魔物の肉を食べた白崎さんと園部さん。
この階層にいる全ての種類の魔物を一通り食べると、彼女達のステータスは激変していた。
白崎香織 17歳 女 レベル:20
天職:治癒師
筋力:150
体力:200
耐性:300
敏捷:200
魔力:600
魔耐:600
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] [+複数同時発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇]・高速魔力回復[+瞑想] ・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解
園部優花 17歳 女 レベル:19
天職:投術師
筋力:400
体力:350
耐性:250
敏捷:500
魔力:450
魔耐:450
技能:投擲術[+投擲速度上昇][+飛距離上昇]・火属性適性[+消費魔力減少]・雷属性適性[+消費魔力減少]・気配感知・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・言語理解
物の見事に大化けしました。
「こんなにステータスが上がるんだ…………」
若干呆れ気味の園部さん。
ステータスプレートを眺めながらそんな声を漏らす。
「でも、これでハジメ君を護れる………!」
相変わらず白崎さんはハジメ優先な考えだな。
ハジメがここに落ちてからその傾向が一層強くなったように感じる。
それはともかく、既にこの階層はハジメが探索し尽くして上に登る階段は見つけられなかったらしい。
そうなると、下へ進んでこの迷宮を攻略する以外に外に出れそうな方法は無さそうだ。
因みに階層をぶち抜いた方法で上へ登れないかと試したが、この辺りの迷宮壁にはタウル鉱石と呼ばれる高い硬度の鉱石が含まれており、成熟期クラスのパワーではなかなか掘り進めることが出来ず断念した。
尚、完全体や究極体のパワーでは逆に迷宮が崩壊して生き埋めになりそうな気がしたので試してはいない。
ハジメの錬成でも一定以上の上下への移動をしようとすると、何故か錬成が反応しなくなるらしい。
仕方なく俺達は下の階層へ向かって足を進めることにした。
因みに食事だが、一応神水さえ飲んでいれば生きていられるらしいが、空腹感だけは如何することも出来ず、魔物の肉を食べたハジメ、白崎さん、園部さんは強くなるためにも魔物を食べ続けることに決め、普通の食事は俺、葵さん、ドルモン、リュウダモンで分けることになった。
ただ、ドルモンとリュウダモンには神水の効果は現れず、体力もダメージも回復しなかった。
おそらくデジモンの身体がデジタル物質で構成されているのが原因で、魔力とは頗る相性が悪い様だ。
よって、ドルモンとリュウダモンに十分な食事を与え、俺と葵さんは出来る限り神水で生き延び、一日一回の少量の食事で空腹感を誤魔化すことで耐えることにした。
更に因みにハジメがクソ不味いと言っていた魔物肉だが、洋食店の娘であり、当の本人も二代目を目指している園部さんの手によって、血抜きやら何やらの下拵えと、念のため持ち込んでいた塩によって、クソ不味い肉が普通に食えるレベルまでアップした。
これにはハジメや白崎さんも大喜びし、園部さんに感謝の言葉を何度も言っていた。
そんなこんなで下の階層へ進むことを決めた俺達。
ある階層は真っ暗な暗闇で石化の力を持つ魔物が居た。
石化は神水や白崎さんの魔法で解除できたし、魔物自体はハジメのドンナー一発で仕留めることが出来たので問題無かった。
また、ある階層は地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。
しかもフラム鉱石という可燃性の鉱石で出来た洞窟だったので火気厳禁だ。
しかし、ドルガモンやギンリュウモンは特に火や雷などの引火しそうな技は使わなかったのでこれと言って困ることは無く、あっさりと先へ進んだ。
他にも毒霧に包まれた階層ででっかいカエルに遭遇したり、密林の階層で巨大ムカデに襲われたり…………
特に後者の階層では女性陣が悲鳴を上げていた。
そうして迷宮を下る事五十階層。
現在、魔物を食べる組のステータスはこうなっていた。
南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49
天職:錬成師
筋力:880
体力:970
耐性:860
敏捷:1040
魔力:760
魔耐:760
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解
白崎香織 17歳 女 レベル:49
天職:治癒師
筋力:500
体力:600
耐性:650
敏捷:500
魔力:1200
魔耐:1200
技能:回復魔法[+回復効果上昇][+回復速度上昇] [+複数同時発動] [+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲回復効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇] [+持続時間上昇][+連続発動]・高速魔力回復[+瞑想] ・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解
園部優花 17歳 女 レベル:49
天職:投術師
筋力:700
体力:650
耐性:500
敏捷:1300
魔力:900
魔耐:900
技能:投擲術[+投擲速度上昇][+飛距離上昇][+遠隔回収][+遠隔操作]・火属性適性[+消費魔力減少][+発動速度上昇][+効果上昇][+属性付加]・雷属性適性[+消費魔力減少][+発動速度上昇][+効果上昇][+属性付加]・気配感知・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地] [+豪脚]・風爪・夜目・遠見・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解
この迷宮で初めて魔物を食べた時から約2倍の成長を遂げていた。
もう成熟期デジモンなら一人で互角に戦えるんじゃないだろうか?
あと、俺と葵さんは戦いを任せっきりなのでステータスは殆ど変わっていない。
ただ、護身用としてハジメに小型の銃を作って貰った。
警官が使う様な小型のリボルバーだ。
ハジメのドンナーほどの威力は無いが、魔物を怯ませるぐらいの威力はある。
それに白崎さんも専用の銃を作って貰った。
ドンナーより小型の取り回しの良い銃だ。
それでも結構な大口径だが。
園部さんは最初投げナイフを使っていたのだが、途中で俺が『投擲術なんだから別に投げナイフじゃなくても、投げられるものなら何でも技能補正かかるんじゃね?』ということに気付き、それは見事に的中。
『投擲』という括りに入るモノなら剣だろうが槍だろうが補正が掛かるという事が判明した。
それからは俺とハジメのオタク2人による、園部さんの武器の考案会議が繰り広げられた。やはり投げると言えば『手裏剣』や『苦無』は外せず、更に威力重視の武器という事で投げ槍も追加された。
それらの武器はハジメが錬成でタウル鉱石から作り出し、園部さんもそれを使いこなしている。
そうして辿り着いた五十階層だが、ここは少し他の階層とは違うものがあった。
それは 脇道の突き当りにある空けた場所に高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇にはそれぞれの一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。
「明らかに何か仕掛けがありそうな扉だよな?」
俺はそう呟く。
「この石像って動き出しそうよね? 多分、扉を開けようとすると動き出すんじゃない? 門番みたいにさ」
「さながら中ボスの『
葵さんの言葉の後にハジメがそう言うと、そのまま扉に向かって歩いていく。
俺達は何が起きてもいい様に身構える。
ドルガモンとギンリュウモンも戦闘態勢だ。
ハジメが扉に触れるがまだ何も起こらない。
しかし、ハジメが押しても引いても扉はビクともせず、仕方なく錬成を行使しようとした瞬間、バチバチッという音と共にハジメが弾かれた。
「うおっ!?」
「ハジメ君!?」
吹き飛ばされたハジメが後ろに倒れ、白崎さんが駆け寄る。
扉に触れていたハジメの手が煙を上げている。
白崎さんは慌てて回復魔法を行使した。
すると、
「「オォオオオオオオオオオオオオオオッ!!」」
野太い雄叫びが部屋中に響き渡った。
ハジメと白崎さんは咄嗟に飛び退き、警戒する。
「ハッ! 予想通りか!」
そう言うハジメの視線の先で、扉の両隣りに掘られていた2体の一つ目巨人が表面の鉱石辺を撒き散らしながら動き出そうとしていた。
その姿はまんまサイクロプスと呼ぶべき風貌だ。
埋まっている下半身を抜き出し、侵入者を排除しようと動き出す。
その瞬間、
――ドパンッ!
――ズガンッ!
2種類の音が鳴り響いた。
ドパンッの方はハジメがドンナーで右のサイクロプスの一つ目を撃ち抜き、頭を爆ぜさせた音。
ズガンッの方は園部さんが背中に背負っていた投げ槍に雷魔法を付与して投擲し、左のサイクロプスの目を貫いて後ろの壁に磔にした音だ。
「哀れだな………」
「あはは………」
いつから設置されていたのかは知らないが、少なくとも百年単位の年月が経っているだろう。
漸く役目を果たす時が来たと張り切っていたのだろうが、両者とも登場から僅か数秒で退場することになったのだ。
哀愁が漂わないでもない。
「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」
「隙だらけだったから、つい…………」
ハジメと園部さんはそう言う。
園部さんは状況を見てチャンスと思ったから攻撃したみたいだが、ハジメは全部理解した上で攻撃したのだ。
どちらが酷いかは分からないが………
すると、ハジメは扉にある二つの窪みを見て、『風爪』でサイクロプスの体内から魔石を取り出す。それを扉の窪みにはめ込むとピッタリとはまり込んだ。
直後、魔石から赤黒い魔力光が迸ほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。
そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。
「思った通り………!」
ハジメはそう言うと扉に手を掛ける。
すると、ゆっくりと扉が開いた。
扉の奥は真っ暗で何も見えない。
ハジメ達は『夜目』の技能があるので見えているかもしれないが。
すると、ハジメは扉を大きく開けた。
その時、
「………だれ?」
女の子の声が聞こえた。
すると、ハジメが目を見開き、
「人………なのか?」
呆然と呟いた。
「うん………女の子………だよね?」
「………でも、こんな所に人? 怪しくない?」
俺と葵さんには見えないが、3人はどうやら把握している様だ。
「俺には見えないが、女の子が居るのか?」
「うん、立方体の何かに埋め込まれてるみたい」
俺の質問に白崎さんが答える。
「封印されてる?」
葵さんが呟くと、かすれた声で女の子の声が聞こえてきた。
「……お願い! ……助けて……」
助けを求める声。
その声からは必死さが伝わってくる。
「……なんでもする……だから……」
「どうする? こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴だぞ。絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもないし、スルーするに一票」
そう言ったハジメの声が聞こえたのか、
「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」
掠れた声で咳き込みながら、更に必死な懇願を続けるその声。
そして、
「裏切られただけ!」
「ッ…………」
その言葉にハジメは僅かに反応した。
ハジメとしてもクラスメイトに裏切られたようなモノなので、その言葉に反応したのだろう。
ハジメは頭を掻きながら部屋に足を踏み入れ、そのまま部屋の奥へと進んでいく。
その後に白崎さんが続き、俺達も続こうとしたが、部屋の中は真っ暗で躊躇してしまう。
すると、園部さんがそのことに気付いたのか、火魔法で灯りを作ってくれた。
お礼を言って部屋の奥に進む。
ドルガモンとギンリュウモンも身を屈めながらなんとか扉の中に滑り込んだ。
部屋の奥に行くと、先程白崎さんが言っていた通り、立方体の何かに金髪の女の子が埋め込まれている。
「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」
ハジメがそう問いかけると、
「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
「お前、どっかの国の王族だったのか?」
「……(コクコク)」
「殺せないってなんだ?」
「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」
「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」
「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」
ハジメは「なるほどな~」と納得している。
今聞いた話が本当なら、勇者である天之河すら凌ぐチートである。
すると、
「……たすけて……」
その言葉を聞いてハジメが俺達に振り返る。
「なあ………?」
ハジメが何か言おうとした時、
「ハジメ君のしたい様にすればいいよ」
白崎さんが笑みを浮かべながら言った。
「ハジメ君には、ハジメ君らしい選択をして欲しい」
「それに、ここまで必死になってる女の子を放っておくのも、何か後味悪いしね………」
白崎さんの言葉に園部さんが続き、
「俺も反対はしない。罠の可能性も無い訳じゃないが、この子の様子を見る限りその可能性は低いと思う」
「私も同じく」
「助けを求める人を放っておけないのは大士も一緒だよ」
「うむ、武士の情けという言葉もある。反対はしない」
全員がそう答える。
ハジメが軽く笑みを浮かべ、女の子が封印されている立方体に手を付けた。
「ぐっ、抵抗が強い! ……だが、今の俺なら!」
ハジメは更に魔力をつぎ込む。
そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。
ハジメは更に魔力を上乗せすると女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。
「まだまだぁ!」
少女はハジメの迸る紅い魔力を目を見開きながら見ている。
直後、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、やがて体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。
どうやら立ち上がる力が無い様だ。
ハジメも座り込み息を荒くしている。
どうやら全魔力を使い切ったらしい。
ハジメが神水の入った容器を取り出し、口に含もうとした所で、その手が金髪の少女に掴まれた。
その女の子は真っ直ぐにハジメを見つめ、
「………ありがとう」
震える声で小さく、しかしハッキリとそう告げた。
ハジメは照れ臭くなったのか顔を背ける。
すると、
「……名前、なに?」
そう言えば自己紹介もしてなかったな。
「ハジメだ。南雲 ハジメ。お前は?」
ハジメがそう言うと、女の子は何度も「ハジメ、ハジメ」とその名を心に刻みつけるように何度も繰り返した後名前を答えようとして、少し押し黙った後に口を開いた。
「……名前、付けて」
「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」
その問いかけに女の子はふるふると首を振ると、
「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」
過去との決別を意味する様にそう言った。
「……はぁ、そうは言ってもなぁ」
ハジメはそう言いながら意見を求めようと俺達に視線を向けようとして、
「全部ハジメが決めて………ハジメだけの名前が良い………」
その意見を却下された。
ハジメは少し悩むように頭を掻き、そして口を開いた。
「『ユエ』なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」
「ユエ? ……ユエ……ユエ……」
「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」
確か中国語だったっけか?
細かくは知らんが。
「……んっ。今日からユエ。ありがとう」
「おう、取り敢えずだ……」
「?」
礼を言う女の子改めユエの握っていた手を解き、着ていた外套を脱ぎ出すハジメ。
そしてそれをユエに差し出す。
「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃあなぁ」
「……」
言い忘れたがユエは何も着ていない。
元々裸で封印されたのか、それとも服が風化してしまったのか。
因みに俺は巨乳派なのでユエの体にこれと言って興奮はしない。
「ハジメのエッチ」
「……」
何を言っても墓穴を掘るだろうと予想出来ているのか押し黙って神水を飲むハジメ。
すると、まるでユエとハジメの間を遮るように白崎さんが割って入った。
「初めまして、ユエちゃん! 私は白崎 香織! ハジメ君の“恋人”だよ!!」
明らかに『恋人』を強調して言う白崎さん。
その言葉にユエが青天の霹靂の如き衝撃を受けて目を見開いている。
「………………そう、私はユエ。“ハジメに”付けてもらった名を持つ『女』」
しかし、すぐに真っ直ぐに見つめ返すとそう言い返した。
その言葉に白崎さんはムッとすると、
「そうなんだ。名前を付けてもらったって事は、ハジメ君にとってユエちゃんは『娘』みたいな存在って事だね………!」
ニコニコと笑いながらも二人の間に火花が散っているように見えるのは決して気の所為では無いだろう。
「………………修羅場?」
葵さんが二人の様子を見てそう零す。
「だな………」
俺はその言葉に同意する。
その瞬間、
「「ッ!?」」
ハジメと園部さんが同時に何かに反応した。
ハジメは距離が近かった白崎さんとユエを片腕で強引に抱え、園部さんは俺と葵さんを両脇に抱えてその場を全力で飛び退いた。
その直後、天井から巨大なものが落下してきて目の前に着地する。
砂煙を巻き上げて現れたそれは、一言で言うなら巨大な蠍。
ただし尾が2本あり、鋏も四本だ。
あと、如何でもいいが女の子の脇に抱えられている今の自分の姿はカッコ悪くて仕方がない。
「上等だ。……殺れるもんならやってみろ」
ハジメは白崎さんとユエを降ろすと、ポーチから神水を取り出すとユエの口に突っ込んだ。
「うむっ!?」
神水の効果で衰弱していたユエの体力を回復させる。
ハジメはそのままユエを背中に背負うと、
「しっかり掴まってろ! ユエ! 香織には悪いがここまで来てこいつを見捨てるのはカッコ悪いからな!」
「分かってる! ハジメ君はしっかりユエちゃんを護ってあげて!」
ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくる巨大蠍にハジメはドンナーを向ける。
「邪魔するってんなら……殺して喰ってやる」
ハジメがそう叫んだ瞬間、巨大蠍が2本の尾内の1本の先から紫色の液体を噴出させた。
飛び退いたハジメが居た場所にその液体が当たると、ジュワーっという音と共に地面が溶けてしまう。
所謂溶解液という奴だろう。
ハジメは溶解液を躱すと巨大蠍に発砲する。
だが、巨大蠍の甲殻に当たった瞬間、それが弾かれた。
今までほとんどの魔物を一撃で屠ってきたその弾丸。
その弾丸が通用しなかった事に、俺は僅かに驚いた。
すると、巨大蠍はもう一本の尾をハジメに向けると、凄まじい速度で無数の針を撃ち出した。
「うおっ!?」
ハジメは驚きながらも天歩の縮地と空力を使ってそれを躱す。
その時、
「私の事忘れないで欲しいかなっ!」
俺達を降ろして自由になっていた園部さんが巨大蠍の真上に跳び、右手の指の間に3本の苦無を、左手の指の間に3枚の手裏剣を挟んでいた。
「くらえぇぇぇっ!!」
それらを同時に投擲する。
しかも手裏剣に火属性を、苦無に雷属性を付与したオマケつきだ。
しかし、それらも巨大蠍の甲殻の前に弾かれる。
その攻撃で巨大蠍は園部さんを見上げると尾を向けようとしていたので、
「拙い! ドルガモン!!」
俺はドルガモンに攻撃の指示を出す。
「パワーメタル!!」
ドルガモンが口から巨大な鉄球を吐き出す。
高速で飛ぶそれが巨大蠍の甲殻に当たった瞬間、ガァァァンとけたたましい音を上げてパワーメタルが弾かれた。
巨大蠍は衝撃でよろめいたようだが、俺はドルガモンの必殺技を弾いた巨大蠍の甲殻の硬さに驚いた。
「こいつも弾くのかよ………!」
だが、その隙に園部さんがこちらに戻ってくる。
「ありがと、助かったわ」
お礼を言う園部さん。
俺は巨大蠍の防御力は、防御重視の成熟期デジモン、もしかしたら、完全体デジモンに匹敵するのではと予想する。
その時、巨大蠍の足元に円柱状の金属の塊が転がってくる。
次の瞬間、それは爆発して巨大蠍を炎で包んだ。
ハジメお手製の焼夷手榴弾だ。
「ギィィィィィィッ!」と苦しむ声を上げる巨大蠍。
そこに、
「徹甲刃!!」
空中に躍り出たギンリュウモンが口から槍を放つ。
パワーメタルと比べて貫通力に秀でているだろうそれは、
――ガキィン
と、同じように弾かれた。
「これも駄目!?」
葵さんは悔しそうな声を漏らす。
すると、
「ギギィィィィィィィィィィィッ!!」
と巨大蠍は怒りの咆哮の様な叫び声を上げると2つの尾から針を乱射してきたのだ。
「やばっ!? ドルガモン!!」
俺は慌ててドルガモンを呼び戻す。
即座に1枚のカードを手に取り、
「カードスラッシュ! ブレイブシールド!!」
オプションカードであるウォーグレイモンのブレイブシールドをスラッシュする。
ドルガモンの前方に勇気の紋章が刻まれた黄金の盾が現れ、巨大蠍が放つ無数の針を弾き返す。
葵さんと園部さん、白崎さんはドルガモンの後ろにいるので問題無いし、ギンリュウモンは身体を丸めてその身体に纏っている鎧で弾くが、距離が離れていたハジメとユエはそうはいかなかった。
滅茶苦茶に放たれた針がハジメの体勢を崩し、更に飛来する針がハジメを貫いたのだ。
正に下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる状態である。
「ハジメ!!」
「ハジメ君!!」
俺が叫び、白崎さんもほぼ同時に声を上げるが、白崎さんは直後に回復魔法を使いハジメの傷を回復させる。
離れた所からでも十分な回復力を持たせる所は流石は治癒師である。
しかし、傷は回復しても血だらけになっているハジメを見て、ユエは問いかけた。
「……どうして?」
「あ?」
「どうして逃げないの?」
自分を置いて逃げれば助かるかもしれない、とでも考えているのだろう。
それに対して、ハジメは呆れたような視線を向ける。
「何を今更。ちっとばっかし強い敵が現れたぐらいで見放すほど落ちてねぇよ」
何ともハジメらしい言葉だ。
ユエは何か納得したように頷き、いきなりハジメに抱きついた。
「ああっ!?」
その行動に白崎さんが声を上げる。
「お、おう? どうした?」
状況が状況だけに若干動揺するハジメ。
だが、ユエはハジメの首に手を回し、
「ハジメ……信じて」
「ッ!?」
そう言ってユエは、ハジメの首筋にキスをした。
「ユエちゃん!? どさくさに紛れて何やってるのかな!?」
白崎さんが巨大蠍そっちのけでユエの行動に怒り狂っている。
巨大蠍はハジメ達の方に近寄っていた。
直接鋏で叩き潰そうとでもいうのだろうか?
しかし、よく見ればユエはキスではなくハジメの血を吸っているように見える。
そう言えばユエは吸血鬼だとさっき言っていた。
吸血鬼のイメージは血を得ることで力を増大させる事。
つまり、吸血することによってユエは力を得ようとしているのではないか?
そして先程の『信じて』という言葉。
ユエは決して俺達を裏切ろうとしているのではない。
この場を打開する方法をユエは持っているという事だ。
「なら! その時間は俺達が稼ぐ!」
俺は1枚のカードを取り出し、それを再びスラッシュした。
「カードスラッシュ!! マミーモン! スネークバンデージ!!」
ドルガモンの両腕に包帯の塊が現れ、
「はぁああああああああっ!!」
ドルガモンがそれを放つ。
包帯が巨大蠍に巻き付き、動きを止める。
「むっ………ぐ………!」
とは言え、巨大蠍の力はドルガモンをやや上回っているらしく、少しずつドルガモンが引っ張られている。
「早く! 今の内に!」
ドルガモンがハジメ達に呼びかける。
やがて、ユエがハジメの首筋から口を離し、ペロリと唇を舐めると、
「………ごちそうさま」
そう言うとユエは立ち上がり、巨大蠍に向けて片手を掲げる。
そして、
「〝蒼天〟」
その一言を呟いた。
その瞬間、巨大蠍の頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出現する。
ユエがそのまま掲げた手を振り下ろすとその炎の球体が落下、巨大蠍に直撃する。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
絶叫を上げる巨大蠍。
やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。
そこには、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむ巨大蠍の姿があった。
「ユエ、無事か?」
「ん……最上級……疲れる」
「はは、やるじゃないか。助かったよ。後は俺達がやるから休んでいてくれ」
「ん、頑張って……」
ハジメはそう言って巨大蠍を見据える。
表面が溶けたとはいえ、まだあの防御力は健在だろう。
俺やハジメが突破方法を考えていると、
「………そうだ!」
葵さんが何か思いついたように声を上げた。
すると、1枚のカードを取り出す。
「カードスラッシュ!」
そのカードをDアークにスラッシュする。
「メタルガルルモン! コキュートスブレス!!」
メタルガルルモンのデータがギンリュウモンに送られ、その力を得る。
「はぁあああああああああっ!!」
ギンリュウモンの口から超低温の息吹が放たれ、熱せられた巨大蠍の甲殻を急速に冷やしていく。
やがて巨大蠍の表面が凍るほどに冷やされると、
「なるほど、そう言う事!」
葵さんの真意を理解したのか園部さんが声を上げながら背中の槍を手に取り、
「これでも、くらえぇぇぇっ!!」
全力で投擲した。
俺は一瞬、失礼ながらドルガモンやギンリュウモンの攻撃すら弾いたその甲殻に園部さんの攻撃が通じるとは思って無かった。
しかし、
「グギャァアアアアアアアッ!!??」
その予想は外れて園部さんの投げた槍は甲殻を砕いて貫き、その中の肉に突き刺さる。
俺は一瞬何故と思ったが、
「そうか! 急激な温度変化!」
俺もようやく葵さんの狙いに気付いた。
溶けるほどに熱せられた物が凍るほどまでに急激に冷やされればどのような物質も脆くなる。
それを利用して葵さんは巨大蠍の甲殻をボロボロにしたのだ。
園部さんは派生技能の遠隔回収で投げた槍を引き戻すと、
「南雲! 今!」
ハジメに呼びかける。
ハジメはドンナーを穴の開いた箇所に向け、引き金を引いた。
その穴から内部に飛び込んだ弾丸は、巨大蠍の体内を蹂躙し、その生命活動を停止させたのだった。
崩れ落ちた巨大蠍の姿を見てホッと一息吐く俺達。
この戦いの功労者は間違いなくユエだろう。
ハジメを見てニッコリ笑う彼女は差し出されたハジメの手を嬉しそうに取った。
俺達は、この奈落の底で新しい仲間と出会ったのだった。
【Side ??????】
―――この
―――
―――ゲート
【Side Out】
俺達が勝利の余韻に浸っていたその時、部屋の中に突如として白い靄が広がった。
「きゃっ!?」
「何だ!?」
「霧!?」
それぞれが突然の現象に驚く中、俺は………俺とドルガモンは別の驚きに包まれていた。
「これは………この現象は……………!」
そう、俺はこの現象をよく知っている。
何故なら、
「…………デジタル……………フィールド………………!」
デジモンが
第8話の完成。
香織と優花のステータスは適当なんであんまり気にしないように。
さて、今回はユエの登場でした。
各キャラを持ち上げようとしつつデジモンを活躍させるのはあんな感じで良かったですかね?
原作メインヒロインのユエさん、ハジメに惚れたようですが既に香織という恋人が居る彼にこれからどのように迫るのでしょうか?
そして突如として発生したデジタルフィールドの意味とは!?
次回もお楽しみに。