ハンガーに集合するよう命令を受けた俺達は、小隊メンバーを集める為に声を掛けて回っていた。
俺は、集合メンバーの最後の1人である慧を探していると、ベランダで佇む慧を見つけた。
俺はベランダに出る扉を開けると、
「彩峰、ハンガーに集合だ。火器管制装置のマニュアル調整だってさ」
「……………」
慧は聞こえていないのか俯き続けている。
「彩峰……!」
俺は少し大きな声でもう一度声を掛けた。
すると、慧はゆっくりと振り返り、
「何?」
そう聞き返してきた。
「だからハンガーに集合だって」
俺はそう言うが、慧は思い詰めた表情をしている。
そして、その手には1通の封筒が握られていた。
「…………手紙か?」
「……………知ると……後悔するよ」
俺の言葉にそう返す慧。
「そういう言い方をするって事は、今回のクーデターに関係のある手紙か?」
「ッ」
慧は目を見開く。
「そんな分かり易い反応をするって事は図星か」
「………………」
慧は何も言わなかったが否定はしなかった。
「沈黙は肯定と受け取るぞ?」
「…………………」
慧はそれでも沈黙を続けた。
すると、
「………………スパイ容疑で報告する?」
そんな事を言って来た。
「そんな事しねーよ」
俺はそう答える。
「………どうして?」
「少なくとも、同じ小隊の仲間として、彩峰を信用しているからだな」
俺がそう言うと、慧は意外そうな表情をした。
そして、俺に封筒を差し出し、
「………読んで」
そう言って来た。
俺は封筒を受け取り、中にあった手紙を広げてその内容に目を通す。
内容は、言い回しが複雑すぎて1割も理解できなかったが、縦書きで書かれた内容の中に、横に読むと、彩峰慧という言葉が入っている事から、慧に対して何か大切な事を伝えようとしているのだけは分かった。
「…………これが最後の手紙となろう。君よ、願わくば幸多き未来を歩まん事を。津島 萩治」
俺が手紙を読み終えると、
「最後、名前が違う」
「って事は、偽名か」
「そう。その人の名前は………沙霧………沙霧 尚哉」
「なるほどね」
まあ、知っていたが。
「………驚かないの?」
「大騒ぎして欲しかったか?」
「…………」
慧は首を横に振る。
「…………知り合いか?」
「父さんの部下だった人。あの人は父さんを尊敬していたし、父さんもあの人をかわいがっていた」
「ふーん」
「…………
「まあ、名前と公表されている内容ぐらいなら」
慧の父親の部隊が敵前逃亡した所為で国連軍事司令部が陥落し、それがBETAの日本侵攻の切っ掛けになったとも言われている事件だ。
「敵前逃亡なんて許されない……私も母さんも……その所為で全てを奪われた……」
慧は悲しそうな表情で続ける。
「あの人は光州作戦の前に負傷して内地送還になって………」
「そのお陰で難を逃れたって訳か」
「………最近、私に面会に来る人達が居る。父さんに世話になったとか、助けられたって言う大東亜連合軍の人達…………手紙はその人たちが持って来る。その人たちは父さんは悪くないっていう。民間人の避難と警護を優先して、司令部の即時移動命令を無視する事になってしまったんだ………って」
慧はそこで一度言葉を区切ると、
「『人は国の為に出来る事を為すべきである。そして国は人の為に出来る事を為すべきである』」
「それは………」
「父さんがよく言ってた言葉。失望はしたけど………その言葉には今も従える…………でも、私には軍の発表とその人たち………どっちの言ってることが正しいのかなんて………分からない。だから………もういいのに………後悔の綴られた手紙なんて欲しくない………だから開かない………だから読まない…………そう思ってた」
すると、慧は俺に向き直ると、
「だけど、昨日の黒騎の言葉で少し考えが変わった」
「ん?」
「黒騎、言ったよね? 世の中には正しいも間違いも無い。だから自分が後悔しない選択を選ぶって………」
「ああ」
俺は頷く。
「父さんの選択は、大東亜連合軍の人達からすれば正しかった…………だけど、軍から見ればそれは間違いだった…………だから父さんは責められた………」
「…………………」
「だけど、父さんはきっと後悔はしなかったと思う。父さんは、全部覚悟した上でこの選択を選んだ…………私や母さんに不幸が降りかかる事が分かってても…………私の知ってる父さんは、そういう人だから………だから、この最後の手紙だけは、読むことが出来た………」
慧は小さく微笑んだ。
「そうか…………」
俺はそう言うが、慧の目が再び下を向く。
「だから………もっと早く読めばよかった。そうしたら………少なくとも死ななかったかもしれない。あの人が……直接手を掛けた人たち……! もう………手遅れ………」
「……………」
慧は、後悔する様に顔を伏せる。
おそらく、千鶴に対する罪悪感で胸がいっぱいなんだろう。
今にも泣きそうな慧を見て、
「……………俺は、自己中心的な人間だ………だから、見ず知らずの人間が死んだとしても、今のお前ほど落ち込まないだろうし、今のお前の気持ちが分かるなんて無責任な事は言えない…………だけど、後悔する気持ちはよくわかる」
俺は、目の前で顔を伏せている慧の頭に手を置き、
「だから次は後悔しない様にしろ。どれだけ他者から責められてもいい。認められなくてもいい。自分を後悔させるな」
「黒騎…………」
「お前がどんな選択をしようと、それが俺の『大切』を傷付けない限り、俺はその選択を否定しない」
「だけど…………私の『手紙を読まなかった』っていう選択肢が、榊の父親を………」
「確かに、手紙を読んでいれば、クーデターを止められる可能性はあったかもしれない。だけど、クーデターを起こしたのは沙霧大尉の選択であり、お前じゃない」
「だけど、私があの人を止められていれば…………」
「過ぎてしまった『運命』は変えられない。だけど、これから起こる『運命』は変えられる」
「運命………?」
「ああ。運命を変える事は、とても難しい事だ。だけど、決して不可能じゃない。けど、少なくとも、そうやってふさぎ込んでるだけじゃ、変わる運命も変えられない」
「……………変えられるかな………? 私にも…………」
「それはお前次第だ」
「…………そこは絶対に出来ると言うべき」
「無責任な事は言わない性質なんでな」
「………………フフッ」
顔を上げた慧は笑みを見せた。
「ありがと………少し気が楽になったよ」
慧はそう言いながら歩き出し、すれ違い様に拳を俺の肩に当てた。
「ハンガーに集合でしょ? 行くよ」
慧が歩き出し、俺もその後に続いた。
その後、207小隊に出撃命令が下りた。
任務内容は、将軍家の離城である塔ヶ島城の警備。
出撃メンバーは、前情報の通り207B分隊と俺とハジメ。
輸送車両で現地まで移動している最中、帝都でクーデター部隊と斯衛部隊との戦闘が始まったと知らされた。
現地に到着すると、交代で仮眠をとりつつ戦術機で警備を行っていた。
そして、ある時間になると、
『こちら、207EX』
通信が入った。
因みに207EXとは武のコールサインだ。
まあ、一時的に207小隊に組み込まれているという意味でEXと呼んでいるだけだろうが。
『俺はこれから周辺の哨戒に出る。バックアップを頼む』
『了解しました。たけるさん』
壬姫がそう返事をするが、
「…………20707より207EX。単独行動は危険性が高い。よって、俺も随伴する事を進言する」
俺はそれらしい理由を口にする。
『………こちら207EX。進言を承認する。2名で哨戒に出る』
「20707了解」
進言が通った事にホッとしつつ、俺は戦術機のコックピットから出る。
外は雪が降っており、気温も低いために息が白い。
それでも、強化装備のお陰で顔以外の体感温度には変わりがない。
俺は戦術機から降りて地面に着地すると、武も丁度戦術機から出た所だった。
因みに武の戦術機は吹雪ではなく不知火だ。
「なら、行くか」
武の言葉に俺は頷く。
武は、前の記憶を頼りに移動を始めた。
少し歩いて森の近くに来ると、パキリと枝を踏み折る音が聞こえた。
「来たっ………!」
緊張の面持ちになる。
「念のために不知火の暗視モニターにリンクを…………ッ!?」
その瞬間、武は息を呑んだ。
「ふ、2人じゃない!? ひぃふぅみぃ………10人以上!? それに明らかに人じゃない形も………!?」
武は記憶との人数が違う事に驚いている様だ。
銃を抜いて警戒を強める。
「207EXより207各機………もしもの時は援護を頼む」
武は通信で呼びかけると、
「止まれ!!」
銃を構えながら叫ぶ。
「手を頭の後ろに付けてゆっくりこちらに………!」
武が続けて警告を発しようとした時、青い疾風が駆け抜けた。
「なっ!?」
その青い影は瞬時に武の懐まで飛び込むと、武の銃を持つ手を掴み、そのまま投げ飛ばして武を地面に叩きつけた。
「ぐはっ!?」
強化装備を着ているので、ダメージはそれほどでも無いだろうが、一瞬で投げ飛ばされた武は混乱状態だ。
そして、青い影は武に追撃を加えようとしていたので、
「はい、ストップ」
その腕を掴んで止めた。
そして、
「落ち着けシャルロット。俺達だ」
俺は落ち着いた声でその青い影―――シャルロットに語り掛けた。
「…………タイシ?」
「ああ」
「じゃあ、こっちは………」
シャルロットは地面に叩きつけた武を改めて見る。
「……………タケル?」
「いてて…………君は確か、大士の仲間の…………」
武もシャルロットを見て、見覚えがある事に気付いた。
シャルロットは武の上から退くと、
「ごめんなさい…………」
申し訳なさそうに謝った。
「い、いや、先に銃を向けたのはこっちだし………」
武はそう言って気にしていないという事を伝える。
「シャルロットがここに居るって事は………」
俺はシャルロットが飛び出してきた森の方を見つめると、そこには、
「タイシさん……」
「タイシ………」
「旦那様………」
エミリア、クラウディア、カトレア。
「黒騎君!」
愛子先生に、
「大士!」
タカト、ジェン、ルキ、リョウ。
それから皆のパートナーデジモン達だった。
マブラヴデジタネイティヴ編第9話です。
はい、今週も色々予定があり、余りかけませんでした。
短いですが、投稿します。
今回は彩峰フラグの強化と別行動組との合流でした。
次回は、何故彼らがここにいるのか………ですかね?
お楽しみに。
P.S すみません。今週も返信はお休みします。