【Side 優花】
「う……………」
私の意識が覚醒する。
目を開けた私の視界に入ったのは、見慣れない天井だった。
「……………こういう時に、『知らない天井だ』って言うのがお約束だったかしら?」
確か鈴とかもそう言ってた筈…………
私はゆっくりと体を起こす。
私はある一室のベッドの上に寝かされていた。
「確か私は南雲を庇って…………」
気を失う前の事を思い出す。
「…………何とか神水を飲んだところまでは覚えてるけど………」
その後に気を失ったようね。
そう思っていると、扉が開いて香織が入って来た。
「あっ! 優花ちゃん! 目が覚めたんだね…………!」
香織はホッとしたように笑みを向けてきた。
「うん…………私、どのくらい眠ってた? 迷宮の攻略や静因石は?」
私は気になった事を問いかける。
「えっと…………まず迷宮の攻略はちゃんと出来たよ。優花ちゃんにも新しい神代魔法が追加されてると思う」
そう言われてステータスプレートを見ると、香織の言う通り『空間魔法』というものが追加されていた。
「それで優花ちゃんが眠っていたのはほぼ丸1日…………ここに運ばれてきた時は酷い火傷で吃驚しちゃった」
そう言われるけど、私の肌には火傷の痕どころかシミ一つ無い。
「そう…………ありがとう香織。助けられたみたいね」
「そ、そんな! むしろお礼を言うのはこっちだよ! ハジメ君を助けてくれてありがとう」
香織は慌ててそう言うと私に向かって頭を下げる。
「別にそこまで頭を下げなくてもいいわよ。『仲間』なんだしね。その位は当然よ」
私はそう言う。
「静因石は皆で手分けして患者さんたちに配ってる。重傷者は昨日までに私が殆ど処置したから、後はこの国の人達で如何にかなると思う」
香織はそこまで言うと何故か俯いた。
「…………どうしたの?」
気になった私が尋ねると、
「あ、あの…………優花ちゃん…………落ち着いて聞いてね…………」
香織はとても言いにくそうな表情でそう口にすると、
「……………………黒騎君とドルモン君が……………行方不明なの…………」
「……………………………………え?」
私は、一瞬香織が何言ってるか分からなかった。
「今…………何て………?」
「…………黒騎君とドルモン君が、行方不明なの…………」
再度問いかけても答えは変わらない。
「それ………どういう…………?」
私は落ち着こうとするけど声が震える。
「魔人族と一緒に、強力なデジモンが現れたらしくて…………葵ちゃんとリュウダモン君に優花ちゃんやハジメ君達を脱出させるように言って、黒騎君とドルモン君が足止めとして残ったらしいの……………その後、火山が丸ごと吹き飛ぶような大爆発が起きて、葵ちゃん達は戻って来たけど、黒騎君とドルモン君はまだ…………」
「そ………んな……………!」
私は身体中から力が抜けるのを感じる。
「で、でも今ハジメ君達が探しに言ってるから、きっと手掛かりが…………!」
香織がそう言った所で、扉が開いて南雲と葵、リュウダモンが入って来た。
葵は私が起きていることに気付くと、
「ッ………優花!」
涙を浮かべながら私に駆け寄り、私の手を握った。
「ごめんっ…………大士が…………大士がぁ…………!」
葵は涙を流しながら私の前に崩れ落ちた。
「葵………………」
すると、
「ハジメ君………黒騎君は………?」
香織は恐る恐るそう聞くと、南雲は首を横に振り、
「見つからなかった…………手掛かりも何も…………」
そう呟く。
「そう…………」
私はそれを聞いて葵にし視線を戻す。
葵からはまだ嗚咽が聞こえてくる。
「………………ねえ、葵」
私は優花に声を掛けた。
「ッ…………? 優花…………?」
葵は涙を流したまま顔を上げる。
「大士………何か言ってなかった?」
私はそう聞く。
すると、
「…………『お前達を残して死ぬ気なんて更々無い。必ず後で追いつく』って…………」
「…………そう。なら、その言葉を信じましょ? 大士は誤魔化す事はあっても出来ないことを出来るなんて嘘は吐かないわ」
「…………優花」
私の手を握る葵の手に少し力が戻る。
「………うん…………そうだね…………! 大士が死ぬわけないよね………!」
「そうよ。この指輪まで渡したのよ。こんな可愛いお嫁さんを残して大士が死ぬわけないでしょ?」
葵の手を取ってその指輪を見えるようにする。
「ふふっ…………そうだね。でもちょっと訂正するね」
「訂正?」
「可愛いお嫁さん、じゃなくて、こんな綺麗で可愛い『2人』のお嫁さん達…………だよ?」
葵はそう言って私に微笑みかけてくる。
私はおかしくなって少し笑ってしまった。
その時、
「……………あ」
南雲が突然声を漏らした。
私達が振り向くと、南雲は気まずそうな顔をしていた。
「どうしたの? ハジメ君」
香織が南雲に訊ねると、南雲は気まずそうな表情のまま、
「あ~………その………な………今思い出したんが…………お前らの持ってるその指輪、お互いの指輪の位置が分かる付与がしてあったわ」
「「「………………」」」
その言葉に、私、葵、香織の3人が思わず沈黙する。
「…………それってつまり、迷宮の跡地であんなに必死に探さなくても大士の居場所が分かったってこと?」
葵がそう言うと、南雲が顔を逸らす。
私と葵は思わず南雲をジト目で睨んでしまった。
「いや、その…………すまん………」
南雲は悪いと自覚しているのか素直に謝った。
「で? それは如何すればいいの?」
私は使い方を尋ねる。
「普通に魔力を込めればいい。そうすりゃ光が指し示してくれるはずだ」
南雲の言う通り、私は指輪に魔力を込めてみる。
すると、指輪から2本の光が放たれた。
その内1本はすぐ隣にいる葵の指輪へ。
もう1本は窓の外のある方向を指している。
でも、その方向はグリューエン大火山の跡地の方じゃない。
「……………この方角は…………エリセンの方か?」
南雲がそう呟く。
「どうして黒騎君がエリセンに?」
香織が呟く。
「まあ、そっちの方向にいるってだけで、エリセンに居ると決まった訳じゃない。もしかしたら。あの爆発で遠くに吹き飛ばされたのかもな」
南雲はそう言う。
「で、でも、大士は無事なんだよね!?」
葵がそんな事は如何でもいいと問いかける。
「まあ、少なくとも指輪が原型留めてるのは確かだ。もし壊れてれば反応しない筈だからな」
南雲の言葉に私の中に希望が生まれる。
「南雲!」
私は思わず彼に叫んでしまう。
「わかってるよ。どっちにしろエリセンにはミュウを連れてかなきゃいけないんだ。少し出発が早まるだけだ」
南雲はそう言うと背を向け、
「仲間と領主に事情を説明してくる。お前達は準備をしておけ」
南雲はそう言って部屋を出て行った。
私は指輪から放たれる光を目で追い、
「大士…………どうか無事でいて…………」
祈るようにそう呟いたのだった。
【Side Out】
デュナスモンのブレス・オブ・ワイバーンを何とか相殺した俺とドルモン。
そんな俺達は現在…………
大海原のド真ん中で漂流していた。
…………何故火山の火の海で戦っていた俺達が大海原で漂流しているのかと言えば、まず、ブレス・オブ・ワイバーンが爆発した瞬間、
そのお陰でかなりダメージは負ったが生き残ることは出来た。
しかし、爆発の衝撃で
おそらく音速を超えたスピードで吹き飛ばされた俺はやがて海面に激突。
その衝撃も結構な物だったが、流石は究極体と言うべきか、大したダメージは受けなかった。
序に言えば、餌が落ちてきたのかと思ったのか、クラーケンと呼べそうな魔物や、サメ型の魔物など、多くの魔物に襲われつつも返り討ちにした
進化の限界ギリギリだったドルモンは疲れ切っており、俺もへばっている。
そのまま海の流れに身を任せ、大海原を漂っていたのだが、
「おえっ………気持ち悪っ…………」
「大丈夫? 大士…………」
馬車ですら酔った俺はものの見事に船酔いになっていた。
背中を摩るドルモン。
進化しひとっ飛びと行きたいところだが、生憎俺は宝物庫なんて便利な物は持っておらず、食料どころか水すらない。
ドルモンのエネルギーを回復させられないために進化も出来ないのだ。
そのまま漂流すること2日。
船酔いには何とか慣れてきたが、今度は空腹と喉の渇きで厳しい。
人間は飲まず食わずで平均72時間が限度だった筈…………
しかも俺は結構吐いてるからもっと短いかも…………
ドルモンはデジモンだけあって人間よりも丈夫みたいだからもう少し持ちそうだけど。
しかしどうすることも出来ないのでそのまま漂い続けていると、突然船の周りからザバッと水飛沫が上がった。
それは3股の槍………所謂トライデントと呼ばれる槍を持ったエメラルドグリーンの髪と、ヒレの様な耳を持ったミュウと共通の特徴を持った人間が20人ほどが出てきた。
おそらく海人族だろう。
すると、俺の正面にいた1人が矛先を向けてきた。
「お前は何者だ? なぜ、ここにいる?」
そう質問………と言うか尋問してきたので、
「単なる漂流者です。助けてください」
俺は正直にそう言う。
しかし海人族の男達は警戒を解かず、
「騙されんぞ! そうやって近付き、あの子を攫ったのだろう!?」
「そうやって、あの子も攫ったのか? また、我らの子を攫いに来たのか!」
何かものすっごい敵意を向けられてるんですが?
って、さっきから言ってる『あの子』ってもしかして、
「あの~、今言った『あの子』って、もしかして『ミュウ』って名前ですか?」
俺がそう言った瞬間、男達の目の色が明らかに変わった。
「おのれ! やはりミュウちゃんを攫った一味か!!」
「語るに落ちたな誘拐犯め!!」
何か盛大に勘違いしているんですが!
「いや、俺は………」
「黙れ!! 手足を切り落としてでも、あの子の居場所を吐かせてやる!」
「安心しろ。王国に引き渡すまで生かしてやる。状態は保障しないがな」
弁明する間も与えてくれないんですが。
このままだと問答無用で襲ってきそうだったので、
「分かった分かった。抵抗しないから手荒な真似は止めてくれ。ただ、こっちは丸2日飲まず食わずなんだ。せめて水だけは恵んでくれ。ドルモンも暴れるなよ」
「でも…………」
「もしかしたら、コイツらはミュウの近所のおじさんたちかもしれないし」
「あ、うん………」
俺は手を挙げて無抵抗の意を示し、ドルモンにも暴れないように言う。
「ふん、潔いな! だが、その程度で貴様の罪が許されると思うなよ!」
罪も何も冤罪だっての。
つーかまた冤罪かよ!
2度目の冤罪事件に俺は溜息を吐くのだった。
俺は手を後ろで縛られ、更に足も縛られて船に寝っ転が差れて連行されていた。
一緒に居たドルモンも如何いう判断を下すか迷っていたようだが、同じく縛られて連行されている。
一応道すがらこれまでの経緯を話してみたが、やはり全く信じてはくれなかった。
やがて海上に浮かぶ都市、『エリセン』に到着すると、俺は船からつまみ出され、桟橋に投げ捨てるように転がされた。
「んがっ………!?」
その際に頭を打ち、痛みから声を漏らす。
すると、
「おおーい! 朗報だ! ミュウちゃんを攫った犯人を捕まえたぞ!!」
俺を捕らえた隊のリーダーと思われる海人族の男が声を上げる。
「だから違うっての!! ミュウは、仲間がフューレンのギルド支部長から直接依頼を受けてエリセンに送還してる最中で、今は仲間と一緒にアンカジに居るから確認してくれって!!」
「黙れ! そんな嘘で逃れられると思うなよ!!」
「だから嘘かどうか人員を送れば済むことだろ!?」
「嘘と分かっている事に確認など必要ない!!」
あ~も~。
さっきからこればっかで取り付く島もない。
すると、完全武装した海人族の兵士が詰めかけてくる。
「だーかーらー…………!」
「黙れっ!!」
「ぐっ!?」
「大士!?」
俺が何とか話を聞いてもらおうと口を開いたが、トライデントの石突で頬を殴られる。
「無駄口を叩くな! 質問だけに答えろ! ミュウちゃんは何処だ!?」
「さっきから言ってるように仲間と一緒にアンカジにいるって!」
「まだ言うか!」
「ぐふっ!?」
腹を蹴られる。
「貴様たちの組織の人員は!?」
「それは誤解だって!」
「ふん!」
「ぐっ!?」
頭を踏みつけられる。
「組織の本拠地は!?」
「ミュウを攫った組織ならもう潰れてる!」
「出鱈目を!」
「がっ!?」
「大士ぃっ!」
ドルモンが叫ぶ。
やべっ、空腹と乾きで目が霞んできた…………
痛みで身体に力が入らず、視線が空へと向く。
「ええい! 埒が明かん! 腕一本ぐらい落とせば素直になるだろう!?」
その男はトライデントを振りかぶる。
流石にそれはやり過ぎだと思ったのか、周りの者が止めようとする。
俺は意識が朦朧として、その騒動を他人事のように聞きながら、ボーっと空を眺めていた。
すると、空に黒い点が見えた。
そして、その点はどんどん大きくなる。
俺は意識が落ちてきているのかと思ったが、その黒い点がやがてはっきりしてくる。
それは点ではなく人影だ。
その人影は一直線にこちらに向かって来る。
そこで俺は一気に意識が覚醒した。
その瞬間、バキャァッ、と音を立てて、トライデントを振りかぶっていた男の顔に足の裏が突き刺さった。
その男はそのまま吹き飛び、海面を水きりの石の様に何回もバウンドすると、その先にあった別の桟橋にぶつかり、粉砕すると共に止まった。
その男は土左衛門の様に背中を海面から出してぷかぷかと浮かんでいる。
「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」
突然の事に、俺を捕らえた隊や、海人族の兵士達も固まる。
空から落ちて来てダイレクトでリーダー格の男を蹴り飛ばしスタッと俺の目の前に降りたのは、
「………優花!?」
紛れもなく優花だった。
しかし、その表情は怒りに彩られている。
「あんた達…………大士に何してたの…………!?」
優花は睨むように海人族の兵士達を見回す。
正気に戻ったのか慌てて槍を構えようとする兵士達。
だが、その瞬間兵士達に強烈な〝威圧〟が襲い掛かった。
優花の〝威圧〟だ。
そしてその直後、空から強烈な風が吹いてきた。
見れば、黒竜となったティオが羽搏きながら降下してきている。
「ド、ドラゴン………!?」
兵士達に動揺が広がる。
しかし、その背からミュウを抱いたハジメが飛び降りてきた。
「なっ!? ミュ、ミュウちゃん!?」
海人族の兵士が驚いた声を上げた。
ハジメはスタッと桟橋に着地すると、海人族の兵士の隊長らしき者に自分のステータスプレートとイルワ支部長からの依頼書を提示した。
「な……なになに……〝金〟ランクだとっ!? しかも、フューレン支部長の指名依頼!?」
その言葉に兵士達がざわつく。
イルワの依頼書の他に、ハジメは事の経緯が書かれた手紙も提出した。
これはエリセンの町長と目の前の駐在兵士のトップに宛てられたものだ。
「……依頼の完了を承認する。南雲殿」
「他にも色々聞きたいことはあるんだろうが、こっちはこっちで忙しい。というわけで何も聞かないでくれ……一先ず、この子と母親を会わせたい………と言いたい所だがその前に確認したいことがある…………」
「な、何かな………?」
少し〝威圧〟を込めながら隊長に語り掛ける。
「そこに居る奴は俺らの仲間なんだが……………どうしてあそこまでボロボロなんだ………!?」
「おじちゃん、怪我してるの!」
ミュウも便乗して問いかける。
「そ、それは…………!」
「いや、ボロボロなのは別に不思議じゃねえ。数日前に激しい戦いを繰り広げたんだ。無傷って言う方が信じられん。だがな、あいつに顔にある傷は明らかに新しい傷だ。それもついさっき付けられたような………な?」
「ひぇっ………!?」
「さて、どういう事か説明してもらおうか………!?」
強くなった〝威圧〟に隊長はガタガタと体を震わせる。
「そ、それは何と言いますか…………お互いの認識の相違があり…………」
「何言ってんだよ………? 俺の話を信じずに一方的に暴力振るって来たのはそっちだろ?」
俺の説明にハジメは目をギラつかせる。
「ほぉ………? つまりお前達は俺らの仲間の言葉を全く信じずに、冤罪で暴力を振るったと…………?」
「そ、それについては謝罪する! 賠償金を払ってもいい! しかし、こちらもその子を攫われて気が立っていたのだ! それだけは分かって欲しい!」
「……………で? こう言ってるがどうするよ?」
ハジメはそう言って俺に問いかけてくる。
「……………………まあ、ミュウが攫われて気が立っていたって言うのは分からんでもないから賠償金はいらん。ただ……………」
「ただ?」
「俺を捕まえた奴らは黙って一発ずつ殴られろ! それで手打ちだ!」
気持ちはわからんでもないが、こちらも冤罪で拘束された上に身動きできない状態で殴る蹴るの暴行を受けたのだ。
何もなしで許す気は無い。
俺を捕らえた男達も顔を見合わせたが、まあ一発ぐらいならという事で納得していただけた。
俺を捕らえた隊の先程蹴飛ばされたリーダー格の男を除き、約20名が桟橋に並ぶ。
その姿は後ろで手を組んで堂々としており、さあ来るが良いと言わんばかりだ。
なので俺は、
「じゃ、優花任せた!」
「了解よ!」
「「「「「「「「「「へっ?」」」」」」」」」」
俺がそう言った瞬間、並んだ男達が声を漏らした。
その瞬間、一番端の男が優花に殴り飛ばされ、2、3回水面をバウンドして海面に大きく水柱を上げる。
「俺は黙って殴ら“れろ”とは言ったが、殴ら“せろ”とは言ってない。つーわけでお前らは黙って優花に殴られろ」
吹き飛んだ1人目は、リーダー格と同じように土座衛門状態だ。
残りのメンバーがサーッと顔を青くする。
それから大よそ一分弱、打撃音が連続で鳴り響くのだった。
一分後、漏れなく全員土座衛門となった男達を他所に、俺は白崎さんの治癒魔法で回復して貰いながら水を飲んでいた。
「あ~~~……………生き返る~~~~…………!」
傍らではドルモンが同じように水を飲んでいる。
と、その時、背中に衝撃がかかる。
見れば、葵が泣きながら背中に縋り付いていた。
「………バカ………! とっても心配したんだから…………!」
その言葉で、俺は泣かせるほど心配かけてしまったのかと罪悪感を感じた。
「悪い………心配かけた…………けど、ちゃんと生きて戻ってきたから」
そのまま背中に縋り付くように泣き出す葵。
すると、目の前に優花が歩み寄ってきて、
「………優花も心配かけて済まなかった…………でも………ッ!?」
その瞬間、パンッと頬に痛みが走った。
優花から平手で叩かれたのだ。
「バカッ………! ホントに無茶な事して…………! 万一のことがあったらどうするつもりなの!?」
「本当に悪いとは思ってる…………でも、危険を冒してでも俺はお前達を護りたかった…………それだけは分かってくれ………」
「…………………分かりたくないわよ、そんな事………!」
俺の言葉に、優花は思い掛けない言葉を返してきた。
「大士が私や葵を大切に想ってくれてることは嬉しい………! けどね、私や葵も大士の事を同じぐらい大切に想ってるの………! あなたが居なくなることなんて、考えたくも無いの………!」
優花は涙を浮かべながらそう言ってくる。
「だからもう…………私達の前から居なくならないで………………!」
「優花…………わかった。約束する」
俺は、彼女達を泣かせないことを心に誓った。
すると、背中の葵が俺からそっと離れると、膝を着いてドルモンに目線を合わせ、
「ドルモンも無事でよかった…………もうあんな無茶しちゃだめだからね」
「ごめんなさい………」
シュンと大人しくなるドルモン。
葵はそのままドルモンを軽くギュッと抱きしめた。
「パパ、パパ。お家に帰るの。ママが待ってるの! ママに会いたいの」
「そうだな……早く、会いに行こう」
ミュウがそう言いながらハジメの手を引っ張って急かす。
そこで、俺はそう言えばと連行中に海人族の男達から聞いた話を思い出した。
「ハジメ、どうやらミュウの母親だが、誘拐犯にかなり酷い怪我を負わさられたらしい。今は歩くことも泳ぐことも出来ないそうだ…………」
俺はミュウに聞こえないように小声でそう言う。
「そうか…………ま、心配いらねえだろ。こっちには香織が居るし、最悪は神水を使えば問題ない」
「それもそうか…………」
そんな会話をしていると、通りの先で騒ぎが聞こえだした。
若い女の声と、数人の男女の声だ。
「レミア、落ち着くんだ! その足じゃ無理だ!」
「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」
「いやよ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら、私が行かないと! 迎えに行ってあげないと!」
どうやら、家を飛び出そうとしている女性を、数人の男女が抑えているようである。
話の流れからしてミュウの母親だろう。
すると、ミュウが顔を輝かせ、とある建物の玄関口で倒れ込んでいる20代半ば程の女性に向かって、精一杯大きな声で呼びかけながら駆け出した。
「ママーー!!」
「ッ!? ミュウ!? ミュウ!」
ミュウは、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちているレミアと呼ばれていた女性の胸元へ満面の笑顔で飛び込んだ。
ミュウを抱きしめるレミアと呼ばれたミュウの母親は、ポロポロと涙を零している。
「大丈夫なの。ママ、ミュウはここにいるの。だから、大丈夫なの」
「ミュウ……」
母親を気に掛けるミュウの姿。
それは、短いながらもハジメ達との交流で培った、ミュウの成長の証だろう。
そんなミュウの姿に、母親であるレミアさんは目をパチクリとさせて驚いていた。
レミアさんはミュウに微笑みかけると再び抱きしめる。
すると、突然ミュウが叫び声を上げた。
「ママ! あし! どうしたの! けがしたの!? いたいの!?」
ミュウの言う通り、彼女のロングスカートから覗いている両足は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。
これが先程聞いた怪我なのだろう。
レミアさんは慌てて大丈夫と伝えようとしたようだが、それよりも早く、
「パパぁ! ママを助けて! ママの足が痛いの!」
「えっ!? ミ、ミュウ? いま、なんて……」
「パパ! はやくぅ!」
「あら? あらら? やっぱり、パパって言ったの? ミュウ、パパって?」
ミュウは世界一頼りにしている『パパ』へと助けを求めた。
因みにそのミュウの言葉を聞いた周りの御近所の人達は、
「レミアが……再婚? そんな……バカナ」
「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね! おめでたいわ!」
「ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……」
「パパ…だと!? 俺のことか!?」
「おい、緊急集会だ! レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ! こりゃあ、荒れるぞ!」
何かとんでもない発言が所々に聞こえていた。
どうやらレミアさんとミュウの母娘は、この街でも相当な人気がある様だ。
そして今もミュウに呼ばれているハジメは、「行きたくねえなぁ」と言わんばかりの表情だ。
「気持ちは察するが早く行け。ミュウが待ってるぞ」
俺はハジメにそう言ってやる。
「パパぁ! はやくぅ! ママをたすけて!」
ミュウの泣きそうな顔に、ハジメは観念して2人に歩み寄った。
「パパ、ママが……」
「大丈夫だ、ミュウ……ちゃんと治る。だから、泣きそうな顔するな」
「はいなの……」
ハジメが泣きそうな表情で振り返るミュウの頭をくしゃくしゃと撫でながら、視線をレミアに向ける。
「悪いが、ちょっと失礼するぞ?」
「え? ッ!? あらら?」
ハジメはレミアさんをヒョイと抱き上げる。
初めて会う未亡人を何の恥じらいも無く抱き上げるハジメを俺は尊敬する。
それが普通にお姫様抱っこな物だから、背後で悲鳴と怒号が上がっていた。
ハジメはナチュラルにそれを無視すると、ミュウに先導されて家の中へと入っていった。
家の中に入ると、ハジメはソファーにレミアさんを降ろし、白崎さんを呼んだ.
「香織、どうだ?」
「ちょっと見てみるね……レミアさん、足に触れますね。痛かったら言って下さい」
「は、はい? えっと、どういう状況なのかしら?」
目まぐるしく変わる事態にレミアさんはついて行けない様だ。
やがて白崎さんの診察が終わると、
「うん、大丈夫。私の治癒魔法で十分治せるよ。念のために明日一日かけて、ゆっくり治そうと思う」
白崎さんの言葉を聞き、
「あらあら、まあまあ。もう、歩けないと思っていましたのに……何とお礼を言えばいいか……」
「ふふ、いいんですよ。ミュウちゃんのお母さんなんですから」
「えっと、そういえば、皆さんは、ミュウとはどのような……それに、その……どうして、ミュウは、貴方のことを〝パパ〟と……」
漸く頭が追いついて来たのか、レミアさんはハジメにそう尋ねた。
ハジメは、事の経緯を説明する。
フューレンでのミュウとの出会いと騒動、そしてパパと呼ぶようになった経緯など。
全てを聞いたレミアさんは、その場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返した。
「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも……」
「………気にするな」
ハジメはそう言うがレミアさんは納得しない。
とりあえず今日の宿を探すかとハジメが言った時、レミアさんはこれ幸いと自宅に泊まることを勧めた。
「どうかせめて、これくらいはさせて下さい。幸い、家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それに、その方がミュウも喜びます。ね? ミュウ? ハジメさん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」
「? パパ、どこかに行くの?」
ミュウは目をパチクリさせて首を傾げる。
ミュウにとって、ハジメが自宅に泊まることは当然の様だ。
「母親の元に送り届けたら、少しずつ距離を取ろうかと思っていたんだが……」
「あらあら、うふふ。パパが、娘から距離を取るなんていけませんよ?」
「いや、それは説明しただろ? 俺達は……」
「いずれ、旅立たれることは承知しています。ですが、だからこそ、お別れの日まで〝パパ〟でいてあげて下さい。距離を取られた挙句、さようならでは……ね?」
「……まぁ、それもそうか……」
「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと〝パパ〟でもいいのですよ? 先程、〝一生かけて〟と言ってしまいましたし……」
その言葉が聞こえた瞬間、ハジメの周りにブリザードが発生する。
白崎さんとユエは元より、シアやティオからの視線も凄まじい。
「そういう冗談はよしてくれ……空気が冷たいだろうが……」
「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし……ミュウもパパ欲しいわよね?」
「ふぇ? パパはパパだよ?」
「うふふ、だそうですよ、パパ?」
白崎さんの背後に両手に刀を持った般若が、ユエの背後に雷を纏った龍が浮かび上がり、レミアさんに向かって威嚇しているが、レミアさんは「あらあら、うふふ」と微笑むだけで、柳に風と受け流している。
凄い胆力だ。
母は強しという奴か?
結局、レミア宅に世話になることになったのだが、俺は葵と優花に両腕を掴まれ、
「折角のご厚意ですが、私達3人は結構です」
「ええ、『色々』煩くしてしまうので………特にお子さんがいるお宅ではよろしくないでしょう………!」
返事も聞かないまま俺は引きずられる様に連れ出されると、宿に連れ込まれた。
簡単に言えば、2人からとても激しく求められました。
搾られるという感覚を初めて知り、一睡も出来ずに朝を迎える事になろうとは思わなかった。
でも一言………
俺は幸せ者です。
第31話です。
皆さま色々予想してましたが原作ハジメの様な立ち位置となりました。
まあ、大人しく捕まりましたけどね。
そして降ってきたのは娘ではなく嫁。
ダイレクトでキックを決めました。
その後はなんやかんやでほぼ原作通り。
最後は敢えて触れない。
次回は海底遺跡攻略。
お楽しみに。