ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第63話 漆黒の聖騎士

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「はぁあああああああああああああああっ!!」

 

ウォーグレイモンとブラックウォーグレイモンが、空中で激しい格闘戦を繰り広げている。

両者が装備しているドラモンキラーは、ドラモン系及び竜型のデジモンに対し、特攻能力を持つ武装だ。

ウォーグレイモンは竜人型のデジモン。

即ち、ウォーグレイモン自身にも危険な諸刃の剣とも言える。

その互いに特攻能力を持つ武装でこれだけの格闘戦を繰り広げているのに、両者には致命的なダメージは見られない。

どちらもクリーンヒットは避けているのだ。

それだけでも、この格闘戦のレベルの高さが伺える。

すると、ブラックウォーグレイモンが頭上で両腕のドラモンキラーを合わせ、高速回転を始めた。

 

「ブラックトルネード!!」

 

瞬く間に黒い竜巻となり、ウォーグレイモンに向かって突撃する。

 

「ッ……! ブレイブトルネード!!」

 

ウォーグレイモンも同じように頭上でドラモンキラーを合わせて高速回転し、こちらは黄金の竜巻となる。

黄金と黒の竜巻は、空中で何度か交差し、最後は真正面から衝突する。

すると、黄金と黒が入り混じる巨大な竜巻となり、巻き上げられた石がその竜巻に引き込まれると、瞬時に粉微塵となった。

だが、その内部でウォーグレイモンとブラックウォーグレイモンが激しい戦いを繰り広げていると思われる閃光と激突音が幾度も起こった。

その竜巻はまるで、2体の戦いを誰にも邪魔させないと言わんばかりに、誰も近付けさせないリングの様であった。

 

 

 

 

 

一方、メタルガルルモンとブラックメタルガルルモンは、ウォーグレイモン達との戦いとは別の意味で膠着状態だった。

メタルガルルモンは、高機動と身体中の武装を用いた高火力が特徴のデジモンだ。

だが、それでも機械化された身体の装甲は、並のデジモンでは傷一つ付けられない防御力を誇る。

メタルガルルモンの武装は、総合攻撃力ならウォーグレイモンとも肩を並べるが、一発一発の攻撃力ではそこまででは無い。

一発二発喰らった所で、メタルガルルモンの防御力の前では決定打にならない。

同じ氷属性のデジモンでもあるので、冷気に対しても高い耐性を誇るため、動きが鈍るほど凍り付きもしないのだ。

コキュートスブレスやガルルトマホークであれば話は別だが、必殺技の挙動が大きいため、メタルガルルモンの機動性なら余裕で避けられてしまうのだ。

その為、どちらも有効打を与える事が出来ず、膠着状態に陥ってしまったのだ。

とは言え、隙を見せればそのまま押し切られてしまう可能性が高いため、両者とも一瞬たりとも気を抜く事が出来ず、気力の勝負ともなっていた。

 

 

 

 

 

そして、大士とシュヴァリアの戦いだが、

 

「おらぁあああああっ!!」

 

 

「はぁああああああああああああっ!!」

 

相も変わらず人間とサキュバスの戦いとは思えない殴り合いを繰り広げていた。

互いの拳には、究極体すら殴り倒す威力が込められている。

それを互いにまともに受けても多少怯む程度で、すぐに次の拳を放つ。

だが、それでも互いにノーダメージとは行かないようで、互いに疲労の色が見えた。

 

「はぁ……はぁ………」

 

「ふぅ………ふぅ………」

 

息を整える2人。

 

「くっそ………いい加減……倒れてくれよ………」

 

「はっ……! 余は倒れん………倒れる訳には行かぬ………!」

 

大士の言葉を鼻で笑いながらそう返すシュヴァリア。

 

「ッ…………………?」

 

その言葉に、大士は僅かな違和感を感じた。

『倒れる訳にはいかない』。

それはまるで、倒れてはいけない理由がある様に聞こえたからだ。

 

「余は魔王! 魔王であるためには、負けるわけにはいかん!!」

 

シュヴァリアのデジソウルが更に激しく噴き出す。

 

「お前…………」

 

その姿に何かを感じた大士は、その場で仁王立ちすると、

 

「………………来い!」

 

真っ直ぐにシュヴァリアを見つめてそう言い放った。

 

「ッ…………!」

 

その姿を見て、シュヴァリアは嬉しそうに口元を吊り上げる。

 

「ゆくぞ!!」

 

シュヴァリアは地面を蹴って大士に向かって飛び掛かる。

 

「はぁああああああああああああああああああああっ…………!!」

 

シュヴァリアの全身のデジソウルが右手の拳に集約される。

そして、

 

「はあっ!!!」

 

渾身のボディブローが繰り出された。

拳が大士の腹に突き刺さる。

 

「ぐっ………はぁっ…………!?」

 

大士は身体をくの字に折り曲げ、口から血の混じった胃液や空気を吐き出す。

渾身の一撃のクリティカルヒット。

誰が見ても、致命的な一撃。

普通なら、誰もがそう思った。

しかし、

 

「「「「「「「「「「大士っ!!」」」」」」」」」」

 

大士の後ろから、彼を呼ぶ声が聞こえる。

それは、大士のパートナーや仲間、恋人達の声。

その声が、飛びそうになる大士の意識をギリギリで繋ぎ止めた。

腹に突き刺さったシュヴァリアの右腕を、大士が左腕で掴んだ。

 

「ッ…………!?」

 

シュヴァリアが驚愕の表情をする。

そして、腰溜めに構えられた右の拳に大士のデジソウルが集約。

更に高密度のオーラとなって、薄い膜の様に大士の拳に纏わりついた。

 

「シュヴァリア………お前の全力………受け止めたぞ…………!」

 

大士は間近でシュヴァリアの顔を見つめる。

シュヴァリアは驚愕の表情をしていたが、その言葉を聞くと、フッと微笑んだ。

 

「…………『私』の負けよ…………タイシ」

 

『魔王』ではなく『シュヴァリア』としてその言葉を零すと、

 

「はぁああああああああああああああっ!!!」

 

大士はお返しとばかりに、渾身のボディブローでシュヴァリアの腹部を打ち抜いた。

 

「ッ…………………!?」

 

シュヴァリアは叫び声すら上げずに吹き飛んでいき、地面に倒れる。

 

「シュヴァリア!?」

 

「シュヴァリア……!?」

 

戦っていたブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンが吹き飛ばされたシュヴァリアの姿に気付き、驚愕の声でその名を呼んだ。

 

「くっ…………!」

 

シュヴァリアは身動ぎするが、ダメージが大きく立ち上がれそうにない。

そして、

 

「……………許せ…………同胞達よ……………」

 

諦めた様に、身体中から力を抜いた。

その顔は、何処か清々しい表情だった。

 

「ま、魔王を倒した………?」

 

騎士の1人がその様子を見て声を漏らす。

王都から来た兵士の1人だ。

そして、

 

「魔王が倒れたぞぉー!!」

 

その事を知らしめるように大声を上げた。

それに伴い、騎士達が鬨の声を上げる。

魔王が倒されたと知れ渡り、騎士達の士気は上がっていく。

そして、逆に魔王軍の士気は下がっていく。

そう思われた。

すると、

 

「お姉様!?」

 

ミリムがその姿に驚愕の声を上げる。

そして慌ててシュヴァリアの元へ駆けつけようとして、

 

「あぐっ!?」

 

「ギャハハハハハハハハ! ようやく負けやがったぜぇ!」

 

ミリムの背後から首を掴み、持ち上げた悪魔族の男の姿があった。

 

「ギ、ギリエル…………!」

 

ミリムは苦しそうな表情で背後の悪魔族、ギリエルを睨む。

 

「は、放しなさい……!」

 

ミリムはそう言うが、

 

「はっ! あの女が負けた今、テメーなんぞの命令を聞く筋合いはもうねえんだよ!」

 

ギリエルはそう言うとミリムを投げ飛ばした。

 

「きゃあっ!?」

 

ミリムは何とか制動を取ろうとするものの、勢いに負けて地面に倒れる。

 

「い、一体どういうことだ!?」

 

投げ飛ばされてきたミリムの近くで、守備隊の立て直しを行っていたクラウスが突然の出来事に戸惑った。

 

「ふん! 我々魔族には、魔王と同じ種族は優遇される決まりがある。今まではあの忌々しいサキュバスの女が魔王だったせいで、最弱のサキュバス族に頭を下げなければならなかった………だが、あの女が負けた今、奴は魔王である資格を失った!!」

 

すると、ギリエルはシュヴァリアの方に飛んでいき、すぐ傍に降り立った。

 

「はっ! ざまぁねえな!」

 

ギリエルはそう言うと、シュヴァリアの顔を踏みつけた。

 

「ギリエル………! 貴様………!」

 

「所詮、下級魔族のサキュバスが魔王の座に就くなんて、烏滸がましいにも程があるんだよ!」

 

更にシュヴァリアの顔を蹴り飛ばした。

 

「貴様……!」

 

いつの間にか戦いを中断したブラックウォーグレイモンが近くに降り立ち、ギリエルを睨み付ける。

その時、

 

「貴様! それが力の限り戦った主に対する態度か!?」

 

クラウディアが叫んだ。

ギリエルがそちらを見ると、

 

「元々サキュバスであるこいつが魔王だなんて、誰も認めてねえんだよ! 偶々究極体を2体手に入れた幸運で成り上がった癖に、偉そうに………!」

 

ギリエルは足を退かすと、シュヴァリアの首を掴んで持ち上げる。

 

「貴様ぁ!!」

 

ブラックウォーグレイモンが遂に我慢できなくなったのか、ギリエルに向かって飛び掛かる。

その後にはブラックメタルガルルモンも続く。

 

「ハッ! ムゲンドラモン!!」

 

ギリエルが叫ぶと、ギリエルの背後の地面が割れ砕け、底から巨大な砲身を二つ背負った巨大な機械竜が姿を現した。

 

「何ッ!?」

 

そして、

 

「ムゲンキャノン!!」

 

その背中の巨大な砲身にエネルギーが送り込まれ、巨大なエネルギーの砲撃が放たれた。

 

「ぐぁあああああああっ!?」

 

「うわぁああああああああああっ!?」

 

不意打ちのカウンターを諸に受けたブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンは吹き飛ばされる。

 

「ブラックウォーグレイモン!?」

 

「ブラックメタルガルルモン!?」

 

ウォーグレイモンとメタルガルルモンが叫んだ。

 

「今まで俺様が遅れを取っていたのは、こいつがデジモンを2体持っていたからだ! 1対1なら俺様のムゲンドラモンが負ける筈が無かった!!」

 

「………………究極体を2体育て上げたのも、立派なテイマーの力だと思うんだがな………」

 

大士がポツリと呟く。

だが、ギリエルには聞こえておらず、

 

「これより魔王の座には俺様が就く! 同胞達よ! この女が決めた取り決めなど今この時を以って破棄する! 好きに暴れ、壊し、殺し、蹂躙しろ!!!」

 

魔王軍全体に響き渡るような大声を上げた。

 

「「「「「「「「「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」」」」」

 

戒めから解放されたと言わんばかりに咆哮を上げる魔王軍。

それを満足そうに見つめると、

 

「さて…………」

 

ギリエルはシュヴァリアの顔を自分の顔の近くに引き寄せる。

 

「これで魔王軍は俺の物となった。お前はもう用済みだ」

 

その言葉に、シュヴァリアは弱味を見せずにギリエルを睨み付ける。

 

「気に食わない目だ。まだ自分の立場が理解できていないと見える…………そうだな………このまま殺すのもつまらん………お前には、最高の屈辱を与えてやろう」

 

ギリエルはそう言うと、良い事を思いついたと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべた。

 

「貴様は俺様の性奴隷にしてやろう。どうだ? 下賤なサキュバスに相応しい扱いだろう?」

 

ギリエルが下種な笑みを浮かべながらそう言うと、

 

「………はっ。弱り切った女にしか手を出せない男に、余を満足させられるとは思えんがな?」

 

シュヴァリアは鼻で笑う。

その言葉で、ギリエルの額にピキッと青筋が浮かぶ。

 

「ほうほう? どうやらお前には身の程と言う奴を身体に教え込まなければならない様だな…………!?」

 

怒りを我慢する様な表情でそう言うと、

 

「いいだろう! 今ここで貴様を凌辱し、自分が所詮下賤な種族であることを思い知らせてやる!!」

 

爆発したようにそう叫び、シュヴァリアの服を引き裂かんと、爪の長いその手を掛けようとして、

 

「オラァッ!!」

 

「ぶほっ!?」

 

突如としてギリエルの横っ面に拳が叩き込まれ、ギリエルは吹き飛んでいく。

 

「あっ………」

 

解放されたシュヴァリアは地面に落下していくが、

 

「おっと………」

 

そのシュヴァリアを大士が横抱きで受け止めた。

 

「タイシ………?」

 

シュヴァリアが抱かれながら大士の顔を見つめる。

 

「この女は、お前みたいなクズが手を出していい女じゃねえよ!」

 

大士は吹き飛ばされたギリエルに向かってそう言い放つ。

 

「お……ご………き、貴様………!」

 

殴られたギリエルは顔が変形しており、のた打ち回っている。

 

「第一、負けたからと言って何でお前が魔王になるのかがよくわからん。シュヴァリアに勝ったのは俺だ。シュヴァリアは確かに負けたが、それはシュヴァリアが弱くなったわけじゃなく、シュヴァリアより俺が強かっただけの話だ。そもそも、俺の軽い拳一発でそんな体たらくじゃ、シュヴァリアの足元にも及ばん」

 

「タイシ…………」

 

再び呟いたその言葉に、大士はシュヴァリアを見る。

 

「悪いな。お前が凌辱されると聞いたら、何か腹が立ったからつい………」

 

「いいや、嬉しかったぞ」

 

そう言ってシュヴァリアは微笑む。

その微笑みを間近で見て、大士は顔を赤くした。

 

「フフッ………」

 

突然シュヴァリアが楽しそうに笑った。

 

「? 如何した?」

 

大士が尋ねると、

 

「いや、余をお姫様抱っこで抱き上げる男がいるとは思っていなかっただけだ」

 

大士はそこでハッとなる。

流れでそうなってしまったが、今はシュヴァリアを抱き上げているのだ。

 

「わ、悪い! すぐに降ろす!」

 

大士は慌ててシュヴァリアを降ろそうとした。

だが、突然シュヴァリアが両手を大士の首に回して、降ろされる事を拒んだ。

 

「もう少しこのままでも良かろう? 余は動けないのだ」

 

そう言って腕に力を込める。

よく見れば、シュヴァリアの頬は僅かに赤く染まっており、満更でも無さそうな表情をしていた。

 

「え? いや…………」

 

突然のシュヴァリアの行動に大士が戸惑っていると、

 

「………ああ、やはりな………タイシに抱かれていると、心地よい………」

 

抱かれている事を堪能するように目を伏せて身を寄せると、シュヴァリアはそんな事を言う。

 

「このような気持ちは初めてだ…………」

 

それから再び目を開け、

 

「『食事』の為に男を求める衝動に駆られた事は何度もあるが、純粋に『女』として男が欲しいと思ったのは初めてだ…………!」

 

「お、おい………! それって………!」

 

そこまで言われて気付かない程、大士は鈍感では無い。

すると、

 

「大士ってば、今度は女魔王まで陥落させちゃったね~!」

 

「何で拳を交えて友情どころか愛情を育んでるのよ、あんた達は………?」

 

いつの間にか、葵と優花が近くまで歩み寄ってきていた。

葵は苦笑、優花は呆れた表情だ。

大士も振り返り、気まずそうな顔をしている。

 

「まさしく殴り愛だね!」

 

「………………………………」

 

葵の言葉に、何も言い返せない大士。

すると、

 

「ぐぎぎ…………おのれ……! どいつもこいつも俺様をコケにしやがって………!」

 

漸く起き上がれるところまで回復したギリエルは、自分を蚊帳の外において盛り上がっていた大士達を憤怒の表情で睨み付けると、

 

「もう許さん!! 全軍! 総攻撃だっ!!!」

 

そう叫び、全軍突撃の合図を下す。

その命令を待ちかねたかのように、咆哮を上げる魔族や魔物達。

そして、先陣を切る様にミリムが率いていた精鋭部隊が動き出そうとした時、

 

「…………………これは~、あなた達の指揮官だったよしみで下す~、最後の命令です~」

 

ギリエルに投げつけられ、地面に倒れていたミリムが、自分が率いていた精鋭部隊に向かって言葉を投げた。

 

「全軍~、直ちに攻撃を止めて~、撤退しなさ~い!」

 

その言葉を聞くと、精鋭部隊の魔族達は顔を見合わせ、

 

「「「「「ギャハハハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

ミリムを馬鹿にするように笑い声を上げた。

 

「もうお前なんかの命令を聞く義理はねえんだよ!」

 

「そうだそうだ! 今までさんざん俺達を顎で使いやがって……!」

 

「戦闘中も一々口出ししてきやがって! 鬱陶しいったらなかったんだよ!」

 

ミリムに対して、次々と反抗の言葉が投げられる。

 

「これは~、あなた達の為を思っての命令ですよ~?」

 

ミリムは変わらぬ調子でそう言うと、

 

「うるせぇ! いい加減黙りな!」

 

悪魔族の1人が叫びながら火炎魔法をミリムに向けて放った。

 

「…………………………」

 

ミリムは、諦めた様に目を伏せる。

そして、

 

「アイスウォール!!」

 

ミリムの前に氷の壁が生み出され、ミリムを護る盾となった。

 

「えっ?」

 

ミリムは驚いた表情で前を見る。

すると、そこには金髪の青年の後ろ姿があった。

それは、クラウディアの兄であるクラウスであった。

 

「あなた………どうして………?」

 

「……………さて? 自分でも何故このような行動を起こしたのかはよくわからん。だが、タイシ殿を見て………彼を慕うカンナ殿やクオン嬢………そして、真っ直ぐにぶつかり合った魔王を見て、魔族の中にも分かりあえる者がいるのではないか………そう、思ってしまった」

 

「……………………ッ!」

 

ミリムはクラウスの姿を見て、頬を赤くした。

 

「はっ! 人間族に庇われるとは、堕ちたもんだなサキュバス様よぉ!?」

 

「……………優秀な指揮官である彼女を捨てた貴様ら程では無い!」

 

悪魔族の言葉に、クラウスはそう言い返した。

 

「ッ! 人間風情が!!」

 

クラウスの言葉に切れた悪魔族が、周りの仲間達と共に、無数の魔法を放ってきた。

だが、クラウスは慌てず、

 

「総員! 防御陣形!!」

 

クラウスが命令を下すと騎士達が集まり、力を合わせて強固な防御魔法を展開する。

無数の魔法が降り注ぐが、それらは全て防御魔法で防がれた。

 

「なっ!? 馬鹿な!? さっきは少なくとも防御魔法程度は破壊出来た筈!?」

 

防がれるとは思っていなかったのか、驚愕の声を上げる悪魔族の男。

そんな彼らを見て、ミリムは軽く溜息を吐く。

 

「あんな風に属性の相性も考えず出鱈目に撃ってもあの防御魔法が破れる訳無いじゃないですか。特に相反する属性を同時に撃てば、お互いに威力を相殺し合って効果が減衰してしまいますし………そもそもそれ以前にタイミングすら合わせてないですし………」

 

ミリムは欠点を上げていく。

ミリムが指揮していた時は、炎魔法なら炎魔法や風魔法といった同属性や相性の良い属性を同時に放つ事を心掛け、更にタイミングを合わせることで一点の威力を倍増させることを心掛けてきた。

それによって人間達の防御魔法を打ち破る事が出来ていたのだ。

今の魔族達は、個人の能力頼りで出鱈目に魔法を放っているため、先程よりも戦える者が減った騎士達でも、防ぐのは難しくなかった。

 

「優秀な指揮官を失った奴らは、単なる烏合の衆に成り下がった! 魔族恐るるに足らず!!」

 

クラウスの言葉に、騎士達は士気を上げていく。

 

「何が優秀な指揮官だ! そんな弱っちいサキュバスがいなくなった程度で、俺達が負けるはずあるかぁっ!!」

 

悪魔族達は、認めないと言わんばかりに両手の爪を光らせ、直接切り刻まんと翼を広げてクラウスに向かって行こうとした。

しかし、

 

「なっ………!?」

 

クラウスが目を見開いて驚いた表情をした。

 

「ん………?」

 

悪魔族は怪訝な表情をしたが、その直後、バタバタと周りの悪魔族達が地に墜ちていく。

 

「な、何だ!?」

 

残った悪魔族は狼狽えたが、よく見れば地に墜ちた悪魔族達のどてっぱらには、凄まじい威力で貫かれた様に、大きな穴が開いていた。

 

「な、何が起こった!?」

 

生き残った魔族は狼狽え続けている。

すると、

 

「優秀な指揮官の言う事は、素直に聞いておくべきだったわね?」

 

いつの間にかその悪魔族の背後には〝空力〟の足場に立つ優花の姿があった。

 

「な、何ッ!?」

 

その悪魔族は慌てて振り向く。

 

「彼女は分かっていたのよ。下手に私達と敵対すれば間違いなく『死ぬ』とね。だから彼女は動かなかった。敵対する気が無ければ、私達もあんた達を『殺す』理由はないわけだし、傍観してたわ。けど、あんた達は、大士の恋人の1人であるクラウディアの家族に手を出した。これは『私達』に対する明確な敵対行為になるわ。『敵』には容赦しないのが、私達のスタンスなのよ」

 

その瞬間、悪魔族は背中に冷や汗が流れるのを感じた。

その直後、

 

「あ……………?」

 

その悪魔族の首は宙を舞っていた。

優花の右手には、苦無が逆手に握られている。

悪魔族は、いつ自分が殺されたのかも理解できずにこの世を去った。

 

「さてと…………」

 

優花は周りを見渡す。

他の場所では、アレフ市に攻め入ろうと動き出していた魔王軍と、仲間のパートナーデジモン達が戦闘………いや、蹂躙を行っていた。

 

「トライデントガイア!!」

 

「セフィロートクリスタル!!」

 

「アローオブアルテミス!!」

 

「オーロラアンジュレーション!!」

 

「マッドネスメリーゴーランドDX!!」

 

「轟炎輪!!」

 

「グランドシスタークルス(覚)!!」

 

究極体の攻撃の前に、次々と消滅していく魔王軍。

 

「派手にやってるわねぇ………」

 

優花が感想を漏らした。

だが、

 

「………あら?」

 

ただ一ヶ所だけ、『戦闘』を繰り広げている所があった。

それは、

 

「インペリアルドラモンと戦っているのは……………確かキメラモンじゃなかったかしら?」

 

トータスで戦った事のあるデジモンを見て、優花はそう漏らした。

そのキメラモンは、インペリアルドラモンと互角の戦いを繰り広げている。

 

「…………おかしいわね? キメラモンって確か完全体じゃなかったかしら?」

 

過去に戦ったキメラモンは、完全体で間違いなかった筈。

そう思った優花はDアークを取り出して情報を表示させる。

 

「キメラモン 究極体…………」

 

記憶とは違うキメラモンの世代に、優花は声を漏らす。

 

「………けど、まあ、あの調子なら心配いらないかしら?」

 

再び視線を向けた時、インペリアルドラモンがファイターモードにチェンジした所だった。

 

 

 

地上では、

 

「なっ………ば、馬鹿な………俺様の魔王軍が………」

 

次々と消滅していく軍を見て、悪い夢だと言わんばかりに首を横に振る。

すると、大士に抱かれていたシュヴァリアが溜息を吐く。

 

「貴様は何も学んでいないのか? ガビエルが敗れた時には、100万の軍勢が一撃で消し飛ばされたと報告があっただろう? そして今は、あの時よりも人間達の戦力は充実している。あの時の倍以上の戦力があったとて、究極体2体程度で何とかなると思っているのか?」

 

シュヴァリアの的を射た言葉に、ギリエルはわなわなと震え、

 

「だ、黙れ……! 黙れ黙れ!! この俺様が負ける筈が無いのだ!! ムゲンドラモン!!」

 

ギリエルの言葉にムゲンドラモンが一歩踏み出す。

だが、

 

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

 

ブラックウォーグレイモンが突撃してきて、ムゲンドラモンに体当たりし、後に下がらせる。

 

「よくもやってくれたな………!」

 

ブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンが大士とシュヴァリアの前に降り立つ。

だが、ウォーグレイモン達との戦いと、先程のムゲンキャノンの直撃の所為で、その鎧や装甲にはひび割れ等のダメージが見て取れる。

一言で言えば、満身創痍に近い。

すると、

 

「ブラックウォーグレイモン!」

 

その近くにウォーグレイモン達が降り立つ。

 

「手を貸そう」

 

ウォーグレイモンはそう提案する。

だが、

 

「余計な真似をするな。これは俺達の問題だ!」

 

ブラックウォーグレイモンはそう言って断る。

自分達の手でケリを付けなければ気が済まないのだろう。

 

「シュヴァリア! いつまでそうしているつもりだ!?」

 

ブラックウォーグレイモンがそう言うと、

 

「やれやれ。もう少し堪能していたかったのだがな………」

 

シュヴァリアは仕方ないと言わんばかりに大士の腕から離れると、自分の足で大地に立つ。

 

「クッ………!」

 

しかし、ダメージは残っているのか、少しふら付いた。

 

「おっと………」

 

大士は思わずその肩を支える。

 

「大丈夫か?」

 

「………ああ」

 

シュヴァリアは頷くと、今度こそ自分の足で立つ。

 

「ふん! そんな様で俺様のムゲンドラモンに勝てると思っているのか!?」

 

ギリエルが咆える。

 

「…………………?」

 

大士としては、何故ギリエルが勝てると思っているのか理解できなかった。

 

「いや、普通に勝てるだろ? ブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンなら楽勝で」

 

思わずそう言ってしまう大士。

 

「何だと? 俺様のムゲンドラモンが勝てなかったのは、どちらも万全の状態かつ3対1で戦ったからだ! 1対1なら俺様のムゲンドラモンの方が強い! そして、今の満身創痍の状態なら3対1でも勝てる!!」

 

「いや、シュヴァリア達が本気出してない状態で勝てると言っても説得力無いんだが?」

 

「はっ?」

 

「えっ?」

 

「何だと?」

 

「どういうことだ?」

 

大士の言葉に、ギリエルだけではなく、シュヴァリアとブラックウォーグレイモン、ブラックメタルガルルモンも声を漏らして大士に視線を向ける。

 

「…………え?」

 

何故そんな目を向けられるのか理解できなかった大士は、少し考え、

 

「…………あ、もしかして」

 

ある事に思い至った。

 

「なあ、シュヴァリア? もしかして、お前達ってジョグレスした事無いのか?」

 

大士は、シュヴァリアのパートナーがブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンの2体で、尚且つシュヴァリアの持つデジヴァイスがデジヴァイス01だった事で、『あの』デジモンに進化出来ると思い込んでいた。

しかし、そもそもの前提が間違っていたと仮定すれば、そんな目を向けられるのも分かる。

 

「ジョグレス………? 何だそれは?」

 

シュヴァリアの言葉に、大士はやっぱりと納得した。

 

「あ~、出来るかは分からないが、そのデジヴァイスのアンテナを立てて、こう、両方の拳を合わせるように、ジョグレス! ってやってみろ」

 

大士は拳を額の前で合わせる仕草をしてみせる。

 

「ふむ…………?」

 

シュヴァリアは怪訝そうにその様子を見ていたが、

 

「まあ、やってみよう」

 

とりあえず試してみる事にした様だ。

 

シュヴァリアはブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンに向き直ると、まず左腕を掲げた。

 

「ブラックウォーグレイモン!!」

 

「おおっ!」

 

ブラックウォーグレイモンの返事と共に、左腕のデジヴァイスが輝く。

続けて右腕を掲げる。

 

「ブラックメタルガルルモン!!」

 

「ああ!」

 

ブラックメタルガルルモンの返事と共に、右腕のデジヴァイスも輝く。

そして、

 

「ジョグレス!!」

 

額の前で両方の拳をぶつけ合った。

2つのデジヴァイスの中央で光が迸った。

 

―――JOGRES

 

それと同時にブラックウォーグレイモンとブラックメタルガルルモンが光に包まれ、2体の中央で1つに合わさった。

そして、その光が形を成していく。

漆黒の身体に外側が黒、内側が赤のマントを靡かせ、漆黒のウォーグレイモンとメタルガルルモンの頭が両腕となった漆黒の聖騎士。

 

「「オメガモンズワルト!!」」

 

オメガモンズワルトがその場に降り立った。

 

「「これは………」」

 

その事に、オメガモンズワルト自身も驚く。

 

「黒いオメガモン………?」

 

エミリアが驚いた表情で声を漏らした。

 

「な、何だその姿は!?」

 

ギリエルが戦くと、

 

「「なるほど………これがジョグレス………」」

 

オメガモンズワルトはムゲンドラモンに向き直る。

 

「「力が沸き上がる………! 今なら誰にも負ける気はしない!」」

 

そう叫ぶと、ムゲンドラモンがムゲンキャノンをオメガモンズワルトに向ける。

 

「ムゲンキャノン!!」

 

放たれるエネルギー砲。

しかし、オメガモンズワルトは左腕から大剣を飛び出させると、

 

「「はぁああああああああああああああっ!!」」

 

唯の一振りでムゲンキャノンを弾き飛ばし、明後日の方向へ逸らした。

 

「なっ!?」

 

ギリエルが驚愕すると、今度は右腕から大砲の砲身を露にすると、

 

「「ガルルキャノン!!」」

 

そこから圧縮された冷気弾を放った。

一瞬で凍り付くムゲンドラモン。

更に、

 

「きゃぴっ!?」

 

ガルルキャノンの余波で、ムゲンドラモンの傍にいたギリエルも凍り付いた。

 

「ほう。凄まじいな………」

 

シュヴァリアは今までとは比較にならないオメガモンズワルトの強さに感心したような声を漏らした。

その時、

 

「ポジトロンレーザー!!」

 

その声と共に、ムゲンドラモンの近くに、何かが衝突した。

見れば、インペリアルドラモンFMがこちらに向かってきていた。

 

「「すまない。大丈夫だったか?」」

 

謝りながら降り立つインペリアルドラモンFM。

衝突した時に巻き上がった砂煙が晴れていき衝突したものが露になる。

それは、

 

「キメラモン……………」

 

大士が呟く。

そして、大士はもう一度ムゲンドラモンを見た。

 

「キメラモンと………ムゲンドラモン…………ッ!!」

 

その瞬間、大士の背筋に悪寒が奔った。

 

「どっちでもいい! 早くそいつらに止めを!!」

 

大士が突如として叫ぶ。

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

その場に居た全員が驚いた。

 

「あっ! 大士の言う通りに! 早く!!」

 

葵も何かに気付いたようにそう叫んだ。

その瞬間、空に雷鳴が轟いた。

 

「黒い稲妻!? あれはまさか、ミレニアモンの!?」

 

クラウディアが叫ぶ。

次の瞬間、今までにない黒い稲妻が降り注いだ。

その黒い稲妻はキメラモンとムゲンドラモンに直撃。

激しいエネルギーを撒き散らした。

 

「うくっ!?」

 

「きゃぁっ!?」

 

「な、何だっ!?」

 

突然の事態にそれぞれが驚きの声を上げる。

怪しい光が白に立ち上り、雲を吹き飛ばしながら空に巨大な光の球を形成した。

 

「ま、まさか…………」

 

大士が戦慄の声を漏らす。

最初に抱いた印象は、『巨大』。

その一言に尽きた。

全長は目測で10km程かそれ以上。

魔獣のような姿に4本の腕とムゲンキャノンを持ち、更にもう1体の魔獣と見まがうような邪悪なオーラを背負うように身に纏っている。

 

「千年魔獣………ミレニアモン…………!」

 

大士がその名を口にする。

その存在は、大士ですら戦慄を覚えるほど。

その時、ミレニアモンの目が怪しく輝き、黒い波動が広がった。

 

「ッ! リティナ!」

 

天使型デジモンで邪悪なエネルギーに敏感なオファニモンが、嫌な予感を感じ、自分のパートナ―であるリティナを抱き上げてその場を離脱する。

 

「ッ!? カイル!」

 

近くにいたビクトリーグレイモンも、咄嗟にそれに習ってカイルを掴むと後を追って離脱した。

だが、それ以外の仲間達が、黒いオーラに包まれる。

 

「こ、これは………!?」

 

大士が驚愕した瞬間、その黒いオーラが一気に収縮。

黒い球体となってミレニアモンの口に咥えられた。

そして、黒いオーラに包まれていた大士達の姿は無い。

同じように黒いオーラに包まれたはずの騎士やクラウスやミリム、偶然生き残った魔族達は変わらずにそこに居るのに、大士を始めとした仲間達と、そのパートナーデジモンの姿だけが無かった。

そしてミレニアモンは、その姿を見せつけるように黒い球体を咥えた頭部をゆっくりと眼下に向けるのだった。

 

 

 

 

 

 





オリジナル異世界編第63話です。
色々目まぐるしく変わり過ぎて、急ぎ過ぎたと思わないでもない。
オメガモンズワルトの登場と、後はシュヴァリア陥落(早ッ)です。
そんで最後には何とミレニアモンが…………
因みにミレニアモンはコロンサイズです。
次元の狭間に幽閉されてしまった大士達の運命や如何に!?
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