ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

231 / 298
第60話 美しき魔王

 

 

 

 

帝国での騒動が一段落した後、俺達は主要な人物だけを連れてサーバー王国の王城に優花の〝空間魔法〟で戻って来た。

因みに帝国の都民たちだが、女神姿の葵ことアルオイスによって救われた事が切っ掛けで、アルオイス教に改宗する人が続出し、あの皇帝すらアルオイスに心酔してしまい、帝国の国教がアルオイス教に変えられていたりする。

これについては葵も苦笑いだ。

一応、人間に転生している間だからできた事だと説明はしているが、その誰もが神の奇跡だと信じて疑わなかった。

そして、現在は謁見の間で、アスラン王と対面していた。

アスラン王が玉座に座り、その隣にリティナ王女が控え、その後ろにエンジェウーモン。

少し段差になっている先に俺、葵、優花、カイル、クラウディア、エミリア、アリス、エリスとそのパートナーデジモン達が並んでいる。

それから、謁見の間の両サイドに、貴族達が並んでいた。

すると、

 

「其方達には、まずは感謝を。我が命を救い、レオナルドの暴挙、そして帝国の企みを止めてくれた事。心から礼を言いたい。ありがとう」

 

アスラン王はそう言って深く頭を下げ、同時にリティナ王女も頭を下げる。

こうやって感謝を態度に表せるところは、素直に好感が持てるな。

少しして頭を上げると、

 

「さて、まずはレオナルドとマリカ殿の処遇についてだが…………レオナルドについては、正直擁護出来る理由が見当たらん。個人的理由で私の命を狙い、王位を簒奪しようとした挙句、王国を存亡の危機に陥れた。その罪は重く、王位継承権の剥奪どころか、処刑すら視野に入れねばならん…………」

 

アスラン王は実の息子であるレオナルドにも、『処刑』と言う重い罰を科そうとしている。

これが『国王』である自分の役目だということも分かっているのだろう。

しかし、やはり肉親を処刑する事に抵抗はあるのか、やや苦い表情が伺える。

 

「…………しかし、そこでマリカ殿が困った事を言い出してしまってな………」

 

アスラン王は困った表情で呟く。

 

「マリカ殿は何と?」

 

クラウディアが聞き返すと、アスラン王は軽く息を吐き、

 

「………レオナルドを処刑するなら、自分も一緒に処刑してくれと言っているのだ」

 

「それは…………彼女なら言い出しかねませんね…………」

 

アスラン王の言葉にクラウディアは一瞬驚くも、中島さんの様子を思い出したのか、納得する様な仕草をする。

 

「マリカ殿については、強制的にこの世界に召喚した負い目もある。帝国の被害についても、女神アルオイス様のお陰で元通りとなり、被害を出したデジモンも既に消滅している…………マリカ殿については、これ以上の危険は無いと判断し、王宮からの追放が妥当だと思っているのだが…………」

 

「下手にレオナルドから引き離して、尚且つレオナルドを処刑したとなれば、後を追う可能性が高いということですか………」

 

「うむ………」

 

アスラン王は重々しく頷く。

 

「レオナルドはともかく、マリカ殿を死なせてしまうのは我々としても好ましくはない。こちらの都合で召喚して、こちらの都合に巻き込んで、その上で死なせてしまうことになる。だが、レオナルドを罰しなければ、帝国に対しても示しがつかん。どうしたものか…………」

 

アスラン王が悩んだ声を漏らした。

そこで、

 

「それなら、対外的には王子サマを処刑したことにして、実際には2人一緒に放逐すればいいんじゃないですか?」

 

俺がそう口を出す。

すると、アスラン王は驚いたような顔をして、

 

「……こちらとしては願っても無い事だが………君はそれでいいのか?」

 

「それでいいとは?」

 

「君は………その、何だ……? レオナルドから良くない仕打ちを受けたと聞いている。恨んではいないのかね?」

 

そのアスラン王の言葉に対し、

 

「ぶっちゃけて言えば、俺はその2人の生死に興味が無いんです。その2人がどうなろうと、別にどうでもいいんです」

 

俺はそう答えた。

 

「………なるほど。では、その様な方面で話を進めよう」

 

そこでアスラン王は言葉を区切ると、

 

「では、次に君達の処遇についてだが…………」

 

俺達を………

正確には、クラウディア、エミリア、アリス、エリス、カイルを見渡す。

 

「君達の持つ力は、正直に言って大きすぎる。その気になれば、この世界を我が物に出来る力を持っている。そのような者達を放っては置けぬし、また、他の諸侯貴族達も君達を放っておかぬだろう」

 

その言葉に、周りの貴族達の視線が強くなる。

彼女達を取り込む算段を付けているのだろう。

すると、

 

「お言葉ですが陛下。私とエミリア、アリス、エリスについてはご心配は不要です」

 

「ほう? 何故かね?」

 

アスラン王が聞き返すと、

 

「我々4人は、タイシについて行くと心に決めております故。もちろん、タイシがこの世界を去る時も、共について行きます。父上には後で報告に参りますが………反対はしないでしょう」

 

その言葉に、周りの貴族達がざわつく。

 

「この世界を捨てる……ということかね?」

 

「気軽に行き来出来ないという意味ではその通りでしょう。時折里帰りする程度……ということになるでしょう」

 

「ふむ………となれば、残るはカイル殿か………」

 

アスラン王の視線がカイルに向き、カイルは緊張した面持ちで背筋を伸ばして見つめ返す。

アスラン王は顎に手を当て、

 

「カイル殿は平民だが、究極体を育て上げ、また、王国の危機に幾度も駆けつけ、多大な功績を上げている。王家としても、その様な英雄を放っておくわけにはいかん。よって………」

 

アスラン王は立ち上がると言い放った。

 

「ここに、カイル殿と我が娘、リティナとの婚約を宣言する!」

 

その言葉に、貴族達に動揺が走った。

 

「お、お待ちください陛下! いくらなんでも唯の平民にそんな………」

 

貴族の1人が抗議の声を上げる。

 

「ほう? 御伽話や神話のレベルだった究極体を育て上げたデジタルナイトを『唯の』と申すか………」

 

アスラン王は厳しい目付きでその貴族を見る。

 

「い、いえ、語弊がありました! その者は平民故、貴族、王族としての知識が足りておりませぬ! それでは将来、国を運営する上で支障が起きないかと心配で………」

 

その貴族は慌てて言葉を選ぶ。

 

「そのことについてはリティナが中心となって政を行えば問題あるまい。それに私とてまだしばらくは王としてやっていける。カイル殿が学ぶ時間も十分にあるだろう」

 

「い、いやしかし………」

 

貴族は尚も何か言おうとしたが、

 

「リティナは、レオナルド自身が自分よりも優秀だと認めている。そして、レオナルドが政治どころかこの世界の事も良く知らぬマリカ殿を王妃として迎え入れようとした際は、お前達も反対しなかっただろう? ならば、カイル殿を王配として迎え入れても問題は無い筈だ」

 

「…………………」

 

その貴族は何も言えなくなってしまう。

 

「ではカイル殿。こちらへ」

 

アスラン王に促され、カイルは前に出る。

そして、リティナ王女がカイルの前に歩み出た。

 

「カイル………」

 

リティナ王女がカイルと見つめ合う。

 

「リティナ………約束通り、君の隣に立てたよ」

 

カイルが微笑んでそう言う。

カイルの言う約束が何なのかは分からないが、その言葉にリティナ王女は嬉しそうに笑みを浮かべ、

 

「………はい!」

 

花が咲く様な満面の笑みを浮かべ、大きく返事をした。

その瞬間、リティナ王女のドレスのポケットから、ピンク色の光が溢れた。

 

「これは………?」

 

リティナ王女がポケットに手を入れて取り出したのは、ピンク色に輝くデジヴァイス。

すると、エンジェウーモンが光を放ち、

 

「エンジェウーモン! 究極進化!!」

 

エンジェウーモンが究極体へと進化を遂げる。

 

「オファニモン!!」

 

金色の10枚の翼を持ち、透き通った翠の鎧を纏った女性型天使デジモンが舞い降りた。

 

「エンジェウーモンが………進化した………」

 

リティナ王女が呆然と呟く。

 

「なんと神々しい………」

 

アスラン王も呆けた声を漏らした。

すると、

 

「おめでとうリティナ。私からも祝福するわ」

 

オファニモンが笑みを浮かべながらそう告げる。

これには俺も予想外だった。

リティナ王女もいずれは究極体に進化させられると思っていたが、まさか戦いの場ではなく、カイルとの婚約が決定した瞬間に喜びの感情が溢れて進化させるとは思わなかったな。

でも、何でその話が知らされた時に進化しなかったんだろうと俺は不思議に思う。

ここまでの一連の流れは、この謁見が始まる前に既に決められた事だ。

この謁見は、言うなれば貴族達への知らしめの為に行われている。

王族として、こういう場で決定される方が実感が湧くんだろうか?

とは言え、偶然だがエンジェウーモンがオファニモンへ進化したことは、オファニモンが女性天使型デジモンである事も相まってこの場に居た貴族達に、カイルとリティナ王女の婚約に正統性を感じさせた。

予想外の事が多少あった物の、謁見は終了し、俺達は謁見の間を出る。

すると、

 

「ん?」

 

そこに1人の男が待ち構えていた。

その男は、

 

「お父様………」

 

アリスが呟く。

その男は、アリスとエリスの父親であるダニエル。

 

「…………………」

 

彼は、どこか憑き物が落ちた様な穏やかな表情でアリスとエリスに視線を向けた後、一度目を伏せ、それから再び目を開くと共に、俺を見た。

 

「…………タイシ殿……」

 

そこで初めて口を開く。

 

「……何だ?」

 

俺が聞き返すと、

 

「…………今更私が言えた義理では無いが…………娘達を、よろしく頼む………」

 

そう言って深く頭を下げた。

 

「「ッ………!?」」

 

その行動に、驚愕の表情をするアリスとエリス。

そして、俺の答えは、

 

「……………………言われるまでもない」

 

そう答えた。

すると、ダニエルは顔を上げ、もう一度アリスとエリスに目配せすると、

 

「幸せになりなさい………」

 

小さくそう告げて、踵を返して去って行った。

 

「お父様………」

 

「お父さん………」

 

その後姿を、2人は何とも言えない雰囲気で見送った。

 

 

 

暫くして、謁見の間で別れたカイルとリティナ王女が合流した。

その中で、

 

「タイシ達は、これからどうするつもり?」

 

カイルがそう問いかけてきた。

 

「ああ。時間的にハジメ………俺の仲間達がいつ迎えに来てもおかしくないからな。とりあえず、今日は泊って、明日の朝一でフォルダ領に行ってフォルダ公爵にクラウディアを貰うと挨拶に行こうと思ってる」

 

「ッ……!」

 

俺のその言葉に、クラウディアは頬を赤くしている。

すると、

 

「それじゃあ、その時に俺達も連れて行ってくれないかな? 父さんや母さん達に、リティナと婚約したことを伝えたいから」

 

その言葉に、俺は納得する。

 

「そういうことか。いいぞ。ただ、長距離の空間魔法は一度行った場所しかゲートが開けないから、アレフ市まで空間魔法で行ってフォルダ公爵に挨拶してから、そこからフェート村までインペリアルドラモンで行くのが一番早いな」

 

「ありがとう! それじゃあ、明日の朝にね!」

 

カイルはそう言うと、リティナ王女と一緒に別の部屋に歩いていく。

俺達も自分達に宛がわれた部屋に向かうと、

 

「おかえり~」

 

「おとーさん!」

 

カンナとクオンが出迎えた。

カンナとクオンはそのままだと大騒動なので、現在は優花に認識阻害のアーティファクトを作って貰って、魔族だと気付かないようにしている。

アスラン王にはちゃんと話は通してある。

 

「お疲れ様です、旦那様」

 

「ん、お疲れ」

 

「タイシ、お帰り」

 

カトレア、シャルロット、テファも出迎える。

 

「ああ、ただいま」

 

留守番させることになってしまっていた恋人達を見て、俺は申し訳なさを若干感じつつ、ただいまを言う。

すると、

 

「クオン。今日はデジモン達と一緒に隣の部屋で寝てね」

 

カンナが突然そう言った。

 

「わかった。おかーさん」

 

クオンはそう言うと、てててっとドルモン達と一緒に隣の部屋に向かっていく。

そして、

 

「さてと………」

 

葵がそう言うと、後ろで扉が閉まる音が響く。

優花が扉を閉めたようだ。

 

「久し振りにゆっくり出来る時間だし、今夜は全員でいっぱい楽しもうね?」

 

葵の言葉に、俺は思わず周りを見渡した。

葵と優花は妖艶な笑みを浮かべ、シャルロット、カトレア、テファ、アリス、エリス、クラウディア、エミリア、カンナは頬を赤く染めている。

 

「全員って………マジっすか?」

 

俺は思わずそう口に出す。

俺はそのままベッドに連れていかれた。

その後は………………………〝再生魔法〟様様だったと言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

フォルダ領アレフ市。

フォルダ領の中心都市であるこの街に、再び危機が訪れていた。

日の出と共に魔物の大軍勢が押し寄せ、都市を半包囲したのだ。

しかし、不幸中の幸いと言うべきかその大半はその場で動かず、出てきたのは精鋭と思わしき魔族の一団。

そしてアレフ市には、先の襲撃があってから、再侵攻に備えて王都より騎士団が派遣されており、数名のロイヤルナイツも駐在していた。

戦力的に見れば、襲撃前の10倍以上の戦力がこのアレフ市には存在している。

故に、そう簡単にはやられない。

フォルダ公爵も、その息子であるクラウスもそう思っていた。

しかし、

 

「何ということだ…………」

 

市壁の上からその光景を目にしたフォルダ公爵は、戦慄の声を漏らす。

彼らの目の前に広がるのは、壊滅した騎士団。

そして、倒れ伏した騎士達やデジモン達の中に立つ3つの影。

1つは漆黒のウォーグレイモン。

もう1つは漆黒のメタルガルルモン。

そして、最後の1つは…………

 

「…………つまらんな」

 

そんな言葉が、最後の影から零れた。

それは、背中までかかる紫がかった黒髪。

血のような真紅の瞳に絶世の美女と呼ばれるだろう顔立ち。

殆どの男を魅了するだろう魅惑のボディラインを持つ体に背中を大きく開けたドレスのような黒い衣を纏い、太腿までをカバーするロングブーツを履いている。

それだけ聞けば、人間と変わり無いのだが、頭にある2本の捻じれた角と、後腰部辺りから広がる悪魔のような漆黒の翼が、彼女が人間でないことを示していた。

そして、その両手首には、ブレスレットのような黒いデジヴァイスのようなものを付けている。

 

「ま、まさか………魔王がサキュバスだったとは…………!」

 

その姿を見ながら畏怖と同時に意外性を感じる騎士達を率いる団長。

それは、ロイヤルナイツの1人であるクロード。

彼のデジモンであるアンドロモンは、ブラックウォーグレイモンによって一撃で吹き飛ばされて戦闘不能に陥っている。

 

「だ、団長………!」

 

未だ無事な騎士の1人が怯えた声を上げる。

その時、ブラックウォーグレイモンがギロリとそちらを向いた。

 

「ひっ……!」

 

その騎士が思わず引き攣った声を漏らす。

その姿を見て、ブラックウォーグレイモンはつまらなそうな目をして視線を切る。

 

「弱い………弱すぎるぞ………! もっと………もっと強い奴は居ないのか!!」

 

まるで不満を爆発させるかのようにそう叫んだ。

 

「まったくだ。これでは歯ごたえが無い。俺達やシュヴァリアが出張る必要も無かったな」

 

ブラックメタルガルルモンも、ブラックウォーグレイモンに同意するように頷き、呆れたように溜息を吐く。

その様子を見て、

 

「くっ………! 何とか魔王からデジモン達を遠ざけるのだ。そうすれば………!」

 

クロードは、騎士達へ命令を下す。

 

「まだ向かってくるか………!」

 

ブラックウォーグレイモンは、若干イラつきつつ騎士達と共に向かってくるデジモン達に狙いを定める。

 

「はぁあああああっ!」

 

ブラックウォーグレイモンは地を蹴って飛翔し、猛スピードで騎士達のデジモンに接近、一撃で吹き飛ばしていく。

 

「ブラックウォーグレイモンの奴、イラついているな………」

 

魔王であるサキュバスが、その様子を眺めながら呟く。

 

「仕方ないさ。ブラックウォーグレイモンは強い奴と戦うことを好む。弱い奴を相手に手加減しつつ戦うのは、ストレスが溜まるだろうさ」

 

ブラックメタルガルルモンがそう言う。

 

「ブラックメタルガルルモン、お前も行け。もしもの時は………」

 

「わかった」

 

魔王の言葉にブラックメタルガルルモンは頷くと、ブラックウォーグレイモンの元へ向かう。

すると、

 

「お姉様。よろしいのですかぁ~? 向こうの騎士達の動き、あれは陽動ですよぉ~?」

 

少々間延びした声で、魔王と同じ特徴を持つ女魔族が近くに降り立つ。

魔王と比べれば劣るものの、彼女も十分に美少女と言える美しさを持っており、魔王と同じサキュバスであることが伺える。

このサキュバスは魔王の参謀であり、魔族達の実質的な指揮官を担っており、騎士団を壊滅させたのは、ブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンの存在もあったが、このサキュバスの采配が見事だったことも大きい。

すると、

 

「構わんさ。追い詰められた人間共が、如何出て来るか余も興味がある」

 

魔王は自信を持った口振りでそう言い切る。

 

「そうですか~。因みに私の予想では~………」

 

参謀のサキュバスが予想を口にしようとした時、

 

「むっ………」

 

魔王が何かに気付いたように下を向いた。

地面から振動が伝わって来たのだ。

その振動がどんどん大きくなる。

 

「ほう! そう来たか!」

 

魔王は楽しそうな声でそう口にする。

その瞬間、魔王の目の前の地面の土が爆発するように吹き飛ばされ、そこから現れたのは、

 

「モゲェェェェェェェッ!!」

 

鼻先にドリルを付けたモグラのようなデジモンであるドリモゲモン。

 

「なるほど、地下からの奇襲か」

 

「予想通りですね~」

 

魔王は少し感心した声を。

参謀のサキュバスは楽しそうに声を漏らす。

 

「だが、舐められたものだな。成熟期デジモンで余の首を取ろうとは………」

 

魔王は心外だと言わんばかりに、つまらなそうに顔を顰めた。

だが、

 

「オォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

ドリモゲモンの背後から、人型の何かが飛び出す。

それは獅子の顔をした獣人型デジモン。

両腕両足のタービンを高速回転させているそのデジモンは、完全体のグラップレオモン。

 

「行け! 我が騎士団の切り札!」

 

クロードが叫ぶ。

このグラップレオモンは、副団長のデジモンが最近進化したばかりであり、クロードの騎士団の隠し玉であった。

 

「サキュバスは他の魔族と違い、身体能力は高くない! だが、相手は魔王を冠する者。であれば、成熟期では返り討ちに会うかもしれん! だが、完全体であれば!」

 

クロードは叫びながら勝利を確信した。

グラップレオモンが、近接戦闘に特化した完全体である事も、その確信に拍車をかけている。

グラップレオモンの振り被った右腕のタービンが極限まで回転数を上げ、

 

「獅子獣波斬!!」

 

重力を捻じ曲げるほどの、重い一撃が放たれた。

 

「ッ…………」

 

参謀のサキュバスは咄嗟に翼を使って離れたが、魔王はグラップレオモンに目を向けたままその場に立ち続ける。

そして、

 

―――ドゴォォォォォォォン!!

 

爆発に似た衝撃が響き渡った。

その衝撃が収まると、

 

「は、はは………やった! 魔王を倒したぞ!!」

 

クロードが喜びの声を上げる。

それに伴い、周りの騎士達も勝鬨を上げるように叫び声を上げた。

その盛り上がりが最高潮に達しようとした時、

 

「……………ふむ。余の一族の事を良く調べている様だな」

 

その場に信じられない声が響いた。

 

「確かに余の一族は、魔族の中では脆弱だ。身体能力で言えば、貴様ら人間族とさほど変わりがない…………余以外の同族であれば、間違いなく今の一撃で斃れただろう………」

 

先程まで勝利の喜びに浸っていた者達は、恐る恐るそちらを見た。

 

「だが………その脆弱なサキュバスの1人である余が、何故魔王の座に就いていると思う………?」

 

そこには信じられないことに、重力を捻じ曲げるほど重いグラップレオモンの一撃を、魔王はその華奢な左腕1本で受け止めていたのだ。

 

「それは………………」

 

魔王はそう言いつつ右手を握りしめる。

その瞬間、その右の拳に黒いデジソウルが宿った。

 

「…………強いからだ!!」

 

その言葉と共に、左腕で受け止めていたグラップレオモンの腹部に、その拳を叩き込んだ。

 

「ゴアッ…………!?」

 

その一撃が腹部に突き刺さったグラップレオモンは、一気に白目を剥く。

そして、魔王が拳を振り切ると、そのまま吹き飛び、後方のドリモゲモンを巻き込んでそのまま騎士達の方に殴り飛ばされた。

 

「余は強いからこそ魔王なのだ。良く心に刻んでおくが良い………!」

 

自信に満ちた声でそう言い放った。

その姿に、

 

「ひ、ひぃいいいいいいいいいいいっ!?!?」

 

最後の策を破られた騎士達が、恐れをなして逃げ出し始めた。

武器を捨て、我先にと背を向けて駆け出す。

だが、

 

「……………見るに耐えん…………」

 

ブラックウォーグレイモンが呟く。

 

「例え敵わずとも、最後まで立ち向かう気概のある奴は居ないのか!?」

 

イラつきを隠そうともせずに、咆哮と共に衝撃波が発生する。

 

「俺の知る奴らは、例え何度倒されようと俺に立ち向かって来たぞ! 実力差を見せつけようとも、何度でも俺の前に立ち塞がった! そんな強者はこの世界には居ないというのか!!」

 

ブラックウォーグレイモンはそう叫ぶと両腕を頭上に掲げる。

 

「ッ!? 待て! ブラックウォーグレイモン!」

 

ブラックメタルガルルモンがそれに気付き、慌てて制止の言葉を賭けるが、感情が昂っているブラックウォーグレイモンには聞こえない。

ブラックウォーグレイモンは、負のエネルギーを集め出し、紅に輝く光球を生み出す。

その光球が瞬く間に巨大化し、絶大な負のエネルギーを内包したブラックウォーグレイモンの必殺技。

 

「よせっ!」

 

魔王も叫んだが、もう遅い。

 

「ガイアフォース!!」

 

その紅のエネルギー球が投げ付けられるように放たれた。

その内包エネルギーは、逃げ惑う騎士団どころか、アレフ市そのものを吹き飛ばして余りある威力を誇る。

 

「お、終わった……………」

 

クロードが呆然と呟く。

その迫りくる負のエネルギーの塊を見て、フォルダ公爵とクラウスも覚悟を決める。

そして………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガイアフォース!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後方から飛来した金色のエネルギー球が紅のエネルギー球とぶつかり、互いが巻き込み合うように上空へと逸れていき、遥か上空で大爆発を起こした。

 

「何ッ!?」

 

ブラックウォーグレイモンが驚愕の声を漏らす。

すると、目の前にウォーグレイモンが勢いよく着地する。

 

「貴様はっ!?」

 

その姿を見て驚いた声を上げるブラックウォーグレイモン。

更に、

 

「ガルルトマホーク!!」

 

一発の大型ミサイルが飛来する。

 

「ッ!? ガルルトマホーク!!」

 

ブラックメタルガルルモンが腹部から大型ミサイルを発射してそのミサイルを撃ち落とす。

そのミサイルが爆発した瞬間、空気中の水分が凍り付き、白い煙となって広がった。

 

「これ以上好きにはさせない!」

 

その煙を切り裂いて降り立ったのはメタルガルルモン。

更に上空にインペリアルドラモンが降下してくる。

 

「インペリアルドラモンだと!? まさか、あいつ等なのか!?」

 

ブラックウォーグレイモンが再び驚きの声を上げた。

すると、青い光と共に大士達がその場に降り立つ。

 

「ブラックウォーグレイモンに………ブラックメタルガルルモン………!?」

 

大士はブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンを見て、軽く驚いた声を漏らす。

 

「……………あいつ等では無い………か………」

 

ブラックウォーグレイモンは、何処か残念そうな声を漏らす。

 

「クラウディア達は負傷者の救護を、俺達は………」

 

「大士!!」

 

大士がクラウディア達に指示を出していると、ドルモンが警告のような声色で大士の名を叫んだ。

 

「ッ!?」

 

大士が振り返った瞬間、魔王が拳に黒いデジソウルを宿して殴りかかって来た。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

魔王は、容赦なく大士の顔面に向かって拳を繰り出す。

大士はその拳の直撃を受けた………

 

「大士!」

 

………ように見えた。

実際は、左手を顔の前に滑り込ませ、その手に金色のデジソウルを宿してその拳を受け止めていた。

しかし、

 

「ッ~~~~~~~~~~~!?」

 

デジソウルで受け止めた筈の大士は、手の痺れから顔を顰める。

 

「ほう………余の拳を受け止めたか…………」

 

魔王は不敵な笑みを浮かべつつ拳を引いて一旦飛び退く。

 

「貴様が報告にあった、ガビエルのヴェノムヴァンデモンを殴り倒した人間だな?」

 

魔王は確信を持った声色で問いかける。

 

「…………だったら何だ?」

 

大士がそう言い返すと、

 

「余は魔王………魔王シュヴァリア………! 貴様は?」

 

魔王はそう名乗ると、大士の名を訊ねる。

 

「…………大士。黒騎 大士だ」

 

大士もそう名乗り返す。

 

「タイシ………か…………面白い………!」

 

シュヴァリアは不敵な笑みを浮かべる。

 

「どうやら、退屈はせずに済みそうだ………!」

 

その言葉と手の痺れに、大士は気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 






オリジナル異世界編第60話です。
さて、漸く登場のサキュバスの魔王様。
名前はシュヴァリア。
モデルは以前言った通り、『なぜ僕の世界を誰も覚えていないのか?』の冥帝ヴァネッサです。
初っ端からグラップレオモン殴り倒しちゃう活躍ぶりです。
そんで、シュヴァリアのパートナーはブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモン。
このブラックウォーグレイモンは何と……………
次をお楽しみに。


P.S すいません。今週も返信はお休みします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。