悠陽を乗せ、塔ヶ島城を出立した俺達207小隊は、伊豆半島を南下していた。
一直線に横浜基地へ向かえば、敵本隊と鉢合わせになるからだ。
とは言え、敵もその辺は承知しているので、追撃部隊が既に迫ってきている。
帝国軍が追撃阻止の為に防衛線を構築していたが、先程からマーカーを見ていても、大した足止めも出来ずに全滅している。
クーデター部隊は精鋭揃い。
同じ帝国軍でも天と地ほどの差があるらしい。
追撃部隊が迫ってきているため、初陣の207小隊のメンバーに動揺が走る。
まあ、俺やハジメはその気になれば如何とでもなるので平気だが。
『07! 速度をもっと上げられないの!?』
千鶴から焦りの声が飛ぶ。
「………殿下は簡易ベルトでこれ以上の加速は負担がかかるんだが………」
俺はそう言う。
乗り物酔いのキツさは身に染みてよくわかっているからなぁ………
すると、
「構いません大士様。速度を上げてください」
悠陽がそう言った。
「…………キツいぞ?」
俺は一応そう確認する。
「無茶をしているのは其方達も同じ………この程度の揺れ何ほどのものでもありません………お早く」
「……………強いな」
酔いの辛さを微塵も見せずにそう言い切る悠陽を、俺は素直に凄いと思った。
「…………わかった。07より各機! 次の谷をブーストジャンプでショートカット!」
俺は通信でそういう。
その時、
『―――4時方向より機影多数接近! 稜線の向こうからいきなり………!』
「ッ………!」
飛び込んできた報告に俺は軽く舌打ちする。
恐らく別動隊が居たのだろう。
『全機兵器使用自由っ! 各自の判断で応戦! 07の生存を最優先せよ! ただし、無暗にこちらからは仕掛けるな! 向こうは迂闊に手出しできない筈だ!』
『『『『『『『「了解ッ!」』』』』』』』
神宮司教官の言葉に俺達は返事を返す。
B分隊の声には不安も入り混じっていたが、
『皆、安心しろ! いざと言う時は俺がやる! 皆は自分の役目を全うするんだ!』
武から頼もしい声が飛ぶ。
『たけるさん………はい!』
『頼りにしてるよ、タケル!』
壬姫と美琴が安堵の声を漏らす。
こういう事が恥じらいも無く言える所が、恋愛原子核の所以なんだろう。
なんか自分の事を棚に上げるなと空耳が聞こえた気もするが…………
その時、
『―――国連軍及び斯衛部隊の指揮官に告ぐ』
『―――我に攻撃の意図あらず。繰り返す。我に攻撃の意図あらず。直ちに停止されたし。貴官らの行為は我が日本国主権の重大な侵害である』
追ってきている追撃部隊からの通信なのだろう。
「そう言われて止まるバカはいねーよ!」
俺は思わずそう口走る。
「大士、今の言葉、すっごく小悪党っぽかったよ?」
ドルモンから突っ込みが入った。
「………………」
俺は無言になる。
言ってからそれっぽい事に自分でも気付いたからだ。
っていうか、俺って結構小悪党っぽいセリフ多くないか?
「…………………」
そんな俺達を、悠陽は若干意外そうな表情で見つめていた。
すると、突然俺達の進行方向に複数の所属不明機の反応が出現した。
『前方にアンノウン多数!?』
『そんな!? この距離まで気付かないなんて!?』
再び207小隊の面々に動揺が走る。
だが、記憶は朧気だが、このタイミングでの所属不明機出現の正体は確か………
『各機! 速度を緩めずにそのまま前進!』
武から指示が飛ぶ。
『で、でも………!』
純夏が躊躇する声を漏らすが、
『大丈夫だ。この距離までレーダーで探知できなかったという事は、あれはおそらく………』
武がそう言いかけたとき、
『こちらはアメリカ陸軍第66戦術機甲大隊』
『速度を落とすんじゃない! 早く行けっ!』
『作戦に変更はない。安心して行け! ここは我々が引き受ける!』
正面の部隊から通信が届いた。
「米軍機か………」
米軍機はステルス性能が高い。
その為、この至近距離までレーダーに映らなかった。
それは対戦術機を想定しているからだろう。
だが、
「……………呆れたもんだな」
俺は思わずそう呟く。
「大士様……………?」
俺の呟きの意味が分からなかったのか、悠陽は怪訝な表情を浮かべる。
「何でもない…………」
俺はそう返すと、
『207各機!隊形を維持し、最大戦闘速度!!』
「了解!」
指示に応え、
「悠陽、飛ばすぞ……!」
そう悠陽に一言言ってからフットペダルを踏み込んだ。
【Side 三人称】
大士達が米軍の援護を受けた頃、その近くの森林地帯の中に、複数の人影があった。
「大士の言った通り、将軍様を保護したようね」
それは、横浜基地に待機となったはずの優花達だ。
「私達の役目は、大士達が万が一にでも追撃部隊に追いつかれないように足止めを強化する事だね」
葵がそう言う。
「黒騎君の言う通りなら、米軍だけでも足止めは成功するみたいだけど、結構綱渡りみたいだったからね。ハジメ君や黒騎君が一緒に居ることで、史実とは差異があるかもしれないし、念の為だね」
香織が続けてそう言った。
香織の後ろにはワーガルルモンが控えている。
「一先ず、人的被害は抑える方向で………でも、いざと言う時は躊躇わない………!」
それぞれが行動指針を確認し合い、頷くと、彼女達は飛び出していった。
【Side Out】
それから、米軍の部隊が追撃部隊を足止めしている間に、俺達は亀石峠に仮設された補給基地で補給を受けていた。
『私は米軍陸軍第66戦術機甲大隊指揮官のウォーケン少佐だ』
網膜投影に金髪のおっさんが映る。
すると、
『207小隊指揮官の白銀 武少佐です。貴官らの援護に感謝します』
武がそう言い返した。
『少佐………!? 訓練兵の部隊に………!?』
こちらの部隊が訓練兵の部隊だという事はウォーケン少佐も知っていたようだが、まさか少佐が指揮官を務めているとは思いもよらなかったみたいだな。
まあ、実際神宮司教官は軍曹だし。
『訳あってこの訓練兵たちの特別教官を務めています。今回の任務も、その延長で』
『………失礼、予想外だったので少々取り乱してしまった』
『いえ、私がウォーケン少佐の立場でも、同じように驚くでしょうから』
俺の勝手な予想だが、米軍の上層部は、こちらを思惑通りに動かすために少佐と言う高い地位の人間を用意したのかもしれない。
ウォーケン少佐は、良くも悪くも任務に実直な軍人気質な人間だった筈。
本人にその気はなくとも、行動は読みやすい。
この任務が成功すれば、ウォーケン少佐が中心となって成功させたという米軍の箔はつくし、逆にオルタネイティヴ5の思惑通りに悠陽を始末できればそれでいい。
まあ、それも武と言うウォーケン少佐と同等の地位の少佐がいる為に、難しくなってしまった。
もしかして、香月博士はここまで考えて武を少佐にしたのか?
俺がそう思っていると、
『現在我がA中隊が時間を稼いでいるが………彼我の戦力差を考えれば楽観できる状況ではない。207戦術機甲小隊は補給が完了次第隊形を維持し先発。両翼と最後部は我々が固める』
『了解。異存ありません』
2人の話が終わると、俺は悠陽の様子を窺った。
弱音は吐いていないが、辛そうにしている。
「大丈夫か? 悠陽」
俺が声を掛けると、
「………心配いりません。そなたこそ足が痛いのではありませんか? ずっとわたくしが腰かけているものですから…………」
悠陽は笑みを作りながら逆に俺を気に掛ける。
「………女性を抱き上げている事には慣れてるから問題無いさ」
悠陽の気を紛らわすために、ちょっと冗談めかしてそう答える。
「そう言えば、其方はクラウディアやエミリア達を恋人にしているのでしたね?」
「そんな事まで聞いたのか…………」
あんまり堂々と人にいう事では無いと思うんだが…………
「わたくしの事は気にしなくて構いません。操縦の心得は多少あります。飾りとは言え、これでも軍の最高司令官なのですからね」
「操縦って、戦術機だよな?」
「そうです………まだ実機で96時間ほどですが」
「俺達より乗ってるじゃねーか………!」
「故あって今は手元を離れていますが、わたくし専用の機体もあるのですよ?」
「専用機…………」
俺は、吹雪と一緒に搬入された紫の武御雷を思い浮かべる。
「……………つかぬ事を聞くが、その専用機って、武御雷だよな? 紫の………」
俺がそう言うと、悠陽は視線を落とし、
「……………はい」
頷いた。
それから再び顔を上げ、俺の方を見ると、
「大士様………其方は初めて会った時、わたくしを『冥夜にそっくり』と申しましたね?」
「………ああ」
俺は頷く。
「冥夜が………御剣 冥夜がこの部隊に居るのでしょう?」
「ああ。居るよ」
「ならば何故、この場にあの武御雷の姿が無いのでしょうか?」
「…………冥夜は、一介の訓練兵には吹雪でも身に過ぎるものだと言って、決してあの武御雷に乗ろうとはしなかった」
その言葉に、悠陽はどこかやっぱりと言わんばかりの表情で小さく笑みを浮かべる。
「そうですか………やはりあの者は、武御雷に乗ろうとはしませんでしたか………ふふ、あの者らしい…………あの者は………今まで一度たりともわたくしの贈り物を素直に受けてくれた事が無いそうです」
「……………天下の将軍様が贈り物ね」
例え何も知らなくとも、その言葉を聞けば、悠陽と冥夜の間に、ただならぬ関係がある事は明白だ。
悠陽は俯き、
「………あの者は己が身の上を其方に何と?」
「本人から直接聞いたわけじゃないが、月読中尉達との話で、将軍家の縁者であることは聞いた…………だが、悠陽を直接見た俺個人の推測………というより、邪推を含めて言うのなら…………悠陽と冥夜は姉妹…………もっと言えば、双子だろうと予想している」
「何故、双子だと………?」
「親戚やただの姉妹でもそこまで顔が似る事は稀だし、何より、根っこが同じだと、そう直感したからだ」
悠陽は再び視線を落とすと、
「大士様の推測通り、わたくしとあの者は、血を分けた双子です………」
「やはりか……」
「………古より煌武院家には、双子は世を分ける忌児だとするしきたりがあるのです。そのしきたり故、あの者は生まれてすぐに遠縁の御剣家に養子に出されたのです。ですからあの者とわたくしは幼少の頃より直接話した事も一緒に遊んだことも無いのです」
「………………………」
悠陽の話を黙って聞く。
「己が素性と関わりなく生きてゆけたなら………それなりに平穏な暮らしを営むこともできたでしょう………されど、あの者は幼少より事あらばわたくしの身代わりとなるよう教育され、常に周囲からそう扱われてきたのです」
「影武者か………!」
俺はその話を聞いて、イラッとするのを感じた。
「………………?」
ん?
なんで俺は今イラッとしたんだ?
この話は前世の記憶で知っていた事だし、今更改めて聞かされたぐらいで………
悠陽から直接聞いて、変に共感しちまったのかね?
俺は疑問に思ったが、悠陽が言葉を続ける。
「………冥夜という名はあの者に刻まれた忌児であるという証。『冥』と言う字は闇を意味します………そして、わたくしの名にある『陽』は陽の光を意味しています」
「光と闇…………」
「あの者は、その生まれ故………忌児として家を追われ、身上を語る事を禁じられながら、その生まれ故……わたくしの姉妹であるが故に、政の道具として扱われてきたのです」
「国連への人質か?」
「有り体に言えばそうなりましょう。情けない事ですが、わたくしがそれをあの者に強いてしまっているのです。わたくしは、あの者を失望させたのかもしれませんね………」
その言葉と共に、肩を落とす悠陽。
「…………少なくとも、失望はしてないと思うぞ」
俺はそう言った。
「えっ………?」
「帝都が包囲されたと聞いた時、あいつは悠陽を護りに行けと、取り乱しながら月読中尉に怒鳴ってたよ。いつも冷静なあいつがあそこまで感情を露にしてる所を見たのは初めてだった。もし悠陽に失望していたのだとしたら、義務感や使命感でそういう言葉は出るかもしれないが、取り乱す事は無いだろう」
「………そう………でしたか…………」
「それから、さっき悠陽は、『冥夜』という名は『闇』を表す忌児の証だと言っていたな?」
「………ええ」
「俺はそうは思わない。光と闇は表裏一体。兄弟みたいなものだ。光があれば闇は生まれ、逆に闇があるからこそ光は輝ける。だから、『闇』だったとしても、忌むべき存在では無いし、恥じる事でもない」
「光と闇は………兄弟…………」
「そう考えれば、悠陽と冥夜の名も悪いものじゃないだろう?」
それを聞くと、悠陽は一度目を伏せた。
そして目を開くと、何かを決意した表情になり、
「………大士様」
「何だ?」
「其方に頼みごとがございます」
悠陽はそう言うと、懐から布で作られた簡易な人形を取り出した。
「これを………」
「人形か?」
「此度身の回りで持ち出せた唯一の品です………これをあの者に渡してください。これが………あの者とわたくしが共に過ごした唯一の証なのです。例えほんの数日でも………」
「……………直接渡さないのか?」
「…………あの者に双子の姉など居りません。そして将軍にも……双子の妹など居りません………」
悠陽はそう言い切る。
「…………………………………………」
俺は悠陽を見つめた。
悠陽は目を伏せながら平静な澄まし顔でそこに居る。
そして、それを見て俺の答えも決まった。
「……………………………………………だが断る!」
「えっ……………!?」
俺の答えが予想外だったのか、悠陽は目を丸くして俺を見た。
「渡したいなら自分で渡せ! 俺を頼るな!」
俺はそう言い放つ。
「な、何を言うのです? 先ほども言ったように、あの者にも……そしてわたくしにも双子の姉妹など居りません!」
「そう言うのなら、何故冥夜に人形を渡そうとする!? それがお前自身がその言葉を否定したい何よりの証明だろ!」
「ッ!?」
「今回だけじゃない! さっきの話を鑑みれば、お前は今まで何度も冥夜に贈り物をしてきた! それは、例え離れていようとお前自身が冥夜を妹として『大切』に思って来たからだろう!?」
「そ、それ……は………」
「お前は今、中途半端だ! 将軍家のしきたりと言いながら、冥夜を切り捨てる事が出来ず、かといって冥夜を『妹』と呼ぶ覚悟も無い! どっちつかずの中途半端! それが今のお前だ!」
「………………………」
悠陽は俯いてしまう。
そこで俺は再び口を開いた。
「………………シャルロットには会ったんだよな?」
「えっ……? あ、はい………あの青髪の少女の事ですね?」
「あいつの家にも、お前の所と似た様なしきたりがある。そして、シャルロットにも双子の妹がいる」
「それはっ………!」
「まあ、お前と違ってシャルロットはつい最近まで双子の妹の存在は知らなかったんだがな」
「そう………ですか………」
「シャルロットには2つの道があった。母親や、双子の妹と一緒に生きる道。そしてもう1つが、俺と共に生きる道…………そしてシャルロットは、俺と共に生きる道を選んだ………その存在を知らなかった事も理由かもしれないが、血を分けた双子の妹より、俺を選んだ。自分の意志で」
「……………………」
「そしてもう1つ。俺の恋人には、アリスとエリスという双子の姉妹がいる。彼女達の家にも女児は1人のみと言う為来りがあり、双子の妹として生まれたエリスは、彼女達の家族から疎まれた…………アリスも表向きにはエリスを雑に扱っていた…………だが、実際にはアリスはエリスの事を誰よりも大切に思っていた…………」
「ッ……………」
「詳しい事は省略するが、アリスは、エリスを殺さなければならなかった。それが家からの命令だった」
「そんなっ……!?」
「だが、アリスは最初からそんな命令に従う気はなかった。自分が死ぬことによって、エリスを生かそうとした」
「なっ!?」
「まあ、そこで色々あったが、最終的にアリスとエリスは、共に生きていく道を選んだ。家の……父親の命令に逆らい、家から勘当されようと、自分達が後悔しない選択をした……!」
「…………………」
「まあ、何が言いたいのかと言えば、彼女達は、自分で自分の『運命』を掴み取った」
「『運命』…………」
「悠陽。お前は今、将軍に生まれたという『運命』の中を流されている。だが、お前は今、冥夜と言う双子の妹の存在で、その『運命』に逆らおうとしている」
「それはっ………!」
「『運命』を受け入れるかどうかは個人の自由だ。だが、今のお前の様な中途半端な思いでは、『運命』を変える事など不可能だ。結局何事も中途半端で終わり、後悔し、どちらも辛い思いで終わるのが目に見えている」
「わ、わたくしは………………」
悠陽は苦悩の表情になり、俯いてしまう。
「…………………悠陽。お前自身は冥夜と国民、どちらが『大切』なんだ。征夷大将軍 煌武院 悠陽殿下じゃない。ただの悠陽という1人の女の子の思いは……………」
「………わたくしの………思い……………?」
その時、補給が終わった報せが届く。
「……………偉そうな事を言って悪かったな。戯言だ、忘れてくれ」
俺は再出発の準備に入る。
「…………………………………」
悠陽は何かを考えるように目を伏せ、俯くのだった。
はい、マブラヴデジタネイティヴ編第11話です。
相変わらず短いです。
今回は補給中戦術機の中での悠陽とのやりとり。
で、人形を渡してくれと言われて断ると言っちゃう我らが大士君でした。
大分好き勝手言ってしまいましたが果たして…………?
次もお楽しみに。
………………悠陽は如何する?
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姉妹丼でいただきます
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いい加減にしろやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!