【Side 三人称】
「ぐぁ!?」
吹き飛ばされたハジメが苦しそうに蹲る。
「ほら、なに寝てんだよ? 焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――〝火球〟」
檜山、中野、斎藤、近藤の4人がハジメを取り囲んで魔法を放っているのだ。
ハジメは放たれた火球を転がりながらなんとか避ける。
だが、
「ここに風撃を望む――〝風球〟」
斎藤が魔法を放ち、風の塊がハジメの腹部に直撃して仰向けに吹き飛ばされる。
ハジメはオエッと胃液を吐きながら蹲った。
「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」
そう言って、蹲るハジメの腹に蹴りを入れる檜山。
檜山達は、突然手に入れた力に酔い、戦闘能力の無いハジメをいたぶって楽しんでいた。
普段から素行に問題のある檜山達は、ハジメをいたぶることによって優越感に浸っていたのだ。
普段から香織と仲が良いハジメに対して良い感情を持っていない事も相まって、訓練とは名ばかりのリンチが続けられ様としていた。
だが、その時だった。
「メタルキャノン!!」
ハジメに近付こうとした檜山の足元に、何かが高速で撃ち込まれ、衝撃と共に砂埃が舞い上がる。
「「「「うわっ!?」」」」
突然の出来事に4人は慌てふためき、転倒した。
「な………何…………?」
檜山達の足元に撃ち込まれた攻撃に、ハジメは何が起きたのか理解できずに声を漏らす。
すると、
「やめろーーーっ!!」
何者かが声を上げながら駆け寄ってくる。
ハジメはその声が聞こえてきた方に目を向けたが、次の瞬間絶句した。
何故なら、それは人では無く、二本足で立ち、紫の体毛に覆われ、背中には退化した小さな羽があり、額に赤い逆三角形を付けた、獣の様な生き物と、和風の鎧をイメージさせる甲冑を身に纏った黄色い体毛の獣の様な生き物が居た。
「状況はよく分からぬが、たった1人を4人でいたぶる所を見過ごすことは出来ん!」
鎧を着ている獣がそう言葉を話す。
「な、何だこいつら!?」
「ま、魔物!?」
小悪党4人組が驚き戸惑っている。
だが、檜山が気を取り直すと、
「ふ、ふん! 何処から入って来たのか知らねえが、こんなチビどもは、俺が一発で片付けてやる! ここに風撃を望む――〝風球〟!」
檜山が魔法で風の球を放った。
檜山は呆気なく吹き飛ばされる獣達を想像した。
しかし、
「おっと!」
「この程度!」
その2匹の獣は軽く飛び退いて風球を躱し、
「メタルキャノン!!」
「居合刃!!」
檜山の足元に鉄球と刃を撃ち込んだ。
「ひぃいいいいいいっ!?」
檜山はみっともなく腰を抜かす。
だがその時、
「一体なんだ!?」
「何、あれ?」
「ま、魔物!?」
訓練場に来た他の生徒達が現状に気付き、声を上げる。
その瞬間、
「ま、魔物だぁー! 魔物が侵入したぞーーーっ!!」
檜山がそう大声で周りに叫んだ。
その声が皮切りとなって、周りの生徒達が魔物が侵入したと認識し始める。
「魔物だって!?」
「早く騎士達を呼ぶんだ!」
「魔物を倒せ!」
そうして次々と騒ぎが大きくなっていくのであった。
【Side Out】
俺が、途中で出会った葵さんと一緒に訓練場へ向かっていると、訓練場の方から騒がしい声が聞こえてきた。
「何かあったのかな?」
葵さんが疑問を口にする。
すると、訓練場の方を不安そうに見つめる園部さんを始めとした女子グループが居たので声を掛けた。
「ちょっといいか? 訓練場で何かあったのか?」
俺がそう問いかけると、
「え、ええ………訓練場に魔物が侵入したらしいのよ………」
園部さんがそう答える。
「魔物………?」
俺が訓練場の中を覗くと、天之河を始めとした数名の生徒達と騎士達が訓練場の中央辺りに向かって魔法を撃ちこんでいた。
そして、その先には撃ち込まれる魔法から逃げ惑う、2つの影。
「ッ……………!」
それを見た瞬間、俺は目を見開いた。
その影の1つは、俺が会いたくて仕方が無かったパートナーの姿だったから。
「ドルモン…………!」
一瞬呆けてしまう俺。
「リュウダモン………?」
なので、俺の隣で同じように呆然と呟いた葵さんの言葉を聞き逃していた。
だが、俺達の驚愕を他所に、ドルモン達に向かって魔法が次々と撃ち込まれる。
その影は、撃ち込まれる無数の魔法によって足を止めてしまう。
そこで俺は我に返った。
その時、
「今だ!」
天之河が聖剣を掲げる。
「やばいっ!」
「やめてっ!」
俺と葵さんが叫ぶが、
「万翔羽ばたき、天へと至れ――」
聖剣に魔力が集中する。
「チッ!」
俺は舌打ちしつつ、Dアークを取り出し、更に1枚のカードを即座に抜き出す。
「ドルモン!!」
俺はドルモンに呼びかける。
その呼びかけが聞こえたのか、ドルモンと俺の視線が交わる。
6年振りの突然の再会。
だけど、その一瞬の目と目の交錯だけで、俺達は互いの意志を理解する。
「カードスラッシュ!」
俺はDアークにカードをスラッシュしていく。
「〝天翔閃〟!」
その時、天之河が巨大な光の斬撃を飛ばした。
その斬撃は、その2つの影を呑み込まんと突き進み、
「ブレイブシールド!!」
その瞬間、俺がカードをスラッシュした直後にドルモン達は光の斬撃に呑み込まれた。
「リュ、リュウダモーーーーン!!」
葵さんが悲痛な声で叫んだ。
だが、俺は前を見続ける。
天之河が放った攻撃の際に巻き起こった砂埃が晴れて行くと、
「なっ!?」
天之河が驚愕の声を漏らした。
何故なら、ドルモン達の前には太陽の様な形の勇気の紋章が刻まれた黄金の盾が現れており、傷一つ無く天之河の攻撃を防いでいたからだ。
少しするとブレイブシールドが消え、ドルモン達の姿が露になる。
「ッ! このっ………」
天之河が尚も聖剣を構えてドルモン達を睨み付けていたので、
「待て天之河!!」
俺は叫びながらドルモンの前に辿り着くと、ドルモンを護る様に天之河と相対する。
「何をしているんだ黒騎!? そこに居るのは魔物だぞ!」
「違う!」
天之河の言葉を俺は即座に否定する。
「ドルモン達は敵じゃない」
俺はそう言うと、ドルモンに振り返り、片膝を着いて視線をドルモンと合わせる。
「………久しぶりだな、ドルモン」
俺は笑みを浮かべる。
「うん………大きくなったね。大士………」
ドルモンも嬉しそうに歩み寄ってくる。
そして、
「ドルモン………」
「大士………」
ゆっくりと近付いてきたドルモンと、軽く抱擁を交わす。
その時、
「リュウダモン!」
葵さんが駆け寄ってきて、もう一体いたデジモン………
リュウダモンに抱き着いた。
「か、神代さんまで!?」
天之河が驚く。
「葵………久しいな………」
リュウダモンは目を瞑ってその抱擁を受け入れる。
「うん、私も会いたかったよ………」
葵さんは目尻に涙を浮かべてリュウダモンを抱きしめる。
「……………そのデジモンは、葵さんのパートナー?」
俺は葵さんにそう尋ねる。
「あ、うん。リュウダモンだよ」
「そうか………俺は黒騎 大士。こっちが俺のパートナーのドルモンだ」
俺はリュウダモンに自己紹介をしながらドルモンを紹介する。
「某はリュウダモン。葵のパートナーだ」
リュウダモンは古風な喋り方でそう答えた。
穏やかな空気が流れていたが、
「待つんだ! 何故君達はそんな暢気に魔物と話をしてるんだ!?」
その空気をぶち壊す声が響いた。
「天之河………」
俺は折角の再会を邪魔された事に、やや不機嫌になるが、
「ドルモン達は魔物じゃない」
そう答える。
「何っ?」
「ドルモン達はデジモンだ」
「デジモンだって!?」
天之河は驚愕したように声を上げると、聖剣を構えなおす。
「魔物と同じぐらい危険な生物じゃないか!」
「ドルモンは危険じゃねえよ!」
俺は即座に言い返した。
「ドルモンは俺のパートナーだ」
俺はハッキリとそう言う。
だが、
「そのデジモンは檜山達を攻撃したんだぞ! そんな危険な生物を放っておくことは出来ない!」
天之河はそう言い切る。
その言葉に、俺は檜山達を見た。
「そ、その通りだ! そいつが俺達に攻撃してきやがったんだ!!」
檜山がドルモンを指差しながらそう言う。
「………………それは無いな。ドルモンは無意味に自分から攻撃することはまず無いし、攻撃したとしても、攻撃するだけの理由がある。ドルモン、一体何があった?」
俺がそう聞くと、
「そっちの4人組が、そこに居る男の子を囲んで痛めつけてたんだ!」
ドルモンがハジメの方を向いてそう答える。
俺は傷付いたハジメを見た。
「…………なるほど、大方手に入れた力に酔って、力の無いハジメをリンチしたって事か。で、それを止める為にドルモンが攻撃した。ま、威嚇として外したんだろうけど」
俺はそこまで推理する。
「ち、違う! お、俺達は南雲の特訓に付き合ってやってただけで………!」
「少なくともドルモンが止めに入るほど酷い状況だったって事だろう? 言い訳は見苦しいぞ」
「さ、さっきから南雲を俺達が痛めつけたって証拠でもあるのかよ!? そっちの魔物が出鱈目言ってるだけかもしれねえじゃねえか!!」
檜山の言葉に、
「檜山の言う通りだ! デジモンは危険な生物! その可能性は高い!」
天之河が言い切る。
「ドルモンはそんな嘘を吐くような奴じゃないし、俺はドルモンを信じている」
その天之河達に対して、そう言い切る事で返した。
「黒騎、君はクラスメイトである『仲間』の言葉より、デジモンなんかの言葉を信じるのか!?」
天之河がそう問いかけてくる。
「俺にとって、ドルモン以上に信じられる奴なんて居ねーよ!」
俺はキッパリと言ってやった。
「なっ!?」
天之河が驚愕した時、
「そこまでだお前達」
メルド団長が仲裁に入ってくる。
「この件は俺が預かる。お前達、詳しく話を聞かせてもらうぞ」
その言葉で、一先ずその場は収まったのだった。
話し合いの結果、一先ず監視付きを条件にドルモン達の滞在を許可された。
その翌日、実戦訓練の為に【オルクス大迷宮】に行くこととなった俺達は、宿場町であるホルアドに泊まることになった。
その夜、ハジメの元に白崎さんが尋ねてきたので、俺とドルモンは邪魔をしないように宿の敷地内にある中庭のベンチに座っていた。
すると、
「あれ? 大士君?」
後ろから声を掛けられた。
俺が振り向くと、そこにはリュウダモンを伴った葵さんが立っていた。
「葵さん? どうしてここに?」
「大士君達こそ」
俺が問いかけると逆に質問される。
「俺は白崎さんがハジメを訪ねてきたから邪魔したら悪いと思って」
「あ~、そう言うコト…………」
葵さんはそれだけで納得する。
因みに葵さんもハジメと白崎さんが付き合っていることを知る1人である。
「葵さん達は?」
「私は………ちょっと眠れなくて…………」
葵さんはそう言いながら俺の隣に座る。
因みに約1人分の隙間は空いている。
「緊張してる?」
「うん………まあね…………」
その言葉通り、葵さんの表情は少し硬い。
それも仕方ないだろう。
ただでさえ初めての実戦の上に、葵さんは俺やハジメと同じようにチートなステータスは持ってないのだ。
「大士君は…………怖くないの?」
「怖いよ」
その質問に俺は即答した。
「戦うのは怖い。殺されることも怖い。そして…………殺す事も怖い」
それはデジモン達との戦いで良く分かっている。
だけど、
「でも大丈夫さ。俺にはドルモンがいるからな」
俺は傍らのドルモンの頭を撫でながらそう言う。
「大士………」
ドルモンは呟きながら俺の手を気持ちよさそうに受け入れている。
「俺とドルモンなら、何があっても切り抜けられる」
俺は自信を持ってそう言う。
「うん! 俺達なら、どんな奴が相手でもきっと大丈夫!」
ドルモンも頷く。
葵さんはそんな俺達を笑みを浮かべて見ていた。
「そういえば………ちょっと気になってたことがあるんだけど………」
「ん?」
「ドルモンって、最初にウォーグレイモンのブレイブシールド使ってなかった?」
葵さんが不思議そうにそう聞いてきた。
「ああ…………そいつはこれを使ったんだよ」
俺はそう言いながらデジモンカードのオプションカードであるブレイブシールドを見せた。
「Dアークには、スラッシュしたカードの能力をパートナーデジモンに付与する機能があるんだ」
「えっ? そんな機能があったの!?」
葵さんは初めて知ったようで驚いている。
「因みにもう1つこんな機能もある」
俺はDアークを見ると、リュウダモンの情報を表示させる。
「リュウダモン 成長期 ワクチン種 獣型デジモン。必殺技は『居合刃』」
すると、葵さんが驚いた顔をして、
「そんな機能もあるんだ」
初めて知ったと言わんばかりにそう言った。
「ああ、このDアークにはパートナーが見たデジモンの情報を読み取るアナライズ機能があるんだ」
「へぇ~」
葵さんは自分のDアークを取り出すと、ドルモンのデータを表示させた。
「ドルモン 成長期 データ種 獣型デジモン。必殺技は『メタルキャノン』。ホントだ!」
嬉しそうにはしゃぐ葵さん。
すると、
「……………話聞いてくれてありがとね。ちょっと気が楽になったよ」
「そう? 役に立てたなら何よりだよ」
「うん。明日、頑張ろうね!」
「ああ」
その言葉に俺は頷く。
すると、葵さんは立ち上がり、
「じゃあ、お休み! 大士君、ドルモン」
「お休み、葵さん、リュウダモン」
そう言って葵さんは自分の部屋に戻っていった。
次の日、俺達は【オルクス大迷宮】の入り口に来ていた。
迷宮と言うからには、もっと危険そうな雰囲気を予想していたのだが、実際は逆に観光名所のような賑わいだった。
その理由として、魔物達から取れる魔石が挙げられる。
魔石は地球で言う電池や燃料のような扱いが出来るもので、資源であり消耗品だ。
それを目当てに冒険者達が集まり、その周りにもその冒険者達を狙った武器防具屋、道具屋、宿屋などが集まるのだ。
とは言え、内部に入ってしまえばそこは予想通りの張り詰めた空気が流れている。
まあ、低階層の弱い魔物はこちらのチート軍団の前には成す術も無かったが。
俺もドルモンと一緒に魔物と戦ったが、低階層ではカードスラッシュ所か指示すら必要無く、ドルモンの自己判断だけで圧倒していたので、俺は後ろで見ていただけだった。
そして、本日の訓練の目標である20階層に到達し、何度目かの戦闘を終えた後、俺は葵さんと一緒に隊の一番後ろを歩いていた。
理由は、ドルモンとリュウダモンは危険じゃないと説明はしたが、やはり人間は得体の知れないものには近付き難く、距離を取る生徒が多いために、そう言う生徒達に配慮しているのだ。
因みに、現時点でドルモン達と嫌忌なく付き合ってくれるのは、ハジメと、ハジメ繋がりでドルモンと交流をしてくれた白崎さん。
そしてその白崎さんの親友である八重樫さん位だ。
そのまま俺達が迷宮を進んでいると、
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
メルド団長が立ち止まってそう警告した。
すると、突き出していた両側の壁が動き出し、ゴリラ型の魔物となってドラミングをする。
どうやら擬態能力を持つ魔物の様だ。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
先頭にいる天之河達が戦闘を開始するようで、メルド団長の声が響く。
後ろにいる俺達からは、状況がよくわからないが、
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」
「あっ、こら、馬鹿者!」
天之河が爆音が響くほどの技を繰り出した様で、ビリビリと空気の振動が響く。
こんな大技使って、洞窟が崩落しなきゃいいけど。
俺がそう思った時、
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」
メルド団長の怒号が響く。
どうやら俺の懸念はメルド団長も同じだったようで、天之河をしかりつけていた。
遅れて俺達が部屋に入った時、
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
白崎さんが崩れた壁を指差しながら呟いた。
その壁には、綺麗な宝石の原石と思わしき鉱物が露出している。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
メルド団長がそう言う。
グランツ鉱石とは、思った通り宝石の原石みたいなもので、特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。
求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ3に入るとか。
「素敵……」
白崎さんが、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりしつつ、チラリとハジメに視線を向けたのに気付いた。
すると、
「だったら俺らで回収しようぜ!」
いきなり檜山が言い出した。
おそらく白崎さんがハジメに向けていた視線に気付いたんだろう。
壁をひょいひょいと昇っていく。
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
メルド団長が慌てながら叫ぶ。
あの馬鹿!
ここが迷宮だって事を忘れてんのか!
「ドルモ………!」
俺は多少荒っぽいが、ドルモンに檜山を撃ち落として貰おうと指示しようとした瞬間、
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
トラップを見破るフェアスコープで鉱石の辺りを確認していた騎士が叫んだ。
その声に気を取られ、指示のタイミングを逃してしまう俺。
そして檜山の手がグランツ鉱石に触れた瞬間、その鉱石を中心に魔法陣が広がる。
「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」
メルド団長がそう叫ぶが、全員が行動に移す前に、光が部屋中を包み込んでいった。
その直後、浮遊感が身体を包み込み、そのすぐ後に空中に放り出された。
「よっと」
何が起きてもいい様に心構えはしていたので、俺は転倒することなく着地できた。
だが、他の皆は転んでいるのが殆どだ。
メルド団長を始めとした騎士達は、すぐに起き上がって辺りを警戒する。
天之河達一部生徒も起き上がって警戒を始めた。
先程のトラップは転移系だったようで、今俺達がいる場所は巨大な石橋の上。
生徒達は突然別の場所に飛ばされた事もあり、困惑もしくは混乱している。
俺はデジタルワールドで光の柱に巻き込まれて違う場所に飛ばされた経験があるので、混乱する程取り乱したりはしない。
橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
その橋の中央に俺達は転移させられたらしい。
すると、
「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」
メルド団長が叫ぶと、生徒達がわたわたと動き出した。
だがその時、階段側の橋の入り口に魔法陣が現れて、大量の骸骨の魔物が現れたからだ。
更に、奥へ続く入り口の前にも巨大な魔法陣が発生し、そこからは巨大な1体の魔物が現れた。
その黒い魔獣をメルド団長は呆然と見つめ、
「まさか…………ベヒモス………なのか…………?」
そう呟いた。
その瞬間、
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
ベヒモスと呼んだ魔物の咆哮によってメルド団長は我に返り、
「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
鬼気迫るメルド団長の怒号に天之河は一瞬怯むが、
「見捨ててなど行けません!」
天之河は食い下がった。
だが俺は、
「大士!」
ドルモンが俺に如何するか求めるように声を掛けてくる。
「ドルモン! まずは退路の確保だ! あの骸骨達を蹴散らせ!」
「分かった! メタルキャノン!!」
俺の指示に従い、骸骨に向かって鉄球を放つ。
鉄球が直撃した骸骨はバラバラに砕け散った。
「骸骨の強さは成長期でも倒せるぐらい………だが、数が多いか………!」
骸骨達を蹴散らすドルモン。
その時、後ろから別の骸骨が斬りかかろうと、
「ドルモン! 後ろに注意しろ!」
「ッ!」
俺の警告にドルモンが迎撃しようとした時、
「居合刃!!」
それよりも早く飛んできた刃に骸骨が切り裂かれる。
「リュウダモン!」
「某も戦うぞ!」
「ッ! うん! 一緒に戦おう!」
リュウダモンの言葉に嬉しそうに頷くドルモン。
「大士君!」
「葵さん!?」
葵さんが俺の隣に駆け寄ってくる。
「私とリュウダモンも戦うよ!」
「葵さん………ああ!」
葵さんの決意に俺は頷いた。
「ドルモン!」
「リュウダモン!」
俺達の声に応えるようにドルモンとリュウダモンは骸骨達を蹴散らし続ける。
そんなとき、
「皆落ち着け! 奴らは38階層の魔物、『トラウムソルジャー』! 皆で力を合わせれば望みはある! メルド団長が後ろを守っているうちに早く!」
騎士であるアランが生徒達を奮い立たせようと声を掛ける。
後方では、足止めに残った騎士達が結界を張ってベヒモスの突進を受け止めている。
だが、長くは持ちそうにない。
そして、こんな命の懸かった修羅場に遭遇したことの無い殆どの生徒達は混乱の渦に居た。
所謂パニック状態だ。
その時、生徒の1人に突き飛ばされた女子生徒が転倒し、骸骨もとい、トラウムソルジャーの前に無防備な姿を晒してしまった。
トラウムソルジャーはその女子生徒に向かって剣を振り上げる。
「ドルモン!!」
即座に俺はドルモンに呼びかけた。
振り返ったドルモンがそれに気付くと、
「メタルキャノン!!」
鉄球を放って女子生徒に剣を振り下ろそうとしたトラウムソルジャーを粉々にした。
俺はすぐにその女子生徒に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
俺はその女子生徒に手を差し出した。
「立てるか?」
「う、うん………ありがとう………」
その女子生徒は園部さんだった。
呆然とする園部さんは俺の手を取って立ち上がる。
「大丈夫だ。あの骸骨達はドルモン達でも十分に戦えている。なら、チート持ちの園部さん達なら問題無いよ。敵をよく見るんだ。怖がらなければ余裕で倒せるさ」
俺はそう声を掛けて背中を軽く叩く。
俺の顔をマジマジと見ていた園部さんは、
「うん! わかった!」
元気に返事をして駆け出していった。
それを見届けると、
「さて、どうするか………」
俺は戦況を見る。
パニックに陥っている生徒達は、滅茶苦茶に武器や魔法を振りかざしている。
チートスペックによって、それでもそれなりには戦えているが、長くは持たないだろう。
死傷者が出るのも時間の問題だ。
俺や葵さんを除いては、混乱して無いと言えるのは唯一ハジメ位だ。
ハジメは錬成によって床を操作し、トラウムソルジャーの体勢を崩して味方を援護している。
ハジメの働きが無ければ、今頃何人か死傷者が出ていたかもしれない。
「大士君、随分と落ち着いてるね?」
葵さんがそう声を掛けてきた。
まあ、俺が余裕なのには理由がある。
「正直に言えば、自分だけでこの場を乗り切るのは簡単なんだよなぁ………」
俺はそう言う。
「えっ!?」
葵さんは驚いた声を上げる。
「ドルモンを『進化』させれば、あの骸骨達も後ろのベヒモスとやらも簡単に倒せるぞ」
「じゃ、じゃあ早く進化を………!」
葵さんはそう言って急かそうとしてくるが、
「ちょっと落ち着けって! 単純に考えてくれ。こんなパニック状態の中で、敵味方はともかく、いきなり怪物が目の前に現れたらどうなると思う?」
「………あっ! そ、そっか………今以上に大混乱になっちゃう………」
葵さんもそのことに気付き、気付かなかった自分を恥じるように声が萎んでいく。
「ああ。下手をすれば、橋から落ちる生徒も出かねない」
流石にそれは後味が悪い。
「じゃあ、どうすれば………」
「俺が注意を呼びかけたとしても、誰も聞かないだろうしな」
俺がそう言うと、
「天之河君!!」
突如としてハジメが叫んだ。
「天之河君なら、皆を纏めるカリスマも、道を切り開く突破力も持ってる!」
その言葉に俺も気付いた。
確かにクラスのリーダーともいえる天之河なら、混乱する生徒達を纏め、生き残る希望を見出させることが出来る可能性が高い。
「ナイスアイディア! ちょっくら行ってくる! ハジメと葵さんは皆の援護を続けているんだ! 来い! ドルモン!!」
ハジメの案を即行で可決すると、俺はドルモンを呼んで、未だメルド団長の近くで撤退しようとしない天之河達の所へ駆けだした。
ベヒモスを止めていた障壁は罅だらけで今にも砕けそうだ。
多分、あと数回も持たないだろう。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
八重樫さんは現実をしっかりと見ているようで撤退を促す。
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
しかし、坂上の言葉に更にやる気を見せる天之河。
八重樫さんが舌打ちしたのが分かった。
「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
「雫ちゃん……」
オロオロしている白崎さん。
「八重樫さんの言う通りだ!」
そこに俺は駆け込んで叫ぶ。
「なっ!? 黒騎!?」
「黒騎君!?」
俺が来たことに驚く一同。
「お前はさっさと下がって皆を纏めて撤退しろ!」
俺は天之河にそう言う。
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて黒騎は…………」
それでも尚、全て自分の思い通りに行く主人公の様な言い草の天之河に、俺は我慢できなくなった。
「いい加減にしろ!!」
「「「「ッ!?」」」」
俺の怒声に天之河だけじゃなく坂上や白崎さん、八重樫さんも目を見開く。
「実戦のじの字も知らなかったド素人が口を挟むな!!」
「ド、ド素人………そ、それは皆も一緒だろ!?」
「少なくとも、ヒーロー気取りのガキンチョよりは知ってるし、経験もしてる!!」
「ど、如何いう意味………」
「いい加減黙れ! そしてちゃんと後ろを見ろ!!」
俺は後方の生徒達を指差す。
多くの生徒達はパニック状態が続いており、訓練時の実力の半分も出せていない。
「勇者の役目は敵を倒す事だけか!? 敵を倒すためなら『仲間』が犠牲になってもいいのか!?」
俺のその言葉に、天之河がハッとする。
「認めたくないけど、お前はクラスのリーダーなんだよ! 皆はお前を心の支えにしてるんだ! お前の声なら皆にも届く! 皆に希望を与えられるのはお前だけなんだ!!」
ぶっちゃけこいつが好きそうな言葉を並べてるだけだがな。
天之河は気付かなかった自分を恥じるように気を取り直した。
チョロイな。
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」
「下がれぇーー!」
漸く天之河が撤退を受け入れようとした時、遂に障壁が砕け散った。
が、それを見越していた俺は即座にカードをスラッシュした。
「カードスラッシュ! ブレイブシールド!!」
先日と同じく黄金の盾が具現化され、襲い来る衝撃波から身を護る。
だが、他の皆は衝撃波で吹っ飛ばされたようだ。
間近に居た騎士達は重傷の様だ。
「やれやれ」
俺は溜息を吐きながら咆哮を上げるベヒモスを見上げる。
「ドルモン!」
「うん! メタルキャノン!!」
ドルモンが鉄球を放つが、ガンッとベヒモスの角に弾かれる。
「ドルモン! 少し時間を稼いでくれ!」
「任せて!」
ドルモンは距離を取りながらメタルキャノンで牽制してベヒモスの気を引く。
その間に、
「おいお前ら! 騎士の人達を回復させてさっさと下がれ!」
天之河や白崎さんに向かってそう言う。
白崎さんはすぐに負傷した騎士達の治療に入るが、
「な、何を言ってるんだ!?」
やはり天之河がそう言ってくる。
「お前の役目は皆を護ることだ。さっさと行け!」
俺は皆の方を指差す。
「……………お前………死ぬ気か………!?」
天之河が神妙な顔でそう聞いてくる。
なので、
「いや全く?」
俺はあっけらかんと言い返した。
その言葉に、天之河は呆気に取られた顔をする。
「この位の敵なら俺とドルモンで十分だって言ってるんだ」
俺はベヒモスの強さを大まかに判断してそう言った。
「だ、だが…………」
「迷ってる暇はない! 全員を助けたいならさっさと行け!」
俺がそう言うと、
「くっ………す、すまない!」
天之河が悔しそうに謝って皆の所へ向かう。
どうやら俺の言葉を単なる強がりと受け取ったようだが。
「大士………!」
騎士の中でダメージの少なかったメルド団長が近付いてくる。
「メルド団長達も早く行ってください」
「本当に大丈夫なのか?」
ドルモンの様子をチラリと見て、心配そうにそう言う。
「言ったはずですよ。俺とドルモンで十分だと。まあ、仮に失敗しても、王国からしてみれば、使えないと判断していた『駒』が消えるだけです。王国にとって何の痛手も無いでしょう?」
「ッ………! お前………」
「さあ、早く行ってください」
俺がそう言ってメルド団長の横を通り過ぎようとした時、肩を掴まれた。
「………何ですか?」
「すまないが、ここはお前に任せるしか方法が無い。だが、お前が使えない『駒』だからこの場を任せるんじゃない。お前の言葉を信じて任せる…………頼んだぞ」
メルド団長の言葉に俺は小さく笑みを浮かべ、
「任せてください」
そう言ってベヒモスに向かって歩き出した。
メルド団長も皆の所へ向かって駆けて行く。
その時、
「――〝天翔閃〟!」
皆の所に到着した天之河の一撃がトラウムソルジャーの群れを吹き飛ばす。
「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
その声に生徒達のパニックが見る見るうちに収まっていくのが分かる。
更に、
「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」
頼れるメルド団長の声により、沈んでいた気持ちが活気付く。
それを感じ取った俺は、あっちは大丈夫だと判断して、ベヒモスに向き直った。
「待たせたな! ドルモン!」
「大士!」
成長期のままベヒモスの相手をしていたドルモンは、嬉しそうにこちらを振り向く。
その身体はあちこちに傷がある。
流石にこれほどの魔物の相手はキツかった様だ。
「さあ、今までの借り、存分に返してやろうぜ!」
「おう!」
俺は1枚のカードを取り出し、そのカードをDアークにスラッシュし始める。
「カードスラッシュ!」
Dアークがカードのデータを読み込み、それをドルモンへと転送する。
そのカードは、
「超進化プラグインS!!」
ドルモンを成熟期へと進化させるキーカード。
――EVOLUTION
俺のDアークにその文字が表示され、光を放つ。
その光が輝くとともに、ドルモンが光に包まれた。
「ドルモン進化!」
光の中でドルモンのデータが分解され、新たに再構築される。
体毛の色は、紫から藍色へ。
背中にあった小さな羽は飛行可能なほど発達し、巨大化。
獣の凶暴性と竜の知性を併せ持った成熟期の獣竜型デジモン。
「ドルガモン!!」
光の中からドルガモンが姿を現す。
後方で生徒達がざわつくのが聞こえた。
ただ、遠目に見ている分、混乱は少なそうだ。
俺はベヒモスに手を翳し、
「行け! ドルガモン!!」
「おおっ!」
俺の指示でドルガモンが突進する。
「グガァアアアアアアアアアアッ!!」
ベヒモスも角を赤熱化させて突進し、橋の中央で激突した。
衝突の衝撃が響き渡り、石橋が軋む。
ドルガモンの足元には衝撃で罅が入っていた。
「力は互角か………!」
俺はそう判断する。
「ドルガモン! 押し返しながら距離を取れ!」
「むんっ!」
ドルガモンは指示通りに押し返しつつ後退し、ベヒモスとの間に僅かに間合いが空く。
「グガァァァァッ!!」
ベヒモスは再度突進しようとして、
「ドルガモン! テイルアタック!!」
俺の指示にドルガモンが身体を反転。
強烈な尾撃を撃ち込む。
それによって吹き飛ばされるベヒモス。
その隙に俺はカードをスラッシュする。
「カードスラッシュ! トールハンマー!!」
ドルガモンの手に、巨大なハンマーが現れる。
「はぁあああああああああっ!!」
ドルガモンはそれを振り被って、ベヒモスに殴りかかった。
その一撃はベヒモスの頭部に直撃し、片方の角が圧し折れて回転しながら床に刺さった。
「グ、グガァアアアアアアアアアアッ!!」
ベヒモスは怯むが、咆哮を上げると再び角を赤熱化させる。
だが、突進が来る前にドルガモンは下がって距離を取ると、
「パワーメタル!!」
巨大な鉄球を口から放つ。
「ガァァァァッ!?」
その一撃はベヒモスの側頭部に命中し、大きく仰け反らせると共に、もう片方の角を圧し折った。
「ガ………ガァッ………!」
ベヒモスはそれでも立ち上がるが、ダメージは大きい様でその足はフラついている。
だが、
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ベヒモスは今までで一番の咆哮を上げると、最後の力と言わんばかりに突進して来て大きく飛び上がった。
ドルガモンは身構えたが、そこで思い掛けないことが起こった。
「なっ!?」
狙ったとは思えないが、ベヒモスの飛び掛かりはドルガモンまで届かず、ドルガモンの手前の橋の床に激突する。
その瞬間、凄まじい揺れと共に、石橋に罅が広がり、石橋が崩落を始めた。
「うわっ!?」
激しい揺れでその場に留まることが精一杯だった俺は動けない。
見る見るうちに橋の崩落がドルガモンを巻き込み、その直後に俺も巻き込み、俺の身体は真っ暗な奈落に向かって放り出されたのだった。
【Side 葵】
大士君が天之河君を呼びに行ってから暫く。
南雲君の錬成による援護や、大士君に助けられてから立ち直った優花の活躍もあって、何とか脱落者は出ずに済んでいる。
だけど、それもそう長くは続かない。
もう皆、精神的に限界が来てる。
何処か1つでも崩れたら、そのまま一気に崩れる可能性もある。
私がそう思っていた時、
「――〝天翔閃〟!」
光の斬撃ががトラウムソルジャーの群れを吹き飛ばした。
一瞬だけど、出口へ続く階段が見えた。
「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
天之河君の声が響く。
そのカリスマのある姿に、パニックに陥っていた皆が見る見る正気を取り戻していくのが分かる。
更に、
「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」
メルド団長の声が響き、同じようにトラウムソルジャーの群れを吹き飛ばす。
頼れる存在が2人も戻って来たとあって、生徒達は生きる希望を取り戻し、活気が湧いてくる。
その時だった。
私達の後方、ベヒモスのいる方で光が発生した。
私や他の皆が思わず振り返る。
その視線の先で、
「ドルモン進化!」
光に包まれたドルモンが大きく姿を変える。
「ドルガモン!!」
巨大な姿になったドルモンに、皆がざわつく。
驚いてはいる様だけど、距離が離れていて、更にベヒモスの方を向いているので、動揺は少なかった。
私は昨日教えられたアナライズ機能で進化したドルモンの情報を見る。
「ドルガモン 成熟期 データ種 獣竜型デジモン。必殺技は、大型の鉄球を口から放つ『パワーメタル』……………これがドルモンの『進化』…………!」
皆は驚きつつも、トラウムソルジャーと戦い続けている。
天之河君とメルド団長が加わり、どんどん出口である階段に近付いている。
「行けるぞ! もう少しだ!」
天之河君の声に、皆の勢いが増す。
そしてついに、トラウムソルジャーの群れを突破して階段に辿り着いた。
私はそこで振り返る。
そこで見たのは、ドルガモンが放った鉄球がベヒモスの角を圧し折った瞬間だった。
「あ、あのベヒモスを圧倒している………?」
メルド団長は驚愕の声を漏らしている。
「大士君………!」
大士君の無事を祈る。
「グガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
その時、ベヒモスが一番大きな咆哮を上げると、ドルガモンに向かって飛び掛かった。
だけど、その一撃はドルガモンまで届かず、その足元の橋に直撃した。
石橋の耐久値が限界を超え、崩落を始める。
「大士君!?」
「いかん!」
私とリュウダモンは思わず叫んだ。
「大士!!」
南雲君も叫ぶ。
だけど、私達の叫びも空しく大士はドルガモンと共に奈落の暗闇へと放り出された。
「大士君っ!!」
「大士!」
私と南雲君は思わず駆け出し、崩落した橋の手前から崖の下を覗き込もうとした。
だけどその瞬間、何か巨大なものが目の前を遮って上昇してきた。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
私達は驚いて思わず尻餅をついてしまう。
「ああ、悪い悪い」
だけど、その声に私はハッとして上を見上げた。
そこには、バサッバサッ、と大きな翼を羽搏かせながら宙に浮くドルガモンと、その背中から私達を見下ろす大士君の姿があった。
「大士君ッ!」
私は思わず笑みを浮かべて大士君の名を呼ぶ。
「ッ…………!」
すると、大士君はまるで驚いたように顔を逸らしてしまった。
「やっべ………今の笑顔は不意打ちだろ………」
何か言ったみたいだけど、ドルガモンの羽音にかき消されて聞こえなかった。
すると、ドルガモンがゆっくりと降りて来て、私達の目の前に着地する。
他の皆はまだ警戒してるみたいで近付いてこない。
大士君はドルガモンの背中から降りてくる。
「大丈夫だったか?」
大士君はそう聞いてくる。
「うん。大士君こそ大丈夫だった?」
「当然だろ? 言ったじゃないか、あの程度は簡単に倒せるって」
「それはそうだけど、それでも心配したんだよ?」
「はは、心配してくれたのか。ありがとな」
大士君は笑ってそう言った。
そう言うと、
「大士、これってもしかして、ドルモンが『進化』したの?」
南雲君がドルガモンを見上げながらそう質問する。
「ああ。ドルモンが成熟期に進化したドルガモンだ」
大士君は自慢げにそう言う。
「へぇ~」
南雲君はヒーローに憧れる子供の様に目をキラキラさせていた。
すると、
「お前達! 和むのは後だ! すぐに脱出する!」
メルド団長が皆に呼びかける。
生徒達が階段を登り始めると、ドルガモンが光に包まれて縮み始め、ドルモンに戻った。
「あ、やっぱり元に戻れるんだ」
南雲君がやっぱりと言ったように納得する。
「まあな。元に戻れなきゃ、6年前は怪獣騒ぎで街は大混乱だ」
大士君が半分笑ってそう言った。
私達も皆に続いて階段を登り、無事にみんな揃って生還できたのだった。
【Side Out】
何とか全員生還できた俺達だったが、死の恐怖を間近で感じた生徒達にこれ以上の実地訓練は不可能と判断し、メルド団長は一旦王都へ戻る事を決めた。
来る時と同じく、丸1日馬車に揺られて王都へと帰還した。
王都に残っていた愛子先生は、トラップに掛かったと聞いて顔を青くしたが、全員無事という事を聞いて胸をなでおろしていた。
その夜、落ちてしまった士気を上げることを目的に、晩餐会が開かれた。
勇者である天之河や、主だった生徒達は主賓として大いに楽しんでいるのだが、俺はドルモンが奇異の目で見られるので、同じ悩みのリュウダモンのパートナーである葵さんと、後は『無能』と罵られてハブられているハジメと一緒に、会場の隅の方で静かに食事をしていた。
すると暫くして、
「黒騎 大士さん、神代 葵さん、南雲 ハジメさん。楽しんでおられますか?」
煌びやかなドレスを着た金髪碧眼の少女が俺達に歩み寄り、声を掛けてきた。
「………誰?」
ドルモンが声を漏らし、リュウダモンも首を傾げている。
「この国の王女サマだよ」
俺は投げやりに答える。
「で? この国の王女サマが、『無能』の集まりである俺達に何か御用で?」
王国にあまりいい感情を持っていない俺は皮肉をきかせながら問いかける。
「いえ………迷宮で危機に陥った際、大士さんのお陰で危機を脱したと…………聞けば、世界最強の冒険者でも手も足も出なかったベヒモスを討伐なされたとか………」
俺の答えに少し狼狽えながらも、王女サマはそう言う。
「ふ~ん。使えないと思っていた『駒』が予想外に使えると分かって、慌ててご機嫌取りに来たって所か?」
「ッ………!」
俺の言葉に王女サマは絶句する。
その時、
「黒騎! お前、リリィに何て事を言うんだ!? リリィは誰にでも分け隔てなく接する良い娘じゃないか!」
俺達の話を聞いていたのか、横から天之河が口を出してくる。
「分け隔てなく………ね………ハッ」
俺はその言葉を鼻で笑う。
「何がおかしい!?」
天之河が怒鳴るが俺は無視し、葵さんとハジメに向き直り、
「葵さんとハジメに質問だが、今日までに王女サマと話したことは何回ある? ああ、天之河や白崎さん達勇者パーティーと一緒に居た時を除いて………だ」
そう質問する。
「えっと…………偶然会って話したことが1回あるぐらいかなぁ……………」
「僕は最初の顔合わせを除いたら一度も無いね」
「俺も同じくだ………で」
俺はそこで一旦言葉を区切ると、丁度通りかかった園部さんに声を掛けた。
「園部さん!」
「へっ? あ、く、黒騎!? な、何か用?」
園部さんはいきなり声を掛けられて驚いたのか、戸惑いながら返事をした。
「ようって程でも無いけど、ちょっと聞きたいことがあって。園部さんは今日までにこの王女サマとどの位の頻度で会っていた?」
「えっ? リリアーナ王女と………? 大体2、3日に一度ぐらいじゃなかったかしら?」
「そう。ありがとう」
園部さんにお礼を言うと、天之河に向き直る。
「で、最後に天之河だが、お前は今日までどの位の頻度で王女サマと会ってるんだ?」
「ほ、ほぼ毎日だ! だが、それが如何した!?」
天之河がそう聞いてくる。
「分からないのか?」
俺は呆れた様に呟く。
「王女サマが会いに行く頻度イコール、この国の期待値と言っていい。つまり勇者であるお前には期待しているからほぼ毎日。戦闘職でそれなりに使えると判断した園部さんにも好感を持ってもらう程度に会いに行って、『無能』と言われて期待値ゼロの俺達には会いに行く必要が無いと判断されてるって事だよ。分け隔てなく所か、思いっきり差別してるじゃねーか」
俺は自分の判断を口にする。
「ッ……………」
王女サマはショックを受けた様な表情になる。
「ま、王女サマが誰に会いに行くかを決めているのは『国』のお偉いさんたちだと思うが、その結論から行くと、この『国』は俺達を戦争で使う『駒』としか見ていない。真偽は如何あれ、俺はそうとしか思って無いからな」
「ッ!」
王女サマは耐えきれなくなったのか、涙を浮かべながら口元を抑えて走り去る。
「リリィ!?」
天之河は王女サマを追っていった。
「……………軽蔑したか?」
俺は葵さんとハジメに向き直りながらそう聞く。
「ううん。僕も大士の言ってることは正しいと思う。少なくとも、状況がそう言ってる」
「私も、リリアーナ王女には可哀想だと思うけど、この『国』が私達を『駒』として見ているのは、否定できないかな………って」
「そうか………」
この2人はどうやら現実を見ている様だ。
「……………………」
そんな俺達を、園部さんはじっと見ていた。
「ん? 園部さん、どうかしたのか?」
気になった俺が声を掛けると、
「あ! えっと………その…………」
園部さんは少し言い辛そうにしていたが、意を決したように、
「そ、その………黒騎!」
「何だ?」
名前を呼ばれたので聞き返すと、
「あ、あの………ありがとね!」
「何がだ?」
突然お礼を言われた俺は何の事だと首を傾げる。
「黒騎のお陰で私達は生きて帰れた。それに、トラウムソルジャーに私が殺されかけた時も、助けてくれたから…………」
「ああ、あの時か………」
その事を思い出した俺は納得した。
「あれは、俺は指示を出しただけで、実際に助けたのはドルモンだからな。お礼はドルモンに言ってくれ」
俺がそう言うと、
「うん、もちろんよ。その……ドルモンだっけ? 迷宮で助けてくれてありがとね」
「どういたしまして! 無事でよかったよ!」
ドルモンは笑ってそう言う。
「……………うん」
その言葉に園部さんも笑みを浮かべた。
その翌日。
愛子先生を含めた生徒達は一室に集まり、話し合いが行われていた。
その題材は、皆を危機に陥れた檜山に対する処罰…………では無く、
「やはりデジモンは危険な存在だ! すぐに排除するべきだ!!」
という天之河のデジモン排除運動だった。
どうやら進化したドルガモンを見て、脅威度が増したらしい。
すると、
「僕は反対だ。大士とドルモンは貴重な戦力。わざわざそれを排除するのは馬鹿げてる」
ハジメがそう言う。
『戦力』呼びはちょっと気になるが、皆を説得するにはそう表現するのが分かり易いからだろう。
「私も南雲と同意見よ。皆、よく考えて。トラップに掛かった時、黒騎とドルモンが居たからこうやってみんな無事に帰って来れたのよ。もしドルモンがいなかったら、とても無事に帰れたとは思えない。少なくとも、誰かが犠牲になってた筈よ」
そう言ったのは意外にも園部さんだ。
すると、
「味方の内はまだいい。だけど、デジモンが黒騎の命令を聞かなくなる可能性もゼロじゃない」
俺は一度も命令したことは無いつもりだけどな。
指示が乱暴になることはあるけど。
第一、パートナーデジモンは基本的にパートナーとの絆が無いと進化出来ない。
それ以外では、多くのデジモンを殺し、そのデータをロードして、長い時間を掛けながら進化するしかないのだ。
もしくは四聖獣の様な高位のデジモンに力を与えてもらうか、クルモンの力を借りるかだな。
だが、それを知らない生徒達は天之河の言葉に不安を募らせていく。
天之河は無駄にカリスマがある分、根拠の無い言葉でも大衆を動かす力がある。
こうなると、言葉ではデジモン排斥の流れは止められないだろう。
元々デジモンに奇異の目が向けられて避けられていたんだ。
そこに天之河が流れを作ってしまえば、こうなるのも必然だろう。
俺は深く溜息を吐いた。
「……………………お前達の言い分は分かった。如何足搔こうともデジモンは………ドルモンは危険だと言い張るんだな?」
「その通りだ! 俺は勇者として皆を護る義務がある!」
「義務ねぇ………」
俺には屁理屈を並べているようにしか思えないが。
まあ、こうなっては仕方がない。
「分かった。それなら、俺はここからは別行動を取らせてもらう」
その言葉にその場がシンと静まり返った。
「……………な、何を言っているんだ? 黒騎………」
天之河が呆然と呟く。
「言ったまんまの意味だ。お前達がドルモンを受け入れられないというのなら、俺はドルモンと一緒にここを出て行く」
「何を言っているんだ!? 俺はただ、そのデジモンを諦めて処分しろと言っているだけで、君に出てけなんて一言も…………」
「お前…………俺がドルモンの事をペットや家畜程度の感覚で見ていると思っているのなら大間違いだ。俺にとってドルモンは何ものにも代えられない無二の親友であり相棒………半身と言い換えてもいい。俺はドルモンと離れ離れになるのは嫌だからな。殺すなんて論外だ。だから、お前らがドルモンと一緒に居られないというのなら、残る選択肢はここを出て行くという事しか無いんだよ。第一、俺は元々この戦争に参加するのは反対だったからな」
「なっ!? 君はこの世界の人達がどうなってもいいというのか!?」
「ああ」
天之河の言葉に俺は頷く。
「そもそも召喚されなければこのトータスの存在そのものを知らなかったんだ。そんな所に呼び出されて、人間が負けそうなので、神様があなた達を召喚しました。命懸けの戦争に参加して敵軍の兵士を一杯殺してください。何て言われて素直に頷けるか! ついでに言えば、使えないと判断されれば扱いが雑だぞ。協力する気も無くすわ」
「な、ならば何故今まで黙ってついてきたんだ!?」
「そんなの生き残るために決まってるだろ?」
俺はさも当然とそう言う。
「あそこで断れば、最悪ほっぽり出される可能性が高かった。こんな剣と魔法と魔物が跋扈する異世界で、着の身着のまま放り出されて生きていけるとは思えなかったからな。とりあえずは言う通りにした方が生き残る可能性は高いと踏んだだけだ」
「そ、それは今も変わらないじゃないか!」
「全然違うね。あの時の俺には何の力も無かった。だけど、今はドルモンがいる。ドルモンは、戦闘の面ではもちろん、精神面でも俺の大きな支えになってくれる。ドルモンがいるなら俺はこの世界でも生きていけると判断しただけだ」
「ッ…………!」
「大士君が出て行くなら、私もついてくよ」
葵さんが手を上げながらそう発言した。
「神代さん!?」
天之河が驚愕の声を上げる。
「デジモンを排斥するって事は、リュウダモンも一緒でしょ? だったら私も出て行くことを選ぶよ」
葵さんの言葉に天之河は絶句している。
「そう言う訳だからよろしくね」
葵さんは俺に笑みを向けてそう言ってくる。
「絶対に護れる保証は無いぞ」
一応危険を仄めかしてみるが、
「その辺りは覚悟してるよ。でも、護ってくれるんでしょ?」
「………まあ、全力は尽くす」
俺がそう言うと、
「神代さん! そんな護ると断言できない奴についていくのは危険だ。デジモンの事は諦めてここに残るんだ! 俺なら『絶対』に護ってみせるから!!」
天之河が葵さんを説得しようとする。
すると、また1つ手が挙がった。
それはハジメだ。
「ねえ大士。1つ聞きたいんだけど…………」
「何だ?」
ハジメの言葉にそう返すと、
「大士のドルモンは、何処まで『進化』出来るの?」
「……………………………『究極体』」
その質問と答えの意味を理解できるのはほんの僅かだろう。
「そっか…………!」
ハジメはそれを聞くと笑みを浮かべ、
「それじゃあ、僕も大士について行かせて貰うよ」
そう言った。
「南雲まで!?」
天之河が再び声を上げる。
「何故だ南雲! 何故君まで!!」
「その理由は簡単だよ。天之河君、君について行くより、大士やドルモンと一緒に居た方が生き残れる確率が高いと思っただけだよ」
ハジメは静かにそう答える。
「なっ!?」
天之河は一瞬絶句するが、
「そんな事は無い! 俺は皆を護る! 必ず!!」
その言葉にハジメは首を横に振ると、
「天之河君。君の言葉には根拠が何もないんだ。それじゃあ何も安心できないよ」
そう言葉を零す。
「そ、それは黒騎も一緒じゃないか!」
「少なくとも、大士は真正面からぶつかる戦いでは負けないと自信を持ってるよ。ただ、多分だけど、暗殺や奇襲と言った不意打ちに対処できる根拠が無い。だから『絶対に護れる保証が無い』って言ったんだ」
「な、何故負けないと言い切れる?」
天之河の問いかけに俺は口を開いた。
「メルド団長が言っていただろう。あのベヒモスは世界最強の冒険者パーティーでも歯が立たなかったと。つまり、あのベヒモスは現状確認されている魔物の中では最強、もしくは最強クラスの力を持っていると言える。俺とドルモンはそのベヒモスを倒したんだぞ。なら、真正面からの戦いに限っては、まず負けないと言い切れるだろ」
「ッ…………!」
その時、
「ハ、ハジメ君がついて行くなら私も行くよ!」
白崎さんが立ち上がりながら叫び、
「黒騎! 私も連れてって!」
ほぼ同時に園部さんが立ち上がりながらそう言った。
「香織!? 園部さんまで!?」
天之河が驚愕する。
白崎さんはハジメがいるからまだ分かるとして、何で園部さんまで?
「香織、いくら君が優しくて南雲や黒騎達をほっとけないと言っても、ついて行くのはやり過ぎだ」
天之河は白崎さんがついて行くと言った意味を全く理解せずにそう言う。
「光輝君! 私はハジメ君について行きたいから一緒に行くの!」
白崎さんが尚もそう言うが、
「え? ああ。『無能』と言われている彼を心配してるんだね? やっぱり香織はやさしいな」
やっぱり天之河は分かってなかった。
すると、白崎さんの表情が見る見る不機嫌になっていき、バンッと机を叩くと、
「私とハジメ君は恋人同士なんだよ!? 好きな人と一緒に居たいからついて行くだけだよ!!」
耐えきれなくなったのか、今まで秘密にしていたことを盛大にぶちまけた。
再び静まり返る一同。
「香織さん………ここで言っちゃうの………?」
ハジメはこの後の苦労を予想して脱力する。
その瞬間、
「「「「「「「「「「ええっ!?!?」」」」」」」」」」
クラスメイトの殆どが驚愕の声を上げた。
驚いて無いのは、ハジメを白崎さんを除くと、俺と葵さんと八重樫さんだけだ。
葵さんは苦笑し、八重樫さんは溜息を吐く。
「ちょ、ちょっと待つんだ香織………? え? 恋人同士……? 誰と誰が?」
現実を受け入れられないのか天之河が狼狽えながら白崎さんに問いかける。
「私とハジメ君が! だよ」
わざわざ強調しながら言う白崎さん。
「えっ…………? 香織と………南雲が…………恋人?」
「そうだよ!」
白崎さんは断言する。
「う、嘘だ!」
「嘘じゃないよ!」
認められない天之河の言葉を即答で否定する白崎さん。
「し、雫………! 雫からも何か言って………」
天之河は八重樫さんに救いを求めたが、八重樫さんは呆れた様に目を伏せ、
「光輝、香織の言ってることは本当よ」
そう静かに呟く。
「な、何でそんなに落ち着いているんだ………!?」
特に取り乱していない八重樫さんを不思議に思ったのかそう問いかける。
すると、
「だって、私は前から知ってたもの」
その事実を口にする。
「ど、如何して教えてくれなかったんだ…………!?」
「教えてたら如何してたの?」
「そ、それはもちろん…………」
「祝福できた?」
「ッ……………!」
言葉に詰まる天之河。
こいつの事だから、ハジメは白崎さんに相応しくないとか言っていちゃもん付けそうだな。
「光輝が如何思っていようと私は香織を祝福するし、南雲君について行きたいというのなら止めるつもりはないわ」
「なっ………!?」
驚く天之河を他所に、八重樫さんは俺に顔を向けると、
「黒騎君? ちゃんと香織の事も護ってくれるのよね?」
「さっきも言ったが絶対とは言えない。全力は尽くすがここは危険が当たり前の異世界だ。何処にどんな危険が潜んでいるかもわからないから、無責任に絶対大丈夫なんて確約は出来ない」
「それで十分よ。香織もそのぐらいは覚悟の上だろうし」
「まあ、白崎さんは友達のハジメの彼女だからな。可能な限り見捨てるつもりはないさ」
八重樫さんはそれを聞くと安心したように頷いた。
俺はそこで、
「そう言えば、園部さんは何で付いて来ると言ったんだ?」
俺はもう1人付いて来ると言った園部さんに視線を向けた。
「私の理由は南雲と一緒よ。このままここに居るより、黒騎達と一緒に居た方が安全だと思った。それだけよ」
「園部さん!? 何言ってるんだ!? 黒騎の傍にはデジモンが………!!」
「私は………! 私には、あなたが言うほどドルモンやリュウダモンが危険な存在だとは思えない………!」
園部さんは天之河に真っ向から反論した。
「少しドルモンと話してみて分かったわ。デジモンだって感情がある。ただ無差別に暴れまわる魔物とは違うわ」
「だ、だがデジモンの所為で6年前は世界中が危険に晒されたんだぞ!!」
天之河が叫ぶ。
「あ、天之河君…………6年前の事件はデジモンの所為では無いと研究者達が言ってたじゃないですか…………」
愛子先生が天之河を宥めようとする。
「いいや! あれはデジモンの所為に決まっている!」
何でそんな断言するんだか。
「言っても無駄だろうが、デ・リーパーはデジモンとは別物だぞ」
「そんなの証拠が無いじゃないか!」
「お前の言葉にも証拠はないけどな…………」
俺は溜息を吐く。
「信じる信じないはそっちの勝手だが、俺とドルモンは6年前にデ・リーパーと戦っていた」
「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」
その言葉に全員の視線が集中した。
「デ・リーパーはデジタルワールドもリアルワールドも関係なく、全てを消そうとしていた。デジモン達にとってもデ・リーパーは危険な存在で、デジタルワールドで必死に戦ってたが、防ぎきれなかったデ・リーパーがリアルワールドに現れてしまっただけだ」
「そ、そんなのデタラメだ!」
「言った筈だ。信じる信じないはそっちの勝手だ。別に戯言と切って捨てるのもそっちの自由だ。別に信じてもらおうと思ったわけじゃない」
天之河を軽くあしらう。
「とにかく、俺は今後別行動を取らせてもらう。付いて来るのは個人の自由。俺とドルモンを信じて付いて来るというのなら、可能な限りは護ると約束しよう」
俺は席を立つ。
「私は勿論ついてくよ。リュウダモンも居るしね!」
「僕も意見は変わらないよ。大士とドルモンの傍に居た方が安心だと思う」
「私はハジメ君と一緒に居たいから行くよ! 勿論、黒騎君とドルモン君の事も信じてるけどね」
「私は、迷宮で私達を助けてくれた黒騎とドルモンを信じる……!」
葵さん、ハジメ、白崎さん、園部さんが続いて席を立った。
だが、
「待つんだ!」
天之河が待ったをかける。
「黒騎や南雲が別行動をするという事にはもう何も言わない。だが、香織や神代さん、園部さんを巻き込むのは止めてもらおうか!」
その言葉に、葵さん、白崎さん、園部さんは「「「は?」」」と言いたげな表情になる。
「3人とも、絶対に護ると断言しない黒騎について行く必要なんかない。ここに居るんだ! ここに居れば、俺が必ず皆を護る。絶対に護るから!」
何言ってんだコイツ?
何気にハジメを抜いていることに、俺は女の子を侍らせようとしているとしか思えなかった。
すると、
「私がここに残るって事は、リュウダモンが殺されるって事だよね? 私はそれが嫌だから大士君について行くって言ってるんだけど?」
「何度も言うけど私はハジメ君が好きなの! ハジメ君と一緒に居たいからついてくの! 危険は覚悟の上だよ!」
「あなたは絶対に護るって何度も言うけど、あなたの言葉には何の説得力も無いのよ。迷宮でトラップに掛かった時も、混乱する皆をそっちのけで勝ち目のないベヒモスに挑もうとしてたし。特に私は黒騎やドルモンがいなかったら死んでたかもしれないのよ! 自分の言葉に責任を持たないあんたなんかより、私は『護ってくれた』黒騎やドルモンを信じる!」
3人は一斉に天之河を批判する。
「ッ……………!?」
批判された事が予想外だったのか天之河が驚愕の表情をする。
そして、悔しそうに俯きながらプルプルと震えると、ガバッと顔を上げ、
「黒騎! 俺と勝負しろ!!」
「は?」
俺は思わず声を漏らした。
なんでそんな話になる。
「3人は迷宮で助けてくれたお前に、つり橋効果の様な感情で頼っているんだ! そのお前を倒して俺が3人の目を覚まさせる!」
「…………………………」
余りにも自分勝手な思い込みによる理由で勝負を挑んできた事に、俺は呆気に取られる。
だが、ここで反論してもこいつは聞く耳持たないだろう。
それなら…………
俺は少し思案して、
「…………分かった。その勝負を受けよう」
天之河の申し出を受けることにした。
だが、
「ただし、条件がある」
「条件だと?」
「ああ。勝負の結果を見て、俺達の方からそっち側に移るというのは構わない。だが、そっち側から俺達に付いて来るというのは断らせてもらう」
「何………?」
「状況に応じて媚び諂う相手を変える風見鶏な奴は、一番信用できないからな」
俺はそう言う。
「ふん、好きにしろ。俺は絶対に勝つ!」
「はいはい」
意気込む天之河を他所に退室しようとして、
「待ってくれ!!」
1人の男子生徒から声を掛けられた。
それは、
「清水………?」
クラスメイトの1人である清水。
「お、お前のデジモンが『究極体』に進化出来るって言うのは、本当なのか?」
「………ああ」
今の言い方だと、『究極体』という意味を分かっている言い方だな。
「そ、その………護ってくれるという事もか………?」
「まあな。勿論、俺達にとって不利益になることはしないという前提はあるが」
「そ、そうか…………それなら、俺も連れて行ってくれ!」
清水からしてみると、最後まで迷っていたが、さっきの条件が最後の一押しになったってとこか。
最悪俺が負けたとしても、天之河の方に戻ればいいだけの話だからな。
信用できるかと言われればギリギリだが………
「………ま、いいだろう」
街中での危険はドルモンよりも、チートな奴が居た方がやり易そうだし。
俺達は、そのまま勝負の為に訓練場に移動することにした。
【Side 三人称】
訓練場の中央で大士とドルモンが光輝と向かい合っていた。
光輝は聖剣に金ぴかの鎧と完全装備である。
一応、立会人としてメルドが互いの中央に立つ。
光輝は聖剣を抜いて大士とドルモンに突きつけた。
「さあ、勝負だ黒騎! 本気で来い!!」
「…………『本気』で………か…………」
気合の入っている光輝と違い、大士は何処かやる気無さげだ。
だが、それに気付かない光輝は、
「そうだ! お前達がさっきから言っているキュウキョクタイとやらを使ってみろ!!」
大士を煽る様にそう言う。
「……………………オーバーキルにも程があるんだがなぁ…………」
しかし、大士は余り気が進まない様だ。
「如何した!? 今更になって怖気づいたか!?」
勝負にあまり乗り気でない大士の様子を見て、そう判断する光輝。
すると、大士は溜息を吐き、
「分かったよ。そこまで言うなら『究極体』で行こう」
「…………いいの?」
「後でゴタゴタ言われるのは面倒だ。ここで圧倒的な差を見せておいた方が良い」
ドルモンの確認にそう答える大士。
すると、大士はDアークを取り出すと、
「行くぞ! ドルモン!」
「オッケー! 大士!」
今までとは違い、表情を引き締め、真剣な顔になった。
その瞬間、
――MATRIX
EVOLUTION――
「マトリックスエボリューション!」
大士が輝くDアークを自分の胸に押し付ける。
すると、ドルモンと共に光に包まれ、光の柱が立ち昇った。
その光景に周りで見ていた生徒達は驚きで声を上げた。
その光の中で大士とドルモンが一つになって進化する。
「ドルモン進化!」
ドルモンの手のデータが分解され、鎧を纏った騎士の腕として再構築される。
ドルモンの足のデータが分解され、鎧を纏った騎士の足として再構築される。
ドルモンの体のデータが分解され、鎧を纏った騎士の体として再構築される。
ドルモンの頭のデータが分解され、大士の決意の篭った瞳を持った騎士の頭部として再構築される。
丸みを帯び、金の装飾が施された黒く輝く鎧を身に纏い、背中には外側が白、内側が青のマントをはためかせた、『最初』の名を冠せし黒き聖騎士。
「アルファモン!!」
光の柱の中より、黒き聖騎士が舞い降りる。
アルファモンが光輝の前に立ちはだかると、
「な、何が起こったんだ!? 黒騎は何処へ行ったんだ!?」
突然起こった出来事に困惑している。
すると、
『俺ならここだ』
アルファモンと一体となっている大士が言葉を放つ。
「な、何っ………?」
『これが俺とドルモンの究極進化。俺とドルモンが1つとなって進化する究極体………! 聖騎士アルファモンだ!!』
そう言い放つ大士。
「これが………究極体………」
ハジメが呟く。
その姿に、光輝は勿論それを見ていた生徒達も声を失っていた。
だが、ただ1人、他とは違う理由で声を失っている者がいた。
それは、
「あれは…………あの姿は…………」
声を震わせながら呟いたのは葵。
「あのデジモンは………もしや!」
リュウダモンも見覚えがあるような言葉を口にする。
「葵ちゃん?」
「葵………?」
様子がおかしい事に気付いた香織と優花が声を掛けるが、葵は呆然としながらDアークに視線を落とした。
「アルファモン 究極体 ワクチン種 聖騎士型デジモン。必殺技は、『デジタライズ・オブ・ソウル』と『聖剣グレイダルファー』…………」
葵は呆然と視線をアルファモンへと戻す。
その視線の先で、
「さあ、始めようか」
アルファモンがそう言う。
驚愕していた光輝が気を取り直し、
「ふ、ふん! 少し驚いたが、俺にコケ脅しは通じない!」
そう言って聖剣を構える。
立会人のメルドも驚いていたが何とか気を取り直し、
「そ、それではこれより模擬戦を開始する。勝敗は………」
そう言い掛けた所で、
『こちらの勝利条件は天之河の気絶、もしくは降参。天之河の勝利条件は、アルファモンをこの場から一歩でも動かせたらで構わない』
「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」
大士の言葉に殆どの生徒が絶句する。
「お、お前っ! 俺を馬鹿にするのもいい加減にしろ!!」
『文句があるならまずは一歩でも動かしてみろ。話はそれからだ』
光輝の言葉に大士はそう返す。
「言われなくとも!!」
「ま、待て光輝!?」
メルドが開始の合図を出す前に光輝はアルファモンへ斬りかかった。
アルファモンが構えも取っていないのに、突然動き出した光輝をメルドは止めようとしたが間に合わない。
跳び上がった光輝が振り下ろした聖剣がアルファモンの肩口に吸い込まれ、
―――ギィン!
傷一つ付ける事無く弾かれた。
「なっ!?」
光輝は腕の痺れを感じつつ驚愕の声を漏らす。
アルファモンは何もしていない。
ただそこに立っていただけだ。
「くっ! 何をしたのか知らないが!」
光輝は真っ直ぐに駆け出すと、アルファモンの目の前で聖剣を振り上げる。
その瞬間、〝縮地〟を使ってアルファモンの背後に回り込み、更に〝剛力〟を使って剣の威力を上げる。
「貰った!」
光輝は今度こそダメージを与えられると確信した。
しかし、
―――ギィンッ!
結果は先程と全く同じだった。
アルファモンは何かしたようには思えないのに、光輝の聖剣はアルファモンの鎧に傷一つ付ける事無く弾かれてしまう。
「くそっ! 一体どうやって防いでいるんだ!?」
光輝が攻撃が効かない理由が分からずそう愚痴る。
すると、
『別に何も?』
大士が答えた。
「何ッ!?」
『俺達は別に何もしていない。単純にお前の攻撃力が弱すぎて、アルファモンの防御力の前では傷一つ付けられないってだけだ』
「ふっ、ふざけるなっ!! そんな筈があるかぁっ!!」
その言葉を挑発と受け取ったのか、光輝は聖剣を掲げて魔力を集中する。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟」
そのまま光の斬撃を放った。
それを見ても尚アルファモンは全く動こうとせずに、その光の斬撃に呑み込まれる。
「はぁ、はぁ………どうだ! 思い知ったか!!」
光輝は手応えがあったことに勝利を確信していた。
そのまま巻き起こった砂埃が晴れて行くと、
「なっ!?」
光輝は驚愕の声を漏らす。
何故なら、アルファモンは全くの無傷でその姿を現したからだ。
アルファモンの周囲は多少抉れているが、肝心のアルファモンの立っている場所から後ろは全く荒れていない。
光輝の攻撃をアルファモンが完全に受け止めた証拠だ。
『気は済んだか?』
大士が問いかける。
すると、光輝は歯を食いしばり、
「まだだ! 〝限界突破〟ぁっ!!」
光輝は最後の手段でもある、ステータスを3倍に引き上げる〝限界突破〟を使用する。
光が光輝を包み込み、掲げた聖剣に今まで以上の魔力が集中する。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!」
本来なら1対1の状況ではまず使えない長文詠唱の最大攻撃を放とうとする光輝。
それでもアルファモンは全く動く気配を見せなかったが。
「これで終わりだ! ――〝神威〟!」
聖剣から魔力砲撃を放つ光輝。
それは一直線にアルファモンに突き進み、呑み込んだ。
爆発に包まれるアルファモン。
その衝撃に周りの生徒達は悲鳴を零していた。
「はぁ、はぁ…………や、やったぞ!!」
光輝は嬉しそうにそう言う。
アルファモンが居た所には、モクモクと煙が上がっている。
その時、一陣の風が吹き、煙を吹き飛ばしていく。
そして、
「そっ、そんなっ………!?」
光輝はあり得ないと目を見開いた。
何故なら、アルファモンは先程と変わらず、全くの無傷でそこに佇んでいたからだ。
アルファモンの足元も、その後方の地面も、全く抉れていない。
「あ、あり得ない………! 俺の最強の魔法だぞ………? しかも限界突破で俺のステータスは3倍になってた筈だ………! なのに何で………!?」
光輝は目の前の現実が信じられないと言わんばかりに狼狽えた。
すると、
『1万の力を持つ相手に、1の力を持つ奴が3になった所で何も変わらないだけだ』
「ッ!? そ、そんな馬鹿な事があるかぁぁぁぁぁっ!!」
光輝は認められない現実を振り払うようにがむしゃらに剣を振るった。
だが、ガキィッという音と共に、聖剣はアルファモンの鎧に傷一つ付けることは出来ない。
『……………お前が認められなくても、これが現実だ』
大士がそう言うと、アルファモンがそっと光輝の体に手を添える。
次の瞬間、
「ふっ!」
「がはっ!?!?!?」
光輝が一直線に後方に吹き飛び、そのまま訓練場を囲う塀に激突した。
光輝は白目をむいており、誰がどう見ても気絶しているのが分かる。
『………メルド団長』
呆然としていたメルドに大士が声を掛ける。
「ッ………!? あ、ああ…………勝者、黒騎 大士!」
メルドは困惑しながらもアルファモンの勝利を宣言する。
すると、アルファモンは光に包まれて大士とドルモンに分離した。
2人は互いに顔を見合わせて笑みを浮かべ、
「大士君っ!!」
いきなり飛び掛かって来た影に大士は押し倒された。
「うわっ!?」
「大士!?」
押し倒された大士とそれを見ていたドルモンは思わず声を上げる。
大士が押し倒してきた人物を確認すると、それは葵だった。
「あ、葵さん………? 一体如何したの…………?」
そう問われた葵は、大士を押し倒したまま頬を赤らめながら瞳を潤ませ、
「見つけた! 私の騎士様!!」
「はい?」
いきなり言われた言葉に、大士は素っ頓狂な言葉を漏らすのだった。
はい、番外編です。
ドルモンと早く再会していた場合のIFルートでした。
このまま行くと、デジモンが出てこずにアルファモンの一強ストーリーとなって面白味が無くなるので却下しました。
そして前回ではコテモンを忘れるという痛恨のミス!
すまんコテモン………
修正しときます。
そんでアンケートは今の所このすばが優勢、残り三つがさほど差が無い感じですね。
もうちょい続けてアフターもそこそこ頑張ろうと思います。
それでは!
アフターで異世界に行くならどれがいい?
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この素晴らしい世界に祝福を!
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マブラヴオルタネイティヴ
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ゼロの使い魔
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デジモンのいるオリジナル異世界