【Side 香織】
ドォンという銃声と共に、私の虚像は胴体を吹き飛ばされて消える。
「ハジメ君の『特別』は誰にも渡さない。ユエにも、シアにも、他の誰にでもね」
私の虚像は、ユエやシアにハジメ君の『特別』を奪われるかもしれないと煽って来た。
だけど、ユエを受け入れた時からそんな事は覚悟の上。
私は誰にも負けない。
ハジメ君がモテるのは仕方ない。
だってハジメ君はあんなにカッコいいんだから。
なら、負けなければいい。
どこの誰が来ても、ハジメ君の『特別』は渡さない。
正々堂々と受けて立つ!
私の虚像は改めてその気持ちを再認識させてくれた。
虚像が完全に消えると、新たな道が現れる。
「これで試練は突破って事かな?」
「お疲れ様、香織」
「ガブモン」
ガブモンが労いの言葉をかけて来てくれる。
「ちょっと厭らしい試練だったね。ハジメ君は大丈夫だと思うけど、他の皆は大丈夫かな? 特に光輝君」
「アイツは駄目じゃない?」
辛辣だねガブモン。
でも、そう言いたくなるのは光輝君には悪いけど理解できる。
今の光輝君にはこの試練は一番の鬼門だし…………
「それと………雫ちゃんも危ないかもね…………」
最近の雫ちゃんはハジメ君に惹かれて来てる。
雫ちゃん自身はそれを認めてないけど、そこを突かれたら雫ちゃんでも危ない。
でも、ここで私が気にしても仕方ない。
「今の私に出来るのは、雫ちゃんを信じて先に進むことだけだね!」
気を取り直して私はガブモンと一緒に新しく開いた道に足を………………
―――ドゴォォォォォォォォン
「さぁ、ユエさん! フルボッコにされたくなかったら、さっさとごめんなさいして下さい!!」
した瞬間、背後の壁が爆発してシアとユエが飛び出してきた。
「ふえっ!?」
「なんだなんだ!?」
突然の事に驚く私とガブモン。
「あ、あのユエ? シア? 一体、何をして――」
「……シア。私は万が一の時のことを考えて」
「うるせぇですぅ! 私の大好きなユエさんは、そんな腑抜けたこと言いません! ハジメさんが惚れた〝大切〟は諦めたりしません! 何が〝万が一〟ですかっ。そんな万が一になんて〝ぶっ殺してやる〟くらい言えなくてどうするんですかっ。この腰抜け! 万年おチビ! 貧乳でも巨乳でもない半端乳!」
「っ……言ってはならぬことを。シア、調子に乗りすぎ」
私の声は聞こえて無いのかシアの暴言にユエが反応する。
ユエの頭上に小さな暗雲が蠢き、ゴロゴロと雷が轟く。
「……撤回するなら今のうち、この残念ウサギ」
「それは私のセリフですよ、この万年チビ」
「あ、あの二人とも? ちょっと落ち着こう? 何があったのかは知らな――」
私は再度止めようと声を掛けたけど、
「……黒焦げウサギにして、格の違いを教えて上げる」
「ハッ、腰抜けの微乳おチビなんて目じゃないです! 今日こそ下克上ですぅ!!」
やっぱり聞いてないみたいで私そっちのけでバトルが開始された。
「ド反省しろやぁですぅ! この万年発情女ぁ!!」
「っ、……無駄乳垂らして発情してるのはお前の方。この痴女ウサギ!」
「はんっ、羨ましいですかぁ? 半端乳さぁん?」
「……お漏らしウサギめっ。また失禁させてやる」
「っ、一体、いつの話を持ち出してるんですかっ! 陰険ですぅ! この『四捨五入的に考えたら、もう貧乳なんじゃない? むしろ、まな板でいいんじゃない?』女ぁ!」
「……長い! というか、勝手に私の胸ランクを下げるなっ。……私は貧乳じゃない! ちゃんとある! この垂れ乳ウサギ!」
「た、垂れてないですぅ! ツンツンでプルンプルンですぅ! ハジメさんも大喜びですぅ!」
「……ハジメは駄肉になんて興味ない。お尻の方が好きだから! 特に、お尻から太ももにかけてのラインが大好物! 私が一番だって言ってくれた!」
いやユエ勝手に一番を名乗らないでほしいな?
ハジメ君は胸にもフツーに興味あるよ。
「な、なら、私がおっぱいマスターにするだけですぅ! この前だって、ユエさんには到底できない、おっぱいで〝ピー〟したり〝ピー〟して〝ピー〟したんですからぁ! 凄く喜んでくれましたぁ! 夜の戦いでも下克上間近ですね!」
あ、それ私もやった。
「……ハジメの夜戦能力は私とカオリが育てた。シアの戦闘能力も私が育てた。私は全てを知っている! 師匠に勝てる弟子などいないことを教えてあげる!」
「上等ですぅ! 弟子は師匠を超えるもの! 夜戦でも戦闘でも超えてやります! 今日、ここで!」
2人が渾身の一撃を放とうとしてたから、
「ストーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!!」
私は〝縛光鎖〟を発動。
光の鎖が2人を雁字搦めに拘束する。
「はわっ!?」
「…………これは………!?」
「理由は知らないけどちょっと落ち着こうか2人とも。見てよ、ブイモンとクダモンも心配そうに見てるよ」
私は2人が出てきた壁の方を指差す。
そこにはブイモンとクダモンが心配そうに2人を見ていた。
「カオリさん!?」
「カオリ………何故ここに………?」
「何故って………ここ、私の試練の場だよ?」
2人は今気付いたように辺りを見渡す。
「カオリさん………その………試練はどうなりましたか?」
「ああ、大丈夫だよ。2人が乱入してきたのは試練が終わった直後だったから」
その言葉を聞いてホッと息を吐く。
「それで? 何で2人はあんな大喧嘩をしてたの?」
「それは…………」
「聞いてくださいカオリさん! 試練で何を言われたのかは知りませんが、ユエさんってば、もし自分に何かあったらハジメさんをお願いしますなんて言うんですよ!?」
ユエが言い淀んでいた所でシアがハッキリと口にする。
「……………それはちょっと聞き捨てならないなぁ…………ユエ? 何でそんな事を言ったの?」
「…………………………」
ユエは答えない。
「言いたくないの?」
「…………ごめんなさい」
「そっか…………言いたくないなら無理に聞き出すつもりは無いよ。けどね、さっきシアが言ってた言葉だけは撤回して。ユエは万が一の事を考えてそう言っただけかもしれないけど、私もシアも………もちろんハジメ君も、そんな『万が一』なんて絶対に考えないから…………それに…………そんな『万が一』の事を心配するユエなんてハジメ君の隣に居て欲しくない………!」
「ッ…………!」
「ユエがハジメ君の隣にいさせて欲しいと言った言葉は嘘だったの? ハジメ君を裏切らないって言ったことも?」
「そんな事はっ…………!」
「理由は如何あれ、ハジメ君の隣から居なくなるって事は、ハジメ君を裏切るのと同意だよ。私はハジメ君を裏切らないって信じたからユエもシアもハジメ君の傍に居る事を許した…………私の目は節穴だったかな?」
「………違う!」
「だったらそんな事言わないで、絶対にハジメ君の傍にいると約束して! 第一、ユエが心配する様な『万が一』なんて、ハジメ君が許すと思う?」
「ッ………!」
ユエはハッとなって顔を上げる。
「勿論、私やシアだって許すつもりは無いよ」
「…………そうだった………過去がどうであろうと、私が何であろうと、そんなの関係ない。私はこれから先もずっとハジメやカオリ、シアと一緒にいたい。だから、それを邪魔するものは何であれぶっ飛ばす。それだけのことだった」
「ひっぐ、そ、そうですよぉ」
「そうそう、その調子」
「……ん。仮に、私に何かあったとしても必ずハジメや香織、シアが何とかしてくれる。心配することなんて何もなかった」
「当たり前じゃないですかぁ、うぅ」
「……ん。ごめんなさい。酷いお願いをした。許してくれる?」
「許して上げますぅ! だから、もう二度と、あんな悲しいお願いはしないで下さいよぉ! 約束ですからね!」
「……ん、約束」
ユエはシアと抱き合う。
「これで一件落着かな?」
私はもう少し余韻に浸らせてあげようとその場を離れようとして…………
突然天井が崩落した。
「ッ!? 〝聖絶〟!」
私は咄嗟に障壁を展開して、崩れ落ちてくる瓦礫からユエ、シア、ガブモン、ブイモン、クダモンを護る。
「何っ………?」
「あ、あそこを!」
ユエが声を漏らし、シアが指を指す。
そこに視線を向けると、空中に佇む、刃が幾重にも重なって出来た翼を持ち、両腕と両足も刃となっている人型の存在が居た。
「あれは…………?」
私が呟くと、
「我が名はスラッシュエンジェモン…………!」
「スラッシュエンジェモン………!? もしかしてデジモン!?」
私が思わず口にすると、シアがDアークを取り出し、
「スラッシュエンジェモン 究極体 ワクチン種 能天使型デジモン。必殺技は、『ホーリーエスパーダ』と『ヘブンズリッパー』…………きゅ、究極体ですぅ!」
驚きながら口にする。
「究極体!?」
私がもう一度スラッシュエンジェモンを見上げると、
「『神』の名において貴様たちを断罪する!」
スラッシュエンジェモンは両腕の刃を構えてそう言い放つ。
「『神』………? エヒトの事?」
ユエがそう口にすると、
「笑わせるな。エヒトなど我が『神』の前には小物に過ぎん。そのような小物と我が『神』を同一視するとは無礼千万!」
その言葉が癇に障ったようで、スラッシュエンジェモンは力強く否定する。
「己が罪を悔い、我が断罪の剣にて散ると良い!!」
その言葉で私達を逃がすつもりが無い事が伺える。
「ユエ! シア!」
「………うん」
「はいですぅ!」
私達はDアークとカードを取り出す。
「ガブモン!」
「おう!」
私はガブモンに、
「………ブイモン」
「うん!」
ユエはブイモンに、
「クダモン!」
「分かっている!」
シアはクダモンに。
それぞれのパートナーに呼びかけ、パートナーも力強く返事を返す。
「「「カードスラッシュ!!」」」
私達はDアークにカードをスラッシュすると、それぞれのカードがブルーカードに変化する。
「「「マトリックスエボリューション!!」」」
――MATRIX
EVOLUTION――
Dアークから光が放たれる。
「ガブモン進化!」
「ブイモン進化!」
「クダモン進化!」
3体は一気に完全体へ進化した。
「ワーガルルモン!!」
「エアロブイドラモン!!」
「チィリンモン!!」
3体の完全体がスラッシュエンジェモンの前に立ちはだかる。
「抗うか………良かろう! 貴様達の無力! その身を以って思い知らせてやろう!!」
スラッシュエンジェモンは翼を広げると一気に突っ込んできた。
「スピードなら負けない………!」
エアロブイドラモンが立ち向かう。
中央でエアロブイドラモンとスラッシュエンジェモンが激突する。
すると、
「うあっ!?」
繰り出したエアロブイドラモンの拳が傷付き、エアロブイドラモンは後退する。
「スピードは中々の様だが、それだけでこの私は倒せん!」
スラッシュエンジェモンは両腕の刃を煌めかせる。
その身体には傷一つ無い。
「くっ………!」
エアロブイドラモンは悔しそうな声を漏らす。
「疾風天翔剣!!」
その時、側面からチィリンモンが頭の角を向けて突っ込んできた。
だけど、
「甘い!」
スラッシュエンジェモンは軽やかに回避する。
だけど、そこまでは予想済み。
「円月蹴り!!」
そこへワーガルルモンが回し蹴りを放って斬撃の様な蹴撃を飛ばす。
回避先を読んだ一撃は直撃すると思っていた。
だけど、
「温い!」
スラッシュエンジェモンが刃の腕を振った何気ない一振りでその一撃はあっさりと四散させられる。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
その事に驚愕する私達。
「その程度か………? ならば、こちらから往くぞ!!」
スラッシュエンジェモンは刃の腕を交差させると、その刃に光が集中し、
「ホーリーエスパーダ!!」
十字の光の斬撃を放った。
「くっ!」
「うわっ!?」
「ぬうっ!?」
ワーガルルモンたちは衝撃に声を漏らしながらもなんとか避ける事に成功した。
その斬撃はそのまま直進し、壁に大きな十字の斬撃の跡を残す。
「凄い威力…………!」
「とんでもない切れ味ですぅ………」
「流石は究極体………だね」
ユエ、シア、私の順にその威力に戦いていると、
「フン………避けたか………だが、いつまで耐えられるかな!?」
スラッシュエンジェモンはそう言うと、両の刃の腕を眼前で合わせると、刃の翼も折り畳み、身体中の刃を一直線上にする。
そしてそのまま前方に回転し始め、回転ノコギリの様に超スピードで回転する円盤の様になった。
「ヘブンズリッパー!!」
その状態で突進してくる。
「くっ!」
初撃をワーガルルモンが跳躍して躱す。
スラッシュエンジェモンはそのまま地面に大きな傷跡を残すけど、減速ぜずにそのまま弧を描いて空中に跳躍したワーガルルモンに向かって方向転換した。
「何ッ!?」
ワーガルルモンは目を見開いて驚愕する。
いけない!
あのままじゃ直撃する!
「〝天絶〟!!」
そう思った私は咄嗟に、天絶を発動。
勿論私の障壁で究極体の攻撃が防げるなんて微塵も思ってない。
私が〝天絶〟を発動した場所はワーガルルモンの足元。
「ッ!」
それに気付いたワーガルルモンはその障壁を蹴って方向転換する。
私はガブモンと初めて会った時と同じように〝天絶〟を足場として使用した。
そのお陰でワーガルルモンはスラッシュエンジェモンの追撃から逃れる。
「チッ………!」
スラッシュエンジェモンは攻撃を外したことを悟ると回転を止めて舌打ちする。
ワーガルルモンは地面に着地し、
「ありがとう香織。助かった」
私にお礼を言う。
「うん。でも、まだだよ!」
「分かってる!」
私の声にワーガルルモンは油断なくスラッシュエンジェモンを見据える。
その時、
「迅速の心得!!」
スラッシュエンジェモンの周りにチィリンモンの分身が無数に現れる。
「何ッ!?」
スラッシュエンジェモンはその状況に一瞬驚愕して動きを止める。
その瞬間、
「Vウイングブレード!!」
後方からエアロブイドラモンが翼からエネルギー波を放って攻撃する。
「がはっ!?」
その直撃を受けたスラッシュエンジェモンは仰け反る。
「今だよ! ワーガルルモン!!」
「おう!」
「カードスラッシュ! 高速プラグインB!!」
私はオプションカードをスラッシュする。
「うぉおおおおおおおおっ!!」
その恩恵を受けたワーガルルモンが凄いスピードで駆け抜け、スラッシュエンジェモンに飛び掛かった。
「舐めっ………るなぁっ!!」
スラッシュエンジェモンは強引に体勢を立て直すと、横に飛び退いてワーガルルモンの渾身の一撃を躱す。
「ッ………!」
「躱されました!」
ユエとシアが声を漏らす。
だけど………!
「ここっ!」
私は杖を翳して〝天絶〟を発動。
再びワーガルルモンの足場にする。
ワーガルルモンはその障壁に足を着き、膝を曲げて力を溜めると、
「おおおおおおおおっ!!」
障壁が砕ける程の威力で蹴り、スラッシュエンジェモンに再び飛び掛かった。
体勢が崩れて、ワーガルルモンに背中を向けているスラッシュエンジェモン。
「カイザーーーーーーネイルッ!!!」
そのスラッシュエンジェモンに向けて、ワーガルルモンは爪を紅く輝かせ、渾身の必殺技を放つ。
紅く光る爪の軌跡がスラッシュエンジェモンに襲い掛かった。
私やユエ、シア、エアロブイドラモンやチィリンモンも確実に入ったと思ったに違いないと思った。
技を放っていたワーガルルモンもそう思っていたに違いない。
次の瞬間、
「あ…………が………………!?」
ワーガルルモンの爪は、スラッシュエンジェモンに届く前に止まっていた。
あと、ほんの数センチという所で、ワーガルルモンの爪は震えた状態で止まっていた。
その理由は、
「同じ手が、二度通じると思ったか?」
静かにそう言うスラッシュエンジェモン。
ワーガルルモンは、スラッシュエンジェモンが広げた刃の翼によって体中を貫かれていた。
「ワ、ワーガルルモン!!??」
私は思わず叫ぶ。
スラッシュエンジェモンはワーガルルモンから刃の翼を抜くと、振り向きざまに右腕の刃を薙ぎ払った。
「うぐぁああああああああああっ!?」
その斬撃を受け、ワーガルルモンは吹き飛ばされながら光に包まれ、ガブモンに退化してしまう。
「ガブモン!?」
私は思わず駆け出してガブモンを受け止めた。
「駄目です! カオリさん!!」
「カオリ………!」
シアとユエが悲痛な声を上げる。
何故なら、
「終わりだ!」
スラッシュエンジェモンが目の前で刃の腕を振りかぶっていたからだった。
私は咄嗟にガブモンを庇うように抱きしめ、〝聖絶〟を展開する。
無駄だと分かっていても、生きる事を諦めたくなかった。
スラッシュエンジェモンの刃が障壁を切り裂く。
その寸前、
「ブレイズソニックブレス!!」
「何ッ!?」
スラッシュエンジェモンが咄嗟に飛び退き、私達の眼前を灼熱の炎が通過する。
「ッ……今のは?」
私が顔を上げてそっちを確認すると、
「カオリ! ユエ! シア! 無事か!?」
いつの間にか新たな道が開いていて、ティオが駆け寄って来た。
その近くには龍太郎君と鈴ちゃんもいる。
「ティオ! じゃあ、今のは………」
私が視線を上げると、そこにはウイングドラモンが翼を広げてスラッシュエンジェモンを睨み付けていた。
「ウイングドラモン!」
「ここは己に任せて下がれ!」
「う、うん! お願い!」
私はガブモンを抱き上げて皆の所へ合流する。
「カオリン! 大丈夫!?」
鈴ちゃんが一番に心配そうな表情を向けてくる。
「うん、ティオ達のお陰だよ。ありがとう」
「礼はいい。それよりも奴は………」
ティオがスラッシュエンジェモンを見上げる。
「相手はスラッシュエンジェモン。究極体だよ」
「究極体とは………済まぬな。もう少し妾達が早く駆け付けていれば、4対1でもう少し有利に戦えていたものを………」
ティオは申し訳なさそうに言ってくるけど、
「そんな事ないよ! 実際ティオが駆け付けてくれなかったら危なかったわけだし、寧ろグッドタイミングだったよ!」
私はそう言って気にしないように言う。
「そうか…………しかし………」
ティオは表情を厳しくしてウイングドラモン達の戦いを見る。
「このような閉鎖空間ではこちらの長所を存分に発揮できん」
「えっ?」
ティオの言葉に鈴ちゃんが声を漏らす。
「奴の体の形状を見るに、おそらく近接戦闘に特化しておるのだろう。おそらく必殺技も近距離から中距離専用では無いのか?」
ティオの推測が当たっている事に私は驚きを隠せない。
「こちらの3体はスピードを活かして相手を翻弄する戦いが得意だ。しかし、この場の様な閉鎖的な空間では動きが制限されて得意な戦法を活かし切れん。対して、奴はこの空間全てが間合いと言っても過言では無かろう………」
ティオの言いたいことは分かった。
いくら3対1とは言っても、相手は格上の究極体。
その上、相手に有利なフィールドとあっては、持ちこたえるのが精々だ。
「このまま時間を稼いでタイシやアオイが合流してくれるのを祈るぐらいだが………いつ合流するとも知れぬ2人を待つのは、現実的では無かろう………」
ティオの頬に、冷や汗が流れているのに気付いた。
ティオも現状が非常に厳しい状況だと気付いているんだろう。
その時、
「ぐぐ…………オイラが…………」
ガブモンが身動ぎする。
「ガブモン!?」
「オイラが…………戦う………!」
ガブモンはふらつく体で立ち上がる。
「ガブモン!」
私は思わずその身体を支える。
「香織………もう一度進化を………! オイラ………まだ戦える………!」
ガブモンは足にしっかりと力を入れて立ち上がると私を見る。
その目は、自棄になった訳でも、意地になっているわけでもない。
『生』きるという意志を持った、決意ある目だ。
「ガブモン………」
「香織…………」
ガブモンの目から、『生』きる為に戦いたいという強い意志を感じる。
ガブモンの身体は既にボロボロ。
本当は止めるべきなのかもしれない。
無謀だと力付くでも止めるのが正しいのかもしれない。
だけど、『生』きる為に戦うというガブモンの意志は、あの奈落を生き抜いた私には、痛いほど共感できる。
だから私は、
「…………………わかったよ」
ガブモンの『意志』を尊重した。
「香織………!」
ガブモンは嬉しそうな顔をする。
「…………だけどね…………」
私は言葉を続ける。
「ガブモン1人だけを戦わせたりしない………」
ガブモンを1人で戦わせたくない。
かと言って、ガブモンの『意志』を否定したくない。
なら答えは1つ。
「私も戦うよ………!」
私はガブモンの目を見ながらそう言う。
「香織………!?」
「私もこんな所で諦めたくない………ハジメ君と一緒に………皆と一緒に地球へ帰る為にも、ここで『生き残るために戦う』!」
あの時…………
ハジメ君と一緒に奈落を生き抜くと決めたあの日から、私達の目的は変わらない。
ただそこに、ガブモンや他のデジモン達も一緒にという意味が加わっただけ。
「だから私も戦う! 少しでも生き残る可能性を上げるためにも!」
「香織…………!」
「一緒に戦おう…………ガブモン」
私はガブモンに手を差し出す。
「香織……………うん!」
ガブモンは嬉しそうに大きく頷いて私の手を取る。
その瞬間、私達の周りに光が満ちた。
――MATRIX
EVOLUTION――
「マトリックスエボリューション!!」
私はDアークを自分の身体に押し付ける。
身体がデータに変換され、ガブモンと一体化する。
「ガブモン進化!」
ガブモンの腕が分解され、黄金の鎧を纏った腕として再構成される。
ガブモンの足が分解され、黄金の鎧を纏った足として再構成される。
ガブモンの体が分解され、黄金の鎧を纏った体として再構成される。
ガブモンの頭が分解され、香織の生き残る意志を持った人狼の頭として再構成される。
それは、薙刀の様な武器、『黄獣偃月刀』を手に持ち、黄金のクロンデジゾイドを纏った獣騎士。
「クーレスガルルモン!!」
クーレスガルルモンとなって降り立つ私達。
「これは………カオリと………」
「ガブモンが…………」
「進化した………!」
「クーレスガルルモン 究極体 データ種 獣騎士型デジモン。必殺技は、『黄獣偃月刀』、『獣狼大回転』、『激・氷月牙』」
ユエがDアークで
「何ッ!?」
スラッシュエンジェモンが驚愕の声を漏らす。
その脚力は一瞬にして
「速いっ!?」
振り下ろした黄獣偃月刀をスラッシュエンジェモンは両腕の刃を交差させてギリギリ受け止める。
「ぬぅぅ…………はあっ!!」
スラッシュエンジェモンは交差させた両腕を強引に広げて
スラッシュエンジェモンを見上げると、両腕を交差させていた。
「ホーリーエスパーダ!!」
スラッシュエンジェモンは十字の光の斬撃を放つ。
すると、そこに無数の氷が生み出され、
「激・氷月牙!!」
それらを一斉に放つ。
2つの必殺技は互いの中央で激突すると相殺される。
「くっ! ならば!!」
スラッシュエンジェモンは一度悔しそうな表情をすると、両腕を眼前で合わせ、翼を折り畳んで前方に高速回転を始める。
それなら、こっちも対抗する。
黄獣偃月刀を大きく振りかぶり、スラッシュエンジェモンとは違い、横方向に高速回転を始める。
そして、
「ヘブンズリッパー!!」
スラッシュエンジェモンが縦回転のまま突っ込んできたのに対し、
「獣狼大回転!!」
縦と横の凄まじい高速回転がぶつかり合い、激しい火花を散らす。
「うぉおおおおおおおおおおおおっ!!」
「はぁああああああああああああっ!!」
威力は全くの互角。
互いに少しでも気を抜けばすぐさま押し込まれる。
後は気力の勝負!
と、スラッシュエンジェモンは思っているだろうけど、
何故なら、
「Vウイングブレード!!」
「なっ!?」
回転するスラッシュエンジェモンの真横。
回転の中心部分に向かってV字のエネルギー波が撃ち込まれ、
「疾風天翔剣!!」
「エクスプロードソニックランス!!」
続いてチィリンモンとウイングドラモンが角と背中の槍を使った突撃を見舞った。
「がぁっ!? き、貴様ら………!」
皆の攻撃によってスラッシュエンジェモンの攻撃が緩まる。
これが私が負けないと確信していた理由。
「卑怯とは言うまい? 『我ら』に挑んできたのはお主の方なのだから」
「格下と思って舐めたツケです!」
「………自業自得」
3人はスラッシュエンジェモンに向かってそう言い放つ。
そして、
スラッシュエンジェモンが回転するより速く
「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇっ…………! か、『神』よ………! お許しを……………!」
そう言い残してスラッシュエンジェモンは消滅した。
すると、皆が駆け寄って来た。
「カオリさ~ん!」
シアが手を振ってくる。
「ふう………」
私は息を吐いてガブモンを見る。
「香織…………」
「ふふっ」
私達は顔を見合わせて笑みを浮かべる。
すると、
「カオリン! 凄かったよ!」
「やるじゃねえか白崎!」
鈴ちゃんと龍太郎君が私を労ってくれる。
すると、ユエがジト~ッとこっちを見ているのに気が付いた。
「どうしたのユエ?」
私が聞くと、
「むぅ…………せっかく追いついたと思ったのにまた差を付けられた…………」
「……………ぷっ!」
ユエの零した言葉に私は思わず吹き出してしまった。
そして、
「私は負けないよ。ユエにも、他の誰にでもね」
色々な意味を込めて、そう口にした。
【Side ハジメ】
「クルックル~!」
八重樫を背負いながら通路を歩いて居ると、突然クルモンが嬉しそうな声を上げた。
「ん? 如何したクルモン?」
クルモンを頭の上に乗せているアグモンがそう聞くが、クルモンはただ笑っているだけだ。
ただ、その額が仄かに輝いている。
「何だ…………?」
多少気になりながらも、先へ進むと突き当りに出くわす。
この壁の向こうにまた別の誰かの試練の間があるのだろう。
「…………………ん?」
俺はその壁に近付く前に足を止める。
「どうした、相棒?」
突然立ち止まった俺にアグモンが首を傾げた。
だが、俺は目の前の壁の向こうに意識を集中する。
「…………こいつは」
俺は何故と思いながら足を踏み出す。
目の前の壁が開かれていき、その向こうが露になる。
そこで見たのは、
「はぁあああああああああああああああああっ!!!」
白と黒の聖剣に同色の魔力を纏わせて斬りかかる
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
金色のデジソウルを纏わせて拳を繰り出す大士がぶつかり合う光景だった。
【Side Out】
第60話です。
今回は香織とガブモンのクーレスガルルモンへの進化でした。
敵はスラッシュエンジェモンにして正解だったとしみじみ思ってます。
どっちも回転系の必殺技持ってますんで。
天使系デジモンなので『神』への忠誠度が高いです。
見た目は天使…………に見えなくもないかなぁって感じですけど。
さて、ハジメが相手だと容赦なくぶっ殺されると思ったんで、勇者(笑)の相手は大士です。
まあ、大方の人は予想出来てたと思いますが…………
因みにインプモンは勇者(笑)と一緒でした(爆)
思った以上に長くなっている氷雪洞窟編ですが、恐らく次回で攻略完了。
さて、いよいよ……………
次もお楽しみに。