ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第59話 竜人侍! ガイオウモン!!

 

 

 

 

「……………………俺は転生者だ」

 

俺は今まで隠していた事実を口にする、

 

「…………転生者?」

 

「それって………小説とかでよくある………?」

 

優花は首を傾げ、葵はある程度のオタク知識があるので、それなりに理解してくれたようだ。

 

「葵が考えているもので間違いない。俺には、『黒騎 大士』として生まれる前に、別の人間として生きていた記憶がある」

 

「………それって、輪廻転生って奴? 生き物は死んだら別の生き物に生まれ変わるっていう………」

 

「ああ。本来は前世の記憶という奴は生まれ変わる際に抹消されるものなんだが、俺はちょっと特殊なパターンでな…………」

 

「もしかして…………神様転生?」

 

「………………ああ。念の為言っておくがエヒトなんかじゃないからな」

 

葵の言葉に俺は頷く。

 

「神様……転生………?」

 

優花はピンとこないのか怪訝な声を漏らす。

 

「あ~………俺も詳しくは分からないけど、状況から察するに、人………に限るわけじゃないと思うけど、『命』って言うのは、生まれてから死ぬまでの運命が大体決まってるみたいなんだよ。で、神様たちがその運命に沿うように力を使ってるみたいなんだが、前世の俺は神様の過失で本来の寿命を迎える前に死んだそうだ」

 

「えっ!?」

 

「まごう事なきテンプレだね」

 

優花は驚いたようだが、葵は冗談半分に聞いているのかそれほど驚いている様子は無い。

 

「で、そのお詫びとして、前世の記憶を受け継いだまま転生させてくれて、新たな生を歩ませて貰ってるって感じかな」

 

そこまで言い切って俺は一度息を吐く。

息を吐いて、思った以上に緊張していたことに俺は気付いた。

さて、2人はどんな反応を…………

 

「ふ~ん……………」

 

「ふ~んって………反応薄いな? やっぱり信じられないか?」

 

優花の反応に俺は信じてくれて無いんだろうと思った。

だが、

 

「別に信じてないわけじゃないわよ? 大士が改まってまで私達に嘘を吐く理由なんてないもの。本当の事だと思ってるわ」

 

「思ってる割には薄い反応だったんだが?」

 

「だって、転生者だからどうしたって言うの? 大士が大士であることに変わりないんでしょ?」

 

「いや、まあ、そうなんだが…………精神年齢で言えば、前世と含めて50歳超えてるおっさんだぞ?」

 

「で?」

 

「で………って、その………嫌じゃないか?」

 

「勘違いしてるみたいだけど、私は『今』の大士が好きなの。『今』の大士は『過去』の全てがあって『今』の大士なんでしょ? その積み重ねてきた『過去』の大士を否定なんてする筈ないじゃない」

 

「優花…………」

 

優花の言葉に不意に目尻が熱くなった。

 

「葵もそう思うわよね?」

 

優花が葵に同意を求めると、

 

「ッ……………」

 

葵は額に手を当てて俯いていた。

 

「葵………? 葵!」

 

「ッ! あっ! え? 何………?」

 

「どうしたのよ? 黙り込んで………」

 

「ご、ごめん………いきなり頭痛がして…………」

 

「大丈夫なのか?」

 

俺が聞くと、

 

「うん、今はもう大丈夫!」

 

葵は明るい声でそういう。

 

「それよりも!」

 

葵が突然話の流れを変えるように強い口調で言った。

 

「神様転生って事は、チートなんかは貰ってないの?」

 

「……………チートと言うか………2つの要望は聞き入れてもらったぞ」

 

「要望?」

 

「ああ。1つは本物のデジモンのテイマーになる事………」

 

俺はドルモンに視線を落としながらそう言う。

 

「前世の世界じゃデジモンは単なる架空の存在だったからな。転生するならデジモンのテイマーになりたいと言ったんだ」

 

「………………それってもしかして、大士にとってこの世界がアニメとかの世界だったりする?」

 

「「「ッ……………!?」」」

 

葵の言葉に優花とリュウダモン、ハックモンが息を呑む。

 

「あ~………それについては、そうともそうでないとも言えるな」

 

「どういう事?」

 

「この世界感が俺が前世で見てたアニメに通じるものがあるのは確かだ」

 

「「……………………」」

 

葵は真剣に、優花は驚愕の表情で俺の話を聞いている。

 

「けど、とっくに原作は終わってるんだよ」

 

「「はい?」」

 

「そのアニメ…………『デジモンテイマーズ』っていう名称なんだが、前世の世界じゃデジモンのアニメシリーズ3作目だったものだ」

 

「………………もしかして、6年前?」

 

葵が気付いたように口にした。

 

「ああ。6年前のデ・リーパー事件。あれがデジモンテイマーズの終盤にあった出来事だ。正確にはその数ヶ月前、主人公の松田 タカトが自分が考えたデジモン、『ギルモン』と出会う所から物語は始まっていた」

 

「松田 タカト…………って、それって前に大士が言ってた友達の………?」

 

「そうだ。当時の俺は、何と言うか…………幼稚な考えを持っててな………この世界が物語で、タカト達を…………自分を含めた世界中の人々を物語に出てくるキャラクターとしか認識して無かったんだ…………」

 

本当に当時の俺は何を考えていたんだと殴りたくなってくる。

 

「興味本位でタカト達に接触して、その最中にドルモンと出会って、自分も『特別な存在』だと勘違いして、主人公の仲間の1人としていい気になってた………デジモン達を倒す事も、『物語の主人公やその仲間が敵を倒す』、その程度にしか考えてなかった。正直、浮かれて調子に乗ってた馬鹿なガキだったんだろう。そんな俺に2つの転機が訪れた。1つはレオモンの死。前世の記憶を持ってた俺は、当然レオモンが死ぬことは知っていた。俺もそれは防ぐつもりでいたが、軽い考えしか持ってなかった俺は、レオモンを説得することが出来なかった…………今思えば当然だ。薄っぺらい言葉しか並べていなかった俺の説得で、本当の信念を持った勇者(レオモン)が止まるはずもなかった。レオモンが殺された瞬間を見て、俺はその時初めてこの世界の『命』というものを感じた。2つ目はドルモンだ。当然だが、そんな考えを持ってた俺がドルモンとの融合進化が出来るはずもなかった。仲間達が究極体に進化できるようになる中、俺とドルモンは完全体までしか進化出来ず、デ・リーパーに対抗できなくなっていった……………そんな時、ドルモンがデ・リーパーにやられて致命的なダメージを負ってしまった。ドルモンを『失う』と自覚した瞬間、俺は漸く自分の過ちに気付いた。この世界は『物語』なんかじゃない。『俺』という『存在』が、数多の本当の『命』が生きている『現実』なんだと……………」

 

俺は懺悔の様に当時の俺の過ちを口にする。

 

「俺はその時ドルモンに全てを話した。俺が転生者である事、前世の記憶がある事、この世界が前世のアニメそっくりの世界だという事も……………俺はずっとドルモンを騙し続けていたに等しい。だけど、そんな『俺』をドルモンは受け入れてくれた。『俺』を………唯一無二のパートナーだと言ってくれた。俺は、その時初めてこの世界の1人の人間として戦う事を決意したんだ。物語のキャラクターじゃない。この世界に生きる1人の人間として、自分の護りたいものの為に…………そして俺とドルモンは融合進化を成功させたんだ」

 

「そんな事があったのね…………」

 

優花が感慨深そうに呟く。

 

「……………一応聞くが、今の話を聞いて心変りなんて…………」

 

「「する訳無いよ(わよ)!」」

 

2人同時にそう答えた。

 

「さっきも言ったじゃない。私は過去を積み重ねてきた『今』の大士が好きだって。今言ったことも、全て『今』の大士を形作る大切な『過去』よ」

 

「そうだよ! その『過去』があるから『今』の大士がある! だから大士の『過去』を否定なんてしないよ!」

 

その言葉に、俺は彼女達を僅かでも疑ってしまった自分を恥じた。

 

「……………ありがとう」

 

「お礼なんかいいって…………! それよりも、もう1個気になることがあるんだけど………」

 

「何だ?」

 

葵に聞き返すと葵は口を開く。

 

「神様には2つの要望を叶えてもらったって言ってたよね? もう1個は?」

 

「その事か…………まあ簡単な話だ。ミスして俺を死なせてしまった女神様の減刑だよ」

 

「「ええっ!!??」」

 

なんか今までで一番驚かれた。

 

「何でそんなに驚くんだよ?」

 

「そりゃ驚くわよ!? 何で減刑なんか頼んでるの!? 言うなれば自分を殺した相手を助けてくれって言ってるようなモノよ!?」

 

「確かにそうだが、別にワザと殺したってわけじゃなかったし…………」

 

「例え過失だとしても、殺した相手の減刑を頼むって何考えてるの!?」

 

「そりゃ日本みたいに懲役10数年だったら何も言わなかったけど、その内容が凄まじすぎたから思わず…………」

 

「因みにその内容は?」

 

「音も光も無い暗黒空間に最低でも数万年の幽閉………だそうだ」

 

「うっ………! それはキツイわね…………」

 

「だろ?」

 

「で、でも、殺された事には何も思わなかったの?」

 

「あ~………前世の親には悪いと思ってるんだが、前世の俺の人生には、生きる価値も、生きる意味も見出せなかったんだ」

 

「えっ?」

 

「生きがいも無く、ただ過ごすだけの毎日…………朝起きて、飯食って仕事して、帰ってきて飯食って風呂入って軽く遊んで寝るだけの繰り返し。自分でもこれは駄目だと分かっていても、言い訳をして自分を変える事をしなかった嫌な人間………それが前世の俺だ。そんな俺を殺した程度で、数万年の幽閉はやり過ぎだと思わず女神様に食って掛かっちまったよ」

 

ハハハと軽く笑う。

 

「でも………逆に言えばそのお陰で俺はこうしてここにいる。ドルモンって言う最高の相棒と出会えて…………そしてお前達の様な最高の女を恋人に出来て………俺は幸せだ………もし今回の生で同じ事が起こったとしたら、絶対に許すことは出来ない。相手が本物の神様だろうと絶対にぶっ殺す!」

 

「………………馬鹿」

 

優花は顔を赤くして呟く。

 

「…………それで、その減刑をお願いした女神様は結局どうなったの?」

 

「それは分からない。俺は、転生させてくれた女神様から『部下である下級神が過失を犯して俺を死なせてしまった』としか聞いて無いから。実際にその女神様に会った訳じゃない」

 

「…………会った訳じゃないのに、よく女神様って分かるわね………?」

 

「ああ、俺を転生させてくれた女神様が『彼女』って言ってからな。多分女神だろうって事」

 

「ああ、なるほど…………」

 

優花は納得したように頷く。

 

「そう言えば葵はさっきから静かだけど、どうか…………?」

 

どうかしたのかと聞こうとして葵の方を振り向くと、葵は苦しそうな顔をして頭を押さえていた。

 

「葵!?」

 

俺は思わず葵の肩を掴んで呼びかけた。

 

「っは………!? た、大士………?」

 

俺が声を掛けると葵はハッとなって顔を上げた。

 

「大丈夫か!? 随分苦しそうだったぞ!?」

 

「ご、ごめん………またいきなり頭が痛くなって…………もう大丈夫だから!」

 

葵は笑顔を作ってそう言う。

その表情からは先程の苦しそうな表情は伺えない。

 

「調子が悪かったら直ぐに言えよ。ハジメのアーティファクトのお陰で忘れがちだが、ここは極寒の地だ。体調を崩す可能性は十分にあり得る」

 

「うん、わかってる」

 

葵は笑みを浮かべたまま頷くと、

 

「さ、早く先に進もう!」

 

葵はそう言うと、開いた通路に駆け出していく。

 

「あ、おい! 待てよ! 何があるか分からないんだぞ!」

 

俺と優花、それにデジモン達も後を追う。

その時、

 

「………………さっきの記憶は一体………?」

 

そう呟いた葵の言葉は、俺達には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【Side 雫】

 

 

 

 

 

 

「はぁあああっ!!」

 

私は得意の抜刀術を放つ。

トータスに来て上がったステータスにより、常人では反応できないほどのスピードで刀を幾度も振るう。

 

『あら、また剣筋が乱れたわよ?』

 

だけどそれは、相対する相手によってあっさりと躱され、それどころか剣線の合間を縫って、突きが私の眉間を狙って迫ってくる。

 

「ッ!?」

 

私は咄嗟に頭を振ってその突きを躱すけど、こめかみを浅く切り裂かれる。

 

「雫!」

 

コテモンから警戒を促す声が響く。

言われなくても分かってる。

この突きは三段構え。

私が修める八重樫流の技だ。

 

「っ、〝焦波〟!!」

 

私は黒刀の鞘を地面に押し当て、新しく付与された〝衝撃変換〟の能力で地面の氷を砕き、氷片として相手に飛ばす。

そのお陰で間合いから逃れる事が出来た。

 

『彼からの贈り物があって良かったわね? それがなければ、とうの昔に(貴女)は死んでいるものね?』

 

「はぁはぁ……」

 

私を揶揄する口調でそう言ってくるのは、白い私。

白い私は先程から厭味ったらしく口を開いてくる。

 

『痛い? 苦しい? 恐い? 泣きたい? 隠さなくてもいいわよ? 私は貴女なのだから全て分かっているわ。そう、何でも分かっている』

 

戦い始めてから15分ぐらい経っているけど、私の剣は一度たりとも届いてはいない。

対して私は肩で息をするほどに消耗し、致命傷はないけど体中が傷だらけだ。

 

『本当は剣術なんてやりたくはなかった。本当は道着や和服より、フリルの付いた可愛い洋服を着たかった。手に持つのは竹刀よりもお人形やキラキラしたアクセサリーがよかった』

 

「……うるさい」

 

私はそう言うけど、白い私の言葉は一言一言私の心に突き刺さる。

 

『光輝が家に入門して来たとき、王子様がやって来たのかと思った。〝雫ちゃんも、俺が守ってあげるよ〟だったかしら? そんなことを言われてカッコイイ男の子との絵本のような物語を夢想したわよね。彼なら自分を女の子にしてくれる。守ってくれる。甘えさせてくれる。そう思っていた。でも、ねぇ?』

 

「うるさい」

 

その言葉を否定する様に私は〝無拍子〟で踏み込み、空間断裂の一閃、〝閃華〟で切り裂かんと刀を振る。

でもそれは、全く同じ軌跡で繰り出された同じ〝閃華〟によって相殺された。

それでも私は続けて剣戟を放つ。

でも、その全ては余裕の表情で全て躱された。

 

『光輝がもたらしたのは、貴女に対するやっかみだけだった。そうでしょう? 小学生の時から正義感と優しさに溢れ、何でもこなせる光輝は女の子達の注目の的だった。女の癖に竹刀を振り、髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題にも付いていけない貴女が、そんな彼の傍にいることが、女の子達には我慢ならなかったのね。そうそう、あの言葉は今でも覚えているわ。光輝を好いてる女の子の一人に言われた言葉。〝あんた女だったの?〟って。ショックだったわよね?』

 

「黙りなさい!」

 

私の脳裏に小学生の頃の苦い記憶が甦る。

剣の稽古の為に短く切り揃えられた髪。

地味な服装。

顔立ちも少女特有の可愛らしさは無く、年頃の女の子らしさというものは無かった。

そんな私が、当時から人気のあった光輝と一緒に居ることは、他の女子達からすれば面白くない。

私は子供故に加減や容赦を知らないやっかみを受けていた。

光輝に助けを求めたこともある。

でも、

 

『きっと悪気はなかった』

 

『みんな、いい子達だよ?』

 

『話せばわかる』

 

光輝の言葉はいつもそれだった。

表面上だけで問題が解決したと判断し、その実前以上にやっかみは酷くなっていた。

相談しても困ったような笑みを返すばかりの光輝に、私は何時しか頼ることをしなくなった。

そんな生活が小学校の間ずっと続いた。

私の心の拠り所でであった香織が居なかったら、心が折れていたかもしれなかった。

 

『本当は嫌なのに、家族の期待を裏切るのが恐くて剣術を辞められず、光輝が原因で苦しいのに、悪意なんて欠片も持たない幼馴染を突き放す罪悪感から、距離を置いたにも関わらず完全には見捨てる事が出来ない……本当に、貴女は優柔不断で中途半端ね』

 

「っ、そんなこと――っ!?」

 

思わず昂った私の意識の隙を突き、白い私の刃が重力を断ち切る。

一瞬の浮遊感。

その直後に白い鞘が薙ぎ払われ、〝焦波〟と共に脇腹に叩き込まれる。

意識が吹き飛びそうな衝撃と痛みと共に大きく吹き飛ばされた。

 

「雫!?」

 

コテモンの悲痛な声が聞こえた。

私は地面に数回バウンドして、氷の上を滑りながら止まる。

 

「ゴホッ、ゲホッ」

 

咳き込んだ私の口からは夥しい量の血が吐き出された。

あばらが数本折れた上に、内臓も傷付いたようだ。

酷いダメージに、私は直ぐには立ち上がれない。

そんな私に、コツコツと足音を響かせて白い私が歩み寄ってきた。

 

「雫! 拙者も………!」

 

「まだよ!!」

 

戦いに介入しようとしていたコテモンを私が叫んで止める。

 

「私はまだ戦える………!」

 

私はそう口にする。

いえ、そう口にしないと今にも折れてしまいそうだったから………

 

『もう、立ち上がらなくていいのよ? 貴女が苦しまなくても誰かがクリアしてくれるわ。そうすれば家に帰れる。大丈夫よ。ここで諦めても命は取らないから。そのまま寝ていれば、目を覚ました時には全て終わっているから』

 

「なに、を……」

 

『ただの選択よ。……もちろん、諦めないなら殺すわ。容赦なく切り刻んで上げる』

 

ニッコリと笑う私と同じ顔は、恐怖を感じさせた。

だけど、

 

「ぐっ、うぁあああっ!!」

 

『……そう。そうよね。私なら立ち上がるわよね』

 

「言ったはずよ! 私はまだ戦える!!」

 

白い私が振り下ろした刀を受け止め、

 

「飛べ、〝離天〟!!」

 

刀に付加された重力魔法の斥力を利用して吹き飛ばす。

でも、白い私はくるりと宙返りを決めて着地する。

 

「ごちゃごちゃうるさいのよ。わけのわからないことばかり。そんな心理戦には乗らないわ」

 

『心理戦、ね。あくまで自分の感情を認めないのね。この年まで、そうやって意地を張って、実力で周囲を黙らせて、常に誰かを気遣って……自分が本当は誰かに寄りかかりたいって願っていることも自覚できなくなって……』

 

「うるさいと言っているのが聞こえないのっ!?」

 

私は昂る感情のまま相手()を黙らせるために突進して剣を振るう。

 

「雫! 落ち着くでござる! そうではない!!」

 

コテモンの言葉を無視し、私は剣を振り抜く。

だけどその一撃は軽くあしらわれ、洗練された剣技が私の身体中を切り裂く。

 

『この世界に来た時もそうだったわね。本当は不安で一杯だった。イシュタルから魔人討伐を聞かされて心底恐怖した。初めて魔物を殺した夜は、誰にもばれないように涙した。肉を切った感触が消えなくて、こびり付いた血が落ちていない気がして、何度も隠れて拭っていたわよね』

 

「はぁっ!!」

 

私はその言葉を振りほどこうと気合いを込めて剣を振る。

でも、そうする度に相手()との実力差が開いていくように感じた。

 

『南雲くんが奈落へ落ちた時、錯乱する香織の慰めに全力を注いでいなければ、きっと、突き付けられた恐怖に押し潰されていたのは貴女の方だった。明確な死を感じとったあの日からずっと、貴女は死の恐怖に、殺す恐怖に……怯え続けている』

 

「あぐっ!?」

 

白い私が発動した〝雷華〟によって放たれた電撃が私の体を硬直させ、その隙に白い刃が私の頸動脈を狙う。

私は咄嗟に自分も巻き込んで〝焦波〟を発動。

放たれた衝撃によって吹き飛んだお陰で致命傷は免れた。

でも、触れた首の傷からは、血がぼたぼたと流れ出ている。

頸動脈には届いてないけど、その流れる血の量は、私に明確な死を感じさせた。

不意に死の恐怖と絶望が私に襲い掛かり、黒刀を持つ手がカタカタと震える。

 

『ねぇ、貴女。あの時は嬉しかったわよね?』

 

「え?」

 

不意に投げかけられた言葉に私は声を漏らす。

 

『南雲くんが助けに来てくれた時よ。分かっているでしょう? 貴女()の人生で一番劇的だったあの瞬間を忘れるわけがないわ』

 

「何を言って……」

 

『絶体絶命のピンチ……いえ。あの時、貴女()は確かに諦めた。全て諦めて理不尽な死を受け入れようとした。この世に、自分を颯爽と救ってくれる誰かがいるなんて信じていなかった。……だからこそ、あの紅い輝きと、大きな背中、敵を敵とも思わない圧倒的な力に、貴女は心奪われた』

 

「ち、ちがっ……」

 

決して認めたくない………認める訳にはいかない何かを言われた気がして私は咄嗟に否定しようとする。

 

『だから貴女()は光輝から離れて彼らのパーティーに…………彼に付いていった…………香織の傍にいたいというもっともらしい口実を理由にね。本心から貴女は必死に目を逸らしていたけれど……もう、誤魔化せないわよ』

 

「止めて、違うわ。私は……」

 

その先は駄目!

聞いちゃ駄目!

私は必死に否定しようと首を振る。

だけど……………

 

『貴女は――――南雲くんが好き』

 

「っ……」

 

違う………違う………!

それだけは絶対に駄目だから…………

認めちゃ駄目だから…………

許されない気持ちだから…………

だって、それを認めてしまえば、私は香織を………

 

『貴女ったら、親友の最愛の人を好きになってしまったのね。――この裏切り者』

 

裏切ってしまったという証だから……………

 

「……」

 

彼は香織の『特別』な人なのに…………

大切な親友の恋人なのに…………

好意を抱く事すら許される筈ないのに…………

それなのに私は…………

私の全身から力が抜ける。

もう立っている事も辛い。

次の瞬間、白い私が目の前に現れ、私の腹部を掬い上げるように蹴り上げた。

 

「がはっ!?」

 

宙に浮いた私に無数の剣戟が襲い掛かる。

私は無意識に黒刀を盾にして、急所のみをガードするけど、全身を切り刻まれる。

 

「あぁああああっ!?」

 

絶叫を上げる私に鞘が叩きつけられ、氷壁が陥没する程の勢いで叩きつけられた。

 

『貧乏くじばかり引いてしまう馬鹿らしい人生もここで終幕。こんな結末の原因は、自分を殺しすぎたことよ、本当に馬鹿な貴女()

 

白い私が歩み寄る。

 

『最後に何か言い残すことはあるかしら? 氷壁にでも刻んでおいてあげる。ここはそれぞれの空間と繋がっているから、運がよければ自分の試練を突破した誰かがやって来て遺言を見つけるかもしれないわよ?』

 

「……」

 

私はもう動けない。

動く力も、気力も無い…………

自然と涙が零れる。

白い私は突きの体勢で身体を引き絞る。

その狙いは私の頭部。

 

「……ま、だ……しに、たく…ない」

 

『……』

 

自然と私の口から言葉が零れた。

その言葉はただひたすらに生を望む言葉。

まだ死にたくない。

会いたい…………

親友に………

仲間に………

家族に………

そして、好きになってしまった彼に………!

 

「た、すけ、て……だれ、か……たす、け、て…よぉ……」

 

私は子供の様に助けを求める。

私は常に助ける側だった。

誰か助けて欲しい等と泣き言を言ったことなんてない。

本当は、『お姫様のように守られる女の子』を夢見ていたけれど、求められるままに、必要に迫られて己を磨いていく内に、その役割はむしろナイトのようになった。

いつしか不満もなく、そんな自分を許容していたけれど……やっぱり……

 

『残念。遅すぎよ。その言葉を使うにはね』

 

最後の最後に溢れ出た本心は、『私』の無慈悲な言葉にかき消され…………

 

「そこまででござる!!」

 

別方向からの一撃により、白い私は突きを中断してその一撃を受け止める。

 

『そういえばまだあなたが居たのよね、コテモン』

 

「……………コテモン?」

 

私は僅かに顔を上げてその背を視界に捉える。

 

「済まぬでござる、雫。だが、これ以上は見ていられんでござる!!」

 

コテモンは白い私に向けて竹刀を構える。

 

『残念だけど、成長期では私には勝てない。パートナーがその様では進化も出来ないでしょう? そんな馬鹿な()がパートナーだなんて、あなたも貧乏くじを引かされたものね』

 

「黙れ! 雫の実力はまだこんなものではござらん!!」

 

『必死に庇わなくてもいいのよ? だって、さっきからずっと呼びかけていたあなたの言葉なんて、私には全然届いていなかったんですもの』

 

その言葉に、私は絶句する。

コテモンの声は、私には殆ど聞こえていなかった。

私はコテモンのテイマーなのに…………

私は親友である香織を裏切った上に、コテモンのテイマーであることすら否定してしまった。

もう、私に残されたものなんて…………

 

「黙れと言っている! 確かにお主は雫の抱えている闇なのかもしれん! だが、それが雫の全てではござらん!!」

 

「っ………………」

 

コテモンの言葉に、私は指先がピクリと動いたのを感じた。

 

「今は己の心の闇に呑まれてしまったのかもしれん! だが、雫は必ず立ち上がるでござる! 何故なら雫は、拙者のテイマーなのだから!!」

 

「コテ………モンッ…………!」

 

私の瞳から涙が溢れる。

コテモンは、コテモンはまだ私を信じている。

 

『ッ…………力が弱まった………!?』

 

白い私は驚いたように私を見る。

 

「雫! 気をしっかり持つでござる! 確かに奴の言う事は一理あるのかもしれん! だが、それは雫の一部分に過ぎないでござる!」

 

コテモンの言葉が私の心に響く。

 

「雫を雫たらしめる一番大切なものは、雫自身が持っている筈でござる!!」

 

私を………私たらしめるもの…………!

コテモンの言葉が心に染みわたると共に、脳裏に記憶が溢れ出す。

一つ成長する度に心底嬉しそうに微笑んでくれる家族。

光輝達と共に誰かを助けられたこと、助けた相手に心から感謝を伝えられたこと。

苦しい時があったからこそ香織という親友に出会えたこと。

その他にも沢山の捨てがたく、忘れがたい、優しさと温かさに満ちたもの。

如何して忘れていたんだろう?

そんなもの答えは明白だ。

この迷宮の囁き声に、意識を誘導されていたからだ。

私は最後の力を振り絞って立ち上がる。

 

「雫………」

 

「下がって、コテモン…………こんな奴、私1人で十分よ」

 

私はそう言って前に出る。

正直、気を抜けば今にも倒れてしまいそうなほど。

出血量も尋常ではない。

 

『まさか立ち上がるとは思わなかったわ』

 

「私は死ねない。生きてもう一度会うの。香織に………仲間達に………家族に………そして何より、南雲君に会いたいから…………!」

 

『あらあら、やっぱり親友を裏切るのね。そして、恋敵を……』

 

「不毛な会話は止めましょう。こんな自問自答に意味はないわ。生きて、もう一度、私は香織達に会う。全てはそれからよ」

 

『……』

 

もうそんな言葉に心を乱されたりはしない。

 

「ケンカするかもしれないし、酷いショックを覚えさせてしまうかもしれない。軽蔑だってされるかもね。でも、諦めないわ。私にとっての最良を手繰り寄せてみせる。何度でも挑戦するわ。絶対に諦めない」

 

『結局、戦う女になってしまうのね?』

 

「そうね。でも、十七年、そうやって生きて来たのだから今更よ。確かに、私は、色んなものを押し殺して生きて来たけれど、その結果得たものも、もう捨てられないくらい大切だわ。そして、きっとこれからも素敵なものを得られると信じることにする。私と一緒に歩んでくれる相棒も居る事だしね………!」

 

私は、腰を落とすと軽く足を引き半身となって抜刀術の構えをとった。

 

「私に余力はない。一撃よ。この一撃に全てを込める。凌げるものなら凌いでみなさい」

 

『ふふ、なるほど。素晴らしい気迫ね』

 

白い私も抜刀術の構えを取る。

 

「見ててねコテモン…………私の剣を………!」

 

「うむ!」

 

コテモンは私を信じて頷く。

その瞬間膨れ上がる相手()からのプレッシャー。

それでも私の心は静かだった。

どんな時でも私を信じて、そして助けてくれる相棒が傍にいるから。

 

「――ふっ」

 

『はぁっ!!』

 

踏み込んだのは同時。

全てを込めた私の一刀。

一瞬で私と相手()の位置は入れ替わっていた。

その時、私の髪紐が切れてポニーテールにしていた髪が解かれる。

そんな中、私はゆっくりと刀を納刀した。

鍔鳴りの音が響き渡ると同時に白い私の体が斜めにズレた。

私の剣が、相手()の身体を両断したのだ。

そのまま空中に溶けるように消えて行く白い私。

それを見届けると、脱力感が一気に私を襲い、膝を着いた。

すると、

 

「見事な一太刀であった、雫!」

 

コテモンが歩み寄ってくる。

 

「コテモン………」

 

私はコテモンに微笑む。

すると、部屋の奥に次に進むための道が開く。

その時、血を流し過ぎたからか、眩暈がした。

 

「っ…………!」

 

これ以上は、本当に危ない。

 

「ッ………そうだ………神水…………」

 

私は簡易宝物庫に、1つだけ渡されていた神水がある事を思い出した。

私は神水を取り出そうと、指輪型の簡易宝物庫に魔力を込めようとした。

その時、突然天井が爆発した。

 

「ッ………!? 雫!」

 

コテモンが降り注ぐ氷片から庇うように私を押し倒す。

 

「な、何…………!?」

 

突然の事に私は困惑する。

直後、爆発した天井の真下に何かが勢いよく落ちてきた。

雪煙が晴れて行くと、そこには蜂の様な体色の人型。

2本のビームソードの様な剣を両手に持ち、そこに立っているだけで気圧されるよな圧迫感を感じる。

 

「あれ………まさか…………!」

 

私は何とかDアークを取り出すと、そこにデータが表示された。

 

「タイガーヴェスパモン 究極体 ウィルス種 サイボーグ型デジモン。必殺技は『マッハスティンガーV』…………きゅ、究極体…………!?」

 

まずは回復………ううん、その前にコテモンを進化させないと…………!

私はコテモンを進化させようとカードが入っているポケットに手を伸ばそうとして、

 

「雫!!」

 

コテモンに押し倒された。

直後、タイガーヴェスパモンが居た場所から私が居た場所に向かって、一直線に床に亀裂が入っていた。

気付けば、タイガーヴェスパモンが先程まで私が居た場所の延長線上に立っていた。

知覚できないほどのスピードで一直線に斬りかかってきたのだと遅れて理解した。

悠々と佇むその姿は、まるで私達を敵では無く獲物と物語っているようだ。

 

「ッ……………」

 

正直、打開策が思い浮かばない。

私は先程開いた入り口を見る。

 

「…………………コテモン。私はもう動けないわ………コテモンだけでも逃げて………あの入り口を通れば、他のエリアに行けるはずよ。運が良ければ、黒騎君や葵と合流できるかもしれない」

 

「雫! 何を………!?」

 

「このままじゃ、2人とも殺されるわ………せめてコテモンだけでも…………」

 

「馬鹿を申すな! 拙者は雫のパートナーでござる! テイマーを見捨てて逃げる訳にはいかんでござる!!」

 

「だけど………!」

 

私がそう言った時、気付いた。

タイガーヴェスパモンが懲りらに向き直り、剣を構えていたことに。

 

「ッ……………!」

 

その目が私達を捉える。

その目が物語っていた。

次は仕留めると。

その瞬間襲い掛かる圧倒的な死の恐怖。

先程の試練以上に突き付けられた死の現実に私は…………

 

「…………たすけて…………南雲君…………!」

 

思わず目を瞑って、好意を自覚した彼に助けを求めた。

いくら南雲君でも究極体には敵わない。

助けを求めるなら、黒騎君や葵の方が正しいのかもしれない。

だけど私は、南雲君へ助けを求めた。

以前私を助けてくれた彼なら、私が好きになった彼なら、こんな絶望的な状況からでも私を助けてくれるかもしれないと望みを持って。

そんな届くはずの無い私の願いは…………

 

――ガキィィィィィィィィィィィィィィィン

 

甲高い音を鳴り響かせながら届いた。

私は思わず目を開ける。

まず目に入ったのは真紅。

私の背後から回された真紅の剛腕が私達の命を奪おうとしたタイガーヴェスパモンの剣を受け止めていた。

 

「えっ…………?」

 

私が振り返ると、そこには、どこかウォーグレイモンを思わせる真紅の竜機人。

すると、左腕で私を庇っていた真紅の竜機人は、右腕を振りかぶるとタイガーヴェスパモンを殴りつけ、吹き飛ばした。

タイガーヴェスパモンは壁に叩きつけられる。

私が呆然と見ていると、持っていたDアークにデータが表示された。

 

「ブリッツグレイモン 究極体 ウィルス種 サイボーグ型デジモン。必殺技は、『プラズマステーク』、『サンダーバーニア』、『エレックガード』……………ウィルス種のグレイモンの究極体……………まさか…………!」

 

私か言葉通りまさかと思う。

そんな都合のいい事あるはずが無いと。

だけど、目の前でそのブリッツグレイモンは光に包まれると、二つに分かれ、片方は黒いアグモンに。

そして、もう片方は私が求めてやまない姿となった。

 

「な、なぐも、くん?」

 

「……チッ、ボロボロじゃねぇか」

 

南雲君は宝物庫から神水の入った試験管を取り出すと、ポカンと口を開けていた私の口にズボッと突っ込んだ。

 

「んむっ!?」

 

「吐くなよ。死ぬ気で飲み干せ」

 

反射的に吐き出しそうになるけど、背中を右手で支えられながら試験管を口に突っ込まれているので、半ば強制的に呑み込ませられる。

何とかその神水を飲み干すと、切り傷だらけだった身体があっという間に全快した。

でも、失った血は戻らないので貧血気味ではあるけど。

私は改めて南雲君の顔を見る。

 

「本当に、南雲くんなの?」

 

「それ以外の何に見えるんだ?」

 

「で、でも、どうして、何で、ここに、私……」

 

「落ち着け。俺は自分の試練を終わらせて、現れた通路を進んでいたらここに出ただけだ。おそらく、それぞれの空間は繋がっているんだろうな。出た瞬間お前がやられそうになってたから咄嗟に進化して助けたわけだ」

 

「じゃ、じゃあ、本当に南雲くんが、私を……」

 

何故究極体に進化できるのかなんて気にならない程私は心に衝撃を受けた。

南雲君は本当に助けてくれた…………

私が助けて欲しい時に………また…………

彼を愛しいと思う心が膨らんでいく。

きっと、先生やリリィも今の私と同じような気持ちだったんだろう。

その時、ガラガラと音がして、氷の瓦礫の中からタイガーヴェスパモンが立ち上がる。

 

「チッ、やっぱあの程度じゃくたばらないか…………アグモン、まだ行けるよな?」

 

「おうよ!」

 

南雲君の言葉にアグモンが勇ましく応える。

南雲君がDアークを取り出すと、

 

「…………待って!」

 

私は南雲君を呼び止めた。

 

「八重樫………?」

 

南雲君が怪訝そうな表情を向ける。

 

「……………ここは、私の試練の場よ!」

 

私は立ち上がる。

 

「いや、デジモンが乱入してきた時点で試練も何もないだろう? って言うか、次の道が開いてるって事は、試練は突破したんじゃないのか?」

 

「ええそうね。迷宮の試練は突破したわ……………だけど、今度はテイマーとしての試練を乗り越えるべきだと思うの」

 

それに、彼に情けない女だとは思われたくない。

 

「……………………………」

 

「この試練でも私はコテモンに助けられたわ。なら、私はその信頼に応えられるテイマーになりたいの…………!」

 

「……………そうか。ならやって見せろ」

 

「………いいの?」

 

「お前がやると決めたんだろう? なら俺が見ていてやる」

 

「っ……」

 

「勝てるまで挑戦するといい。俺がいる限り死ぬことだけはない。死なせはしない。大丈夫だ」

 

「……それは、殺し文句よ」

 

最後の言葉は聞こえないように口の中だけで呟く。

私はタイガーヴェスパモンに向き直ると、背中越しに南雲君に呟いた。

 

「……見ていてくれるのね? 私を」

 

「ああ」

 

「いざという時は守ってくれるのね?」

 

「ああ」

 

「そう。なら……行ってきます」

 

「おう。行ってこい」

 

何気ない彼の言葉。

その言葉だけで、私は負ける気がしない。

 

「雫、頑張るっクル!」

 

いつの間にか居たクルモンも私を応援してくれる。

何時だったかと同じように、クルモンの額のマークが輝き、光が私とコテモンを包む。

 

「コテモン、一緒に戦ってくれる?」

 

「勿論でござる。雫は拙者のテイマーで、拙者は雫のパートナーでござる!」

 

コテモンの言葉に私は迷いが無くなる。

 

「なら見せてあげましょう! 私達の『進化』を!」

 

「我らが『剣』の行きつく先! 今こそ極める時でござる!!」

 

私達の思いに応えるように周りの光が強く輝いた。

 

――MATRIX

  EVOLUTION――

 

「マトリックスエボリューション!!」

 

Dアークを身体に押し付けると、身体がデータに変換され、コテモンと一つになる。

 

「コテモン進化!」

 

コテモンの腕が分解され、黒い和風の小手を装着した竜人の腕として再構成される。

コテモンの足が分解され、黒い袴を履いた竜人の足として再構成される。

コテモンの体が分解され、黒い和風の鎧を纏った竜人の体として再構成される。

コテモンの頭が分解され、雫の迷いなき眼差しを持った、白髪を靡かせる竜人の頭として再構成される。

それは、両手に独特の形状をした2本の剣『菊燐』を携えた侍の様な姿の竜人型デジモン。

 

「ガイオウモン!!」

 

「ガイオウモン 究極体 ウィルス種 竜人型デジモン。必殺技は、『燐火斬』、『ガイアリアクター』、『燐火撃』。ヒュウ! 本当に進化しやがった」

 

南雲君がデータを読み上げながら感心したのか、口笛を吹きながらそう口にする。

ガイオウモン()は油断せずにタイガーヴェスパモンを見据える。

次の瞬間、猛スピードで突っ込んでくる。

さっきは残像すら見切れなかった。

だけど今は、

 

「見える………!」

 

振り抜かれる2本の剣の軌跡がハッキリと見切れる。

ガイオウモン()はその剣を己が持つ剣、『菊燐』で受け止める。

地面が陥没し、この部屋全体に罅が走るほどの衝撃が襲い掛かるけど、ガイオウモン()はビクともしない。

タイガーヴェスパモンは一旦距離を取ると、再び勢いを付けて突っ込んできた。

タイガーヴェスパモンの戦い方はスピードを活かしたヒット&アウェイ。

そのスピードにはどちらかと言えばパワー重視のガイオウモンでは追いつけない。

でも、

 

「燐火斬!!」

 

ガイオウモン()はタイガーヴェスパモンが通るであろう場所に菊燐を振るう。

すると、その剣は怪しい光の軌跡を残す。

タイガーヴェスパモンがそのまま突っ込んで来て剣を持つ腕を振り上げ、その光の軌跡に触れた瞬間、タイガーヴェスパモンの腕が切り飛ばされた。

 

「!?」

 

ガイオウモン()が残した2つの剣の軌跡。

それは触れたものを切り裂く設置型の斬撃。

一直線に突っ込んできたタイガーヴェスパモンは両腕を失い、剣を振るう事が出来なくなる。

タイガーヴェスパモンは一瞬躊躇したけど、次の瞬間には背を向けて飛び立つ。

逃げようというのだろう。

だけど、

 

「逃がさんでござる!」

 

ガイオウモン()は両手に持つ2本の菊燐の柄を互いに合わせ、合体させると弓にする。

光が集中し、弦と矢を形作ると、ガイオウモン()はその矢を引き絞る。

ガイオウモン()は逃げようとするタイガーヴェスパモンに狙いを定めると、

 

「燐火撃!!」

 

光の矢を撃ち放った。

光の矢は一直線にタイガーヴェスパモンへと向かい、遠くへ逃げようとしていたその背を貫いた。

光の矢に貫かれてタイガーヴェスパモンは消滅する。

それを見届けると、私はコテモンと分離して南雲君に向き直る。

 

「どうだった?」

 

「お見事」

 

南雲君のその言葉に私は満足すると、いい加減限界だった私は倒れようとする。

だけど、床に倒れる前に南雲君が抱き留めてくれた。

そのままゆっくりと床に座らされると、

 

「八重樫、歩くのは難しいか?」

 

「そう、ね。少し休憩が必要だわ。と言っても、貧血はどうしようもないから再生魔法を使ってもらわないと、どちらにしろまともに動けないだろうけど……というわけで南雲くん、よろしくね?」

 

「あぁ?」

 

「抱っこしていってね?」

 

「……八重樫、何かちょっと変わったか? 遠慮がなくなったというか、図太くなったというか……」

 

私の変わりように南雲君も驚いているみたい。

 

「もう少し素直になろうと思っただけよ。それより、早く他の皆とも合流しましょう? そうだわ。南雲くん、再生魔法の付与されたアーティファクトを作ってくれないかしら? 黒刀にも機能は組み込まれているけど微々たるものだし」

 

南雲君は首を傾げていたようだけど、私のお願いを聞いてくれたのか宝物庫から材料を取り出す。

そこで私は更にリクエストすることにした。

 

「どうせなら、髪飾りにしてくれないかしら? ほら、私の髪紐、切れちゃったし。可愛いのがいいわ。ユエ達に贈った、あの雪の結晶みたいに」

 

「……注文の多いやつだな。ほんとに、何か色々吹っ切れたみたいだな」

 

文句を言いながらも、南雲君は真珠のような淡い輝きを持った、魔力と親和性の高い水晶を使ったヘアクリップを作り上げた。

 

「綺麗……」

 

「ほら。これでいいだろ? 装備したらさっさと行くぞ」

 

受け取ったそれをしばらく眺めていたかったけど、南雲君に急かされて私は慌ててポニーテールにする。

 

「……どうかしら?」

 

上目遣いでそんなことを聞く私に南雲君は困惑を隠しきれない様だ。

 

「……ものほんの再生魔法には遠く及ばないが、問題なく肉体への再生機能も働いているようだぞ」

 

「……そういうことじゃないのだけど」

 

とぼける南雲君に向かって私はスッと両手を差し出す。

『抱っこ』の要求だ。

そこでふと南雲君が宝物庫から何かを取り出そうとしているに気付いた私は、

 

「前みたいに磔にするつもりなら断固抗議するわ。大迷宮を出たら南雲くんを重症患者として流布してやる」

 

「……」

 

髪、眼帯、義手と順番に向けた視線に、どんな病名かは想像がついているだろう。

南雲君は少しの間葛藤した挙句、妥協案として私の目の前で背中を向けながらしゃがみこんだ。

 

「むぅ、お姫様抱っこが良かったのだけれど……仕方ないか」

 

私は渋々それで我慢することにして、代わりに回した腕で南雲君にギュッと抱き着く。

南雲君は立ち上がると無言で先の通路に進み始める。

そんな私達を追うようにアグモンとコテモンとクルモンが歩いていると、

 

「なあ? 雫の奴なんか変わったか?」

 

アグモンがそう言うと、

 

「変わった訳ではござらん。少し素直になっただけでござるよ」

 

「クルックル~!」

 

コテモンがそう言い、クルモンが嬉しそうに笑う。

私は南雲君に囁いた。

 

「ねぇ、南雲くん」

 

「ん? なんだ?」

 

「この手、剣ダコだらけでしょう? やっぱり、女の手じゃないって思うかしら」

 

私は自分の手を南雲君に見えるように広げる。

何年も何年も己を磨き続けた証だ。

 

「柔らかく、傷一つない手を〝女の手〟と言うなら、確かにそうは見えないな」

 

「……」

 

「だが、いい手だと思うぞ」

 

「……本当?」

 

「ああ。箸より重いものは持てません、何て奴の手より遥かに綺麗な手だ」

 

「……」

 

その言葉に照れ臭くなった私は、掌を握って隠すようにしてしまう。

でも、それと同時に抱き着く力を強め、

 

「南雲くん、助けに来てくれてありがとう」

 

「別に、助けに来たわけじゃないんだけどな。たまたまだ」

 

「ふふ、まるで物語のようだったわ。オルクスの時もそうだったし、タイミングでも計っていたんじゃないの?」

 

「馬鹿言うな。毎度、ギリギリ心臓に悪いことこの上ない。もっと余裕が欲しいっての」

 

「私ね。中身は結構乙女チックなのよ。本当は剣術より、おままごとをしていたかったし、格好良い男の子に守られるお姫様なんかに憧れていたのよ。【ハルツィナ大迷宮】で夢の世界に引き込まれた時なんて、自分をお姫様にして騎士との恋物語を体験していたくらい。流石に、我ながら痛々しくて、とても皆には話せなかったけれど」

 

「確かに、痛いな」

 

ストレートに返してきた南雲君の頭を小突く。

 

「まぁ、何が言いたいかというとね。そんな私だから、危ない時に何度も駆けつけて助けてくれた南雲くんには凄く感謝しているってこと。見守ってくれるっていう言葉も、死なせないって言葉も、本当に凄く嬉しかったわ」

 

「……大げさだな。八重樫を死なせたら……」

 

「香織が悲しむ、でしょ? 分かっているわ。私の為じゃなくて、香織の為ってことくらい」

 

「……………八割はな」

 

少しの沈黙の後、呟かれた言葉に私はえっ?と思う。

 

「残りの二割は?」

 

「まぁ、八重樫はいい奴だからな。積極的に見捨てようとは思わないさ」

 

「……」

 

ほんの少しでも、南雲君自身の意志で私を助けてくれたことに私は嬉しさを感じる。

 

「南雲くん、私、早く香織に会いたいわ。香織だけじゃなくてユエやシア、ティオにも会いたい。それでね、南雲くんを好きになったって言うわ。どうなるかわからないけど、もう少し素直になってぶつかってみる」

 

「そうか。それなら、はや…………………………おい、八重樫、今、お前」

 

「南雲くん、少し…疲れた、わ。ちゃんと…守って……ね」

 

私は本心を呟くと、彼に護られているという安心感から、襲ってきた眠気に逆らわず、そのまま意識を落としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 







第59話です。
今回は雫とコテモンの究極進化でした。
何気にウォーグレイモンの亜種って結構多いんですよね。
ガイオウモンも一応ウォーグレイモンの亜種ですよね?
さて、次回は彼女の出番。
何気に長い氷雪洞窟…………
では、次も頑張ります。


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