【Side 雫】
転移中に分断された私達が放り出されたところは、荒廃した都市だった。
この場に飛ばされてきたメンバーは、私とコテモン、レオモン、鈴、龍太郎。
そして、何故か付いて来ていたクルモンだった。
「映画に出てくる世紀末の町みたいだよ……」
「本当にな。バイ〇ハザードとかで見た光景だぜ……」
「ちょっと、龍太郎。やめなさいよ。本当にゾンビとか出てきたらどうするのよ」
「クル~~~…………」
そう口にしながら廃都市の中を歩く私達。
今のトータスよりも発達した文明のようで、地球に近いビルの様な建築物が幾つも並んでいる。
そのどれもが全壊、もしくは半壊しており、おそらくは繫栄していたであろう形跡は見る影もない。
「………………『神域』は元々エヒトが作ったものだから、この都市はエヒトが滅ぼした文明の遺産………って事なのかしら?」
私はそう呟く。
「おそらくはな…………自ら発展させ、滅ぼした文明をコレクションの様に保管していたのかもしれん」
私の横を歩くレオモンが私の呟きに答えるように口にする。
その表情は険しい。
「悪趣味にも程があるぜ、エヒトのヤロー…………」
「やっぱりアオアオが魂ごと消滅させて正解だったよ………」
この非道を行ったであろうエヒトの末路に、鈴が当然の報いだと言わんばかりにそう口にした。
その時、
「……………ッ!」
レオモンが急に立ち止まり、腰の剣を抜いた。
その瞬間、ヒュンヒュンと何かが空気を切り裂きながら飛んでくる音が聞こえ、
「ハッ!」
レオモンが剣で飛んできた何かを弾いた。
レオモンが弾き飛ばした何かを目で追うと、緑色の大きな手がそれを掴んだ。
それは、私達の進行方向の道の真ん中に立つ、オーガモンだった。
「オーガモン………」
レオモンが呟く。
「…………け、決着…………!」
オーガモンは片言でその一言だけを言う。
「ああ…………」
レオモンはオーガモンの前に進み出ると、
「決着を付けよう………!」
レオモンはその言葉に迷いなく頷いた。
それから私達に顔だけ向けると、
「手筈通りオーガモンは私に任せてくれ…………そして、オーガモンがここにいるという事はおそらく…………」
「恵理や光輝も近くに居るわけね?」
私がレオモンの言葉に頷くと、
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「がぁあああああああああっ!!」
同時に飛び掛かり、レオモンの剣とオーガモンの骨棍棒がぶつかり合った。
「ああもう! 何でいきなり飛び出していっちゃうかなあ? 隠れてやり過ごそうかと思ってたのに…………」
「所詮デジモンは野蛮な生き物という事だよ、恵里。どちらにしろ、俺は南雲や黒騎から皆を解放しなきゃならなかったんだ。こうして相対できたのは、むしろ行幸だろう?」
半壊したビルの1つから微妙に嚙み合ってない会話をしながら恵理と光輝が、ベッタリと寄り添いつつ姿を見せた。
「南雲と黒騎がここに居ないのは残念だが、そこに居るデジモンを倒せば洗脳は解けるはずだ!」
光輝がコテモンに聖剣の切っ先を向ける。
「拙者でござるか?」
「…………ああ。まだデジモン達が洗脳の力を持ってるって思い込んでるのね」
一瞬何の事かと思ったけど、氷雪洞窟での出来事を聞いていたので一応納得する。
「汚らわしいデジモンめ! 雫を解放する為にお前をたおっ…………!?」
光輝が斬撃を飛ばそうと剣を振りかぶった瞬間、龍太郎が放った拳圧の衝撃で吹き飛ばされた。
それと同時に、恵理の近くにもいつの間にか鈴の極小の障壁が展開されており、バリアバーストによる衝撃波で距離を取らされている。
「くっ、龍太郎。やっぱり、お前も、南雲達に洗脳されて……」
「なに言ってんだ。今のは、むしろお前を助けたんだぜ? 雫のパートナーのコテモンを馬鹿にしたら、お前、完全に雫から愛想尽かされるぜ?」
寧ろ愛想尽かしたから、これが幼馴染としての最後の務めになってるんだけどね。
「なにを言って……」
「わかんねぇだろうな。今のお前には。滅茶苦茶ダセェもんな。だからよぉ、いっちょこの親友様が、死ぬほどぶっ叩いて目ぇ覚まさしてやらぁ!」
龍太郎はそう吠えながら光輝に向かって飛び掛かっていった。
一方、
「あぁ~ん、もうっ、光輝くんと引き離すなんて酷いじゃない。それがし・ん・ゆ・う・のすること? ねぇ、すずぅ?」
「……親友だと思っていたから、今、ここにいるんだよ。それと、恵理達の事は私達に任されてるから、ここに居ない南雲君達にそんなに怯えなくてもいいよ。ね、恵里?」
「……へぇ、言うようになったねぇ」
鈴の静かな眼差しと声に、恵理は表情を消す。
氷雪洞窟の試練で一皮むけた鈴は、今までの天真爛漫で御しやすい唯の女の子じゃない。
恵理はそれを感じ取ったんでしょうね。
「でも正直、あの化物がいないなら何の問題もないよぉ?」
恵理がニタニタと笑う。
「それはどうかしらね。確かに、今のあなた達からは尋常でない気配を感じるわ。でも、私達だって、以前のままというわけではないのよ?」
「あははっ、コワイコワイ。特に、雫は油断ならないからねぇ~」
その時、
「どわぁああああっ!?」
豪快な悲鳴と共に龍太郎がこっちに吹き飛ばされてきた。
「――〝光輪〟」
鈴が咄嗟に鉄扇を一振りして光のリングが連なって出来ている網を広げ、龍太郎を受け止める。
「やべぇやべぇ。鈴、助かったぜ」
「どういたしまして、光輝くんはどう?」
「ダメだなぁ、ありゃ。自分の立場も、なにをしているのかも、なんにも分かっちゃいねぇ。矛盾を指摘されても全部〝洗脳〟で片付けやがる。拳骨の一発や二発じゃ足りなさそうだ」
「強さはどうだった?」
「間違いなく、なんかされてやがるな。〝限界突破〟みたいな光を纏っていやがるだろ? 実際、強くなってやがるんだが、〝限界突破〟みてぇに疲れる様子が微塵もねぇ」
「そう……まぁ、前途多難は最初から覚悟の上ね」
私は溜息を吐きながらそう言う。
小声で話し合う私達に、光を纏う光輝が悲し気な表情で口を開く。
「雫、鈴、龍太郎。降伏してくれないか? 俺はお前等と戦いたくないんだ。洗脳されていて、俺の言っていることは戯言にしか聞こえないのかもしれないけど、俺は、皆を救いたいんだ。南雲と黒騎の呪縛から解放したいんだ!」
「光輝くん、可哀想ぉ~。幼馴染達に裏切られてぇ、それでも健気に助けようなんてぇ」
「恵里……いいんだ。俺のことは。皆が、無事ならそれで。悪の権化である南雲と黒騎さえ倒せば……」
「大丈夫だよぉ! 僕はぁ、僕だけはぁ、光輝くんの味方だからねぇ~」
「ありがとう。恵里。昔から、恵里には支えられてばかりだな……」
なんか三文芝居…………いいえ、一文にもならない芝居を見ている気分になる。
「な? 会話が通じる段階じゃあねぇだろ?」
「……はぁ、確かに、ね。そうすると、あの馬鹿を元に戻すには、恵里の〝縛魂〟からの解放と……」
「その上で、光輝くんを完膚無きまでに叩きのめして現実を教えて上げる必要があるってことだね。……取り敢えず、恵里は鈴が担当するよ。光輝くんの突破力に、恵里の闇系魔法のサポートは最悪だから」
そう話し合う私達を見て、
「やっぱりダメか……わかった。なら、たとえ恨まれることになっても、まずは三人を無力化しよう。そしてそこのデジモンを倒して洗脳を解く!」
1人で勝手にヒートアップしていく光輝。
「…………………………ねえ光輝?」
そこでふと、私は光輝に訊ねたくなった。
「何だい雫?」
「私達が洗脳されているかどうかは一旦脇に置いておきましょう。あんたは、私や香織がハジメに『奪われた』って思ってるのよね?」
私は確認の意味も含めてそう問いかける。
「ああそうさ! 香織も雫も俺の幼馴染で俺の隣に居た。それを南雲が奪ったんだ!」
「……………そうね。確かに私や香織は光輝の幼馴染よ。今まで光輝の隣に居た事は事実だし、否定する気は無いわ」
「雫………思い出してくれたか………!」
光輝は何を勘違いしているのか嬉しそうな表情をする。
「確かにあんたから見れば、今まで隣に居た異性の幼馴染が、別の男に『奪われた』と感じても仕方ないと思うわ……………けどね…………」
私はそこで一呼吸置き、
「そもそも、あんたは『奪われない』ように何かしたの?」
そこが私の一番の疑問。
「えっ?」
光輝は意表を突かれたような声を漏らした。
「な、何を言ってるんだ? 香織も雫も、俺の幼馴染で、俺の隣に居るのが当然で…………」
「幼馴染は唯の幼馴染であって、恋人予備軍でもハーレム要員でもないの。昔から一緒に居るからと言って、これからもそうだとは限らない。いつかそれぞれ別の道を歩む日が来るわ」
「そ、そんな事は無い! 俺達の絆は消えることは無いさ!」
「…………あんたが言う『絆』って言葉ほど薄っぺらいものはないわね…………」
私はそう呟く。
「確かに『絆』は私も信じてるわ。けどね、あんたの言う『絆』は、私や香織は光輝以外の誰かと『恋』をしちゃいけないって事なの?」
「そ、そんな事は無いさ! でも…………」
「少なくとも私や香織はあんたに告白された記憶はないし、恋人になった覚えもない。だったら、私や香織が誰を好きになろうと自由の筈よ。その好きになった相手がハジメだった。それだけの事だわ」
「それが間違いだと言っているんだ! 雫達は南雲達に洗脳されて好きだと思い込まされているんだ! よく思い出して欲しい! 2人が南雲を好きになったのは、この世界に来てからの事だろう?」
「………………確かに私がハジメを好きになったのはこっちの世界に召喚されてからよ」
その言葉を聞くと、光輝はやっぱりだと表情を明るくするが、
「でもね、あんたは知らないでしょうけど、ハジメと香織はこの世界に召喚される前から恋人として付き合ってたわよ」
「なっ!?」
「ええっ!?」
「マジかよ!?」
私の言葉に光輝だけじゃなく鈴や龍太郎も驚いた声を漏らす。
「そ、そんな筈はない! そんな事、香織からは一言も………!」
「言う訳無いじゃない。ただでさえ香織に話しかけられているだけであの時のハジメは周りからやっかみを受けてたのに、恋人になったなんて広まればハジメへのやっかみが強くなるのが目に見えてるわ。そうならないように黙っておいた方が良いと黒騎君が助言したのよ。クラスメイトでその事を知っていたのは、私以外じゃ黒騎君と葵だけね」
あの時の香織は、本当に嬉しそうに『ハジメ君と恋人になった』と私にだけ教えてくれた。
「………………ッ! そ、そうだ! その記憶も洗脳によって植え付けられた物に違いない! 危なかった………危うく騙される所だったよ…………とても真に迫る話し方だった…………」
そりゃ本当の事だもん。
私は内心溜息を吐きながらそう思う。
「これ以上言葉は不要だ。どれだけ呼びかけても偽りの言葉しか出てこないのなら、力尽くで黙らせてからデジモンを殺して洗脳を解く!」
光輝は聖剣を大上段に構えると、全身から魔力が噴き出し、白い魔力が天を衝く。
「チッ、なんか知らねぇが、やばそうだなっ!」
龍太郎が光輝の術を止めようと再度突進しようとしていた。
だから私は、
「龍太郎!」
龍太郎を呼び止める。
同時に鈴にも手出ししないように視線で促した。
2人は怪訝な表情をするけど、私は光輝の術が完成するのを待つ。
「…………どういうつもりなのかな?」
同じように怪訝に思ったのか、恵理が警戒の眼差しを向けてくる。
その質問に対し、
「あら? 変身中や変形中のヒーローへの攻撃はご法度でしょう?」
余裕の笑みを浮かべてそう答えた。
やがて天を衝いていた光輝の魔力が、光輝の背後へ収束し始める。
そして、何かを形作り始めた。
「……最後だ。後で生き返らせることが出来るとはいえ、出来れば雫達を傷付けたくない」
それは魔力で形作られたドラゴン。
「〝神威・千変万化〟――砲撃の形でしか発動できない神威を常時発動状態にして操り続けることが出来る技だよ。このドラゴンは、存在そのものが最大威力の神威と同等の破壊力を秘めいているんだ……分かるだろう? 今の俺は南雲や黒騎よりも強い。皆では絶対に俺には勝てない。だから……降伏してくれ」
魔力で形作られたドラゴンが咆哮を上げると、その口から閃光が放たれ、1km程離れた場所にあるビルを消し飛ばした。
でも、私はその光景を見ても特に驚きはしない。
ただ、
「ハジメや黒騎君より強い? なら試してあげるわ」
その勘違いだけは正しておかないと気が済まない。
私は1枚のカードを取り出すと、Dアークにスラッシュする。
「カードスラッシュ!」
そのカードがブルーカードへと変貌し、
「マトリックスエボリューション!!」
――MATRIX
EVOLUTION――
「コテモン進化!」
コテモンを完全体へと進化させる。
「ナイトモン!!」
ナイトモンは私達の前に堂々と立つ。
「ようやく前に出てきたな! 雫達を操るデジモンめ! これで雫達を解放する!!」
光輝の叫びと共に、魔力のドラゴンの口から先程と同じ閃光が放たれる。
だけど、私はナイトモンに対して何もサポートしない。
何故なら、
「この程度でござるか!?」
ナイトモンが大盾で光輝の放った閃光を受け止める。
「なっ!?」
光輝は驚愕の声を漏らすけど、それも当然。
さっきの光輝の攻撃の威力は高く見積もってデジモンの完全体下位クラスと言った所。
防御力に長けるナイトモンの装甲を破れるはずがない。
閃光を防ぎきると、ナイトモンは背中の大剣を抜き、
「ベルセルクソード!!」
光輝の魔力のドラゴンを一刀の下に両断した。
その剣圧によって吹き飛ばされる光輝。
「ぐはっ!?」
「こ、光輝君!?」
恵理も初めて焦りを見せた。
「この程度でハジメや黒騎君を超えた? 勘違いも甚だしいわね。今の一撃なら2人とも生身で凌げたわよ」
私はそう言ってやる。
「く………くそ…………」
光輝は起き上がると、
「俺は諦めない。必ず勝って、皆を取り戻すんだ…………!」
私は溜息を吐く。
「……………それでどうする気? ナイトモンの力は十分に分かったはずよ」
私がそう言うと、光輝は一度俯き、
「…………………この手だけは使いたくなかったが仕方ない……………皆を助けるためだ!」
叫びながら顔を上げた瞬間、何かが光輝達の背後に落下してきた。
「「「「ッ!?」」」」
私達は一瞬驚愕する。
その落ちてきたものは、
「なっ!?」
私は思わず声を漏らす。
それは、白銀と青の鎧を纏い、10枚の黄金の翼を持つ天使型のデジモンが十字架に茨で磔にされていた。
私は思わずDアークを確認する。
「セラフィモン 究極体 ワクチン種 熾天使型デジモン。必殺技は、『セブンヘブンズ』と『テスタメント』…………セラフィモン………」
私は磔にされたセラフィモンを見る。
「どうしてセラフィモンが磔に…………?」
私の疑問に答えたのは恵理だった。
「このデジモンはねぇ、畏れ多くも『神様』の決定に異を唱えたんだよ。それでこのザマさ」
「ッ!?」
イグドラシルの決定に異を唱えた。
それはつまり、世界の消滅を止めようとしたという事なの!?
「馬鹿だよねぇ………大人しく従っていれば、こんな目に合わずに済んだのに………」
「だけどその力は使い道がある。その力、皆を助ける為に使わせてもらう………!」
光輝がそう言うと、懐から黒をベースに金色の縁取りがされたDアークを取り出した。
「それはまさか、Dアーク!? 何故光輝がDアークを………!?」
私は思わず叫ぶ。
しかもそのDアークは私達が持つ物とは何かが違う。
もっと禍々しい何か。
すると、光輝が黒いDアークを掲げ、
「強制マトリックスエボリューション!!」
黒い光が光輝を包み、その黒い光がセラフィモンに纏わりつくように呑み込む。
「そんなっ………まさか…………!?」
セラフィモンは苦しむ様に身を捩るがそのまま黒い光に呑み込まれた。
すると、セラフィモンの黄金の翼から羽根が抜け落ちて黒い悪魔の様な翼となり、白銀と澄んだ青で輝いていた鎧も、くすんだ白色と何処か禍々しさを感じさせる緑色となる。
そして、仮面の十字架が傾いて×の字のようになる。
「ブラックセラフィモン!!」
そのデジモンは、光輝の声でそう名乗った。
「ブラックセラフィモン 究極体 ウィルス種 熾天使型デジモン。必殺技は、『セブンヘルズ』と『テスタメント』……………セラフィモンがウィルス種に………!?」
私は驚愕の声を漏らす。
「…………これがデジモンの究極体…………悔しいが凄まじい力を感じる…………!」
ブラックセラフィモンになった光輝がそう零す。
だけど、私には分かる。
この進化は私達の融合進化と似て非なるもの。
光輝と融合したセラフィモンの意志が全く感じられない。
「こ、光輝君………?」
「光輝………」
鈴も龍太郎も呆然としている。
「……………光輝………セラフィモンの力を乗っ取ったの………?」
「そうだよぉ~。これがイグドラシルが光輝君にくれた『力』さぁ~! デジモンの究極体の力は、もう黒騎君達の専売特許じゃないんだよぉ~!」
私の言葉に恵理が答える。
「…………………滑稽ね、光輝………」
私はそう言う。
「あれ程デジモンの事を否定してたくせに、デジモンの力に縋るいまのあなたは、実に滑稽よ」
「何とでも言ってくれ、雫。これは俺の覚悟だ。どのような謂れを受けようとも、必ず雫達を取り返すという………な」
「そんなの『覚悟』でも何でもないわ。私には形振り構っていられなくなったようにしか見えない」
「どういわれようとも構わない! この『力』で俺は全てを取り戻す!!」
ブラックセラフィモンの前に7つの黒球が生み出される。
「セブンヘルズ!!」
両手を突き出すと同時にその7つの黒球が放たれた。
「雫!!」
ナイトモンが私を庇うように立ちはだかる。
「ナイトモン………!」
7つの黒球がナイトモンに直撃し、凄まじいエネルギーの奔流がナイトモンだけを包む。
「ぐぁあああああああああああああああああああっ!!??」
ナイトモンの叫び声が響き、そのエネルギーの奔流が収まると、ナイトモンはコテモンに退化してしまった。
私はコテモンに駆け寄り、
「コテモン、大丈夫?」
「う、うむ………何とか………」
私はコテモンの無事を確認した後、コテモンの前に出る。
「……………光輝、今、私を狙ったわね?」
私はそう問いかける。
今の攻撃は確実に私に向けられていた攻撃だった。
「必ず当てるための策だ。南雲や黒騎に従うそいつなら、雫の事は絶対に死なせるなと命令を受けているだろうからね。予想通り避けられることなく当てることが出来た」
光輝は何でもないようにそう言う。
「………もしナイトモンが私を庇わなかったらどうするつもりだったの?」
「死なないように手加減はしていたさ。心配することは無い」
「………………手加減?」
私は先程の着弾地点を見る。
確かに手加減はしたんだろう。
究極体の攻撃にしては破壊力が小さい。
でも、それでも一撃で完全体を倒せるほどの威力。
私がハジメや黒騎君程の頑丈さを持たない私では跡形も残らない。
「さあ、そこをどいてくれ雫。そのデジモンに止めを刺して、雫達を解放するから………!」
「……………退かないわよ」
「何故だ? この究極の『力』を手に入れた俺は何者にも負けない。今度こそ俺が世界を救うんだ!」
「その『世界』が今滅びようともしているのよ? トータスだけじゃない。私達の『地球』もよ!」
「うん…………? ああ、そう思いこまされているんだね? 心配しなくてもそれは南雲や黒騎の仕業に決まっている。雫達を解放した後、すぐにあいつらを倒せば世界は救われる筈さ」
「……………………………………」
もう光輝にはどんな言葉も届かない。
そう悟ってしまった。
「そう…………わかったわ…………」
「分かってくれたか……! さあ、そこを退いて…………」
「もう、あんたを止めるには『力』しか無いって事がね………!」
私は光輝にそう言い放つ。
「くっ………洗脳がそこまで深いものだったなんて…………! 許せ雫、怪我をするとは思うがこれは君の為なんだ!」
光輝………ブラックセラフィモンは再び7つの黒球を生み出す。
それには先程よりも多くのエネルギーが込められているのが分かる。
「光輝、もう1つ言っておくけど、あんたは究極体の力を舐め過ぎてるわ。そんなもの放てば私どころか鈴も龍太郎もこの街も皆跡形もなく吹き飛ぶわよ?」
「俺を惑わそうとしても無駄だ! 俺のやっていることは間違ってない!!」
そして、
「セブンヘルズ!!」
7つの黒球が放たれた。
その瞬間、
――MATRIX
EVOLUTION――
「マトリックスエボリューション!!」
「コテモン進化!」
私はコテモンと一体となって進化する。
「ガイオウモン!!」
ガイオウモンに進化した私達は、すぐに鈴と龍太郎の前に立ちはだかって防御する。
「ぐっ!」
流石にノーダメージとはいかない。
いくらかのダメージを受けながらも鈴と龍太郎を護りきった。
『2人とも、大丈夫?』
「あ、ああ………」
「シズシズ~、ありがとう!」
私が2人に声を掛けると、背後の破壊痕に唖然としながらもお礼を言った。
「……………何だ? お前は………?」
疑問を零す光輝の声。
そう言えば光輝がガイオウモンを見るのは初めてだったかしら?
「拙者の名は、ガイオウモン!」
『これが私とコテモンの究極進化よ!』
私達はそう言い放つ。
だが、
「くっ! 雫を吸収したのか! 汚いデジモンめ!」
やはりと言うべきか、自分の都合のいい様にしか解釈しない。
その言葉はハッキリッてブーメランって事にも気付いて無いんでしょうね。
でも、今更訂正する気にもならない。
『好きなように解釈すればいいわ。どちらにしろあなたの意を通すためにはこのガイオウモンに勝たなければ無理よ』
「言われずとも!」
『鈴、龍太郎。この馬鹿は私達でとっちめておくから、2人は恵理をお願い』
「うん、わかった!」
「お、おう! やり過ぎんなよ!」
『善処はするわ』
2人の言葉にそう答えると、
すると、
「はぁあああああああああああああああっ!!」
それに対し、
「ふん!」
「ぐふっ!?」
「ッ………はぁあああああああああああああああっ!!」
空中で身を捻って回し蹴りを放ってくる。
その蹴りを腕で受け止めると、衝撃が辺りを揺るがせる。
「はっ!」
蹴りの反動で
「だぁああああああああああああああっ!!」
着地と同時に再び地面を蹴って殴りかかって来た。
「おおおおおおおおおおおおっ!!」
対する
その衝撃が辺りに伝わり、空間その物に罅が入った。
更に、私達の戦いとは別に空間その物に衝撃が走っているようで、空には無数のひび割れが見えており、その罅割れの隙間から神域の外である空に映る地球の様子が所々に伺える。
究極体同士の激突であるそれは、激しい戦い。
でも、実際は殆ど一方的だった。
「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」
「甘い!」
「がはっ!?」
何度も吹き飛ばされた
見るからにダメージが蓄積している
「はぁ………はぁ…………何故だ………? 同じ究極体の筈なのに………何故こうも一方的に…………」
だから私は答えてあげる。
『そんなの当然よ。光輝、あなたはセラフィモンの力を強引に引き出して無理矢理使っているだけ。精々8割の力が使えればいいとこね。だけど、私とコテモンは力を合わせているの。強制的に使う力と結束の力…………どちらが強いか分からないなんて言わせないわよ』
「ッ…………違う………違う、違う! 俺が………俺が間違っている筈が無いんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
最早子供の癇癪と変わらない様な叫び声を上げて、
『………………いい加減大人になりなさいよね! この大馬鹿者っ!!』
【Side Out】
【Side 三人称】
「獣王拳!!」
「覇王拳!!」
ガイオウモンとブラックセラフィモンの戦いの場から少し離れた場所で、レオモンとオーガモンは戦いを繰り広げていた。
「はぁあああああああああああっ!!」
「ぐがぁああああああああああっ!!」
レオモンの獅子王丸とオーガモンの骨棍棒がぶつかり合って火花を散らす。
「やるな、オーガモン!」
「………オマエモナ」
互いに弾き合って距離を取る。
が、その直後に同時に地面を蹴って肉薄し、
「うぉおおおおおおおおおっ!!」
「オオオオオオオオオオオッ!!」
互いの右拳を繰り出してぶつかり合った。
究極体の激突には程遠いが、それでも弱くない威力の衝撃が辺りに広がる。
「ぐぐっ………!」
「ぐぉおおっ………!」
レオモンとオーガモンは拳を繰り出した状態で力比べを行う。
「おおっ……! うおおおおおおおっ!!」
レオモンが絶妙なタイミングで力を抜いてオーガモンの体勢を崩し、左手でオーガモンの右腕を掴むと一本背負いの様に投げ飛ばし、地面に叩きつけた。
「がはっ!?」
オーガモンは目を見開いて息を吐き出す。
「はぁあああああっ!!」
レオモンはオーガモンの顔面に向かって拳を振り下ろすが、
「ッ………!」
オーガモンが頭を傾けて紙一重でその拳を避ける。
レオモンの拳が地面を砕くが、その隙にオーガモンがレオモンの腹に蹴りを入れてレオモンを吹き飛ばした。
「ぐっ………!」
レオモンは大きく吹き飛ばされるものの、足から着地して転倒を堪える。
オーガモンは飛び起きると、レオモンを見据えた。
「「…………………………」」
レオモンとオーガモンはお互いに相手を見やるが、ある時、両者ともフッと口元に笑みを浮かべた。
お互いに力を出し尽くせることが嬉しいのだろう。
「ッ…………!」
オーガモンが目付きを鋭くすると、今まで以上の力を込めて右の拳を振り被った。
「受けて立つ!」
レオモンも同じように右の拳を振り被り、今まで以上の力を集中する。
ゴゴゴっと2人の闘気が辺りの空気を震わせ、決着が遠くない事を伺わせた。
オーガモンとレオモンの闘気が最大まで膨れ上がった瞬間、
「覇王拳!!!」
「獣王拳!!!」
今までよりも一回り大きな覇王拳と獣王拳が放たれた。
その2つは互いの中央でぶつかり合うと、凄まじい衝撃を辺りに撒き散らす。
普通ならぶつかり合った時点で相殺か、どちらかに呑み込まれるのだが、エネルギーが集中され、かつ互角の威力を持っていたそれらは消える事無く押し合っている。
「ぬぅうううううっ…………!!」
「はぁあああああっ…………!!」
オーガモンとレオモンは技の威力に吹き飛ばされないよう、足を踏みしめ、必殺技にエネルギーを送り込み続けている。
そして、
「「ッ!!」」
両者が目を見開いた瞬間、獣王拳が覇王拳を打ち破った。
獣王拳はそのままオーガモンの腹部に命中し、
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」
オーガモンをビルの瓦礫に突っ込ませた。
突っ込んだ際に巻き起こった煙が晴れて行くと、陥没した壁に叩きつけられ、満身創痍になったオーガモンの姿。
傷だらけの姿ではあるが、その顔は何処か満足そうだった。
「…………オーガモン。稀に見る強者よ…………お前と戦えたことを誇りに思う…………」
レオモンはそう言葉を贈る。
レオモンはそのまま止めは刺さずに踵を返そうとした。
その時、近くのビルの瓦礫が爆散し、恵理が吹き飛ばされるように飛び出し、それを追うように龍太郎と鈴が飛び出す。
どちらも傷を負っているが、消耗具合から見ると、龍太郎と鈴の2人の方が優勢の様だ。
すると、恵理がぐったりと壁にもたれ掛かっているオーガモンに気付き、
「ああもうっ………! あれだけ1対1に拘ってた癖に負けてるじゃないかっ!」
恵理は不満げに口にする。
「あっ、レオモン! そっちは勝ったんだね!」
「流石だな!」
「ああ。稀に見る強敵だった………!」
鈴と龍太郎の言葉にレオモンが頷きながらオーガモンを称賛する。
「なんかそいつの事を褒めてるみたいだけど、負けてちゃ意味なんか無いんだよ!」
恵理はムシャクシャすると言わんばかりに頭を掻くと、
「もういいや、終わらせちゃお」
恵理は懐から何かを取り出す。
「それはっ………!」
レオモンが驚いたように声を漏らした。
それは、光輝が持っていたものと同じようなDアーク。
黒を基準に、緑色の縁取りがされたものだった。
「……………ヤメロ………!」
オーガモンが身動ぎするとそう言うが、
「ハッ! 感謝するんだね。僕が全部片付けてあげるよ。鈴も脳筋もそのライオン君も! 全部叩き潰してあげるよぉ~~っ!!」
恵理が黒いDアークを掲げる。
「強制マトリックスエボリューション!!」
黒い光が恵理を包み、同時にオーガモンにも纏わりつく。
「ヤメロ…………ヤメ………ロ………!」
オーガモンは最後まで拒否の言葉を口にするが、そのまま黒い光に呑み込まれる。
「ウグォアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
苦しそうなオーガモンの咆哮が響く。
黒い光の中でオーガモンが巨大化し、10mほどの大きさとなり、身体中の筋肉が見る見る発達する。
頭部からは大小4本の角が生えており、その手にはスカルグレイモンから作り出されたと言われる大刀『斬神刀』を持った神人型デジモン。
「タイタモン!!」
緑の巨人がその姿を現す。
「なっ!?」
「恵理まで………!」
「冗談キツイぜ…………!」
それぞれが驚愕の声を漏らした。
『このタイタモンでぇ~………! 全員叩き潰してあげるよぉ~!!』
恵理の声が響くと共に、タイタモンが斬神刀を振り上げる。
「ッ! いかん!?」
それに気付いたレオモンが鈴と龍太郎を脇に抱えて横方向に飛び退いた。
その瞬間、斬神刀が叩きつけられ、その巨大な斬撃が全てを破壊する。
「うぉおおおおおおおっ!?」
「わぁあああああああっ!?」
龍太郎と鈴が悲鳴を上げた。
直線状の地面は割れ、建物は残らず吹き飛び、その威力を物語る。
「くっ!」
レオモンは着地すると、ビルの影に2人を降ろす。
「レオモン!」
「君達は隠れていろ!」
レオモンはそう言ってタイタモンに向かって駆け出す。
地面を蹴って跳びあがると、
「獣王拳!!」
必殺の獣王拳を放った。
それは、剣を振り下ろした状態で止まっていたタイタモンの肩に命中するが、タイタモンは揺らぎもしない。
タイタモンの顔がゆっくりとレオモンの方を向く。
『見つけたよぉ~!』
恵理の歪んだ笑みを浮かべているであろう声が響く。
続けてタイタモンが斬神刀を横殴りに薙ぎ払った。
「うぐあっ!?」
直撃は避けるものの、その振りから放たれる衝撃波は、背の高い建物を吹き飛ばす。
鈴達はビルの影に居たので何とか助かった。
『ほうら!』
吹き飛ばされてビルの壁に叩きつけられていたレオモンに向かって、タイタモンが剣を振り下ろす。
「くぅっ!」
レオモンはなんとかその場を逃れるが、今度はタイタモンの左腕がレオモンを捕えんと伸びてくる。
「ッ!?」
レオモンは咄嗟に飛び上がってその左手を避けると、その左腕の上に着地する。
「ここだ!」
レオモンは左腕を駆けあがると、タイタモンの顔に向かって飛び、
「はぁああああああああああああっ!!」
獅子王丸を抜いて全力で斬りかかった。
だが、
――ガキィィィィィィィィィン!
と甲高い音を立てて、獅子王丸の刃は頭部の角に止められた。
「ぐっ…………!」
『あっはっは! ざ~んね~ん!!』
恵理の声が響くと、タイタモンの左腕がレオモンの身体を掴む。
「ッ!? しまった!」
『そぉれぇっ!!』
恵理の軽快な声と共に、タイタモンがレオモンを近くの原型を留めているビルに投げつけた。
「がはっ!?」
ビルに叩きつけられ、その威力でビルが崩落する。
「レオモン!」
「やべぇっ!」
「クル~~!」
煙が巻き起こり、崩落の衝撃波から身を隠す鈴達。
それが晴れて行くと、瓦礫の山となったビルの崩落跡。
「レオモン!?」
鈴が思わず叫ぶと、瓦礫の山の頂点近くがもぞもぞと動き、瓦礫を退かしながらレオモンが這い出てきた。
「ぐっ………はぁ、はぁ………」
とは言え、かなりのダメージは負ったようで、肩で息をしている。
『しぶといなぁ……………いい加減死んじゃいなよ………!』
「……………ここで………死ぬわけにはいかん…………!」
恵理の言葉にレオモンが呟く。
「一度は失ったこの命だが…………『運命』は再び私にチャンスを与えてくれた……………もう一度ジュリに会うまで…………私は死ぬわけにはいかん………!」
レオモンはその目に光を宿しながら立ち上がる。
『ッ……………もう! ムカつくなぁその目! 何で諦めないんだよ!? 何で絶望しないんだよ!?』
タイタモンが斬神刀を振りかぶった。
その時、
「もうやめてよ! 恵理っ!!」
鈴が貯まらず飛び出し、そう呼びかけた。
「恵理だってもうわかってるんでしょ!? 自分が本当はそんな事望んで無いって!」
鈴の言葉にタイタモンの動きが止まる。
『どういう意味かなぁ? 僕は光輝君さえ傍に居れば他がどうなったって関係無いんだよ?』
すると、その言葉に鈴は首を横に振った。
「そんな事ない! 恵理だって本当は自分達以外の世界が滅んでもいいなんて思ってない!」
尚も叫ぶ鈴。
『煩いなぁ! 何を根拠にそんな事………!』
恵理が聞く耳持たないと言わんばかりに叫ぼうとして、
「だって………本気で世界が滅んでもいいって思ってるのなら、どうして恵理はわざわざ『何が起きているかを教えてくれた』の!?」
『ッ…………!? 何のことだい?』
恵理は一瞬言葉に詰まるが冷静な声で問い返す。
「あの時………空に東京が現れた時に、恵理はわざわざ姿を現して何が起きているかを私達に教えてくれたよね」
『それは君達に絶望を与えたかったからさ。何もわからずに消えるよりも、何が起きているか理解してから消える方が絶望するだろう?』
「…………わざわざ『南雲君の前に姿を現す』って言う危険を冒してまで? 恵理、ずっとここに居ない南雲君の事怖がってるよね?」
『ッ………!? それは味方のデジモンが居れば大丈夫だと分かっていたから…………』
「でも絶対じゃないよね? 第一、本当に世界が如何でもいいんだったら、何も言わずに放っておいた方が確実だよ。そうすれば、タイムリミットがいつかも分からずに時間が来てゲームオーバー。それなのに、恵理はタイムリミットが『3日』。更にこの『神域』に居ることまで教えてくれた…………無意識かもしれないけどね。だから南雲君達は最大限の準備を済ませてこの『神域』に来ることが出来た…………」
『……………………………ッ! 煩い煩い煩い!! そう思いたきゃ勝手にそう思ってればいいよ!! この場で僕が皆叩き潰すことは決まってるんだ!!』
タイタモンは再び斬神刀を振り被る。
「恵理っ!!」
鈴は叫ぶが、タイタモンは止まらずそのまま剣を振り下ろそうとして…………
『ッ!?』
突如としてタイタモンが痙攣したように動かなくなった。
『な、何だよ……? 何で動かないんだ!?』
恵理が困惑する。
すると、
「………ヨ、余計ナ真似ヲ…………スルナ……………!」
タイタモンが口を開く。
「ッ! オーガモン………!?」
レオモンが目を見開く。
『何言ってるんだよ!? お前が勝てなかった奴を代わりに倒してやるって言ってるんだ! 邪魔するな!』
「2対1ハ…………卑怯ダ…………」
『煩い! 言う事を聞け!!』
「戦イハ……………」
『煩いって言ってるんだよ!!』
恵理の昂った感情がタイタモンの身体を突き動かし、左手が動き出してレオモンを握る。
「ぐああっ!?」
「レオモン!?」
「やべぇ、捕まった!!」
それぞれが叫ぶ。
『このまま握り潰してあげるよ!』
恵理の言葉と共に、レオモンを握る力に力が入っていく。
「うぐぁああああっ!?」
レオモンが悲鳴を上げる。
「ヤ………ヤメロ……………」
オーガモンも抗っているのか、本来なら一瞬で握り潰される筈が、徐々にしか力が入っていかない。
だが、力が緩むことは無く、レオモンはやがて握り潰されてしまうだろう。
「恵理ッ! やめてよぉっ!」
「いい加減にしろよバカ野郎!」
鈴と龍太郎が叫ぶが、恵理は最早聞く耳を持たない。
「ぐっ………ぐああああああああああああああああああっ!?」
レオモンの悲鳴が大きくなり、握り潰されるまで間もない事が伺える。
「レオモンッ!」
「くそっ! 一体如何すりゃいいんだよ!?」
打つ手の無い2人は焦る事しか出来ない。
その時、
「…………………ジュリ」
クルモンが空を、いや、東京の街を見上げながら呟いた。
「クルモン?」
鈴が声を漏らすと、
「ジュリの力が必要っクル!」
クルモンは突然叫ぶと飛び出していってしまう。
「クルモン!?」
「一体如何したんだ!?」
クルモンは少し高い瓦礫の山の上に降り立つと、東京の街を見上げながら祈る様に手を合わせる。
「ジュリ…………レオモンを助けて欲しいっクル…………!」
クルモンが目を瞑ると、額のマークが赤く輝く。
そして次の瞬間、強烈な赤い光が天へと昇っていった。
――東京 加藤家
自宅にある自室で、高校生となったジュリは机に向かっていた。
数日前に空に現れた謎の大地の影響で通っている学校が臨時休校となり、ジュリは自室で勉強していた。
そこでふと、ジュリは窓から空に映る大地を見上げる。
「一体、何が起こってるの…………?」
ジュリは心配そうに呟く。
ジュリが視線を机に戻すと、机の棚に大事に飾ってある黄色い縁取りのDアークが目に入った。
「………………………レオモン」
あれからすでに7年近くが経っているが、失ったパートナーとの思い出は色褪せることは無い。
「……………よし!」
ジュリは気を取り直して再び勉強に励もうとした時だった。
赤い光が空から降ってきてジュリの家に降り注ぐ。
「な、何!?」
突然の事態にジュリは困惑したが、
『ジュリ………ジュ~リ…………』
聞こえたその声にジュリは反応した。
「その声…………クルモン?」
ジュリは聞き覚えのある声にそう呟くと、今まで暗かったDアークの画面に光が灯る。
「Dアークが………!」
すると、その画面から光が照射され、半透明のクルモンの立体映像を映し出した。
「クルモン………!」
ジュリが思わず叫ぶと、
『ジュリ…………レオモンが戦ってるっクル』
「えっ……………?」
クルモンの言葉にジュリは困惑する。
何故なら、レオモンは7年前の冒険で既に死んでいるからだ。
『レオモンを助けられるのは、ジュリしかいないっクル……………』
困惑するジュリを他所に、クルモンは言葉を続ける。
『ジュリ………レオモンを助けてっクル』
クルモンがそこまで言うと映像が乱れ、薄くなっていく。
「クルモン……!? 今の、一体如何いう………!?」
ジュリがようやく問い掛けた瞬間、
『レオモンに……………ジュリの『心』を………………』
そこまで口にして映像が途切れた。
「クルモン!」
ジュリは思わずDアークを手に取る。
だが、Dアークはもう反応しない。
「クルモン…………一体如何いう事なの…………?」
ジュリはクルモンの言葉を思い出す。
「レオモンが………私の力を必要としているの………?」
何故死んでしまったレオモンを助けてとクルモンが伝えてきたのか理解できない。
死んでしまった命は、二度と戻らないのだから。
「だけど……………本当にレオモンが私の助けを必要としているのなら………!」
顔を上げたジュリの目に迷いは無かった。
「私は今だって、レオモンの『テイマー』よ!!」
ジュリは部屋の窓を開けると、Dアークを空へと掲げた。
「レオモーーーーーーーーーーーーン!!!」
ジュリの渾身の叫びと共にDアークから光が放たれ、天を衝いた。
『ッ…………? 一体何だったんだい? 今の光は………?』
恵理が困惑したように呟く。
突然クルモンから放たれた光が天へと昇っていったことに、思わず警戒してレオモンを握っていた手の力が緩んでしまった。
光が消えた後には、クルモンが疲れた様に座り込んでしまっている。
『……………何が起きたかわかんないけど、今はこっちを……………』
そう言って再びレオモンを握る手に力を加えようとした。
その時だった。
空から眩い光がレオモンに降り注ぐ。
『なっ!? 今度は何だい!?』
恵理が驚愕した瞬間、バチィッとレオモンを握っていた左手が弾かれた。
「この………光は…………?」
光に包まれたレオモンが不思議そうに声を漏らした時、
『頑張ってレオモン! 負けないで!!』
レオモンの耳に届く声。
聞き間違えるはずもない、己の『テイマー』の声。
「ッ………! ジュリ!!」
その瞬間レオモンに力が漲る。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
レオモンの咆哮と共に左腕が鋼鉄の腕となり、続けて右腕も鋼鉄化。
「レオモン進化!!」
続けて胴体が獅子の顔が刻まれた装甲となり、下半身も重厚で大きく機械化された足となって、踵には巨大なローラーが付く。
左肩には機関砲が展開され、右腕には巨大なパイルバンカーが装備される。
そして、燃え盛る炎の鬣を持った鋼鉄の頭部。
それは、レオモンが究極体に進化したマシーン型デジモン。
「ヘヴィーレオモン!!!」
タイタモンに負けない体躯を持った重厚なマシーン型デジモンが地面を踏み砕きながら降り立つ。
『そんな馬鹿な………!?』
目の前に降り立ったヘヴィーレオモンに恵理は困惑の声を漏らす。
『何で………何でどいつもこいつも土壇場で進化するんだよ!? 何でお前らだけッ………!?』
「ジュリの…………私のテイマーのお陰だ…………!」
恵理の言葉にヘヴィレオモンが静かに答える。
「私には聞こえた………遠く離れていても、私を呼ぶテイマーの声が………」
ヘヴィーレオモンは空に映る東京を見上げながらそう言った。
それから視線をタイタモンへ戻すと、
「オーガモン………いや、タイタモン。お前は2対1の状況を卑怯だと言っていたがそれは違う。私には元より『テイマー』が居たのだ。卑怯だったのは私の方だ…………」
「………………ッ!」
その言葉にタイタモンは目を見開く。
「よって先程の決着は無効だ。だが、これで2対2。仕切り直しと行こう…………」
ヘヴィーレオモンの言葉に、タイタモンは嬉しそうに口元を吊り上げると、
「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
気合いを入れるように咆哮を上げた。
『ああもう………! 何で今更になってやる気を出すんだよ………!』
恵理の言葉を他所に、ヘヴィーレオモンとタイタモンは睨み合う。
そして、次の瞬間にはヘヴィーレオモンのパイルバンカーとタイタモンの斬神刀が激突した。
ガイオウモンが菊燐を抜く。
襲い掛かってくるブラックセラフィモンに対し、ガイオウモンはその動きを読んで刃を合わせると、
「ぐはっ!?」
ブラックセラフィモンはその一撃をまともに受けて吹き飛ぶ。
「何故なんだ………? 俺はヒーローの筈だ………! どうして勝てない……!?」
『まだ分からないの? 完全無欠のヒーローなんてこの世には居ないのよ。あんたも唯の人間。間違える事だってある。後はそれを認めるかどうかよ』
「違う………! 俺は間違ってない………! 俺はヒーローなんだ………! じいちゃんみたいなヒーローになるんだ………!」
同じ事を繰りかえす光輝の言葉に雫は溜息を吐く。
『いい加減にしなさい、この大馬鹿者っ!!』
ガイオウモンがエネルギーを集中する。
「俺は、ヒーローなんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
そう叫びながらブラックセラフィモンが全身にエネルギーを纏わせて突っ込んでくる。
自爆技の『テスタメント』。
ヒーローとは自己犠牲を厭わないというイメージからこの技を光輝に使わせた。
『今のあんたにヒーローの資格は無いわ』
雫は静かに告げると、
「ガイアリアクター!!」
突っ込んでくるブラックセラフィモンに待機中の全てのエネルギーを集中させて大爆発を起こした。
「ぐぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!??」
ブラックセラフィモンの悲鳴が響き、データ分解されると同時に光輝の身体だけがその場に残る。
それを確認すると、ガイオウモンが進化を解き、同時に雫が駆ける。
「〝魄崩〟!」
その言葉と共に光輝の身体を一閃した。
〝魄崩〟。
それは魂魄魔法の生物の持つ非物質に干渉できるという力の根源を追求した能力。
対象の魔力、体力、精神、目に見えないものでも斬ることが出来る。
雫はそれを使って光輝を洗脳していた〝縛魂〟の呪縛を断ち切ったのだ。
「……………本当に、これが最後だからね」
気を失っている光輝にそう告げて、雫は背を向けたのだった。
タイタモンの大剣とヘヴィ―レオモンのパイルバンカーの杭がぶつかり合って火花と衝撃を散らす。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「がぁああああああああああああああああっ!!」
タイタモン大剣がヘヴィ―レオモンの装甲を傷付け、ヘヴィ―レオモンの鋼鉄の拳がタイタモンの腹に突き刺さる。
互いの咆哮と共に幾度もぶつかり合い、大地も、空間も揺るがして激突する。
ヘヴィ―レオモンには、機関砲や火炎放射など、どんな距離でも堅実に戦える武装が装備されているが、ヘヴィ―レオモンは敢えてそれらを使わず、近距離戦闘のみに拘った。
お互いの攻撃がぶつかり合い、間合いが開くと、タイタモンが剣を構えなおし、
「……………勝負…………!」
「良かろう………!」
ヘヴィ―レオモンは右腕のパイルバンカーを振り被り、後方に付いているジェット噴射口から火を吹く。
タイタモンの剣にも黒い怨念のようなオーラが纏わりついた。
「…………………………………」
「…………………………………」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、
「「ッ!」」
タイタモンは地面を蹴り、ヘヴィ―レオモンは踵のローラーを高速回転させる。
「魂魄芯撃!!!」
「ソニックエクスカベーター!!!」
タイタモンの怨念のオーラを纏う大剣と、ヘヴィ―レオモンの打ち出されたパイルバンカーがぶつかり合った。
今まで以上の衝撃が辺りを吹き飛ばし、空間自体が崩壊しそうになる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ぐがぁあああああああああああああああああああっ!!」
ヘヴィ―レオモンとタイタモンの気迫のぶつかり合い。
しかし、やがて決着が訪れる。
――ビキリッ
そんな音を立ててタイタモンの大剣に罅が入った。
―ービキッビキキッ
続けて罅が大剣全体に広がっていく。
「……………………」
タイタモンは残念そうに眼を伏せ、
「………………オマエノ勝チダ」
そう呟いた瞬間、タイタモンの剣が砕け散って、パイルバンカーがタイタモンの胴を貫いた。
満足そうな顔で消えて行くタイタモン。
「ありがとう………ジュリ………もう少しだけ待っていてくれ」
ヘヴィ―レオモンは空に映る東京を見上げ、そう呟いた。
タイタモンが消え去ると、その後には恵理の姿だけが残った。
しかし、
「ハッ! 僕に止めは刺さないのかい?」
恵理はそう煽る様に言う。
すると、鈴が進み出て来て、
「恵理…………」
「何だい? ここからやり直そうとでも言うのかい? それなら答えは決まってるよ。『お断りだ』ね」
「ッ…………!」
「中村っ! てめぇ、谷口がどれだけてめぇの事を心配してっ………」
「だって鈴ってマジキモイから」
「……へぇ。例えば?」
恵理の言葉に鈴が落ち着いた声色で返す。
「そうだね。いつも、へらへら笑ってるところとか。陰口叩かれても、やっぱり笑ってるところとか。中身エロオヤジなところとか。殺し合いしているのに友達になりたいとかイタイこと言っちゃうところとか。他にも挙げればキリがないけど、一番キモイのは、その年で一人称が自分の名前なところ。いや、ホント、有り得ないよねぇ」
「そっかぁ。でも、恵里も大概気持ち悪いよね?」
「はぁ?」
「いつも一歩引いてニコニコしちゃってさ。陰口叩かれても、やっぱり微笑むだけだし。中身はただの根暗だし。メガネで控え目で図書委員って、狙い過ぎだよね。って言うか、一人称については文句言われたくないんだけど。なに、〝僕〟って。僕っ娘メガネ図書委員とか盛り過ぎてイタイだけだし。しかも、『僕はヒロイン』って。ププッ、厨二は卒業しようよ」
「厨二? リアルで『お姉様~』とか言っちゃうイタイ奴には言われたくないなぁ。鈴って百合の気あるよね。何度か身の危険を感じたことあるし。有り得ないくらい変態だよね。マジキモイ」
「あはは、あんなの冗談の範疇でしょ? 初恋こじらせて、明後日の方向に突っ走っちゃった勘違い女に変態扱いはされたくないなぁ。有り得ないくらいイタイよね。マジキモイ」
「……」
「……」
「「ア゛ァ゛?」」
「お、おい、お前ら………?」
額に青筋を浮かび上がらせながら言葉の殴り合いを行う2人。
すると、
「鈴も分かってるよね。僕は裏切者。大勢の命を奪ったし、クラスメイトも手にかけた。もう戻れない」
まるで吹っ切れたかのように恵理が話し始めた。
「うん………そうだね…………」
鈴もそれは分かっていたのか否定はしない。
すると、
「そっちも終わったかしら?」
雫がコテモンを伴って歩いてきた。
「雫………光輝は?」
「あっちでお寝んねしてるわ。〝魂縛〟も斬ったから洗脳は解けている筈よ。これで幼馴染としての義理は果たしたわ。後は龍太郎、あんたに任せるわ」
「おう………目え覚ましてもまだおかしかったら正気に戻るまで殴り続けてやるよ」
雫と龍太郎がそう言葉を交わすと、雫が恵理の前に進み出て黒刀を抜く。
「何だい雫。君が僕を『殺す』のかい?」
「………ええ、そうね。私があなたを『殺す』わ」
雫が迷いなくそう言って、黒刀を振りかぶる。
すると、恵理の視線が鈴を捉え、
「……ばいばい。鈴と一緒にいるときは、ちょっとだけ、安らいだよ」
「――ッ」
最後の恵理の言葉に、鈴の目から涙が零れた。
雫が黒刀で恵理の身体を一閃する。
雫が黒刀を鞘に納めると、恵理の身体がゆっくりと倒れた。
「恵理ッ…………!!」
鈴が思わず駆け寄る。
雫はそのまま背を向けてその場を離れた。
「恵理っ………! 恵理ッ………!!」
鈴が恵理の身体を揺する。
すると、
「………………う」
恵理の目がゆっくりと開かれ、鈴を視界に捉えた。
そしてその唇が動き、
「……………誰?」
「ッ………………!」
その言葉に鈴はショックを受けたようだが何とか言葉を飲み込む。
「………あれ………? ここは…………? そもそも僕は誰なの…………?」
本当に自分が誰かもわかっていないようにキョロキョロする恵理に、鈴は歯を食いしばる様に耐える。
恵理がこうなった原因は、先程の雫の一閃だ。
雫は〝魄崩〟を使い、恵理の『記憶』を斬ったのだ。
恵理自身が言ったように、クラスメイトすらその手にかけた恵理をそのまま連れ戻すことは不可能だ。
その為、ギリギリの落とし所とした所が、恵理の記憶を消す事だった。
記憶を斬られた為に、記憶を戻すことは魂魄魔法と再生魔法を組み合わせて使う以外では不可能だろう。
不安そうにしている恵理に、
「…………初めまして。私、谷口 鈴って言うの! あなたの名前は中村 恵理!」
「なかむら………えり………?」
「うん。それで、恵理はね………………」
「僕は………?」
「…………恵理は、私の友達だよ!」
鈴は最初からやり直すためにそう言った。
第74話です。
長くなったけど内容が薄い気が……………
勇者(笑)がブラックセラフィモンに。
恵理がタイタモンに強制進化しました。
まあ、勇者(笑)はセラフィモンを選んだ時点で負け決定(歩く敗北フラグ)。
レオモンとオーガモンは成熟期同士だとやっぱり派手さに欠けますんで色々考えた結果互いに究極体で。
レオモンの究極体がヘヴィ―レオモンだったのは、タイタモンが相手だと、サーベルレオモンよりヘヴィ―レオモンの方が絵になりそうだったからです。
それで最後まで悩んでいた恵理の処遇なんですけど、記憶喪失にして生存という形にしました。
さて、次回は防衛組の出番。
何と意外な人が…………お楽しみに。