ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第12話 包囲

 

 

補給を済ませた俺達は、再び横浜基地へ向かって移動を開始していた。

しかし、補給中に多少休憩が出来たとは言っても、悠陽の体調は頗る悪い。

酔いやすい体質の俺から言わせてみれば、半端な休憩は緊張の糸が切れて、逆に休憩前よりも気分が悪くなることだってある。

今の悠陽の状況は、正にそれの様に思えた。

 

「悠陽………大丈夫か?」

 

俺が気に掛ける言葉を口にすると、

 

「わたくしは大丈夫です………構わずに任務を遂行してください」

 

顔色が悪いにも関わらず、気丈にもそう言い放つ。

 

「乗り物酔いの辛さはよくわかっている。だから今の悠陽の辛さが手に取る様に分かるんだが………」

 

「わたくしの事はよいのです。如何ほど酷くなろうとも、加速度病ごときで命を落とす事はありません」

 

そうは言うが、重症化すると、嘔吐による窒息や脱水症状の危険性もあるんだが………

 

「されど、もし速度を減じれば、また多くの将兵の命が失われる事になるやもしれません………これ以上は……なりません……」

 

そう言い張る悠陽。

 

「…………ったく、ホント似た者姉妹だなお前達は。そう言う頑固な所まで冥夜そっくりだ………!」

 

俺は呆れ交じりの言葉を口にしながら悠陽に視線を落とす。

悠陽は、顔色を悪くしながらも輝きを失う事の無い瞳で俺を見上げていた。

俺は一度大きく息を吐いた。

そして、

 

「なら、せめて寄りかかって身体を楽にしろ。自分で身体のバランスを取るよりかは気休め程度だがマシになる筈だ」

 

俺が酔った時は、いつも恋人達に膝枕して貰ってるしな。

 

「し、しかし………」

 

「将軍たるもの家臣に弱味を見せてはいけないとか言う理由なら俺には当てはまらんぞ? 俺は名ばかりとは言え大公だ。お前と立場的には対等なんだから、対等の相手に頼ったって、別に恥ずかしくも無いだろ?」

 

「ッ…………………」

 

「ぶっちゃけ俺からしてみれば、将軍だろうが何だろうが、お前は年下の女の子だ。大人しく頼っとけ!」

 

「………………頼っても、よろしいのでしょうか………?」

 

悠陽はおずおずとそう言う。

 

「俺が良いって言ってるんだからいいんだよ」

 

「……………では、失礼します」

 

悠陽は今まで俺の膝の上に背を伸ばして座っていたのを、俺の胸に体を寄せ、肩に頭を乗せる様な体勢で俺に寄りかかって来た。

 

「………………………」

 

自分で言っといてなんだが、顔が近い。

悠陽も冥夜そっくりで美人な上にスタイルも良い。

そんな少女の顔を間近で見る事になれば、否応なしに意識してしまう。

 

「………? どうされましたか?」

 

俺の様子が気になったのか、悠陽が問いかけて来る。

 

「………何でもない。それよりも、少しは楽になったか?」

 

「はい………心無し自分で身体を起こしている時よりも、楽になった気がします」

 

「それならいい………もう少しで冷川だ。もうちょっと耐えてくれ……!」

 

「はい………!」

 

俺と悠陽の話が一区切りついた時、秘匿回線が入った。

 

『207EXより07。殿下の様子は如何だ?』

 

通信相手は武だ。

武は前の記憶から、この辺りで殿下の体調が悪化するのを覚えていたのだろう。

 

「こちら20707。正直、余りよろしくない。本人は大丈夫だと言い張っているが、おそらく限界は近いと思われる」

 

『207EX了解した。殿下の体調が急変したら、すぐに知らせてくれ』

 

「20707了解」

 

そう言って通信が切れる。

すると、入れ替わる様にウォーケン少佐から全体通信で報告が来た。

 

『ハンター1より各機。旧三島市街、136号線跡を進軍してきたと見られる敵部隊が冷川料金所付近に到達した』

 

『『『『『『『『ッ!』』』』』』』』

 

その報告に緊張が走る。

 

『現在第174戦術機甲大隊が交戦中だ』

 

ウォーケン少佐からの報告が続く。

そして、

 

『―――という状況だ。全機隊形を維持。最大戦闘速度で冷川を突破する!』

 

まあ、当然だろう。

俺達に立ち止まったり引き返す選択肢は無い。

投降するという選択肢も無くは無いが………

そんな選択肢は取らないだろう。

そしていよいよ冷川料金所跡に差し掛かる。

この間にも、敵部隊は増え続け、ウォーケン少佐が味方部隊に指示を出し、状況は目まぐるしく変わっていく。

 

『ハンター1より各リーダー! このままのコースを維持し、中央を突破する!』

 

既に料金所では戦闘が始まっているが、このまま強引に突破する事に決めた様だ。

俺はフットペダルを限界まで踏み込む。

 

「いっ………けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

俺は思わず叫んだ。

周囲で爆発が起こる中、俺達の戦術機は一直線に料金所跡を通過した。

 

「抜けたっ………!」

 

何とか最難関を突破できたことに僅かな安堵を覚えるのもつかの間、

 

「……………う」

 

俺に寄りかかっていた悠陽の頭が力無く垂れ下がった。

 

「ッ……!? 悠陽!!」

 

俺は思わず叫ぶ。

即座に武の不知火へと通信を繋ぐ。

 

「20707よりEX! 緊急事態だ! 秘匿回線の使用を求む!」

 

『ッ! こちら207EX! 秘匿回線の使用を認める!』

 

武は即座に了承した。

通信が秘匿回線に切り替わると、

 

「悠陽が倒れた!」

 

俺は即座に叫ぶ。

 

『くっ! やっぱりか……! 前のタイミングとほぼ一緒………! わかった! これからウォーケン少佐に進軍停止を要請する!』

 

「早めに頼む!」

 

そう言って通信が切れる。

少しすると、匍匐飛行で距離を稼いだ後に停止する指示が来た。

 

 

 

 

 

戦術機を停止させた後、俺はハッチを開いて外気をコクピット内に入れ、悠陽に楽な体勢を取らせる。

その表情は相変わらず苦しそうだ。

 

「………ったく、倒れるまで無茶するなよ」

 

俺は半分呆れた声でそういう。

因みにもう半分は敬意だ。

倒れるまで酔いに耐えるなんて、素直に感心する。

すると、ウォーケン少佐から通信が入った。

 

『黒騎訓練兵』

 

「はい」

 

『殿下に精神安定剤(トリアゾラム)を投与しろ』

 

「ッ!」

 

やはり来たか。

 

『早くしろ。これは重度加速度病に対する通常の措置だ』

 

催促の言葉が来る。

さて、どうしたものか。

俺がそう思っていると、

 

『お待ちください少佐! 殿下の症状と戦況の好転から考えて、更なる投薬のリスクは不要では………!』

 

神宮寺教官がそう進言した。

すると、

 

『その通りです少佐。安静状態が確保できるならまだしも、今後も戦術機での移動が続く以上………』

 

月読中尉も口を挟むが、

 

『………中尉。本作戦において君はオブザーバーだ。通信の傍受は許可したが、発言する権利を認めた覚えはないぞ』

 

ウォーケン少佐はそう言い放つ。

 

『……睡眠導入剤効果の高いトリアゾラムは同時に筋弛緩を引き起こします。睡眠状態での嘔吐により窒息死する危険性を看過するわけにはまいりません』

 

月読中尉は尚もそう言う。

 

『…………なるほど、可能性は否定できない。だが……あくまで可能性の話だ。殿下の容態を鑑みれば一刻も早く戦域を離脱するのが最良の選択だ。わが軍が敵の追撃を阻止している間に匍匐飛行で移動すべきだろう…………お眠りいただくことで速度を上げ、移動時間を短縮できれば殿下が戦術機に乗られる時間も敵に発見されるリスクも少なくて済む』

 

『トリアゾラムの投与が必ずしも適切な処置でない以上、殿下の体調回復のため10分以上の休息時間を取るべきだと具申いたします』

 

『ファストエイドキットにある精神安定剤はトリアゾラムのみ………これは現状取り得る最良の選択だ。加えて短時間の休息で殿下が回復する保証はない。以上だ………180秒後に移動を再開する』

 

ウォーケン少佐は一方的にそう通告した。

だが、

 

『お待ちくださいウォーケン少佐』

 

ここにきて初めて武が発言した。

 

『何かね白銀少佐? 君も殿下に対するトリアゾラムの投与に反対かね?』

 

ウォーケン少佐はやや棘のある言葉で言う。

しかし、

 

『いいえ。もはや、その問答自体が無意味となりました』

 

『ッ!? どういうことだ!?』

 

武の言葉にウォーケン少佐が聞き返すと、

 

『つい先ほど、帝国軍671航空輸送隊が発進したとの報告がありました』

 

『何? 作戦参加は聞いていないが………』

 

ウォーケン少佐は怪訝な声を漏らすが、

 

『帝国軍……671ッ……!?』

 

神宮司教官は驚愕の声を漏らした。

 

『? 如何した軍曹? 報告せよ』

 

そう促すウォーケン少佐。

すると、それに答えたのは月読中尉だった。

 

『少佐……671輸送隊は、厚木基地所属の部隊です………』

 

『厚木基地』………

それは、俺達が塔ヶ島城を発つ前に陥落した基地の名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 三人称】

 

 

 

 

 

 

大士達が悠陽の休息の為に留まっている頃、後方では追撃部隊を食い止める為に多くの戦術機と、それを操縦する衛士達が戦っていた。

その中には、武が新型OS XM-3の教導を行ったA-01部隊の姿もあった。

A-01部隊はXM-3の恩恵もあり、精鋭揃いの決起軍相手でも有利に戦いを進められていた。

 

『何だ!? あの機動は!?』

 

『こんな動きが不知火に………いや! 戦術機に出来たのか!?』

 

A-01部隊の相手をしていた衛士は、その動きに驚愕している。

 

『――いける……! この新型OSがあれば、帝国の精鋭とも渡り合える……!』

 

そう言ったのはA-01部隊の中の新任少尉の1人である高原。

新任だけあり、操縦技術はそこまで高くは無いが、その言葉通り決起軍の精鋭部隊とも互角以上の戦いを繰り広げていた。

しかし、戦場では一瞬の油断が命取り。

 

『ッ!?』

 

突如として悪寒を感じた高原少尉は振り返った。

その目に映ったのは、長刀を振り被る決起軍の不知火。

そして、その不知火を駆っていたのは、狭霧大尉の腹心である駒木中尉であった。

いくらOSが優れていようと、衛士が反応できなければそれは無意味。

振り下ろされる長刀を前に、高原少尉は何も出来ず…………

 

「フハハハハハハハハハッ!!」

 

『なっ!?』

 

突如聞こえた高笑いと共に、駒木中尉の不知火が横殴りに吹き飛ばされた。

そしてそこに居たのは、

 

「戦術機とやらも悪くは無いが…………やはり余には(こちら)の方が性に合う………」

 

右の拳に黒いデジソウルを宿し、不知火の頭部と同程度の高さに滞空するシュヴァリアの姿だった。

 

『あ、あなたは………!』

 

以前にもシュヴァリアの姿を見た事があるA-01部隊の面々は、幾分か落ち着いていたが、

 

『な、何だ!? 女が空を飛んでいるぞ!?』

 

『翼!? 角も生えているぞ!?』

 

シュヴァリアの姿を初めて見る帝国軍の衛士達は大混乱だ。

すると、

 

「シュヴァリア、先行し過ぎよ」

 

森の中から飛び出してきた、セイバーハックモンの肩に乗る優花がそう言う。

 

「そう言うな。久々に身体を動かせるのだ。多少は大目に見よ」

 

「やり過ぎないか心配なのよ」

 

更にセイバーハックモンに続き、ヒシャリュウモン、パイルドラモン、ブラックウォーグレイモン、ブラックメタルガルルモン、ワーガルルモン、ナイトモン、エアロブイドラモン、ウイングドラモン、ナイトモンとその肩に乗るテイマー達。

 

『この人たちは………!』

 

新任少尉の1人、柏木 晴子は彼女達の登場に目を見開く。

すると、

 

『……………あの人は…………居ないみたいだね………』

 

自然とある人物の姿を目で探し、いないと分かると残念そうな声色でそう呟いた。

 

「さてと………悪いけど、ここから先は通行止めだよ」

 

ヒシャリュウモンに乗った葵が、決起軍に向かってそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

 

 

空挺作戦(エアボーン)だと!? バカな!? ありえん! 海上の制空権は友軍が抑えている筈だ!』

 

ウォーケン少佐が武の言葉に驚愕する。

 

『確かに『海上』の制空権は抑えています。しかし、内陸ならば?』

 

『それこそありえん! 高度を取れば、佐渡島の光線級の餌食に………まさか!?』

 

ウォーケン少佐は武の言葉を一度否定するものの、とある可能性に行きつく。

 

『まさか奴ら、山間部を!?』

 

『ええ。それしかありません』

 

輸送用飛行機と言う大型飛行機で山間部を縫って飛ぶなんて、普通は正気を疑うわな。

 

『情報通りであれば、もう5分と掛からずここに辿り着きます。そして輸送機の速度であれば、今から移動を再開したとしても容易く追いつかれるでしょう』

 

『何という事だ…………! 奴らの覚悟がそこまでとは………!』

 

ウォーケン少佐は相手を見誤ったと悔いる。

 

『……………貴官に問おう、白銀少佐。我々は如何するべきだ?』

 

『まずは相手の出方を伺います。決起軍の狙いは殿下の確保です。よって、包囲したからと言って、いきなり武力で制圧するという真似は犯さないでしょう』

 

『しかし、それでは根本的な解決にはならん』

 

『はい。ですが、話し合いの場を設ける事が出来れば、光明が見えるかもしれません』

 

『何だと? 奴らが我々の言葉に耳を貸すとは思えんが………』

 

『確かに米軍のあなた方や、国連軍に身を置く私達では彼らは聞く耳を持たないでしょう…………ですが、殿下の言葉であれば届くやもしれません』

 

『白銀少佐!? それはもしや、殿下に決起軍を説き伏せろと仰るのか!?』

 

月読中尉が驚愕しながら問いかける。

 

『………はい』

 

『危険すぎる! 殿下の御身にもしもの事があれば…………!』

 

月読中尉がそう言いかけた時、

 

『…………ッ! 話は後です。来ました!』

 

武がそう言いながら空を見上げると、大型の輸送飛行機が編隊を組んで飛んでくる光景が映った。

 

 

 

 

 

 

 

その後、30機もの戦術機に包囲された俺達だったが、武の言葉通り、すぐに武力制圧には乗り出さず、狭霧大尉は60分の休戦を申し出てきた。

ウォーケン少佐は罠だと判断したが、月読中尉や神宮司教官の『将軍の名において発した言葉を帝国軍人は違えない』という言葉により、休戦に応じる事になった。

悠陽を戦術機から降ろして休息させ、俺達207小隊は念の為に周囲の警戒に当たる事になった。

俺とドルモンはその間にハジメ、アグモンと合流し、今後の動向を話し合っていた。

 

「さて………この次は御剣が将軍様に扮して、奴さんの説得をするんだったか?」

 

「ああ………で、その途中で確か米軍のハンター2………イルマ少尉が発砲して戦闘に突入する事になった筈だ」

 

「ふーん。あの女の少尉さんがねぇ………見た感じ、そういう事する人には見えなかったけどな」

 

「俺も、何故撃ったのかは知らない。覚えてないだけかもしれないけど………」

 

「まあ俺達が考えても仕方ない………それと、念話で香織達から報告が来たが、あっちも足止めは上手い事やったそうだ。A-01部隊にも被害は無いとさ」

 

「そうか…………」

 

俺がそう言うと、ハジメが突然黙る様に人差し指を立てた。

それから後ろを注視する。

すると、

 

「ここにいたか」

 

木々の間から月読中尉と一緒に冥夜の警護をしている褐色の少女が現れた。

名前は確か………神代(かみよ)だったか?

葵の苗字と漢字が一緒だからややこしい。

 

「何か?」

 

俺が問い返すと、

 

「ついてこい。殿下がお呼びだ」

 

「はい?」

 

それって本来武の役目じゃね?

 

 

 

 

神代に連れられて、木に背中を預けて座っている悠陽の前に来ると、

 

「殿下、黒騎 大士を連れて参りました」

 

神代が悠陽に敬礼する。

 

「ご苦労でした神代」

 

悠陽がそう言うと神代は下がる。

 

「御足労を掛けて申し訳ありません、大士様。こちらへどうぞ…………時間が来る前にそなたと少し話をしておきたかったのです」

 

「はあ…………」

 

ぶっちゃけこの場に呼ばれた事が予想外の為、曖昧な返事になってしまう。

俺はその場に座り、

 

「それで話とは?」

 

「…………………愛子様から其方達の世界の事を、少し聞いております。其方達の日本では、既に将軍と言う地位は廃れてしまっているそうですね?」

 

「ん? ああ………江戸時代の終わりに大政奉還って言うのがあって、政権を将軍から天皇に返すって出来事があった筈だ。まあ、それも第二次世界大戦で日本が負けて、天皇も国の象徴と言う立場となり、政治は選挙で選出された政治家たちが内閣総理大臣を中心に行っているな」

 

「そうですか…………そなた達の世界では、将軍はおらずとも、立派に国を動かしているのですね」

 

悠陽は少し俯く。

 

「先程…………意識は虚ろでしたが、白銀少佐の言葉は聞こえました。彼はわたくしに、決起した者達を説き伏せさせようとしていると」

 

「まあ、そうだな」

 

「其方は………わたくしに狭霧大尉を説き伏せる事が可能とお思いですか?」

 

悠陽はそう問いかけていた。

 

「………可能か不可能かと言えば可能だろう。8割は成功するんじゃないかと俺の中では思ってる」

 

まあ、説き伏せたとしても、結局は邪魔されておじゃんになるんだけどな。

 

「………………………」

 

悠陽は再び考え込む様に俯く。

 

「大士様……………」

 

悠陽は顔を上げると俺を見つめる。

 

「何だ?」

 

「………もう一度、其方に頼っても宜しいでしょうか?」

 

「………まあ、頼れと言ったのは俺だからな。自分で口にした事ぐらいは守るさ」

 

「………そうですか」

 

悠陽はフッと微笑んだ。

そして、真剣な表情になると、

 

「月読!」

 

「はっ!」

 

悠陽が声を上げると、木の影に控えていた月読中尉が姿を見せて跪く。

そして、

 

「皆をここに集めてください」

 

悠陽はそう告げた。

 

 

 

 

 

 

「煌武院 悠陽殿下に…………敬礼ッ!!」

 

ウォーケン少佐の号令で集まった兵士達が一斉に敬礼をする。

尚、冥夜を含めた数名の兵士達は、周辺警戒という事でこの場には居ない。

悠陽は、まず俺達全員に頭を下げた。

その事に皆は驚愕する。

それから、207小隊の1人1人と言葉を交わした後、再び向き直った。

 

「……………白銀少佐。其方は先程、わたくしであれば決起した者達を説き伏せられると申しましたね?」

 

「はっ!」

 

「…………わたくしは、その言葉通り、彼の者らを説き伏せて参りましょう!」

 

「なっ!?」

 

その言葉に全員が驚愕する。

 

「恐れながら殿下! その提案には賛同しかねます! 無礼を承知で言わせていただきますが、到底正気の沙汰とは思えません!」

 

ウォーケン少佐が叫ぶ。

 

「少佐! 口を慎まれよ!」

 

その口調に月読中尉が諫める。

 

「良い月読…………少佐、其方のお立場もご意見も重々心得ております…………されど此度の由………承認を求めているのではありません故、其方に従う事叶いません………どうか許すが良い」

 

「で、殿下!?」

 

すると、悠陽は俺の方を向いた。

 

「…………大士様。ご助力、お願いできますか?」

 

その言葉で、これが先程『頼る』事を確認してきた意味だという事が分かった。

 

「はっ! 殿下を護衛する任、謹んで拝命いたします!」

 

敬礼しつつそう答える。

まあ、自分で口にした事を守ると言った手前、断る事はしない。

まあ、将軍様の命とはいえ、国連軍の俺が勝手に了承するのは問題かもしれないけどな。

 

「黒騎訓練兵! 勝手に………!」

 

神宮司教官が俺を諫めようとしたが、

 

「神宮司軍曹。これは元々俺が提案した作戦です」

 

武がその前に口を挟んだ。

 

「少佐………! しかし…………」

 

「俺は、これが一番犠牲を出さない方法だと思っています」

 

そう言い切る武。

 

「ッ…………」

 

少佐の武にそう言われてしまえば、神宮寺教官は黙るほかない。

しかし、

 

「お待ちくださいッ!!」

 

そう叫んで現れたのは、周辺警戒をしていた筈の冥夜。

彼女は悠陽の前まで歩いてくると、その場に跪く。

 

「其方は…………」

 

「国連太平洋方面第11軍第207衛士訓練部隊所属、御剣 冥夜訓練兵であります」

 

冥夜はそう言うが、顔は伏せたまま目を合わせようともしていない。

こうして並んでみれば、血縁関係など一目瞭然なのだが、それでも尚冥夜は他人行儀の言葉を並べる。

そして、少し言葉を並べた後、出てきた言葉は、

 

「……無礼を承知で申し上げます。決起せし者達を説得する大任………この私めに拝命賜りたいと存じます」

 

「ッ…………!」

 

やはり、悠陽の替え玉となる事だった。

その理由を冥夜は述べる。

 

「誠に畏れ多い事ではございますが………私は常日頃より殿下に生き写しとの盛名をはせております。お召し物を拝借するご無礼をお許しいただけるなら、おそらく彼の者達に看破される恐れは無いと存じます………されど………この身を殿下のお役に立てる機会………今をおいて他にはございません。何卒………!」

 

冥夜はそう言い切った。

 

「………そなたの申し出大変嬉しく思います。されどこれはわたくし自身が果たさねばならぬ責務…………」

 

「………恐れながら殿下。民を慈しみ国土を育み………そしてそれらを広く深い得を以って治め導く。それこそが御身に課せられた第一の責務ではございませぬか? 今殿下に万に一つの大事あらば、遠からず帝国は滅びましょう。此度の争乱と責任が御身にあると申されるのならば、今枢要なのは彼の者達を御自ら誅する事ではございますまい。ご心痛如何ばかりかと存じますが………事後の民の為を第一にお考え下さいますよう伏して申し上げます…………説得の大任、何卒………何卒御裁可いただきますよう………」

 

冥夜はそこまで言って口を閉ざす。

民の為と言っているが、俺には『双子の姉を助けたい』。

そう言っているように思えてならなかった。

 

「……………そなたの思い………しかと受け止めました…………」

 

「ッ! それではっ…………!」

 

「されどっ………!」

 

悠陽の言葉に冥夜は声を上げたが、悠陽の言葉には続きがあった。

 

「…………されど尚の事………そなたを行かせるわけにはまいりません」

 

悠陽の答えは否だった。

 

「なっ!?」

 

武が驚愕から声を漏らす。

同時に俺も驚いた。

確か冥夜の説得で悠陽は替え玉作戦を了承したはずなのだから。

 

「ッ!? 何故にっ!?」

 

冥夜が聞き返すと、

 

「そなたの申す通り、万が一の事態もあり得ます」

 

「なればこそ、この私めに説得の大任を………!」

 

それでも悠陽は首を横に振る。

 

「そなたが力不足と申しているのはありません。そなたには、これ以上この身の不甲斐なさから出た責任を負わせたくないのです………」

 

「何を仰います!? 殿下の為ならば、この身この命、如何様にもお使いください!」

 

いくら双子の姉の為とは言え、そこまで言い切れる冥夜も凄いよなぁ。

 

「………それに、其方は少々勘違いをしています」

 

「えっ………?」

 

「わたくしは、今この場で狭霧大尉を誅するつもりは毛頭ありません。言葉通り、『説得』に赴くのです。その為に、これまでと同様に大士様の吹雪に同乗し、狭霧大尉を『説得』するのです」

 

「それは………」

 

「そして先程、其方はわたくしに万が一の事があれば、遠からず帝国は滅びる………そう仰いましたね?」

 

「はっ………」

 

「わたくしはそうは思いません。民は…………人はそこまで弱い存在ではありません………わたくし1人討たれた程度で滅びる国ならば、それこそ遠くない内に滅びる事でしょう」

 

「ッ…………!?」

 

「わたくしが狭霧大尉の『説得』に向かいます。これに変更はありません…………ですが、其方の気持ちは、大変嬉しく思いました……………『冥夜』、其方に感謝を…………」

 

「ッ!?」

 

名を呼ばれた事に、冥夜は目を見開く。

これは、妹を思う姉の言葉なんだろう。

悠陽はウォーケン少佐の方を向くと、

 

「米軍の方々には大変ご迷惑をおかけすると存じます。『説得』が失敗した場合は、わたくしに彼の者達が気を取られている隙に撤退を…………」

 

そう言った。

ウォーケン少佐は大きく溜息を吐くと、

 

「…………………困ったお方だ。そのような選択を取れば、我々米軍の信用は地に落ちる。本音を言えばその案には成功率の問題から反対ですが、成功すれば被害が少ないのも事実…………この場は殿下の意志に従いましょう」

 

渋々と言った表情だが、作戦に従う事にした様だ。

 

「そなた達に感謝を…………」

 

悠陽はもう一度頭を下げる。

そして、作戦の為の準備が開始された。

…………悠陽が替え玉作戦を却下したのは………………俺の所為なんだろうな。

俺の言葉が悠陽の冥夜に対する思いを大きくさせてしまったが為に、悠陽は冥夜の提案を却下してしまった。

替え玉ではなく『本物』が説得を試みるため、切り捨てるという選択は取れない。

説得が失敗し、戦闘になった場合、『殿下』を護る為に被害の拡大が予想される。

……………もし、そうなった場合は…………

 

「俺達でやるしかないか…………」

 

そう決意した。

 

 

 

 

 






はい、マブラヴ リ:デジタネイティヴ編第12話です。
もうちょい行きたかったけど間に合いそうになかったのでここで切ります。
さてさて、替え玉作戦を悠陽が却下してしまうという以外っぷり。
大士の影響が諸に手出ますねぇ…………
さて、本物の『殿下』の説得の行方は…………?
お楽しみに。


………………悠陽は如何する?

  • 姉妹丼でいただきます
  • いい加減にしろやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
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