ありふれた転生者はデジモンテイマー   作:友(ユウ)

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第7話 奈落の底の再会

 

奈落へと向かって降下していくドルガモンとギンリュウモン。

既に上を見ても六十五階層は見えず、暗闇に包まれている。

時折、崖の所々から地下水が噴き出しており、水飛沫が空気を一層冷たく感じさせる。

 

「大分降りてきたな…………」

 

大体だが、三十階層分ぐらいは降りてきたのではないだろうか?

 

「………………この高さから落ちたら、いくら下に水が溜まっていたとしても……………」

 

園部さんが最悪の予感を口にする。

だが、

 

「そんな事無い! ハジメ君はきっと生きてる!」

 

白崎さんはそれでもあきらめてはいない。

 

「香織………うん、ごめん。その通りだね」

 

園部さんは気を取り直す。

 

「でもどうしよう? これだけ視界が悪くて障害物も多いんじゃ、南雲君が生きてたとしても見つけるのは難しいよ?」

 

葵さんがそう言う。

 

「そうだな…………」

 

俺はどうするか考え込むと、ふと閃きが走った。

 

「そうだ!」

 

俺は一枚のカードを取り出し、

 

「カードスラッシュ! サーチモン!」

 

索敵が得意なアーマー体デジモンであるサーチモンのカードをスラッシュする。

ドルガモンの背に大きなレドームが装着された。

 

「ドルガモン、辺り一帯を索敵!」

 

「わかった!」

 

付加されたサーチモンの能力を発動させ、辺り一帯の地形、構造、魔物などの生物有無を調べていく。

そのままゆっくりと降下を続けていると、

 

「んっ?」

 

ドルガモンが何かに気付いた。

 

「何か見つけたか?」

 

「ハジメ君!?」

 

ドルガモンの反応に白崎さんは激しく反応する。

 

「いや、人じゃないんだけど、横穴がある」

 

「横穴?」

 

ドルガモンが一定の高さでその場に留まる。

見れば、崖から噴き出した地下水が反対の崖に届いており、そこに横穴があるのが確認できた。

内部はまるでウォータースライダーのように水が横穴に流れ込んでいる。

大きさとしては直径3m程度。

そこに入るなら一旦ドルガモンやギンリュウモンを退化させなければならない。

 

「ドルガモン、他に気になるような所は?」

 

俺がそう聞くと、ドルガモンはフルフルと首を横に振る。

 

「少なくとも、索敵が届く範囲に人の反応は無いよ。しかも、この底には岩が針状に連なってるから、直接落ちたらまず助からない」

 

「そうか…………」

 

俺は皆に向き直ると、

 

「聞いての通りだ…………ハジメの生存確率は限りなく低いと言っていい…………それでも、奇跡を信じて先に進むか? 進んだら戻ってこられるかも分からないが…………」

 

そう問いかけた。

すると、

 

「私は行くよ………!」

 

白崎さんは即答する。

 

「どれだけ確率が低くても、可能性がゼロじゃないなら私はハジメ君を信じて先に進む……!」

 

白崎さんは、決意した表情を崩さずにそう言い切る。

 

「私もここまで来たら最後まで諦める気は無いよ。とことん付き合うわ」

 

園部さんも、

 

「それに、ここまで来て引き返すっていうのもカッコ悪いよね?」

 

そして葵さんも。

誰も迷いは無いらしい。

女は強しというが、正にその通りだろう。

 

「わかった………行こう!」

 

そう言って横穴を見据えるが、

 

「……………この水に突っ込むと、食料やカードが駄目になりそうだな………」

 

出鼻から挫かれる。

 

「一応用意したリュックは水とかにも強い筈だけど………」

 

用意した本人の1人である園部さんがそう言うが、

 

「完全防水って訳じゃないからな…………」

 

俺達がどうするか悩んでいると、

 

「ねえ、ちょっと試したいことがあるんだけど、良いかな?」

 

白崎さんがそう発言した。

断る理由も無いのでそれを了承すると、荷物を一か所に集め、

 

「光の恩寵と加護をここに!〝天絶〟!」

 

天絶は、光の中級防御魔法で、光のシールドを複数枚出現させる魔法だ。

白崎さんは詠唱省略でそれを唱えると、六枚のシールドを出現させ、それを箱のようにして荷物を囲んだ。

即席の結界だ。

白崎さんの天職は治癒師なので全員を囲むほどのモノは作れないが、荷物を囲うだけなら何とかなった。

 

「これなら少しは持つと思う」

 

白崎さんの機転で荷物の心配が無くなった俺達は、横穴の上へと移動する。

 

「水の流れに乗って一気に行く。準備は良いな?」

 

俺が皆に確認すると、緊張した面持ちで全員が頷いた。

 

「じゃあ、ドルガモン、退化だ」

 

ドルガモンが光に包まれ縮んでいく。

そのままドルモンに戻ると、俺とドルモンと園部さんは重力に引かれて落下し、水の流れに乗る………と言うか流された。

水の勢いは速く、更に水路内もそれなりに曲がりくねっていたので彼方此方身体をぶつけて痛い。

流されるままになるしかないので、出来ることと言えば身を固めて少しでも痛みに備える事ぐらいだ。

更に息継ぎも一苦労なので、結構苦しい。

そうやってどれぐらい流されたのか分からないが10分か20分か。

もっと短いのかもしれないし、もっと長かったかもしれない。

やがて小さな滝になっていたのか、そこそこの高さから落ちて水の中に沈むと、流れが緩やかとなり、漸く一息つくことが出来た。

俺は水面から顔を出して辺りを見渡す。

近くに岸があったのでそこまで泳いで水の中から上がると、

 

「ふう………ドルモン………!」

 

「大士………!」

 

同じように泳いできたドルモンに手を貸して岸に引っ張り上げ、

 

「園部さん………!」

 

続いて一緒に流れてきた園部さんに手を伸ばす。

園部さんが俺の手を掴んだことを確認して岸に引っ張り上げる。

 

「はぁ………はぁ………黒騎、ありがとう………」

 

いくらステータスが俺より高かろうと、これだけの時間水に流されていれば流石に苦しかったようで、息を乱しながらお礼を言う園部さん。

園部さんは水にぬれて顔に張り付いた髪を軽く掻き上げて後ろに流す。

 

「ッ……………!」

 

その仕草が何処か色っぽくて一瞬ドキッとした。

 

「…………ん? どうかした?」

 

俺の視線に気付いたのかそう聞いてくる園部さん。

因みに服装は冒険が出来る服装なので水にぬれてスケスケになるなんて事にはならない。

 

「い、いや………何でも…………!」

 

俺は若干どもりながら視線を逸らした。

すると、

 

「「きゃあっ!?」」

 

「ぬおっ!?」

 

後を追って来た葵さん達が到着した様だ。

 

「葵さん! 白崎さん! リュウダモン! こっちだ!」

 

俺は彼女達に呼びかける。

その声に気付いたのかこちらに泳いでくるのが見えた。

 

「葵さん!」

 

俺の近くに泳いできた葵さんに手を伸ばす。

 

「大士君………!」

 

その手を掴んで引っ張り上げる。

 

「ふう………ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

お互いにそう言うと、

 

「香織!」

 

「リュウダモン!」

 

園部さんとドルモンも白崎さんとリュウダモンに手を貸していた。

そう言えばと簡易結界に包まれた荷物も回収する。

 

「とりあえず荷物は無事みたいだな」

 

荷物を持って皆の所へ戻ると、園部さんが魔法で火を起こしていた。

そう言えばびしょ濡れな上に、地下水だからめっちゃ冷たかったよな。

火にあたって暖を取ると、冷えた体に血が巡っていくような気がする。

30分ほど火にあたって、それぞれがある程度温まったあと、俺達はハジメを探すために立ち上がった。

 

「ハジメ君!!」

 

探索を始めると、白崎さんが大声でハジメの名を呼び、洞窟内にその声が反響する。

しかし、返事は無い。

 

「ハジメ君!!!」

 

もう一度その名を呼ぶ白崎さん。

 

「……………………」

 

何の反応も無い事に白崎さんは悲しそうな顔をする。

 

「………もう少し進んでみよう」

 

「………うん」

 

俺がそう言うと白崎さんは顔を上げて頷いた。

この洞窟の内部にも緑光石があり、薄暗いながらも視界は確保できている。

暫く道なりに進んでいると、先の方に動く影が見えた。

 

「ハジメ君!?」

 

「白崎さん、待った!」

 

白崎さんが思わず前に出て呼びかける。

しかし、近付いた事でその影がハッキリしてくると、それはハジメではなく兎のような魔物。

だが、頭から胴体にかけては兎に似た見た目なのだが、その後ろ脚は異様に発達し、デカい。

その魔物はギラついた目をこちらに向けて来ていた。

 

「ハジメ君じゃない………!?」

 

ようやくそのことに気付いた白崎さんが足を止める。

だが、兎のような魔物は完全にこちらをターゲットとして定めたようだ。

 

「香織! 下がって!」

 

園部さんが白崎さんの前に出て、両手に3本ずつ投げナイフを構える。

園部さんの天職は『投術師』。

現時点でも唯の投げナイフで木製の的を貫通するぐらいの威力を持つ。

 

「はあっ!!」

 

園部さんはその兎のような魔物に向かって計六本のナイフを投擲する。

しかし次の瞬間、その兎が地面を蹴ったかと思うと凄まじいスピードで洞窟の天井近くに移動していた。

 

「嘘っ!?」

 

園部さんは驚愕している。

 

「くっ! ドルモン!」

 

俺は空中なら避けられないと思い、ドルモンに指示を出す。

 

「メタルキャノン!!」

 

ドルモンが口から鉄球を放ち、高速で兎の魔物に向かって行く。

俺は当たることを確信していたが、突如その魔物の後方に半透明の足場が現れたかと思うと、魔物はそれを蹴って空中で方向転換した。

 

「空中で向きを!?」

 

思わぬ事態に俺は驚愕したが、次の瞬間、ゾクリと背中に悪寒が走った。

 

「園部さん!!」

 

俺は考えるより先に園部さんを押し倒した。

 

「きゃっ!? 黒騎!?」

 

園部さんは驚いたようだが、次の瞬間………

ドゴォッという爆砕音と共に、先程まで園部さんが立っていた場所が砲弾を撃ち込まれたかのように抉れていた。

 

「ぐっ………!?」

 

飛び散った岩の破片が頭に当たり、痛みが走る。

思わず手で押さえると、皮膚を切ったのか血が付いていた。

 

「黒騎!? 血が………!」

 

「問題ない………! それよりも………!」

 

俺は先程いた場所を確認する。

先程の魔物が着弾地点にいた。

地面の岩が抉れており、その威力を物語っている。

 

「くっ、まともに受けたら即死だったな………!」

 

いや、ステータスの高い園部さんや白崎さんでもかなり危うい。

少なくとも、2人のステータスよりも目の前の魔物の方が上だろう。

 

「メタルキャノン!!」

 

ドルモンが再びその魔物に攻撃する。

だが、すぐにその魔物はそこから飛び退き、空中を跳ねまわっていた。

 

「くそっ、速い!」

 

ドルモンが魔物の素早さに思わずそう零す。

 

「それなら!」

 

葵さんがカードをスラッシュする。

 

「カードスラッシュ! 高速プラグインH! ハイパーアクセル!」

 

高速プラグインの一種である高速プラグインHをカードスラッシュする。

その瞬間、リュウダモンが一瞬にして魔物の後ろに回り込み、

 

「居合刃!!」

 

その背中に向けて口から刃を放つ。

流石にそれは避けられなかったのか、その背中に刃が直撃する。

しかし、傷を負わせるものの、致命傷には至らない。

 

「くっ………思った以上に防御力が高い…………!」

 

リュウダモンは倒せなかった事に目を細めて悔しそうに呟く。

次の瞬間、魔物が振り向くと再び足場を発生させ、空中で方向転換するとリュウダモンを蹴り飛ばした。

 

「ぐわっ!?」

 

吹き飛ばされ、地面を転がるリュウダモン。

 

「リュウダモン!」

 

葵さんは思わず駆け寄る。

 

「このっ!」

 

リュウダモンが攻撃された事で、ドルモンは咄嗟に反撃する。

だが、魔物は再び空中を駆けまわると逆にドルモンを蹴り飛ばした。

 

「うわっ!?」

 

「ドルモン! くっ…………!」

 

俺はドルモンを進化させようと、進化カードを取り出す。

しかし、カードをスラッシュしようとした所で、

 

「黒騎! 危ない!」

 

園部さんの声が聞こえ、俺は咄嗟にその場を飛び退く。

直後、その場に魔物が突っ込んで来て地面が粉砕された。

 

「うわっ………!?」

 

その衝撃で俺は転んでしまい、俺の手からDアークが零れ落ちて少し離れた場所に転がってしまう。

 

「大士!」

 

「黒騎!」

 

ドルモンが俺を護るように立ち塞がり、園部さんが魔物にナイフを投げる。

そのナイフは躱されてしまうが、その隙に俺は立ち上がることが出来た。

落としてしまったDアークを回収しようとした時、不意にそれぞれの立ち位置が目に入った。

俺とドルモンと園部さん。

葵さんとリュウダモン。

そして、たった一人孤立している白崎さん。

 

「拙い!」

 

それに気付いた瞬間、俺は叫んでいた。

ほぼ同時に魔物が動き出し、空中を跳ねまわって白崎さんに向かって行く。

 

「白崎さん!」

 

「「香織っ!」」

 

咄嗟に彼女の名を呼ぶ俺達。

白崎さんは魔物の動きを追うことは出来ない。

魔物を見失い、呆然とする白崎さんの頭上に魔物が姿を現し、

 

「あ…………………」

 

白崎さんがそれに気付いた時にはもう、異常に発達した足が振り上げられていた。

その一撃に白崎さんは耐えうる術は無い。

 

「ハジメ君……………ごめん…………!」

 

最期に出てきた言葉は、ハジメに対しての謝罪だった。

そして振り上げられた足が振り下ろされ、ドパンッと言う音と共に頭が弾け飛んだ。

………………………魔物の頭が。

 

「………………………え?」

 

予想外の出来事に俺を含めた全員が呆気にとられ、言葉を失う。

その時、コツコツと足音が聞こえ、全員がそちらを振り返る。

そこには、白い髪で赤い眼をした、左腕の無い長身の青年が右手に銃を持って歩み寄ってきていた。

 

 

 

 

 

 

【Side ハジメ】

 

 

 

 

 

奈落に落ちてどれだけの時間がたっただろう?

奇跡的に助かった僕だったが、ベヒモス級の化け物がゴロゴロといるこの場所は正に地獄だった。

早々に兎のような魔物に襲われ、殺されるかと思えば乱入してきた熊のような魔物にその兎のような魔物が喰われ、更に僕の左腕もそいつに斬り落とされて喰われた。

僕は無我夢中で壁に錬成を行使して穴を掘り、何とか逃げることに成功したが魔力切れと、左腕の傷口から血が流れ続けていたことで僕は意識を失う。

このままでは死んでしまうはずだったが、錬成で掘った穴の近くに神結晶があり、そこから流れ出た神水のお陰で生きながらえることが出来た。

でも、すぐ外にはあの熊のような魔物が居る。

ここから出ることは出来ない。

…………誰か………助けて…………

その言葉は誰にも届かない。

 

 

それから神水を飲んで生きながらえていたけど、強烈な飢餓感とない筈の左腕が痛む幻肢痛に僕の心は削られていった。

何で僕がこんな目に…………?

何度も頭を巡る疑問。

僕はいつしか、神水を飲むのを止めてしまった。

この苦しみから逃れる、一番簡単な方法を選択しようとしていたのだ。

即ち、『死』という選択を。

 

 

3日後。

まだ死なないのか…………

早く死にたい。

早く………

早く………

死にたくない………

早く死にたい。

死にたくない………

死にたいと思いと死にたくないという思い。

相反する思いが僕の中で渦巻く。

更に3日後。

生と死を臨む僕の心に、いつしか暗く淀んだものが沸き上がってきた。

なぜ僕が苦しまなきゃならない……僕が何をした……

なぜこんな目にあってる……なにが原因だ……

神は理不尽に誘拐した……

クラスメイトは僕を裏切った……

ウサギは僕を見下した……

アイツは僕を喰った……

このままでは完全に僕の心は黒く染まるはずだった。

でも、ある時ふと頭に過ったのだ。

なぜ僕はこんな苦しみの中、『生』を望んでいるのかと。

生きたいと思うことは生物の本能。

でも、僕が生きたいと思うのはそれとは別の『何か』。

何故…………?

何故…………?

そして、唐突に理解した。

 

(ハジメ君……………!)

 

瞼の裏に浮かんだ『彼女』の笑顔。

彼女と初めて会ったのは高校に入学してからだった。

だけど、後から聞いた話では彼女の方は中学の頃から僕を知っていたらしい。

しかも、不良に対して土下座している所を見られたのだ。

まあ、不良に絡まれてたおばあさんと男の子を助けるためだったけど。

それを見て彼女は僕の事を強いと思ったらしい。

それで僕に興味を持ったそうだ。

高校に入学してから何度も僕に話しかけてきた彼女に、最初僕は煩わしさを感じていた。

学校で三大女神の1人に数えられていた彼女の優しさは僕も耳にしていたから、彼女が僕に構うのもそんな優しさからだと思い込んでいた。

僕に良く構う所為で周りからやっかみを受けるので僕は少し迷惑に思っていたが、美人で性格も良いので、こんな人と恋人になれたらと思わないでもなかった。

でも、僕はオタク趣味の日陰者だ。

そんな僕が彼女と釣り合うとは到底思えなかった。

そんな僕と彼女に転機が訪れたのは、友人の大士と、デジモンという意外な共通の趣味を持つ三大女神の1人である神代 葵さんとデジモンについて語り合っていた時だった。

何故かその会話に彼女も入ってきたのだ。

最初は俄知識だったようで会話について来れなかったのだが、何度も諦めずに僕達の会話に入ってくるうち、徐々に彼女自身から会話を振るほどにまでなっていた。

そんな風に僕達と話す彼女は本当に嬉しそうに笑っていて、そんな彼女の笑顔に僕は知らず知らずのうちに本当に惹かれていたらしい。

ある時、休み時間に屋上で彼女、大士、神代さん、と昼食を食べながらデジモントークで盛り上がっていた時、大士に唐突に言われたのだ。

 

『お前ら、もう付き合っちまえよ』

 

と。

僕は大いに慌てた。

僕なんかが彼女と釣り合う訳ないじゃないかと。

でも、彼女は顔を真っ赤にして狼狽えており、アワアワと慌てながら何度もごにょごにょと呟いた後、

 

『よ、よろしくお願いします………!』

 

と、頭を下げてきたのだ。

思わず僕は夢だと疑ったね。

でも、僕が彼女に惹かれていたのと同じように彼女も無自覚に僕に好意を持っていたようで、大士の一言でそれを自覚したらしい。

ロマンチックとは程遠いがそのまま付き合うことになり、大士から、『ハジメ、爆発しろ』と祝福の言葉を贈られた。

祝福だよな?

そんな事があって正式に恋人として付き合うことになった『彼女』。

付き合い始めてからまだ日は浅いが、このまま別れることになるのは死んでも嫌だった。

…………そうだ、僕は望んでいる。

『生』を!

生きて『彼女』と共に元の世界に帰る事を!

それを邪魔するものは全て『敵』!

 

「敵は殺す!!」

 

この時、『僕』は『俺』となった。

暗く、絶望に満ちたこの奈落の底で、俺は決意する。

どんな事をしても、どんな敵が現れても、俺は『彼女』の元へ帰ると。

 

「待っていろ、香織! 俺は必ずお前の元に帰る! そして、一緒に帰る、元の世界へ!」

 

俺はずっと口にしていなかった神水を飲み、体力を回復させる。

だが、飢餓感だけはどうにもならない。

腹が減り過ぎて考えも纏まらない。

 

「………っは! こうなったら魔物でも何でもいい! 殺して喰らってやる!!」

 

 

 

 

そうして錬成を駆使して二尾狼を仕留めた俺は一心不乱にその肉にかぶり付いた。

だが、魔物の肉を食うと体がバラバラになって死ぬという事を忘れていた俺は想像を絶する苦しみに襲われた。

慌てて神水を飲むが、痛みは治まらず、バラバラになりそうだった体が神水によって修復され、修復された途端に砕けていく。

破壊と再生を繰り返した末に、漸く痛みが治まった俺の身体は変化していた。

先ず髪が白くなり眼も赤くなった。

背も伸びており、元の面影など殆ど無いに等しい。

更にステータスプレートを確認すると、各ステータスが軒並み急成長を遂げており、更には魔物が持っていたであろう技能も習得することが出来ていた。

魔物の肉はクソ不味かったが、魔物を喰えばステータスが上がるという事は俺が生きて帰る為に必須であることは考えるまでも無かった。

それから武器を作る為に錬成を磨き続けていたら、派生技能として鉱物鑑定が現れ、鉱物の特性が手に取るように理解できるようになった。

その技能で硬度と靭性に優れたタウル鉱石と、火薬に近い特性の燃焼石を発見し、試行錯誤と失敗の連続の末、俺は銃を作り出すことに成功した。

更に二尾狼の技能、雷を纏う『纏雷』を利用することで弾丸を電磁加速。

所謂レールガンとして使用できるようになった。

この銃、『ドンナー』と名付けたそれを使って、俺は兎の魔物、更には俺の左腕を喰った熊のような魔物を殺し、喰ってやった。

その後、上に進む道が無いか探索していたが、下へ進む道は見つかっても、上へ進む道はいくら探しても見つからなかった。

仕方なく、下へ進むことを決めた俺は、拠点で最後の休憩を取っていた、そんな時だった。

 

「ハジメ君!!」

 

不意に香織の声が聞こえた気がした。

 

「香織……………?」

 

俺は呟いてまさかと首を振る。

香織がこんな所に居るはずが無い。

 

「幻聴まで聞こえるなんて、俺はよっぽど香織に飢えてるのかねぇ………?」

 

自嘲気味に笑いながらそう呟く。

だが、

 

「ハジメ君!!」

 

その声は遠い。

だが、確かに聞こえた。

 

「……………幻聴じゃ………無い…………!?」

 

自分で言って驚愕する。

まさかと思いながらもドンナーを引っ掴んで俺は駆け出す。

 

「まさか…………香織がこんな所に…………!?」

 

俺は奈落に落ちる寸前に見た香織の姿を思い出す。

天之河に羽交い絞めにされなければ、俺の後を追って飛び降りてきそうな雰囲気…………

いや、確実に飛び降りてきただろう必死な姿を見て、柄にもなく天之河に感謝したことは秘密だ。

香織に会いたいと思う反面、こんな地獄に香織を連れて来なくて良かったとも思っている。

だが、俺は思い直した。

俺の知る香織は俺が奈落に落ちた程度で諦めるような女だったのかと。

俺を生存を信じて迷宮に潜る選択をすることも十分に考えられる。

だが、こんなに早くこの場所に辿り着けるとは思えない。

 

「くそっ………!」

 

考えても結論が出なかった俺は、声の聞こえた方へ全力で駆ける。

やがて俺は見つけた。

会いたくて堪らなかった香織の姿を。

だが、その香織の頭上に兎野郎が足を振り下ろそうとしていた。

あのままでは死ぬ。

誰が?

香織が。

香織が死ぬ?

誰によって?

あの兎によって。

ならばあの兎は俺の『敵』!

香織を傷つけようとするモノ、殺そうとする者は全て『敵』!

『敵』が香織を殺そうとするなら、その前に俺が『殺す』!!

俺は瞬間的にドンナーを向けて引き金を引く。

電磁加速によって放たれた弾丸は兎の頭を貫き、破裂させた。

それを確認して、俺は香織に駆け寄ろうとして思い留まった。

俺の姿はまるで違っている。

もしかしたら拒絶されるかもしれないという可能性が俺の中に過った。

だが、

 

「……………ハジメ君」

 

そんな俺の心配を他所に、彼女は俺を見てハッキリとそう呼んだ。

 

 

 

 

 

 

【Side Out】

 

 

 

 

 

銃を片手に現れた白髪の男は立ち止まって白崎さんを見ていた。

俺は何者か分からないその男に警戒の眼差しを向けていたが、

 

「……………ハジメ君」

 

白崎さんがその男を見てその名を呟いた。

俺は思わず耳を疑う。

葵さんや園部さんも同じようだ。

だが、白崎さんは目に涙を浮かべると、

 

「ハジメ君!!」

 

弾かれる様に駆け出し、その男の胸に飛び込んだ。

その男は一瞬驚いた表情を浮かべ、

 

「…………香織…………俺が………判るのか…………?」

 

聞き覚えのある声でそう呟いた。

その胸に縋り付いていた白崎さんは顔を上げると、

 

「もちろん判るよ…………私がハジメ君を見間違えるわけないよ…………!」

 

笑みを浮かべてそう言った。

すると、その男は小さく笑みを浮かべ、

 

「香織…………会いたかった…………」

 

「私もだよ………ハジメ君…………絶対に生きてるって信じてた…………」

 

「香織………」

 

「ハジメ君………」

 

見つめ合う2人の周辺にピンク色の空気が漂っている気がした。

とまあ、信じられない事だがあの白髪の男はどうやらハジメらしい。

見た目も口調も全然違う。

前の名残は声ぐらいだろうか?

白崎さんがハジメだと言っているし、本人も認めるような発言をしている。

 

「あれ………南雲?」

 

園部さんも唖然としてハジメを見つめている。

とりあえず俺は2人に近付く。

すると、ハジメが俺の方を向き、

 

「…………大士か」

 

「ああ…………お前はハジメ………で間違いないんだよな?」

 

俺は確認を含めてそう問いかける。

 

「まあ、信じられねえのも無理はない。俺自身結構変わっちまったと思うしな。とりあえず証拠としてステータスプレートだ」

 

そう言いながらハジメはステータスプレートを俺に見せてきた。

その内容は、

 

 

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17

 

天職:錬成師

 

筋力:300

 

体力:400

 

耐性:300

 

敏捷:450

 

魔力:400

 

魔耐:400

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解

 

 

 

 

南雲 ハジメに間違いはないようだが、その内容は以前とはまるで違っていた。

ステータスが桁違いに上がっているのもそうだが、派生技能以外で増えることの無い技能が増えている。

 

「何があったんだ………一体?」

 

「ま、そいつは追々な。で? お前らは何でここにいるんだ? 一緒に居るのは神代と………園部か? つーか、どうやってここまで来た? 後あいつらは何だ?」

 

ハジメが俺と後ろにいる葵さんと園部さんに視線を向け、最後にドルモンとリュウダモンで視線を止める。

 

「何でここにいるかについては、お前を探しに来たからに決まってる。後の二つの質問については先に後の質問について答えるが、あいつらはドルモンとリュウダモン。ドルモンが俺のパートナーデジモンで、リュウダモンが葵さんのパートナーデジモンだ」

 

「パートナーデジモン!? アニメのデジモンアドベンチャーみたいなアレか!?」

 

白崎さんと同じ反応をしたハジメに俺は内心笑いを零す。

 

「ああ。俺が小学校の頃に会ってたデジモンで、ハジメがここに落ちてくる寸前に再会したんだ。それでもう一つの質問のどうやってここまで来たかについてもドルモン達のお陰だ」

 

「もしかして、アニメみたいに進化させられるのか?」

 

「その通り!」

 

「マジかよ!?」

 

若干興奮気味にそう言うハジメ。

外見や性格は変わってしまったのかもしれないが、こいつは紛れもなく俺の友人の南雲 ハジメだ。

俺は改めてそう思った。

すると、ハジメは視線を移動させ、葵さんと園部さんを見る。

 

「神代は分からんでもないが、園部は何でここに来たんだ? 正直、理由が思い浮かばないんだが?」

 

ハジメは園部さんがここまで来た理由が分からない様だ。

 

「ほら、園部さん………!」

 

俺は園部さんを促す。

 

「う、うん………」

 

園部さんは少し戸惑いながらハジメの前に出て、

 

「あ、あの………南雲」

 

「何だ?」

 

「その…………ありがとね」

 

「………何が?」

 

「トラウムソルジャーに襲われた時…………助けてくれたから」

 

「ん…………? ああ、そんな事もあったか………」

 

「だから………ありがと」

 

「……………………ん? まさかそれ言うためだけにこんな所まで来たのか!?」

 

ハジメは驚いたようにそう言う。

 

「そう言うなよ。園部さん結構気にしてたんだ」

 

俺はそう言う。

 

「はは…………根性あるよ、お前」

 

ハジメは半分呆れた様にそう言う。

 

「あと……………一応謝っとく」

 

「謝る?」

 

「南雲が落ちた時………私も魔法を撃ってた1人だったから…………もしかしたら私が撃った魔法が誤爆したのかもしれないし…………」

 

園部さんは俯きながら言葉を絞り出す。

すると、

 

「あれはお前じゃねえよ」

 

「えっ?」

 

ハジメの言葉に園部さんが驚いたように顔を上げる。

 

「勘違いしてるようだから言っておくが、あれは誤爆なんかじゃねえ」

 

「「「「えっ?」」」」

 

その言葉に、俺達は全員声を漏らした。

 

「あれは間違いなく俺を狙って誘導された故意の魔法だった」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

その言葉に驚愕する俺達。

クラスメイトの1人が殺意を持ってハジメを攻撃したというのだ。

 

「となると犯人は…………」

 

「檜山………だろうな。その理由は………香織しか思い浮かばないな」

 

「えっ? 私?」

 

ハジメの言葉に白崎さんが首を傾げるが、俺はその言葉に納得していた。

 

「そうだな。檜山は白崎さんに気があるみたいだったから、白崎さんと仲が良いハジメをどさくさに紛れて殺そうとした、って所か?」

 

「えっ? そうだったの!?」

 

檜山が自分に気があったと聞いて、白崎さんは本当に驚いた表情をする。

白崎さん、本当にハジメ以外眼中に無かったんだな。

白崎さんの天然を垣間見た俺は苦笑する。

 

「それにしても檜山も馬鹿ね。今更香織が誰かに靡くはずないのに。本当に南雲君を殺せたとしても、香織は後を追うか一生喪に伏すかのどちらかだっていうのに」

 

葵さんが軽い口調でそう言う。

 

「えっ!?」

 

その言葉に反応したのは園部さんだ。

 

「ね、ねえ葵? その言い方だと、まるで南雲と香織が付き合ってるみたいに聞こえるんだけど?」

 

「え? 実際に2人は付き合ってるし」

 

「ええっ!?」

 

葵さんの言葉に園部さんは驚愕し、少し表情を落とすと、

 

「そっか…………」

 

ちょっと残念そうにそう呟いた。

すると、ハジメが気付いたように口を開く。

 

「こんな所で長話は危険だ。一旦俺が使ってる拠点に戻るぞ。詳しい話はそこでだ」

 

その言葉に俺達は頷いた。

 

 

 

少し離れた所に、洞窟の壁に穴を掘って作ったハジメの拠点があった。

 

「本当に黒騎君の言う通り洞窟に穴を掘って生き延びたんだね。ハジメ君」

 

白崎さんが感心したようにそう言う。

 

「大士が?」

 

「うん、ハジメ君が錬成師だから、逆に生き残ってる可能性があるって言ってたんだ。私はそれを聞いて、ハジメ君が生きてるって信じられたんだよ」

 

「そうか……………」

 

全員が腰を落ち着けた所で、俺は口を開いた。

 

「それで、ずっと気になってたんだが、お前のその見た目と左腕は如何したんだ? あと、あのステータスの異様な上がり様と技能が増えた理由を知りたい」

 

俺は二の腕から先が無いハジメの左腕を見てそう言う。

 

「ハジメ君…………」

 

先程気付いた白崎さんが辛そうな表情を向ける。

 

「左腕は魔物に食われた」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

その言葉に息を呑む俺達。

しかし、ハジメは気にせずに言葉を続け、

 

「で、この見た目とステータスだが…………簡単に言えば、魔物を喰った」

 

「魔物を喰った!?」

 

その言葉に俺は思わず叫んだ。

 

「で、でも、魔物を食べたら死ぬって話じゃ………」

 

「だ、大丈夫なの!? ハジメ君!?」

 

園部さんと白崎さんも驚きながらそう言う。

 

「まあ、危うく死にかけたんだが、こいつのお陰で助かった」

 

そう言ってハジメが見た視線の先に、バスケットボールぐらいの青白く輝く結晶があった。

 

「これは?」

 

葵さんが尋ねると、

 

「こいつは神結晶。大地に流れる魔力が、千年という長い時をかけて偶然できた魔力溜りにより、その魔力そのものが結晶化したものらしい。そこから流れ出る液体は神水と呼ばれ、こいつを飲めば怪我や体力はだけじゃなく魔力も回復する。体が破壊される前にこいつを飲んだからギリギリ助かったんだ。まあ、それでも死ぬほどの激痛が長時間続いたがな。要は破壊と再生を繰り返して身体が再構成されたようなもんだ。おまけにステータスだけじゃなく、魔物の持つ魔力操作や技能も習得できた」

 

そう言うハジメに白崎さんは何かを考え込む表情をした。

 

「どうした? 香織」

 

それに気付いたハジメが問いかけると、

 

「ハジメ君。つまり、魔物を食べれば強くなれるって事だよね?」

 

白崎さんはそう言う。

 

「まあ、簡単に言えばそうだが…………」

 

すると、白崎さんは決意をした表情をして、

 

「ハジメ君、私にも魔物を食べさせて!」

 

「なっ!?」

 

白崎さんの言葉にハジメは驚愕の声を漏らした。

 

「何言ってる!? 聞いてたのか? いくら神水があると言っても想像を絶する苦しみなんだぞ! 香織がそんな目に遭う必要は無い!」

 

ハジメはそう言うが、

 

「私、さっきは何も出来なかった………このままハジメ君の足手纏いになるのは嫌だから」

 

「例えそうだとしても、お前は必ず俺が護ってやる! だから………!」

 

ハジメの言葉に白崎さんは首を横に振る。

 

「ハジメ君の気持ちは嬉しい。だけど、ハジメ君が私を護ってくれるように、私もハジメ君を護りたいの……………今度こそ…………!」

 

ハジメは何か言いたげだが、白崎さんは一度言い出したことは決して曲げない意志の強さも持っている。

言っても無駄だという事を理解しているのだろう。

 

「くっ………正直反対だが、言っても聞かねえだろうな…………寧ろ、俺に隠れて魔物の肉を喰いそうだ………」

 

ハジメはそう言う。

ニコニコしている白崎さんの笑顔がその言葉を肯定しているように思えた。

すると、

 

「南雲、私も食べる」

 

園部さんもそう言いだした。

 

「園部?」

 

「私もさっきの魔物に手も足も出なかった。少なくとも、ここを脱出するために強さは必要だから…………」

 

「それは否定しねえが…………」

 

「自分の身ぐらいは自分で護るよ!」

 

「わーったよ。好きにしな」

 

香織と違って割と投げやりに許可を出すハジメ。

すると、ハジメは俺と葵さんの方を向き、

 

「お前らは如何する?」

 

そう聞いてきた。

俺はその問いに少し考え、

 

「……………俺は遠慮しておく」

 

そう答えた。

 

「へぇ、怖気づいたか?」

 

半分笑いながらそう問いかけてくる。

ハジメなりの冗談のつもりなんだろう。

 

「ま、そう言う理由も無いと言えば嘘になるが、体を再構成されるって所が気になってな。もしかしたら俺とドルモンの切り札にどんな影響があるか分からないからだな」

 

「切り札ね…………そいつはステータスが上がるメリットを捨ててでも固持する物なのか?」

 

「その答えにはイエスと答えよう。ま、例えそうでなくとも断ってたとは思うが」

 

俺は肩を竦めて見せる。

 

「神代は?」

 

ハジメは葵さんに視線を向ける。

 

「ん~、私も止めとくよ。私には大士君みたいな切り札はないけど、もしかしたら私にも使えるようになるかもしれないし」

 

「そうか。ま、強要はしねえよ」

 

ハジメはそう言うと、今まで仕留めた魔物から比較的新しい二尾狼の肉を切り分ける。

 

「ハッキリ言うが味もクソ不味いからな、そっちの方も覚悟しておけよ?」

 

ハジメは一応注意をしておく。

そして、手に電気を纏うとそれを利用して肉を焼き始めた。

その瞬間、酷いにおいが鼻を衝き、思わず後退りながら鼻をつまんだ。

 

「うげっ………」

 

しかし、ハジメは気にせず肉を焼き続ける。

少しすると、

 

「クソ不味いのは変わらねえが、ちったあマシだ。肉を口に入れたら神水で流し込め。いいか? 肉を喰ったら絶対に神水は飲め! 死ぬぞ!」

 

重ねて注意するハジメ。

錬成で作ったコップで神水の溜まり場から神水を掬って肉の傍に添える。

白崎さんと園部さんは肉の酷い臭いに顔を顰めていたが、白崎さんが先に意を決して魔物の肉に手を伸ばす。

それを見た園部さんも少しおっかなびっくりに肉に手を伸ばした。

2人は口元に持ってきた肉に一瞬躊躇したが、思いっきり目を瞑って、ほぼ同時に肉に噛みついた。

肉の塊を口に含み、口を押さえながら咀嚼。

度々吐きそうな表情を見せながらも、コップに入った神水を煽ると、無理矢理飲み込んだ。

呑み込んでから少しは何ともなかったが、

 

「………あ゛っ!?」

 

「………うぐっ!?」

 

ほぼ同時に2人に異変が起こった。

 

「あ゛あっ…………!? ゔあああああああああああああああああああっ!!!???」

 

「いぎっ………!? ぎぃぁああああああああああああああああああっ!!!???」

 

女性らしからぬ悲鳴を上げる2人。

体の各所から血が噴き出し、更に体中の骨が砕けるようにバラバラになりながらも、神水の効果で即座に修復され、それがまたバラバラになる。

 

「ハッ、ハジメくっ…………! うぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!??」

 

白崎さんの手が求めるように宙を彷徨う。

 

「香織!」

 

ハジメがその白崎さんの手を握る。

 

「頑張るんだ! 香織!」

 

「ハジメ君っ…………! んんっ………!」

 

その声に安心したのか、白崎さんの表情が少し穏やかになった様に見えた。

だが、

 

「ぎぁっ…………!? ああああああああああああああああああっ!!!???」

 

園部さんは何も縋るモノが無く、1人苦しんでいる。

 

「園部さん……………」

 

俺は見ていることしか出来ないのか?

 

「だ、誰かっ………助けっ………! いぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!??」

 

その手が助けを求めるように宙を彷徨う。

その姿を見ていられなくて、俺は思わず手を伸ばした。

宙を彷徨う園部さんの手を掴む。

 

「大丈夫だ。俺がここにいる」

 

精一杯気遣う言葉を言おうとするが、どうしてもありふれた言葉しか出てこない。

 

「ぐっ…………くぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

「頑張れ、園部さん!」

 

その手が強く握られる。

少しでも彼女の痛みが和らげばいいと思う。

やがて、徐々に彼女達の悲鳴が小さくなっていき、やがて落ち着いた。

 

「はぁ………はぁ…………」

 

「はぁぁぁぁぁ………ふぅぅぅぅぅぅ…………」

 

それぞれが息を整えている。

改めて見ると、2人にもハジメと同じような変化が起こっていた。

白崎さんは髪がハジメと同じように白く染まり、瞳も赤くなり、園部さんは元々染めているらしいので栗色の髪は変わらないが、その根元は僅かに白くなっていて、瞳も同じように赤くなっている。

そして、2人共通の変化が体付きがより女らしくなり、大人の色気と言うべきものが出てきているのだ。

スタイルも良くなっており、葵さんや八重樫さんに迫るほどだ。

俺は園部さんが落ち着いた事を見計らってその手を離し、用を足してくるという理由でその場を離れた。

少し離れた所で、

 

「ぐっ…………!」

 

俺は園部さんの手を掴んでいた右手を抑えながら蹲る。

その右手は完全に骨が砕けていた。

一般人並みのステータスしか持たない俺が、高ステータスであり、更に魔物の肉を食べたことで更に力が上がりつつあった園部さんの全力の握力に耐えきれるはずが無かった。

 

「はは………最後まで格好つかないな………俺は」

 

自嘲気味に笑う。

後で園部さんにバレない様に神水を貰おうと思って居ると、

 

「はいこれ」

 

突然顔の傍にコップが差し出された。

その中には神水が入っている。

俺が顔を上げると、葵さんがコップを差し出していた。

 

「葵さん!?」

 

「手、大丈夫?」

 

「え、あ………気付いてたの?」

 

「気付いたって言うか、無事じゃ済まないだろうなって思ってたよ?」

 

「そ、そう………?」

 

「それよりも早く」

 

「あ、ああ。ありがとう………」

 

俺は葵さんからコップを受け取って神水を飲む。

すると、すぐに骨が再生を始め、完全に治ってしまった。

 

「これが神水の効果か………凄いな………!」

 

砕けていた筈の右手を握ったり開いたりしてその効果を実感する。

 

「それにしても、よく我慢してたね、それ」

 

「まあ、園部さんの苦しみに比べれば万分の一だろうし、頑張ってる園部さんの前で情けない顔は出来ないだろ? 仮にも男だからな」

 

「フフッ、そう言うところあるよね、大士君って」

 

「まあ、男の意地って奴だよ」

 

俺を見て笑みを浮かべる葵さんに、俺はそう言って笑い返す。

 

「そろそろ戻ろう」

 

「うん!」

 

俺達はみんなの所へ向かって歩き出した。

 

 

 

尚、用を足すと言って出ていったのに葵さんと2人で戻ってきた事に変な勘繰りを受けたのは余談である。

 

 

 

 




はい、第7話です。
やっぱり書きたいと思っている物はスムーズに筆が進みますね。
とりあえずオルクス大迷宮攻略まではサクサク行きたいです。
さて、アンケートの結果、優花はオリ主である大士君のヒロインに決まりました。
因みにハジメだった場合、優花の手を掴むのはハジメの役目でした。
今回ハジメと合流しました。
ハジメは原作より若干丸いです。
香織が恋人である変化ですね。
でも、敵に容赦ない所は変わりません。
流石に奈落の魔物相手では成長期デジモンでは歯が立ちませんでした。
ピンチな所に現れる原作主人公のハジメさん。
こんな感じで如何ですかね。
さて、次回は原作メインヒロインのユエさんが登場予定。
お楽しみに。
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