戦術機の訓練に明け暮れてしばらく。
12月4日の本日、PXでとあるニュースが報道されていた。
それは、天元山の火山活動が活発化し、災害派遣部隊による不法帰還者の救助作戦が行われたというものだった。
今回の世界でも、武と香月博士は不法帰還者については手を打った様だ。
すると、
「…………何という事を…………!」
冥夜が顔を顰めながら呟いた。
「御剣、どうかした?」
そんな冥夜に優花が問いかける。
「…………まさかそなた、本気であのような報道を信じているわけではあるまいな? 今の帝国軍に、人道的な救助活動をする余裕などある筈も無かろう」
その言葉に、
「要は強制退去だって言いたいわけね?」
優花が平然と事実を口にする。
「………彼らは元々あの地に住んでいたのだ………危険を覚悟で故郷に戻った者達を難民キャンプに放り込んでいるのだぞ。それを………何とも思わぬのか!?」
冥夜が声を荒げる。
「落ち着け冥夜」
俺は宥めるように口を挟む。
「大士………」
「仮に不法帰還者達の意を酌んで放置したとしよう。そして火山が噴火して不法帰還者達に被害が及んだ。お前はどう思う?」
「……………少なくとも、彼らはそれを覚悟で故郷に戻った者達だ………私はその意志を尊重する…………」
俺の問いかけに、冥夜はそう答えた。
「お前はそれで納得できるかもしれないけどな……………それで納得できない奴らも必ず出てくる。火山が噴火すると分かってて、どうして政府は何もしなかったんだ、ってな」
「それは…………!」
「どちらに転んでも納得できない奴は出てくる。それなら、少しでも助かる命は多い方がいい。という考え方もある」
「ッ………………」
冥夜は悔しそうな表情をする。
「まあ、今回の事については心配するな」
そんな冥夜に俺は明るい声色で呼びかけた。
「えっ………?」
「多分、来年には難民全員故郷に帰れるからな!」
「……………何故そう言い切れる?」
冥夜は訝しむ様な視線を俺に向ける。
だから俺は、
「俺達が、地球上のハイヴを全て破壊するからだ」
そう言い切った。
「………其方はまたそのような事を…………」
冥夜は気が抜けた様に椅子に座り直す。
「冗談かどうかは、いずれ分かる」
俺は不敵な笑みを浮かべながらそう呟いた。
「それならば戯れに問おう。其方はこのような選択肢の場合、どちらが正しいと思う?」
冥夜はそんな問いを問いかけてきた。
その問いに対し、
「…………………持論になるが、俺は世の中には正しいも間違いも無いと思っている」
「何…………?」
「正しいか間違いかなんて、見る人によって変わる。正義は人の数だけあるって思ってるぐらいだしな。だから俺は、自分が後悔しない選択を選ぶ」
「後悔しない選択……………」
そう呟いたのは慧だった。
「身近な例えで言えば、俺が複数の女性を恋人にしている事は、日本人から見れば受け入れ難い事柄だろう?」
「まあ……な。 ふしだらだと思っている自分がいる事は確かだ」
「突き詰めれば、それは『間違っている』と思われているという事だし、そう思われているという事も、俺は自覚している」
そこで一呼吸置き、
「それでも俺は周りからどう思われようと、一緒に居たいと思った。だから俺は周りからどう思われようと、後悔しない選択として、一緒に居る事を選んだ」
「…………命の取捨選択を、そのような事で例えられてもな………」
冥夜はやや呆れた様な表情で呟くが、
「そうとも限らん。極端な事を言えば、俺は恋人達の命と他の地球人類全てを天秤にかけられたとしても、俺は迷わずに恋人達の命を取るぞ?」
「なっ!?」
流石にそれには冥夜も驚愕した様だ。
「その選択は、明らかに他者から見れば間違いだろう。だが、どう思われようとも俺は選択を変えるつもりはない。なぜなら、自分にとってそれが『後悔しない選択』だからだ」
俺は迷わずにそう答える。
「ッ……………!」
冥夜は驚いたように目を見開いた。
「人はいつか、大きな選択を迫られる時が来るかもしれない。その時に選んだ選択が間違っていると言われる事があるかもしれない。だけど、自分が信じた選択をすれば、少なくとも後悔はしないで済む」
「自分が信じた選択………………」
慧が再び呟き、考え込む様に俯く。
「…………父さんも………そうだったのかな………?」
何かボソッと呟いた気がした。
「信じるものは人それぞれだ。俺はそれを否定する気は無い。だが、誰かの選択が俺の大切なものを傷付ける事があるなら、俺はその選択に立ち塞がるがな」
俺はそれだけを言い切る。
冥夜と慧は、何か思う所があるらしく、考え込む様な仕草をするのだった。
【Side 三人称】
翌日、帝国議事堂にて、それは起こった。
帝国軍の衛士である沙霧 尚哉大尉を始めとした多くの兵士達が『戦略研究会』を名乗り、帝国議事堂に押し入り、クーデターを起こしたのだ。
内閣閣僚達が次々と兵士によって殺されていく中、代表者である沙霧大尉がある部屋に向かって進んでいた。
その先にある扉を開け放つと、そこには1人の男性が淡々と執務仕事を熟していた。
その男性、榊 是親は内閣総理大臣であり、千鶴の父親でもあった。
是親は沙霧大尉が押し入ってきたにも拘らず、これと言って驚いた様子を見せなかった。
まるで、こうなる事が分かっていたかの様だ。
「ふん……随分と手際の良い事だ。踊らされているという自覚はあるのだろうな?」
まるで確かめるように言葉を投げかける是親。
「………ここで起たねば、日本の民は二度と己の両脚で立つ事もなくなる」
そう言い返す沙霧大尉。
「立ち上がって転ぶ程度なら良いのだがな。それが民に何を強いるのか………分からぬでもあるまい」
「将軍殿下を民から遠ざけ、国政を思うままにした貴様が何を言う……! 日本はBETAに侵攻された時に滅ぶのではない。施しに甘んじ………日本の民たるを忘れた時に滅ぶのだ」
「………ここに来たからには覚悟があろうな? その身を汚泥に晒す覚悟が………」
「……是非も無し」
是親の言葉に沙霧大尉は迷わずにそう答えると、携えた刀の鯉口を切った。
【Side Out】
【Side 武】
12月5日のこの日。
2周目の通りに軍事クーデターが起きた。
これは予想出来ていたので、俺はすぐに中央作戦司令室に向かった。
そこでは慌ただしく情報のやり取りが行われている。
「夕呼先生!」
俺は夕呼先生の姿を見て声を掛ける。
「白銀………来たわね」
「夕呼先生! 状況は!?」
「ほぼほぼ『前』の通りね。今の所、大きな違いは無いわ」
「それで委員長の親父さん………榊首相は………!?」
俺は一番気になっていた事を聞く。
すると、
「………事が起こる前に、警告はしておいたけど………脱出したという情報は入っていないわ」
「そんな………!」
「元々、いつかこうなる事は覚悟していたんでしょうね…………彩峰中将を生贄にした時から…………」
夕呼先生は何でもないように話している。
しかし、何処か悔しそうな空気も伺えた。
「…………夕呼先生の所為じゃありません。元々、国連所属の俺達が、帝国の内政に干渉する事そのものが難しいんですから………」
「そう…………なら白銀、これからやるべき事は分かっているわね!」
「………はい!」
今俺がやるべき事は、前と同じく悠陽殿下を保護する事だ。
「それなら行きなさい! 白銀!」
「了解!」
俺は敬礼してから踵を返し、駆け出した。
【Side Out】
防衛基準態勢2が発令され、俺達はブリーフィングルームに集まっていた。
そこで沙霧大尉の声明が放送されていた。
内容は、要は今の政府と帝国軍の批判。
先日の天元山救助活動の実体。
そして自分達の行動の正当化。
最後に、自分達の行動は、殿下や国民に仇為すものでは無いということだった。
まあ、この国の人間にとって、共感できる部分もある事は確かなのかもしれないが、余所者の俺達から見て見れば、単なる内輪もめにしか思えない。
声明の発表が終わると、神宮司軍曹がブリーフィングを続けた。
「現在帝都はクーデター部隊によってほぼ完全に制圧されている。先程最後まで抵抗していた国防省が陥落したそうだ。未確認ではあるが、帝都城の周辺で斯衛軍とクーデター部隊の戦闘が始まったという情報もある…………」
神宮司軍曹はそこで一旦言葉を区切り、言いにくそうにしながらも次の言葉を発した。
「また………臨時政府はクーデター部隊により、内閣閣僚数名が暗殺された事を確認した……………榊首相の生死は不明だが、状況を鑑みて見ればおそらく…………」
「ッ………!?」
千鶴がその言葉に動揺したことが分かった。
「首謀者である沙霧大尉自ら閣僚を国賊と見なし、殺害したそうだ…………榊………お父上については…………」
「いえ………今は任務中ですので…………」
千鶴は何とか動揺を隠しつつ、そう答える。
「それから、出撃があった場合だが、お前達が使える実機は吹雪が8機のみ。その為、6機は207B分隊が………残り2機を黒騎、及び南雲。お前達2名が搭乗する事になる」
「「了解!」」
神宮司教官の言葉に俺とハジメは返事を返した。
その後、程なくして横浜基地の米軍受け入れが決まった。
次々と基地内に入って来る米軍の戦術機。
更に、それに呼応するように帝国軍が横浜基地を包囲した。
俺と冥夜はその様子を見に外に出てきたのだが、
「お~お~。見事に取り囲まれてるな」
ズラッと横浜基地を取り囲む戦術機部隊を眺めながら、俺はそんな言葉を漏らす。
「国連軍の基地内とは言え、他国の軍隊が無断で上陸してきたのだ。主権国家としては、当然の措置であろう」
「まあ理由としてはそうなんだろうけどな……………俺からしてみれば、バカな事やってるなぁ、としか思えないんだよなぁ………」
俺は呆れ口調でそういう。
「目的が同じであっても、重んじるものが違えば道を違えることもある」
冥夜はそう言うが、
「その結果互いの足を引っ張り合って勝てる戦いに負けてちゃ、本末転倒なんじゃないか? って思うのは、俺が余所者だからか?」
俺がそう言った時、
「貴様の言う通りだ。だが、それだけではないのも事実だ」
また別の女性の声が聞こえた。
そちらを向くと、赤い強化装備に身を包んだ月読中尉の姿があった。
「月読中尉………」
俺が彼女の名を呟いた瞬間、
「月読っ!?」
鬼気迫る声で冥夜が叫んだ。
「そなた、こんな所で何をしているっ!? 殿下の危機を知りながら、何故ここに居るのだっ!?」
そんな冥夜に対し、
「お言葉でございますが、冥夜様の警備こそ私共が殿下より賜ったお役目でございます」
淡々とそう返す月読中尉。
「痴れ事を申すな!! 今、帝都がどうなっておるか………知らぬわけではあるまい!?」
「重々承知しております………そうであるが故に、冥夜様のお側を離れる訳にはゆかぬのです」
「そなた……! 己の申して居る意味が分かっておるのか!?」
月読中尉の言葉にヒートアップする冥夜。
まあ、月読中尉の言葉をそのまま受け取れば、将軍である悠陽殿下より、冥夜の方を優先しているって事だからな。
冥夜としては、自分よりも双子の姉である悠陽殿下を護りに行って欲しいと言った所か。
「私の事はよいっ……! 早く行けっ!! 行かぬかっ!!」
「その辺にしておけ、冥夜」
俺はタイミングを見計らって会話に割り込んだ。
「月読中尉の気持ちが分からない程、浅い付き合いじゃないんだろう?」
「ッ…………!?」
俺の言葉に、冥夜はハッとしたような表情になる。
「それなのに、何故ここにいるのか………いつものお前ならすぐわかるんじゃないのか?」
「………………」
冥夜は一度俯き、
「そう………だな…………そなた達が殿下の命に背くなど決してあり得ぬ事………私も重々承知していた筈だったが………許すがよい。私がどうかしていた」
「滅相もございません。私共こそお許しを」
月読中尉も頭を下げた。
「取り乱してしまったな……許すがよい」
「落ち着いたなら結構だ」
俺にそう言って来たのでそう返した。
「それで月読中尉。殿下はご無事なんですか?」
俺がそう聞くと、
「如何なのだ!?」
やはり聞きたかったのか、冥夜も叫びながら訪ねる。
「は……現在斯衛軍第2連隊と決起部隊が堀を挟んで睨み合っています。決起部隊は帝都城に背を向け、銃口こそ殿下に向けてはおりませんが、包囲部隊の数は徐々に増えている模様です」
「では、殿下はご無事なのだな?」
「はい。警護を預かる第2連隊は精鋭中の精鋭です。ご安心ください」
月読中尉の言葉に、冥夜は幾分かホッとした様子を見せた。
「ところで月読中尉。あの帝国軍部隊は何処から?」
俺が聞くと、
「おそらく……甲信越絶対防衛線から派遣されている部隊であろう帝都奪回作戦の主力は、北関東絶対防衛線と第二次防衛線から抽出されたと聞いている」
「あらま。絶対防衛線を手薄にするなんて、自殺行為にも程がありますね」
「国家の主権を護る為だ。多少の危険は致し方あるまい」
「………多少で済めばいいんですけどね。仮に、もし今BETAが侵攻を開始したら、多分守り切れませんよ」
いざとなったら俺らで全部消し飛ばすけどな。
「そうならぬために、一刻も早い事態の解決が必要なのだ」
「はあ………まあ、俺が如何こう言う事じゃないですけどね…………何というか、余所者の俺からしてみれば、この世界の人間達は如何にも、自分の国さえ無事なら良い。自分の国が滅びたら地球全部滅びても構わないって感じに思えるんだよな………」
俺は呆れ口調でそういう。
「聞き捨てならんな。祖国を護る為に命を懸けて戦う兵士達を愚弄するか?」
「そう思って無きゃ、最前線で国家の主権如何こうが理由で内輪もめなんて出来ないと思いますけどね」
「………………………」
俺の言葉に月読中尉は口を噤んだ。
「だから協力するべき隣人を信用できず、結果、足を引っ張り合って自分達の首を絞めていく。そしてそれが理由で信用できない。完全な悪循環に陥ってますね。少なくとも、世界の覇権やら何やらは、人類の危機が去ってからやれって言いたいんですよ。このままなら、10年持つかどうかも怪しい世界の覇権を争って、何になるんですかね?」
「好き勝手言ってくれる………」
「でも、否定できませんよね?」
「………………」
月読中尉は答えなかった。
「………もうよい」
そう言ったのは冥夜だ。
「ここでそなたらが言い争った所で何にもなるまい。それで、そなた達はここにいるとして、斯衛軍はどう動くのだ?」
冥夜がそう聞くと、
「それは………」
月読中尉は訝しむ様な視線を俺に向ける。
「何だ? 大士が情報を漏らすとでも言いたげだな?」
「この者の言動は、我々と相容れぬものです」
その言葉に、
「俺が信用できないというのなら、席を外すが?」
斯衛軍の動向に、特に興味は無いし。
「構わぬ。少なくとも、私はそなたを共に研鑽を積んだ仲間として信用している」
だが、冥夜はそう言った。
「そりゃ光栄だ」
それから月読中尉に向き直り、
「そなたは帝国斯衛軍。私達は日本国民ではあるが、今は国連軍に属している」
暗に、部外者という意味では自分も同じだと伝える。
「………では、差しさわりない程度に……」
月読中尉の言葉を纏めると、城内省は帝都城敷地内に存在しているので未だ健在。
そのため、斯衛軍の統制は失われてはいない。
沙霧大尉の声明にあった、『殿下や国民に仇成すものではない』という言葉も、今のところは守られている。
帝都民に今は被害は無いが、帝都城を包囲する部隊は増強されつつあるので、いつ戦闘状態に発展するか、予断を許さない状態であるという事。
決起部隊は自身の正当性を証明するために将軍の直命を欲しているが、将軍の重臣を殺害した事から、直ぐに直命が発せられる事はあり得ないだろうという事。
だが、時間が経てば経つほど決起部隊の態勢が整い、米軍が介入し、帝都が戦場になる可能性も生まれてくる。
それに備えて、帝都圏に散在する斯衛軍駐屯地の各部隊は、帝都城に集結中。
目立った妨害は今のところはない。
そして、月詠たちのような独立警護部隊は、将軍家所縁の者を警護する任務に就いている。
という事らしい。
「わかった。そなたに感謝を……下がってよいぞ」
「冥夜様……お気に病まれぬよう。殿下は斯衛が必ずお守りいたします」
そう言って月読中尉は去っていった。
「大士………許すがよい。あの者は職務に忠実であろうとしているだけなのだ」
俺の気を悪くしたと思ったのか、冥夜が謝って来る。
「ん? 別に気にしてねえよ。俺も好き勝手言っただけだしな」
「………そうか」
そうして俺達はハンガーに戻ることにした。
【Side 三人称】
クーデター部隊の内部では、焦りが生まれ始めていた。
殿下の勅命が中々もらえないのもそうだが、その理由はもう1つあった。
「……………榊 是親の行方は?」
とある会議室で作戦会議を開いていた沙霧大尉が、副官である女性、駒木中尉に問いかける。
「依然、足取りは掴めておりません」
駒木中尉が申し訳なさそうに言う。
「そうか…………」
狭霧大尉は、クーデター決起直後にあった事を思い返していた。
「………ここに来たからには覚悟があろうな? その身を汚泥に晒す覚悟が………」
「……是非も無し」
是親の言葉に沙霧大尉は迷わずにそう答えると、携えた刀の鯉口を切った。
抜き放たれた刀を振り上げる沙霧大尉。
一方是親は、抗う素振りも見せずに落ち着いた表情で目を伏せた。
そして振り下ろされる刃。
その刃が是親の首に向かって振り下ろされ―――――
―――ギィンッ!
甲高い金属音を響かせて、その刃が止められた。
「「ッ!?」」
驚いたのは沙霧大尉。
そして、是親も同様だった。
思わず目を見開く。
沙霧大尉の振り下ろした刃は、横から伸びてきた短刀によって止められている。
「何奴ッ!?」
狭霧大尉は咄嗟に飛び退きつつ油断なく身構えた。
そこに居たのは、黒い衣服を身に纏った二十歳前後の若い男だった。
「貴様!? いつからそこに!?」
クーデター部隊の兵士の1人が銃を向けながら叫んだ。
「いや、さっきからずっと居ました。むしろ数日前からずっとこの部屋の隅で首相の護衛をしてました。本人にも全く気付かれなかったけど………」
何処か哀愁感じさせる雰囲気を漂わせながら、その男は言った。
「くっ、ふざけた事を!」
兵士の1人がその男に小銃を向け、
「ッ!? ど、何処に!?」
その姿を見失った。
その瞬間、
「どこを見ている?」
その声が『上』から聞こえた。
ただ、先程までとは雰囲気が異なる声色で。
「ばっ、馬鹿な!? 天井に立っている!?」
兵士達の驚愕の声が響いた。
そして、驚いているのは沙霧大尉も同じだった。
声こそ上げてはいないが、その目は驚愕で見開かれていた。
そしてもう1つ、沙霧大尉の目を奪ったのは、
(な、何故!? 何故変なポーズをとっているんだ!?)
その男がしているポーズだった。
天井に立っているのは一旦置いておくが、片手で顔を覆いつつ、その指の隙間から沙霧大尉達を睥睨していたのだ。
そのうえ、いつの間か目元にはワンレンズタイプのサングラスをかけ、もう片方の手には黒塗りのナイフを持ちながら顔を覆う手とクロスするように構えている。
「悪いがこちらにも事情があるのでな。榊首相をここで死なせるわけには行かんのだよ」
男は何故かクルッと一回転して再度香ばしいポーズ(バージョン24)を披露しながら、その香ばしい名乗りを上げた。
「魔王の影にして、暗きウサミミ一族が尖兵――疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート。推して参る!!」
ウサミミってなんだ……
アビスゲートとはなんだ…
そんな沙霧大尉達のツッコミは言葉となることはなかった。
何故なら、一瞬にして沙霧大尉が持つ刀や、周辺の兵士達が持つ小銃が切断され、使い物にならなくなったからだ。
「なっ!?」
沙霧大尉達がその事に気を取られた瞬間、既にその男は是親を担ぎ上げていた。
「き、君は………!?」
「榊首相、少々我慢していただきたい」
男は是親を担ぎながら、いつの間にか開け放たれた窓の淵に立つ。
この部屋はそれなりに高い階にある。
その為、生身の人間が飛び降りて無事でいられる高さではない。
だがその時、何故か強風が吹き込み、カーテンがバサバサと靡く。
すると、沙霧大尉から見たその男の背後に、バサッバサッと大きな羽音の様な音と共に巨大な黒い影が現れた。
「なっ!?」
沙霧大尉が再び驚愕で目を見開く。
その影は大きな黒い烏。
だが、その足は3本ある様に見えた。
「や、八咫烏………!?」
兵士の1人が声を漏らす。
「榊首相の身柄はこちらで預かる。何、この騒動が終わるまでは、表には出さんさ」
男はそう言うと、窓から身を躍らせた。
すると、空中でその巨大な三本足の烏がその背に男と是親を乗せると、何処かへ飛び去って行く。
沙霧大尉は慌てて行方を追おうとするが、その巨大な烏はレーダーにすら映らず、ついぞその行方を知ることは出来なかった。
はい、マブラヴ リ:デジタネイティヴ編第8話です。
クーデターの開始です。
因みに流れは漫画版を元にしました。
まあ、別行動グループを出すとか言っときながら、そこまで行かなかった。
でもその代わり、行方が明らかになったのは我らが深淵卿。
実は彼もいっしょに来てたんですねぇ…………
彼を出すのはずっとこのタイミングだと決めていました。
流石の沙霧大尉も深淵卿の前では形無しですね。
次回からはクーデターも本格化。
お楽しみに。
P.S 今週も執筆で力尽きたので、返信はお休みです。