ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第51話 理想世界

 

 

 

俺の名は■■ ■■。

田舎町の中小企業に勤めるしがない会社員だ。

俺の一日は、朝起きて、顔洗って、朝飯食って、会社行って、仕事して、ミスして、怒られて、会社が終わって、帰宅して、夕飯食って、風呂入って、パソコンで小説や漫画やアニメ見るかゲームして、そして就寝する。

その繰り返しだった。

生きる意味も生きる価値も見いだせず、このまま独り身のまま一生を終えると思っていた。

だけど、今は違う。

俺は自宅の玄関の戸を開けると、

 

「「お帰り!」」

 

2人の少女の明るい声が響き渡った。

 

「ああ、ただいま。葵、優花」

 

俺は笑みを浮かべて2人にただいまと言う。

この2人は葵と優花。

つい最近家に転がり込んできた少女達だ。

この2人は30過ぎのこの俺に一目惚れをしたという変わり者で、献身的に俺を支えようとしてくれる。

掃除や洗濯、身の回りの世話をしてくれる葵。

料理が得意な優花。

驚くことにこの2人は争い合おうとはせず、葵が正妻、優花が愛人と、既に2人の間で合意しているらしい。

家に帰れば既にお風呂が沸いており、仕事で疲れた体を癒してくれる。

風呂から出れば、丁度良く夕食の準備が出来て皆で一緒に夕食を楽しめる。

至れり尽くせりな生活に、俺は幸せを感じていた。

 

『………………い…………………し……………』

 

「ッ!?」

 

不意に声が聞こえた気がした。

 

「どうしたの?」

 

俺の様子に葵が心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「な、なあ? 今、声が聞こえなかったか?」

 

「声? 何も聞こえなかったけど?」

 

「私も」

 

葵と優花はそう答える。

 

「………………気の所為だったのか?」

 

俺はそう思う事にしたが、今聞こえた声は、何故か気になった。

 

 

 

夜。

俺は物思いに耽っていた。

何故だろう?

葵が居て、優花が居て、とても満ち足りているのに、何かが足りない気がする…………

 

「………………何だ? 何が足りない…………?」

 

俺はいつも傍にいた筈の誰かが居ない気がしてならなかった。

その足りない『何か』を探ろうとした時、

 

「「おじゃましま~す」」

 

俺の部屋に葵と優花の2人が入って来た。

しかも、2人ともパジャマ姿で何処か扇情的だ。

 

「えへへ………今日も一緒に寝て良い?」

 

「良いわよね? 答えは聞いてないけど………」

 

この2人とは何度も床を共にしている。

勿論、その先も毎日の様に…………

そして今日もベッドに誘われ、俺はその誘いに身を任せ……………

 

―――ピロピロピロピロッ ピロピロピロピロッ 

 

ようとした時、机の方から電子音が聞こえた。

独特の電子音。

それに俺は呼ばれているような気がした俺は、その音の出所を確かめようとして、手を引っ張られた。

 

「ねえ、あんな音は如何でもいいからさ、早く始めようよ………!」

 

「ええ、今日も私達を好きにしていいわよ…………あなたの望むことなら、どんなことでも応えてあげる…………!」

 

急かすように俺を誘ってくる葵と優花。

 

―――ピロピロピロピロッ ピロピロピロピロッ 

 

その間も俺を呼ぶようになり続ける電子音。

どちらに傾くか迷っていた俺に、葵と優花は服を脱ぎ出し、その抜群のスタイルを惜しげもなく晒す。

 

「ね? 早く私を気持ちよくして…………!」

 

「こんないい女達を前にして他の事に気を取られるの?」

 

俺がその誘いに傾こうとした時、

 

「「ね? ■■」」

 

その2人が俺の名を呼んだ。

 

「ッ!?」

 

それに、強烈な違和感を覚える俺。

思わず2人に歩み寄ろうとした足を止める。

 

「どうしたの?」

 

俺の行動に首を傾げる。

 

「…………もう一度、俺の名を呼んでくれないか?」

 

「「■■」」

 

「ッ!?」

 

やはり強烈な違和感を覚える。

2人は今までそんな名前で俺を呼んでいたか?

 

「ッ!」

 

俺は2人の手を振り切って踵を返す。

 

「「あっ! ■■!」」

 

2人は驚いたように俺を呼ぶが、俺はそれには応えず、もう1つの俺を呼ぶ声に応える。

 

―――ピロピロピロピロッ ピロピロピロピロッ

 

今までずっと鳴り続けていた電子音。

俺は机の引き出しに手を掛ける。

引き出しを開けると、ごみごみした引き出しの中にある、仄かに輝く物体が目に入る。

俺はそれを手に取った。

それは、携帯ゲーム機器のデジモンペンデュラムX。

ずっと昔に買って、暫くデジモンを育てた後、電池切れのまま放置してしまった物だ。

 

「……………………………」

 

―――ピロピロピロピロッ ピロピロピロピロッ

 

俺を呼ぶ電子音は、そのデジモンペンデュラムXから聞こえていた。

そして、電池切れでもう映らない筈の液晶画面にドット絵で映っていたのは、

 

「………………ドルモン…………!」

 

俺がその名を呟いた瞬間、

 

『大士!!』

 

その名で俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

「ッ…………! そうだ! 俺は…………!!」

 

俺は本当の自分を思い出した。

 

「俺は黒騎 大士だ!!」

 

そうだ、俺はハルツィナ樹海の大迷宮でいきなりスライムにされた後、何とか皆と合流して、次のエリアの転送陣に乗った後、意識を失って……………

 

「くそっ! 迷宮の試練の術中にハマっていたのか!」

 

俺は今の状況になった理由に思い当たった。

俺は手の中のドルモンを見る。

 

「…………ゴメンな。ほんの少しの間とは言え、俺がお前を忘れるなんて…………!」

 

俺はドルモンを忘れていた事の謝罪と共に、そのデジモンペンデュラムXを握りしめる。

すると、それは俺の手の中で強い光を放った。

デジモンペンデュラムXが形を変え、Dアークとなって俺の手に収まる。

 

「ああ。すぐにお前の所に戻る」

 

俺はそのDアークを掲げると、Dアークから眩い光が放たれ、この世界を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

「…………し………! た………し…………! 大士!」

 

意識が浮上するにつれて、俺を呼ぶ声がハッキリと聞こえる。

そして俺の目の前にいたのは、

 

「……………ドルモン?」

 

「よかった! 気が付いたんだね大士!」

 

ドルモンが安心した表情をする。

俺はそんなドルモンをじっと見つめ、

 

「大士?」

 

「いや、呼びかけてくれてありがとな。ドルモン」

 

そう言って俺はドルモンの頭を撫でた。

 

「ここは………?」

 

俺がそう言いながら身を起こすと、

 

「おう大士、起きたか?」

 

ハジメが声を掛けてきた。

見れば、白崎さんやユエ、シア、ティオ、葵、優花がいた。

勿論デジモン達も。

 

「葵………優花………」

 

俺は本物2人を見て思わず笑みを浮かべた。

つーか、今思うと30過ぎのおっさんが女子高生に手を出すって普通に犯罪だよな。

夢の内容を改めて思い返すと、自己嫌悪に陥る。

 

「どうしたの? 笑ったと思ったらいきなり項垂れて?」

 

「いや、何でもない…………ちょっと自己嫌悪に陥ったぐらいだ」

 

優花がそう言って来たので、そう言って誤魔化す。

 

「ハジメ………ここは?」

 

「おそらく次の試練の間だろうな。見ろよ」

 

そう聞くと、ハジメが顎でしゃくる様に横を見る様に言う。

そちらに視線を移すと、まるで琥珀の柩に納められたような姿の八重樫さんや天之河、坂上、谷口さんの姿があった。

 

「お前も見たと思うが、この試練は恐らく、過去に受けた大きな苦痛を伴う出来事をなかったことにして、その上で今ある幸せを組み込んだ世界を見させられるって感じなんだろう。で、その誘惑を振り切って目覚める事がこの試練の合格者ってわけだ」

 

「なるほどね」

 

今の俺からすれば、前世の俺は確かに苦痛だろうな。

独り身で過ごしていた俺に葵と優花と言う恋人が出来たわけだ。

ふと見ると、葵が少し俯いていたような気がした。

 

「葵? 元気無さそうだけどどうかしたのか?」

 

「えっ? そ、そんな事ないよ! ちょっと夢見が悪かっただけで…………!」

 

「幸せの夢を見せられるのに夢見が悪いってあるのか?」

 

「その…………何て言うか、訳の分からない夢だったから…………」

 

「訳が分からない?」

 

「うん……………」

 

「そういや、神代は俺よりも早く目が覚めてたな。デジモン達には元々この試練の効果は及ばなかったみたいだが…………」

 

「訳が分からなかったから、すぐに起きれたんだけどね」

 

葵が苦笑しながらそう言う。

 

「それで、残ってるメンバーは如何するんだ?」

 

「暫くは待つ。無理なら強引に柩を壊して目覚めさせる。試練は不合格だろうがな」

 

それでもここに放置されるよりはマシか…………

天之河ぐらいはそのまま夢の中で放っておいても…………

と、その時、柩の1つが輝き始める。

 

「あの琥珀は………」

 

「雫でござる!」

 

白崎さんが呟き、コテモンが大きく反応する。

パートナーとして心配だったようだ。

 

「やっぱり、八重樫は自力で脱出できたか」

 

「ふむ、雫はしっかりものじゃからのぉ」

 

ハジメとティオが予想通りと言わんばかりに頷く。

 

「ここは……コテモン、香織?」

 

「うん、私だよ、雫ちゃん。お帰りなさい」

 

「良く戻ってきたでござる。雫」

 

「そう、戻って来たのね。ふぅ、何だかえらく疲れたわ……」

 

八重樫さんは大きく溜息を吐くと、何かを振り払うように頭を振る。

すると、ハジメが歩み寄っていき、

 

「乗り切れたようで何よりだ。八重樫」

 

「へ? あ、な、南雲くん……そ、そうね。何よりだわ」

 

ハジメの顔を見ると、ちょっとどもりながら返事を返す。

 

「……光輝達は、まだのようね」

 

「うん、私達のパーティーは全員出られたけど、光輝君たちはまだ………」

 

「そう、厄介な試練だものね。仕方ないか……」

 

「気にしなくていいですよ、雫さん。脱出おめでとうです。……それで、ちょっと聞きたいんですけど……」

 

「ありがとう、シア。ええ、何かしら?」

 

その言葉に答えたのはシアでは無くユエだった。

 

「……雫。どんな夢だった?」

 

「え? どんなって、普通の夢よ。何の変哲もない、ええ、それはもう普通の夢だったわ」

 

「……普通? 誰が出てきた?」

 

「誰って、みんなよ。みんな出てきたわよ」

 

「……そう」

 

八重樫さんは明らかに聞かないでほしいという雰囲気を醸し出している。

ユエ達もそれ以上追求しようとはしなかった。

因みにその後の休憩時間の時、

 

「……私がお姫様とか有り得ない……大体、王子役が何で光輝や龍太郎じゃなくて……ブツブツ」

 

とか呟いていたのは聞かなかった事にしておこう。

尚、残りの3人は半日待っても目覚めなかったので琥珀を壊して強制的に起こすことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

【Side 葵】

 

 

 

 

 

今回の試練。

皆の話では不幸な過去を現在の幸せを組み込んだ形で理想の世界の夢を見せられるというものだったみたいだけど、私が見た夢は訳が分からなかった。

皆は夢の中で自分自身が現実の様に動けたみたいだけど、私の場合は、『私』の意志とは無関係に動く夢の中の私を、自分の中から見ている様な状態だった。

夢の中の私は女神で、蒼銀の髪になってて背中には白い翼があった。(背中に翼があったのは天使フェチの大士に喜んでもらえそうだったけど…………)

私は運命を司る女神で日々下界で生きる人たちの為に力を使っていた。

でもある日、夢の中の私はほんの僅かなミスをしてしまった。

その所為で、1人の男性の運命が狂い、その命を終わらせてしまう。

夢の中の私は酷く後悔し、幸福な運命を迎える前に死なせてしまった男性に負い目を感じて、罰を受ける前に罵詈雑言を全て受け入れるつもりでいた。

運命の神の中では頂点に立つ上級神様の計らいにより、その男性は異世界に転生することになる。

でも、その人が転生する前に、

 

『女神様! 先程の要望を変更します! 俺を死なせてしまった女神様の可能な限りの減刑でお願いします!!』

 

『彼』は上級神様にそう進言した。

上級神様が『彼』にこれから幸福になるはずだった人生を私が台無しにしてしまった事を伝えても、

 

『別に物凄く惜しくて残念とは思いますけど、俺の願いは変わりません。可能な限りの減刑をお願いします』

 

そう言って『彼』は夢の中の私を赦し、転生していった。

 

「出てきなさい」

 

そう言われて私は姿を見せる。

 

「あなたも知っての通り、1人の運命を狂わせるという事は、その者の子、孫、その後の子孫達の運命全てを狂わせてしまったという事です」

 

「はい……………」

 

「何より、彼は普通より多くの子を残す筈でした。その彼を死なせたことはそれだけ多くの命を失わせたという事です」

 

「はい、理解しています…………」

 

「本来であれば、幽閉どころかあなたの存在の消滅すら視野に入れなければいけないほどの大罪です」

 

「はい………この度の罪はこの身を以って…………」

 

「…………ですが、彼の願いを無為にするわけにもいきません」

 

「えっ…………?」

 

「下級神アルオイス」

 

「は、はい!」

 

「あなたに罰を言い渡します。あなたはこれより人間に転生し、下界で暮らしなさい」

 

「えっ?」

 

「もちろんそれだけではありません。転生させた彼は、言わばその世界にとってはイレギュラー。運命は彼を誰とも結ばれることを許さないでしょう。故に、あなたが彼と共に歩み、彼を支えなさい。それがあなたに対する罰であり、あなたが彼にしてあげられる償いです」

 

「は、はい!」

 

「転生の際に女神としての力と記憶は封印されますが、運命は必ずやあなた達を引き合わせるでしょう」

 

上級神様はそう言って私の足元に魔法陣を発生させる。

 

「さあ行きなさい。あなたの人生に幸あらん事を」

 

私はそのまま光に包まれ、ある世界の1人の女の子として転生した。

そう。

神代家の家族の許に『(わたし)』として……………

そこで私は目が覚めた。

 

「何だったんだろう…………あの夢は…………?」

 

私は誰にも聞こえないように呟く。

『運命神アルオイス』

この名前が、妙に懐かしい気がした。

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 






第51話です。
どうだったでしょうか?
大士は過去を更に遡って前世と理想が融合してしまいました。
まあ、ドルモンとの友情で乗り切りましたが。
一方、葵は自分の正体に近付いて…………?
さて、次回をお楽しみに。




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