………一瞬でこれだけの毒を解毒するとは見事じゃ」

 

ティオがそう言うと、

 

「ん……………………………………………………ああ、ティオか」

 

ハジメが長い沈黙の後でそう言った。

 

「何じゃ今の間は!? まさか妾の存在を忘れておったんじゃ……はぁはぁ、こういうのもあるのじゃな……」

 

なんか変な所で興奮しているティオを俺は見なかった事にする。

それはともかく俺は視線を先生に移す。

 

「…………はっ!?」

 

先生は気が付いて体を起こす。

 

「あ、畑山先生、気分は大丈夫ですか? 体に違和感がある所は?」

 

「えっ? あ、白崎さん!? だ、大丈夫です!」

 

何が起きたのか理解できなかったが、白崎さんに助けられた事は理解した様だ。

すると、俺は清水に近付いていくと、手に持っていた毒針を狙って光弾を放ち、毒針を消滅させる。

 

「ひっ!?」

 

その際に恐怖を感じたのか清水は悲鳴を上げた。

 

「く、黒騎君! 待って! 待ってください!」

 

愛子先生が俺が清水を殺すと思ったのか必死に呼びかけてきた。

 

『………愛子先生、ここは俺に任せてくれないか?』

 

俺は愛子先生にそう言った。

 

「く、黒騎だと…………!?」

 

清水が信じられないと言った表情で呟く。

俺は目の前で進化を解き、ドルモンと分離した。

それを目の前で見た清水は、

 

「………………何でだ………? 何でテメェがそっち側なんだ……………! テメェだって俺と同じ陰険野郎じゃねえか! 何でテメェだけ! テメェはモブの筈だろ!? 何でテメェが主人公みたいになってんだよ!? 勇者は………主人公は俺の筈だろ!?」

 

清水は俺に向かって猛りをぶつける様に叫ぶ。

 

「…………………俺は主人公じゃねえよ」

 

俺はそう呟く。

 

「何いい子ちゃんぶってやがる! テメェも俺を見下してるんだろ!? 哀れなモブ野郎ってな!」

 

「別にいい子ちゃんぶってるわけじゃない。すぐ傍に俺よりも遥かに主人公に相応しい奴が居たからな。ああ、勘違いしない様に言っておくが、あの頭お花畑の天然勇者の事じゃないからな。あんな踏み台エセ主人公じゃない。憧れ、喜び、苦悩し、あらゆる困難を乗り越えた本当の主人公がな」

 

俺はタカトの顔を思い出す。

確かに最初は頼りない性格だった。

争いを好まず、戦いを拒否することだってあった。

だがギルモンと一緒に笑って、一緒に泣いて、戦う事に恐怖しながらもギルモンと一緒に戦う事を決意した強い心の持ち主。

かつての俺は、傍で見てこいつは本当に主人公に相応しいと思っていた。

 

「だが、俺はお前から見れば『特別』に見えるのかもな。ドルモンというパートナーを得て、デジモン達やデ・リーパーと戦い、地球を救った事もあった。確かに『俺を主人公にした物語』に憧れる奴はそれなりに居るのかもしれない。それに、俺もお前の気持ちは分かるのさ。俺も以前はこの世界を…………自分を含めたこの世界全てを『物語』として見ていたんだからな……………だが、仮にここでお前に『この世界は物語じゃない』と言った所でお前には届かないだろう……………だから率直に聞くぞ。お前は…………『自分の紡いできた物語』を読んで、憧れることが出来るのか?」

 

「な………に……………?」

 

「陰険なのはいい。オタクである事も構わない。そう言う主人公の始まりもあるだろうさ。けどな、お前は自分のやっていることが本当に『カッコいい』と思っているのか? 悪いが俺はお前の物語を読んでもとても憧れることは出来ない。この世界に召喚された時が物語の始まりとしよう。お前のやってきたことは、勇者の称号を得た者を僻んで、目の前の死に恐怖し、逃げ、挙句、魔人族に利用されて寝返って恩師を殺そうとし、裏切られて恩師諸共殺される。そんな物語じゃ、俺は流石に憧れることは出来ないな」

 

「お………れは……………!」

 

「世界を物語と見て自分を勇者だと…………主人公だというのなら、せめて自分が『カッコいい』と思える行動をしろよ。『自分の物語』を読んで『自分に憧れる』ことが出来なければ、『お前の納得する主人公』には成れないぞ」

 

こいつはただ『自分が納得する主人公』になりたかっただけだと俺は思う。

しかし、現実の厳しさに立ち向かうことが出来ず、『自分が納得する主人公』からかけ離れて行く内に、その思いが歪んで、『自分が納得する主人公』になれない理由を他者の所為にしてしまった。

それがこいつの失敗だろう。

清水は俯き、ブツブツと呟いている。

 

「俺は………俺のやってきたことは……………そんな筈ない………俺は主人公なんだ…………だから見返して…………見返す…………違う………俺の憧れた主人公はそんな事…………俺の………俺のやってきた事は……………!」

 

清水は頭を抱えた。

 

「俺の…………俺の成りたかった主人公は……………! うわぁああああああああああっ!!!」

 

清水が叫ぶ。

漸く自分のやってきたことを客観的に見直したんだろう。

そして、すぐに黙り込んで項垂れた。

 

「…………笑えよ…………俺はモブの癖して主人公と勘違いした大馬鹿やろうだ……………笑えよ………」

 

清水はそのまま呟く。

 

「笑わねえよ………」

 

俺はそう返す。

 

「……………………………畜生…………だったら如何すりゃいいんだよ!? 俺は堕ちる所まで落ちちまった! 今更許してくれなんて言えねえだろ!」

 

清水は頭を抱えながら叫ぶ。

 

「許します!」

 

俺の横から声が響いた。

愛子先生だ。

 

「先生は許します! 確かに清水君は取り返しのつかないことを『やろうと』しました! ですが、それは運良く黒騎君達によって防がれました! まだあなたはやり直せます!」

 

「違う! 俺はもう冒険者を殺してる! もうやり直せないんだ!」

 

「それは魔人族に唆されたからでしょう? そして今、清水君はその事に罪の意識を感じている! それはまだやり直せる証拠です!」

 

俺は、後は先生に任せようと身を引く。

その時だった。

 

 

 

 

 

【Side イグドラシル】

 

 

 

 

 

 

―――復元、再構築完了

 

 

 

―――情報収集を再開

 

 

 

―――ゲート開放(オープン)

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

俺達から少し離れた場所にデジタルフィールドが発生する。

 

「ッ………! こんな時にデジモンか!」

 

俺はドルモンと一緒に皆の前に出て警戒を強める。

すると、目の前にベルゼブモンが降り立ち、

 

「へっ、ここは俺に任せな!」

 

そう言いながら陽電子砲をデジタルフィールドに向ける。

確かにベルゼブモンなら殆どのデジモンは相手にならないだろう。

俺がお言葉に甘えようと思った時、ザッ、ザッ、と地面を踏みしめる足音が聞こえ、デジタルフィールドの中から人型のデジモンが現れる。

本来であれば、ベルゼブモンも姿が見えた瞬間に撃つつもりだったのだろう。

 

「なっ!?」

 

しかし、ベルゼブモンはそれを躊躇(ためら)った。

そして、その理由は俺も痛いほどに分かった。

 

 

 

―――何故なら……………

 

 

 

―――そのデジモンは……………

 

 

 

―――ベルゼブモンにとって忘れない……………

 

 

 

―――忘れてはいけない罪の記憶……………

 

 

 

―――間違った道に進んだベルゼブモンを止めようとして、ベルゼブモンが殺めてしまった、『彼女のパートナー』と同じデジモン……………

 

 

 

―――レオモンだった…………………

 

 

 

 

 

 








第22話です。
ティオの登場とVS6万です。
アルファモンとベルゼブモンのお陰で瞬殺でした。
清水君はとりあえず生かしときました。
まあ説得の仕方に無理があり過ぎると思われると思いますが、特に今後の物語には影響しない………と思いますので(コラ)。
で、皆さまダークエリアと聞いて暗黒デジモンばっかり予想してたみたいですが、ダークエリアとは本来死んだデジモンが行くあの世みたいな所なんですよね。
で、自分の勝手な設定でテイマーズの世界では死んだデジモンは大概ロード(吸収)されておりますが、ロードによって吸収できるデータは全体の1割程度で残りのデータはダークエリアに送られてるって事で。
んで、本来正しい行いをしたデジモンは死後アヌビモンによってデジタマへ転生させられますが、パートナーを残して死んだデジモンは、そのパートナーが死ぬまでは魂の繋がりによって転生しないって事で。(固持付け)
実際ジュリのDアークにも少しはレオモンのデータが残ってるみたいですし。
ご都合主義バリバリですが気に入らない人の為に最初に謝っておきます。
ごめんなさい!
でも直すつもりはありませんので悪しからず。
それでは次回もお楽しみに。



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