ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第25話 忍び寄る影

 

 

フューレンでミュウを一行に加えた俺達は、荒野を魔力駆動四輪で走っていた。

尚、席順は運転席のハジメは当然だが、その隣にミュウ、白崎さん、ユエが並び、後部座席に葵、俺、優花、ティオ。

荷台にドルモンとリュウダモンである。

因みに今名前が上がらなかったシアとインプモンはと言えば、

 

「ヒャッハーーー! ですぅ!」

 

シアはハジメが作っていた魔力駆動二輪…………所謂バイクでかっ飛ばしていた。

ウィリーやら高台からのジャンプを平気で行っている。

更にその横では、

 

「………………………………」

 

ベルゼブモン(通常モード)に進化したインプモンが、愛車である二輪『ベヒーモス』に乗って爆走している。

とは言え、本気のスピードを出せば魔力駆動四輪も二輪もぶっちぎってしまうため、かなりスピードを抑えているが。

ミュウとティオ、インプモンが加わり、魔力駆動四輪の車内が手狭になったため、シアが魔力駆動二輪に乗り、インプモンは荷台に乗るはずだったのだが、それならばとベルゼブモンに進化している。

そんな様子を車内から眺めていたハジメは、

 

「なんで初めてであんなに乗りこなしてるんだよ………?」

 

余裕で高ランク難易度のバイク技を披露していくシアに呆れた声を漏らす。

 

「元々獣人だし、バランス感覚とかが抜群なんじゃないか?」

 

俺はそう言う。

 

「それにしても、ベルゼブモンもバイク持ってたんだね」

 

葵の言葉に、

 

「まあな。元々デジタルワールドで暴れてた、操縦者を乗っ取って暴走する呪われたバイクだったんだが、それを乗りこなせるベルゼブモンが現れて、そのままベルゼブモンの愛車になったって感じだな」

 

確かデュークモンに壊されたはずだったけど……………

尚、それを見ていたミュウが目をキラキラさせて、

 

「パパ! ミュウもあれやりたいの!」

 

とんでもない事を言いだした。

 

「ダメに決まってるだろ………」

 

即駄目だしするハジメ。

 

「やーなの! ミュウもやるの!」

 

駄々を捏ね始めるミュウ。

 

「こらこら、ハジメパパを困らせないの」

 

「ううぅ~~」

 

白崎さんがミュウを抱えながらそう言うと、ミュウは見るからにしょぼくれる。

それを見たハジメがやれやれと肩を竦めると、

 

「ミュウ。後で俺が乗せてやるから、それで我慢しろ」

 

「ふぇ? いいの?」

 

「ああ。シアと乗るのは断じて許さんが……俺となら構わねぇよ」

 

「シアお姉ちゃんはダメなの?」

 

「ああ、絶対ダメだ。見ろよ、あいつ。今度は、ハンドルの上で妙なポーズとりだしたぞ。何故か心に来るものがあるが……あんな危険運転するやつの乗り物に乗るなんて絶対ダメだ。一緒に乗るならベルゼブモンの方がまだマシだ」

 

いや、ベルゼブモンはその気になったらシアよりすごい事するぞ。

両手放しで銃乱射しながら空中にかっ飛んでそのままデュークモンに体当たり敢行するとか。

バイクに乗ったまま戦う位だし。

 

「でも二輪は危ないからな。二輪用のチャイルドシートが必要だな…………ボディはアザンチウム鉱石にして、錬成方法は………」

 

この世界最高硬度の鉱石で作るチャイルドシートって何ですか?

 

「南雲って………意外と親バカ…………?」

 

ハジメの意外な一面に優花が呆れた様にそう言った。

 

 

 

 

 

グリューエン大火山に向かう途中にあるホルアドに俺達は寄っていた。

理由はフューレンのギルドのイルワ支部長から、この街のギルド支部長に手紙を渡す様に依頼されたからだ。

そしてもう1つ、白崎さんの要望でこの街にあるオルクス大迷宮に挑んでいる勇者(笑)パーティーの1人である八重樫さんに無事を伝えたいという理由だ。

街のメインストリートを歩く俺達は、ハジメの両側に白崎さんとユエが陣取り、すぐ後ろにシアとティオ。

その固まりのすぐ横を俺と両脇を固める葵と優花。

その少し前をミュウを背に乗せたドルモンとリュウダモン、インプモンが歩くという集団の一員である俺から見ても異色の集団だ。

周りの注目を集めてしまうのは仕方ないだろう。

因みにミュウは気分によってドルモンの背かハジメの肩車かを選んでいる。

 

「ミュウ、気分は悪くないか?」

 

インプモンがミュウに声を掛ける。

 

「うん、大丈夫! ありがとね、インプモン!」

 

ミュウは笑みを浮かべてそう返す。

インプモンは、ミュウの年齢が別れた時のパートナー達――アイとマコト――に近いせいか何かと世話を焼く。

まあ、アイもマコトもあれから6年経っているので中学生~小学校高学年にはなっているのだが。

すると、

 

「パパ? どうしたの?」

 

街の様子を眺めながら物思いに耽っていたハジメを不思議に思ったのかミュウがそう訊ねる。

 

「ん? あ~、いや、前に来たことがあってな……まだ4ヶ月程度しか経ってないのに、もう何年も前のような気がして……」

 

「そうだね…………あれから色々あったけど、まだ4ヶ月しか経ってないんだよね………」

 

「……ハジメ、カオリ、大丈夫?」

 

ハジメと白崎さんの遠い目を見て、ユエがそう呟く。

 

「ああ、問題ない。ちょっとな、えらく濃密な時間を過ごしたもんだと思って感慨に耽っちまった。思えば、ここから始まったんだよなって……緊張と恐怖と若干の自棄を抱いて一晩過ごして、次の日に迷宮に潜って……そして落ちた」

 

「私はハジメ君を護るって約束したのに………その約束を護れなかった………」

 

「……」

 

ハジメの言葉に、白崎さんは軽く俯き、ユエは心配そうに見上げる。

 

「だけど、俺達はその時にドルモン達と再会できた………!」

 

「うん、リュウダモンとまた会えたことは、私達にとってこの上ない喜びだった………」

 

「大士………」

 

「葵………」

 

だけど、同時に俺達にとっては、ドルモン達と再会できた運命の日。

悪い事だけではない。

そのままギルドの建物に入ると、冒険者達の視線が一斉に俺達を捉えた。

 

「ひぅ!」

 

その眼光のあまりの鋭さに、ドルモンの背に乗っていたミュウが悲鳴を上げる。

悲鳴を上げる。

まあ、男2人で見た目麗しい女性を6人も侍らせていれば、殺気を向けられるのも当然と言えば当然だが。

しかし、それを看過できない人物が居た。

次の瞬間、ドンッと叩きつけられるかのような重圧がその場を支配した。

ハジメの『威圧』と『魔力放射』だ。

その威力に周りの冒険者達は耐えきれるわけもなく、全員が絶句、もしくは気絶している。

それがしばらく続くかと思われたが、意外にもあっさりとハジメはその『威圧』を弱め、

 

「おい、今、こっちを睨んだやつ」

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

これから言う言葉に有無を言わさず従えと言わんばかりの言葉。

そして、ハジメはその要求を言い放った。

 

「笑え」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

冒険者達からしたら、予想外の命令だったのだろう。

さっきとは違う意味で絶句している。

 

「聞こえなかったか? 笑えと言ったんだ。にっこりとな。怖くないアピールだ。ついでに手も振れ。お前らのせいで家の子が怯えちまったんだ。トラウマになったらどうする気だ? ア゛ァ゛? 責任とれや」

 

何気に『家の子』と言っている辺り、ハジメの子煩悩さが伺える。

冒険者達は、ハジメの言葉に逆らえるわけもなく、全員引き攣った笑みで小さく手を振った。

ぶっちゃけ怖い、つーかキモイ。

ハジメに言われて顔を上げたミュウだったが、

 

「ひっ!?」

 

やはり怖かったのか小さく悲鳴を上げた。

 

「どういうことだ、ゴラァ!」

 

「無茶言わんでください!?」

 

容赦のないハジメに目の前にいた冒険者達を床に沈めると、そのまま関係無いとばかりにカウンターに歩み寄った。

 

「支部長はいるか? フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんだが……本人に直接渡せと言われているんだ」

 

そう言いつつステータスプレートを渡す。

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

普通に話しかけたハジメにおっかなびっくりに受け答えする受付嬢。

しかし、

 

「き〝金〟ランク!?」

 

ステータスプレートに記された冒険者ランクを見て、思わず声を上げた。

すると、受付嬢はハッとして、

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

 

個人情報を大声で漏らしてしまったのを自覚したのか、凄い勢いで謝り始めた。

 

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるか?」

 

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

ハジメはもう今更だと呆れつつ早くしてくれと受付嬢を促した。

受付嬢はそのままギルドの奥へ駆け出していく。

すると、5分も立たないうちに、ギルドの奥からけたたましい足音が聞こえた。

俺達が何事だとその音のする方に視線を向けると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年が飛び出してきた。

そして、その人物は俺やハジメ、白崎さん、葵、優花にも見覚えがあった。

 

「「「「「……遠藤(君)?」」」」」

 

思わず俺達は同時に呟く。

 

「知り合いか?」

 

インプモンが俺に訊ねてくる。

 

「まあ………な。一応クラスメイトだ」

 

冤罪を俺に押し付けたクラスメイトの1人なので、いい感情は持っていないが。

 

「く、黒騎!? それに………神代さん!? あと…………分かりにくいけど園部さん………だよな?」

 

遠藤の視線が俺達の方を向き、俺達の名を呼ぶ。

すると、キョロキョロと辺りを見回し、

 

「南雲ぉ! いるのか! お前なのか! 何処なんだ! 南雲ぉ! 生きてんなら出てきやがれぇ! 南雲 ハジメェー!」

 

いきなり叫んだ遠藤の大声に俺達は思わず耳を塞ぐ。

 

「あ~、遠藤? ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

 

「!? 南雲! どこだ!」

 

遠藤はハジメの方を向くがすぐにまたキョロキョロ辺りを探し始めた。

必死な遠藤の表情にハジメはドン引きしている。

 

「くそっ! 声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ! 幽霊か? やっぱり化けて出てきたのか!? 俺には姿が見えないってのか!?」

 

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界1位」

 

「!? また、声が!? ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ! 自動ドアくらい3回に1回はちゃんと開くわ!」

 

「ハジメ君はそこまで言ってないよ…………あと、3回中2回は開かないんだね…………」

 

「その声は白崎さん!? くっ! 何処だ! 黒騎! 南雲の居場所を知っているなら教えてくれぇ!!」

 

「いや、そこに居るだろ?」

 

遠藤の必死さに俺もドン引きしながらハジメを指差す。

 

「え?」

 

俺に指摘されて、遠藤は白髪眼帯の男をマジマジと見つめる。

 

「お、お前……お前が南雲……なのか?」

 

「はぁ……ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲 ハジメだ」

 

ハジメはめんどくさそうに返事を返す。

 

「そうだよ。ここに居るのは紛れもないハジメ君本人だよ」

 

横から白崎さんがそう言うと、

 

「も、もしかして、白崎さん…………だよな?」

 

ハジメと同じように白髪になっている白崎さんに遠藤は呆然と返す。

 

「うん、そうだよ」

 

白崎さんは笑みを浮かべながらそう返す。

遠藤は視線をハジメに戻すと、

 

「お前……生きていたのか」

 

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

 

「何か、えらく変わってるんだけど……見た目とか雰囲気とか口調とか……」

 

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ? そりゃ多少変わるだろ」

 

「そ、そういうものかな? いや、でも、そうか……ホントに生きて……」

 

遠藤はホッとしたように息を吐く。

 

「っていうかお前……冒険者してたのか? しかも〝金〟て……」

 

「ん~、まぁな」

 

すると、遠藤はハッとしてハジメの肩を掴んで捲し立てた。

 

「なら頼む! 一緒に迷宮に潜ってくれ! 早くしないと皆死んじまう! 1人でも多くの戦力が必要なんだ! 健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ! 頼むよ、南雲!」

 

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!? 状況が全くわからないんだが? 死んじまうって何だよ。天之河がいれば大抵何とかなるだろ? メルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし……」

 

遠藤の切羽詰まった様子にハジメも困惑しながらそう返す。

遠藤はその言葉にガクリと膝から崩れ落ち、

 

「……んだよ」

 

「は? 聞こえねぇよ。何だって?」

 

「……死んだって言ったんだ! メルド団長もアランさんも他の皆も! 迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ! 俺を逃がすために! 俺のせいで! 死んだんだ! 死んだんだよぉ!」

 

遠藤はそう叫んだ。

その瞬間、白崎さんが遠藤の胸倉を掴んで自分の方に振り向かせると、

 

「雫ちゃん! 雫ちゃんは!?」

 

有無を言わせぬ迫力を持ってそう問いかけた。

 

「や、八重樫さんは無事…………少なくとも別れるまでは無事だった…………むしろ、八重樫さんに言われて俺はこうやって助けを呼びに来たんだ…………」

 

それを聞くと、白崎さんは遠藤を放り投げるように放すとハジメに振り向き、

 

「ハジメ君………!」

 

懇願するような表情でハジメに呼びかけた。

 

「そんな顔をしなくても大丈夫だ………おい遠藤、経緯は行きがてら聞いてやる! さっさと案内しろ!」

 

「えっ………? 南雲………?」

 

遠藤が声を漏らす。

すると、通路の奥から六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のあるオッサンが出てきた。

 

「俺の客は………」

 

ハジメはそのおっさんが支部長だと判断し、ステータスプレートと手紙を投げ渡す。

 

「悪いが先約が入った! アンタの名で勇者パーティーの救出の依頼を出しておけ! 俺はその依頼で救出に向かう! 後ティオ! ミュウを頼む!」

 

ハジメはそう言うと遠藤を引きずりながら迷宮の入口へ向かう。

俺も八重樫さんには色々と世話になったのでその後を追うことにした。

 

 

 

 

迷宮内を駆け抜けつつ遠藤の話を聞くと、どうやら90階層に魔人族が現れたらしく、勇者パーティーがピンチになっている様だ。

遠藤は八重樫さんに言われて先に逃がされたが、魔人族の操る魔物に後をつけられており、更にメルド団長の機転で転移陣で助けを求めてくるように言われたが、転移先の転移陣を壊せと言われていたのでメルド団長達の生存はほぼ絶望的らしい。

俺達は遠藤の案内で迷宮の最短距離を進んでいった。

 

 

 

尚、俺と葵は優花に抱えられて進んでいるので相変わらず格好つかないな~っと内心思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 雫】

 

 

 

 

 

迷宮の探索を続けて約4ヶ月。

今迷宮の攻略を進めているのは私、光輝、龍太郎、鈴、恵里の他、永山 重吾を含める5人及び檜山達4人の14人。

香織が抜けた影響で回復役が居なくなることを心配した私だったが、永山パーティーの中に香織と同じ『治癒師』の天職を持った子がいた。

彼女は香織が居た時は同じ治癒師として色々上回る香織に対してコンプレックスを持っていたようだが、その香織が居なくなったので頼られることが多くなり、意外にも活躍を見せていて、ここまでこれたのも彼女のお陰と言っても間違いではない。

だけど、迷宮の90階層に辿り着いた私達は、異常事態に頭を悩ませていた。

異常事態と言っても、魔物が大量発生しているとか、トラップが大量に仕掛けられてるとかじゃない。

その逆で魔物が一切見当たらない。

その事実に、私は嫌な予感が拭えなかった。

 

「……どうなってる?」

 

「……何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

他のメンバーもそれは思っていたようで、思わず口に出した。

 

「………なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

龍太郎がそう言うけど、私はそんな単純な話じゃない気がした。

するとその時、カランと小石が転がる音がした。

 

「ッ………!」

 

私はすかさず腰のサーベルの柄を掴みながら振り向いた。

他の皆も警戒を強める。

音がしたのは岩の柱の後ろ。

気配は小さいけど、確かに何かが居る!

すると、その小さな気配がもぞもぞと動き、ひょっこりと顔を出した。

 

「クル~?」

 

それを見た瞬間、私は思わず表情が崩れそうになった。

可愛い…………

誰にも知られないようにしているけど、私は可愛い物好きだ。

家が道場をやっている所為で色々と自分を抑えなきゃいけないけど、こう見えても年頃の女の子の感性は持っていると自負している。

そんな私の前に現れたのは、見た事の無い生き物。

可愛らしい声をその口から漏らしながら、こちらを覗く白く小さな愛くるしい姿。

額の六芒星の様なマークが特徴の可愛い生き物だった。

 

「………………ッ!」

 

一瞬見惚れていた私は気を取り直す。

一番前に出ていてよかった。

多分今、私はだらしない顔をしていたでしょうから…………

表情を引き締め、私はその生き物を見直す。

やっぱり可愛い………

って、そうじゃない!

私は最大限警戒しようとしているが、どうにも警戒する気が起きない。

すると、その生き物は私達を見て笑顔を浮かべると、耳(?)を大きくして宙に浮き、こちらに近付いてきた。

他のメンバーは警戒したようだけど、

 

「こんにちはでっクル~」

 

驚くことにその生き物は言葉を話した。

って言うか挨拶してきた。

 

「あなたたちは、人間でっクルか~?」

 

警戒心を感じさせないその無防備な姿。

 

「え、ええ………そうだけど…………あなたは?」

 

私はダメもとで聞き返してみる。

 

「クルモンは、デジモンでっクル!」

 

「デジモン………!?」

 

私は目の前のこの子がデジモンだという事に驚いたが、

 

「デジモンだって!?」

 

私よりも光輝が激しく反応した。

 

「下がれ雫!!」

 

光輝はそう言うといきなり聖剣を抜き、

 

「はぁあああああああっ!!」

 

問答無用でその子に斬りかかった。

 

「クルッ!?」

 

その子は驚いた声を上げる。

私は咄嗟にサーベルを抜いてその子の前に立ちはだかると光輝の剣を受け止める。

 

「なっ!?」

 

光輝が驚いた声を上げた。

 

「何をしているんだ! 雫!?」

 

そう問いかけてくるけど、

 

「それはこっちの台詞よ! いきなり斬りかかるなんて何考えてるのよ!? 見なさい! この子怯えてるじゃない!」

 

その子はビックリしたように私の背中の後ろに隠れて光輝を伺うように見ている。

ああ、こんな姿も可愛い…………

って違う!

しっかりしなさい雫!

 

「今の言葉を聞かなかったのか!? そいつはデジモンだと言ったんだぞ!?」

 

「ええ聞いたわよ! それが何!?」

 

「分からないのか!? デジモンは魔物と同じなんだぞ!? 現に6年前に東京はデジモンの所為で滅茶苦茶に………!」

 

「あれはデジモンの所為じゃないってニュースでも言ってたじゃない!」

 

「だが、東京でデジモンが暴れていたことも事実だ!」

 

何言ってるのコイツ?

もしかしてデジモン達がデ・リーパーと戦ってた事を言ってるのかしら?

黒騎君の話だと、あれは黒騎君や、黒騎君の仲間達のデジモンで、デ・リーパーから東京を護るために戦っていたのよね?

私は内心溜息を吐く。

 

「例えそうだとしても、私はデジモンの全部が全部『悪』だなんて思って無いわ。現に、黒騎君や葵のドルモンやリュウダモンとも話したけど、私達と何も変わらない。意志疎通も出来るし、楽しい事には笑って、嫌な事には怒ったり悲しんだりできる生き物よ!」

 

「その黒騎に香織達は攫われたんだぞ!?」

 

「まだ言ってるのそれ?」

 

何度も香織達は自分の意思でついてったって言ってるのに…………

私は呆れつつ剣を引いて鞘に納める。

私はその子に向き直ると、

 

「驚かせてゴメンね? 私は雫。八重樫 雫よ。あなたの名前は?」

 

私がそう問いかけると、

 

「クルモンは、クルモンでっクル!」

 

そのデジモンはそう名乗った。

 

「そう、クルモンって言うの…………クルモン、何であなたはここに居たの?」

 

すると、クルモンはしょぼんとして、

 

「クルモン分かんないでっクル…………気付いたらこの洞窟の中にいたでっクル………」

 

「そう………怖かったわね………」

 

私はしょぼんとするクルモン頭を撫でる。

すると、クルモンは顔を上げ、

 

「クルモンからも質問いいでっクルか?」

 

「質問………? 何?」

 

クルモンから質問が来るとは思わず、私は内心驚く。

 

「雫は、『大士』や『ドルモン』を知ってるっクル?」

 

「ッ!?」

 

私はクルモンの口から出てきた名前に思わず声を漏らしそうになった。

 

「え、えっと………そのタイシって言うのが、『黒騎 大士』って名前ならその通りだけど………もちろん、ドルモンもよ」

 

私はそう答える。

 

「クルッ!」

 

クルモンは耳(?)を大きく広げて喜びを露にする。

 

「クルモンは黒騎君とドルモンを知ってるの?」

 

「ックル! 大士とドルモンは友達でっクル! 昔捕まった時に、皆と一緒に助けに来てくれたでっクル!」

 

私はそれを聞いて本気で光輝を止めて良かったと再確認した。

大士の知り合いのデジモンに何かあったとしたら………

それをやったのが光輝だと知ったら黒騎君がどうするかわかったもんじゃないわ!

知られざるファインプレーをした自分を褒めてあげたい。

すると、

 

「それよりも、早くここを離れた方が良いでっクル!」

 

突然クルモンがそう言った。

 

「離れた方が良い? どうして?」

 

私がそう問いかけると、

 

「良く分かんないけど、嫌な物が近付いてる気がするでっクル!」

 

クルモンはそう言ってくる。

私は光輝に向き直り、

 

「……光輝。一度、戻らない?」

 

私は光輝にそう提案する。

 

「そのデジモンの言う事を鵜呑みにするって言うのか!?」

 

光輝はまるでクルモンに張り合うようにそう言ってくる。

 

「………嫌な予感がしていたのは私も一緒。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

私がそう言うと、

 

「だが、そのデジモンが俺達をここから先へ進ませないようにそう言ってるだけなのかもしれない………!」

 

何クルモンと張り合ってるのよ、コイツは。

すると、遠藤君が何かに気付いたように地面に座り込み、何かを棒きれで拭った。

 

「………これ、魔物の血………だよな?」

 

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

 

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

 

次々に異変に気付くメンバー。

 

「天之河……八重樫の提案に従った方がいい……これは魔物の血だ。それも真新しい」

 

永山君がそう言う。

 

「そりゃあ、魔物の血があるってことは、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど……いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

光輝の反論に永山君は首を振った。

 

「天之河……魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にもかかわらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり……」

 

「……何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したってことね?」

 

私の言葉に永山君が頷く。

その言葉でようやく光輝にも事態の異常性が理解できたようだ。

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど……人であると考えたほうが自然ってことか……そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは……」

 

「ここが終着点という事さ」

 

光輝の言葉を引き継ぎ、聞いた事の無い女の声が響いた。

私達は警戒を最大限に引き上げてその声をした方を向いた。

コツコツと響く足音と共に、広い空間の闇の奥から肩に白い鳥を乗せた、赤い髪をした女が現れた。

しかも、その女の耳は僅かに尖っていて、肌も浅黒い。

座学で散々聞かされた、魔人族の特徴だった。

 

「………魔人族」

 

その呟きに、魔人族の女は冷たい笑みを浮かべる。

 

「そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたが勇者でいいんだよね? アタシらの側に来ないかい?」

 

魔人族の女は光輝に視線を向けるとそう言った。

 

「何………? どういう事だ!?」

 

「勧誘してんの」

 

光輝の問いかけにさも平然と答える魔人族の女。

 

「断る!!」

 

しかし、光輝は即答する。

 

「お仲間も一緒でいいって言われてるけど?」

 

「答えは同じだ!」

 

光輝は考える素振りすら見せない。

 

「………そういえば、1人私らの誘いに乗った御仲間がいたみたいだけど………?」

 

その言葉に私は一瞬動揺するが、

 

「騙されないぞ! そんな奴はいない!」

 

光輝の言葉で我に返る。

根拠の無い言葉だけど、今回は助かった。

 

「どうかしら………?」

 

女は含み笑いをする。

その時、鈴が全員に障壁魔法を使った。

それを戦闘の意志と判断したのか、

 

「あらそう………勧誘できないなら用は無い」

 

すると、その女は目付きを鋭くして、

 

「魔物の餌にしてあげる!」

 

その直後、

 

「そこ! 危ないっクル!!」

 

クルモンが全力で体当たりしてきた。

思い掛けない方向からの衝撃に、私は思わずよろけて倒れる。

 

「雫!? やはりコイツ!!」

 

光輝がクルモンに向けて剣を振り上げようとした時、私が居た場所が突如として破砕した。

よく見ると、すぐそこの空間が揺らいでいる。

それと同時に、

 

「がっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

永山君が何かの攻撃を受けて吹き飛ばされ、後方の檜山達にぶつかり、鈴も吹き飛ばされたが恵理に受け止められて事なきを得る。

その時、私は初めてクルモンに助けられたと悟った。

 

「ありがとうクルモン。助けてくれたのね?」

 

「クル~!」

 

私はお礼を言うとすぐに立ち上がる。

でも、空間が揺らめいてるだけで姿が見えない。

すると、

 

「光の恩寵と加護をここに! 〝周天〟!」

 

治癒師の女の子が周天という持続系回復魔法を辺り一帯に唱えた。

この魔法は暫くの間自動で回復魔法がかかる代わりに光がまとわりつくという特性を持っている。

その魔法によって見えない敵が露になった。

それはライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物。

所謂キメラと呼ぶに相応しい魔物だった。

そのキメラは私に向かって爪を振った。

 

「ッ!」

 

私は咄嗟にクルモンを抱えてその場を飛び退く。

その一撃は先程まで私が居た場所を砕いた。

もし最初の不意打ちを喰らってたら対処できなかったかもしれないと、私は内心クルモンに重ねて感謝する。

 

「雫から離れろぉおお!!」

 

光輝が飛び込んで来て、龍太郎や恵理が拳圧や火の魔法で攻撃する。

だが、

 

「「ルゥガァアアア!!」」

 

「グゥルゥオオオ!!」

 

また別の3つの咆哮が上がったかと思うと、キメラとは違う別の影が光輝達に襲い掛かった。

それは、オークやオーガと呼ばれる豚顔の魔物で、私達も戦った事のあるブルタールという魔物に近い。

だけど、その体躯はそれらよりも明らかに引き締まって強靭になっており、光輝は咄嗟に躱したけど、龍太郎は吹き飛ばされた。

更に、恵理が放った炎の魔法は、こっちも突然現れた巨大な亀の様な魔物の口に吸い込まれていき、炎を吸い尽くしたと思ったら、再び口を開けてその口に赤い輝きが生まれる。

 

「拙い………!」

 

恵理が思わず声を漏らす。

でも、

 

「にゃめんな! 守護の光は重なりて 意志ある限り蘇る〝天絶〟!」

 

鈴が10枚の光のシールドを展開。

直後に亀の口から超高熱の砲撃が放たれたが、それは何とか上方に逸らすことに成功した。

 

「ちくしょう! 何だってんだ!」

 

「なんなんだよ、この魔物は!」

 

「くそ、とにかくやるぞ!」

 

その時になって漸く檜山達や永山君の他のメンバーが動き出す。

私も先程攻撃を受けそうになったキメラと相対する。

 

「はぁああああああああっ!!」

 

すれ違いざまに抜刀すると同時に蛇の尾の半ばあたりを切り裂く。

 

「グゥルァアア!!」

 

怒りの咆哮を上げて振り向きざまに鋭い爪を振るうキメラ。

私はそれを躱してキメラの両翼を切り裂く。

大丈夫、攻撃は通じる。

強い相手だけど、勝てないわけじゃない。

私がそう思った瞬間、

 

「キュワァアア!!」

 

魔人族の女の肩に乗っていた鳥が鳴き声を上げる。

すると、目の前のキメラの傷が見る見る癒えていく。

いや、キメラだけじゃない。

光輝や他の皆が相手をしていた魔物達のダメージも回復していく。

 

「回復役まで!?」

 

私は思わず叫ぶ。

 

「今までの魔物とレベルが違い過ぎる………! 八重樫さん! どうする!?」

 

「………………」

 

遠藤君の言葉に、私は一瞬思案すると、

 

「遠藤君、あなたの能力を見込んで頼みがあるの」

 

「えっ?」

 

「この事を、メルド団長に伝えて。天職が〝暗殺者〟のあなたなら、敵に気付かれずにメルド団長の所まで行ける………!」

 

「お、俺が………!?」

 

「これはあなたしか出来ない……!」

 

本当ならクルモンも連れて行ってもらいたいけど、そうすると敵にバレる可能性が上がってしまう。

 

「…………必ず伝えるから…………必ず………!」

 

その言葉を最後に遠藤君の姿も気配もまるで感じられなくなる。

相変わらず見事な物ね。

私は魔人族の女に向き直ると、目の前のキメラが地に沈む様に消えていく。

 

「勇者様どうする? このままだと………」

 

どうやらその女はまだ私達を懐柔する気がある様だ。

それなら交渉すると見せかけて時間を稼げば………

 

「俺達は屈しない!」

 

光輝がにべもなく拒否する。

全くこいつは!

 

「それを証明してやる! 〝限界突破〟!」

 

『限界突破』は一時的にステータスを3倍にする技能。

だけど、強力な分リスクも高く、常に魔力を消費する上に、使用後は使用時間に比例して弱体化してしまう諸刃の剣。

例のブルータスのような魔物が光輝に向かってメイスを振り下ろす。

でも、ステータスの上がった光輝はその一撃を受け止めることが出来た。

 

「刃の如き意志よ 光に宿りて敵を切り裂け 〝光刃〟!」

 

その一撃はその魔物を両断する。

だけど、その直後魔人族の女が詠唱していることに気付いた。

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴 大地が産みし魔眼の主 宿るは暗闇見通し射抜く呪い   もたらすは永久不変の闇牢獄 恐怖も絶望も悲嘆もなく その眼まなこを以て己が敵の全てを閉じる 残るは終焉 物言わぬ冷たき彫像 ならば ものみな砕いて大地に還せ! 〝落牢〟!」

 

その詠唱が完了すると、魔人族の掲げた手に灰色の渦巻く球体が出来上がり、放物線を描いて私達の方へ飛来した。

その速度は余り早くなく、私達には危険は少ない様に思えた。

でも、

 

「逃げるっクル! あれ、危ないっクル!」

 

クルモンが突然叫ぶ。

すると、

 

「ッ!? ヤバイッ! 谷口ィ!! あれを止めろぉ! バリア系を使え!」

 

「ふぇ!? りょ、了解! ここは聖域なりて 神敵を通さず! 〝聖絶〟!」

 

永山君のパーティーの1人である野村君が切羽詰まった声で叫び、鈴が上級防御魔法を唱える。

その煙のような魔法は障壁に纏わりつく。

鈴の様子から察するに、見た目以上に強力な魔法の様だ。

 

「後ろ! 危ないっクル!」

 

再びクルモンが叫ぶ。

鈴の後ろに黒猫の様な魔物が現れる。

確認するまでもなく鈴を狙っていた。

 

「鈴!」

 

「谷口を守れ!」

 

私達が駆け付けようとするけど、その黒猫の様な魔物は近くに居たクラスメイト達を掻い潜ると、無数の触手を鈴目掛けて突き出した。

 

「谷口ぃ!」

 

クルモンが一呼吸早く警告してくれたお陰で野村君が間一髪割り込むが触手の一本がすり抜け、鈴の脇腹を貫いた。

 

「あぐぅ!?」

 

鈴が倒れ、聖絶が解除される。

そのまま黒い煙は鈴と、近くに居た野村君や他の数人のクラスメイトを呑み込んだ。

 

「鈴ちゃん!」

 

「鈴!」

 

「皆!」

 

呑み込まれたクラスメイトに向かって叫ぶ。

 

「来たれ 風よ! 〝風爆〟!」

 

光輝が、咄嗟に、突風を放つ風系統の魔法で灰色の煙を部屋の外に押し出す。

煙が晴れたその先には、

 

「そんな、鈴!」

 

「野村くん!」

 

「斎藤! 近藤!」

 

完全に石化し物言わぬ彫像となった斎藤君と近藤君。

そして下半身を石化された鈴と、その鈴に覆いかぶさった状態で左半身を石化された野村君の姿があった。

 

「貴様! よくも!」

 

その姿を見て、光輝が怒りの表情で叫ぶ。

気持ちは分からなくないけど今は拙い。

 

「待ちなさい! 光輝! 撤退するわよ! 退路を切り開いて!」

 

「仲間をやられて逃げられるか!!!」

 

だけど、今の光輝には届かない。

私は右手を振りかぶって光輝の頬を引っ叩いた。

 

「冷静になりなさい! 悔しいのは私も一緒よ! それに、〝限界突破〟もそろそろヤバイでしょ? この状況で、光輝が弱体化したら、本当に終わりよ!」

 

引っ叩いたおかげで冷静さを取り戻したのか光輝はいつもの表情になる。

 

「わかった! 全員、撤退するぞ! 雫、龍太郎! 少しだけ耐えて!」

 

「任せなさい!」

 

「おうよ!」

 

私達は光輝の詠唱の時間を稼ぐために敵に立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、辛くも逃げ切った私達は、メルド団長達が居るはずの七十階層に差し掛かっていた。

鈴の傷も何とか塞がっている。

石化したクラスメイトも何とか皆で交代しながら運んでいた。

けどそんな時、

 

「なあ! やっぱりあいつの言う通りにした方が良いじゃないのか!?」

 

檜山が突然言い出した。

 

「何を言ってるんだ!?」

 

光輝がすかさず反発する。

でも、

 

「わ、私も………あの人の誘いに応じるべきだと思う………!」

 

「恵理まで如何したの………?」

 

私は思わず問い返した。

 

「わ、私はただ、皆に死んでほしく無くて………!」

 

恵理の言葉に私は押し黙る。

確かにこのまま戦っても勝ち目は薄い。

ならば、従う振りをして生き残る道もアリだというのは私にも分かる。

 

「魔人族なんて信用するな!」

 

「だけどよ、このまま撤退を続けたって、一体何人が生き残れると思ってるんだ!?」

 

「ッ………!」

 

光輝は檜山の言葉に何も言い返せない。

 

「1人でも多く生き残るためには、従うしか無いと思う!」

 

恵理の精一杯の主張。

その言葉に全員が俯いた時、

 

「お前達は………生き残ることだけ考えろ………!」

 

メルド団長の声が聞こえた。

私達は僅かな希望を持って振り向いたけど、それは幻想に過ぎなかった。

メルド団長は、血塗れで見るからに満身創痍。

剣を杖代わりにして立っているのもやっとの状態だった。

 

「メルドさんっ!?」

 

光輝が悲痛な声を上げる。

 

「これは………最初から私達の戦争だったんだ………!」

 

メルド団長は精一杯の声で私達にそう告げる。

でも、

 

「ッ!? うぐあっ!?」

 

メルド団長の目が見開かれ、背中から血が噴き出る。

同時にメルド団長の背後にあのキメラの魔物と魔人族の女が現れた。

メルド団長はゆっくりと地面に倒れる。

 

「…………すまない」

 

メルド団長はそう呟くとゆっくりと瞼を閉じて力尽きた。

 

「メルドさぁああああああああん!!!」

 

光輝の悲痛な悲鳴。

私もメルド団長がやられた事に動揺を抑えきれなかった。

 

「ぐ………………ぐぐ……………」

 

その時、光輝の身体に限界突破の輝きが宿る。

私は咄嗟に叫んだ。

 

「ダメよ光輝! 今〝限界突破〟したら身体が持たないわ!」

 

私は叫んだ。

でも、今光輝を包む光は今までの〝限界突破〟とは何かが違っていた。

この時の私は知る由も無かったけど、それは〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]。

基本ステータスの5倍の力を得るものだった。

 

「よくもメルドさんをぉおおおおおおおおおおっ!!!」

 

光輝は光を纏いながら襲い来る魔物達を切り伏せる。

光輝はそれでも一瞬も足を止めずに魔人族の女の元まで踏み込んだ。

 

「チィ!」

 

魔人族の女は咄嗟に砂塵の盾を作るけど、大上段に振りかぶった聖剣を光輝は躊躇いなく振り下ろす。

その一撃はその砂塵の盾を容易く切り裂き、魔人族の女に深手を負わせ、更に背後の壁まで吹き飛ばした。

 

「まいったね……あの状況で逆転なんて……まるで、三文芝居でも見てる気分だ」

 

魔人族の女は皮肉気に口にする。

光輝は即座にその女の元まで駆けると、止めの一撃をその胸に突き立てんと剣を振りかぶった。

魔人族の女はいつの間にか手にしていたロケットペンダントを見つめ、

 

「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

その呟きに、彼女にも恋人が居たであろう事は予測できたけど、これは戦争。

殺し合いだと割り切るしかないのよ。

私はそう思っていた。

だけど、聖剣が彼女の胸を貫く寸前、光輝が目を見開きながら恐怖と戸惑いに動揺していた。

光輝!? 

どうして!?

まさか!?

私は光輝が剣を止めてしまった最悪の理由に思い至った。

そして、それは魔人族の女も同じだったらしい。

 

「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 〝人〟を殺そうとしていることに」

 

「ッ!?」

 

光輝にとって、魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だったのだろう。

 

「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 

「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

 

「ハッ、〝知ろうとしなかった〟の間違いだろ?」

 

「お、俺は……」

 

「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の1匹がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい? おまえが今までそうしてきたように……」

 

「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

あんの馬鹿光輝!

私は剣を抜いて出来る限り最速で魔人族の女を『殺す』為に駆ける。

 

「雫!? 何を!?」

 

「はぁああああああああっ!!」

 

私は深手を負っている今が最後のチャンスと斬りかかる。

 

「やめろ雫!」

 

光輝が何を思ったか私の前に立ちはだかって私の剣を受け止めた。

 

「馬鹿! 邪魔しないで!」

 

私は思わず怒鳴る。

 

「何をしようとしているのか分かっているのか!? 彼女は〝人間〟なんだぞ!?」

 

光輝は私がその事を理解していないと思っているのか言い聞かせるようにそう言ってくる。

 

「そんな事分かってるわよ! それこそ、この『戦争』に参加すると決めたその時からね!」

 

「なっ!?」

 

私の言葉に光輝は驚いている。

 

「自覚の無い坊ちゃんだね………私達は『戦争』をしてるんだよ!!」

 

私達の背後に新たな魔物が現れ、その攻撃で吹き飛ばされてしまう。

私は咄嗟に立ち上がり、光輝も立ち上がろうとしていたけど、ガクンと崩れ落ちた。

 

「こ、こんなときに!」

 

おそらく限界突破のタイムリミットだろう。

その威力に比例して、光輝は身動きすることもままならないらしい。

だけど、今はその方が良いかもしれない。

私は魔人族の女に向けて剣を構える。

 

「……へぇ。やっぱりあんたは、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?」

 

魔人族の女は白い鳥の固有魔法で回復したらしく、しっかりとした足取りで立っている。

 

「……そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!」

 

光輝があそこまで甘ちゃんだとは思って無かった。

『戦争』の意味すらも理解して無かったなんて…………

それでよく皆を護るなんて言えたものね。

私は内心笑ってしまう。

戦いで誰かを『護る』という事は、他の誰かを傷付け、あるいは殺す『覚悟』も必要だという事。

その『覚悟』をはき違えていた光輝に私は幼馴染としてそのツケを払う!

魔人族の女の前に現れた馬頭の魔物に向かって駆ける。

馬頭の魔物は頭上で両手を組み合わせて振り下ろしてきたので、私はスライディングでその魔物の股下を潜り抜けると、隙だらけになった背後から斬りかかった。

でもその瞬間、その馬頭の魔物の背後に魔方陣が現れ、同じ馬頭の魔物が現れた。

 

「ッ!?」

 

その振りかぶって殴りかかってきた拳を私は何とか剣で防御するけど、その威力は私が防ぎきれるものじゃなかった。

サーベルが圧し折れ、その拳が私の腹部を捉える。

途轍もない衝撃が私の体を突き抜け、私は後方に吹き飛ばされて岩の柱を一本砕いて、更にその後ろの岩の柱に激突して止まる。

その瞬間、何か熱いものが喉の奥から込み上げて来て、口の中に血の味が広がり思わず吐き出す。

それは大量の血だった。

おそらく内臓に大ダメージを受けたのだろう。

私は咳き込みながら蹲る。

馬頭の魔物が近付いてくるけど、私はしばらく動けそうにない。

でもその時、

 

「雫ーっ!」

 

クルモンが私の下に飛んでくる。

すると、私を護るように立ちはだかり、

 

「クルモンも戦うっクル!」

 

そう言って可愛らしい体で懸命に私を護ろうとする。

 

「クルモン…………ここは危ないわ………早く戻って………!」

 

私はクルモンにそう言う。

 

「諦めちゃダメっクル! もうちょっと………もうちょっとで来るっクル!」

 

「え……………?」

 

私は声を漏らすけど、クルモンは馬頭の魔物に向かって行く。

 

「ダメッ! クルモン逃げて!」

 

クルモンはそれでも馬頭に向かって行き、

 

「クルモンぱーんち! クルモンきーっく!」

 

ポカポカと馬頭の顔を殴ったり蹴ったりしている。

でも、悲しいけど効いている様子は全く無い。

やがてその魔物も鬱陶しくなったのか、顔の周りをウロチョロするクルモンを、虫を払うようにペシッと叩いた。

 

「クル~~~~~~ッ!?」

 

「クルモン!」

 

吹き飛ばされるクルモンを、私は痛む体を突き動かして受け止める。

 

「クルモン、しっかり!」

 

「ク~~~~ル~~~~~?」

 

目を回しているけど大丈夫そうだ。

私はホッとする。

すると、

 

「その生き物……………もしかして『それ』があの方の仰っていた神の盟友が探している『ブツ』かい………?」

 

魔人族の女はクルモンを見て、何やら思い当たることがあるような言葉を呟く。

そして、

 

「お前達、そのチビを捕まえな! 剣士の女は殺せ!」

 

その命令に応え、馬頭の魔物は私達に手を伸ばしてくる。

私はせめてクルモンを護ろうとギュッと抱きしめる。

最期の時が近付いてきているのに、私は現実から目を逸らそうとしていた。

香織に付き合って色々な創作物に目を通す内、ピンチなヒロインを王子様(主人公)が救うシーンが数多くあった。

恥ずかしいから誰にも言えないけど、そう言うシチュエーションに憧れてそんな自分自身が王子様に助けられるという妄想をしてしまった事もあった。

そんな事現実にはあり得ないって思ってるけど、心の何処かで期待している自分がいる。

魔物の伸ばす手が私に届こうとした瞬間、

 

「間に合ったっクル!」

 

腕の中のクルモンが明るい声で言った。

私が声を漏らそうとした瞬間、ドゴォンという音と共に天井が爆発し、目の前の魔物に何かが落下した。

巻き上がる砂煙と衝撃に私は目を瞑るけと、衝撃が収まったのを確認して目を開けると、目の前には巨大な杭にそれぞれ首と頭を貫かれた馬頭の魔物の姿があった。

 

「な、何が………?」

 

私がその事実に呆然としていると、

 

天井に空いた穴から黒いコートの人物が降りてきて地面に着地した。

立ち上がったその人の後ろ姿に、私は柄にもなく胸にときめくものがあった。

その黒いコートを着た白い髪の男性は首だけを回してその赤い瞳で私を見る。

すると、

 

「相変わらず苦労してるようだな。八重樫」

 

何処かで聞いた事のあるような声で、私の苗字を呼んだ。

私は何故私の苗字を知っているのかとか、相変わらずってどういう事とか色々混乱し始めたけど、次の瞬間にはどうでもよくなった。

何故なら、その男性の横に白い長い髪の女性が降り立ち、私に振り向くと、

 

「雫ちゃん!!」

 

私の名を呼んで私を抱きしめる。

そして、それは誰なのかすぐにわかった。

髪が白くなって、目が赤くなって、体付きも変わってるけど間違いない。

 

「…………香織っ………!」

 

4ヶ月前に想い人を追って迷宮に潜った、私の親友の姿だった。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 






はい、第25話の完成。
意外とクルモンが活躍してしまった。
香織が居ない穴をどうやって埋めようかな~っと思ってクルモンを動かしまくった結果です。
今回のサブタイ、【頑張れクルモン! 見せろ、デジモン根性!】
でも良かったかもしんない。
にしてもクルモンの勘が良すぎる。
でも、原作でもクルモン意外といい勘してましたし。
ジュリを見つける時とか。
さて、原作通りの様なそうでない様な今回のお話。
勇者(笑)が原作以上に救えねえ?
次回はいよいよ………
お楽しみに。
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