次に気が付いた時、俺はベッドの上に横になっていた。
「くっ…………」
俺は身体を起こす。
「大士!」
「あっ、気が付いた?」
ドルモンが俺の名を呼び、葵さんがタオルを入れた桶を持って立っていた。
葵さんの傍らにはリュウダモンもいる。
「ドルモン………葵さん…………ここは? どの位眠ってた?」
「ここは王都よ。大士君はメルド団長に殴られて気を失ってたの………あれから3日経ってるわ」
「3日…………そうか…………」
随分強く殴られた様だ。
ベッドから降りると微妙に腹が痛んだが、動く分には問題無かった。
「状況は?」
俺がそう聞くと葵さんは表情を曇らせ、軽く俯いた。
「ちょっと………というか、大士君や私にとってあまり良くない状況になってるわ」
葵さんが言うには、あの時トラップに掛かった直接の原因は檜山の勝手な行動によるもので、宝石の原石を取ろうとして罠にかかったそうだ。
それはクラスメイトのほぼ全員が目撃しており、非難は檜山に集中するはずだった。
檜山は土下座して平謝りを繰り返していたのだが、その時にとんでもない事を言いだしたのだ。
曰く、檜山が宝石を取りに行ったのは、俺に頼まれたからで、俺が葵さんの気を引くためにプレゼントしようとしていたと。
檜山は俺の頼みを断り切れずに仕方なしに取り入ったのだと。
その証拠に、俺はトラップを警戒して葵さんを連れて離れていたから助かった等々。
「なんじゃそりゃ?」
俺は思わず呆れた声を漏らした。
「私もあの場から離れていたのはリュウダモン達と再会してたからって言ったんだけど、信じてもらえなくて…………ごめんね」
葵さんは気まずそうにそう言う。
「いや、葵さんが悪い訳じゃないよ。っていうか、その言い方だと檜山の言い分を全面的に信じたのか?」
「信じたって言うか………天之河君が『よく話してくれた。疑ってすまない』とか言い出して…………そのままの流れで………」
「あの頭ん中お花畑の天然勇者め…………!」
俺は思わず愚痴が零れた。
「っていうか、葵さんに好きな人が居るのは周知の事実なのに、俺如きが宝石プレゼントした程度で靡くと本気で思ってんのか?」
「あはは……………流石にその程度じゃ心変りはしないね。ああ、大士君が嫌いって意味じゃないからね!」
葵さんは苦笑する。
「で、結局大士君は皆を窮地に陥れた元凶。私は尾ひれがついて大士君を誑かした悪女って事で話が進んでるみたい」
「その無理矢理な話の進め方から察するに、ステータスの低い俺達と檜山。どっちを取るかと言われれば、ステータスの低い俺達を切り捨てる選択をしたんだろ?」
「あ~、やっぱりそう言う判断になる?」
「最初から危惧してたが、どうやらこの国の上層部や教会にとって、俺達は単なる戦争の『駒』でしかないんだろう」
「「……………」」
話が途切れ、俺はハジメの事を考える。
「……………葵さん。白崎さんと八重樫さんは如何してる?」
「えっ? 香織と雫? 香織はメルド団長に気絶させられたまままだ目が覚めてないし、雫はそんな香織にずっと付き添ってるけど…………」
「そうか、悪いけど八重樫さんに頼みたいとこがある、俺1人だと気まずいだろうから付いてきてくれないか?」
「それは構わないけど…………」
「頼む」
俺は葵さんと、ドルモン、リュウダモンと一緒に部屋を出た。
すると、丁度クラスメイトである園部 優花と鉢合わせた。
「「「あ」」」
同時に声を漏らす俺達。
すると、園部さんは気まずそうな顔をして、
「えっと………その…………ごめん!」
いきなり頭を下げた。
「「えっ?」」
いきなり謝られた俺は首を傾げる。
「その、知ってるかもしれないけど、2人が悪いみたいな状況になっても何も言わなかったから…………檜山の言うことなんて全然信じてなかったけど、私も南雲が落ちた時に魔法を撃った1人だったから、もし自分が撃った魔法が南雲を落としたって思うと、怖くて何も言い出せなかった…………だから、ごめん」
園部さんは本当に申し訳なさそうにそう言ってもう一度頭を下げた。
だから、
「分かった、俺は許すよ」
「えっ?」
園部さんは驚いた表情で顔を上げた。
「ちゃんと謝ってくれたからね」
「で、でも、そんな簡単に…………」
「別に園部さんから直接被害を受けたわけじゃないしね。それにちゃんと謝ってくれたから俺はもう気にしないよ。葵さんは?」
「私も特に言うコトは無いかな。大士君の言う通り、優花が何かしたわけじゃないし」
「…………ありがとう」
園部さんはお礼を言うと、
「なら、せめて私が力になれることがあったら言って! 出来るだけ協力するから!」
握り拳を作りながらそう言った。
その言葉を聞いて、
「そこまで言ってくれるなら、早速協力をお願いしたいんだけど………」
「へっ?」
いきなりそう返されるとは思わなかったのか、園部さんはキョトンとした。
「雫、私だけど、入るね?」
葵さんを先頭に八重樫さんと白崎さんの部屋に入る俺達。
ドルモンやリュウダモンの他に、先程会った園部さんも付いて来ている。
八重樫さんは俺に気付くと、
「あっ、黒騎君………目が覚めたのね………」
「ああ。それに、今俺達が置かれている現状もな」
「そう………ごめんなさい。私がもっと光輝を抑えることが出来てたら………」
八重樫さんは幼馴染として天之河を止められなかった事を謝ってくる。
「その事についてはもういい。自分から謝ってくれたのなら俺からは如何こう言うつもりは無い」
「………ありがとう」
八重樫さんはお礼を言う。
「白崎さんはまだ?」
「ええ、ずっと眠ってるわ。医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということよ。時が経てば、じきに眼を覚ますだろうって………」
八重樫さんはそれでも心配そうな視線を白崎さんに向けている。
「そうか…………それで本題なんだが、八重樫さんに頼みがある。園部さんも協力してほしい」
「頼み?」
「協力?」
「ああ。俺はハジメを探しに行こうと思ってる」
「「「ッ!?」」」
その言葉に八重樫さんや園部さんだけではなく、葵さんも息を漏らした。
「でも、南雲君は………」
八重樫さんは俯くが、
「前にも言ったが、皆が見たのはハジメが橋から落ちる所までだ。ハジメの死を確認したわけじゃない」
「だけど、南雲のステータスじゃあの高さから落ちたら絶対に………」
園部さんがそう言う。
「あそこは迷宮だ。あの下に何があるか誰も知らない。もしかしたら地下水が溜まっている場所があるかもしれないし、植物や柔らかい土や砂地がクッションになって助かっているかもしれない」
因みにこれは俺の実体験だ。
初めてデジタルワールドに行った時、空高くに放り出されたはずだが下が柔らかい砂地で窮地に一生を得た。
つまりハジメも助かった可能性はゼロとは言えない。
「でも………光輝の言った通り戦闘職じゃない南雲君のステータスじゃ………」
「それも言ったが勝てない事は、必ずしも生き残れない事とイコールじゃない」
「「「えっ?」」」
その言葉に不思議そうに声を漏らす3人。
「逆に俺は、ハジメが錬成師だからこそ生き残ってる可能性が高いと思っている」
「どうして?」
葵さんが不思議そうに聞いてくる。
「よく考えてみてくれ。もしハジメが戦闘職だったら魔物と戦うしか道は無い。そうであれば、ハジメは確実に負けて死ぬ」
その言葉に3人はゴクリと唾を呑み込む。
「だけど、ハジメは錬成師だ。迷宮の壁に穴を開けて、避難場所を作ることも可能だ。その後に穴を塞げば、まず安全だろう」
「「「あっ!」」」
そのことに気付いた3人は声を上げた。
「俺でも気付くことだ。ハジメでも確実に気付く。いや、気付いて無くとも危機になれば必ずそうする」
「そうか………そう考えると南雲君が生きてるって事も夢物語じゃない………!」
八重樫さんは納得したように頷く。
「ただし、それは身の安全だけだ。食糧問題だけはどうにもならない」
「「「ッ!?」」」
「水は魔法で何とかなるかもしれないが、それで2週間前後が限度だろう。ハジメが落ちて既に3日。生きているなら空腹もそろそろ限界だろう。下手をすれば、魔物でも食いかねん」
魔物の肉を食べると、体がバラバラになって死ぬという事は最初の頃に教わって全員知っている事だ。
「俺が八重樫さん達に頼みたいのは食料を集めて欲しいって事だ。俺や葵さんは今だとちょっとした行動でも悪者にされかねない。今俺が信用できるのは八重樫さん。そして、ちゃんと謝ってくれた園部さん位だから」
「だ、だけど、光輝でもあのベヒモスには歯が立たなかったのよ。それより強い魔物が居るかもしれない場所に、あなたが行っても………!」
「俺とドルモンなら問題無いと思ってる」
「それはあなたがあのベヒモスを見てないから言えるのよ! あいつを見ればあなたも………!」
「なら聞くが、そいつは核兵器並みの力を持ってるのか?」
「えっ? か、核兵器って…………」
「言ったまんまの意味だ。そいつは一撃で島一つ吹き飛ばせるような力を持ってるのか?」
「さ、流石にそこまでは……………多分現代兵器で言えば戦車クラスじゃないかしら?」
「なら問題は無い。葵さんならわかると思うが、俺とドルモンは核弾頭クラスの破壊力を持つ完全体。さらにその上の究極体にまで進化できる」
「「きゅ、究極体!?」」
葵さんと八重樫さんは驚愕の声を漏らす。
「え? 八重樫さんも究極体で分かるの?」
「え、ええ。香織に付き合って南雲が好きそうな物は大体わかるわ。もちろん、デジモンの事もね」
「私にはちょっとピンって来ないんだけど、デジモンのきゅうきょく体? っていうのはそんなに凄いの?」
「ま、まあ、あくまで公式設定だけど、黒騎君が言った通り完全体は核弾頭クラスの破壊力を持ってるし、その上の究極体は言わば国家滅亡クラスの………下手をすれば、世界滅亡クラスの力を持ってるって事よ」
「ええっ!?」
「という訳で俺は迷宮に潜っても何ら問題は無い。ただ、俺やドルモンも食料や水は必要だから、簡単には戻れない可能性も含めて出来るだけ多く用意してほしい。勿論、ハジメの分もな」
「………………分かったわ」
八重樫さんは少し考えた後頷いてくれた。
「ありが「ただし!」ッ………!?」
お礼を言おうとした瞬間遮られた。
「一つ条件があるわ」
「条件?」
「ええ。あなたが出発するまでに香織が目覚めてあなたに付いて行きたいと言ったら、一緒に連れてって欲しいの」
「白崎さんを?」
「ハッキリ言うけど、このままじゃ香織の心は壊れてしまうわ。なら、少しでも希望を持たせた方が良いと思うの」
「…………そういうことか」
「ええ、あなたの言う事が本当なら、香織を護ることも簡単よね?」
「まあ、基本のステータスは俺よりも遥かに高いから問題無いと思うが………」
「決まりね!」
俺の答えを聞いて八重樫さんは安心したように頷く。
「じゃあ、「あの………」っと………」
今度は葵さんが小さく手を挙げた。
「私も連れてってもらって良いかな?」
「葵さん?」
「正直、これ以上この国に居るのが嫌なんだ………大士君も南雲君を見つけてもこの国には戻らないつもりでしょ?」
その言葉に俺は一瞬言葉を詰まらせるが、
「………ああ」
俺は頷いた。
「「えっ?」」
八重樫さんと園部さんが声を漏らす。
「この国の上層部や教会は私達を『駒』としか見てないし、そんな人たちの為に戦うつもりは毛頭ないよ。それにさっきは余計な心配をかけたくなくて大士君にも言わなかったけど、天之河君はデジモンを『悪』だって………私達の世界の魔物のような存在って説明したから、リュウダモンやドルモンへの風当たりが強くなってきてるの」
「なんだそりゃ?」
天之河への評価が急転直下の大暴落だ。
「ああ、光輝は6年前の事件が頭にあるからそうやって説明したのね…………」
「6年前って言うと、デ・リーパーの事か…………奴らはデジモンとは別物なのに………」
6年前のデ・リーパー事件は、ワイルドバンチのメンバーがデジモンとデ・リーパーは別の存在だと説明してはいるが、デジモンの仕業と思っている者も多い。
天之河もそんな例に漏れない1人だったわけだ。
「随分とハッキリ言うんだね?」
園部さんがそう聞いてくる。
「ハッキリも何も、その事件解決の中心にいたからな。俺とドルモンは」
「「「ええっ!?」」」
「他のデジモンテイマーの仲間と一緒に、デ・リーパーと戦ってたんだよ」
3人が驚いた顔を向ける。
「とりあえずその話は後だ。今はハジメを優先したい。それで、葵さんがついて来たい理由はリュウダモンの為って事でいいんだな?」
「うん。それもあるし、私自身にも最近嫌な視線を感じるんだ。元々ステータスは低いから舐められてたけど、最近は私も悪者扱いされてるから………」
「変な事を考える輩が出てきてもおかしくない………か」
「うん」
「分かった。そう言う事なら連れてくよ」
「ありがとう」
葵さんは笑みを浮かべてお礼を言う。
その笑みが綺麗で一瞬見惚れた。
………リュウダモンが戻ってきたからか、笑顔がいっそう綺麗になった気がする。
確かにこれなら俺が葵さんの気を引こうとするというのも信憑性が増すだろう。
俺は咳払いをして気を取り直すと、
「それじゃあ「ねえ………」またか………」
三度言葉を遮られた。
今度は園部さんだ。
すると、
「私も………連れてってもらって良い?」
園部さんも同じ事を言い出した。
「…………理由は?」
「私………南雲にまだお礼を言ってない」
「お礼?」
「迷宮で罠にかかった時、私、魔物に殺されそうだったんだ。それを助けてくれたのが南雲なの…………その時、お礼も言えなかったから…………」
「分かった。連れてく」
最早考えるのも面倒だ。
「随分あっさり納得してくれたね?」
「ここまで来たら2人護るのも3人護るのもあまり変わらん。寧ろ、俺自身は一般人と変わりないから逆に護ってくれると助かるからな」
俺はそう言う。
「それに白崎さんや園部さんが来てくれれば水の問題が無くなる。その分食料を持っていけるから不測の事態に対応できる」
俺は園部さんを連れて行くメリットを挙げる。
「そう言う訳で食料集めを頼む。出来れば2、3日以内には出発したい。その辺りがハジメにとっても限界だろうから…………」
「分かったわ、任せて」
「分かってると思うが、食料は日持ちするもので頼む」
「分かった。なるべく長持ちする物を探すね」
八重樫さんと園部さんがそう返事をした。
2日後。
八重樫さんと園部さんに食料集めを依頼している間、俺や葵さんは事件の重要参考人として呼び出されたりしていた。
その際、一方的に俺が悪いと決めつけられ、天之河は謝れだの、どうしてデジモンなんて凶悪な生物を連れて歩いているんだだの、俺達がいくら反論しても聞く耳持たなかった。
その時、改めてこの国やクラスメイトの殆どに愛想が尽きた。
唯一愛子先生は最後まで反論してくれたが、結局は俺達が悪いという結果でまとまりそうな雰囲気だ。
その夜、八重樫さんと園部さんが頑張ってくれたお陰で、食料等の荷物の準備が終わったと連絡を貰い、俺達は八重樫さんと白崎さんの部屋を訪れていた。
白崎さんはまだ目覚めていない。
俺と葵さん、園部さんは食料などが詰め込まれたリュックを背負う。
ドルモンやリュウダモン、ハジメの分も含めて合計で約2週間分の食料だ。
「香織は間に合わなかったね………」
葵さんが少し残念そうに呟く。
「それは仕方ない。これ以上待っていると、今度はハジメの方が危ない」
俺はそう言う。
「うん………」
葵さんもそれは分かっているのだろう。
すると、八重樫さんが白崎さんの手を握った。
「香織、黒騎君達が南雲君を探しに行くって言ってるわよ。早く起きないと置いてかれるわよ………! あなたはこのまま待ってるだけでいいの? 南雲君を探しに行かないの……!?」
八重樫さんが祈るように白崎さんの手を強く握る。
その時、不意に白崎さんの手がピクリと動いた。
「!? 香織! 聞こえる!? 香織!」
八重樫さんが白崎さんに呼びかけた。
すると、白崎さんの瞼が数回揺れた後、ゆっくりとその目が開かれた。
「香織!」
「……雫ちゃん?」
ベッドに身を乗り出し、目の端に涙を浮かべながら白崎さんを見下ろす八重樫さん。
「ええ、そうよ。私よ。香織、体はどう? 違和感はない?」
「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど……寝てたからだろうし……」
「そうね、もう5日も眠っていたのだもの……怠くもなるわ」
気を失って5日後である事を伝える八重樫さん。
「5日? そんなに……どうして……私、確か迷宮に行って……それで……」
目覚めて意識がハッキリしていなかったのか、徐々に記憶を取り戻していく。
「それで……あ…………………………ハジメ君は?」
「ッ……それは」
事実をどう伝えるか迷っていた八重樫さんに、白崎さんは狼狽え始めた。
「……嘘だよ、ね。そうでしょ? 雫ちゃん。私が気絶した後、ハジメ君も助かったんだよね? ね、ね? そうでしょ? ここ、お城の部屋だよね? 皆で帰ってきたんだよね? ハジメ君は……訓練かな? 訓練所にいるよね? うん……私、ちょっと行ってくるね。ハジメ君にお礼言わなきゃ……だから、離して? 雫ちゃん」
咄嗟に白崎さんの腕を掴んだ八重樫さんは、
「落ち着いて香織! 南雲君は確かにここには居ないわ! だけど、黒騎君達が南雲君を探しに行くところなの!」
強めの口調でそう言った。
「ハジメ君を………探しに…………?」
「ええそうよ! 橋から落ちてもし助かったのなら、錬成で避難所を作ってそこに隠れてる可能性があるって! だから黒騎君達はそれを信じて南雲君を探しに行こうとしてるの!」
「まだ………可能性はある…………!」
「うん………可能性は高く無いかもしれないけど、決してゼロでは無いわ!」
その言葉で白崎さんの瞳に力が戻る。
「私も連れて行って!!」
それとほぼ同時にそう叫んだ。
「安心しなさい。香織の分もちゃんと用意してあるわ」
八重樫さんは床に残っていたもう一つのリュックを持ち上げて見せる。
「雫ちゃん…………!」
白崎さんは感動して八重樫さんに抱き着く。
「ありがとう、雫ちゃん」
「どういたしまして。その代わり、ちゃんと帰って来なさいよ」
「うん、必ず帰ってくるよ………ハジメ君と一緒に………!」
「香織…………!」
「雫ちゃん…………!」
抱き合う2人に、
「あ~、ここで声を掛けることは不作法だと分かってはいるが、白崎さんも行くなら早く準備してほしい。時間を掛ければ掛けるほどハジメの生存確率は低くなるんだ」
俺は仕方なしに声を掛ける。
その言葉でハッとなった2人は慌てて離れた。
「ご、ごめん! すぐ準備するね!」
白崎さんはバスルームに駆け込む。
流石に女子なだけあって体臭は気にする様だ。
まあこれから暫く風呂に入れない可能性もあるからな…………
およそ30分して白崎さんが身支度を整えて出てくる。
女子の準備にしては早い方か。
すると、白崎さんもリュックを背負い、
「待たせてごめん。行こう、ハジメ君を迎えに」
その言葉に俺達も頷く。
すると、
「……………あれ?」
白崎さんが首を傾げる。
「どうした?」
俺が聞き返すと、白崎さんがドルモンとリュウダモンを指差し、
「……………その子達って…………何?」
そう呟いた。
そう言えば白崎さんはドルモン達を見るのは初めてか。
「ああ、こいつらは俺と葵さんのパートナーデジモンだよ」
「パートナー………デジモン? それって、アニメのデジモンアドベンチャーみたいな?」
「知ってるなら話が早いな。その通りだ」
「俺ドルモン! 大士のパートナーデジモンだよ!」
「某はリュウダモン。葵のパートナーだ」
2匹が自己紹介をする。
「そ、そうなんだ。よろしくね。私は白崎 香織だよ」
「よろしく、香織」
「よろしく頼む、香織殿」
自己紹介を簡単に済ませると、
「そう言えば、どうやって迷宮まで行く気? 黒騎君達は外出が制限されてるから馬車も借りられないと思うけど………」
「心配しなくても方法はある。とりあえず外が見える広い場所に出る。中庭が妥当かな?」
俺がそう言うと、部屋を出ようとして、
「シッ!」
俺は扉の前で人差し指を口の前に立てる。
すると、ガシャガシャと鎧を着た兵士の複数の足音がした。
そして、ドンドンと扉を開ける音がして、
「ここを開けろ! 開けなければ無理矢理にでも抉じ開ける!」
そう声がした。
距離からして俺の部屋の様だ。
「拙いな………思ったよりも向こうの行動が早かったみたいだ…………多分、俺を捕まえる気なんだろう。良くて牢獄行き、最悪はコレだな」
俺は首を切られるジェスチャーをする。
「どちらにしてもドルモンの身が危ない。俺がここから出る理由が一つ増えたな」
俺がそう言うと、
「5つ数える間に開けなければ突入する! ひとーつ! ふたーつ!」
兵士達がカウントを数え始める。
「ヤバいな………」
ここで何もしなかったら、おそらく兵士たちは虱潰しに探し始めるだろう。
そうなれば抜け出すのも困難になる。
「私に任せて」
八重樫さんがそう言うと、部屋から出る。
「どうしたんですか? こんな時間に…………」
「あ、使徒様! お騒がせして申し訳ありません! 使徒様達を裏切った者を捕えよと命令が下りまして…………」
裏切ったと聞いた八重樫さんが一瞬顔を顰めるが、
「…………彼なら、さっき図書室の方へ行くのを見かけましたが」
「そうですか! 情報、感謝いたします!」
兵士達は八重樫さんに敬礼すると、図書室に向かって駆け出す。
そのまま兵士達が廊下を曲がったことを確認して、
「今よ………!」
俺達に呼びかけた。
「助かる、八重樫さん。八重樫さんはここで別れよう。そうすればいい訳はいくらでもできる」
「ええ。皆、気を付けてね」
「雫ちゃんも」
「ありがとね!」
俺達はそう言って、部屋を出て中庭に向かう。
特に兵士達に遭遇することも無く中庭に到着した。
中庭から見える夜空は、雲一つない星空が広がっている。
「よし、ここなら………!」
俺はこの場所なら大丈夫だと確信し、1枚のカードを取り出した。
その時、
「そこまでだ!」
天之河の声がした。
すると、中庭を囲う様に篝火が焚かれ、多くの兵士達が集まっているのが分かった。
「もう逃げられないぞ!」
問答無用で俺を悪と決めつけているその物言いに俺は溜息を吐く。
「自分だけ逃げだそうとするどころか、香織たちを人質に使うとは見下げ果てた奴め!!」
聖剣を抜いて俺に突き付ける天之河。
以前軽々しく仲間に剣を向けるなと言った事は何だったのかと俺は問いたい。
まあ、もう俺はコイツを仲間だとは思って無いが。
つーか、何処をどう見れば俺がこの3人を人質に取ってるように見えるのだろうか?
「香織! もう安心してもいい。こっちに来るんだ!」
天之河はそう言う。
つーかコイツは白崎さんの事しか頭にないのか?
すると、
「ごめん光輝君! 私はハジメ君を迎えに行かなきゃいけないの!」
「な、何を言ってるんだ香織? 南雲は死んだんだ!」
「そんな事無い! ハジメ君はきっと生きてる! 生きて助けを待ってる! だから私が助けに行かないと!」
「香織! 香織が優しいのは知ってるが、現実から目を背けるのは良くない!」
白崎さんの必死な言葉も、頭お花畑な天然勇者には届かないらしい。
このまま平行線が続くかと思いきや、
「光輝、お前は少し黙ってろ」
そう言いながらメルド団長が前に出る。
「大士、頼むから指示に従って欲しい。俺からも悪い様にならないよう尽力する事を約束する!」
「……………メルド団長、俺もメルド団長の事は信用しています。ですからお聞きしましょう。俺と檜山、メルド団長から見てどちらが人間的に信用できますか?」
「それは…………」
メルド団長は戸惑った声を漏らす。
ここで王族や教会に従うものなら檜山と答えているのであろうが、メルド団長は言葉を濁している。
メルド団長自身も俺が裏切り者だという結果に疑問を持っているのだろう。
「そういうことです。いくらメルド団長が異を唱えようと、王族や教会の決定は覆りません。そして、俺はもうこの国の上層部や教会は全く信用できないんです。そして、それは俺に責任を押し付けたクラスメイトも同じです!」
俺はそう言いながら天之河を睨む。
「な、何を言ってるんだ! 君の行動がクラスメイト全員を危機に陥れたのは事実だろう!?」
「それはお前が俺の言葉よりも檜山の言葉を信じただけだろう? 俺が悪いという証拠は檜山の証言だけなんだからな」
「それは………!」
天之河はまだ何か言おうとしていたが、これ以上コイツと問答をするつもりは無い。
「俺はもうこの国の上層部に関わるつもりはありません。俺よりもステータスが高いという理由で檜山の責任を俺に押し付けただけでなく、拘束して処分しようとする輩なんかにはね。これ以上俺に関わらないというのなら俺からは何もしません。でも、俺の邪魔をするのなら国ごと滅ぶことを覚悟してください」
これは紛れもない俺の本心。
この国の上層部は嫌いだがちょっかいを出してこなければどうでもいい。
だが、俺の邪魔をするというのなら容赦はしない。
「とりあえず俺はハジメを探しに行きます。その後は決めていませんが、俺はもうこの国の『駒』になるつもりはありませんので」
俺はそう言って話を終わらせる。
「逃げられると思っているのか?」
天之河は剣を構えなおして俺を睨む。
だから俺は言い返した。
「逆に言ってやろう。その程度で俺達を止められると思っているのか?」
俺はそう言って先程のカードをDアークにスラッシュする。
「カードスラッシュ!」
Dアークがカードのデータを読み込み、それをドルモンへと転送する。
そのカードは、
「超進化プラグインS!!」
ドルモンを成熟期へと進化させるキーカード。
――EVOLUTION
俺のDアークにその文字が表示され、光を放つ。
その光が輝くとともに、ドルモンが光に包まれた。
「ドルモン進化!」
光の中でドルモンのデータが分解され、新たに再構築される。
体毛の色は、紫から藍色へ。
背中にあった小さな羽は飛行可能なほど発達し、巨大化。
獣の凶暴性と竜の知性を併せ持った成熟期の獣竜型デジモン。
「ドルガモン!!」
光の中からドルガモンが姿を現す。
「なっ!?」
進化し、巨大化したドルガモンの姿に天之河を始め、兵士達が驚愕する。
「皆、乗って!」
ドルガモンが身を屈め、乗るように促す。
ドルガモンは全長10m、全高5mを超える。
俺達4人と1匹を乗せるのは簡単だった。
園部さん、白崎さん、葵さん、リュウダモンの順でドルガモンの背に乗り、最後に俺は首近くに跨ると、
「メルド団長、お世話になりました」
俺はそう言い残すと、
「待て黒騎…………くっ!?」
天之河が何か言ったようだがドルガモンの翼の羽搏きでかき消される。
ドルガモンの巨体を浮かす程の風圧だ。
その強さはかなりの物だ。
ドルガモンの巨体が浮かび上がり、夜空へと舞い上がる。
そのままドルガモンはホルアドへ向かって飛び立った。
それを見送ったメルド団長は、
「…………我々は、選択を誤ったのかもしれんな」
自嘲気味にそう呟いたのだった。
一方、ドルガモンの背の上では、
「わぁ~! 凄い、凄い!」
女子達がはしゃいでいた。
まあ、夜空を飛ぶということは女子にとっては結構な憧れだろう。
「はしゃぎすぎて落ちないでくれよ」
俺はそう注意する。
すると、葵さんがDアークを取り出し、ドルガモンのデータを表示させた。
「ドルガモン 成熟期 データ種 獣竜型デジモン。必殺技は、大型の鉄球を口から放つ『パワーメタル』。本当に進化させたんだ………!」
葵さんは感心したような声を漏らす。
「葵さんのリュウダモンも、1回進化したのなら切っ掛けは掴んでるはずだし、『超進化プラグインS』のカードで進化できるはずだぞ」
「そうなんだ! 機会がある時にやってみるね!」
葵さんはそう言うと期待に胸を膨らませる。
「さて、ドルガモン! ホルアドまで一直線だ!」
「おおっ!」
俺の言葉にドルガモンは答え、力強く羽ばたくのだった。
はいごめんなさい。
週一の亀更新の癖して前作が終わってないのに新しい小説を投稿してしまった愚か者です。
いや、最近ありふれの二次小説にハマってしまってどうしても自分も書いてみたいという衝動が抑えられずに書いてしまいました。
とりあえず、アニメの最終話。
つまり本来は香織が仲間になる所までは書こうと思っております。
その後は人気次第という事で。
で、早速ですけどタカト達デジモンテイマーズの原作組には出番ありません(キッパリ)
理由として、タカト達ではどうしてもハジメと敵対する未来しか思い浮かばなかったので、オリ主にして更に戦いに理解のある転生者にしました。
で、オリ主の大士君ですがプロローグで誰とも結ばれないのでオリヒロが来たことになってますが、優花の扱いをどうしようか迷ってます。
このまま原作と変わらずハジメハーレムの一人にするか、それともいっその事オリ主とくっつけるか……………
アンケートします。(いきなりで申し訳ない)
まあ、どれだけ需要あるかは分かりませんが、とりあえずこっちも頑張っていきます。
それでは。
園部 優花はどちらのヒロイン?
-
オリ主
-
ハジメ