ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第57話 氷雪洞窟

 

 

 

 

足を踏み入れた【氷雪洞窟】はまるでミラーハウスの様だった。

磨き抜かれたガラスの様に氷の壁が光を反射して俺達の姿を無数に映し出している。

更に洞窟内にも拘らず、雪が常に舞っている。

そしてそれはただの雪では無く、かなりの低温で触れただけで凍傷を引き起こす程のものだ。

先程から谷口さんの障壁から出てしまった坂上達が凍傷になって白崎さんに治癒してもらうという事が度々あった。

更に氷の壁の中には、この大迷宮攻略に失敗したであろう者たちの亡骸が冷凍保存されているのだ。

それは、その洞窟を歩く者達に精神的に負荷をかける。

俺達は度々発見するトラップを躱しながら先へ進む。

暫く歩いた時、

 

「ん? ……またか」

 

ハジメが氷の中に埋もれた亡骸を発見する。

 

「……これで五十人。ほとんど魔人族」

 

「だな。おそらくだが、フリードが攻略したことで挑む人数も増えたんじゃないか?」

 

「もしくはフリードが攻略する際に道半ばで倒れた奴らか………だな」

 

ユエの言葉にハジメが推測を言い、俺は序に口を挟む。

 

「ふむ。攻略情報があれば行けると踏んだのじゃろうが……やはり、そう簡単にはいかなかったようじゃのう。他のルートのことも考えると、どれだけの者が挑んだのやら」

 

「でも、国を挙げて挑んだのなら、そのフリードっていう人以外にも攻略できた人がいる可能性はあるよね。もしかしたら、思ったよりも軍の再編が早く終わるかも」

 

白崎さんがそう言う。

すると、

 

「リリィ達が心配だわ……………内通者の可能性は徹底的に潰したし、大結界も完全に修復されている。大結界を警備する兵士達も、一度破られているせいで高い危機意識を持っている。それに向こうは、あのレーザー兵器が損壊していることを知らない。少なくとも直ぐに攻められることはないと思うけど…………」

 

八重樫さんがすぐの進軍は無いだろうと予測しつつも、リリアーナ王女の心配をする。

 

「……安心してくれ、雫。力を手に入れて狂った神を倒し、人間も魔人も皆、俺が救って見せる。ここに残ってリリアーナ達も俺が守る。全ての神代魔法を手に入れれば、いずれ自力で帰れるからな。俺は、誰も見捨てない」

 

「光輝……」

 

天之河は相変わらずだな。

誰も見捨てないって事は、誰もが平等に危険に襲われる可能性もあるって事だけどな。

あと、全ての神代魔法を手に入れたとしても、簡単に力が手に入ると思い込んでる時点で楽観が過ぎる。

希望を持つと言えば聞こえはいいが、タカト達の言葉と比べると、どうにも言葉に重みが無く、気分のいい言葉を並べているように思える。

タカトだって最初は世界を救おうとしたわけでは無く、デジモンへの強い憧れから偶然にもテイマーとなった。

それからクルモンと友達となり、そのクルモンがスーツェーモンの配下に攫われたので、クルモンを助ける為にデジタルワールドへ。

デーヴァやスーツェーモンと戦う内にデ・リーパーの存在を知ったが、その時は四聖獣や他のデジモン達に任せてクルモンを連れてリアルワールドに帰還した。

天之河の様に、積極的に争いに介入しようとしたわけでは無いのだ。

そのすぐ後にリアルワールドにデ・リーパーが現れ、その危険性を知っていたタカト達はそれを止めようとして、その中でジュリがデ・リーパーに捕まっていたことを知り、タカトの戦う理由はジュリを助け出す事が一番の目的になった。

世界を救うためと言う理由は勿論あったのだろうが、タカトが戦った理由の半分以上はジュリを助けるためだったのだろう。

ジュリを助け出す事が結果的に世界を救う事に繋がっただけの話だ。

1人の『大切』を救う為に多数の仲間達が全力を尽くした。

いや、1人を救う為だからこそ全力を尽くせる。

そして全力を尽くしたからこそ世界を救った。

それがタカト達だ

勿論世界を救ったのは俺を含めたタカト達テイマーズだけではない。

山木さんやワイルドバンチの人達といった数多くの人達が全力を尽くした。

直接デ・リーパーと戦ったのは俺やタカト達だが、彼らの力無くしては決して世界を救う事は出来なかっただろう。

彼らの行動の結果、デジモン達と別れることになってしまったが、それは彼らが『全力』を尽くした結果だ。

その事で彼らを恨んではいないし、ドルモンと再会した今となっては全く気にしていない。

だが、天之河は1人で多数の人を救おうとしている。

いくらそれで全力を尽くそうとしても、1人の力なんてたかが知れている上に、その上守るものが多すぎる為に、その全力も分散されて、全力を出し尽くす事が『出来ない』。

それは結果的に多くのものを失う結果にもなりえる。

天之河はそれが理解できていない。

自覚して、なお全てを護りたいというのならそれを貫く意志の強さとなるのだが、無自覚に全てを護ると口にしているだけの今の天之河は、単なる理想論者に過ぎない。

そんな奴に、俺は背中も命も預けたくはない。

現に今も天之河の目はハジメに対して非難する様な眼を向けている。

無意識にハジメに対して当てつけを行っているのだ。

ハジメはその視線に気付いており、あえてスルーしている様だが。

そんな空気に八重樫さんが少しおろおろしていると、

 

「まぁ、知らない仲でもないしな。頼まれたのなら、帰る前に姫さんへ贈り物くらいはしてやるさ。ヒュベリオンとか、大陸間弾道ミサイルとか、高速軌道型戦車とか、慣性と重力を無視した戦闘機とか……」

 

ハジメが口を開く。

相変わらず自重というモノを知らない。

 

「ちょっ、な、南雲くん? 女性への贈り物にしては物騒すぎないかしら? この世界のパワーバランスが崩壊するわよ」

 

「知ったことじゃないなぁ。まぁ、一応、使用者制限はかけてやるさ。王族と王族が許可した奴だけ使えるみたいにな。なんなら王都を要塞化でもするか。ノイントレベルが来ても撃退できるレベルで」

 

言っていることは無茶苦茶なように思えるが、それらは全てハジメが作成可能な物であり、言い方はおかしいが現実的な案だ。

少なくとも、天之河の根拠の無い『護る』という言葉よりは、確実に作れるハジメの方が信用度は遥かに上だ。

今現在のハジメの中のリリアーナ王女の立ち位置は、今まで知り合った人達の中では普通以上大切未満と言った所だろう。

恐らくはただのクラスメイトよりは上だと思う。

それでも『大切』の為には切り捨てる側だ。

最低限以上の援助はしないだろう。

 

「おまえらも、魔人領から帰った後、どうするのかきちんと決めておけよ。この世界に残るか、俺らと共に帰るか。待ったはなしだからな」

 

「うん。決めるのは恵里と話してからだけど……」

 

「俺は光輝に付き合うぜ」

 

ハジメが勇者(笑)パーティーにそう呼びかけ、それぞれが頷いた。

そのまま先へ進んでいくと、十字路に出た。

ハジメが羅針盤を確認しようとした時、

 

「ッ………! みんな気を付けて! 何か来るわ!」

 

気配感知で何かを捉えた優花が警告を飛ばす。

 

「魔物か? ようやく出て来たな。どこからだ?」

 

「……全部よ」

 

「なに?」

 

優花の言葉にハジメが聞き返す。

 

「4方向全部よ!」

 

「後ろからもか?」

 

今まで進んできた道からも魔物が近付いてきているという事実にハジメは驚きを見せる。

一先ず背中合わせとなって4方向全てに警戒していると、それは暗がりの向こうから現れた。

 

「「「「「ヴァアアアアアアアア…………!」」」」」

 

姿形は人だが、その肌は血色を失って青白くなっており、表面にも霜を貼り付かせている。

 

「こいつら……まさか氷壁の死体か?」

 

「……魔人族以外もいる。さっき見た奴」

 

「生きて……いたわけじゃないよね。まるでゾンビみたい」

 

「リアルバイオハザードかよ…………」

 

メルジーネ海底遺跡の時といい、何でこうもホラー系を使うのかね解放者は。

流石にこいつらを拳で殴りたくはない。

普通なら慌てるべきなのだろうが、生憎ここには核兵器にすら匹敵する戦力が揃っている。

ゾンビ程度に囲まれても大した脅威には思えない。

デジモン達を成熟期に進化させつつゾンビたちを薙ぎ払い、このゾンビを操っている魔石をハジメが羅針盤で見つけ、アピールの為に魔石の破壊を勇者(笑)パーティーに任せて俺達はゾンビの殲滅に集中し、再生しながら向かって来る相手を合計で4桁以上倒した頃、八重樫さんのフォローがあったが勇者(笑)パーティーが魔石の破壊に成功した。

 

 

 

 

次の試練は所謂迷路だった。

天井は開けていたが、大迷宮がそんな単純なわけないと仲間内では思っていたが、坂上が脳筋宜しく即行動に移してトラップに引っかかったりしたが、とりわけ問題無く進んでいるように思えた。

だが、迷路を暫くすすんで、中間地点かチェックポイントと思われる扉を潜ってから変化が訪れた。

鏡と見間違うほどに光を反射する氷の道を進んでいた時、最初の異変は天之河だった。

突然立ち止まってキョロキョロし始めた。

 

「光輝? どうしたの?」

 

「あ、いや、今、何か聞こえなかったか? 人の声みたいな。こう囁く感じで……」

 

「ちょ、ちょっと、光輝くん、止めてよ。そういうのはメルジーネで十分だよ」

 

天之河の言葉にホラー系が苦手な白崎さんが声を上げる。

因みに内心俺もビクついたのは秘密だ。

 

「他に何か聞こえた奴はいるか? シアはどうだ?」

 

ハジメが念のために確認を取る。

 

 

「いいえ、私には何も聞こえませんでした。人の気配も、ここにいる皆さん以外には感じません」

 

シアがそう言う。

他の皆も、俺を含めて何も聞こえなかったようだ。

 

「……確かに、聞こえたと思ったんだけどな……」

 

「ちょっと気を張り詰めすぎなんじゃねぇか?」

 

「……そうかもな」

 

誰も聞こえていないという事で、天之河は気の所為で済ます事にした様だ。

 

「……シア。頼むぞ」

 

「はいです」

 

念のために耳がいいシアに警戒を頼むハジメ。

そのまましばらく進んでいると、

 

「っ、まただ! やっぱり気のせいじゃない! また聞こえた!」

 

「こ、光輝?」

 

再び天之河が声を上げた。

 

「嘘じゃない! 今度ははっきり聞こえたじゃないか! 〝このままでいいのか?〟って!」

 

「いや、光輝。俺には何も聞こえなかったぜ?」

 

「くそっ! 誰だっ! どこにいる! コソコソしてないで姿を見せたらどうだっ!!」

 

「光輝、落ち着いて」

 

イラつきを抑えられない天之河。

 

「シア」

 

「いえ、私にも全く……」

 

ハジメは再びシアに確認を取るが、やはり聞こえていないという。

 

「……ハジメ。魔力反応は?」

 

「ない。ゾンビの時もそうだったが、この迷宮の氷壁はどうも魔力反応を隠蔽する能力でもあるみたいだ。あまり魔眼石はあてにならないな」

 

「ふむ。大迷宮のプレッシャーにでも負けて精神を病んでいる可能性もあるが……それにしては唐突すぎるのぅ。何らかの干渉を受けていると考えるのが妥当じゃろう」

 

「でも、シアの耳でも聞こえない上に、ハジメくんも感知できないなら防ぎようがないね」

 

「そもそも音として耳で聞いてるわけじゃなさそうだ」

 

仲間内で話し合う俺達。

 

「天之河、取り敢えず落ち着け」

 

「っ、南雲。本当なんだ。確かに、俺は……」

 

「わかっている。お前の気のせいで片付けるつもりはない」

 

「えっ?」

 

自分の言葉をあっさりと肯定したハジメの言葉に、天之河は呆けた声を漏らす。

 

「何らかの干渉を受けている、そう考えておくべきだろう。それが、この迷路の試練の一つだと言うなら、天之河だけでなく、ここにいる全員が干渉を受ける可能性が高い。今のところ、防ぐ手立てが思いつかないからな。全員、十分に注意しろ」

 

「いよいよこの迷宮の本格的な試練が始まったって事か」

 

ハジメの言葉に俺達は頷き、警戒を更に上げて先を目指す。

 

「っ、また……」

 

天之河は再び声が聞こえたのか声を漏らす。

しかし、迷宮の試練と結論付けているので、取り乱すことは無かった。

 

「……聞き覚えがある?」

 

「光輝。大丈夫?」

 

「あ、ああ。大丈夫だ。ただ、どこかで聞いたような声だと思って……」

 

「……ハルツィナでは擬態能力を持った魔物もいたし、知っている誰かを真似ているのかもしれないわね。惑わされちゃダメよ。何かあったら、直ぐに言いなさい」

 

「ありがとう、雫。雫こそ気を付けろよ。南雲の言う通りなら、雫にもその内、聞こえるようになるかもしれない」

 

「ええ。注意するわ」

 

天之河と八重樫さんはそう言葉を交わす。

何だかんだで八重樫さん、やっぱり面倒見がいいよなぁ……

勇者(笑)パーティーからは抜けたが、それなりに放っては置けないらしい。

すると、今度は八重樫さんの表情も強張った。

 

「雫……」

 

「……ええ。私にも聞こえたわ。女の声だった。どこか聞き覚えがあるのも一緒。〝また、目を逸らすのかしら〟って聞こえたわ」

 

「……俺は男の声で〝気がついているんだろう?〟だった。どうやら、聞く相手によって言葉は変わるみたいだな」

 

八重樫さんに続いて、坂上と谷口さんも慌てて周りを見渡す素振りを見せたので聞こえるようになったらしい。

 

「お前らは何て言われたんだ?」

 

「えっと、鈴は光輝くんと似てるかな。〝本当は気がついていたよね?〟って」

 

「あぁ~、俺は、〝何を躊躇う必要がある?〟だったな」

 

「……えらく抽象的だな。惑わすには間接的に過ぎるような気がするが……」

 

「因みに2人の声は男? 女?」

 

ハジメ達の会話に俺が口を挟む。

 

「鈴は女の子の声だったよ」

 

「俺は男だ」

 

「ふむ…………今の所、男には男の声が。女には女の声が聞こえてるって事か………」

 

2人の言葉を聞いて、俺はそう判断する。

すると、

 

――お前が女性から愛されると本当に思っているのか?

 

「ッ……………!」

 

俺にも男の声が聞こえた。

 

「どうしたの?」

 

ドルモンが心配そうな表情を向けてくる。

 

「いや、俺にも声が聞こえるようになったみたいだ」

 

「ほう? お前は何て?」

 

「『お前が女性から愛されると本当に思っているのか?』、だとさ」

 

「………本当に何なんだ? 統一性が無い………」

 

ハジメが顎に手を当てると、

 

「多分だけど、これ自分の声だと思うぞ」

 

「自分?」

 

「ああ。皆、男には男の声が。女には女の声が聞こえてる。勿論俺が聞こえた声も男だ。で、自分の心に巣食う心の闇………不安なんかの負の感情を煽ろうとしてる感じがする」

 

「そう言われれば………そんな気も………」

 

俺の言葉に谷口さんが同意を示す。

 

「つまり心の中の負の感情を煽られても、それに負けず、自分の心に打ち勝つって言うのがこの迷宮のコンセプトなんじゃないか?」

 

「なるほどな………お前が言うなら可能性は高い。聞いたな? 声に一々惑わされんなよ!」

 

ハジメがそう言って先へ進み始める。

俺も歩き出そうとして、

 

「ん?」

 

両側から腕を絡めとられた。

葵と優花だ。

 

「どうした?」

 

「さっきの話って、要は大士が私達の愛を疑ってるって事よね?」

 

「だからしっかりと行動で証明してるの」

 

2人はそう言う。

 

「疑ってるわけじゃないんだが……………」

 

「だからそんな不安が吹き飛ぶぐらいに………」

 

「ちゃんと愛を示してあげる………!」

 

この2人ほんと可愛いです。

真面目な話、2人を疑ってるわけじゃないが、無意志に不安になっている部分はあったんだろう。

だからこの迷宮の試練に引っかかった。

俺は気を取り直して先へ進む。

暫くすると、

 

「ッ……………!」

 

俺の腕を抱きしめていた優花がピクリと震えた。

 

「優花? 聞こえたのか?」

 

ハックモンが優花を見上げながら訪ねる。

 

「………ええ。『分け隔てなく愛してくれるなんて、本当に思ってるの?』、だって。はぁ………私も大士の事言えないわね」

 

優花は片手で額を抑えて首を振る。

そんな優花に、俺は彼女の肩に手を回して抱き寄せた。

 

「ッ………!?」

 

「安心しろ。手放す気は更々無い」

 

俺は思い切ってそう言った。

 

「大丈夫、言われなくても分かってるわ………」

 

優花は俺の肩に頭を乗せるように身を寄せてきた。

暫く歩いていると、どうやらハジメや白崎さん、ユエ、シア、ティオも声が聞こえてきた様だ。

それと、やはり直接作用する魔法はデジモン達には効かないのか、デジモン達には声は聞こえていない。

だが、

 

「……………何で私には聞こえないのかな?」

 

葵がそう呟く。

彼女以外の全員が聞こえるようになってから暫く経つが、一向に葵には声が聞こえる様子が無い。

 

「もしかしたら、無意識に干渉に抗っておるのかもしれんのぅ」

 

ティオがそう言う。

 

「………ん、ハルツィナ樹海でも反転の魔法の効果を受けてなかった」

 

ユエも過去の事実を口にする。

 

「でも、スライムの媚薬効果はちゃんと受けてたよ?」

 

白崎さんがそう言うと、

 

「そちらは精神的な攻撃では無く、肉体に影響を与えるものだったからでは無いか? アオイは、メルジーネ海底遺跡の亡霊、ハルツィナ樹海の好意の反転、そして今回の己の心の闇の声…………恐らくだが、魂や精神…………魂魄魔法に類する影響をアオイは完全に無効化しておる」

 

「本当に何かしてる心当たりは無いんだけど…………」

 

葵も何故自分が影響を受けていないのか分からない様だ。

少なくとも、影響を受けていない事で困ることは無いので一先ず先に進むことにした。

因みにハジメは日本に帰っても人殺しが受け入れられるのかという類の声が聞こえているらしいが、ハジメは特に気にしていなかった。

時折来る魔物を退けながら迷路出口を目指して進んでいると、

 

「うわぁあああっ!?」

 

「こ、光輝!? どうしたの!?」

 

「大丈夫か、光輝!」

 

突然天之河が声を上げた。

今までとは違い、本当に驚いたような声だ。

 

「光輝?」

 

肩で息をする天之河に八重樫さんが声を掛ける。

 

「……壁に、壁に映った俺が笑ったんだ。俺は笑ってないのに……まるで別の誰かみたいに……」

 

「見間違いじゃないのね?」

 

八重樫さんが確認の為に聞き返すと、

 

「……信じてくれないのか?」

 

「え? いえ、別に疑ってないわよ?」

 

それを天之河は疑いの言葉と判断したらしく、声のトーンが低くなる。

 

「……南雲だったら、すんなり信じるんだろう?」

 

「光輝? 本当に何を言っているのよ? 疑ってないって言っているでしょう?」

 

「光輝殿! 様子がおかしいでござるぞ!」

 

傍らにいたコテモンもそう声を上げる。

 

「今のところ動く気配はないが……なるべく注意しておこう」

 

ハジメは壁に映る自分を見ながらそう呟いた。

しばらく進み、広い空間に出ると、やがて大きな扉が見えた。

 

「ふぅ、ようやく着いたようだな。あの門がゴールだ。だが……」

 

「ん……見るからに怪しい」

 

「ですねぇ。大きい空間に出たら大抵は襲われますもんねぇ」

 

「そこだけは何処の迷宮も一緒だよね」

 

ハジメ、ユエ、シア、白崎さんがそう言う。

 

「……相変わらず、反応はねぇのな。園部は?」

 

「同じく。何も感じないわ」

 

感知系がずば抜けている優花も何も分からない様だ。

 

「まぁ、行くしかないか」

 

ハジメはそう言うと、先陣を切って進み始める。

しばらくは何事もなく進めたのだが、部屋の中央辺りまで来た時、

 

「あ? ……太陽?」

 

ハジメの言葉に俺達が上を見上げると、そこには強く輝く光の球が存在した。

ハジメの言う通り太陽と言っても過言ではない。

しかし、ここは迷宮内で雪煙に包まれている。

あれが太陽でないことは明白だ。

 

「……ハジメ。周りが」

 

ユエの言葉に周りを見渡すと、ダイヤモンドダストの様に舞う氷の粒がキラキラと輝いている。

それだけなら綺麗な光景で済むのだが、どう見てもそのキラキラが強く輝き出しているのだ。

そして同時に、背筋に悪寒が走る。

 

「皆! 防御を!!」

 

俺は咄嗟に叫んだ。

 

「ッ! 〝聖絶〟!!」

 

俺の声に応えて白崎さんが障壁を張る。

その瞬間、周りの氷の粒からレーザーの様に光線が発射された。

氷の粒の動きに会わせてそのレーザーが縦横無尽に駆け回る。

更に上空にあった雪煙が降りて来ていた。

 

「チッ、煙に包まれるのは面倒だ。一気に駆け抜けるぞ」

 

ハジメの言葉で白崎さんは聖絶を変化させ、複数の盾状にすると、周囲に展開させてパーティーの動きに会わせて移動できるようにした。

 

「行くぞ!」

 

ハジメの言葉に合わせて全員が駆け出す。

レーザーが障壁に当たると障壁が削られるが、白崎さんは即座に修復して決して破らせない。

そのまま扉に辿り着けるかと思ったが、そうは甘くなかった。

巨大な氷塊が目の前に落ちてきたと思ったら、人型に形を変えた。

言うなればフロストゴーレムだろう。

 

「チッ、本命か」

 

落ちてきたフロストゴーレムは12体。

デジモンを除いた人数と同じ数だ。

出口を塞ぐ様に並んでいるので戦闘は免れないだろう。

 

「蹴散らすぞ」

 

ハジメの言葉で全員が戦闘態勢に入る。

ハジメが先制攻撃としてドンナーとシュラークによる攻撃を行う。

フロストゴーレムは盾を構えると銃弾を受ける。

銃弾によって盾は粉々になったが、本体には届いていなかった。

耐久力はすさまじいものがある。

 

「だが、問題ない」

 

「その通りですぅ!」

 

「蹴散らしてくれるのじゃ!」

 

ハジメに続いてシアとティオが攻撃を行う。

続いて天之河、坂上、八重樫さんが攻撃を行った。

ハジメとシアに向かって。

 

「「っ!?」」

 

「え?」

 

3人は自分のした行動が理解できないといった顔をした。

そう言う俺も驚いている。

ハジメとシアはその攻撃を難無く躱すが、

 

「……何のつもりだ?」

 

「し、雫さん? 私、何か気に障ることでも?」

 

ハジメは敵意を、シアは困惑を3人に向ける。

 

「ち、違う! 俺は、そんなつもりなくて……気がついたら……ホントなんだっ!」

 

「あ、ああ、そうだぜ! 南雲を攻撃するつもりなんてなかったんだっ! 信じてくれ!」

 

「ごめんなさい、シア! でも、自分でもわけが分からないのよ。敵を斬るつもりだったのに……」

 

3人は必死に弁明を口にする。

すると、フロストゴーレムの1体がハルバードを振りかぶっていたので、

 

「おらぁっ!!」

 

俺はデジソウルを纏った拳で迎撃する。

ハルバードは砕けたが、拳を繰り出した時、何か囁く様な声が聞こえた気がした。

 

「…………声?」

 

俺はあまり影響を受けなかったようだが、何か意識を引っ張られるような感覚を覚えた。

 

「ハジメ、攻撃の直前に声がした。多分、無意識に攻撃目標を変更されようとしてる!」

 

俺はそう言う。

 

「チッ、あれは意識誘導みたいなものだったってことか?」

 

「それだけかはわからんがの。ご主人様やユエ、シア、妾が余り影響を受けていないことと符合するのではないか?」

 

「……厄介。無意識領域に干渉されるのは解除が難しい」

 

「こうなったら全員死ぬ一歩手前までド突き回して……」

 

「おおぃ! 物騒な事言ってんじゃねえぞ! ここは影響を受けないデジモンに任せるのも手だぞ」

 

「だが、これが迷宮の試練だと考えると、出来るだけデジモンの手は借りたくない」

 

ハジメはそう言ってデジモン達に戦わせるのに難色を示す。

いや、今までも結構デジモンの手を借りたけどな。

それでも迷宮のコンセプトに直接関わるような事で手は借りて無いか。

その時、降りて来ていた雪煙が地面に到達してしまう。

 

「もうっ、結局、どうするの!」

 

谷口さんが叫ぶ。

雪煙は隣り合う仲間の姿すら認識できなくさせようとしていた。

その瞬間、

 

「全員、遠慮せず襲って来たゴーレムをぶち壊せ!」

 

ハジメの声が聞こえた。

確かにそれが一番いいだろう。

恐らく、天之河と坂上がハジメに。

八重樫さんがシアに攻撃したのにはおそらく理由がある。

天之河は見るからにハジメに嫌忌感を持ってるし、坂上は分からないが、八重樫さんは恐らく無意識の嫉妬だ。

となれば、他のメンバーが攻撃を受ける可能性は低いだろう。

いつの間にか葵や優花とも逸れた俺は目の前のフロストゴーレムを見据える。

再生させたハルバードを振りかぶる。

 

「大士!」

 

ドルモンは俺を見失わなかったようだ。

 

「ドルモン、俺は大丈夫だ!」

 

俺はそう言うと、左手にデジソウルを集中させる。

その瞬間、フロストゴーレムはハルバードを振り下ろしてきた。

 

「ッ!!」

 

俺はそのハルバードを左腕で掴み取る。

左腕に重さがかかるが、オオクワモンの突撃に比べれば遥かに軽い。

俺はそのまま右腕を振りかぶり、

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

左腕でハルバードをいなすと同時に右の拳にデジソウルを宿し、フロストゴーレムの胴を目掛けて拳を放った。

フロストゴーレムは咄嗟に左手の盾を構える。

ハジメのパワーアップしたドンナーとシュラークの連発をギリギリだが防ぎ切った盾だ。

俺の拳がその盾に防がれる。

が、一瞬にしてその盾に罅が広がると次の瞬間には砕け散り、そのままフロストゴーレムの胴を打ち抜いた。

一瞬で罅が体全体に広がり、フロストゴーレムは粉々に砕け散る。

 

「…………なんつーか………俺も大概人間離れしてきたとは思ったが、ここまでとは………」

 

多分一撃の攻撃力では人間の中では一番では無かろうか?

まあ、まともに戦えばハジメには勝てんだろうが。

ふと見ると、雪煙が渦を巻いてトンネルを作り出した。

その先には扉が見える。

 

「………どうやらゴーレムを1人で倒す事がこの試練の合格基準みたいだな」

 

俺は葵と優花の事を思ったが、優花はこの程度のゴーレムに負ける要素は無いし、葵も迷宮の影響を受けていないので他の皆よりかは有利に戦えるだろう。

それにリュウダモンが居る。

最悪の事態にはならないだろう。

 

「行くぞ、ドルモン」

 

「うん」

 

俺はそう判断して雪煙のトンネルを進むことにした。

 

 

 

 

 






第57話です。
結構端折りました。
何気に無意味に長い試練なので。
とりあえず最後の試練の一歩前まで。
次回は自分との対面。
大士は一体どのようになるのか?
うん、それにしても、このまま原作通りに光輝とハジメが戦うことになりますと、遠慮なく光輝が殺されそうですが…………?
お楽しみに。
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