ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第49話 新たなる力

 

 

 

 

『戦争』に勝利したハウリアの要求通り、帝国の亜人奴隷達は翌日中に全員解放された。

そしてハジメが飛空艇でフェアベルゲンまで送り届けた。

その際にアルフレリックに感謝され、あまり留まる気は無かったのだが、どうしても礼をしたいと言われて、大樹の周りの霧が薄くなるまでの数日の間だけフェアベルゲンに滞在した。

そして現在、亜人のシアを先頭に他のハウリア族が俺達の周りを囲む形で樹海の中を進んでいた。

樹海の霧は方向感覚を狂わせ、常に軽く目が回っている様な状態になるので変な気分だ。

亜人はその霧の影響を受けないので、目的地である大樹に辿り着く為には亜人達の協力が必要不可欠なのだ。

そして当然、樹海の中では魔物達も襲ってくる。

樹海の魔物は普通の魔物よりも強い。

感覚が狂わされる霧も相まって、並の実力者ではあっという間にやられてしまうだろう。

しかし、ハジメや優花を始めとした大迷宮攻略者にとっては普通の雑魚と変わりないため別段気にする必要はないし、今のハウリア族も………そしてデジモン達も魔物に後れを取ることは無いだろう。

だが今、彼らは手を出さない。

理由は、大迷宮攻略が初めての天之河達のウォーミングアップ代わりだ。

その天之河達は、現在魔物達に非常に苦労していた。

勇者とは言っても、コイツらは殆どの戦闘が、オルクス大迷宮での経験しかない。

濃霧に包まれたこの場所や、魔物の動きがオルクス大迷宮の魔物と違う事も相まってうまく戦う事が出来ない様だ。

そんな中、

 

「はっ!」

 

「たあっ!」

 

黒髪を靡かせる2人の少女が魔物を切り伏せる。

1人は八重樫さん。

曲がりなりにも大迷宮での経験や、日頃の白崎さんやシア達を相手とした訓練の甲斐もあって、天之河よりもステータスで劣っているが有利に戦いを進める事が出来ている。

そしてもう1人は葵だ。

ステータスが上がってから、主に八重樫さんに刀の使い方を学び、実力をつけて来ていた葵は、実戦経験を積むために戦いに参加している。

葵は勇者である天之河を凌ぐステータス。

そして何より、覚えている神代魔法全てに最高の適性を持っていた。

重力魔法で敵の動きを鈍らせ、多少のダメージも再生魔法で即座に回復する。

魔力量の問題でユエや白崎さんの様な戦略に影響を与える大規模な魔法は行使できないが、戦術レベルとしては十分に使いこなしている。

魔力操作を持ってないので詠唱は必要だが。

 

「……………………」

 

俺はそれを黙って見ている。

すると、

 

「大士………どうかした?」

 

隣にいるドルモンが不思議そうに俺を見上げていた。

 

「えっ………? 何がだ?」

 

意味が分からなかった俺はそう聞き返す。

 

「大士、少し悔しそう…………ううん、寂しそうな顔をしてたから………」

 

ドルモンの言葉に、俺はハッとなった。

 

「そうか…………そんな顔してたか……………」

 

その理由に思い当たった俺は少し自嘲気味に呟いた。

俺は再び葵に目を向ける。

葵は両手に持つ刀の片方で魔物を両断する。

今葵が片手で両断した魔物ですら俺は倒せない。

いや、傷を負わせることすら難しいだろう。

俺のステータスは身体強化を使ってないシアにすら劣る。

数値で言えば20にすら達しているステータスが無いのだ。

無いものは仕方ないのだが、ドルモンが居なければ優花どころか葵も護れない事が悔しく、そして寂しい。

更には優花にもパートナーデジモンが現れた為、そう遠くない内に『自分は必要なくなるのでは?』という何とも情けない懸念が浮かんでくる。

勿論葵と優花が俺から離れて行くとは思っていないが、男として恋人の2人に護って貰わなければいけないという構図に、情けないと思う気持ちが確かにあるのだ。

そう思っていると、

 

「大迷宮さえクリアできれば、俺達だって南雲くらい強くなれる。いや、南雲が非戦系天職であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ」

 

「だな。どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ」

 

「うん、頑張ろうね!」

 

天之河達がそんな事を話していた。

俺は溜息を吐く。

神代魔法を手に入れるだけで強くなれるなら、俺はこんなに悩んでいない。

忘れがちだが俺も神代魔法を3つ取得しているのだ。

神代魔法を手に入れれば強くなれるわけでは無く、神代魔法を手に入れるためにそれ相応の『強さ』が求められるだけだ。

その辺を履き違えている勇者(笑)パーティーだが、訂正する気も起きない。

 

「みなさ~ん、着きましたよぉ~」

 

シアが先頭のシアが振り返って皆に呼びかける。

そこには、以前と変わらず枯れているが朽ちる事の無い巨木が聳え立っていた。

 

「これが……大樹……」

 

「でけぇ……」

 

「すごく……大きいね……」

 

勇者(笑)パーティーがそう感想を漏らす。

ハジメが以前あった石板に向かって歩き出し、宝物庫から攻略者の証を取り出す。

 

「カム、何が起こるかわからないからハウリア族は離れておけ」

 

「了解です、ボス。ご武運を」

 

ハジメの言葉にカム達はビシッと敬礼をして散開する。

それを見届けると、ハジメはオルクスの指輪を石板の裏の窪みにはめ込んだ。

石板に文字が浮かび上がる。

 

〝四つの証〟

 

〝再生の力〟

 

〝紡がれた絆の道標〟

 

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

前読んだ文章と全く同じものだった。

 

「これも前と同じだな。使う証は……【神山】以外のでいいか」

 

ハジメはそう言いながら攻略者の証をはめ込んでいく。

ハジメは適当に選んだようだが、おそらく無意識に攻略した順番にはめ込んでいる様だ。

証をはめ込むたびに石板の放つ光が強くなっていき、4つ目の証をはめ込んだ瞬間、石板の光が地面を伝って大樹に向かい、大樹そのものが輝き始めた。

 

「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」

 

「……次は、再生の力?」

 

ティオが興味深げに呟き、ユエがそう予測する。

大樹には七角形の紋様が浮かび上がり、明らかに何かしろと言いたげだ。

 

「じゃあ私がやるね」

 

再生魔法に一番適性のある白崎さんがそう言って紋様に手を当てると再生魔法を発動させる。

更なる光が大樹を包む。

 

「あ、葉が……」

 

シアが呟く。

枯れていた大樹が瑞々しさを取り戻し、その枝に葉を生い茂らせていく。

瞬く間に緑の葉に覆われた大樹は、正に世界樹と呼ぶべきものに変化した。

 

「凄いな………」

 

俺は思わず呟く。

まるで生命誕生を見ている様な気分だ。

俺は目の前で起こった出来事に純粋に感動した。

すると、大樹の幹の正面に亀裂が入り、ガパッと開いて洞が現れた。

 

「これが大迷宮の入り口………」

 

優花が呟く。

ハジメが一度俺達に振り向くと、俺達は頷いてその洞に足を踏み入れようと………

 

「なるほど………この迷宮は4つの攻略者の証と再生の神代魔法が必要だったのか」

 

した瞬間、何処かで聞いた事のある男の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

【Side 優花】

 

 

 

 

「なるほど………この迷宮は4つの攻略者の証と再生の神代魔法が必要だったのか」

 

私達が大迷宮の入り口に足を踏み入れようとした瞬間、男の声が響いた。

私達は声がした方にバッと振り向く。

そこには灰竜の背に跨った魔人族の男…………フリードが複数の魔物を引き連れてそこに居た。

この樹海の中じゃ私の感知系の技能もかなり制限されるから接近に気付かなかった。

私は軽く歯を食いしばる。

 

「………で? 何の用だ?」

 

南雲は動じずにフリードに問いかけた。

 

「何、樹海諸共大迷宮を手に入れようと思ったが兎人族共のお陰で失敗したのでな。せめて神代魔法だけでもと思い、潜入したわけだが…………」

 

「攻略者の証が足らなかったから迷宮に入ることが出来ず、立ち往生してた所に俺達が現れたって所か」

 

南雲の言葉に図星だったのだろうか眉をピクリとさせた。

すると、南雲はドンナーを向ける。

 

「テメェの都合なんか知ったことじゃねえ。このまま引くなら見逃してやるからさっさと消えろ。立ちはだかるなら殺す!」

 

南雲はいつもの二択を突き付ける。

 

「…………………………」

 

フリードは灰竜の上から私達を見下ろす。

 

「確かに今の手勢では貴様達全員を葬るのは不可能だろう…………悔しいが貴様たちの実力は認める」

 

フリードはそう言うと一呼吸置いて、

 

「だが、迷宮も神代魔法を手に入れられずに戻ったとあっては『神の使徒』の名折れ! 故に、一番厄介な者だけでも始末しておく!」

 

ハジメを見ながらフリードがそう言った瞬間、南雲がドンナーを発砲する。

でも、それはフリードも予想していたのか近くに居る亀の魔物が障壁を張って弾丸を防いだ。

 

「相変わらず不作法な奴だ」

 

「『敵』は殺す。容赦はしない」

 

その言葉を切っ掛けにフリードが魔物に命じてこちらに攻撃を仕掛け、その間にフリードも詠唱を始める。

フリードの連れていた魔物は昆虫型。

それらが私達を囲むように迫ってくる。

小回りの利く素早い動きと、硬い甲殻が強み………って所かしら?

でも、

 

「フン…………」

 

南雲はつまらなそうにドンナーとシュラークを次々に発砲。

1発も外すことなく魔物を撃ち抜いていく。

 

「そこっ!」

 

香織も同じように銃で魔物を撃ち抜き、

 

「〝雷龍〟」

 

ユエが生み出した雷の龍が魔物達を蹂躙し、

 

「どぉりゃぁああああああっ!!」

 

シアが振り回す戦槌が魔物を、甲殻など意味が無いとばかりに叩き潰す。

 

「甘いのう………!」

 

ティオが風魔法で魔物達を切り刻む。

 

「はっ!」

 

そして私も手裏剣や苦無を投げつけ、魔物を貫き、数匹纏めて仕留める。

確かにこの樹海の魔物よりかは強力だけど、身体能力の低い兎人族ですら仕留められたモンスター。

【真・オルクス大迷宮】の上層モンスターにも劣る。

私達の敵じゃない。

 

「「「………………………」」」

 

同じように戦おうとしていた勇者(笑)パーティーが武器を中途半端に構えたまま呆然としていた。

 

「これは俺達の出番は無いか?」

 

「そうだね~」

 

大士と葵がそう呟く。

大した時間も掛けずに魔物をほぼ全滅させる。

でもその時、大きな虫の羽音が聞こえてきた。

今までの魔物のモノとも違う。

 

「上だ!」

 

南雲が叫ぶ。

私もその声に上を向くと、緑色の体色をした、大きなカマキリを思わせる怪物の群れが居た。

 

「スナイモンだ!」

 

大士が叫ぶ。

突如として樹海の木々が切り裂かれ、赤い体色の巨大なクワガタを思わせる怪物が数匹、

 

「クワガーモン!」

 

葵も叫んだ。

更に蜂の様なデジモンの大群も現れる。

 

「あいつは確か………フライモンだったか…………!」

 

南雲もそう言う。

 

「スナイモン 成熟期 ワクチン種 昆虫型デジモン。必殺技は『シャドウシックル』」

 

「クワガーモン 成熟期 ウィルス種 昆虫型デジモン。必殺技は『シザーアームズ』」

 

「フライモン 成熟期 ウィルス種 昆虫型デジモン。必殺技は『デッドリースティング』」

 

ユエ、シア、ティオがDアークで相手のデジモンのデータを読み上げた。

 

「全部成熟期だが…………数が多いな………!」

 

大士がDアークを手に取る。

 

「ここは進化して一気に…………」

 

大士が進化するためにDアークを掲げようとして、

 

「〝界穿〟」

 

フリードが詠唱を完了させた。

私達は、誰もがその魔法は南雲を攻撃するためのものと思い込んでいた。

その為、全員が南雲をフォローできるように意識を割いていた。

でも、

 

「ッ! ダメです! タイシさんを!!」

 

シアが未来を視たのか焦った表情で叫ぶ。

その瞬間、

 

「なっ!?」

 

大士の驚愕の声と共に、大士の足元に人一人がギリギリ通れる位の空間ゲートが開き、大士は重力に従ってそのゲートに落ちて行く。

 

「「「「「「「「「「大士!?」」」」」」」」」」

 

全員が大士の名を叫ぶ。

すぐ傍にいたドルモンもゲートに飛び込もうとしたけど、その前にゲートが閉じてしまう。

 

「大士!!」

 

ドルモンが悲痛な声を上げる。

 

「フフフ…………」

 

フリードがニヤリと笑みを浮かべた。

 

「テメェ…………!」

 

南雲がフリードを睨み付ける。

 

「大士を何処にやったの!?」

 

葵が叫ぶ。

 

「何、心配しなくていい。別の場所へ移動させただけだ…………ただし、成熟期デジモンが待ち構えているがな」

 

「ッ!?」

 

その言葉に私は息を呑む。

 

「貴様たちは私の言葉で白髪の小僧を狙うと思い込んでいたようだがそれは違う。私が最も厄介だと思った者………それは、あのロイヤルナイツの2体ですら2度も退けたあの黒い騎士…………先程の小僧とそこのデジモンが融合した奴こそ最も脅威と感じた相手だ。しかし、私は貴様たちを見ていて気付いた。先程の小僧は、個人では何ら脅威になり得ないとな。ならば答えは簡単だ。隔離してしまえばいい。非戦闘員を殺す事など成熟期デジモンでも十分すぎるからな」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は地面を蹴っていた。

〝瞬光〟も発動し、一直線にフリードに飛び掛かる。

 

「大士を返しなさい!!」

 

私の突き出した槍が亀形の魔物の障壁に止められる。

 

「素直に返すとでも? 安心しろ。暫くしたら返してやる…………死体としてな」

 

まるで私の神経を逆撫でする様な口調でそう言ってくる。

おそらく私の精神を揺さぶる挑発であろう事は分かっている。

でも、頭で分かっていても、私は気が気じゃない。

一瞬で頭に血が上って視界が狭くなる。

その瞬間、上空から複数のエネルギーの斬撃が私に襲い掛かった。

 

「あぐっ!?」

 

肩が切り裂かれ、血が吹き出る。

見れば、上空からスナイモンが両腕の鎌にエネルギーを纏わせて振り回すと、それが斬撃となって襲い掛かってくる。

 

「このっ………!」

 

こんな奴らに時間をかけていられない。

早くしないと大士が………!

 

「限界突破!!」

 

私は大士の事で頭が一杯で後先考えずに限界突破を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

 

空間ゲートに落とされた俺は、2mほど落下して地面に落ちた。

 

「痛~~~っ!」

 

着地に失敗した俺はぶつけた尻を摩りながら立ち上がる。

 

「ここは…………?」

 

俺は辺りを見渡す。

生い茂る木々と深い霧が見える事から、ハルツィナ樹海の中であることは確かだ。

 

「…………孤立させられたか………!」

 

まさか、ハジメではなく俺を狙ってくるとは予想外だった。

 

「…………けど、普通に考えたら十分にあり得る事か………」

 

自分で言うのもあれだが、アルファモンとなった俺はあのパーティーの最大戦力だ。

だが、普段の俺は一般人と変わりがない。

なら、ドルモンと分断してしまえば俺は単なる一般人のままである。

 

「…………………まて、俺が敵なら…………」

 

そこまで考えて俺は最悪の予感が脳裏を過った。

その瞬間、ズンッと重い足音が響いたかと思うと、バキバキと木々を薙ぎ倒して森の中から巨大な存在が現れる。

 

「ブモォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

まるで牛の鳴き声の様な声。

それは牛の頭を持った巨人で左腕に機械の拳を付けた成熟期デジモン。

 

「ミノタルモン………!」

 

やはり孤立した俺を仕留めるための刺客が居たようだ。

 

「くっ………! 何とか逃げ切らないと…………!」

 

自分の弱さは自分が一番よく分かっている。

俺が成熟期デジモンと戦って勝てる可能性など万に一つもない。

ならば、生き残るためには逃げるしかない。

俺は脇目も降らずに逃げ出す。

ミノタルモンは巨体だ。

木々が密集している所を駆け抜ければ逃げ切れるかもしれない。

後は魔物と遭遇しない事を祈るだけだ。

俺は木々の間を駆け抜けようとして、

 

「ダークサイドクェイク!!」

 

ミノタルモンが左腕を地面に付けると、凄まじい衝撃が地面を伝わって俺を襲う。

 

「うわぁああああああああああああっ!?」

 

離れていたお陰か致命的なダメージは無いが、体の芯から揺さぶられるような衝撃を受けた。

 

「ぐっ………くそっ!」

 

身体が痺れて思うように動かせない。

ミノタルモンがズシンズシンと足音を響かせて俺に迫ってくる。

そのまま右腕を振りかぶると、俺に向かって殴りかかってきた。

 

「くっ!」

 

俺は咄嗟に横っ飛びしてその拳を避ける。

直撃は避けたが、拳が地面に叩きつけられた時の衝撃はすさまじく、俺はその衝撃で吹き飛ばされた。

 

「うわぁっ………!? がはっ!?」

 

そのまま俺は巨木に叩きつけられ、肺の空気が押し出される。

 

「げほっ! げほっ!」

 

俺は咳き込むが、ミノタルモンは待ってくれない。

鋼鉄の左腕が裏拳の様に振るわれる。

俺は咄嗟に伏せる事によって避ける事が出来たが、後ろの巨木が簡単に圧し折られる。

俺は痛む体に鞭打ってその場を離れようとするが、続けて振るわれた右腕が背中を掠めた。

 

「がっ!?」

 

掠っただけとは言え、その威力は俺を吹き飛ばすには十分な威力を持っていた。

数メートル吹き飛ばされ、俺は地面を転がる。

 

「…………ぐっ………!」

 

俺は何とか身を起こすが、地面を転がった時に頭を切ったのか、頭から血が流れ出ていた。

 

「はぁ………はぁ………」

 

俺は息を吐きながらミノタルモンを見据える。

ミノタルモンは容赦というものを知らないように俺に向かって歩いてくる。

 

「くそっ………成熟期相手に情けない…………!」

 

俺は自嘲する様に呟く。

優花なら余裕で勝てるだろうし、今の葵なら無理をしなければ成熟期デジモン相手でも時間稼ぎをするぐらいは可能だろう。

それに引き替え俺は…………

ミノタルモンが振るう拳を何とか避けるが、再び衝撃で吹き飛ばされて木に叩きつけられる。

 

「ぐはっ!?」

 

内臓が傷付いたのか、口から血を吐き出す。

……………やっぱり俺は、ドルモンが居なきゃ何も出来ない人間なんだ…………

ミノタルモンは止めを刺すつもりなのか、鋼鉄の腕を振りかぶる。

…………俺は弱い。

…………弱くてちっぽけな人間なんだ。

 

「ブモォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

ミノタルモンが唸り声を上げながら左腕を叩きつけた。

それによって木が粉々に吹き飛ぶ。

そして俺は、

 

「……………なーんてことを前世の俺なら考えたんだろうな」

 

その一撃をギリギリで躱していた。

 

「弱いからなんだ! 勝てないからどうした!? だからと言って生きる事を諦める気は毛頭ない!!」

 

前世の俺は間違って死んだと聞かされても何とも思わなかった。

それは前世において自分が生きる意味も、生きる価値も見出せなかったからだろう。

でも、今は違う!

 

「俺は『今』が幸せなんだ! ドルモンが居て、葵と優花が恋人になって、ハジメや仲間達が沢山いる!! そんな幸せな『今』を簡単に手放して堪るか!!」

 

身体はボロボロ。

敵は強大。

戦力差は絶望的。

 

「俺は『生』きる! 何が何でも『生』き抜いてやる!! この気持ちはハジメにだって負けてねぇ!!」

 

ミノタルモンの攻撃を躱しながら俺は叫ぶ。

 

「だから、お前なんかに絶対に殺されたりなんかしてやらねえ!!」

 

それでもミノタルモンの攻撃は俺の身体を簡単に吹き飛ばす。

 

「ぐっ!?」

 

今までよりも強く気に叩きつけられた俺は、一瞬意識が飛ぶ。

次に気付いた時には、ミノタルモンが目前にまで迫ってきていた所だった。

俺は必死に体を動かして立ち上がる。

ミノタルモンは鋼鉄の左腕を今までより大きく振りかぶった。

その腕には今までよりも力が込められている。

直撃を避けたとしても、その衝撃が俺の身体を砕くだろう。

だが、それでも俺は生きる事を諦めない。

 

「ドルモンの為に………葵の為に………優花の為に………! そして何より自分の為に!!」

 

ミノタルモンが俺に向かって左腕で殴りかかってくる。

避けるのは間に合わない。

それでも俺は目の前に迫る『死』に抗って見せる!

俺は自然と拳を握りしめる。

 

「俺は絶対に…………! 『生』きるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

迫りくるミノタルモンの鋼鉄に左腕に、俺は右の拳を繰り出した。

『無理』、『無茶』、『無謀』、『不可能』。

今の俺に、そんな言葉は関係なかった。

目の前の『死』に抗うために。

『生』にしがみ付く為に起こした行動だった。

俺の拳とミノタルモンの鋼鉄の左腕が接触する。

第三者が居たとしたら、俺の行動は『無駄』の一言だろう。

一般人と変わりない俺の拳など、ミノタルモンのパワーの前には無に等しい。

一瞬後には拳が砕かれ、そのまま身体を押しつぶされて終わるだろう。

ミノタルモンもそう思っていたに違いない。

そう思って『いた』…………

その結果は、

 

「ブモォォォォォォォッ!?」

 

ミノタルモンが驚愕の声を上げつつ左腕が大きく後ろに跳ね上げられて、その勢いに耐えきれずに仰向けに転倒する。

 

「…………………………こ、これは………?」

 

そして、その結果を起こした俺自身も困惑した声を漏らした。

何故なら、俺の繰り出した右拳から無数の金色の四角い粒子が溢れ出し、炎の様に揺らめき、宿っていたからだ。

俺は一瞬それが何か分からなかった。

しかし、俺の『前世』の知識に、その光に類似する存在がある事に気が付いた。

 

「ま、まさか…………『デジソウル』………!?」

 

俺の拳から溢れ出る輝きの名を呟く。

何故デジソウルが俺の手に現れているのかと疑問が浮かぶ。

だが、

 

「ブモォオオオオオオオオオオッ!!」

 

ミノタルモンが咆哮を上げて起き上がる。

力負けしたことがプライドに障ったのか、頭に青筋が浮かんでいる様な気がした。

ミノタルモンは左腕を地面に押し付け、

 

「ダークサイドクェイク!!」

 

必殺技の衝撃波を放った。

地面を伝って衝撃波が俺に迫る。

先程は離れていた為軽傷で済んだが、ここまで近いと俺の身体は跡形もなく吹き飛ぶだろう。

俺は、『何故?』と考える事を一旦止め、この輝きを信じる事にした。

 

「こいつが本当にデジソウルなら…………!」

 

俺はデジソウルを纏う右拳を振り被り、

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

その拳を地面に叩きつける。

ドゴォンと小さな爆発音のような音が鳴り響き、地面を抉ると同時に俺に迫ってきていた衝撃波を掻き消した。

 

「ブモォッ!?」

 

ミノタルモンは目を見開き驚愕したような声を漏らした。

俺は立ち上がってミノタルモンを見据える。

俺はデジソウルが宿る右手を顔の前に持ってくると、

 

「デジソウルは人の思いの力…………俺の望みは……………」

 

脳裏にドルモン、葵、優花の顔が思い浮かぶ。

 

「俺は………あいつらと一緒に………生きて行きたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

俺は自分の望みを叫ぶ。

その叫びに呼応する様に右手だけから発生していたデジソウルが体全体から噴き出した。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

デジソウルと同時に、体の奥から力が漲る。

俺は地面を蹴ると、一足飛びでミノタルモンの懐に飛び込むことが出来た。

 

「ブモッ!?」

 

ミノタルモンもその動きは予想外だったのか声を漏らそうとして、

 

「はぁああああああああああああああああっ!!!」

 

それよりも早く俺の拳がミノタルモンの腹に突き刺さった。

 

「ブモッ…………!?」

 

ミノタルモンの身体がくの字に折れ曲がり、

 

「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ………………!!!???」

 

そのまま一直線に吹き飛んでいった。

すると、ミノタルモンが吹き飛んでいった先に空間ゲートが開き、ミノタルモンはそれにそのまま飛び込んで行ってしまった。

 

「空間ゲート…………罠か? それにしてはタイミングがおかしいし…………」

 

俺は少し悩んだが、

 

「行くしかないか………!」

 

俺は意を決してそのゲートに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

【Side 優花】

 

 

 

 

 

「はぁ………はぁ………」

 

私は限界突破の負担からか息を吐く。

大士が空間ゲートに呑み込まれてから大よそ5分………

現れた成熟期デジモンは全て倒す事が出来た。

 

「優花、無茶をし過ぎだ………!」

 

隣にいるバオハックモンが私に呼びかける。

 

「私の事は如何だっていいの………! 早くしないと大士が………大士がぁ………!」

 

1人で戦う術を持たない大士が孤立してしまったと聞いて、最悪の予感が何度も私の脳裏を過る。

すると、耳障りな拍手が聞こえ、

 

「いやいや、見事だ。あれだけの数のデジモンをたった5分で全滅させるとは………15分は時間を稼げる腹積もりだったのだがね…………まさか貴様達もデジモンの下僕を増やしていたとは予想外だ」

 

私は即座にあの男の頭を貫きたい衝動に駆られたけど、大士の居場所を把握しているのはあの男だけなので、何とか自制心を働かせて我慢する。

葵や南雲達、成熟期に進化したデジモン達もそれは分かってるのか無暗に攻撃することは我慢している。

 

「大士の居場所を教えなさい…………! 今なら半殺しで許してあげるわ………!」

 

私は最大限の譲歩としてそう提案する。

すると、フリードは余裕の笑みを浮かべ、

 

「そこまで言うのなら仕方あるまい。無残な小僧の死体を見て絶望するが良い」

 

フリードは詠唱を始める。

そして長い詠唱が終わった時、空間ゲートが開かれた。

私は罠の可能性すら考えずにそのゲートに飛び込もうと足に力を入れた瞬間、

 

「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!???」

 

その空間ゲートから凄まじい勢いで何かが飛び出してきた。

その何かはそのまま木々を薙ぎ倒しながら地面に激突する。

 

「ブ、ブモォ…………!」

 

その牛頭の巨人は弱々しく鳴き声を上げる。

 

「なっ!?」

 

フリードが驚愕の声を上げた。

 

「あれは………」

 

「ミノタルモン 成熟期 ウィルス種 獣人型デジモン。必殺技は『ダークサイドクェイク』」

 

香織がそのデジモンのデータを読み上げる。

その時、

 

「………っと!」

 

空間ゲートから今度は人影が出てきた。

それは、

 

「「「大士!!」」」

 

私、葵、ドルモンが叫ぶ。

そこに居たのは、頭から血を流してボロボロだけど、しっかりと自分の足で立っている大士の姿だった。

生きててくれた。

私の心に安堵と喜びが広がる。

 

「何だと!?」

 

私達とは逆にフリードが驚愕の表情で叫ぶ。

すると、

 

「くっ! どんな手を使ったかは知らんが所詮は手負い! この場で仕留めてやる!!」

 

フリードが乗っている灰竜に命じて大士に向かってブレスを放とうとした。

 

「大士!」

 

私は即座に大士を助けに行こうとして…………

 

「えっ?」

 

目を見開いた。

 

「そう言えば………お前には優花を傷付けられた借りがあったな…………!」

 

何故なら、普通の人と変わらないステータスしか持たない筈の大士が、低空とは言え空中を飛んでいる灰竜の背に乗っているフリードを見下ろせる位置まで跳躍したからだった。

 

「ずっと………お前をこの手で直接殴ってやりたいと思っていた…………! その借り、今ここで返させてもらう!」

 

振りかぶった大士の拳に、金色の光が宿る。

 

「あれは………?」

 

「何………? あの光………?」

 

私と葵が声を漏らす。

次の瞬間、大士が拳を繰り出した。

 

「はぁああああああああああああああっ!!」

 

「チィッ!?」

 

フリードが手下の亀形の魔物に命じて障壁を張る。

南雲のレールガンですら10発近くは耐える事の出来る強固な障壁。

その障壁に大士の拳は止められ、フリードは余裕の笑みを浮かべた。

 

「フッ…………何ッ!?」

 

次の瞬間、フリードの余裕の笑みは驚愕の表情に変わった。

ビキリッと障壁に大きな罅が入ったからだ。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

大士の叫び声に呼応する様に右手の光が勢いを増し、バキィィィィンと言う音共に障壁が砕け散り、

 

「うぉらぁっ!!」

 

大士の拳がフリードの頬に叩き込まれた。

 

「おごぉっ!?」

 

フリードは変な声を上げて吹き飛ばされる。

吹き飛ばされたフリードは木を何本が圧し折りながら突き進んだ後、太い木に叩きつけられて止まった。

 

「あ………が………!?」

 

声が漏れているから生きてはいるみたいね。

その時、大士が地面に着地する。

 

「大士!」

 

ドルモンが一目散に駆け寄り、

 

「「大士!」」

 

私と葵が次いで駆け寄る。

 

「ドルモン………葵………優花…………」

 

大士は私達を見て笑みを浮かべる。

 

「大士、無事だったんだね!」

 

ドルモンが嬉しそうな声でそう言う。

 

「ああ……何とかな」

 

そう返事をする大士は頭から血を流したり所々ボロボロで辛そうだった。

 

「大丈夫? すぐ治すね」

 

葵が再生魔法を発動させて大士の傷を癒す。

見る見るうちにボロボロだった大士が元通りになった。

 

「ふう………ありがとう葵。助かったよ」

 

大士は葵にお礼を言うと、先程最初に吹き飛んできたミノタルモンを見据えた。

その右手には、先程の金色の輝きが宿っている。

 

「大士………その光は………?」

 

私は思わず尋ねる。

 

「ん? ああ、コイツはデジソウルって言うんだが……………まあ、ピンチになって俺の秘められた力が発現したって感じか?」

 

大士は自分でもよく分かって無さそうな言い方をした。

その時、

 

「ブモォォォッ!」

 

ミノタルモンが最後の力と言わんばかりに力を振り絞って立ち上がった。

 

「ッ! 大士、進化を!」

 

ドルモンが私達を護る様に前に立ちはだかる。

 

「ああ!」

 

大士はその声に応えてDアークを取り出し、進化カードを取り出そうとして、

 

「…………ん?」

 

その動きを止めてしまった。

 

「大士、どうしたの?」

 

カードを取り出す事を止めてしまった大士に葵が不思議そうに尋ねるけど、大士は左手に持ったDアークと右手に宿る輝きを交互に見つめていた。

 

「…………まさか、出来るのか………?」

 

大士が何かを呟く。

すると、大士は改めてドルモンを見ると、

 

「ドルモン、悪いが少し試したいことがある! もしかしたら何か起きるかもしれないし、何も起きないかもしれない。正直未知数なんだが………いいか?」

 

大士はドルモンにそう確認した。

ドルモンは大士に振り返ると、

 

「よくわかんないけど…………俺は大士を信じてるから!」

 

笑ってそう言った。

 

「そうか……………なら行くぞ! ドルモン!!」

 

「いつでもいいよ! 大士!」

 

大士の言葉にドルモンが応えると、大士はDアークを前に突き出す。

そのDアークの画面に文字が刻まれる。

 

―――EVOLUTION

 

「デジソウル………チャージ!!」

 

そのDアークに、大士は金色の光が宿る右手を翳した。

Dアークにその光が吸い込まれ、進化の光が放たれる。

その光を受けたドルモンが進化を始めた。

 

「ドルモン進化!」

 

それは今までとは違う進化。

金色の体毛と機械化されたボディを持つ獣竜。

無垢のクロンデジゾイドの重量で抑制しなければいけない程のパワーを秘めたサイボーグ型デジモン。

 

「ラプタードラモン!!」

 

目の前に現れた、各部をサイボーグ化した機械竜。

 

「ドルガモンじゃない………!?」

 

私は思わず呟く。

 

「ラプタードラモン 成熟期 ワクチン種 サイボーグ型デジモン。必殺技は『クラッシュチャージ』と『アンブッシュクランチ』」

 

葵がそのデジモンのデータを読み上げる。

 

「これがドルモンの………新しい進化!」

 

大士がそう言い放つ。

 

「ブモォォォォ…………!」

 

ミノタルモンは進化したラプタードラモンに一瞬怯んだ様だったけど、

 

「ブモォオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

覚悟を決めて突進してくる。

 

「行け! ラプタードラモン!!」

 

「おおっ!」

 

大士の言葉にラプタードラモンは応え、機械の翼を広げて宙に浮くと、

 

「クラッシュチャージ!!」

 

各部が機械化された事により鋭利になった身体を使って突撃した。

ラプタードラモンとミノタルモンがぶつかり合う。

そして次の瞬間、ラプタードラモンがミノタルモンの身体を貫いた。

 

「ブモォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ…………!?」

 

ミノタルモンは断末魔の叫びを挙げてデータ粒子に分解される。

 

「よし!」

 

大士はガッツポーズをして勝利を喜ぶ。

 

「あ………そう言えば………!」

 

そこで大士は思い出したように先程殴り飛ばしたフリードを確認するが、そこには既に誰も居なかった。

多分、空間魔法で逃げたんでしょうね。

 

「しぶとい奴め………」

 

大士は少し悔しそうに呟く。

 

「けど、ま……………また挑んで来たら、また殴り飛ばしてやるさ」

 

そう言って私達の方を振り返った大士の顔は、何処かスッキリとした笑顔だった。

 

 

 

 

 






第49話の完成。
大士覚醒の回。
燃えろ、俺のデジソウル!
って感じです。
オマケにデジソウルチャージでドルモンが別進化ルートへ。
これがデジソウルを使うことになって思付いたネタの1つです。
次回は大迷宮ですが果たして…………
次もお楽しみに。

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