「葵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
葵の胸が背中からエヒトの手刀によって貫かれる。
鮮血が飛び散り、貫通したエヒトの手が葵の血で染まっている。
誰がどう見ても致命的な一撃。
「…………………………ッ!」
その現実を認識した時、俺の心が冷たく、暗くなるのを感じた。
冷たく、それでいて激しい衝動が動けない身体を突き動かす。
身体中から溢れ出すデジソウルも、いつもは熱く感じているのに、今は何処までも冷たく感じる。
ゆっくりと動く周囲を置き去りに、俺はエヒトの横へと辿り着く。
「葵を離せ…………!」
その体がユエの物だろうと関係ない。
葵の胸を貫いて薄ら笑いを浮かべるエヒトの横顔に、俺は何処までも冷たい気持ちで拳を叩き込んだ。
「ぬぐぁっ!?」
エヒトが吹き飛ぶ拍子に葵の胸から腕が抜ける。
俺はエヒトを一瞥もせずに倒れそうになる葵の体を抱き留めた。
「葵…………!」
俺は葵に呼びかける。
葵は薄く目を開けて俺を視界に捉えると、血が零れる口を必死に動かし、
「あ……………た………い………………っ!?」
俺の名を口にしようとした所で一瞬硬直し、その身体から全ての力を失い、息絶えた。
「ッ……………! 葵っ…………!? 葵っ!!」
俺は必死に葵の体を揺らすが何も反応しない。
目の前が真っ暗になる。
その瞬間、
「落ち着けタイシ!! 再生魔法と魂魄魔法ならまだ助けられるかもしれん!!」
ティオの声で我に返る。
エヒトを殴り飛ばした時に拘束が解けたのか、ティオが身を起こして叫んでいた。
瞬時に俺はいま必要な者を割り出す。
再生魔法が得意なのは白崎さん。
そしてその白崎さんは天之河に斬りかかられ、身動きが取れない。
それを認識した瞬間、俺はその場にそっと葵を寝かせると、瞬時に天之河の背後へと移動し、
「邪魔だ!!」
手加減など考えずに裏拳を放って邪魔な天之河を吹き飛ばした。
白崎さんは一瞬その出来事に呆けるが、
「白崎さん頼む!! 葵を………! 葵を助けてくれ!!」
俺の懇願にハッとなると、
「う、うん! 任せて!!」
直ぐに葵の下に駆け寄り再生魔法を行使。
瞬く間に葵の胸の傷は塞がる。
「葵! しっかりしろ! 葵!」
リュウダモンも葵の傍に駆け寄り声を必死に掛ける。
だが、葵からの返事は無い。
傷は治っても、再生魔法では失われた命は戻らないからだ。
「ッ………あ、葵ちゃん!!」
白崎さんは即座に魂魄魔法を行使。
葵の魂に干渉して蘇生させようとするが、
「きゃっ………!?」
パンッと弾かれるような音がして白崎さんの魔法行使が中断された。
「嘘………何で…………葵ちゃん!」
白崎さんは困惑しながらも再度魂魄魔法を行使する。
再び弾かれるが、白崎さんは諦めずに魔法を行使する。
「妾も手伝おう!」
「私も!」
ティオと優花が白崎さんに協力を申し出、3人で魂魄魔法を行使する。
だが、それでも魔法は弾かれる。
「葵ちゃん…………! お願い………戻ってきて………!」
「アオイ……………」
「葵! 目を覚ましなさい!」
白崎さんも、ティオも、優花も葵に呼びかける。
その様子を俺は黙って見ていることしか出来ない。
やがて、魔法行使する光が消え、
「……………………ごめんなさい…………魔力が………もう…………!」
白崎さんがボロボロと涙を零しながら声を絞り出す。
「…………………………アオイ」
ティオは無念そうに顔を伏せ、
「葵…………嘘でしょ………………?」
優花は呆然として目の前の現実を認めたくないと呟く。
彼女達の様子が示すことはただ一つ。
『葵は死んだ』。
それを物語っていた……………
その事実を、俺は現実感を無くしたまま受け止めていた。
葵が死んだ。
あの葵が…………
俺を…………愛してくれた葵が……………
そして、俺が愛していた葵が……………………
それが現実だと実感した瞬間、俺の心は先程を遥かに上回るほどの冷たさに満たされた。
心にドロドロとした黒い感情が沸き上がり、心の火山が噴火しそうな感覚に陥る。
今にもそれらの感情が爆発しそうだったが、残っていた僅かな理性がそれを押しとどめていた。
何故なら、その感情を爆発させてしまえば、無二の親友も失ってしまう事を理解していたから……………
「あ…………ぐ………………あぁっ………………!」
爆発しそうな感情とそれを押しとどめる理性がせめぎ合い、俺の心に強烈な負荷を与える。
すると、ガラガラと瓦礫が崩れ、エヒトが身を起こす。
「ふん…………神である私を殴るとは…………ふむ………その小娘は死んだか…………私の〝神言〟を無効化する程のイレギュラー…………調べておいて損は無いだろう」
葵を『物』として扱うエヒトの言葉に俺の感情が爆発しそうになる。
「エヒト様に歯向かった愚か者の末路だ。頭を垂れて許しを請うが良い」
フリードの言葉も癇に障る。
拳を握りしめ、爪が掌に突き刺さって血が滲むほどに握りしめる。
気持ち悪い…………
視界が歪む…………
喉がカラカラだ…………
最早自分が何を考えているかすらわからなくなりそうだった。
その時、
「大士…………我慢しないで…………」
俺の傍らでドルモンが静かに語りかけてきた。
「大士…………そのままじゃ壊れちゃうよ…………」
ドルモンは心配そうな表情を俺に向ける。
だが、
「…………駄目だ…………この思いを爆発させたら…………俺はお前を…………!」
「大丈夫…………」
そんな俺にドルモンは笑いかけた。
「大士の怒りも悲しみも……………全部俺が受け止めるから………………俺がどんな姿になっても……………俺は絶対に大士を恨んだりしないから…………………」
「ドルモン………………!」
ドルモンの俺を思いやる言葉に瞳から涙が零れる。
「だから大士……………我慢しないで……………大士の気持ちは、俺が一番分かってるから……………!」
「ドルモン………!」
ドルモンの思いが、俺の思いを塞き止めていた理性を崩していく。
溢れる想いと共に、俺の右手にデジソウルが燃え上がった。
――ULTIMATE
EVOLUTION――
「デジソウル…………チャージ…………! オーバー…………ドライブ………!」
俺の怒りがデジソウルとなってドルモンを進化させる。
「ドルモン進化!」
ドルモンの腕が分解され、灰銀の甲殻を持つ獣竜の腕として再構成される。
ドルモンの脚が分解され、灰銀の甲殻を持つ獣竜の脚として再構成される。
ドルモンの体が分解され、灰銀の甲殻を持つ獣竜の体として再構成される。
ドルモンの頭が分解され、灰銀の甲殻を持つ獣竜の頭として再構成される。
それは、俺の怒りに応えて進化した、強大な“破壊”の権化。
“究極の敵”の化身とも呼ばれる破壊の獣竜。
その名は、
「ドルゴラモン!!」
ゆっくりと身を起こすドルゴラモン。
その巨体はこの玉座の間には入りきらない。
天井に頭が当たっても、ドルゴラモンは構わず身を起こし続ける。
それは天井の崩落を引き起こし、
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
空気を震わせる咆哮と共に魔王城の玉座の間よりも上を全て吹き飛ばした。
「ドルモンがアルファモンとは別の究極体に………? だけどあの姿はまるで………!」
インプモンが困惑した声を漏らす。
今のドルゴラモンの姿は、かつてタカトが暗黒進化させたメギドラモンを連想させるからだろう。
だが、そんな事は如何でもいい。
「ドルゴラモン 究極体 データ種 獣竜型デジモン。必殺技は、『ブレイブメタル』と『ドルディーン』」
シアがドルゴラモンのデータを読み上げる。
「チッ! 出てこい!」
フリードが合図を出すと究極体を含めたデジモンや灰竜達が集まり、フリードの前に集う。
「貴様などエヒト様やアルヴ様が手を下すまでもない! 神の使徒と認められたこの私が…………」
「五月蠅い…………!」
くだらない事を宣うフリードに向かって俺は手を翳す。
それが合図。
次の瞬間、
「ドルディーン…………!」
ドルゴラモンの口からレーザーの如く放たれた破壊の衝撃がフリードの目の前に居た灰竜やデジモン達を一瞬にして消滅させ、フリードを飲み込んで塵も残さず消し飛ばす。
だが、その程度でドルディーンは減衰などしない。
破壊の衝撃はそのまま直進し、城下町に着弾。
ドルゴラモンが首を上に振り上げると同時にその破壊の衝撃も地平の彼方まで届き、その垂直上にある雲すらを真っ二つにする。
そこには、着弾地点から地平の彼方まで届く、真っ二つに引き裂かれた底が見えない大地の亀裂があった。
それから一瞬遅れてその亀裂からマグマが溢れ出す。
「こ、これはまさか………大陸を引き裂いた………?」
ティオがその力に呆然となる。
更にドルゴラモンは腕を振り上げ、ドルディーンの射線軸上から逃れていた完全体デジモンに向かって容赦なく腕を叩きつけ、一撃でデータに分解。
更にそのデータを
残るデジモンを次から次へと殺してはデータを
「うごぉっ!?」
その際にアルヴが巻き込まれて吹き飛ばされる。
「はぁ………はぁ…………!」
だが、こんなものでは俺の怒りは収まらない。
怒りだけではない、心の奥から沸々と湧いてくるこの黒い感情…………
『憎悪』と呼ばれる感情はまだ底知れない。
それに、その『憎悪』が向けられる対象はただ1人。
俺はエヒトを睨み付ける。
「フン、気に食わない目だ。良かろう、更なる絶望を与えてやろう」
エヒトは俺に向かってそう言うと手を掲げる。
その瞬間、何処からともなく十数体の究極体デジモンが集まって来た。
更には数百体の完全体と、数千数万におよぶ神の使徒の女。
それらが魔王城を囲うように現れたのだ。
「どうかね? 今からでも許しを請う気は………」
「だからどうした?」
そんな程度で俺の怒りは、憎悪は、ほんの一瞬たりとも揺らいだりはしない。
敵が何だろうと、何人いようと、関係ない。
「行け………! ドルゴラモン………!」
ドルゴラモンが全身をエネルギーで包み、
「ブレイブメタル………!」
全身全霊で突撃した。
ドルゴラモンは目の前に立ちはだかるもの全てを粉砕しながら突き進む。
「ッ………!? 躊躇うな! どれだけ犠牲を出しても構わん! 奴に攻撃を集中しろ!!」
エヒトは焦りを隠せずに叫ぶ。
究極体と完全体、更には無数の神の使徒の攻撃の前に、ドルゴラモンの動きが徐々に鈍ってくる。
それを見て、エヒトは余裕を取り戻したのか再び笑みを浮かべる。
「フッ………どうやら奴もここまでの様だ。まあよくやったと褒めて………」
「…………しろ」
エヒトは何か言っている様だが、俺は漸く準備が整った所だ。
「はか……ろ………」
「何だと………?」
そう、溜めに溜めた『憎悪』を爆発させる準備が!
「全てを破壊しろ!! ドルゴラモォォォォォォォン!!!」
爆発させた『憎悪』の影響か、俺のデジソウルが金色から黒紫へと染まり、それがDアークに変化を齎す。
――Death-X
EVOLUTION――
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!」
最早言葉では言い表せない咆哮を上げるドルゴラモン。
俺のデジソウルと同じ黒紫の光に包まれ、ドルゴラモンに変化が訪れる。
灰銀の甲殻が紫色に染まり、銀の骨格に青い膜だった翼が、黒い骨格に、血の様な紅の翼に変化した。
「変わった…………?」
シアが声を漏らす。
「デクスドルゴラモン 究極体 ウィルス種 アンデット型デジモン。必殺技は『メタルインパルス』と『ドルディーン』………確かに変化しておる」
ティオがデータを読み上げる。
次の瞬間、
「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――ッ!!!!」
デクスドルゴラモンが咆哮と共に口から破壊の衝撃を放つ。
だがそれは、先程とは違い、横に薙ぎ払われる様に放たれた。
死の衝撃が周囲の敵と共に城下町を薙ぎ払う。
魔王城を中心にほぼ一回転して放たれたドルディーン。
それは眼下の城下町を跡形もなく消し飛ばし、数万の敵も最早ほんの僅かしか残っていなかった。
確実に城下町に居た魔人族達は男も女も子供も老人も、ほぼ全てが消し飛んだだろう。
だが、それが分かっても俺の心には何の感慨も浮かんでこない。
唯一つ。
あいつの存在を消し飛ばすまでは俺の怒りと憎しみは収まらない。
俺はエヒトに視線を移す。
それと同時に、デクスドルゴラモンもエヒトを視界に収めた。
「なっ…………ま、待て………! この体は貴様の仲間の…………!」
「関係ない………!」
その身体がユエの物だろうと、エヒトという存在を消し飛ばさないと気が済まない。
「ま、待て大士!! そのままじゃユエが………!」
傷だらけのハジメが叫ぶ。
だが、その言葉では俺は止まることは出来ない。
「破壊しろ……………奴を破壊しろ!! デクスドルゴラモォォォォォォン!!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」
俺の叫びと共にエヒトに襲い掛かるデクスドルゴラモン。
「畜生が!!」
ハジメが叫び声を上げながら俺にドンナーを向ける。
俺はエヒトしか目に入っていない。
このままでは全員共倒れだろう。
だがそれでもいい。
奴を破壊出来るのなら。
デクスドルゴラモンの腕がエヒトを捕え、ハジメの指が引き金に掛けられた。
その瞬間、
―――バサッ!
『落ち着いて…………………』
突然の羽音と共に聞こえたその声が、まるで染み渡る様に俺の心に広がり、あれ程心を黒く染め上げていた憎悪が一瞬にして拭い去られた。
「何だ…………?」
それは引き金を引こうとしていたハジメも同じようで、引き金が引かれることは無かった。
「グガッ!?」
そして、俺の『憎悪』が拭い去られた事でエヒトを握り潰そうとしていたデクスドルゴラモンの腕の力が緩み、エヒトが脱出する。
デクスドルゴラモンは光に包まれるとドルモンに退化し、ドルモンは気を失っているようで力無く落下していく。
「ドルモン!」
そこで優花が飛び出してドルモンを拾う。
突然解放されたエヒトは一瞬困惑したが、
「一体何が………? いや、今はそれどころではない! このチャンスに奴を!」
エヒトは孤立している俺を見下ろすと、
「〝五天龍〟!!」
エヒトが五属性それぞれで龍を形作り、俺に向かって放ってきた。
呆けている今の俺では跡形も無くなる威力。
だが、その5匹の竜が眼前に迫った時、俺は純白の何かに包まれた。
視界が真っ白に染まるが、とても暖かく、心地いい。
「なあっ!?」
エヒトの驚愕した声が聞こえる。
すると、俺を包んでいた『何か』が広がり始め、視界が露になる。
そこには……………
『偽りの神よ……………』
純白の翼を広げ、蒼銀の髪を靡かせた…………………
『この方を傷付けることはこの私が許しません…………!』
白き衣を纏う葵の姿がそこにあった。
第64話です。
なんかちょっと書くつもりだったのがキリのいい所まで行ってしまったのでちょい短いですが投稿します。
ドルゴラモン&デクスドルゴラモン大・暴・走!の回です。
勢いあまって大陸真っ二つ&魔人国の首都を壊滅させてしまいました。
大士の怒りはとんでもないです。
さて、そんな大士の怒りを鎮めたのは死んだはずの葵。
次回、女神降臨。
お楽しみに。