ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第32話 メルジーネ海底遺跡

 

 

 

 

ミュウをレミアさんの元へ送り届けてから3日後。

準備を整えた俺達は大迷宮のある【メルジーネ海底遺跡】へ出発することになった。

ハジメが世話になったレミア宅から出る際、

 

「パパ、いってらっしゃい!」

 

とミュウが叫ぶ。

その表情はもっと傍に居て欲しいが、パパの邪魔はしたくないという我慢をしているように思える。

更に、

 

「いってらっしゃい、あ・な・た♡」

 

と、微笑みながら手を振るレミアさん。

普通に仕事に行く夫を見送る妻と娘だった。

まあその所為で白崎さんやユエ、シア、ティオの視線が絶対零度だったが。

ふと、八重樫さんを見ると、八重樫さんの視線も何か冷たかった気がする。

それからハジメが作った潜水艦に乗り、大海原へ出航した。

大よその位置はミレディに聞いていたので、少し探せば見つかるかと思っていたが、いくら探してもそれらしい遺跡は見つからず、ミレディから聞いた『〝月〟と〝グリューエンの証〟に従え』というヒントに従い、夜を待つことにした。

 

 

日が沈むころ、俺とハジメは甲板に出て夕日を眺めていた。

傍らにはドルモンとリュウダモン。

ドルモンの頭の上にはクルモンが乗っており、その横にはインプモンもいる。

この世界の夕日も地球の夕日と変わりがなく、空がオレンジ色に彩られて美しく思える。

因みに女性陣は船内に備え付けられているシャワールームでシャワーを浴びている。

 

「夕日はこの世界でも変わらねえな…………日本を思い出すぜ」

 

ハジメも同じ事を思っていたのかそう口にする。

 

「だな。そうは言っても、こっちに来てまだ半年も経ってねえけど」

 

「こっちでの日々が濃すぎるんだよ」

 

ハジメが呆れた様にそう言う。

 

「そうだよな………ハジメは順調にハーレム拡大してるし」

 

「ブッ………!? 何言ってやがるテメェ!?」

 

「元々付き合っていた学園アイドルの白崎さんはともかく、金髪ロリッ子吸血鬼でお姫様のユエ。ウサ耳美少女のシア。変態枠で竜人のティオ。んで、娘付き未亡人のレミアさん……………最近は八重樫さんも怪しいとこだぞ? どっからどう見ても異世界系ハーレム主人公だろうが」

 

「ぐっ…………恋人と認めてるのは香織とユエの2人だけだぞ………」

 

「それも時間の問題の様な気がするけどな」

 

「そう言うお前も2人と付き合ってんだろうが………!」

 

「それは否定しないが、俺を好きになる奴はよっぽどのことが無い限り、これ以上居ないと思うぞ」

 

「何でそう言い切るんだよ?」

 

「今までの女性達からの反応を察するに、俺は女性達から『異性として好かれない』星の下に生まれてるみたいなんでな。ある意味『嫌われる』よりきついぞこれ」

 

友達としてならある程度近付けるが、それ以上の関係にはなれない。

最初から嫌われるなら期待しなくても済むが、友達として仲良くなり、それ以上近い関係になろうとすると断られる。

変に期待してしまう分ダメージはデカいだろう。

優花ですら最初は『無い』と思ってぐらいだし。

 

「ホントに何でそうなんだ? 男の俺の視線から見ても、10人女がいれば1人か2人ぐらいは普通に好感持ちそうなんだが………少なくとも扱いが雑な俺よりも」

 

いや、お前の場合は色々と特殊だからな。

ベタな出会いと突拍子の無い出会いに奇跡的に遭遇しまくってるだけだぞ。

あと、何気に女心にクリティカルヒットする言動や行動をするからな。

出会いは少ないが、その少ない出会いを確実にモノにしているぞ。

 

「正直、お前呪われてんじゃねえの? って偶に思うわ」

 

「どうだか…………」

 

ホントに何でだろうな?

転生した弊害かな?

この世界にとっては俺はイレギュラーとも呼べる存在だし。

でもそうなると、葵の説明は付かないんだよなぁ…………

葵だけはアルファモンの姿に惹かれていただけで、俺に対しては普通に異性として意識していたらしいし。

優花の場合は魔物肉を食べた時の身体の再構成の痛みによって心が極限状態まで追い詰められて、その時に俺が手を差し伸べた結果、『無い』と思う心が無くなったそうだが…………

 

「でも、ま………俺には葵と優花が居ればそれでいいから大して気にしてねえけど」

 

「その割には結構ダメージ受けてたじゃねえか」

 

「そりゃ目の前で言われりゃ、気にしてなくとも多少は傷付くさ。お前も目の前で言われてみろよ。結構効くぞ?」

 

「機会があればな」

 

ハジメと軽口を言い合っていると、

 

「なんつーか………昔から思ってたけど、大士って結構達観してるよな。今思うと昔の大士って結構おかしかったのか?」

 

インプモンがそんな事を言ってくる。

 

「せめて特殊と言ってくれ。まあ、自分自身他の小学生よりもズレがある事は自覚してたさ」

 

そりゃ中身は30超えてたおっさんだからな。

それでもデジモントークでタカト達と意気投合できたことが自分の精神年齢の低さを証明している。

別に恥とは思って無いが。

 

「お前ってもしかして小説でよくある転生者だったりしてな?」

 

「あはは…………」

 

ハジメ大正解。

俺は笑ってごまかす。

まあ、いずれ優花と葵達には話すつもりだが…………

因みに今更だが、唯一ドルモンだけは俺が転生者だという事を知っている。

パートナーとの間に隠し事があれば、そもそも融合進化が出来る訳ないし。

なのでドルモンも苦笑している。

と、その時女性陣達がシャワーを終えて甲板に出てきた。

 

「おまたせ~」

 

葵がそう言いながら俺の横に並びながら腕を絡めてくる。

 

「…………………」

 

優花も何も言わずに葵とは反対側に寄り添う。

ハジメの方にも白崎さんやユエを筆頭にシアやティオも集まっている。

 

「……………何かしらこの疎外感…………?」

 

八重樫さんが1人何とも言えない雰囲気で佇む。

 

「クルックル~! 雫は1人じゃないっクル!」

 

クルモンがフワフワと浮かんで八重樫さんの頭を撫でる。

 

「ッ………! クルモン…………!」

 

そんなクルモンを八重樫さんはギュッと抱きしめた。

 

「クリュ~~~!?」

 

苦しかったのかそんな悲鳴を上げた。

 

 

 

 

やがて日が落ち、月が昇ってくると、ハジメはグリューエン大火山の攻略の証であるペンダントを取り出し、月に翳してみる。

ペンダントは、サークル内に女性がランタンを掲げている姿がデザインされており、ランタンの部分だけがくり抜かれていて、穴あきになっている。

暫くそうしていると、ペンダントに変化が訪れた。

 

「わぁ、ランタンに光が溜まっていきますぅ。綺麗ですねぇ」

 

「ホント……不思議ね。穴が空いているのに……」

 

シアが感嘆の声を上げ、白崎さんが同調するように瞳を輝かせる。

 

「昨夜も、試してみたんだがな……」

 

「ふむ、ご主人様よ。おそらく、この場所でなければならなかったのではないかの?」

 

ハジメが呟き、ティオがそう推測した。

 

ランタンに光を溜めきったペンダントは全体に光を帯びると、その直後、ランタンから一直線に光を放ち、海面のとある場所を指し示した。

 

「……なかなか粋な演出。ミレディとは大違い」

 

「全くだ。すんごいファンタジーっぽくて、俺、ちょっと感動してるわ」

 

「月の光を溜めるって、結構ありがちな設定だと思ったけど、実際に見るとそんな事どうでも良くなるな」

 

「ミレディと比べちゃ駄目でしょ?」

 

「『おいでませ~』だからね」

 

ユエ、ハジメ、俺、優花、葵の順でそう評する。

 

「何か酷い言われようね………そのミレディって人…………」

 

何も知らない八重樫さんがそう零すが、

 

「知らない方が良いよ…………」

 

「うむ、知らぬが仏と言うであろう」

 

ドルモンとリュウダモンからもそう言われる。

手掛かりが出来たハジメは早速光が差す方向に潜水艇を進めた。

 

 

 

黒く染まった海の中を、ペンダントが示す光に従って進む潜水艇。

辿り着いた場所は、海底の岩壁地帯だった。

ハジメはさらに細かく潜水艇を動かし、光が差す場所へ進めると、ペンダントの光が海底の岩石の一点に当たった時、変化が起きた。

ゴゴゴッという音と共に岩盤が動き出し、新たに道が広がったのだ。

 

「なるほど……道理でいくら探しても見つからないわけだ。あわよくば運良く見つかるかもなんてアホなこと考えるんじゃなかったよ」

 

「……暇だったし、楽しかった」

 

「そうだよ。異世界で海底遊覧なんて、貴重な体験だと思うよ?」

 

この場所は昼間にも探した場所だったので、無駄な徒労だったとガッカリするハジメにユエと白崎さんがそう言った。

 

「う~む、海底遺跡と聞いた時から思っておったのだが、この〝せんすいてい〟? がなければ、まず、平凡な輩では、迷宮に入ることも出来なさそうじゃな」

 

「……強力な結界が使えないとダメ」

 

「他にも、空気と光、あと水流操作も最低限同時に使えないとダメだな」

 

「でも、ここにくるのに【グリューエン大火山】攻略が必須ですから、大迷宮を攻略している時点で普通じゃないですよね」

 

「もしかしたら、空間魔法を利用するのがセオリーなのかも」

 

それぞれが普通の人達がこの場所に来るためにどういう方法があるかと推理を始める。

 

「ユエ位の魔法適性があれば重力魔法なんかで海割った方が手っ取り早いかもな」

 

俺も便乗して自分の思い付きを口にする。

 

「モーゼの海割りみたいに?」

 

「そこまでしなくても、一定範囲内から海水を無くせばいいでしょ?」

 

と、そんな事を話していた時、突然潜水艇に衝撃が走った。

突然潮の流れが変わり、潜水艇が振り回されたのだ。

 

「うおっ!?」

 

「んっ!」

 

「わわっ!」

 

「きゃっ!」

 

「何じゃっ!?」

 

「うぉわっ!?」

 

「くっ………!」

 

「わぁあああっ!?」

 

「きゃぁあああっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「ぬおっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「クル~ッ!?」

 

それぞれが潜水艇の中で悲鳴を上げる。

グルグルと振り回され続けていたので、

 

「ハジメ! ユエ! 重力魔法!」

 

俺は思いついた解決策を叫ぶ。

 

「ッ! そうか!」

 

「〝絶禍〟!」

 

ユエが物体を引き寄せる魔法の縮小版で身体を固定すると、ハジメが船体に重力魔法を付与して重みを増し、船体を安定させる。

何とか探索の余裕が出来た俺達は、海底洞窟を回り、5カ所あるメルジーネの紋章にグリューエンの証の光を灯すというギミックを解き明かして先へと進んだ。

出て来る魔物を倒して進んでいると、空気のある洞窟の様な空間に出た。

俺達は警戒しながら潜水艇の外へ出ると、そこは大きな半球状の空間だった。

如何いう原理かは分からないが、上を見れば水面があり、水滴一つ落ちることなくユラユラと波打っていた。

 

「どうやら、ここからが本番みたいだな。海底遺跡っていうより洞窟だが」

 

「……全部水中でなくて良かった」

 

ハジメは、潜水艇を〝宝物庫〟に戻しながら、洞窟の奥に見える通路に進もうと俺達を促す。

だが、

 

「香織」

 

「うん、〝聖絶〟!」

 

ハジメの呼びかけに頷くと、白崎さんは障壁を展開した。

その直後、頭上からレーザーのように水流が襲いかかってくる。

白崎さんの障壁の強固さは良く分かっているため、ハジメ達はもちろんの事、俺や葵ですら声は上げない。

しかし、

 

「きゃあっ!?」

 

仲間になって日が浅い八重樫さんは攻撃の激しさに軽い悲鳴を上げ、よろめいた。

 

「おっと………」

 

倒れそうになった八重樫さんの腰をハジメが支える。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いや、気にするな」

 

八重樫さんは気を取り直して上を見ると、ティオが火炎を放って焼き払っている所だった。

焼かれてボロボロと落ちてくるのはフジツボの様な魔物。

一通り片付けた後に先へ進むと、今度は手裏剣の様なヒトデ型の魔物が飛んでくる。

 

「今度は醜態晒さないわよ!」

 

八重樫さんは腰に携えてある黒塗りの鞘に入った刀に手を伸ばす。

それはハジメが錬成の研鑽の中で作った1つなのだが、ハジメは刀を使わず更に八重樫さんも以前のサーベルを折っていたので、ハジメがそれならばと八重樫さんに譲り渡したものだ。

 

「……………」

 

「そこっ!」

 

「ふっ………!」

 

「メタルキャノン!」

 

「居合刃!」

 

「ナイト・オブ・ファイアー!」

 

気合いを入れてその刀の柄に手を添えるが、ハジメと白崎さんが放った銃弾と、優花が投げた手裏剣と苦無、ドルモンのメタルキャノン、リュウダモンの居合刃、インプモンのナイト・オブ・ファイアーによってすべてが撃墜された。

 

「…………………」

 

気合いを入れていた八重樫さんは沈黙する。

 

「…………あはは。ごめん、雫ちゃん」

 

いたたまれなくなった八重樫さんに白崎さんは謝るが、それが更に追撃になっている事に気付いているだろうか?

 

「…………………………」

 

見るからにズーンと思い空気を纏っている。

すると、足元の水中を海蛇のような魔物が高速で泳いでくるのを感知し、ユエが、氷の槍で串刺しにする。

 

「……弱すぎないか?」

 

ハジメの呟きに八重樫さん以外の全員が頷いた。

大迷宮の魔物達は、デジモンで言えば成熟期クラスの強さを持っている。

しかし、今まで出てきた魔物達は成長期のままでも十分に対処できる。

だが、その考えは次の部屋で否定された。

俺達が部屋の入り口を潜った直後、入り口がゼリー状の物体で塞がれたのだ。

 

「ッ!? 何だ!?」

 

俺は思わず叫ぶ。

 

「私がやります! うりゃあ!!」

 

最後尾のシアが入り口を塞いだゼリー状の物体にドリュッケンを振るう。

しかし、表面が飛び散っただけで壁は破れない。

 

「ひゃわ! 何ですか、これ!」

 

シアが突然声を上げる。

全員がそちらを向くと、先程飛び散ったゼリー状の物体の一部がシアの胸元に付着しており、衣服が溶け出していた。

 

「シア、動くでない!」

 

咄嗟にティオが絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。

少し皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。

 

「溶解液って奴かな?」

 

葵がそう呟く。

 

「っ! また来るぞ!」

 

ハジメが叫ぶと、今度は天井から先程と同じゼリーの様な物で出来た触手が襲い掛かってくる。

 

「皆! 集まって!」

 

白崎さんがそう言って障壁を展開する。

更に、ティオが炎を繰り出して、触手を焼き払いにかかった。

 

「香織の防御とティオの攻撃のコンボって、割と反則臭いよな」

 

確かに。

本場の結界師顔負けの展開速度と強度に、それに護られながら攻撃可能。

相手からしてみれば、ムリゲーの一言である。

すると、シアがハジメに近付き、

 

「あのぉ、ハジメさん。火傷しちゃったので、お薬塗ってもらえませんかぁ」

 

「……お前、状況わかってんの?」

 

「いや、カオリさんとティオさんが無双してるので大丈夫かと……こういう細かなところでアピールしないと、シズクさんの参戦で影が薄くなりそうですし……」

 

「えっ!? 私は別に………!」

 

シアの一言で顔を真っ赤にする八重樫さん。

すると、

 

「〝天恵〟」

 

結界を張りつつ治癒魔法を行使し、白崎さんがシアの火傷を治してしまった。

 

「……ハジメ君。このゼリー、魔法も溶かすみたい」

 

白崎さんの言葉に障壁を見ると、じわじわと溶かされている。

 

「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」

 

ティオもそう言う。

本来魔法のエキスパートが居ないとここまで来れないくせに、ここで魔法耐性の高い相手とか嫌らしいにも程がある。

すると、天井から液体の様なものが染み出し、空中に留まるように集まって形を成していく。

それは、

 

「クリオネ………?」

 

優花が呟く。

 

「全長10mのクリオネってただの化け物じゃない?」

 

八重樫さんがそう突っ込んだ。

 

「普通のクリオネも食事中は結構エグイらしいけどな」

 

俺もそう言ってみる。

その巨大クリオネは予備動作無しに全身から触手を伸ばし、更に頭部らしき場所から先程のゼリーの飛沫を飛ばす。

それを白崎さんの障壁で防ぎつつ、ユエはティオと一緒に巨大クリオネに向けて火炎を繰り出した。

シアも、ドリュッケンを砲撃モードに切り替えて焼夷弾を撃ち放つ。

それらの攻撃は巨大クリオネに命中し、その身体を爆発四散させる。

それぞれは一丁上がりと言わんばかりにドヤ顔をするが、

 

「まだよ! 反応が消えてない! 何これ………? 魔物の反応が部屋全体に……」

 

優花が警告を発する。

優花の感知能力は部屋全体に魔物を捉えている様だ。

直後、爆発四散したはずの巨大クリオネが元通りに再生する。

更に、その体内には先程ハジメ達が倒した魔物があり、それが溶かされて吸収された。

 

「ふむ、どうやら弱いと思っておった魔物は本当にただの魔物で、こやつの食料だったみたいじゃな……ご主人様よ。無限に再生されてはかなわん。魔石はどこじゃ?」

 

「そういえば、透明の癖に魔石が見当たりませんね?」

 

ティオをシアがそう言うが、ハジメは困惑した表情を浮かべている。

 

「……ハジメ?」

 

ユエが問いかけると、

 

「……ない。あいつには、魔石がない」

 

ハジメが驚愕の事実を言い放った。

 

「ハ、ハジメくん? 魔石がないって……じゃあ、あれは魔物じゃないってこと?」

 

「わからん。だが、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だ。俺の魔眼石には、あいつの体全てが赤黒い色一色に染まって見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意しろ。あるいは、ここは既に奴の腹の中だ!」

 

つまり一片すら残さず焼き尽くすなり消滅させるなりしないといけないと…………

 

「面倒な相手だな!」

 

「……………そう?」

 

俺の言葉に葵が首を傾げた。

 

「『そう?』…………って、俺らにとっては厄介だろ? ドルモンもリュウダモンも物理的な攻撃方法だし、究極体になったらこの遺跡自体を吹っ飛ばすぞ?」

 

「確かに俺様でもこんだけ全部を吹き飛ばそうと思うと骨が折れるぞ。あいつを倒す前に遺跡を破壊しちまいそうだ」

 

インプモンもそう言う。

俺達がそうこう言っている間にハジメは火炎放射器を取り出して、壁を焼き払う。

壁は擬態しているクリオネの一部らしく、ボロボロと剥がれていく。

しかし、半透明のゼリーは、燃やしても燃やしても壁の隙間や割れ目から際限なく出現し、遂には足元からも湧き出した。

ユエ達による本体への攻撃も激しさを増し、巨大クリオネもいよいよ本気になってきたのか、壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。

 

「一度、態勢を立て直すぞ。地面の下に空間がある。どこに繋がってるかわからない。覚悟を決めろ!」

 

「んっ」

 

「はいですぅ」

 

「承知じゃ」

 

「わかったよ!」

 

「ええ!」

 

それぞれが了承の意を示すが、

 

「ちょっと待って!」

 

葵だけは待ったをかけた。

全員が葵に振り向く。

 

「ちょっと試したいことがあるの」

 

葵はそう言う。

 

「……………とりあえず手があるなら試してくれ。無理だと判断したら即撤退だ!」

 

ハジメはとりあえずやらせる様だ。

 

「ありがと。じゃあ、まずは進化するよ、リュウダモン!」

 

「心得た!」

 

葵がDアークを取り出すと、それにカードをスラッシュする。

 

「カードスラッシュ!」

 

そのカードがブルーカードへと変化し、

 

「マトリックスエボリューション!!」

 

――MATRIX

  EVOLUTION――

 

「リュウダモン進化!」

 

光の中でリュウダモンが完全体へと進化する。

 

「ヒシャリュウモン!!」

 

ヒシャリュウモンは空中を泳ぐ様に浮遊する。

すると、葵は新たに一枚のカードを取り出し、それをDアークにスラッシュしていく。

 

「カードスラッシュ!」

 

そして葵はそのカードの名を叫んだ。

 

「ホーリーエンジェモン!!」

 

葵がスラッシュしたカードはホーリーエンジェモン。

 

「ホーリーエンジェモン…………? ッ! そうか!」

 

俺はそこで葵のやろうとしている事に気付いた。

ヒシャリュウモンが空中で環を作るように回転すると、

 

「ヘブンズゲート!!」

 

そこに亜空間への門を作り出した。

空中に現れた亜空間への門が開門し、巨大クリオネのゼリー状の身体を片っ端から吸い込んでいく。

巨大クリオネに苦戦した理由は破壊しても飛び散ったその一部が集まって即座に再生しまう事にある。

その際に完全に焼き尽くせるのも極一部だろう。

しかし、ヘブンズゲートは吸い込んだモノを亜空間へ送る技。

それは例え究極体だろうと門に入ってしまえば抗う事は出来ないものだ。

巨大クリオネがバラバラにしても再生するというのなら、その身体の全てを亜空間に送ってしまえばいいというのが葵の考えなんだろう。

壁の隙間から次から次へと染み出して来るが、染み出してきた傍から全てを亜空間へ吸い込んでいる。

かなり長い時間吸い込み続けていたが、やがて品切れになったようで染み出してきたクリオネの身体がパッタリと止まった。

 

「優花?」

 

俺は優花に確認すると、

 

「ん…………感知範囲内に魔物の反応は無いわ…………多分、終わったと思う」

 

優花がそう言うと葵が頷き、

 

「ヒシャリュウモン、もういいよ」

 

葵がそう言うと門の扉が閉まり、その門自体が光の粒子となって消えていった。

ヘブンズゲートが消えたことを確認すると、

 

「お疲れ様」

 

葵はヒシャリュウモンを労う。

そこで俺は手を叩きながら、

 

「お見事!」

 

純粋に葵を称賛した。

負け惜しみに聞こえるかもしれないが、恐らく俺も最終的にはホーリーエンジェモンを使う事に気付いただろう。

しかし、葵は俺よりも早く、ほぼ初見で相手と相性のいいカードを選択した。

最初の頃と比べると、葵のテイマーとしての実力もかなり上がっているだろう。

葵の成長に、俺もテイマーの先輩として負けてはいられないと気合いを入れる。

ふと見れば、ハジメ達がポカーンとしていた。

すると、

 

「香織の防御とティオの攻撃が反則って言ったが、前言撤回するわ」

 

ハジメは呆れた様に頭を掻き、

 

「一番の反則は間違いなくお前らだ!」

 

ハジメはズビシッと俺達を指差してそう言い放った。

 

 

 

 

 







第32話の完成。
ほぼ原作通りだけど、対悪食戦だけヘブンズゲートで完勝。
ヘブンズゲートは完全体の技なのにデジモン全体の中でもトップクラスにチート技だと思います。
吸い込めればどんな敵でも一撃必殺ですからね。
巨大な敵は無理ですが。
さて次回は迷宮攻略戦後半。
お楽しみに。

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