ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第53話 二大剣士! グレイドモン&セイバーハックモン!!

 

 

 

 

「……………………………ん?」

 

どれだけの時間が経ったのかは分からないが、ずっと耐えてきた衝動がスッパリと消えて無くなった。

 

「…………終わったのか?」

 

俺は呟く。

見れば、ユエやシアもきょとんとしてハジメを見上げている。

 

「もう大丈夫?」

 

優花が問いかけてきたので、俺は頷く。

 

「ああ、もう平気だ。さっきは悪かったな。いきなり怒鳴っちまって」

 

「気にしてないわよ。それよりも、お疲れ様」

 

「ああ…………」

 

優花のねぎらいの言葉が身に染みる。

 

「葵は大丈夫そうだったが…………よく耐えたな」

 

俺は葵に向き直るとそう言う。

 

「ティオほどじゃないけどね。耐えることは難しくは無かったよ」

 

「そうか」

 

ハジメ達の方を確認すると、未だにユエとシアがハジメに抱き着いていて、白崎さんや八重樫さんから小言を貰っていた。

尚、勇者(笑)パーティーの3人は、快楽の衝動に耐えきれず、全員気絶していた。

 

 

 

 

 

 

ハジメが錬成で作り上げた壁で、男性陣と女性陣で分かれて粘液で汚れた衣服を変えた後、俺達は次のエリアに進んだ。

転移した場所は再び洞の中だったが、視線の先には出口が開いており、このまま進めと言いたげだった。

ハジメの魔眼石でも仲間の偽物は見受けられず、警戒しながらも先へ進むと、

 

「これは……まるでフェアベルゲンみたいだな」

 

ハジメが思わず呟いた。

目の前には光景は巨大な枝がそのまま通路となり、その枝の元である巨樹に繋がっている。

あれは…………

 

「……大樹?」

 

「そういうことになりますよね。ここは大樹の真下の空間ってことですか」

 

「でもそれだと、地上に見えてた大樹って……」

 

「ふむ、地下の幹から枝が生えているということは、本当の根はもっとずっと地下深くということじゃ。ならば、地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうじゃの? いやはや、大樹の存在は知っておったが、まさかあれがほんの一部だったとは……」

 

「本当の大きさはどれくらいになるんだ?」

 

大樹の本当の大きさを予想しながら俺達は枝の通路を進む。

通路の中ほどまで来た時、シアのウサ耳がピクピクと動いた。

何かが聞こえるのか、シアは通路の端まで移動し、下を覗き込む。

 

「ん~? 暗くてよく見えないです。……あの、ハジメさん」

 

「どうした?」

 

「何だか下から嫌な感じの音が聞こえてくるんです。でも私の目じゃ暗くて正体が……」

 

「ああ、俺に確認しろってことか」

 

「はい、お願いします。何か、蠢いてる? そんな感じの音です」

 

「……嫌な音だってことはよくわかった」

 

シアの言葉にハジメは確認の為に通路の端に歩いていく。

ハジメ以外にも、同じように〝夜目〟と〝遠見〟を持つ白崎さんと優花が一緒になって覗き込んだ。

次の瞬間、

 

「「「……………ッ!?」」」

 

ズザザザッと擬音が聞こえてくるほどの勢いで3人が後退りし、顔を青くしている。

 

「ハ、ハジメさん!? カオリさん!? 一体、どうしたんですか! ハジメさん達がそんな反応するなんて……一体何を見たんです?」

 

「……ハジメ、大丈夫?」

 

「優花?」

 

心配になった俺も優花に声を掛ける。

その優花は、青い顔のままブルブルと身体を震わせていた。

 

「お、おい? どうしたんだよ?」

 

尋常でない優花の様子に、俺は何があったのかを問いかける。

すると、それに答えたのはハジメだった。

 

「……悪魔がいる」

 

「「「「「「「「「「悪魔?」」」」」」」」」」

 

その言葉に全員が首を傾げる。

 

「ああ、悪魔だ。お前等もよく知っている黒い奴等だよ……」

 

「そうだね…………特に、台所に出てくるアレだね…………」

 

白崎さんも震える声でそう言う。

ハジメはそれだけ言うと、クロスビットを1機だけ出し下方に飛ばすと、小型の水晶ディスプレイを皆が見えるように掲げた。

そこに映し出されたものを見て、

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

人間全員が絶句した。

そこに映っていたのは、大量と言う言葉ですら生温い数のゴキブリ。

男女問わず嫌悪感を感じさせる仇敵だった。

まあ、正確には地球のそれに近い魔物か昆虫なのだろうが。

 

「な、なんてもの見せるのよ……」

 

「うぇ、GがGがあんなにいっぱい、いっぱいぃ~。ユウカリン、飲食店だから対策はばっちりでしょ? あれ何とかして~!」

 

「む、無茶言わないで! 1匹2匹ならともかく、流石にあんな数は無理よ!」

 

女性陣は目を背ける。

 

「ど、如何したというのだ? 皆は………? 単なる虫の大群だろう?」

 

ハックモンが混乱する俺達を見て困惑する。

 

「いや、ああいう虫は人間にとって嫌悪感を及ぼすみたいなんだ。動きとか見た目とかが気持ち悪いらしいよ」

 

人間の生活もある程度知っているドルモンがそう説明した。

 

 

「……ハジメ、焼き払おう」

 

ユエが物騒な事を言う。

白崎さんやティオも同じ意見の様だ。

 

「……やめといた方がいいんじゃないか。あの数だぞ? ……撃ち漏らしが大量に飛んできたらどうする」

 

「「「……」」」

 

「メタルグレイモンなら1匹残らず焼き尽くす事も可能かもしれないが…………」

 

「「「!」」」

 

ハジメの言葉に期待の眼差しを向けるが、

 

「大樹にも致命的なダメージを与える可能性が高いな」

 

その言葉でガックリと項垂れる。

 

「とにかく、落ちなきゃ大丈夫だ……と思う。先に進んで、さっさと攻略しちまおう。ここに止まっていたら、それこそ襲われるかもしれないしな」

 

ハジメの言葉にいつになく真剣な表情で全員が頷いた。

 

 

 

俺達は慎重にしながらも出来るだけ先を急ぎ、枝が複雑に絡み合って広場になっている場所まで来た。

その時だった。

 

―――ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴッ!!!

 

俺達に耳に聞きたくなかった音が聞こえる。

羽音だ。

それも大量の。

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

俺達は慌てて眼下を確認する。

そこからは決してあり得て欲しくなかった現実の光景。

無数のゴキブリが羽を羽搏かせながら飛んでくる光景だった。

 

「うぅおおおおおお!!」

 

「やぁあああああ!!」

 

「ひぃいいい!!」

 

「くるなぁあああ!!」

 

「ッ――――!!」

 

阿鼻叫喚を響かせながら、それぞれが咄嗟に放てる遠距離攻撃をぶっ放した。

それはあらゆる魔物を塵も残さず殲滅する程の威力。

しかし、それだけの攻撃も目前の『数』の暴力の前には無に等しかった。

もう間もなくゴキブリの波が俺達に到達する。

 

「うぅ、――〝聖絶ぅ〟!」

 

半泣きになりながら谷口さんが障壁を張る。

一度俺達の頭上にまで上昇したゴキブリの群れが、滝の様に俺達に向かって降り注いだ。

障壁にぶつかって潰れるゴキブリや、外面を這うゴキブリ。

その光景は純粋に気色悪いの一言。

 

「――む、り」

 

その光景に耐えきれなかった谷口さんが、フッと意識を失いかけた。

その背を天之河が咄嗟に支える。

 

「鈴ぅ! 寝るな! 寝たら死ぬぞ! 俺達の精神がっ!!」

 

その言葉は今までにないほど必至だ。

それもそうだろう。

これだけのゴキブリの波に呑み込まれれば、確実に精神に異常をきたす程のダメージを受ける。

 

「香織、ユエ、重ねて防御を頼む」

 

「も、もちろんだよ!」

 

「……ん、絶対破らせない!」

 

ハジメの言葉に白崎さんとユエが谷口さんの障壁に沿うように新たな障壁を張る。

その障壁の周りには、ゴキブリがびっしりと張り付いて内部は薄暗くなっている。

 

「何だか、この迷宮に来てからこんなのばっかりですね……」

 

「今までの大迷宮以上に厄介極まりないの~。ふむ、やはり、他の大迷宮の攻略を前提にしておるだけに、あるいは難易度も数段上に設定されておるのかもしれんな」

 

「れ、れれれ、冷静に分析してないで何とかしないと!」

 

「香織、大丈夫よ、問題ないわ。あれは唯の黒ごまだもの。黒ごまプリンとか黒ごまふりかけとか、私、結構好きよ。特に〝黒ごまふりかけしょうゆ風味〟は美味だわ。ご飯がとてもすすむの」

 

「雫ちゃん!? どうしよう、雫ちゃんが既に壊れかけてるぅ!!」

 

冷静沈着が売りの八重樫さんも混乱の極みにいる様だ。

俺も嫌悪感を感じつつも、この場をどう乗り切るか考えを巡らしていた。

 

「どうするかな…………炎で焼き払おうとすれば足場が焼け落ちてゴキブリの群れに真っ逆さまだし、完全体に進化させても物理特化なドルグレモンにはこんな大群の殲滅は無理だし……………」

 

「またメルジーネ海底遺跡の時みたいにホーリーエンジェモンのヘブンズゲートで亜空間に送っちゃう?」

 

葵の言葉に俺はそうだなと頷き、

 

「これだけの大群だと処理に時間は掛かるかもしれないが、それが妥当かな?」

 

俺と葵がそう言ってカードを取り出そうとした時、突如として結界に群がっていたゴキブリが一斉に退いた。

 

「何だ?」

 

俺が怪訝に思って様子を伺うと、ゴキブリの波は空中で集まって球体を形作ると、それを囲む様に円環上に集まり始めた。

 

「おいおいおい、まさか……魔法陣を形成してるのか?」

 

ハジメが危機感を感じて叫ぶと、一斉に攻撃を始めるが、無数のゴキブリがそのゴキブリ魔法陣を護る様に集まり、いくつもの壁を形成する。

ハジメ達の攻撃は、その壁を一枚抜くごとに減衰され、ゴキブリ魔法陣には届かなかった。

 

「ディアボロモンの逆襲のクラモンと同じような事しやがったな…………」

 

俺はゴキブリの動きを見て、そんな事を思い出した。

そんな中、ゴキブリ魔法陣は完成し赤黒い魔力の光を放つ。

すると、中央のゴキブリの集まった球体が形を変えて、全長3mほどの巨大ゴキブリとなった。

おそらくボス級の魔物だろう。

 

「ギギチチチチチチッ!!!」

 

ボスゴキブリは、そんな気持ちの悪い鳴き声を上げると、赤黒い光を放ちながら周囲にゴキブリを呼び集め、複数の球体を作らせる。

おそらくボスゴキブリを護る為の親衛隊を呼び出そうとでも言うのだろう。

しかし、ハジメはそんなものを悠長に待っているほどお人よしでは無い。

 

「チッ、させるッッ!?」

 

「……んっっ!?」

 

ハジメとユエが魔法陣に攻撃を加えようとした時、突然足元から魔力の奔流が発生した。

おそらく、俺達が立っている足場の裏側に魔法陣が形成されていたのだろう。

ハジメがそれを止める間もなく魔法陣が発動する。

赤黒い光が辺りを包み込み、その強烈な光に俺達は顔を庇う。

しかし、一向に身体に変化はなく、俺が何か変化はないかと目を開けた。

身体を見て見るが、特に異常はなく、ならばと周りを見渡し、すぐ傍にいた葵、優花、ドルモンが視界に入った時だった。

いつもなら葵、優花に感じるのは愛しさ。

ドルモンに感じるのは無二の友情と信頼。

だが、今俺の心に沸き上がって来た感情は、これ以上無い憎悪と嫌悪感だった。

 

「ッ!?」

 

異常なのは自分でも自覚している。

それでもドルモン達に対する嫌悪感が止まらない。

そしてそれは、ハジメ達も同じだった。

 

「香織、ユエ」

 

「ハジメ君…………」

 

「……ハジメ」

 

ハジメは白崎さん、ユエと数秒見つめ合った後、

 

「……お前らのことが滅茶苦茶憎いんだけど」

 

「……ハジメ君のことを凄く憎く思ってる」

 

「……あなたのことが凄く憎い」

 

不快感を露にしながら物騒なセリフを口にする。

次の瞬間、ハジメはドンナーを白崎さんへ。

シュラークをユエへ突きつける。

対する白崎さんも即座に抜いた銃をハジメへ。

ユエは蒼炎を宿らせた右手をハジメへ向ける。

 

「相棒!? 何やってんだ!?」

 

「香織!?」

 

「ユエ!?」

 

パートナーデジモン達がその行動に驚愕する。

そこに、

 

「ちょっと、何をしているんですか、二人共」

 

そこに戦槌を担いだシアが間に割って入り、

 

「お三方をぶっ殺すのは私ですよ? 勝手なことしないで下さい」

 

「シア!? 一体如何したというのだ!?」

 

寧ろ3人よりも物騒なセリフでそう言い放った。

その目には憎悪と殺意を宿らせている。

クダモンもその行動には驚愕している。

 

「お、おい、お前達、南雲に何をする気だ! 南雲に手を出す気なら俺も黙ってはいないぞ!」

 

そこに割り込んだのは天之河だ。

普段の天之河なら信じられない行動だ。

これはまさか………

 

「……どうやら、さっきの光は感情を反転でもさせるみたいだな。強弱は元の感情の強さに比例してるみたいだが。デジモン達は影響を受けていない様だがな」

 

「……ん。お前と同意見なのは不本意だけど…妥当」

 

「だね」

 

ハジメの呟きにユエと白崎さんが嫌々ながらも同意している。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

その言葉にデジモン達が驚愕する。

 

「なるほどの。記憶、あるいは紡いできた絆を以て反転した感情を振り払い元に戻れるか、あるいは、悪感情を抱いたままでも今までの自分達を信じて共に困難に挑めるか……嫌らしい試練じゃ。質が悪いのは、絆が深ければ深いほど反転した時の嫌悪感は大きくなるという点じゃな。何より……」

 

ティオがそう言いながら障壁の外のゴキブリに目を向けると、

 

「……愛らしく見える」

 

ティオの言葉通り、記憶の上では嫌悪する存在と分かっていても、今現在ゴキブリに抱く感情は、小動物を前にした感情に近い。

 

「大士………もしかして大士も?」

 

ドルモンが不安そうに俺を見上げる。

 

「ぐ…………自分が異常だという事は理解してるが、今の俺はお前達を憎悪している………」

 

俺は自分の感情に耐えながらそう言う。

ハジメ達があの様な過激な行動を取ったのは、普段から感情のままに動く性格だからだろう。

その為、『普段』は理性的なティオは嫌悪感を感じつつもある程度冷静でいられていて、俺や優花もハジメ達の様な過激な行動に出ることは無い。

それでも、ドルモン、葵、優花への友情や愛情が反転しただけあり、気を抜けば殺意を持って行動しそうだ。

俺は少しでもマシになるようにドルモン達に背を向けて視界に入れないようにする。

 

「大士…………」

 

ドルモンの寂しそうな声が聞こえる。

ドルモンにそんな声を出させているのに、ざまあみろと思っている自分が逆に腹立たしい。

 

「……………………」

 

俺は握り拳を握りしめながらその怒りに耐える。

その時だった。

トンっと背中に軽い衝撃が来る。

 

「ッ………?」

 

俺が振り向くと、そこには葵が俺の背に縋り付くようにしていた。

 

「葵っ………!」

 

沸き上がる嫌悪感。

俺は反射的に葵を振りほどこうと…………

 

「大士…………私は大士を愛してる…………それは未来永劫変わらない………」

 

その言葉に俺は目を見開いた。

 

「お前っ………感情の反転が効いてないのか!?」

 

ハジメや優花ですら抗う事が出来なかったこの術に、葵は掛かっていない事に驚愕する。

 

「安心して…………大士がいくら私を憎んでも…………私は大士をずっと愛してるから……………」

 

その言葉に、俺の右の拳にデジソウルが発生する。

そのまま俺は拳を振り被り…………

 

「ふざけんなっ!!」

 

「大士っ!?」

 

自分の額を殴りつけた。

ドルモンが驚愕の声を上げる。

デジソウルが俺の頭の中を突き抜け、痛みと同時に頭の中の異物が消えた気がした。

俺はゆっくりと顔を上げる。

殴った時に額が割れたのか、右の拳には血が付いていたが、その程度俺の過ちに比べれば罰にもならない。

 

「葵…………」

 

俺は振り向きながら葵を視界に収める。

その心に沸き上がって来た感情は、やはり『愛しさ』だった。

 

「葵………!」

 

俺はもう一度葵の名を呼んで葵を抱きしめる。

先程、一時とは言え葵を憎んでしまった謝罪も込めて強く抱きしめた。

 

「大士………!」

 

葵も嬉しそうな声を漏らして俺の背中に手を回した。

もっとそうしていたい気分だったが、今はまだやるべきことがある。

葵から身体を放すと、一度俺を心配そうに見上げるドルモンに視線を落とし、

 

「すまないドルモン…………変な術に掛かったとはいえお前を憎むなんて………俺はテイマー失格だな………」

 

その言葉にドルモンは首を横に無る。

 

「そんな事ない。大士はこうやって自力で元に戻ってくれた。それだけで十分だよ!」

 

ドルモンの言葉に、俺はドルモンの頭を撫でる。

 

「ありがとう」

 

ドルモンはその手を気持ちよさそうに受け入れた。

それから、俺は自分を必死に抑えている様子の優花に向き直ると、迷わずに足を踏み出した。

 

「ッ………だ、駄目ッ!」

 

優花はそう拒絶の言葉を口にする。

しかし、俺は構わず優花へ近付いていく。

 

「駄目………! 来ないで………! 今近付かれたら…………私……大士を殺しちゃう…………」

 

記憶の愛情と現在の殺意が入り混じって混乱しているのか、優花は必死に俺に制止を呼びかける。

それでも俺は止まらずに優花の前へ辿り着くと、俺は優花を抱きしめた。

 

「ッ…………!?」

 

こうやって抱きしめると、優花が必死に自分を自制しているのか、身体が強張っているのが良く分かる。

 

「は、離して………嫌なの…………抱きしめられるのも………大士を憎みながら殺すのも…………」

 

優花は涙を流しながらそう訴える。

だから俺は、

 

「嫌だ。こんないい女を放す筈ないだろ」

 

そう言って断った。

 

「大士…………」

 

「それに、お前になら殺されても悔いはない」

 

「……………馬鹿」

 

何となくだが、強張っていた優花の身体から力が抜けていっている気がする。

俺は優花を抱きしめていた力を緩めると、優花と視線を交わす。

その目には、まだわずかだが戸惑いが見受けられた。

俺は右手で優花の顎を上げると、

 

「あ……………」

 

迷わずにその唇に、口付けした。

優花は一瞬目を見開くが、決して抗おうとはせずにその口付けを受け入れている。

少しして唇を放すと、俺は優花を見て、

 

「優花………俺の事、どう思ってる?」

 

そう問いかけた。

優花は少し頬を赤くすると、

 

「………好きよ………大好き………! 愛してる………!」

 

そうはっきりと口にした。

もう一度口付けを交わす俺達。

少し名残惜しいと思いながら優花から離れると、優花はハックモンに向き直り、

 

「ハックモン………ごめん…………私、ハックモンの事も憎んでた」

 

「だが、こうして元に戻った………優花、やはり君は私のテイマーだ!」

 

「ハックモン……!」

 

ハックモンの言葉に優花は嬉しそうに微笑みを浮かべる。

俺はそれを見届けると、いつの間にか戦闘を開始していたハジメ達を…………ボスゴキブリ達を見据える。

 

「……………さあ、俺達の『絆』を弄んでくれた借り、纏めて返してやろうぜ!!」

 

俺は右の拳にデジソウルを発生させながらそう叫んだ。

デジソウルは俺の怒りに応えるように今までよりも大きく燃え上がっている。

 

「そうだね…………一時でも私達の想いを踏みにじったのは、絶対に許せない!」

 

葵の言葉に呼応する様に、葵の持つカードがブルーカードへと変わる。

 

「私達の怒り…………そう簡単に納まると思わない事ね!」

 

同じように優花の持つカードもブルーカードへと変わった。

 

「「カードスラッシュ!」」

 

葵と優花が同時にブルーカードをDアークへとスラッシュする。

 

「「マトリックスエボリューション!!」」

 

ブルーカードをスラッシュした瞬間、

 

「クル~~~~~!?」

 

クルモンの額のマークが光を放つ。

 

――MATRIX

  EVOLUTION――

 

2人のDアークにその文字が刻まれ、光を放つ。

 

「リュウダモン進化!」

 

リュウダモンは光の中で完全体のヒシャリュウモンへと進化する。

 

「ヒシャリュウモン!!」

 

そして、

 

「ハックモン進化!」

 

ハックモンが光の中で成熟期のバオハックモンへ。

更にそこから完全体への進化を始める。

四足歩行から二足歩行の竜人の姿へ。

赤いマントを翻し、両腕と尻尾の先に赤い刃。

両足も鋭い刃の、計5本の刃を持つ竜人型デジモン。

 

「セイバーハックモン!!」

 

そして俺は、デジソウルを心のままに燃え上がらせる。

 

――PERFECT

  EVOLUTION――

 

Dアークにその文字が刻まれた。

 

「デジソウル…………フルチャージ!!」

 

全身から溢れたデジソウルをDアークに纏めて叩き込む。

その液晶画面からレーザービームの如く光が放たれ、ドルモンを包んだ。

 

「ドルモン進化!」

 

光の中でドルモンはラプタードラモンへ進化。

そこから更なる進化を開始する。

獣竜の姿から竜人の姿へ。

その身を金色に輝かせ、青いマントをはためかせる。

ラプタードラモンが進化した戦士型デジモン。

 

「グレイドモン!!」

 

3体の完全体デジモンがその場に降臨する。

 

「グレイドモン 完全体 ワクチン種 戦士型デジモン。必殺技は、『クロスブレード』と『グレイドスラッシュ』」

 

優花がグレイドモンのデータを読み上げ、

 

「セイバーハックモン 完全体 データ種 竜人型デジモン。必殺技は、『レッジストレイド』、『メテオフレイム』、『トライデントセイバー』」

 

俺がセイバーハックモンのデータを読み上げた。

 

「これがハックモンの…………」

 

「これがドルモンのもう1つの………」

 

「「完全体!」」

 

俺と優花の言葉が重なる。

すると、ハジメ達が戦っているゴキブリの波とは別の波が迫ってくる。

因みに結界はハジメ達が飛び出した際に砕けている。

その為、ゴキブリが津波の様に俺達に押し寄せ……………

一瞬のうちに細切れにされた。

グレイドモンは双剣を抜き、セイバーハックモンが両腕と尻尾の刃を煌めかせている。

グレイドモンは剣技だけならあのロードナイトモンを凌ぐと言われており、その正確な剣筋は小さな的でも正確に捉える。

セイバーハックモンは、両手両足に加えて尻尾の先にも刃を持つ、五刀流とも呼べる剣の使い手だ。

剣技ではグレイドモンに劣っても、その手数はすさまじく、大量の敵にも押し負けない。

 

「今のうちに!」

 

葵がカードをスラッシュする。

 

「カードスラッシュ! ホーリーエンジェモン! ヘブンズゲート!!」

 

ヒシャリュウモンが空中で環を形作り、異界への門を開く。

その門の吸引力に抗う力を持たないゴキブリ達は吸い込まれ、亜空間へと消えて行く。

とは言え、その物量は簡単に吸い込みきれるものではなく、またまだ大量にいる。

 

「クロスブレード!!」

 

グレイドモンが降った十字の斬撃が衝撃と共にゴキブリの波を十字に切り裂く。

 

「トライデントセイバー!!」

 

セイバーハックモンの繰り出す両腕と尻尾の赤い斬撃が周辺を纏めて吹き飛ばす。

この2体の力は完全体とは言え、近接戦闘に特化しているため、周りに被害を及ぼしにくい。

この不安定な場所でも安定して戦う事が出来ていた。

迫りくる波はグレイドモンとセイバーハックモンが殲滅し、残りは次々とヒシャリュウモンのヘブンズゲートに吸い込まれている。

そして、

 

「グレイドスラッシュ!!」

 

グレイドモンが上段から二刀を振り下ろした時の衝撃で広範囲を吹き飛ばし、

 

「レッジストレイド!!」

 

セイバーハックモンがさながらラ◯ダーキックの如く、飛び蹴りの要領で突撃しながら切り裂き、その衝撃で周りの大群も消し飛ばしていく。

残っていたゴキブリが全てヘブンズゲートに吸い込まれ、それとほぼ同時にハジメ達がボスゴキブリに止めを刺した。

 

 

 

 

 

「そういや大士達は俺達よりも早く克服してたな。何でだ?」

 

戦闘が終わった時、ハジメがそう聞いてくる。

 

「何でと言われても…………愛の力?」

 

「…………お前が『愛の力』とか言っても似合わねえな」

 

「うるさい! でも、俺が術を克服できたのも葵のお陰だしな。別に嘘は付いてないぞ」

 

「私は何でか分からないけど、術が効かなかったみたいだから」

 

葵はあははと笑いながらそう言う。

 

「術が効かなかった? 俺達でもあっさりかかったのに?」

 

「………ん、おそらく魂魄魔法だと思う」

 

ハジメとユエがそう言う。

 

「それはさっきも言ったけど分からないよ。私は特に何もしてないけど………」

 

「葵は元々精神的な攻撃に強いんじゃないかしら? 確かメルジーネ海底遺跡でも亡霊に取り憑かれて自力で如何にかしたのよね?」

 

「私は覚えてないけど………」

 

「まあ、分からんものは仕方がない」

 

俺はそう言ってこの話を終わらす。

 

「そう言えば八重樫さんは如何だったんだ?」

 

俺は話の流れを変える為に八重樫さんにそう振る。

 

「あ~、どうなのかしら? 最後の方は普通にゴキブリを気持ち悪いと思っていたけれど……」

 

八重樫さんは自信無さげにそう言うが、言葉からして克服できた可能性は高いだろう。

それとは打って変わって勇者(笑)パーティーはどんよりと落ち込んでいた。

おそらく術を克服できなかったのだろう。

そうこうしているうちに、天井近くの大樹の一部が輝き始めてそこから新たに枝が伸び始める。

それは、先程ゴキブリのボスが現れた広場に繋がり、階段の様に上へ続く道となる。

俺達はそれを見ると頷き合い、新たな道を登り始めた。

 

 

 

 

 






第53話です。
たかだかゴキブリ相手に完全体に進化するのも何だかなーって思わないでもないですが、絆の再確認という事で進化させました。
何気に優花のキスシーン初めてだったり(爆)
実際は何度もしてますけどね。
まあ、葵も一回か。
次回は…………神代魔法の取得と…………どうしよう?
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