【Side 雫】
「雫ちゃん!!」
白く、長い髪を持ち、赤い瞳の女性が私を抱きしめる。
だけど、その顔立ちは紛れもなく私の親友そのもの。
何より、私の直感が間違いないとそう言ってる。
「…………香織っ………!」
私はその名を口にする。
「うん………! そうだよ………! 私だよ………! 雫ちゃん………!」
香織は感極まった声を漏らしながら、私を抱きしめる。
「遅くなってごめんね………! でも、間に合って良かった………!」
「ホントよ………! 4ヶ月も何処ほっつき歩いてたの………!?」
思わずそんな軽口が出てしまう。
でも、ホント良かった………!
私と香織が再会を確かめ合っていた時、天井に空いた穴から金髪の少女が降って来た。
その下に居た白髪の男性がごく当たり前のようにその少女を受け止める。
その少女は男性に向かって微笑むと、手を翳して何か魔法を発動した。
すると、天井の穴からウサ耳の少女を筆頭に数人の人物や見た事ある獣のような2匹と小悪魔のような生き物が1匹、金髪の少女が発動させた魔法をクッションにして地面に降り立つ。
その中には、私の見知った姿もあり、そして最後に、真っ黒い服を着た少年が着地に失敗しつつ、
「皆………! 助けを呼んできたぞ………!」
その少年、遠藤君がそう言った。
「「「「「遠藤(君)!?」」」」」
クラスメイト達が驚く。
すると、白髪の男の人が一通り辺りを伺うと、
「香織、怪我した奴らや石化してる奴を治療してやれ」
香織に向かってそう言う。
「うん、分かったよ。〝ハジメ〟君!」
香織の口から出たその名前に私は驚愕した。
「へ? ハジメくん? って南雲くん? えっ? なに? どういうこと?」
私はその白髪の男性を見つめる。
話し方や鋭い眼光は、あの大人しかった南雲君とは思えない。
だけど、よく見るとその顔立ちには確かに彼の面影が伺える。
「えっ? えっ? ホントに? ホントに南雲くんなの? えっ? なに? ホントどういうこと?」
「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」
その事実に混乱していた私は南雲君(らしき人)に突っ込まれる。
一通り驚いて少し落ち着きを取り戻した私は自分の状況を思い出した。
「ッ………! 痛ぅ~~~~~!」
血を吐き出す程の大ダメージを受けていたのにあんなに大声を出したものだから、その反動で身体に痛みが走る。
すると、
「あっ、ごめん雫ちゃん! すぐ治すね!」
香織はそう言って立ち上がると左手に持っていた杖を掲げ、
「〝回天〟 〝万天〟!」
ただ二言。
詠唱も魔法陣も使わず、その二言だけで香織は魔法を2つ同時に行使した。
杖に宿った光が私達クラスメイトとメルド団長だけを包み、傷を癒していく。
先程まであった体の痛みが、嘘のように無くなった。
それだけではなく、完全に石化してしまったクラスメイトの2人と、体の半分ほどが石化して、解除にも苦労していた鈴と野村君の石化が、あっという間に解除された。
そして、瀕死の重傷を負って事切れる寸前だったメルド団長でさえも、ほぼ完璧と言えるほどにまで回復させていた。
「これは…………」
「傷が…………」
クラスメイト達も驚いている。
すると、
「……………う……」
気を失っていたメルド団長が気が付く。
「生きているのか………俺は………」
頭を押さえながら身を起こす。
「メルドさん………!」
光輝が安堵した表情でその名を呼ぶ。
「……一瞬であれだけの人数を回復させただと………死にかけの騎士まで………!?」
魔人族の女が香織の治癒魔法の力に驚きの声を漏らす。
しかも、今香織が使ったのは、言葉通りなら中級範囲回復魔法の〝回天〟だ。
それが並の治癒師達が使う上級回復魔法以上の回復力を見せた。
彼女の驚きもその為だろう。
でも、南雲君はそんな事は当然とでも言うように、
「ユエ、シア。香織と一緒にあいつらの御守りを頼む」
「「うん/はい!」」
「大士達は………好きにしてくれ」
「そうさせてもらう」
それぞれに指示を飛ばす。
黒騎君に対しては指示と言っていいのかは分からないけど。
すると、ユエと呼ばれた金髪の少女が遠藤君の首根っこを引っ掴み、シアと呼ばれたウサ耳…………兎人族の少女が血を大量に失って貧血を起こしているメルド団長をヒョイと担ぎ上げる。
「うおっ?」
メルド団長が驚く。
って、兎人族って非力じゃなかったっけ?
しかもあんな細腕で、大柄で鎧も纏っているメルド団長を『ヒョイ』って擬音が聞こえてきそうなほど簡単に担ぎ上げたわよ、ヒョイって。
そのまま彼女達は光輝達が固まっている場所へ駆けていく。
「雫ちゃん、私達も」
香織に促され、私は立ち上がる。
香織のお陰でもう体にはダメージが無い。
すると、私の胸の辺りがもぞもぞとして、
「っクル~!」
クルモンが苦しそうに顔を出した。
そう言えばクルモンをずっと抱きしめたままだった。
「あれ? 雫ちゃん………その子………」
「あ、この子は…………」
私が香織に説明しようと口を開いた瞬間、
「「「クルモン!?」」」
3つの声が重なって驚きの声を漏らした。
1つは黒騎君、もう1つはドルモン。
そして、最後の1つは小悪魔のようなデジモンだった。
黒騎君達を見ると、クルモンは嬉しそうに私の腕から飛び出し、
「クルックル~! 大士たちでクル!」
クルモンは嬉しそうに黒騎君達の前に浮かぶ。
「何でお前までこんなとこにいるんだよ?」
小悪魔のようなデジモンがそう問いかける。
「知り合いのデジモン?」
彼らの後ろから葵がそう問いかけた。
「ああ。友達のデジモンだよ」
「ふ~ん………」
黒騎君の言葉に葵は液晶画面の付いた携帯機器を取り出してそれを眺める。
「あれ? データが表示されないけど、その子、本当にデジモン?」
「あ~………説明が難しいんだが、クルモンはちょっと特殊なデジモンなんだ。だけど、ホントいい子だから気にしないで欲しい」
「そうなんだ………あ、初めまして。私は葵。こっちにいるリュウダモンのテイマーだよ」
葵はそう言いながらクルモンに自己紹介する。
「クルル~! クルモンは、クルモンでクル!」
クルモンは嬉しそうに葵に笑顔を向ける。
「おい、お前ら。再会の挨拶は後にしてくれ」
南雲君からそう呼びかけられる。
「おっと悪い」
黒騎君がそう言うと、クルモン達を伴って後方へ下がろうとする。
「ちょ、ちょっと………!」
あんな強力な魔物が居る中に南雲君を一人で置いて行く黒騎君達を私は呼び止めようとして、
「雫ちゃん」
香織にやんわりと止められた。
「ハジメ君なら大丈夫だから」
そう言う香織からは、南雲君への絶対の信頼が伺える。
「……………」
そんな香織に逆らうことが出来ず、私は言われるままに光輝達が居る所まで下がった。
すると、
「香織!」
光輝が香織に向かって嬉しそうに声を掛ける。
「………光輝君」
「無事だったんだな、香織! 本当に良かった!」
回復して貰ったとは言え、思いっきり殴り飛ばされた私じゃなく香織の心配をする光輝に、私は僅かな失望を覚える。
「………久しぶりだね、皆も」
香織は微笑みながらそう返すが、私にはその微笑みが上辺だけの様に思えた。
すると、光輝は視線を厳しくして黒騎君に向ける。
「よくノコノコと俺達の前に姿を見せられたな………黒騎!」
黒騎君を責める言動をする光輝。
「…………………………はぁ」
黒騎君はその言動に怒るわけでも否定するわけでもなく、ただ単に深く溜息を吐いて呆れていた。
「なんだそのため息は!」
逆にそれが光輝の癇に障ったようで、光輝は怒鳴る。
黒騎君はその言葉を無視して視線を南雲君の方に向けた。
「貴様っ…………!」
光輝が更に怒鳴ろうとした時、
「そこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」
その声が部屋中に響いた。
光輝もその言葉に押し黙る。
「何だって………!?」
「今なら見逃してやると言ったんだ」
魔人族の女の言葉にそう言う南雲君。
「人間が…………! 地獄に自ら足を踏み入れたことを後悔しながら死ぬといい!」
魔人族の女は目を怪しく輝かせる。
「あ~あ、あいつハジメの慈悲を蹴っ飛ばしやがった」
「あの物言いで何人が大人しく退くか疑問だけどね」
魔人族の女の反応に、黒騎君と優花が呆れた様にそう零す。
「なるほど、『敵』って事でいいんだな?」
南雲君が確認する様に呟く。
その時、南雲君の左側の空間が揺らめいた。
あれは!
「南雲君! あぶな………!」
私が危ないと叫ぶ前に、南雲君は左腕をその揺らめいた空間に突き出していた。
「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」
驚くことに、南雲君は襲い掛かろうとしたキメラの獅子の顔を左腕一本で掴み、動きを完全に封じていた。
「…………動くだけで空間が揺らぐなんて、稚拙にも程があるわね」
優花がくだらないと言わんばかりに溜息を吐く。
いや、私達にとっては動かないと何処にいるか分からないのはかなりやり辛いんですけど!?
「奈落じゃもっと凶悪な隠蔽能力を持った相手もいたからね~」
香織もあのキメラの隠蔽能力は脅威には思って無いみたい。
え?
私がおかしいの?
でも、次の瞬間、南雲君がキメラを左手一本で持ち上げ、地面に叩きつけてキメラの頭部を粉砕する。
更に次の瞬間、ドドンッと音が鳴り響くと、何も無い空間から豚顔の魔物とキメラが現れ、そのまま力尽きた様に倒れた。
しかも、南雲君の両手に持っているのは銃だ。
「な、何で分かったのさ………!?」
魔人族の女が動揺する。
私も同じ疑問を持っていた。
「気配を消しても魔力や体温が全然隠せてないから立ってるだけの只の的」
すぐ横の優花が理由を口にする。
そのまま南雲君が私達が苦戦した黒猫の様な魔物や豚顔の魔物達を次々に粉砕していく。
「何者なんだ………彼は?」
光輝が呆然と呟く。
こいつ香織の話聞いて無かったの?
「はは、信じられないだろうけど………あいつは南雲だよ」
遠藤君がそう言う。
「「「「「「「「「「……………………は!?」」」」」」」」」」
その言葉に、クラスメイトだけではなくメルド団長までも素っ頓狂な声を揃えで遠藤君の方を向いた。
「だから南雲だよ! あの日、橋から落ちた南雲 ハジメだ! 迷宮の底で生き延びて、南雲を探しに来て合流した黒騎や白崎さん達と一緒に自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ! って俺も思うけど……事実だよ」
「南雲って、え? 南雲が生きていたのか!?」
「信じらんねぇ………」
遠藤君の言葉に光輝や龍太郎が驚愕の声を漏らす。
「見た目とかめっちゃ変わってるから無理も無いよな………」
遠藤君がそう付け加える。
すると、
「う、うそだ。南雲は死んだんだ。そうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」
顔を青ざめさせた檜山が遠藤君の胸倉を掴んでそんな事を言いだした。
「うわっ、なんだよ! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」
「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」
「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」
檜山の言葉には、南雲君が生きていたことが信じられないというより、生きていたという事を信じたくないと感じる節がある。
遠藤君の言葉に尚も否定の言葉を紡ごうとした時、ドバンと音が鳴ったかと思うと、檜山の顔のすぐ横をすさまじい衝撃と共に何かが通過した。
「………………………」
その衝撃に檜山は固まる。
すると、
「大人しくしててくれないかな…………? 私、ハジメ君ほど銃の扱いが巧い訳じゃないから、下手に動くと間違って当たっちゃうかもしれないよ…………?」
それは、冷たい瞳で檜山を見下ろす右手に銃を構えた香織の姿だった。
次の瞬間、檜山の背後に豚顔の魔物が現れ、ゆっくりと後ろに倒れる。
「か、香織………?」
光輝が呆然と呟く。
そう言う私も驚いた。
香織がいきなり銃を抜いて発砲するとは思わなかったからだ。
その時、
「来るぞ!!」
メルド団長の切羽詰まった声が響いた。
見れば、南雲君には敵わないと悟ったのか、魔物が私達に迫ってくる。
私達を人質に取ろうという魂胆なのだろう。
全員が戦闘態勢を取ろうとした時、
「〝蒼龍〟」
金髪の少女が紡いだ一言。
その瞬間、青い炎の龍が現れ、空中から近付いてきた魔物達を焼き尽くした。
「「「「「なっ!?」」」」」
更に地上から近付いてくる豚顔の魔物には、
「うりゃぁあああああああああああああああっ!!」
先程の兎人族の少女がその見た目に相応しくない巨大な戦槌で迎え撃った。
光輝が『限界突破』してようやく受け止められるメイスの一撃を、兎人族の少女は受け止めるどころか軽々と弾き返す。
そのまま返す戦槌で頭から叩き潰し、そのまま横殴りに振り抜くと、近付いてきた数匹を纏めで吹き飛ばした。
その少女は戦槌を肩に担ぎ直すと、
「ですぅ!」
年相応の可愛らしい笑顔をこちらに向けた。
「「「「「嘘!?」」」」」
すると、巨大な亀の魔物が口を開けて
砲撃を放とうとしていた。
すると、まだ本調子ではない鈴がふらつく足で何とか立ち上がり、
「私が………護る………!」
両手を前に出して障壁を張ろうとする。
でも、
「大丈夫」
そんな鈴の手を香織が優しく制した。
「私に任せて」
「カオリン………」
香織がそう言った瞬間、巨大亀の口から砲撃が放たれた。
すると、香織が杖を前に翳し、
「〝聖絶〟」
再び詠唱、魔法陣無しで上級防御魔法をノータイムで発動させた。
光の障壁が全員を包み、先程鈴がギリギリで防ぎ切った砲撃を微動だにせず受け止めた。
その時、私は優花の姿が無い事に気付いた。
すると、バリバリと雷鳴が轟く。
見上げると、優花が槍を振りかぶりながらその槍に雷が収束されている。
「ニーベルング………!」
その言葉と共に、空中から槍を巨大亀に向けて投擲する。
巨大亀は慌てて甲羅に閉じこもるが、雷の収束で白く輝く槍は、その甲羅に深々と突き刺さり、次の瞬間、内部から雷が溢れて巨大亀を爆散させた。
その爆発でクルクルと飛んでくる槍を優花は難無くキャッチする。
「皆凄いでクル!」
クルモンが素直な感想を口にする。
正直、私も同じ気持ちだ。
凄いという言葉しか出てこない。
やがて、魔物を全滅させた南雲君が魔人族の女を追い詰める。
「打ち止めか………?」
南雲君が静かに問いかける。
魔人族の女は悔しそうに歯を食いしばっていたけど、突然ニヤリと笑みを浮かべ、
「〝落牢〟!!」
予め詠唱しておいて温存しておいたであろう上級石化魔法を南雲君に向けて放った。
南雲君が石化の煙に包まれる。
「南雲君!!」
「南雲………!」
私や光輝が叫ぶ。
だけど、香織や黒騎君達は全く慌てた様子を見せなかったのを怪訝に思ったけど、その理由はすぐにわかった。
魔法を放った魔人族の女が出口に向かって駆け出していたけど、石化の煙を切り裂いて最初に落ちてきた杭が飛び出し、魔人族の女の前に突き刺さった。
その光景に、思わず震えながら振り返る彼女。
「すでに詰んでいた訳だ………」
「その通り」
自嘲気味に呟く彼女に、煙の中から特に何も影響を受けていない南雲君が姿を見せながらそう言う。
「上級魔法が意味を成さないなんて、アンタ本当に人間?」
「実は、自分でも結構疑わしいんだ」
「………化物め………!」
魔人族の女は忌々しそうに呟く。
そんな彼女に南雲君は近付くと、無言で銃を向けた。
「さて、悪いがお前の遺言なんぞ聞く気は無い。それより…………」
「………………舐められたもんだね。もう勝った気でいるのかい?」
魔人族の女が切羽詰まった表情を消して、突然余裕を持った表情で話し始めた。
「ッ………!」
南雲君は目を細めて彼女を注視する。
「確かにあの方から享け賜った魔物は打ち止めさ…………けどね、私は手札を全て切ったと言った覚えは無いよ…………!」
自信ありげに話す彼女。
すると、目の前に2つの空間が揺らめく。
そこに、木で出来たマリオネットの様な姿をした人型と黒い卵から悪魔の手足と羽根、無数の目がある獣の能な頭が飛び出たような生物が現れた。
「…………そいつらは…………」
「………本当にこいつらを使う事になるとは思わなかったけど………悪いけど諦めるんだね。こいつらは一応私が預かった奴らだけど、私らの崇める神とは別の神から賜った奴らだから、私の制止なんか聞きやしないよ」
魔人族の女がそう言うと、
「おい! こいつ等って確か………!」
南雲君が背中越しにこちらに問いかけるような言葉を投げてくる。
すると、
「ピノッキモン 究極体 ウィルス種 パペット型デジモン。必殺技は『ブリットハンマー』」
「デビタマモン 究極体 データ種 突然変異型デジモン。必殺技は『ブラックデスクラウド』」
黒騎君と葵が手に持つ携帯機器を見ながらそう読み上げた。
「チッ………やっぱりか!」
南雲君は舌打ちすると銃を引いて踵を返した。
「おや? 戦わないのかい?」
魔人族の女がニヤリと笑ってそう問いかける。
「ああ。そいつらには勝てん」
南雲君は驚くことに否定せずそのままこちらに戻ってくる。
そんな南雲君の行動に、
「おい南雲! 戦わない内から諦めるのか!?」
光輝がそう言った。
「勝てない奴に勝てないといって何が悪い」
南雲君は平然とそう返す。
「だが、戦わなければ皆がやられるんだぞ!?」
南雲君はそれを聞くと溜息を吐く。
「俺は勝てないとは言ったが、諦めたとは言ってない」
「何っ………?」
「自分で勝てないのなら、勝てる奴に任せれば良いだけの話だ」
南雲君はそのまま歩いて来て、
「そう言う訳だ。後は任せた」
黒騎君とすれ違うと同時にそう言った。
「任された」
「おう! 任しとけ!」
黒騎君とドルモン、小悪魔のようなデジモンがそう言って南雲君と入れかわるように前に出る。
「ふっ………こいつらの恐ろしさを分って無いと見える」
魔人族の女がそう笑うが、
「少なくとも、お前よりは分かってるつもりだぞ」
黒騎君が煽るようにそう言った。
彼女のこめかみがピクリと震え、
「ならば、その身を以って思い知るといい!!」
その言葉を切っ掛けに、目の前の2体が動こうとしたその瞬間、
――MATRIX
EVOLUTION――
「マトリックスエボリューション!」
黒騎君とドルモンが共に光に包まれ、光の柱が立ち昇った。
その光景に私は驚く。
「ドルモン進化!」
眩い輝きの中で何が起きているのか私には理解できない。
「アルファモン!!」
光が収まっていき、目の前に黒騎君とドルモンの姿は無い。
その代わり、身長が4mほどもある黒い鎧の騎士が佇んでいた。
更に、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
小悪魔のようなデジモンが叫び声を上げると光に包まれ、黒い騎士より一回り小さな仮面を付けた人型の姿へ変貌した。
「なっ!?」
突然の事に驚き、声を漏らす魔人族の女。
「な、何だあいつらは…………? 黒騎は何処へ消えたんだ!?」
光輝も意味が分からずに叫ぶ。
すると、
「まず黒い仮面を被った方はベルゼブモン。さっきの小悪魔の様なデジモンのインプモンが究極体に進化した姿よ」
優花がそう言い、
「そして、黒い騎士の方が大士がドルモンと融合し、一つとなって究極体に進化したアルファモン。そしてあれが、私がずっと追い求めてた姿よ」
葵が続けてそう言った。
すると、
「……………あれ………あの騎士………私見た事ある………!」
鈴が突然そう言った。
「そう………! 6年前、一回だけテレビで見た! 赤い泡みたいな奴から出てきた、確か……エージェントって奴らと戦ってた!」
鈴が思い出したようにそう言う。
「…………そう言われると………俺も見た事あるような気が…………」
クラスメイト達の中にもポツポツとあの騎士を見たことがあるような言動をするような人が出てくる。
「それは当然よ。大士は、6年前にデ・リーパーから地球を救ったテイマーの1人なんだから………!」
「「「ええっ!?」」」
優花の言葉に、驚きの声を漏らすクラスメイト。
私はその話は聞いてたから驚かなかったけど。
すると、マリオネットの様なデジモン………
確かピノッキモンって呼んでた方がハンマーの先が銃のリボルバーの様になった武器を振りかぶってアルファモンに殴りかかった。
「ブリットハンマー!!」
その瞬間、
「香織!」
「うん! 〝聖絶〟!」
香織が光の障壁で私達全員を包む。
その瞬間、目の前で大爆発が起こった。
「「「うぉっ!?」」」
「「「何だ!?」」」」
目の前の光景に私達が驚いていると、
「くっ!」
巨大亀の砲撃すら余裕で防ぎ切った香織が苦しそうに声を漏らした。
光の障壁の外は、砂煙が巻き起こって何も見えない。
やがてその煙が晴れていくと、アルファモンがピノッキモンの一撃を魔法陣で受け止めている姿があった。
しかも、私達の居る所も含めたアルファモンの後方以外は地面が抉れ、何も残ってはいなかった。
「はぁあああああああっ!!」
ピノッキモンはハンマーを振りかぶり、振り下ろし、薙ぎ払い、振り上げとアルファモンを攻め立てていく。
それに対して、アルファモンは黙ってその攻撃を受け止め続けているだけだ。
「何故黒騎は動かないんだ!」
光輝が攻撃を受けるだけで何もしないアルファモンに苛立つ。
でも、
「そんなもん俺達がここに居るからに決まってるだろ?」
南雲君がそう答えた。
「何っ!?」
「最初の一撃…………いや、それ以外の攻撃でも、アルファモンが攻撃を受け止めなきゃ俺達全員消し飛んでるからな」
南雲君がそう続ける。
「普通の人間なら、究極体同士の激突の余波だけで軽く死ねるからな。今だって香織が必死に障壁張ってんだろ」
「………………黒騎は俺達を護るために攻撃を受けているのか………!」
光輝が納得したような口振りでそう言う。
だけど、
「バッカじゃないの………? 自惚れないで………!」
優花がその言葉を否定した。
光輝達が驚いたように優花の方を向く。
「大士が護ろうとしているのは私や葵、リュウダモンに南雲達『仲間』。そしてクルモンに雫…………後、ギリギリメルド団長って所かしら? 後は同じ場所に居るから護ってるだけの『ついで』よ」
「「「「「なっ!?」」」」」
「何だよそれ!? ひでえじゃねえか!?」
「俺達は仲間じゃないのか!?」
優花の言葉にクラスメイト達から非難の声が広がる。
でも、
「仲間…………? ハッ、笑わせないで」
優花はそれを鼻で笑った。
「大士は聖人君子じゃない。嫌な事は普通に嫌がるし、恨みもするわ。あなた達は、大士にどんな仕打ちをしたか忘れたとは言わせないわよ…………!」
「そ、それは黒騎の奴が…………!」
光輝はこの後に及んで黒騎君を悪者に仕立てようとする。
「大士が何? 未だに迷宮で皆が罠にはまったのは大士の所為って言いたいの?」
「じ、実際にその通りだろう!?」
「ふ~ん…………ま、如何でもいい事だけど」
優花はそう言って光輝から興味を失ったように顔を逸らした。
ただ、その表情には侮蔑が浮かんでいる。
優花が戦いの場に視線を移す。
私もつられてそちらを見ると、
「ダブルインパクト!!」
ベルゼブモンと呼ばれた黒い仮面のデジモンが両手にショットガンを持ってデビタマモンと呼ばれたデジモンに乱射する。
デビタマモンは手足と頭を引っ込めると、卵の殻の中に閉じこもった。
ベルゼブモンの銃弾はその卵の殻の前に弾かれる。
「チッ! かてぇ奴だ!」
ベルゼブモンはショットガンをホルスターにしまうと両手の爪を構える。
そのまま直接飛び掛かり、
「ダークネスクロウ!!」
その爪で引き裂かんと腕を振るう。
ガキィという金属音の様な音がして、その一撃は卵の殻に傷を付けるだけに留まる。
その時、
「ブラックデスクラウド!」
頭だけを出したデビタマモンは口から黒い霧のような物を吐き出す。
「ッ………!? っと!」
ベルゼブモンは咄嗟に飛び退く。
すると、その黒い霧が触れた岩が、まるで
分解される様に消えてしまった。
「チッ、こんな所でデススリンガーをぶっ放す訳にもいかねえからな…………負ける気はしねえが時間がかかりそうだ…………!」
防御重視と思われる敵を相手にベルゼブモンはそう零した。
あれから暫く戦い続けているが、戦いは膠着状態に陥っていた。
どちらも決定打を持たず、一進一退の攻防を続けている。
すると、
「まさかこいつらを相手にここまで粘るなんてね…………!」
魔人族の女も予想外だったのかそう零す。
でも、魔人族の女は私達に視線を向けるとニヤリと笑った。
「でも、こちらにはまだ切り札が残っているのさ!」
そう言って目を光らせると、突如として私達の後ろの壁が爆散した。
「ッ!?」
私達が振り向くと、壁を破壊し、金色の鎧を纏った馬と鎧武者が融合したようなデジモンが現れた。
「このデジモンは………ッ!」
葵が切羽詰まった声で叫ぶ。
すると、手に持っていた携帯機器に相手の情報を表示させた。
「ザンバモン 究極体 ウィルス種 魔人型デジモン。必殺技は『十文字斬り』と『打首獄門』……………やっぱりこいつも究極体………!」
「皆っ………!」
これにはアルファモンも予想外だったのか、焦った声を漏らす。
「クッ!」
しかし、目の前のピノッキモンの繰り出す攻撃を放っておくわけにはいかない。
その時、
「アルファモン! こっちは何とか持たせるから、そっちは相手に集中して!」
葵がそう叫ぶ。
「葵っ! くっ! なるべく早く応援に向かう! 何とか頑張ってくれ!」
アルファモンはそう叫ぶと自分の戦いに集中する。
「…………リュウダモン、相手は究極体だけど………いける?」
「元より覚悟の上。退く訳にはいかぬ!」
リュウダモンはそう言って前に出ると、香織が器用にも障壁の一部を解除し、リュウダモンがそこから外へ出る。
そして葵が1枚のカードを取り出し、携帯機器にそのカードを通していく。
「カードスラッシュ!」
その時、そのカードが青く輝く。
「マトリックスエボリューション!!」
――MATRIX
EVOLUTION――
そのカードを通した瞬間、携帯機器から光が放たれる。
その光と共にリュウダモンも光に包まれ、
「リュウダモン進化!」
リュウダモンがその光の中で大きくなり、姿を変える。
「ヒシャリュウモン!!」
光の中から現れたのは、鎧を纏った龍。
その龍は空中を泳ぐ様に進み、空中からザンバモンを見下ろす。
「頑張って! ヒシャリュウモン!」
葵の声援にヒシャリュウモンは目付きを鋭くすると、
「縦横車!!」
ヒシャリュウモンがザンバモンの周囲を駆け巡りながらザンバモンへ無数の攻撃を加えていく。
しかし、ザンバモンはその攻撃を意に介さず、左手の刀を振りかぶると、
「フン!」
「ぐぅっ!?」
そこまで力の入って無さそうな一振りでヒシャリュウモンの攻撃を全て跳ね返し、ヒシャリュウモンを吹き飛ばした。
すると、ザンバモンが左手の刀を再び振りかぶり、
「いけない! カードスラッシュ!」
葵は嫌な予感を感じたのかまた1枚のカードをスラッシュした。
その直後、
「十文字斬り!!」
おそらく一瞬で2回振ったのだろう十字の斬撃が飛んでくる。
「防御プラグインG!」
そのカードを通した瞬間、ヒシャリュウモンが石になったかのように高質化する。
その斬撃がヒシャリュウモンに当たった瞬間、爆発のような衝撃が辺りに伝わる。
「くぅっ!!」
障壁を支える香織が苦しそうな声を漏らす。
すると、その横に金髪の少女が並び、
「私も手伝う……!」
「ユエ………!」
香織の障壁に合わせてユエと呼ばれた少女も障壁を張る。
すると、
「ぐわぁっ!?」
ヒシャリュウモンが吹き飛ばされて地に落ちる。
「ヒシャリュウモン!」
葵が悲痛な声を上げた。
「な、何だよ!? 一方的にやられてるじゃねえか!」
檜山がそんな声を上げる。
その言い方にはムカつくけど、葵のヒシャリュウモンは恐らく完全体。
究極体であるザンバモンとはそのままの意味でレベルが違う。
「くっ! やっぱりデジモンなんかには仲間の命運を任せておけない! 香織! 障壁を解いてくれ! 俺が奴を倒す!!」
光輝が訳わかんない事を叫び出した。
南雲君が圧倒した魔物にやられかけてたのに、その南雲君が勝てないとハッキリと宣言した究極体に勝てると思ってるの!?
でも、香織は光輝の言う事を無視して障壁を張り続ける。
「香織! 頼む! デジモンの様な怪物なんかじゃない。『仲間』である俺を信じてくれ!」
光輝の言葉に香織は目付きを鋭くする。
そして何かを叫ぼうとした瞬間、
「いい加減にして!!」
光輝の後ろから声が響いた。
叫んだのは鈴だ。
「何でそんなにデジモンを悪く言うの!? 葵のデジモンだって、理由は如何あれ、あんなに傷付いても私達を護ってくれてるんだよ!? それを一方的に悪く言うのは絶対に間違ってる!!」
「す、鈴………!?」
突然怒鳴られた光輝は、何故怒鳴られているのか理解できない様だ。
鈴はそのままふらつく足を動かして香織達の横に並ぶと、
「ごめん大士君、葵! 鈴、やっと目が覚めたから! 今更だけど、ホントごめん!!」
鈴はアルファモンの背にそう叫ぶと、
「ここは聖域なりて、神敵を通さず 〝聖絶〟!!」
鈴は香織達の障壁に合わせて新たに障壁を張る。
「へへっ………カオリンたちに比べたら微々たるものかもしれないけど、無いよりはマシだろうから………」
そう笑う鈴に、
「ううん………ありがとう、鈴ちゃん」
香織は優しい笑みを浮かべた。
「な、何やってるんだ!? 鈴まで!」
「光輝、悪いが俺も谷口の意見に賛成だ。少なくとも、今こうして俺達はあいつらのお陰で命を長らえている。ついでだろうが何だろうが、その恩をあだで返す訳にはいかねえ」
永山君もそう言うと、
「黒騎!! 俺はお前を誤解していたようだ! 今更許してくれとは言えん! だがすまなかった!! 少なくともこれは本心だ!!」
それを機に半数以上のクラスメイトがアルファモンの背に向かって謝罪の言葉を叫ぶ。
謝ってないのは、檜山達のグループと光輝。
あとは恵理ぐらいだろう。
その時、
「カードスラッシュ! 強化プラグインW!!」
葵がカードをスラッシュし、
「成龍刃!!」
ヒシャリュウモンがその身を剣と化す。
青いオーラを纏いながら、その剣がザンバモンに斬りかかった。
すると、ザンバモンは、右手の巨大な斬馬刀を振りかぶり、
「打首獄門!!」
それを大きく横に薙ぎ払う。
袈裟懸けに斬りかかるヒシャリュウモンの剣と横薙ぎに薙ぎ払われるザンバモンの斬馬刀がぶつかり合った。
その結果は…………………
「ぐわぁあああああああああああああああっ!?」
ヒシャリュウモンが打ち負け、大きく吹き飛ばされながら光に包まれ、リュウダモンに退化してしまう。
地面を転がるリュウダモン。
「リュウダモン!!」
葵が悲痛な声で叫ぶ。
「や、やられた!」
檜山が絶望的な声を上げる。
すると、
「香織! お願い!」
葵が振り向いて香織に呼びかけた。
「ッ………!」
香織は一瞬躊躇すると、葵の前の障壁を一部だけ解除した。
「リュウダモン!」
葵は躊躇することなくそこからリュウダモンに向かって駆けていく。
すると、
「クルッ! クルッ! クルッ!」
クルモンが葵を追いかけて障壁の外に出てしまった。
「あっ、クルモン!」
私は呼びかけるけどその前に障壁が閉じてしまう。
「なっ!? 神代さん!? 何やってるんだ、香織!? 神代さんをデジモンと一緒に心中させるつもりか!?」
「黙って光輝君! 葵ちゃんとリュウダモン君の絆を知らないあなたが口を出さないで!」
香織が厳しい口調で光輝を非難した。
「か、香織………?」
光輝が香織に非難された事が信じられなかったのか、呆然となる。
葵がリュウダモンの所に辿り着くと、
「リュウダモン! しっかりして!」
葵がリュウダモンを抱き起こす。
「うぐぐ………す、すまない葵…………某だけでは勝てなかった………」
すると、リュウダモンはゆっくりと起き上がり、ザンバモンを見据える。
「葵………某だけでは奴に勝てん…………だから頼む。某と一緒に戦ってくれ………! 大士とドルモンの様に………!」
「えっ………! で、でも…………」
「葵………某は葵を信じている………葵も某を信じてくれ………!」
「リュウダモン…………」
その時、2人の下にクルモンが飛んでいく。
「クルックル! 大丈夫でクル!」
クルモンが葵に向かって話しかける。
「クルモン………」
「葵なら、きっと大丈夫でクル!」
クルモンは笑顔のまま続ける。
「葵は大士やタカト達と同じであったかいでクル! だから、大丈夫でクル!」
「クルモン………」
何の変哲もない言葉だけど、その言葉は確かに葵に届いたようだ。
葵の表情から迷いが消える。
「一緒に戦ってくれ! 葵!」
「うんっ!」
「クルックル~!」
その2人の姿にクルモンが嬉しそうに飛び回る。
その時、クルモンの額のマークが輝いている気がした。
それと共に、葵とリュウダモンを囲う様に光の輪が地面から溢れ出した。
葵はリュウダモンと共に立ち上がり、ザンバモンを見据える。
「見せてあげよう! 私達の究極進化を!」
「承知!」
その瞬間、光が溢れた。
――MATRIX
EVOLUTION――
「マトリックスエボリューション!!」
葵が輝くDアークを胸に押し付けると光に包まれ、リュウダモンと一つになる。
「リュウダモン進化!」
リュウダモンの腕が分解され、大刀を持つ腕として再構築される。
リュウダモンの足が分解され、鋭い爪を持つ足として再構築される。
リュウダモンの胴が分解され、長大な尾を持つ龍の身体として再構築される。
リュウダモンの頭部が分解され、葵の揺るぎない覚悟を持った瞳を持つ和風の兜を被った龍の頭部として再構築される。
それは、威風堂々とした和風の鎧を身にまとい、両腕に刀を持つ武者竜。
「オウリュウモン!!」
光の中から現れたのは、2本の大刀と刃の翼を持ち、和風の鎧を身に纏った黄土色の龍だった。
頭部から尾の先までは約10mほど。
ヒシャリュウモンとさほど変わらない体躯だけど、そこから感じる威圧感はその比では無い。
『これが………私達の進化………』
そのオウリュウモンから葵の声が聞こえた。
「葵!」
私はそのオウリュウモンに呼びかける。
すると、オウリュウモンがこちらを見下ろし、
『雫………皆……! 任せて! 今度は負けないから!』
葵の声がそう言うと、オウリュウモンはザンバモンを見据える。
『行くよ! オウリュウモン!』
「心得た!」
オウリュウモンが両腕の大刀を構える。
それに対し、ザンバモンも得物を構える。
一瞬の静寂の後、
「おおおおおおおおおおっ!!」
オウリュウモンが空中から急降下して両手の大刀を振り下ろす。
ザンバモンは斬馬刀を横に構えてその2つの大刀を受け止める。
その瞬間、ザンバモンの足元が大きく陥没。
それと共に衝撃が辺りを揺るがす。
「くぅぅぅぅっ!!」
「………くっ!」
「このぉぉぉぉっ! まけるもんかぁぁぁぁぁぁっ!!」
香織、ユエ、鈴の3人が必死に障壁を支える。
ザンバモンがギリギリ耐えつつ斬馬刀を振り上げてオウリュウモンを押し返す。
オウリュウモンはその勢いに逆らわずに後ろに下がった。
すると、ザンバモンが左手の刀を構え、
「十文字斬り!!」
十字の斬撃を飛ばした。
しかし、オウリュウモンは両腕の大刀を交差させるように振りかぶると、
「ふんっ!」
オウリュウモンがX字に剣を振り、その斬撃を掻き消した。
「ッ!?」
それにはザンバモンも動揺した素振りを見せる。
すると、オウリュウモンは剣を交差させると、それにエネルギーを集中させる。
そして、一気にザンバモンに斬りかかった。
「永世竜王刃!!」
「打首獄門!!」
2本の大刀と斬馬刀がぶつかり合う。
一瞬拮抗したかに思えたけど、ビキリッとザンバモンの斬馬刀に罅が入った。
その瞬間、
「『はぁあああああああああああああああああああっ!!!』」
オウリュウモンと葵の声が重なり、大刀が更なる輝きを放つ。
その瞬間、ザンバモンの斬馬刀が耐え切れずに圧し折れ、大刀の斬撃がそのままザンバモンを切り裂いた。
「………………………見事!」
ザンバモンはそう言い残し、潔く消滅した。
すると、
「そ、そんな………奴が負けるなんて…………!」
魔人族の女が動揺する。
そしてそれは同時に、一瞬だけどデジモン達の気も引いたようだ。
動きの止まったデビタマモンの口の中に、ベルゼブモンが銃を腕ごと突っ込む。
「終わりだ!」
銃弾が放たれ、内部を直接撃ち抜かれたデビタマモンは消滅する。
更に、アルファモンが右手を突き出して魔法陣を展開。
そこに光が集中し、
「聖剣グレイダルファー!!」
魔法陣の中央から光の剣が飛び出し、それがピノッキモンを貫いた。
「あああああああああああああっ!?」
光の剣に貫かれたピノッキモンも消滅する。
「……………………」
それを見届けたアルファモンは光に包まれて大士とドルモンに分離し、ベルゼブモンもインプモンへと戻る。
そのまま私達の所に歩いてくると、大士はオウリュウモンを見上げた。
「オウリュウモン………か」
大士はDアークを取り出してデータを表示させる。
「オウリュウモン 究極体 ワクチン種 獣竜型デジモン。必殺技は『永世竜王刃』と『黄鎧』………………やったな、葵」
大士はオウリュウモンを見上げて笑みを浮かべる。
『うん! これで私も足手纏いにならなくて済むよ!』
葵は嬉しそうにそう言う。
すると、機を伺っていたのか、魔人族の女が出口に向かって逃げ出そうとする。
でも、
「おっと、ここは通行止めだ」
いつの間にか南雲君が逃げ道を塞いでいた。
そして、再び彼女に銃口を向けると、
「さて、さっきの続きだ。魔人族がこんな場所で何をしていたのか……それと、あの魔物を何処で手に入れたのか……吐いてもらおうか?」
「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」
南雲君はその言葉を聞くと銃口を少し下げ、ドンドンッと2発発砲する。
「あがぁあ!!」
魔人族の女は足を撃ち抜かれ、その場に倒れ込む。
「人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」
「……」
痛みを我慢しているのか歯を食いしばり、沈黙を続ける彼女。
その容赦のない南雲君の行為に、クラスメイトの何人かは息を呑んでいた。
「ま、大体の予想はつく。ここに来たのは、〝本当の大迷宮〟を攻略するためだろ?」
本当の迷宮?
私は何の事か意味が分からなかったけど、魔人族の女が南雲君の言葉に眉をピクリと動かした。
その様子をつぶさに観察しながら南雲君は話を続ける。
「あの魔物達は、神代魔法の産物……図星みたいだな。なるほど、魔人族側の変化は大迷宮攻略によって魔物の使役に関する神代魔法を手に入れたからか……とすると、魔人族側は勇者達の調査・勧誘と並行して大迷宮攻略に動いているわけか……」
「どうして……まさか……」
南雲君の言葉に彼女は図星を突かれたかのように動揺の言葉を零す。
「なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……」
「あの方……ね。魔物は攻略者からの賜り物ってわけか……」
南雲君は聞きたいことは聞き終えたと言わんばかりに銃を構えなおす。
「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」
その言葉。
その事実に光輝は彼女を『殺す』事を躊躇った。
けど、南雲君は不敵に笑うと、
「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かない」
光輝には無い確かな『覚悟』を持って引き金に指をかける。
でもその時、大声で静止がかかった。
「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」
「……」
南雲君は彼女越しに光輝を見る。
その表情は『何言ってるんだコイツ?』と言っているようだった。
「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」
でも、南雲君は聞く価値が無いとばかりに視線を戻すと、躊躇無く引き金を引いた。
一発の銃声と共に、魔人族の女の額に穴が開き、その命を刈り取る。
力無く横たわる彼女と、地面に広がる血だまりがそれを物語っていた。
【Side Out】
第26話です。
またまた色々詰め込みまくった結果長くなりました。
ハジメ達の無双の回とオウリュウモン初登場の回です。
まあ、色々やらかした感じが無い訳でもない。
四聖獣から力を受け取ってた大士はともかく、何で葵が融合進化出来たのかは…………クルモンの不思議な進化パワーって事にしといてください。
まあジャスティモンもドーベルモンが傍に居なくても究極体に進化してたからまあいいよね?
次回は事後処理みたいな感じ。
お楽しみに。