デジタルフィールドから出てきたのはレオモン。
ベルゼブモンにとっては非常に辛い過去のあるデジモンだ。
だが、俺は警戒を解こうとした。
当然ジュリのパートナーであるレオモンとは別個体であろうが、レオモンとは正義の心を持つデジモンだ。
人間相手とは言え無意味に襲い掛かる様な真似はしない筈。
「ッ………………………」
ベルゼブモンもそう思っているのか、苦い顔をしながらも陽電子砲を降ろした。
だが、目の前のレオモンは無言で左手を腰の後ろに携えられている剣、『獅子王丸』の柄に伸ばすと、それを引き抜き、眼前で逆手に構えた。
「「「ッ!?」」」
俺とドルモン、ベルゼブモンは驚きで声を漏らす。
「オォオオオオオオオオオオオオオッ!!」
レオモンは獣のような叫び声を上げるとこちらに飛び掛かってくる。
突然の事に俺は驚愕し、動けなかった。
しかし、俺の前にベルゼブモンが立ち塞がり、陽電子砲の銃身で獅子王丸の刃を防ぐ。
「チッ………! 何してくれてんだテメェ!」
思わず悪態を吐くベルゼブモン。
「オオオォ………!」
それでもレオモンは唸り声の様な声を上げるだけで何も言わない。
「ッ…………!? お前っ…………まさか!?」
ベルゼブモンは鍔迫り合いの様な状態でレオモンと睨み合っていたが、何かに気付いたように声を上げた。
だが、その時俺は見た。
目の前のレオモンの目には理性の光は無く、怪しい赤に染まっていた事に。
「大士!」
ドルモンが俺に呼びかける。
「良く分からないが、このレオモンに意思はない! やるぞ! ドルモン!」
「分かった!」
ドルモンも戦闘態勢に入る。
ドルモンは回り込むと、
「メタルキャノン!」
ベルゼブモンに当たらない側面からレオモンに向かってメタルキャノンを放つ。
ドルモンの口から放たれた鉄球が突き進み、レオモンの左肩に当たるかと思われたその時、
「ッ…………! ぐっ………!」
突然ベルゼブモンが体を射線軸上に割り込ませて、ドルモンの鉄球をその背で受けた。
「ベルゼブモン!? 何を!?」
俺はベルゼブモンの突然の行動に意味が分からず声を上げる。
「やめろ大士! こいつは…………このレオモンは…………!」
ベルゼブモンが言葉を言いかけた時、レオモンはベルゼブモンの腹を蹴ってその反動で後ろへ飛び退く。
「ベルゼブモン! くっ………!」
俺はドルモンと共にベルゼブモンの前に出ると、ドルモンを進化させようと進化カードをDアークにスラッシュしようとした。
その時、
「待て大士!! そいつは…………そのレオモンは……………『ジュリのレオモン』だっ!!」
ベルゼブモンが俺達に手を伸ばしながら叫んだ。
「「なっ!?」」
ベルゼブモンの言葉に俺達は思わず振り返ってしまった。
その瞬間、
「ウォオオオオオオオオオオッ!!」
レオモンが再び獅子王丸を振りかぶり、斬りかかってくる。
「「ッ!?」」
ベルゼブモンの言葉に気を取られていた俺は反応が遅れ、気付いた時には刃が目前に迫っていた。
だが、ガキィッという金属音が響いてその刃が止められる。
見れば、優花が槍を頭上で横に構えてレオモンの一撃を防いでいた。
「優花!」
「何ボーっとしてるの!? 死ぬわよ!」
優花は俺を叱る様に言ってくる。
「こん………のっ!」
力を込めて優花はレオモンを押し返す。
レオモンはそのまま後ろに飛び退いたが、優花は追撃の為にその手に手裏剣を持つ。
「待て優花!」
それを投げようとしていることに気付いたので、俺は咄嗟にその腕に掴みかかってそれを止めた。
「大士!? 何を………!?」
「待て! 待ってくれ優花!! そのレオモンは『敵』じゃない!!」
「何言ってるの!? こいつは実際に大士を!?」
「分かってる! 俺だって何でこんなことになってるのか理解できない! あのレオモンがここに居ることも! 俺達に襲い掛かってくることも! だけど、これだけは言える! あのレオモンは『敵』じゃない! レオモンは…………『仲間』だ!!」
俺は優花を見つめてそう叫ぶ。
そのまま視線をハジメ達に移し、
「だから、お前達は手を出さないでくれ。ここは俺達とベルゼブモンに任せて欲しい………!」
銃を抜いていたハジメ達にそう呼びかける。
「チッ……………」
ハジメは舌打ちすると銃をホルスターに納め、
「暫くは待ってやる。だが、もう無理だと判断した時には…………」
「分かってる。 そうはさせないから安心しろ」
躊躇わず『殺す』だろうと続ける言葉を遮って俺は言葉を被せる。
俺はレオモンに向き直り、
「ベルゼブモン! さっきの言葉は間違いないんだな!?」
「ッ………! ああ間違いねえ! こいつは間違いなくジュリのパートナーのレオモンだ!」
如何いう根拠があるのか分からないが、ベルゼブモンがそう言うのならおそらく本当なんだろう。
「だからこいつの相手は俺にやらせてくれ! あの時のあいつが俺を止めようとしてくれた様に、今度は俺があいつを止める! そして、絶対にジュリの下へ連れて帰る!!」
ベルゼブモンはジュリに対してずっと罪の意識を抱いている。
それは決して償いきれないものだった筈。
だが、理由は分からないがこうしてレオモンが目の前にいる。
ジュリの為にも………そして何よりベルゼブモンの為にもここで必ずレオモンを助ける!
「ドルモン! 俺達はベルゼブモンの援護だ!」
「分かった!」
その時、レオモンが右手の拳を握って振りかぶる。
あの構えは…………
俺は咄嗟に1枚のカードをスラッシュする。
「カードスラッシュ! ブレイブシールド!!」
ウォーグレイモンのブレイブシールドを展開する。
その瞬間、
「獣王拳!!」
レオモンが繰り出した拳から獅子の頭を模した波動が放たれる。
「ドルモン!」
ドルモンはブレイブシールドを持ってベルゼブモンの前に飛び込んだ。
ブレイブシールドに獣王拳がぶつかり、衝撃が走る。
「今だ! ベルゼブモン!」
「おうよ!」
ベルゼブモンは必殺技を放った直後の隙を突き、レオモンに飛び掛かって組み付く。
「おい! いい加減目を覚ませよバカ野郎! 何でお前が生き返ったのかは知らねえ………けどよ! せっかく生き返ったんならこんな所で暴れてねえでジュリの所へ帰ってやれよ!」
ベルゼブモンの叫び。
「……………………ジュ…………………リ………………」
レオモンは一瞬動きを止めるが、
「ウォオオオオオオオオオオッ!!」
再び叫び声を上げてベルゼブモンを振りほどこうとする。
それを離すまいとするベルゼブモン。
振り回す腕が先程からベルゼブモンの各部を打ち付けているが、ベルゼブモンは決してレオモンを離そうとはしない。
「…………ねえ大士…………」
俺の近くに葵が歩み寄ってきた。
「ベルゼブモンはあのレオモンと何があったの?」
そう問いかけてくる。
「…………………レオモンは……………テイマーの仲間の1人だった加藤 ジュリという女の子のパートナー………………そして、かつて誤った道へ進んでしまったベルゼブモンを止めようとして………………ベルゼブモンが『殺して』しまったデジモンだ」
「「ッ!?」」
俺の言葉に葵と優花が目を見開く。
「……………何故レオモンが生き返ってここに現れたのかは分からない…………だけど、ベルゼブモンにとって、これは過去の過ちを償う贖罪なんだ……………」
「……………贖罪…………」
「それに……………『俺』にとってもな……………」
「えっ?」
俺は前世の記憶からレオモンが死ぬことは知っていた。
だから俺はレオモンを止めようとした。
だけど、レオモンは俺の制止を聞かずにベルゼブモンの前に立ち、そして殺されてしまった。
俺がもっと早く、もっと強く止めていれば、レオモンは死なずに済んだかもしれない。
レオモンが死んだあと、俺は何度も後悔した。
いや、そのこと自体は今も後悔し続けている。
「…………だから、今ここで必ずレオモンは助けて見せる!」
俺は駆け出して、ベルゼブモンと組みあっているレオモンに向かって叫ぶ。
「レオモン!! 思い出せ! お前はそんな心無い拳を振るうような奴じゃ無かった筈だ!!」
「ウォオオオオオッ!!」
レオモンは唸り続けているが俺は言葉を投げ続ける。
「レオモン! お前はいつだって俺達を………『仲間』達を気に掛けてくれたじゃないか………!?」
「ウゥゥゥゥゥ…………!」
「思い出すんだレオモン! 俺達の事を! 一緒にデジタルワールドを旅した時の事を………! そして、自分の『テイマー』の事を!!」
「ッ……………!? て……………い…………まー……………?」
僅かだがレオモンに動揺が伺える。
「そうだ! お前にはテイマーが居たじゃないか! 他人を思いやる優しい女の子が!!」
「ゥ…………ォ…………ァ…………じゅ………………り…………」
今、確かにジュリの名を呟いた。
「そうだ! ジュリだよ!! お前のテイマーの名前だ!!」
「ジュ…………リ……………うぉぁああああああああああああああっ!?」
レオモンはベルゼブモンから組み付いていた手を離し、頭を抱えた。
「レオモン!」
「早く目を覚ませ! お前は俺みたいなバカ野郎じゃ無かっただろ!!」
ベルゼブモンも叫ぶ。
「…………あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………!」
叫び声を上げたレオモンは力が抜けた様にその場で膝を着き、その場で項垂れた。
「レオモン!」
俺はレオモンに駆け寄る。
「レオモン! しっかりしろ! レオモン!」
俺は項垂れるレオモンに声を掛ける。
「………………………ゥ」
レオモンがピクリと体を揺らし、ゆっくりと目を開ける。
「レオモン………!」
俺は目を開けたレオモンにホッとし、
「…………ウォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
次の瞬間には、目の前でレオモンが右腕を振りかぶっていた。
「レオモ……………!?」
右の拳が俺に振り下ろされる。
その拳が俺の頭を捉える。
そう思った瞬間、その拳は俺の目の前で止まっていた。
「ウォッ………!?」
しかし、レオモンが正気を取り戻したわけでは無い。
「………何やってんだよ! 馬鹿野郎!!」
ベルゼブモンが後ろからレオモンの二の腕を掴み、その拳を止めていたからだ。
「ベルゼブモン!」
ベルゼブモンはレオモンに叫ぶ。
「お前が………あの時俺を止めようとしてくれたお前が………! 何俺と同じことをやってんだよ!?」
ベルゼブモンがレオモンの頬を殴りつける。
「あの時もお前はこうやって俺を殴りつけたじゃねえか! 俺は何者かに踊らされてるだけだってよぉ! 今のお前は、あの時の俺と全く同じじゃねえか!!」
「ウォッ………………ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
レオモンは一瞬躊躇したようだが、すぐに振り払うように右の拳を振り被ってベルゼブモンの腹部に叩き込んだ。
「……………ったく…………本当にあの時と一緒じゃねえか…………」
ベルゼブモンは呆れたような声を漏らす。
「……………だからよ、返すぜ…………お前から奪っちまった物をよ!」
ベルゼブモンは腹部に叩き込まれた右腕を掴むと、
「うぉあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
渾身の咆哮を上げた。
すると、ベルゼブモンの身体からデータ粒子が分離し、それがレオモンの身体へロードされていく。
「これは…………まさか、過去にロードしたレオモンのデータを返しているのか!? そんな事が…………!?」
本来であれば、ロードされたデジモンは消滅する為、同じデジモンにデータを返す事など出来る訳がない。
だが、何の因果かレオモンはここに復活している。
ダウンロードに対してアップロードがあるように、レオモンからロードしたデータを逆にレオモンに送り返したのだろう。
「さっさと目え覚ませバカ野郎! テメェの『運命』はこんな所で大士を殺す事じゃねえ! お前の『運命』は『ジュリと共に在る』事だろうっ!!」
その言葉と共にベルゼブモンから分離したデータ粒子が全てレオモンに吸収された。
それと共に、禍々しい赤色に染まっていたレオモンの目に理性の輝きが戻った。
「…………ッ! 私は!」
先程までの獣のような唸り声とは違い、確かな言葉を口にするレオモン。
「ヘッ………手間かけさせやがって…………」
ベルゼブモンが呆れた様にそう言いながらレオモンの右手を放す。
「お前はっ…………!」
ベルゼブモンを見て驚きの声を漏らすレオモン。
「レオモン!」
俺はドルモンと共にレオモンに駆け寄る。
すると、レオモンの視線がこちらを向いた。
「お前は……………ドルモンと居るという事は、まさか大士かっ?」
レオモンは一瞬俺が分からなかったようだが、ドルモンと一緒に居ることで判断が付いたようだ。
「ああ、分からないのも仕方ない。あれからもう6年も経ってるんだ」
「6年…………? そうだ、私はあの時に…………!」
ベルゼブモンに貫かれた時の事を思い出したのか、レオモンは目を見開く。
そしてベルゼブモンに視線を向けると、
「……………どうやら過ちには気付いたようだな?」
レオモンは殺された事を怒るでもなくそう言う。
「お陰様でな………」
ベルゼブモンはそう言うと、何やら腕を組んだり頭を掻いたりした後レオモンに背を向け、
「その…………悪かった…………謝って済む問題じゃねえが……………あの時の事は反省してる………」
面と向かって言うのは恥ずかしかったのか、悪役っぽい謝り方でそう言うベルゼブモン。
しかし、その言葉は本心だろう。
「そうか…………ならばいい」
レオモンはそう言って責めるような事はしなかった。
流石は正義のデジモンだな。
すると、
「用事は済んだか?」
ハジメがそう聞いてくる。
「まあな。ハジメも最後まで待ってくれて感謝するよ」
「途中で撃ちそうにはなったけどな」
お互いにそう言って笑い合う。
その時、
「…………ああくそっ! ホントカッコいいじゃねえか畜生………!」
清水が清々しく笑いながらそう言った。
「清水君?」
愛子先生が声を掛けると、
「本当に………カッコいい主人公だよ…………俺がなりたい主人公そのままだ…………」
清水は憑き物の落ちたような顔でそう言った。
【Side イグドラシル】
―――想定外の事態が発生
―――
―――
【Side Out】
街に戻った俺達はレオモンを含めてこれまでの事を大まかに説明していた。
「なるほど。この世界はデジタルワールドでもリアルワールドでもなく、全く別の異世界という事か…………そして大士達は少し前にこの世界に召喚されたと…………」
「ああ。それで俺達は元の世界に帰るために、神代魔法を求めて旅をしている」
「そうか………その神代魔法とやらを集めればリアルワールド………地球に帰ることが出来ると…………」
「まあ、可能性の話だがな。けど、その可能性はかなり高いと思ってる」
「なるほど…………よし、そう言う事なら私も協力しよう!」
レオモンは迷わずにそう言う。
だが俺は、
「あ~、その事なんだけどレオモン。レオモンは愛子先生達と行動を共にしてくれないか?」
「何故だ?」
「今回の件でもあった様に、これからも愛子先生が狙われる可能性は高いと思う。クラスメイトや神殿騎士達は正直…………何と言うか頼りないんだよ。悪いとは思うけど」
クラスメイトはデジモンで言う成熟期クラスのベヒモス相手にトラウマになったぐらいだし、神殿騎士も総合的に見ればクラスメイトとどっこいどっこいぐらいだろう。それでは魔人族の襲撃から愛子先生を守り切れない可能性が高い。
「愛子先生は俺達の事を信じてくれる尊敬できる先生なんだ。その先生をレオモンが護ってくれるなら俺達も安心して旅ができる」
「なるほど…………………………わかった。その愛子やクラスメイト達を護ればいいんだな?」
「ああ。後はレオモン自身の正義感に従って行動してくれて構わない」
「わかった」
「ありがとう」
「何、『仲間』の頼みだ」
そう言って俺とレオモンは握手を交わす。
こうして、俺達はレオモン、愛子先生たちと一旦別れ、ウィルを連れてフューレンに戻ることになった。
因みにどさくさに紛れてティオが旅に付いて来ることになったことも伝えておこう。
第23話です。
はい、ご都合主義ですね。
レオモンが復活しました。
でも、役目は愛子先生の護衛です。
パーティーが既に世界破滅レベルなのにこれ以上増やしても仕方ないので…………
デジモン界の歩く死亡フラグと言われてるレオモンですが、この小説では復活です。
因みに別のシリーズではオープニングからドルモンを追っかけまわして、結局力尽きて登場数分で死亡するデジモンでもあります。
では、次回はフューレンに戻ってあの子との一悶着。
……………大士達の出番あるのかなぁ?
明日の分を今日投稿したのでは明日明後日は更新しないので悪しからず。