ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第63話 エヒト降臨

 

 

 

 

 

結果的に言えば、帰還用アーティファクトは完成した。

3人が魔力枯渇で倒れるという事にはなったが、ハジメが以前制作した空間魔法の〝界穿〟を付与した『ゲートキー』の上位互換とも呼べる『クリスタルキー』だ。

ゲートキーは行きたい場所にゲートホールを設置して、座標を予め設定しなければならないが、クリスタルキーは〝望んだ場所への扉を開く〟というもので、目的地の距離や場所がある程度イメージできていれば、行ったことが無くても扉を開くことが出来る。

逆に言えば、目的地がある程度ハッキリしていないと使えないが、そこは導越の羅針盤と組み合わせて使えばいいだろう。

ただ、干渉防止用のアーティファクトはまだなので今すぐ帰ることは出来ない。

しかし、帰れる手段が出来たことは、誰もが喜びを露にしていた。

 

「と言っても、召喚防止用の概念を作るのは、帰還用の概念を作るのより骨が折れそうだからな。主に意志の面で。試行錯誤が必要そうだから、今しばらくは帰れないが」

 

「それは仕方ないよ。それでも帰れるっていうだけで……本当に……すごいよ。ぐすっ、ハジメくん、ありがとう……」

 

白崎さんが涙ぐみながらハジメにお礼を言う。

ハジメにとっては『白崎さんと一緒に帰る』という渇望を叶えただけなのでお礼など必要無いと思うが。

 

「取り敢えず、俺達は召喚防止用アーティファクトの作製に取り組みながら魔人領へ向かう。それで大士の懸念を片付けてからミュウ達を迎えに行く。中村の事は谷口たちが何とかしろ。俺達の前に立ちはだかるなら容赦なく殺すからな」

 

「うん、わかってる…………」

 

すると、ハジメが谷口さんにゲートキーを投げ渡した。

 

「俺達は、魔力が完全回復するまでもう少し休む。そのゲートキーはフェアベルゲンに設置したゲートホールと繋がっているから、樹海の魔物でも従えてみたらどうだ? あそこは気配操作の上手い魔物が多いからな。従えて強化してやれば、中々、有用だと思うぞ?」

 

「なるほど……うん、やってみるよ。ありがとう、南雲君!」

 

谷口さん達はハジメから受け取ったゲートキーで樹海へと向かった。

 

 

 

 

谷口さん達が樹海へ行っている間、それぞれとイチャイチャしつつ休息を取っていると、谷口さん達が戻ってきた。

後ろには大型の虎や狼、蛇などの魔物が居る。

無事に魔物を従えることが出来たようだ。

少しの間それらの魔物の強化に時間を使った後、俺達はこの氷雪洞窟を後にすることにした。

この氷雪洞窟のショートカットは、氷で出来た竜に乗って行くという何ともファンタジー感溢れるものだった。

その際、

 

「ミレディとメイルは見習うべき」

 

「私、解放者って女性の方が悪辣な気がします」

 

という言葉をユエとシアは漏らした。

やがて氷の竜は高度を下げ始め、雪原の境界近くに着陸した。

その時、

 

「皆、警戒して! 雪原の外に多数の反応よ!」

 

優花がそう叫んだ。

俺達が警戒しながら雪原の外へ踏み出すと、

 

「やはりここに出て来たか。私のときと同じだな。……全員生き残ったのか? 白髪の少年よ」

 

「ふふ、光輝くん、久しぶり~。元気だった?」

 

無数にいる灰竜の1匹の背に立つ魔人族の男、フリードと灰色の魔力の翼を広げる中村 恵理。

数多の魔物と、数百人はいるであろう銀翼を生やした同じ顔の女達。

そして、数体の究極体を始めとして、多数の完全体や成熟期デジモンがそこに待ち構えていた。

確かにフリードはこの迷宮の攻略者だ。

ショートカットの出口を知っていても不思議ではない。

ハジメも『やっぱり居やがったか』といった表情で驚きはない。

銀翼の女は以前ハジメが言っていた『真の神の使徒』だろう。

それが魔人族と一緒に居るという事は、魔人族の信仰している神も、エヒト本人かその眷属という事だ。

相手に究極体が居るとは言え、正確に数えれば見える範囲で4体。

隠し玉もあるかもしれないが、こちらの究極体になれるのは俺とドルモン、葵とリュウダモンに加えて、ハジメとアグモン、白崎さんとガブモン、八重樫さんとコテモンと更にはインプモンも要る。

正確な強さは分からないが、融合進化によって進化したデジモンが並の究極体より弱いという事は無いだろう。

単純に考えて、こちらには6体の究極体と4体の完全体。

優花、ユエ、シア、ティオも昇華魔法により完全体に近い力を得ていると言っても過言では無いだろう。

負ける道理は無い。

ハジメが先制攻撃を行おうとドンナーに手を掛けようとした時、

 

「逸るな。今は、貴様等と殺し合いに耽るつもりはない。地に這い蹲らせ、許しを乞わせたいのは山々だがな」

 

「へぇ、じゃあ、何をしに来たんだ? 駄々を捏ねるしか能のない神に絶望でもして、自殺しに来たのかと思ったんだが?」

 

「……挑発には乗らん。これも全ては我が主が私にお与え下さった命。私はただ、それを遂行するのみだ」

 

「そうかい。で? 忠犬フリードは、どんなご褒美(命令)を貰ったんだ?」

 

「……寛容なる我が主は、貴様等の厚顔無恥な言動にも目を瞑り、居城へと招いて下さっている。我等は、その迎えだ。あの御方に拝謁できるなど有り得ない幸運。感動に打ち震えるがいい」

 

「はぁ?」

 

ハジメが意味不明だと言わんばかりの声を漏らした。

 

「エヒトやら、アルヴとやらは神なんだろ? なんで城にいるんだよ」

 

俺が思った疑問と同じ質問をハジメが口にする。

フリードは淡々と、だが、それが栄誉であるかと示すように両腕を広げながら言った。

 

「アルヴ様は確かに神――エヒト様の眷属であらせられるが……同時に、我等魔人族の王――魔王様でもあるのだ。神界よりこの汚れた地上へ顕現なされ、長きに渡り、偉大なる目的のため我等魔人族を導いて下さっていたのだよ」

 

魔王と魔人族の神は同一人物の様だ。

それとも魔王に選ばれた人物にその『神』が憑依しているのか?

 

「……偉大なる目的、ね。さて、魔人族はどこまで踊らされているんだろうな」

 

「なにか言ったか?」

 

「いや? 魔王様ご立派ご立派と褒めていたところだよ」

 

「……」

 

「ちょっと、フリード。ペチャクチャ喋ってないで、さっさと済ませてよ。ボクは、早く光輝くんとあま~い時間を過ごしたいんだからさぁ」

 

「……分かっている」

 

ハジメとフリードの問答に軽い口調で中村が口を挟むと、フリードは本題に入ろうと………

 

「恵里っ! 鈴はっ……恵里とっ、そのっ」

 

する前に谷口さんの必死な声によって遮られた。

 

「ん? なぁに、鈴? 相変わらず能天気な……って感じでもないかな? なに? 恨み辛みでも吐きたいのかな? まぁ、喚きたければ好きに喚けばいいんじゃない? ボクにとってはどうでもいいことだけどぉ」

 

「ち、違うよっ。鈴はただ、恵里ともう一度話したくて!」

 

心構えも無く再会してしまったからだろうか、谷口さんからは上手く言葉が出てこない。

 

「え、恵里……その姿は、どうしたんだ」

 

そんな彼女達とは別で、漸く我に返った天之河がそう口にする。

天之河に声を掛けられた中村は、歪な笑みを浮かべる。

 

「光輝くん! どう? 素敵でしょう? 魔王様にねぇ、新しい力を貰ったんだよぉ。ボクは光輝くんと二人だけで甘く生きたいだけなのに、そんなささやかな願いすら邪魔するクソったれ共が多いからさ。大丈夫! 光輝くんを煩わせるゴミは、ぜぇ~んぶ、ボクがお掃除して上げるからねぇ! 二人でずぅ~とずぅぅぅぅぅ~と一緒に生きようねぇ~」

 

「え、恵里……」

 

とは言え、そんな話をハジメ達が黙って聞いている訳は無い。

容赦なくドンナーを向ける。

 

「取り敢えず、皆殺しでOKだろ?」

 

「……流石に、こんなに同じ顔が揃うと不気味だね」

 

「……ん。招きに応じる理由もない」

 

「ぶっ飛ばして終わりですぅ!」

 

「そも、招き方もなっとらんのじゃ。礼儀知らずには、ちと、お灸を据えてやらねばいかんのぅ」

 

それぞれが攻撃の意志を見せた瞬間、フリードの目の前の空間が歪み、どこか別の場所が映し出された。

そこは何処かの王城のようで玉座や荘厳な柱などが映る。

その画面が移動し、赤黒い魔力で作られた檻が見えた。

その中に居たのは………

 

「……クソが」

 

「みんな……先生っ!」

 

「リリィまでっ」

 

苦虫をかみつぶしたような表情でハジメが吐き捨て、白崎さんと八重樫さんも焦燥の声を漏らす。

その映像に映っていたのは、ハインリヒ王国に居るはずの異世界召喚組やリリアーナ王女。

その中の永山パーティーや愛子先生の護衛隊である玉井達は傷付き倒れており、愛子先生やリリアーナ王女達が必死に介抱している。

そして、その傷付き倒れている中には、

 

「レオモン…………」

 

俺が愛子先生の護衛を頼んでいたレオモンの姿もあった。

ハジメは咄嗟に〝導越の羅針盤〟を取り出して皆の位置を確認する。

 

「チッ、本物か……」

 

「ほぅ、随分と面白い物を持っているな、少年。探査用のアーティファクトにしては、随分と強力な力を感じるぞ? それで大切な仲間の所在は確かめられたか?」

 

どうやら映像に映っている皆は本物の様だ。

こういう場合一番に反応するのは勿論、

 

「卑怯だぞっ! 仲間を人質に取っておいてなにが招待だっ! 今すぐ、みんなを返せっ!」

 

「アハハッ、流石、光輝くん! 真っ直ぐで優しいねぇ~。ゴミ相手にもそんな真剣になっちゃって、惚れ直しちゃったよぉ」

 

「恵里、ふざけるなっ。こんなことをしたって何にもならない! みんなを返して、君も戻って来るんだ!」

 

「やぁ~ん、戻って来いとか言われちゃったよぉ。ボクを悶え殺す気だね?」

 

「恵里っ」

 

「くふふ、待っててねぇ。すぅ~ぐに、光輝くんをボクだけの光輝くんにしてあげるからねぇ~」

 

我らが勇者(笑)なのだが、その勇者(笑)もヤンデレ少女の前には形無しだ。

その天之河がフリードに向かって何か言おうとした時、2発の銃声が響き渡った。

ハジメが容赦なく発砲したのだ。

 

「ッ!?」

 

その銃弾は神の使徒によって防がれるが、フリードを驚愕させるには十分だった。

 

「ダ、ダメ! 待って! お願い、待って、南雲君っ」

 

谷口さんがハジメの銃を構えたその腕に飛びつくようにしがみ付いた。

フリードは冷や汗を流しながらも表情を崩さずに口を開く。

 

「……この狂人が。仲間の命が惜しくないのか」

 

「はっ、前に同じ状況でご自慢の仲間が吹き飛んだのを忘れたのか? 大人しくついて行ったところで、全員まとめて殺されるのがオチだろうが。なにせ、自称神とやらは、俺の苦しみながら死ぬ姿をご所望らしいからな」

 

「それなら、仲間を見捨てても己だけは生き残ると?」

 

「何度も言わせるな。あいつらは仲間でもなんでもない。それに……」

 

不敵な笑みと共に向けられた獣の様な眼光にフリードは灰竜の上で一歩後退る。

 

「お前等を皆殺しにしてから招かれても、問題はないだろう?」

 

「ハハハ! 流石相棒だぜ!」

 

「…………どっちが魔王だか………」

 

ハジメの言葉に俺は呆れた様に呟いた。

だが、ハジメの選択は間違ってはいないと思っている。

ここで大人しく付いて行って大人しく殺されても、掴まっている皆を活かしておく理由は無い。

寧ろ、魔人族にとっては異世界召喚組は俺達ほどでは無いにしろ脅威だ。

間違いなく殺されるだろう。

少しするとフリードは気を取り直し、

 

「威勢のいいことだ。これだけの使徒様を前にして正気とは思えんが……ここは、もう一枚、カードを切らせてもらおうか」

 

「あぁ?」

 

映し出されている映像が切り替わる。

皆が捕まっている檻の横に、小さな檻がある様だった。

そしてその中に居たのは……………

 

「ッ……………!」

 

その瞬間、世界から音が消えたと思わせるほどに濃密な殺意がその場を支配した。

フリード配下の魔物の大半は即座に意識を失い、ハジメの腕にしがみ付いていた谷口さんもその場にへたり込む。

 

「っ――っ――き、貴様、あの魚モドキ共がどうなっても、いいのかっ」

 

フリードが狼狽えながらもそう声を絞り出す。

その檻に囚われていたのはミュウとレミアさんだ。

お互いをしっかりと抱きしめ合っている。

2人の間に黒っぽいものがチラッと見えたが、気にしている余裕はない。

どちらもハジメにとっての『大切』。

ハジメも2人を護る為に色々と準備していたが、それらを全て潜り抜けられて2人は攫われてしまった。

 

「……招待を受けてやろう」

 

「な、なに?」

 

ハジメの口から出た言葉に、フリードが戸惑ったような表情になった。

 

「……招待を受けてやると言ったんだ。さっさと案内しろ」

 

「っ……ふん、最初からそう言えばいいのだ」

 

フリードは取り繕いながらも気丈に振る舞う。

そうして空間魔法の呪文を唱え始めた。

 

「……いいの?」

 

「……ああ。クリスタルキーを使えば空間を繋げられるだろうが、タイムラグが大き過ぎる。それに、空間転移系の力を保有していることは向こうも承知のはずだ」

 

「なにか、対策をしてるかもってことですね」

 

「万が一があっては困るからのぅ。先生殿達と違って、ミュウとレミアでは、そのタイムラグを自力では稼げんからな」

 

異世界召喚組はともかく、ミュウとレミアさんには身を護る術は無い。

今から強引に攻め入ったとしても、2人を無事に助け出せる保証が無いのだ。

 

「……さぁ、我等が主の元へ案内しよう。なに、粗相をしなければ、あの半端な生物共と今一度触れ合えることもあるだろう。あんな汚れた生き物のなにがいいのか理解に苦しむがな」

 

フリードは勝利を確信したのか余裕を取り戻した表情でそう言った。

その一言一言がハジメの怒りを買っている事にも気付かずに。

静かに開いた空間ゲートに歩み寄る俺達。

すると、

 

「そうだった。少年、転移の前に武装を解いてもらおうか」

 

「……」

 

フリードがそう言うがハジメは答えない。

 

「聞こえなかったか? さっさと武装を解除しろと言ったのだ。あぁ、それと、この魔力封じの枷も付けてもらおうか」

 

しかし、ハジメから出た答えは、

 

「断る」

 

拒否だった。

 

「……なんと言った?」

 

「二度も言わせるな。断ると言ったんだ」

 

「……己の立場を理解できていないのか? 貴様等に拒否権などない。黙って従わねば、あの醜い母娘が――」

 

「調子に乗るな」

 

「っ……なんだと?」

 

ハジメの言葉がフリードを驚愕させる。

 

「ミュウとレミアを人質に取れば、俺の全てを封じたとでも思ったのか? 理解しろ。お前たちが切ったカードは、諸刃の剣だってことを」

 

「諸刃の剣……だと」

 

「お前達が今生かされている理由もまた、ミュウとレミアのおかげということだ。……二人に傷の一筋でも付けてみろ。……子供、女、老人、生まれも貴賎も区別なく、魔人という種族を……絶滅させてやる」

 

「――っ」

 

「『人質』って言うのは強者が弱者にいう事を聞かせる時に有効なんだ。弱者が強者に人質を取るって事は、相手の怒りを買うだけだ。なんなら、もっと簡単に言ってやろうか? 今の俺達がその気になれば、魔人族の首都どころか大陸全てを消滅させることも簡単なんだ。それをやらなかったのはこの世界に俺達の興味が無かっただけ。けど、お前達はミュウ達を人質にした。その力の矛先を自分達へ向ける選択をしたんだ」

 

俺もそう言っておく。

 

「なにが目的で招待なんぞしようとしているのか知らないが、敵の本拠地に丸腰で乗り込むつもりはない。それではなにも出来ずに全て終わってしまうかもしれないからな。そんなことになるくらいなら、イチかバチか暴れた方がまだマシだ」

 

「……あの母娘を見捨てるというのか」

 

「見捨てないさ。ただ、ここで武器を失う方が、見捨てることに繋がると考えているだけだ」

 

「……貴様は、やはり狂っている」

 

ハジメの考えにフリードは戦く。

俺はハジメの言葉は半分以上ハッタリだと思っている。

ハジメは『大切』を見捨てない。

2人が傷付くことなとハジメは望んではいないだろう。

だから、『追い詰めたら何をしでかすかわからない』という印象を相手に植え付ける必要があった。

俺が口を出したのもハジメのハッタリを後押しするためだ。

 

「なら、その狂人が、お前の前に、同族の女子供の肉塊を並べない内に、さっさとミュウのもとへ連れて行け」

 

「っ……」

 

フリードが迷っていると、

 

「……フリード。不毛なことは止めなさい。あの御方は、このような些事を気にしません。むしろ良い余興とさえ思うでしょう。また、我等が控えている限り、万が一はありません。イレギュラーへの拘束は我等の存在そのもので足ります」

 

神の使徒の1人がフリードに話しかける。

 

「むっ、しかし……」

 

渋るフリードを他所に、彼女はハジメに向き直ると、

 

「私の名は〝アハト〟と申します。イレギュラー、あなたとノイントとの戦闘データは既に解析済みです。二度も、我等に勝てるなどとは思わないことです」

 

その言葉を聞いて、ハジメが以前神の使徒と戦ったのはアグモン達と出会う前だったんじゃと首を傾げる。

その時のデータを解析したからと言って、今の俺達に勝てると思うのは甘すぎるな。

フリードは顔を顰めるが、『神の使徒』の言う事に従って空間ゲートをくぐると、アハトと名乗った女性に促されて空間ゲートに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

ゲートが繋がっていたのは巨大なテラスの上だった。

背後で空間ゲートが閉じると同時にフリードが顎をしゃくって付いて来るように指示する。

俺達も無言で着いていく。

すると、

 

「光輝く~ん、あの化け物、恐かったよぉ~、ボクを慰めてぇ~」

 

「え、恵里っ、君はっ」

 

空気を読まずに中村が天之河へ抱き着く。

下手にもめない方が良いと分かっているのか、不用意に拒絶したりはしないし、他の皆も黙っている。

谷口さんだけは頻りに中村へ話しかけていたが、中村は完全無視だ。

長い石造りの廊下を進むと、やがてあの映像に映っていた玉座の間らしき場所へ出る。

映像で見た皆が捕まっている檻も見えた。

その中に捕まっていた皆もこちらに気付いたのか声を上げようとして、

 

「パパぁーー!!」

 

「あなた!!」

 

ミュウとレミアさんの2人の叫びに全部意識を持ってかれた。

そんな異世界召喚組を放置して、ハジメはミュウとレミアさんに優しい笑みを向けると、

 

「ミュウ、レミア。すまない、巻き込んじまったな。待ってろ。直ぐに出してやる」

 

「パパ……ミュウは大丈夫なの。信じて待ってたの。だから、わるものに負けないで!」

 

「あらあら、ミュウったら……ハジメさん。私達は大丈夫ですから、どうかお気を付けて」

 

その姿を実際目にしたからか、幾分かハジメに余裕が戻ってきたように思える。

それは俺も同じで、余裕が戻ってきたからか皆の姿をちゃんと見れるようになってきた。

レオモンも倒れてはいるが、俺を見てきたその瞳には力が籠っており、今すぐ命にかかわるようなことは無さそうだ。

 

「レオモン………」

 

「インプモン、抑えろよ………」

 

「………ああ」

 

「クル~………」

 

心配そうにレオモンを見るインプモンに俺は声を掛ける。

クルモンも不安そうな表情だ。

俺は視線を動かし、辺りの様子を探る。

 

「デュナスモンとロードナイトモンは……………居ないか………」

 

俺はフリードと行動を共にしていたロイヤルナイツの姿を探すが、先程も含めてその姿は見られない。

俺は視線を移し、ミュウとレミアさんに視線を向ける。

ミュウもレミアさんも、ハジメを信じているようで気丈に振る舞っていた。

俺はふと、ミュウが抱きかかえていた黒っぽいものに視線を向ける。

 

「……………………………ん?」

 

俺は思わず目を擦った。

 

「どうしたの?」

 

葵が気になったのか声を掛けてくるが、俺は改めて見直す。

ミュウが抱きかかえている黒っぽいものは可愛らしいぬいぐるみの様な見た目だが、山羊の角に似たものが生えており、胴体部分には無数の鎖が巻かれており、目覚まし時計の様なものが取り付けられている。

 

「……………………………………マジか?」

 

俺は思わず呟く。

 

「大士?」

 

見間違いだと思いたい。

ここでDアークで確認したくなるが、今取り出すのは変に警戒されてしまうのでグッと我慢する。

 

「い、いや、何でもない………」

 

葵とドルモンにそう言っておく。

その時だった。

 

「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というものは。私にも経験があるから分かるよ。もっとも、私の場合、姪と叔父という関係だったけれどね」

 

そう声がして、玉座の後ろの壁がスライドして開くと1人の男が現れた。

金髪に紅眼の美丈夫であり、髪をオールバックにして漆黒に金の刺繍があしらわれた質のいい衣服とマントを着た初老の男性だ。

だが、俺はその男を見た時、その男の特徴が魔人族というより、ユエに近い物を感じた。

そして、その印象が的外れでは無い事が、ユエの反応によって証明された。

 

「……う、そ……どう、して……」

 

「ユエ?」

 

「どうしたんだ?」

 

ユエが酷く動揺した様子でその男を見つめる。

ハジメとブイモンの声にも反応できない程に狼狽えていた。

 

「やぁ、アレーティア。久しぶりだね。相変わらず、君は小さく可愛らしい」

 

『アレーティア』。

その男はユエを見てそう呼んだ。

 

「……叔父、さま……」

 

ユエは目を見開いたままそう呟く。

その体は小刻みに震えていた。

 

「そうだ、私だよ。アレーティア。驚いているようだね。……無理もない。だが、そんな姿も懐かしく愛らしい。三百年前から変わっていないね」

 

「アルヴ様?」

 

その様子を見てフリードは表情は崩さずとも怪訝そうな声を漏らす。

すると、金色の閃光が辺りを覆いつくし、光が消えたかと思うと使徒たちがバタバタと倒れ、フリードと中村も倒れている。

更にパチンと指を鳴らすと何らかの術を発動させた。

ハジメの魔眼石には何かが見えているようで辺りに目を配っている。

そこでその男は緊張を解くように息を吐くと、

 

「盗聴と監視を誤魔化すための結界だよ。私が用意した別の声と光景を見せるというものだ。これで、外にいる使徒達は、ここで起きていることには気がつかないだろう」

 

「……なんのつもりだ」

 

ハジメが警戒心を露にしながら問いかける。

 

「南雲ハジメ君、といったね。君の警戒心はもっともだ。だから、回りくどいのは無しにして、単刀直入に言おう。私、ガーランド魔王国の現魔王にして、元吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相――ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは……神に反逆する者だ」

 

信じられない言葉を口にする。

 

「恵理ッ!?」

 

我に返った谷口さんが中村に駆け寄る。

天之河がそれを手で制すると、首筋に指を当てて脈を確認すると、生きているのか微笑みながら頷いた。

谷口さんはホッと胸を撫でおろす。

すると、

 

「不安にさせて済まない。彼女達には一時的に意識を失わせて貰った」

 

魔王は謝罪の言葉を口にすると共にそう説明した。

その時、

 

「うそ……そんなはずはないっ。ディン叔父様は普通の吸血鬼だった! 確かに、突出して強かったけれど、私のような先祖返りじゃなかったっ! 叔父様が、ディンリードが生きているはずがない!」

 

「アレーティア……。動揺しているのだね。それも……当然か。必要なことだったとは言え、私は君に酷いことをしてしまった。そんな相手がいきなり目の前に現れれば、動揺しない方がおかしい」

 

「私をアレーティアと呼ぶなっ! 叔父様の振りをするなっ!」

 

今まで見た事ない様子でユエは声を荒げ、取り乱している。

更には〝雷龍〟を発動させ、その男に向かって放った。

しかし、男は微笑んだまま再び指を打ち鳴らすと障壁を発生させて〝雷龍〟を防ぐ。

 

「アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール。歴代でもっとも美しく聡明な女王、私の最愛の姪よ。私は確かに、君の叔父だよ。覚えているかな。私が、強力な魔物使いだったことを」

 

「なにをっ」

 

「今の君ならわかるはずだ。当時の私がどうしてあれほど強力な使い手だったのか」

 

「……っ、神代魔法……変成魔法」

 

「その通りだ。更に言うなら、私は生成魔法も修得していた。生憎、才能に乏しく宝の持ち腐れだったけれどね。代わりに変成魔法については頗る付きで才能があったと自負しているよ。相応の努力もした。その結果、単に魔物を作り出すだけでなく、己の肉体に対しても強化を施すことが出来るようになった。寿命が延びたのはそういうわけだよ」

 

「……あの竜使いの魔人族は、お前をアルヴという名の神だって。何百年も魔人族を率いて来たって!」

 

「フリードの言っていたことは間違ってはいない。アルヴとは確かに私であり、同時に私ではないとも言える」

 

「アルヴという存在は、神代においてエヒト神の眷属神だった。部下のようなものだね。アルヴは最初、エヒト神に対し忠誠を誓ってその手足となっていたのだけれど、ある日、疑問を抱いた。エヒト神の行う非道をこのまま見逃していいのかとね。その疑問を幾百年、幾千年を過ごす内に大きくなり、やがて彼は反逆の意思を抱くようになった」

 

「だが、主神であるエヒト神に敵うはずもない。故に、アルヴは一つの策を練った。それが、エヒトの駒として地上に降り人々の戦争を激化させ、混乱に陥れる魔王役を担う――という建前の下、地上にて対抗できる手段と戦力を探すというものだ」

 

「だが、肉体を持たない神が地上で十全に活動するには器となる肉体が必要になる。アルヴもまた、己の器となる者を探しては、その者に魂を宿らせた。本来、他人の体に魂を宿らせることは、本人の拒絶が強ければ神といえども容易ではないのだが……神として存在を示せば、拒否する者などいない。自分が消えるわけでもないのだから、むしろ名誉なことだろう」

 

「……そうして、ディンリードもアルヴに選ばれた?」

 

「アルヴは狂喜したようだよ。ただの適性者なら、エヒトの眷属神とだけ伝えるところだけれど、私は真実を知っていた。本当の、反逆の同志になり得たのだ。使徒の目がある中、内側から真意を聞かせてくれたよ。今も、私の中にはアルヴがいて、様々な面で助けて貰っている。一つの体に二つの魂。それが、アルヴであってアルヴでないという言葉の意味だよ」

 

「……いつから」

 

「君が王位につく少し前だね。同時に、真実を知っていてもどうすることも出来なかった私にも、できることがあると分かった。使命だと思ったよ」

 

「……使命」

 

「そう、神を打倒するという使命だ。エヒト神や使徒達に真意を掴ませないようにするには大変だったけれどね。おかげで、本意でないことも幾度となくさせられたよ」

 

「……どうして祖国を裏切ったの。どうして、私を……」

 

「済まなかった」

 

「っ……謝罪を聞きたいわけじゃないっ! 理由をっ」

 

「アレーティア。君は天才だった。魔法の分野において、他の追随を許さないほどに。神代魔法の使い手であった私ですら敵わないほどに。その強さは目立ち過ぎたんだ。だから目を付けられた。君の傍らにいる南雲ハジメのように」

 

「……イレギュラー」

 

「そうだよ。アレーティア、君は覚えているのではないかな? 当時、既にアヴァタールの上層部はエヒト神を信仰する勢力に染められつつあった。それは、君の両親も、だ。その片鱗を端々に感じていたはずだ」

 

「……覚えてる。叔父様と父上はよく私の教育方針で口論してた。……私の教師役には叔父様が付いていた。だから、私は信仰とはほとんど関わらずに育った」

 

2人の話がさらに続こうとした時だった。

 

「話を聞いちゃダメっクル!! あの人、とても嫌な感がするっクル!!」

 

クルモンが我慢が出来なくなったと言わんばかりに声を上げた。

あの男が如何いうつもりかは知らないが、こういう場合のクルモンの直感は正しい。

 

「ハジメっ!!」

 

俺はハジメに向かって叫ぶ。

その瞬間ハジメは銃を抜いて発砲。

眉間と手足をそれぞれ撃ち抜く。

 

「……ハジ、メ?」

 

ユエが目を見開いたままハジメに目を向ける。

 

「クルモンも気付いてたみたいだな」

 

ハジメがクルモンに視線を向けながら呟く。

 

「クルモンは悪意には敏感だしな」

 

俺もそう言う。

 

「ユエが自分で区切りをつけるまでは、と思って黙っていたが、どうもユエが動揺しすぎて正確な判断が出来なかったようだし、クルモンが我慢できずに指摘しちまったしな。戯言を続ける前に強制的に終わらせてもらった」

 

ハジメは最初からあの男の話を信じては居なかったようだ。

 

「戯言?」

 

「奴の言動は明らかにユエの動揺を誘う為だけのものだ。信用できる要素が何一つない。本当にユエを愛しているのならユエを300年も放っておかなかった筈だし、ユエを封印していた方法は、自分がいなくなっても、決してユエの気配を察知されることなく、己の死をもって秘匿を完全なものにする。そういう意図が感じられる。生きている奴が取る方法としては、少なくとも愛情なんか欠片も感じられねえ。それにエヒトに反逆するといってる割には、『解放者』の事が出なかった事もあり得ねえだろ。そういうわけで、野郎の言葉を信じる理由なんざ、微塵もないってことだ。なにより……」

 

ハジメは一旦言葉を区切ると、

 

「お前はアレーティアじゃなくてユエだ。俺の『大切』な女だ」

 

「ハジメ…………格好悪いところを見せた。ごめんなさい。もう大丈夫だから」

 

「謝る必要なんてない。ユエの中で、奈落に幽閉される前の出来事がどれほど大きいものか、俺はよく知っているから」

 

「……ハジメ。好き。大好き」

 

その時、拍手が鳴り響いた。

 

「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね。躊躇なく攻撃するとは思わなかったよ」

 

魔王は無傷の姿で立ち上がる。

 

「せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは……あの御方に面目が立たないではないか」

 

「……叔父様じゃない」

 

「ふん、お前の言う叔父様だとも。但し、この肉体はというべきだがね」

 

「……それは乗っ取ったということ?」

 

「人聞きの悪いことを。有効な再利用と言って欲しいものだ。このエヒト様の眷属神たるアルヴが、死んだ後も肉体を使ってやっているのだ。選ばれたのだぞ? 身に余る栄誉だと感動の一つでもしてはどうかね? 全く、この男も、死ぬ前にお前を隠したときの記憶も神代魔法の知識も消してしまうとは肉体以外は使えない男よ。生きていると知っていれば、なんとしても引きずり出してやったものを」

 

「……お前が叔父様を殺したの?」

 

「ふふ、どうだろうな?」

 

「……答えろ」

 

蒼い炎をその手に宿しながらユエが問い詰める。

 

「ほぅ、いいのかね? 実は、今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれんぞ? この身の内の深奥に隠されてな?」

 

「っ……」

 

息を呑むが、惑わされまいと炎を放とうと手を前に突き出したその時、

 

「くくっ、いい顔をする。その滑稽な表情に免じて、一つ教えてやろう。……死ぬ直前のディンリードの言葉だ。お前に宛てた最後の言葉だ」

 

「……叔父様の……」

 

「ディンリードはな、お前の名を呟きながら、こう言っていた」

 

――苦しんで死んでいればいい

 

「っ……」

 

「嘘っクル!!」

 

クルモンが叫ぶ。

その瞬間ユエは気を取り直すが、一瞬の動揺は隠せない。

そして、その瞬間を狙ったかのように全てが動き出した。

 

「うぉおおおおおっ!!」

 

天之河が突然雄叫びを上げてハジメへと斬りかかる。

 

「っ」

 

天から天井を突き抜けてユエに向かって光が降り注いでくる。

 

「〝堕識ぃ〟」

 

中村の声と同時に、別方向から中村の闇魔法が飛んでくる。

 

「〝震天〟!」

 

同じように別の場所から現れたフリードが空間爆砕魔法をミュウとレミアさんに向けて放つ。

 

「お返しだ。イレギュラー」

 

アルヴが指を打ち鳴らすと同時に特大の魔力弾がハジメに向かって放たれる。

 

「駆逐します」

 

何もない空間から使徒たちが現れ、一斉に襲い掛かってくる。

突然の一斉攻撃の前に、俺は考える前に行動した。

拳にデジソウルを宿らせ、一番殴り易い天之河をぶん殴る。

そしてその直後には全てが終わっていた。

その攻撃全てはその為にあったのだと後で理解した。

 

「うっ、あ?」

 

ユエが天から降り注いだ光に呑み込まれていた。

ハジメはミュウとレミアさんを庇っており、八重樫さんは攻撃を自分の方に引き寄せたらしく吹き飛ばされ、シアと優花、葵は異世界召喚組を護る為に動き、白崎さんは殴り飛ばしたはずの天之河に斬りかかられてそれを受け止めており、ティオは中村の魔法の影響で僅かな間意識を飛ばされてしまった。

デジモン達は成長期の段階ではこの一瞬に対処することが出来ずに棒立ちになってしまい、実質的にユエは孤立してしまっていた。

 

「「ユエっ!」」

 

「ユエさん!」

 

ハジメ、白崎さん、シアが叫ぶ。

ユエは光の柱から脱出しようとしているが、物理的にも空間的にも不可能らしい。

 

「チッ。ミュウ、レミア、ここを動くなよ」

 

「はいなの!」

 

「あなた……」

 

「アグモン! 2人を頼む!」

 

「お、おう!!」

 

ハジメはミュウとレミアさんの護衛にアグモンを呼び、更には周囲にクロスビットを展開させる。

ハジメは光の柱を破壊するために飛び出すが、

 

「ふふ、させるわけがなかろう?」

 

アルヴが再び指を鳴らすと、夥しい数の魔物や使徒たちが現れ、ハジメの足止めをする。

 

「邪魔だ、木偶共がっ!」

 

ハジメは限界突破を発動し、駆逐しながら突き進む。

その状況が拙いと思ったのか、攻撃がハジメに集中する。

 

『させんぞっ』

 

その瞬間、〝竜化〟したティオの巨体がその攻撃を遮る。

 

「小賢しい」

 

「ふん、以前の返礼とさせて貰おうか」

 

ティオはその身を盾とし、ハジメを護る。

しかし、怒涛の攻撃の前にその黒鱗は剥がされていく。

 

『ぐぅ、ぅうう……』

 

「ティオっ。無茶するな!」

 

思わずティオに叫ぶハジメ。

ティオもハジメの『大切』の1人なのだ。

ティオが傷付くこともハジメにとっては許容できない。

しかし、

 

『今、無茶をせんでいつするのじゃ! さっさと行かんかっ』

 

「ティオ……」

 

『あの光は尋常ではない! 早く助けよっ。……安心せい。ご主人様に抱いて貰えるまで、妾は絶対に死なん!』

 

「……ったく、ありがとよ。任せた」

 

『うむ、任されたっ』

 

少し呆れながらもティオを信頼してユエに向かって飛ぶハジメ。

 

「ユエっ!!」

 

「――ッ!!」

 

ハジメは叫びながら光の柱に向かう。

そう言う俺も唯見ていたわけでは無い。

ハジメが大暴れしている間にも、俺もユエの方に向かっていた。

俺はデジソウルを拳に纏い、全力で光の柱を殴った。

破壊出来ずとも、その表面には罅が入る。

 

「ハジメ!!」

 

俺はハジメに呼びかける。

 

「助かる!」

 

ハジメは罅の入った部分に、義手を振りかぶって殴りかかる。

光の柱が砕ける。

 

「っ、ユエ!」

 

ハジメは叫びながらユエに向かって手を伸ばす。

 

「ユエっ」

 

「……ここにいる」

 

ハジメの言葉にユエが応えた。

 

「よかった。ユエ、なんともないか?」

 

「……ふふ、平気だ。むしろ、実に清々しい気分だ」

 

その言葉に俺は違和感を感じる。

声は確かにユエのものだが、ユエはそんな喋り方はしない。

 

「あ? ユエ? お前――ッ」

 

ハジメが怪訝な声を漏らし、警戒から距離を取ろうとした瞬間、

 

「ガハッ……てめぇ……」

 

「ふふふふ、本当にいい気分だよ、イレギュラー。現界したのは一体、いつぶりだろうか……」

 

ユエの貫手がハジメの腹部を貫いていた。

 

「エヒトの名において命ずる――〝動くな〝」

 

「ッ!?」

 

その瞬間、ハジメの動きが停止する。

ユエの姿をしたエヒトがハジメの腹から腕を抜き出すと、血に濡れたその手に舌を這わせた。

 

「ほぅ、これが吸血鬼の感じる甘美さというものか。悪くない。お前を絶望の果てに殺そうと思っていたのだが……なんなら、家畜として飼ってやろうか? うん?」

 

「ふぅ、ふぅ、ッッアアアアアアッ!!」

 

ハジメが怒りに満ちた表情で叫び声を上げると、バキンと何かが壊れる音が響き、ハジメが体の自由を取り戻す。

一気に後ろへ飛び退くと同時にドンナーを発砲する。

だがその弾丸はエヒトの手前の空間でピタリと止まった。

 

「これはこれは、私の〝神言〟を自力で解くとは。流石、イレギュラーといったところか。――〝天灼〟」

 

直後、無数の雷球がハジメの周りに現れ、強烈な雷撃をハジメに食らわせた。

 

「ハジメさんっ」

 

「ハジメくん!」

 

「ご主人様っ」

 

シア、白崎さん、ティオが叫ぶ。

轟音が収まるとハジメは全身に火傷を負いながらもエヒトを睨み付けている。

 

「耐えるだろうな。イレギュラー、お前ならば。だが、電撃をそれだけ浴びれば鈍ることは避けられまい? ――〝四方の震天〟――〝螺旋描く禍天〟」

 

だが、エヒトは更なる追撃を加える。

 

「っぁ、ぁああああああっ」

 

最上級魔法の連発に、ハジメも叫び声を上げる。

 

「止めやがれですぅ!」

 

「ハジメくんとユエから離れてっ」

 

「ユエの身でご主人様を打つとは……万死に値するのじゃ!」

 

「これ以上は………!」

 

「やらせない………!」

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

シア、白崎さん、ティオ、優花、葵、そして当然俺もエヒトに向かって行く。

だが次の瞬間、

 

「エヒトの名において命ずる――〝平伏せ〟」

 

「あうっ」

 

「きゃあっ」

 

「ぬぉ!?」

 

「なっ!?」

 

「がっ!?」

 

俺達5人は上から押さえつけられたかのように地面に叩きつけられた。

先程のハジメと同じように身動きが取れなくなってしまった。

俺達『5人』は。

だが、

 

「やぁああああああっ!!」

 

唯1人、葵だけはそのまま2本の刀でエヒトに向かって斬りかかる。

 

「何っ…………?」

 

エヒトは軽く驚いた表情をする。

しかし、葵の突き出した剣は、先程のハジメの弾丸と同じようにエヒトの目の前の空間で止められてしまう。

 

「あ、葵………!」

 

このままでは拙いと思った俺は、デジソウルを全開にする。

次の瞬間、バキンと何かを破壊した感覚がして身体が自由になる。

 

「ッ!? 葵っ!!」

 

俺は立ち上がって再びエヒトに向かって飛び掛かる。

だが次の瞬間、

 

「エヒトルジュエの名において命ずる――〝動くな〟」

 

「があっ!?」

 

名前が違う。

いや、付け足されたその名によって放たれた命令は先程の拘束など歯牙にもかけない程の拘束力を発揮する。

その力によって俺は再び身動きが取れなくなった。

 

「大士!?」

 

葵が俺に向かって叫ぶ。

驚くことに、葵はこれほどの拘束力を以てしても、動きが鈍ることは全く無い。

 

「我が〝神言〟が通じぬとは…………貴様は一体何者だ?」

 

だが、次の瞬間にはエヒトが葵の後ろに回り込んでいた。

 

「ッ!?」

 

「ま、待てっ!!」

 

それに気付いた葵が振り向こうとし、俺は最悪の予感がして咄嗟に叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、何者でも関係ない―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『(わたし)』の前では―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その叫びも空しく……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何者だろうと有象無象に過ぎん――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葵の胸が背中からエヒトの手刀によって貫かれ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮血が飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「葵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






第63話です。
アルヴとユエの問答はクルモンによって強制終了。
ぶっちゃけあれ全部入れたら絶対に運営に引っかかりそうだったので。
実際これでもまだ引っ掛かりそうな気がする。
さて、ミュウが抱えていた物は?
さて、原作通りユエが乗っ取られました。
デジモン達は何やってるんだー!?と言いたいでしょうが、あれらは短時間の間に行われたやり取りなので、成長期デジモン達では反応できず、また進化する暇も無かったわけです。
で、最後にああなるとはだれか予想出来ましたか?
つまり次回は…………破壊竜顕現です。
お楽しみに?
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