上級神様との話を終えた俺は葵を連れて皆の所に戻ってきた。
優花やリュウダモン、ハックモンは全てを理解した上で安心した表情を浮かべていたが、ハジメや白崎さん、八重樫さん、ユエ、シア、ティオや他の皆はやや呆然としていた。
「大丈夫か?」
呆けている皆に声を掛ける。
「お、おう…………一体何だったんだ?」
流石のハジメも今起きた出来事には脳のキャパシティを超えていたようで珍しく呆けた表情を見せる。
「ふむ…………」
俺は腕を組んで考えを整理すると、
「簡単に言えば、葵はこの世界に生まれる前は『女神』だったんだが、ミスで前世の俺を死なせたために罰として力と記憶を封印して人間に転生。しかし度重なる魂への影響で封印が緩み、さっきの致命傷と魂魄魔法が切っ掛けで記憶と力を取り戻したけど、無断で神の力を行使したために罰を受ける所だったんだが、さっきの女神様の恩情でお咎め無し。って感じか?」
「なるほど、全くわからん!」
ですよね。
「なら、聞きたい事を一つずつ質問してくれ」
俺がそう言うと、
「なら最初は神代の事だな。一体お前はどうなったんだ?」
先程の女神の姿が気になったんだろう。
ハジメはそう問いかけてくる。
「私は『女神』としての記憶と、ほんの僅かな力を取り戻しただけだよ」
「『女神』…………?」
葵の答えにハジメは胡散臭そうな顔をする。
まあ、エヒト関係で神云々は信じられないだろう。
「言っておくがエヒトみたいなエセ神じゃなくて、マジモンの神様だからな」
俺はそう言う。
「なら何でそのマジモンの神様がウチの高校通ってたんだよ?」
ハジメの疑問は至極尤もだ。
「あはは、『女神』って言っても、『神代 葵』として生まれてくる前の話だからね」
「生まれる前………?」
ユエが声を漏らす。
「私は『神代 葵』として生まれてくる前は、『アルオイス』っていう名前で『運命を司る女神』だったの。生まれた『命』が『運命で定められた寿命』を迎えるまで導くように力を使うのが役目だった。その時の姿がこれ」
葵はそう言うと女神化して白い翼と蒼銀の髪を持つ姿となる。
つーか、そう何度もホイホイ変身していいのか?
「ふわぁ………改めて見ても綺麗ですぅ………!」
「うむ。あの
シアとティオがそう漏らす。
「でも、その女神様がどうして葵ちゃんに?」
白崎さんが疑問を口にすると、
「あぁ…………うん……………実は、力を使う最中にミスして、1人の男性の運命を終わらせてしまったの…………」
葵は俯きながら口にする。
「テンプレ乙…………んごっ!?」
馬鹿な事をほざいたハジメをデジソウル付きの拳で殴っておく。
「それで本来は、音も光も無い暗黒空間に数万年の幽閉か、存在の消滅を考えなければいけない程の『罰』を受けなければならなかったんだけど…………」
「厳しい『罰』ね………」
八重樫さんが眉を顰める。
「その………私が死なせてしまった男性が上級神様に私の減刑を願い出てくれたの…………そのお陰で私の『罰』は、『神としての力と記憶を封印して人間へ転生する』っていう、本来はもっと軽い『罪』を犯した神への『罰』に変更されたの」
「凄いねその人!」
「ああ、自分を死なせた者の減刑を望むなど、並大抵の者に出来ることでは無い」
ブイモンとドラコモンも何やら褒めちぎっているが、単純に前世の生に生きがいを見いだせなかっただけだが。
「それで葵ちゃんは、『葵』ちゃんとして生まれたんだね!」
「うん。それで人間の『神代 葵』として何も知らずに17年生きてきたの。けど、このトータスに召喚されて、魂に直接影響されるような事が繰り返されて封印が緩んじゃって、さっきの3人掛かりで魂魄魔法を思い切り行使したから、封印された『力』が漏れ出すぐらいまで封印が緩んじゃって、それに伴って記憶も戻ったから、『神力』を使って肉体の再生と神化を行って復活したの」
「へ~」
白崎さんは納得したと言うように興味深そうに頷いた。
「ちょっと待って。今、聞き間違いじゃ無ければ、『力が漏れ出した』って言わなかった?」
八重樫さんが葵に突っ込む。
「え? うん、そう言ったけど…………?」
葵は何の事かと首を傾げる。
「じゃ、じゃあ、葵…………じゃなくて、アルオイス様………? の本領とは程遠かったって事ですか?」
八重樫さん、改めて葵が女神様と認識したからか敬語になってるな。
「そうだね。私の全神力と比べれば、今私が使える神力は
葵はそう言う。
「…………………一分の力であのエヒトを圧倒したの…………」
八重樫さんは戦慄した声を漏らす。
改めて『女神』の力の凄まじさを感じたようだ。
「なら、さっき天から現れたのは…………」
「あの方は上級神様。私達『運命を司る神』を束ねる頂点に君臨するお方だよ」
「上級神…………」
「天界は、最上級神様を頂点に、その下に司る役目毎に下級神を束ねる上級神様がいて、その下に私達下級神が居るの」
「最上級神とやらが社長で、上級神が部長なんかの管理職。下級神がヒラって事か」
「ものすっごく乱暴な例えだけど、そう言う認識で間違って無いよ」
ハジメの例えに若干の不満を感じながらも葵は肯定する。
「もう1つ質問いい?」
また白崎さんが問いかけてくる。
「何かな?」
「葵ちゃんがミスして殺しちゃった男の人って黒騎君なの?」
白崎さんの言葉に、
「ああ、そうだぞ」
俺は否定せずに頷いた。
さっきの葵と俺のやり取りを聞いていれば、オタ知識がある人にとってはそう言う結論に至るのは難しくないだろう。
「……………やっぱお前って前世の記憶持ちだったんだな」
ハジメがジトーッとした視線で見てくる。
前に冗談で言った事が見事に大当たりだったからな。
「でも、こうして葵が女神としての力を取り戻した今ならともかく、もっと前に『前世の記憶持ちだ』なんて言っても冗談にしか聞こえないだろ?」
「……………まあ、確かにな」
「それに転生者と言っても、前世は特にこれといった特徴も無い唯のおっさんだったからな。言うほど特別じゃないさ」
「…………タイシは前世で死ぬことになった事には何か思う事は無いの?」
ユエがそう問いかけてきたので、
「いや別に? 前世じゃ生きがいも何も感じてなかったから、死んでも『あ、そうなの?』で済んだぞ。嫁も恋人も居なかったしな。それに、ミスしたといっても、さっきの上級神様の話を聞いてると、どうやら葵は優秀だという理由で他の神から色々と押し付けられまくってたみたいだからな」
俺はジトーッと葵を見る。
「そ、そんな事ないよ………!? 確かに周りの下級神よりかは頑張ってたとは思うけど…………!」
葵はそう言うが、目を逸らしながらそう言われても説得力が無い。
「なら聞くが、他の下級神の仕事量を『1』とすると、お前はどの位だったんだ?」
俺はそう問いかける。
葵の事だから『10』とか『20』とか平気で言いそうだ。
そう思っていると、葵は視線を逸らし続け、
「え~~~~~~~~~~~っと………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………『200』ぐらい?」
「アホかぁっ!!」
長い沈黙の後に答えた葵に俺は思わず突っ込んだ。
桁が違ったよ!
見通しが甘すぎたよ!
「そんなもんミスするに決まってるだろうが!!」
「ううっ…………反省してます………」
上級神様は他の神よりも数十倍優秀だと言ってたが、明らかにキャバオーバーだろうが!!
それでも俺を死なせてしまうまで問題無く仕事を回していたみたいだからそれだけ優秀なんだろうが。
「俺達については大体こんなもんだな。今はそれよりも…………」
俺は捕まってた皆に目を向ける。
目まぐるしく変わっていった状況に皆がポカーンとしていた。
すると、
「パパッ!!」
1人の小さな影が勢いよく駆けて来て、人間砲弾よろしくハジメの腹に飛び込んだ。
「ぐふっ!?」
思わずうめくハジメ。
飛び込んできたのは当然ながらミュウだ。
「ミュ、ミュウ…………」
「パパッ! パパッ!」
ミュウはぐりぐりと頭をハジメの腹に擦り付ける。
「ミュウ…………よく頑張ったな………」
ハジメは優しい笑みを浮かべてミュウの頭を撫でる。
「ううん…………パパの事信じてたから………」
ミュウは涙を浮かべながらもそう言う。
「あなた…………」
すると、続いてレミアさんも近付いてくる。
「レミア…………巻き込んで悪かった」
「いいえ、ミュウと一緒で私も信じていましたから………」
レミアさんはフワッとした笑みを浮かべる。
彼らを他所に、俺は大事な『仲間』の下へ駆け寄った。
「レオモン、大丈夫だったか?」
「ああ。すまない、また守れなかった…………」
レオモンは申し訳なさそうにそう言う。
「相手の戦力を見誤ったこちらの落ち度だ。レオモンは悪くない。それよりも無事でよかったよ」
今のレオモンは傷一つ無い。
葵の『神力』で回復した様だ。
『魔力』はデジモンに効果なくても『神力』は効果あるんだな。
「…………………オーガモンのお陰だ」
「オーガモン?」
そう言えば、ハインリヒ王国の王城に奇襲をかけてきた時、中村が連れていたデジモンの中にオーガモンが居たって言ってたか。
「オーガモンは私との決着を望んでいた。だが、多勢に無勢による終わり方はオーガモンも望まなかったらしい」
「そうか……………言い方は変だが感謝しないとな」
「ああ。故に私も、オーガモンとの決着は必ずつけたい」
レオモンは真っ直ぐな眼でそう言う。
なるほど、そのオーガモンは結構な武人の様だ。
すると、
「アオイおねーちゃん、キレイなのっ!」
「ありがとね、ミュウ」
ミュウが葵の姿を見てそう言っていた。
俺はふと、ミュウが抱きかかえている黒っぽいぬいぐるみの様な存在に目を向ける。
「………………………………」
サイズはともかく、どっからどう見ても『あのデジモン』だよなぁ…………
俺がそのデジモンを見つめていると、
「大士? 何か気になる事でもあるの?」
優花が話しかけてくる。
「あ~、まあ、ミュウが抱きかかえてる『あれ』なんだが…………」
俺はそれを指差しながらそう言うと、
「珍しい形のぬいぐるみよね? トータス特有の生き物かしら?」
だったらいいんだけどな。
とりあえず俺は直接確認してみる事にした。
『それ』を抱きかかえるミュウに歩み寄り、
「なあミュウ?」
「あ、おじちゃん!」
その言葉にグサッと胸を貫かれながら、
「お前の抱きかかえている『それ』って……………」
俺は『それ』を指差しながら訪ねる。
「べるちゃんのこと? この子はベるちゃんなの!」
ミュウは両手で『それ』を見せつけるように突き出しながらそう言う。
「そういや前はそんなもん持ってなかったよな? なんだそれ?」
ハジメも気になったのかそう言うと、
「あっ! 忘れてたの!」
ミュウが思い出したように服のポケットを探ると、
「おじちゃん! 見て!」
そこから取り出して俺に見せつけたのは、エメラルドグリーンの縁取りをしたDアーク。
「Oh……………」
俺は思わず顔に手を当てて天を仰いだ。
「Dアークじゃねえか!? じゃあ、そいつってデジモン!?」
ハジメが驚いた声を上げる。
「なんつーデジモンをパートナーにしてるんだミュウは…………」
俺は呆れと戦慄の半分半分な感情でそう呟く。
「どうしたの黒騎君? ミュウちゃんがテイマーになった事は驚きだけど問題は無いんじゃないかな? パートナーデジモンも可愛くてミュウちゃんと合ってると思うんだけど…………」
「その台詞はちゃんとそのデジモンの情報を見てから言ってくれ」
「えっ?」
困惑する白崎さんを他所に、ハジメはDアークを取り出してデータを表示する。
すると、
「ベルフェモン スリープモード 究極体 ウィルス種 魔王型デジモン。必殺技は、『エターナルナイトメア』と『ランプランツス』…………………って、究極体!?」
素っ頓狂な声を上げるハジメ。
「やっぱそうなのかよ……………」
思った通りのデジモンだったことに俺はそう漏らす。
「で、でも、究極体だった事には驚きましたけど、こんなに可愛くて大人しいんですから大丈夫ですよきっと!」
シアが気にしないようにそう言うが、
「今のこいつはスリープモードの名の通り、眠っている状態だ。目覚めた時にはレイジモードとなってベルゼブモンと同格の魔王となって覚醒する」
「マジかよ………」
自分と同格と言われたインプモンが声を漏らす。
「まあ、ベルフェモンは『七つの大罪』の『怠惰』を冠する魔王デジモンだから、目覚めるのは1000年に一度と言われるぐらい滅多に起きるもんじゃないから大丈夫とは思うが…………因みに余談だがベルゼブモンは『暴食』を冠する魔王だな」
「詳しいな……………俺はそんなの知らないが、それも前世の記憶か?」
ハジメがそう聞いてくる。
「ああ。前世じゃこの世界みたいにデジモンは実在するモノじゃないから、デ・リーパー事件やデジモンが暴れる事件なんて起きなかった。だから、ややマイナーだがそれなりに人気のあるメディアとして、新しいデジモンが毎年の様に出てたからな」
「ならば、タイシがあのロードナイトモンやデュナスモンを知っていたことも…………」
「その通りだ」
ティオの言葉に俺は頷く。
俺は改めてミュウの抱くベルフェモンを見ると、
「まあ、Dアークが現れたという事は、少なくともベルフェモンにミュウを害する気が無いのは確かだと思うが…………」
スリープモードだから寝ぼけてたって可能性も無くはないかも?
「べるちゃんは友達なの!」
ミュウはベルフェモンをギュッと抱きしめてそう言う。
「ま、いいか」
今更テイマーとデジモンの絆を疑うつもりも無い。
俺達は改めて今後の行動を決めようとした時、ガラッと部屋(と言うか周囲がドルゴラモンによって吹き飛ばされているので屋上の様な状況)の片隅で瓦礫が僅かに崩れる音がした。
俺達が振り返ると、僅かに残った壁の一部にもたれ掛かる様に倒れているアルヴ………いや、ユエの叔父であるディンリードの身体があった。
「叔父様…………!」
ユエは思わずそのディンリードの身体に近付く。
アルヴの魂が消滅し、身体だけが残ったのだろう。
俺はそう思っていた。
「………叔父様!」
ユエにとっては親代わりだったのだろう男性。
ユエの目には涙が滲んでいる。
その時だった。
「…………………ッ」
ディンリードの力無く垂れさがっていた手の指がピクリと動いたのだ。
「ッ!」
それに気付いたハジメがユエを護るような位置取りになる。
すると、ディンリードの目がゆっくりと開かれていき、その視線がユエを捉えた。
「ッ………!」
ハジメは警戒の為か、ドンナーを抜こうとして、
「『大丈夫』…………」
葵の柔らかな声色の『神言』によって止められた。
すると、
「…………………アレーティア」
先程のアルヴが話していた時とは違う、確かな優しい表情を浮かべてディンリードが呟いた。
「叔父様……………?」
ユエが確認する様に声を掛けた。
「夢…………なのかこれは………? まさか、この目でもう一度君を見られようとは…………」
「……………………」
「いや、こんな事を言う資格は私には無い事は分かっている…………私のした事を考えれば、恨むなどという言葉では足りないぐらいだ…………」
ディンリードはまるで懺悔の様に一言一言を精一杯吐き出すように言葉を続ける。
すると、ディンリードの視線がユエを護る様に傍らにいるハジメを捉える。
「君が………アレーティアを救い出してくれた者かね………?」
「ああ…………」
ディンリードの言葉にハジメが頷く。
「名を聞いてもいいかな………?」
「ハジメ………南雲 ハジメだ」
「そうか………ハジメ殿………まずは礼を言いたい。……ありがとう。その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を捧げる」
ディンリードは壁に背を預けたまま、ゆっくりと頭を下げた。
「……………やっぱりアンタがユエを奈落に封印したのは、エヒトの目からユエを隠すためか」
「ユエ…………それが今のアレーティアの名かね……?」
「………………」
ユエは無言でコクリと頷く。
「君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた。だが、奴等を確実に欺く為にも話すべきではないと判断した。私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思ったのだ」
「………………ッ!」
「それでも、君を傷つけたことに変わりはない。今更、許してくれなどとは言わない。ただ、どうかこれだけは信じて欲しい。知っておいて欲しい」
ディンリードは慈愛に満ちた、優し気な表情を浮かべ、
「愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。――娘のように思っていたんだ」
「……おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も……」
ユエは遂に我慢できなくなったのか、ポロポロと涙を零し始め、ディンリードの前に跪いてその手を持ち上げて握りしめる。
「守ってやれなくて済まなかった。未来の誰かに託すことしか出来なくて済まなかった。情けない父親役で済まなかった」
「……そんなことっ」
「傍にいて、いつか君が自分の幸せを掴む姿を見たかった。君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だった。そして、その後、酒でも飲み交わして頼むんだ。〝どうか娘をお願いします〟と。アレーティアが選んだ相手だ。きっと、真剣な顔をして確約してくれるに違いない」
ディンリードはハジメに一度視線を移す。
「どうやらそれは叶わない様だ。もっと色々、話したいことも、伝えたいこともあるのだが……どうやら時間の様だ…………」
ディンリードの言葉で気付いた。
ディンリードの身体が足から塵の様に崩れていっているのを。
「……やっ、嫌ですっ。叔父さ、お父様!」
ユエはディンリードに縋り付く。
「…………神代」
ハジメが葵の方へ視線を向ける。
その目は、如何にかならないかと訴えていたが、葵は目を伏せてフルフルと首を横に振った。
「彼の『運命』は既に終わってしまっているの。『運命』を終えた相手に『運命神』が力を使うことは出来ない…………今こうやって言葉を交わせているだけでも奇跡…………再生魔法や魂魄魔法でもどうにもならないの……………」
「そうか…………」
ハジメは予想していたのかそれ以上聞かなかった。
「もう、私は君の傍にいられないが、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア。最愛の娘よ。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように」
「……お父様っ」
ユエの涙は止まらない。
ディンリードの身体の崩壊も上半身に差し掛かっていた。
ディンリードの視線が再びハジメを向き、
「ハジメ殿………最後のお願いだ。どんな形でもいい。その子を、世界で一番幸せな女の子にしてやってくれ。どうか、お願いだ」
「……当然。確約するさ」
ハジメは真剣な表情で頷く。
それを聞き、ディンリードは満足そうに頷いた。
彼は最後の力を振り絞ってユエの頬に手を添えると、
「……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように」
その言葉を最後に、ディンリードの身体は塵となって消え、風に吹かれて舞っていった。
「お父様…………!」
ディンリードを父と呼びながら泣きじゃくるユエ。
そんなユエを、ハジメが優しく抱きしめた。
「ユエ…………」
白崎さんも涙を流しながらユエを抱きしめる。
「ユエ…………」
ブイモンも心配そうに見ている。
暫くそうしていると、
「………………んっ、もう大丈夫………! 私にはハジメとカオリ、ブイモン………皆が居る………これ以上泣いてたら、お父様が心配する…………!」
そう言って顔を上げると涙を拭う。
「ユエさん……………そうです! 私達が居ますよ!」
「ご主人は、ユエを含めた皆を世界一の幸せな女にして貰わなければのう…………」
シアとティオもそう言う。
「お前は入ってないけどな」
「あふんっ!?」
相変わらずティオをぞんざいに扱うハジメの発言にティオが興奮する。
だが、逆にそれが皆に笑顔を与える。
「さて、イグドラシルの動向も気になるが、今は一旦皆を王国に戻した方が良いと思うが?」
俺はハジメにそう言う。
「だな。調べるにしても足手纏いが居ちゃ効率が悪いだろうし」
ハジメがそう言うと、
「南雲君…………今更足手纏いであることは否定しませんが、それを本人達の前で堂々と言うのは如何かと思いますよ!?」
愛子先生がそう指摘する。
愛子先生の言葉にハジメが若干気まずそうに視線を明後日に向ける。
「あ~、じゃあゲート開けるか」
愛子先生の言葉をスルーしてハジメは宝物庫からゲートキーを取り出そうそした。
すると、
「そう言えば…………光輝と恵理は?」
八重樫さんの一言に全員がハッとなる。
そう言えば天之河の奴は俺が手加減無用で殴り飛ばした気が…………
あと、ドルゴラモンの暴走に巻き込まれたかも………
生きてるか?
「えっ、恵理!?」
「光輝ぃ!?」
谷口さんと坂上が慌てだした。
その時、
――パチパチパチ
突然拍手が響き渡った。
俺達は咄嗟に振り向く。
すると、崩れかけた柱の上に腰かけながら拍手するロードナイトモンと、その背後に浮かぶデュナスモンの姿があった。
「ロードナイトモン! デュナスモン!」
俺は思わず叫ぶ。
「おめでとう。どうやらエヒトの奴は君達が倒したようだね?」
ロードナイトモンがそう言う。
その言葉には、エヒトへの敬意など微塵も感じられない。
「丁度いい。聞きたいことがある! イグドラシルの目的は何だ!? 何のために魔人族………いいや、エヒトに協力していた!?」
「ほう? 我が君『イグドラシル』の名を知っていたとは驚きだ」
「やっぱりお前達の言う『神』とはイグドラシルの事だったんだな!?」
「その通り。デジタルワールドの『神』である我が君イグドラシル。その命によって我々は動いていた」
「何の為に?」
「我が君イグドラシルは、ある時リアルワールドがこの世界から『干渉』を受けたことを観測した」
「『干渉』? もしかして、俺達が『召喚』された事か!?」
「我が君イグドラシルは、その観測情報を元に次元を超え、この世界を発見した」
デュナスモンも言葉を発する。
「我が君は新たに発見したこの世界の『観測』を開始した」
「その時に偶々自称『神』を名乗るエヒトが接触してきた。そやつは身の程を弁えずに我が君に興味を抱き、利用する為に取り入ろうとした。そのような事、我が君にはお見通しだったがな。だが、我が君は『観測』の為にそのエヒトと行動した方が効率が良いと判断した。デジモン達を魔人族側へ配置したのも『観測』の一環だ。だが、その途中、とあるイレギュラーを発見した」
「イレギュラー?」
「それが君達だよ」
ロードナイトモンは俺と葵を指差す。
「人間と心を通わせ、『進化』するデジモン。それを我が君は『
「『
その言葉に思わず声に力が入ってしまう。
「そんな『
「なら、俺達の前にああもデジモン達が現れたのは………!」
「我が君の刺客だよ」
「なら、何で今になって俺達に対して干渉してきた!? 少なくとも、俺は既に6年前にテイマーになっていた! その時には仲間達と一緒にデジタルワールドにも行った! 何故その時には何も干渉してこなかった!?」
俺がそう問うと、
「干渉しなかったのではない。する必要が無かっただけだ」
「何ッ!?」
「君達がかつてデジタルワールドに来た時、その時には既にデ・リーパーが活動を開始していた」
「ッ!?」
「我が君の予測では、君達もデ・リーパーに呑み込まれて消される計算だったのだよ」
「何だと!?」
「あの時、デジタルワールドはリアルワールドの影響を受けて急速に拡大を続けていた。このままでは我が君の管理が行き届かなくなる。その時、動き出したのがデ・リーパーだ。デ・リーパーは都合のよい事に、拡大し過ぎたデジタルワールドを消去し始めた」
「都合が良いだと…………!?」
次から次へと飛び出るロードナイトモンの言葉に俺は驚きを隠せない。
「デ・リーパーの行動は拡大し過ぎたデジタルワールドや増え過ぎたデジモン達を整理するのに丁度よかった。このまま奴に必要な部分以外のデータを消去させる計画だった」
「なっ!? なら、6年前にイグドラシルがデ・リーパーに対して何も行動しなかったのは…………」
「する必要が無かっただけの話だ。勿論、我が君の手に掛かればデ・リーパーの様な原始的なプログラムなど、簡単に
「あの時は…………大勢のデジモン達が命を落としたんだぞ……………リアルワールドだって多大な被害を受けた……………」
「『神』がお決めになった事だ。運が無かったと思って諦めるんだな」
ロードナイトモンの言葉に、
「そうかよ…………良―くわかった…………!」
「何っ?」
「この世界のイグドラシルも、『神』を名乗るに相応しくない分からず屋だって事がな!!」
「貴様………! 我が君への暴言、ただで済むと思っているのか!?」
デュナスモンの癇に障ったのか、握り拳を作りながら怒鳴る。
「御託は要らない! お前達を倒して、イグドラシルに直接殴りこんでやる!! 行くぞ! ドルモン!!」
「おう! 俺達の力を見せてやる!!」
俺の言葉にドルモンが応え、
「行くよ! リュウダモン!!」
「承知!」
いつの間にか『葵』の姿に戻っていた葵とリュウダモンが叫び、
「アグモン!」
「おうよ!」
ハジメとアグモンが、
「ガブモン!」
「いつでも行けるよ! 香織!」
白崎さんとガブモンが、
「コテモン!」
「雫!」
八重樫さんとコテモンがDアークを取り出しながら構える。
更に、
「ハックモン!」
「ああ!」
優花とハックモン、
「ブイモン!」
「うんっ!」
ユエとブイモン、
「クダモン!」
「ああ!」
シアとクダモン、
「ドラコモン!」
「うむ!」
ティオとドラコモンがブルーカードを構えながら並ぶ。
そして、
「「「「カードスラッシュ!」」」」
優花、ユエ、シア、ティオがブルーカードをDアークへスラッシュする。
「「「「マトリックスエボリューション!!」」」」
それと同時に、俺達もDアークを構えた。
――MATRIX
EVOLUTION――
「「「「「マトリックスエボリューション!!」」」」」
俺達はDアークを自分の身体に押し付け、身体をデータに変換する。
そしてそのままデジモン達と一つになる。
「ドルモン進化!」
「リュウダモン進化!」
「アグモン進化!」
「ガブモン進化!」
「コテモン進化!」
「ハックモン進化!」
「ブイモン進化!」
「クダモン進化!」
「ドラコモン進化!」
ドルモン、リュウダモン、アグモン、ガブモン、コテモンは究極体へ。
ハックモン、ブイモン、クダモン、ドラコモンは完全体へ進化する。
「アルファモン!!」
「オウリュウモン!!」
「ブリッツグレイモン!!」
「クーレスガルルモン!!」
「ガイオウモン!!」
「セイバーハックモン!!」
「エアロブイドラモン!!」
「チィリンモン!!」
「ウイングドラモン!!」
5体の究極体と、4体の完全体が現れる。
更に、
「うぉおおおおおおおおおおっ!!」
インプモンがベルゼブモンに進化した。
だが、ロードナイトモンは慌てる様子を見せず、
「嘆かわしいものだ…………これほどまでに『
やれやれと首を振りながらそう言う。
「いくらお前達でも、この戦力差では勝ち目はないぞ!」
「なるほど……………確かに私達2人では勝ち目はない……………私達だけでは…………な………?」
含みのある言い方でそう言った瞬間、
「ッ!?」
上空から流星の様に5つの光が落ちてきた。
それらはロードナイトモンとデュナスモンに並ぶように横一列で落ちてきたが、着弾時の衝撃は殆どなかった。
「何だ!?」
ブリッツグレイモンが叫ぶ。
すると、光が消えていき、同時にその光の正体が露になり、
「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」
それぞれが驚愕の声を漏らす。
何故ならば、
『マグナモン! ドゥフトモン! クレニアムモン! ガンクゥモン!』
俺が順番に光の中から現れた聖騎士型デジモン達を呼称していく。
黄金のクロンデジゾイドの鎧に身を包んだマグナモン。
獣人の様な姿に細身の剣を持つドゥフトモン。
顔はドクロの様な悪人面だがれっきとした聖騎士デジモンで右手には魔槍『クラウ・ソラス』を持つクレニアムモン。
その風貌は聖騎士というより頑固オヤジと言うべきガンクゥモン。
『そして…………………』
俺は畏怖しつつも、最後の…………
その名の通り『最後』の名を冠する聖騎士型デジモンに目を向け、
『…………………オメガモン!』
その名を口にした。
『……………ロイヤル………ナイツ…………!』
戦慄を覚えながらその騎士団の名を呟く。
すると、ユエ達がDアークを取り出す。
「マグナモン アーマー体 フリー種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『プラズマシュート』、『エクストリームジハード』、『シャイニングゴールドソーラーストーム』」
「ドゥフトモン 究極体 データ種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『アウススターベン』と『エルンストウェル』」
「クレニアムモン 究極体 ワクチン種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『エンド・ワルツ』と『ゴッドブレス』」
「ガンクゥモン 究極体 データ種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『鉄拳制裁』、『地神!神鳴!神馳!親父!』、『ちゃぶ台返し』………………必殺技なのこれ?」
「オメガモン 究極体 ワクチン種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『グレイソード』と『ガルルキャノン』! なの!」
ユエ、シア、ティオ、優花の順でデータを読み上げる。
因みに最後はミュウである。
『まさか………本当にロイヤルナイツが来るとは……………!』
ここは一旦撤退した方が…………
俺がそう考えていた時、
『例え相手がオメガモンだろうと、『敵』なら倒すだけだ!!』
「当然だ!!」
ブリッツグレイモンが飛び出す。
それに続くように、クーレスガルルモン、ガイオウモン、エアロブイドラモン、チィリンモン、ウイングドラモンが飛び出す。
「待て! お前達!!」
その時、オメガモンが左腕を振り、そのウォーグレイモンの頭部の口から、大剣『グレイソード』が飛び出す。
それを頭上に掲げると、その刃が煌めき、
「グレイソード!!」
巨大な斬撃が俺達を呑み込んだ。
第66話の完成。
この小説ではユエの叔父の遺言を見つけられる可能性が無いのでこういう流れにすることは大体決まってたんですが……………
正直ユエの叔父を生かすかどうかで悩んだ。
で、その結果お亡くなりにって事にしました。
で、遂に登場ロイヤルナイツ。
初っ端からとんでもない一撃が飛び出ましたが果たして………………