倒した巨大クリオネ以外に厄介な敵は存在せず、俺達はサクサクと先へ進んでいくと岩石地帯に出た。
そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。
そのどれもが100mはありそうな帆船ばかりで、遠目に見える一際大きな船は300mはありそうだ。
「これは……船の墓場ってやつか?」
「すごい……帆船なのに、なんて大きさ……」
俺達はその中を警戒しながら先へ進む。
「それにしても……戦艦ばっかだな」
「うん。でも、あの一番大きな船だけは客船っぽいよね。装飾とか見ても豪華だし……」
それらの戦艦は、映画などで見る海賊船の様に、船の側面に大砲が並んでいる物は無い。
この世界では今現在でも大砲や銃の様な銃器機器は発明されておらず、過去に無いのも当然だろう。
その為、魔法使いが砲台代わりとなって砲撃戦を繰り広げたのだろうと予想する。
その予想は、予想外の出来事によって証明された。
――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
「何だ!?」
「見て! 周りがっ!」
俺が思わず声を漏らすと、周りの景色がぐにゃりと歪み、気が付けば俺達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた。
そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった。
「な、なんだこりゃ……」
「私達………夢でも見てるの…………?」
インプモンと八重樫さんが呆然と呟く。
「…………ありがちな設定からだと、これは過去の映像を流してるってことか?」
俺はふと思った予想を口にする。
「でもこの迫力………ただの映像とは思えないわ。雄叫びによる空気の震えがビリビリ来るもの…………」
俺の言葉に対して優花がそう言う。
「クルル~………あの人達、怖いっクル………」
クルモンは怯えた様に耳を縮める。
そうこうしている内に、大きな火花が上空に上がり、花火のように大きな音と共に弾けると、何百隻という船が一斉に進み出した。
俺達が乗る船と相対している側の船団も花火を打ち上げると一斉に進み出す。
そして、一定の距離まで近づくと、そのまま体当たりでもする勢いで突貫しながら、両者とも魔法を撃ち合いだした。
無数の魔法が交差し合い、それぞれの船、乗組員を吹き飛ばしていく。
その時、1発の火球が俺の傍に着弾する。
「あちっ!?」
俺は紛れもなく熱を感じる。
「大士!?」
ドルモンが心配そうに声を掛けてきた。
すると、再び火球が迫ってくる。
「このっ! メタルキャノン!!」
ドルモンがその炎を撃ち落とそうと鉄球を放つ。
鉄球は逸れる事無くその火球に直撃…………するかに思われたが、するりとすり抜けた。
「えっ!?」
ドルモンが驚いた声を漏らす。
その火球を咄嗟に避けるが、やはり熱を感じる。
「どういう事だ? 向こうの攻撃は通じるのにこっちの攻撃はすり抜けやがる!」
ハジメもドンナーで撃ち落とそうとしたが、その弾丸もすり抜ける。
「ハジメ君!」
ハジメに向かって来た火球に対し、白崎さんは障壁を展開する。
「香織!?」
ハジメは障壁をすり抜ける事を危惧したのか、〝金剛〟を発動させながら白崎さんの前に立ちはだかる。
しかし、ハジメの心配を他所に、その火球は障壁によって防がれた。
「防いだ………?」
ハジメが怪訝な声を漏らす。
ドルモンやドンナーによる攻撃はすり抜けたのに、白崎さんの障壁はすり抜けなかった。
「………………もしかして…………!」
俺はある事に気付く。
「優花! 魔力を使った攻撃を!」
俺はそう叫ぶ。
「ッ! 分かったわ!」
優花は手裏剣を取り出すとそれに炎を纏わせ、向かって来る火球に投げつけた。
そしてそれは、俺の予想通り飛んできた火球を掻き消す。
「撃ち落とせた!」
優花が軽く驚きながら口にする。
「皆! おそらくこれは魔力を使わないと影響を与えられない! 魔力を伴う攻撃を!」
俺は皆にそう叫ぶ。
「そう言う事か!」
ハジメは〝風爪〟を発動して飛んでくる火球を切り裂く。
「〝凍雨〟」
ユエが氷の刃を降らせて火球を撃ち落とす。
「ここじゃ!」
ティオも炎魔法で火球を撃墜していく。
その最中、
「私達は出番ありませんね~」
「魔法使えないからな」
「私って一体…………」
「し、雫、元気出して! 今回は迷宮のコンセプトと相性が悪かっただけだよ!」
シア、俺、八重樫さん、葵の順でそう言う。
「俺の必殺技は魔法みてえなものなんだけどなぁ…………」
インプモンがそう言いながらナイト・オブ・ファイアーを放つが、それはするりと火球をすり抜ける。
「デジモンはデータだからそもそも存在の構成自体が魔法とは別物何だろ?」
自分でも何言ってるか分からないが、多分そう言う事。
「クルックル~! みんな頑張れックル!」
クルモンは純粋に皆を応援する。
その時、俺達と同じ船に乗っていた乗組員の1人が負傷し、近くに倒れる。
「大丈夫ですか………!?」
白崎さんは放っておくことは出来なかったのか、回復魔法を行使する。
すると、傷が治るどころかその乗組員は光の粒子となって消えてしまった。
「え? えっ? ど、どうして……」
「魔力さえ伴っていれば、攻撃魔法に限定する必要は無いって事かな?」
葵が、乗組員が消えてしまった理由を推測する。
その理由に納得したのか、皆も頷く。
すると、
「全ては神の御為にぃ!」
「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」
「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」
血走った目に涎を垂らしながら叫ぶその姿はまさしく狂人だ。
「気持ち悪いわね…………」
優花が顔を顰めながらそう呟く。
「狂信者という奴かのう?」
「この全員がか?」
ハジメはやれやれと肩を竦めると、
「さて、どうすれば、この気持ち悪い空間から抜け出せるんだ?」
とりあえずこの場の解決策を模索する。
「一番分かり易いのは全員倒す事だろ」
「ま、それが妥当だろうな。これだけの数を殲滅するのは面倒だが、回復魔法も効果があるならやりようはあるな。香織」
「うん、分かってる」
白崎さんはハジメの言葉に頷いて手を天に掲げると、
「〝聖典〟」
上級範囲回復魔法を発動させた。
普通の魔法使いなら10数人がかりで、その上長時間の詠唱とバカでかい魔法陣が必要になり、半径500m以内の全員を纏めて回復させるものだ。
しかし、それを白崎さんは詠唱、魔法陣無しのノータイムで行使し、その上その効果範囲は半径数キロに及ぶ。
チートにも程があった。
効果範囲内にいた船の兵士達は全員が消え去る。
この大海原の大艦隊はたった1人の治癒師によって、30分と掛からずに全滅した。
最後の兵士を倒した時、再び景色が歪んで俺達は元の場所にいた。
「今の、何だったのかな?」
白崎さんが疑問を口にする。
ハジメは、少し考えたあと推測を話した。
「おそらくだが、昔あった戦争を幻術か何かで再現したんだろうな。……まぁ、迷宮の挑戦者を襲うという改良は加えられているみたいだが……あるいは、これがこの迷宮のコンセプトなのかもしれない」
「コンセプト?」
「ああ。大迷宮にはそれぞれ、〝解放者〟達が用意したコンセプトがあるんじゃないか? ってな。それが当たっているとすれば、ここは……」
「……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……かな?」
「ああ、そんな気がするよ」
余所者の俺達だから狂った奴らだなと他人事で済んだが、この世界の人間からすれば自殺ものかもしれないな。
俺達がさらに進むとこの船の墓場で一番目立つ300mほどもある船の残骸の下へ辿り着いた。
残骸と言っても、原型は留めている。
「こいつだけ他の船とは違うな………」
俺はその船を見上げながら呟く。
「そうね………他は戦艦だけど…………これは豪華客船みたいな感じがあるわ………」
俺の言葉に八重樫さんが頷く。
明らかに怪しいという事で、俺達はその船を調べることにした。
ハジメ達は〝空力〟を使い、俺はドルガモンを進化させ、残りのメンバーを乗せて豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立つ。
豪華客船の最上部にあるテラスへと降り立つ。
すると案の定、周囲の空間が歪み始めた。
「またか……皆、気をしっかりもてよ。どうせ碌な光景じゃない」
ハジメの推測に俺達がさっきよりもエグイ光景を予想していた。
しかし、景色が完全に変わると、そこは煌びやかなパーティー会場だったことに、俺達は呆気にとられた。
時刻は夜で、満月が夜天に輝いており、テラスから見える眼下の甲板は豪華な料理と着飾った人々で賑わっていた。
「パーティー……だよね?」
「ああ。随分と煌びやかだが……メルジーネのコンセプトは勘違いだったか?」
ハジメは肩透かしを食らった気分になっている。
すると、背後の扉が開いて数人の乗組員が談笑しながら一服し始めた。
その話の内容によると、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。
長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。
「こんな時代があったんですね…………亜人族も居ますよ」
「ん…………あそこに居るのは魔人族」
シアやユエが甲板を見下ろしながら指差し、各種族が種族の壁を越えて談笑している。
「終戦のために奔走した人達の、まさに偉業だな。終戦からどれくらい経っているのか分からないが……全てのわだかまりが消えたわけでもないだろうに……あれだけ笑い合えるなんてな……」
「きっと、あそこに居るのは、その頑張った人達なのね………皆が皆、直ぐに笑い合えるわけじゃないだろうし……」
八重樫さんもそう言う。
「そうだな……」
ハジメも頷く。
俺も甲板を見下ろしながら良い光景だと思いつつも、少し気になることがあった。
「………大士? 如何したの?」
ドルモンが俺の表情に気付いたのか、下から見上げるように俺の顔を伺う。
「大士?」
「何か気になることでも?」
ドルモンの言葉が気になったのか、葵と優花も俺の傍へ歩み寄ってくる。
「いや、この迷宮の解放者は、何でこの光景を見せようと思ったのかと思ってな…………良い意味で考えれば、各種族は争う必要なんかない。こうして手と手を取り合えるんだって事を証明したいって意味だと思うんだが……………」
「…………違うの?」
「俺の考え過ぎだと良いんだがな……………」
俺がそう呟きながら眼下のパーティーを眺めていると、甲板に用意されていた壇上に初老の男が登り、周囲に手を振り始めた。
それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。
どうやらよほどこの男性は敬われている様だ。
ふとその近くには側近と思われる人物とは別に、いかにも怪しげなフードを被った人物が控えている。
「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」
男性の演説に、パーティーの参加者たちは涙ぐんだり、遠い目をしたりしている。
話を聞いていると、どうやら演説している男は人間の国の王様のようだ。
相当初期から和平の為に取り組んでいたようで、各種族問わず敬意の視線を向けられている。
だが、演説が終盤に差し掛かるにつれ熱に浮かされた様に盛り上がる………と言うより、何かに取り憑かれたように声に力が入っている。
そして、
「――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと」
その言葉に一瞬パーティー会場が静まり返る。
俺達も同時に声を失った。
「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」
「い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?」
王様である男に魔人族の男性が問い詰めようとして、背中から人間族の男に剣で貫かれた。
振り返った魔人族の男は、何故お前がと言わんばかりの表情で崩れ落ちた。
「陛下ぁっ!」
どうやら刺された魔人族の男は魔人族の国の国王の様だ。
側近と思われる男女が駆け寄る。
「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!」
膝を付き天を仰いで哄笑を上げる。
その直後、おそらく乗組員に扮していたであろう兵士達がパーティーの参加者たちを囲う様に現れ、魔法を容赦なく撃ち込んだ。
殆どは甲板で、魔法によって殺され、海に飛び込んだ者も、予め予想していたのか兵士達が乗った小舟が船を囲む様に配置されており、1人も逃がさないとばかりに容赦なく魔法を撃ちこまれて息絶えていった。
「酷い………どうして…………?」
「クリュ~…………!」
八重樫さんが口を押さえながらそう零し、クルモンは目を塞ぐ。
すると、再び景色が歪んで俺達は元の場所に戻っていた。
「今ので終わりかな? 私達、何もしてないけど……」
「この船の墓場は、ここが終着点だ。結界を超えて海中を探索して行くことは出来るが……普通に考えれば、深部に進みたければ船内に進めという意味なんじゃないか? あの光景は、見せることそのものが目的だったのかもな。神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……中々、嫌らしい趣向だよ。特に、この世界の連中にとってはな」
俺達は甲板に降り、船の中の探索を開始した。
「さっきの光景……終戦はしたが、あの王が裏切ったということなのかの?」
「そうみたいだな……ただ、ちょっと不自然じゃなかったか? 壇上に登った時は、随分と敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていたのに……内心で亜人族や魔人族を嫌悪していたのだとしたら、本当に、あんなに慕われると思うか?」
「……そうだね……あの人の口ぶりからすると、まるで終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かも……問題は何があったのかということだけど」
「まぁ、神絡みなのは間違いないな。めっちゃ叫んでたし。危ない感じで」
「うん、イシュタルさんみたいだった……トリップ中の。痛々しいよね」
「単純に一番怪しいのはあのフードの人物だな。洗脳や思考誘導の類。もしくは完全に別人が入れ替わったか、あるいは中身だけが別物になったか…………」
俺達は先程の出来事から何が起きたのかを予想する。
そんな話をしながら船内を進んでいると、ハジメのライトが何かを照らし出した。
それは白いドレスを着た女の子だった。
女の子が俯いてゆらゆらと揺れながら廊下の先に立っていたのだ。
その光景に猛烈に嫌な予感がする俺達。
突然その女の子が倒れ込むと、何処かの都市伝説の如く、手足があり得ない角度に曲がって蜘蛛の如く手足を動かして此方に突っ込んできた。
その瞬間、
「いやぁああああああああああああああああああああああああっ!!!???」
「ここでホラー系かよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!??」
白崎さんと俺の絶叫が響いた。
まあ、俺の声はほぼ白崎さんの声でかき消されたが。
「うおっ!? 落ち着け香織! 腕を掴むな!」
白崎さんがハジメの腕を思い切り掴んでいるせいでハジメはドンナーを抜くことが出来ず、ホラー少女はどんどん近付いてくる。
ケタケタ笑い声を上げながら近付いてくるその姿は正に妖怪。
そのまま飛び掛かってきた瞬間、ふとした拍子に白崎さんと妖怪少女の目が合い、
「いやぁあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」
「ゲキャッ!?」
恐怖のあまり振り回した杖が飛び掛かって来た妖怪少女の顔面にクリティカルヒット。
無意識に光属性を杖に付与していたのかその一撃を喰らった妖怪少女は床や天井をピンボールの様に跳ね返りながら吹き飛んでいく。
その光景を見て俺達は呆然とした。
「香織って、こういうの苦手か?」
「……得意な人なんているの?」
「魔物と思えばいいんじゃないか?」
「……ぐすっ、頑張る」
そうは言いつつも、白崎さんの手はハジメの裾を離さない。
「香織は昔からお化け屋敷とか駄目だったからね~…………」
八重樫さんが苦笑する。
そのまま先へ進むと、
廊下の先の扉をバンバン叩かれたかと思うと、その扉に無数の血塗れた手形がついていたり、首筋に水滴が当たって天井を見上げれば水を滴らせる髪の長い女が張り付いて俺達を見下ろしていたり、ゴリゴリと廊下の先から何かを引きずる音がしたかと思ったら、生首と斧を持った男が現れ迫ってきたり。
その度に、
「いやぁあああああああああっ!!」
「来ないでぇえええええええっ!!」
「もう嫌ぁあああああああああああっ!!」
白崎さんが悲鳴を上げながら杖を振り回し、迫りくるお化けたちを撲殺していく。
「悲鳴と行動が合って無い………いや、合ってるのか?」
「香織のステータスが高いから、適当に振り回した一撃でも致命的なダメージだね」
「ある意味一番手に負えないわ」
俺、葵、優花の順でそう漏らす。
「そう言う大士も腰が引けてるぜ?」
インプモンからそう言われる。
「…………俺はホラー系苦手なんだよ…………」
俺は誤魔化しもせずに正直にそう言う。
だからホラー系の映画とかドラマは絶対に見ない。
「へ~。じゃあ、地球に帰ったらデートで遊園地行った時にお化け屋敷でも行こうか?」
葵が面白半分でそう言ってくるが、
「いや、別にお化け屋敷は作り物って分かってるから平気だぞ。こういう本場な心霊スポットみたいなのは苦手だが」
俺はそう言う。
「なんだ。つまんないの」
葵は残念そうにそう言う。
「仮にも恋人の苦手な物で遊ばないでくれ」
俺はそう言う。
「『仮』、じゃなくて、本当の恋人でしょ?」
「……………すまん」
どうもこういう所で自分を卑下する癖が直ってない。
「ちょっと、そこのバカップルさん達。変な所で惚気ないでください!」
シアから指摘を受ける。
だがその表情は若干羨ましそうにハジメに向いている。
「えっぐ………ぐす…………雫ちゃ~ん…………!」
「よしよし………ほら、泣かないの…………」
白崎さんが八重樫さんに泣き付き、八重樫さんが白崎さんを慰めている。
因みにこれは昔からお化け屋敷に入った時の毎度の光景らしい。
そのまま進んでいくと、船倉に入ると、お約束の様に勝手に扉が閉まり、船倉の中に何故か霧が発生する。
更に今度は物理トラップがあって四方八方から矢が飛んできたが、ハジメ達の前には無意味。
全て叩き落される。
しかし、その直後に霧が渦巻いて暴風が吹き荒れた。
「きゃっ!?」
「葵!」
その暴風が狙ったように葵を吹き飛ばそうとしたので俺は咄嗟に葵の手を掴むが俺だけでは支えきることが出来ずに一緒に吹き飛ばされてしまった。
「大士! 葵!」
優花が手を伸ばしてきて、俺も咄嗟に反対の手を伸ばすが、僅差で届かず、葵と2人で霧の渦に連れ去られてしまった。
何とか葵を手放さずに船倉の何処かに吹き飛ばされた俺達は、放り出される様に床を転がる。
「いつつ…………葵、大丈夫か?」
「うん………何とか………」
葵の手を取って立ち上がらせる。
「早く皆と合流しないと………」
とは言え、周りは霧だらけで全く見えない上に、何故か方向感覚が狂ってる気がする。
「なんか………軽く目が回ってる感じだね………」
「ああ…………まるでハルツィナ樹海に入った時の様な感覚だな………」
おそらくこの霧もハルツィナ樹海の霧と同種のもので、方向感覚を狂わせたり、感知系の技能を無効化する効果も含まれているんだろう。
そうなると、すぐの合流は無理かもしれない。
「今は無理に動かない方が良いかもな…………」
「うん………………うん?」
葵が俺の言葉に返事をした後、何故か変な声を漏らした。
「どうし……………」
どうした?と聞こうとした俺の言葉が止まる。
「…………ねえ大士……………ちょっと聞きたいんだけど、今、私の肩を掴んでるのって……………誰?」
葵が引きつった声で訊ねる。
「……………………」
俺は何か言おうとするが、パクパクと口を開くだけで声が出ない。
「………その反応で大体わかったよ」
葵はゆっくりとそちらを振り向く。
そこには、目、鼻、口――顔の穴という穴の全てが深淵のような闇色に染まった女の顔があった。
「何て言うか……………ホラー系のテンプレだね」
素なのか開き直ったのか、そんな言葉を漏らす葵。
その直後、
『貴女の身体、私が貰うわ』
その女の顔から声がした。
その女には実体が無い様で、葵の身体に重なるように溶け込んでいく。
葵は一瞬ガクンと頭を項垂れた。
「葵!」
俺が叫ぶと葵はゆっくりと顔を上げ、
「残念だけど、この女の身体は私が貰ったわ」
葵の声で、葵ではない誰かが声を発した。
「お前………葵の身体を乗っ取ったのか!?」
俺はすぐに先程の女の亡霊が葵に取り憑いたのだと予想する。
「その通りよ。この子、あなたの恋人なんでしょう? ウフフ………恋人の手で恋人を殺すってどんな気持ちなのかしら…………?」
「テメェ…………! 葵の声でふざけた事言ってんじゃねえ!」
「でもあなたには如何することも出来ない………よしんば出来たとしても、私が消滅すればこの子の魂も砕けるわ…………この子の魂は私の手の内…………ッ!?」
俺の言葉でも余裕の笑みを浮かべていた葵に取り憑いた女の亡霊が突如として狼狽え始めた。
「なっ………!? ちょ、ちょっと待って…………! 何なのこの魂はっ………!? 〝格〟が…………違い過ぎるっ……………!? ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!??」
突如として女の亡霊が絶叫を上げる。
それと同時に葵の全身から光が溢れ、俺は目を庇いながらなんとか葵を見ようとする。
「あ、葵っ………!?」
その瞬間、バサッと葵の背中から純白の翼が広がり、黒い髪が蒼銀に染まった気がした。
目を開けていられないほどの眩い光なのでよく確認できない。
すると、葵は閉じていた瞼を開けると、澄んだ碧眼で俺を見つめ、フッと微笑んだ。
直後、更に強い光が辺りを覆いつくし、俺は思わず目を瞑る。
やがて光が収まったのか、静寂が辺りを包む。
俺が目を開けると、そこにはいつもの黒髪で佇む葵の姿があった。
「葵………?」
俺は葵に声を掛ける。
すると、葵の身体がぐらりと傾き、そのまま倒れそうになった。
「葵!」
俺は咄嗟に駆け出してその身体を支える。
そのまま葵の身体を抱き起こす形となった俺は葵の身体を軽く揺すった。
「葵………! 葵!」
すると、葵の瞼がゆっくりと開く。
「う………ん…………あれ………? 大士………?」
「葵! 大丈夫か!?」
「うん………一体どうなったの…………?」
「………覚えてないのか?」
「何が………?」
「いや、何でもない………」
何故か分からないが、今起こったことには触れない方が良い気がした。
でも、一瞬見えた葵のあの姿……………
あの姿に俺は一瞬俺を転生させてくれた女神様を連想した。
勿論あの女神様では無かったが、何となく連想してしまったのだ。
「……………まさかな」
一瞬沸き起こった疑問を否定すると、俺は先程の光で霧が晴れて、こちらに駆け寄ってくるハジメや優花達に視線を向けるのだった。
第33話の完成。
原作通りのようで香織無双(狂乱)したり、何故か最後に葵がわけわからんことになったり?(すっとぼけ)
さて、次回は原作では神代魔法手に入れて悪食討伐でしたがここでは………?
で、いきなり話は変わりますが、雫についてです。
原作以上に強キャラが揃ってるパーティーなので、折角パーティーINしても色々と影が薄くなってしまっている雫さん。
彼女をパワーアップさせるかどうかです。
パワーアップさせる方法は勿論魔物肉です。
もしくは第三の選択肢か…………
なのでアンケートを取りたいと思います。
投票よろしくお願いします。
雫をパワーアップさせる?
-
させずにこのまま原作の様な立ち位置で
-
魔物肉でパワーアップ
-
寧ろテイマーにしてしまえ!