魔王軍幹部だったベルディアを倒してから、またしばらくの時が流れた。
あのベルディアには賞金がかかっていたようで、結構な報酬が支払われた。
まあ、もうしばらくすればこの世界からいなくなるから金を貰っても仕方ないんだが。
そして一つ、あの後から困ったことがある。
それは、
「おはようございます女神様! 本日もご機嫌麗しゅう」
「だからそう言うのは、やめてってば~~~…………!」
エリス教信者を中心に、葵を女神として称える人々が後を絶たない事だ。
エリス様からの神託があった上に、ベルディア討伐で女神の姿を見せてしまったので、エリス教の冒険者が神託は本当だったと話が広がり、今や街中に知られるほどになった。
因みにその冒険者の1人はダクネスだったりする。
この世界も冬に入ったようで、外は凍える様な寒さだ。
馬小屋で寝泊りしているカズマは、朝起きたらまつ毛が凍っていたらしい。
因みに俺達は、ハジメ謹製のテントのお陰で中は快適な温度の為、全く問題なかったりする。
そして普段も、氷雪洞窟で使った防寒が付与されているアーティファクトのお陰で快適に過ごさせてもらっていた。
まあ、だからと言って何もせずダラダラ過ごすのも退屈なので、偶にはクエストを受けている。
この世界では冬の方がモンスターは危険なようで、この時期にクエストを受けようとする冒険者は少ない。
その為、掲示板に張り出されている依頼は高難度の物が多い。
俺達にとっては大したことは無いが…………
俺は数多くの依頼書の中から、『白狼の群れの討伐』という依頼書を選んで、それを受注することにした。
雪で真っ白になった山の麓で、俺達は目当ての白狼の群れと遭遇した。
100万エリスの賞金が出るだけあり、白狼の群れはかなり大きな群れだった。
一体一体はそれほどでもないが、野生の狩りで培った連携は舐めてはいけない。
とは言え、俺達にとっては問題無く、次々と返り討ちにしていく。
逆にボスの頭が良かったのか、早々に逃げ出してしまったので、それを追いかけて仕留めるのが大変だった。
まあ、優花が居るから逃がす訳も無いんだが………
程なく白狼の群れを全滅させて、街へ戻ろうとした時、
――ドゴォォォォォォォォォォン
と、遠くで大爆発が起こった。
「……………………今のってめぐみんのエクスプロージョンかな?」
葵がそう口にする。
「多分そうだと思うわよ。エクスプロージョンは、ネタ魔法って言われるぐらい取得する人は少ないみたいだし」
優花も同意する。
「にしても、こう見るとエクスプロージョンって凄い威力だな…………こんなに離れていても爆音がビリビリと空気を震わせてるよ………………」
完全体デジモンにもダメージを与えられるぐらいじゃ無かろうか?
ティオのブレスと同等位か?
だが、俺はふと思った。
「………………ん? 雪山で爆音………………?」
俺はそこまで考えが至ると、背中に冷たいものが奔った。
ゴゴゴゴッと地鳴りの様な音が響き始める。
俺は嫌な予感がして振り返りながら山を見上げると………………
「…………やっぱりかぁーっ!!」
山の中腹辺りに積もっていた雪が崩れ出し、雪崩となって押し寄せてきたのだ。
「に、逃げろぉーーーーーっ!!」
俺達は咄嗟に山から離れるように駆け出した。
だが、あっという間に雪崩は俺達を飲み込もうとする。
「どわぁああああああああああああっ!?」
俺は咄嗟にデジソウルを全開にして衝撃に備えた。
そのまま俺は雪崩に呑み込まれ、流されていった。
暫くして雪崩の勢いが収まった後、
「はぁああああああっ!!」
デジソウルを全開にして、周りの雪を吹き飛ばした。
「ゼイ………ゼイ……………死ぬことは無いと思ってたが、あれだけもみくちゃに振り回されるのはキツかった…………」
俺が雪の上に這い上がると、
「おーい! 皆大丈夫かー!?」
俺は周りに声を掛ける。
すると、
「大士―――っ!」
「良かった! 無事だった!」
「大士!」
上から葵、優花、ドルモンの声が聞こえた。
その声で上に視線を向けると、女神の姿となって白い翼で空に浮く、リュウダモンを抱えた葵と、〝空力〟による足場で空中に立つ、両脇にドルモンとハックモンを抱えた優花がいた。
どうやら葵と優花は雪崩に巻き込まれる直前に空へ退避していたようだ。
ドルモン、リュウダモン、ハックモンが抱えられているのに、俺が取り残されたのは、単に間に合わなかっただけだろう。
成長期デジモンでは、雪崩の威力に耐えられる保証が無いからな。
葵達が俺の前に降りてくると、
「大丈夫だった!? 怪我は無い!?」
心配そうな表情で葵が問いかけてくる。
「その、ごめんなさい………大士は間に合わなくて………」
優花はバツの悪そうな顔で謝って来る。
「俺は大丈夫だ。それに優花も気にするな。あの状況では、ドルモン達の方が危なかったからな。ドルモン達を優先したのは間違いじゃない。むしろ、ドルモンを助けてくれてありがとな」
俺はそう言って気にしない様に言う。
「大士………!」
優花はホッとしたような表情を見せた。
「…………それにしても」
俺は振り返ると、爆裂魔法が放たれた方向を向く。
「ワザとじゃない事は理解しているが、カズマ達には一言文句を言わないと気が済まない!」
俺はそう叫んでその方向へ足を向けた。
暫く歩いていると、
「さあ、帰ってきなさいカズマ!!」
アクアの声が聞こえた。
その声の方へ向かうと、
「何あっさり殺されてんの!? 死ぬのはまだ早いわよ!」
アクアが雪の上に横たわるカズマに魔法を掛けながら呼びかけていた。
周りには夥しい血により、白い雪が真っ赤に染まっている。
その出血量からすると、明らかに致命傷だろう。
そして、
「カズマーっ!」
「カズマ! しっかりしろ!」
カズマに必死に呼びかける涙を浮かべためぐみんとダクネス。
そして先程のアクアの言葉から察するに、カズマが致命傷を受けた、もしくは殺されて、アクアが蘇生魔法を掛けている状態か?
「ちょっとカズマ、聞こえるー!? アンタの体に復活魔法掛けたから、もうこっちに帰って来れるわよー!」
にしても、アクアの言葉に神聖さの欠片も無い。
俺達は様子を伺う為に彼女達の前に姿を現した。
めぐみん達が俺達に気付く。
その瞬間、めぐみんが葵に縋り付いた。
「アオイ! あなたは女神様なんですよね!? お願いです! カズマを助けてください!!」
「め、めぐみん………!?」
突然涙を浮かべながら縋り付かれた葵は困惑の声を漏らす。
「私からもお願いします、女神様………! どうか、カズマに今一度生きるチャンスを………!」
ダクネスも震えを我慢している声で、深く頭を下げる。
「ダクネス…………」
葵は一旦横たわるカズマと、魔法を掛け続けるアクアを見る。
「はぁ~~!? 誰よそんな馬鹿な事言ってる女神は!? ちょっとアンタ! 名乗りなさいよ! 日本担当のエリートなこの私に、こんな辺境担当の女神がどんな口利いてんのよ!?」
アクアとこの2人の温度差がやけに激しいんだが…………
葵はもう一度めぐみんとダクネスを見る。
2人は目に涙を溜め、縋るような眼で葵を見ている。
すると、葵は仕方なさげに息を吐くと、
「………もう、ほっとけないなぁ…………」
苦笑しながらアクアとカズマに歩み寄った。
「エリスぅ~!? この世界でちょっと国教で崇拝されてるからって、調子に乗ってお金の単位にまでなった…………!」
アクアは相変わらず神聖さの欠片も無い態度でカズマに呼びかけ続けていたが、その途中、
「こらこらアクア。そんな言い方したら、エリスも困っちゃうよ?」
葵がそう声を掛ける。
「アルオイス!? 何であんたがここに!?」
アクアは俺達が居ることに今気付いたようで驚いた声を上げる。
すると、葵はカズマの体に手を置くと女神化し、目を瞑った。
【Side カズマ】
俺は死後の世界で、この世界の女神様であるエリス様と対面していた。
俺はこのまま元の世界の日本に転生するはずだったのだが、アクアが復活魔法を掛けたらしく、戻って来いと呼びかけられた。
だが、天界規定とやらで、人が生き返ることが出来る回数は1回と決まっているらしく、エリス様に止められたのだが、アクアが知ったこっちゃないと言わんばかりに無茶言いだした。
アクアの物言いにエリス様も困っていたようだが、突如として俺達が居る場に光の柱が現れた。
「こ、これは………!?」
エリス様が驚いた声を上げる。
その光の柱が消えると、
「…………お邪魔しますね、エリス」
ニッコリと笑みを浮かべた白い翼と蒼銀の髪を持つ葵様がその場に降臨なされた。
「ア、アルオイス先輩!? よ、ようこそいらっしゃいました! 何もない所ですがごゆっくりどうぞ!」
エリス様が慌てふためいた様に取り繕う。
これは、嫌な先輩が無茶振り言って困ってた所に、憧れの先輩が突然訪ねて来て戸惑っている感じか?
「ア、アルオイス先輩は如何してこちらに!?」
エリス様がそう問いかけると、
「簡単に言えば、彼を連れ戻しに来ました」
葵様が俺を見てそう仰った。
「だ、駄目ですよ! 先輩も知っているでしょう!? 一度生き返った人は、二度は………!」
エリス様は当然そう言うが、
「ええ、もちろん知っています。ですが、〝私は〟カズマさんが一度死んでいる事を知らなかった。よって、『私が勝手に彼を連れ帰ってしまった』。そう報告してくれて構いません」
「ええっ!? そ、そんな事…………!」
葵様の言葉にエリス様は戸惑っている様だ。
すると、
「もし幸運の上級神様からしつこく言われたらこう仰ってください」
葵様がエリス様の耳元に口を近付け、小声で何かを伝えた。
俺には声が小さくて聞き取れなかったが、
「そ、そんな事が……」
エリス様は驚いた表情を浮かべていた。
すると、葵様は俺の手を取り、
「ではエリス、御機嫌よう」
来た時と同じように光の柱に包まれた。
俺の視界も光で覆われ、その光が収まった時、目の前にはアクア、めぐみん、ダクネスの顔があった。
俺が目を覚ましたことに気付くと、
「「カズマ―――――――――!!」」
「ッ…………!?」
めぐみんとダクネスが俺に抱き着いてきた。
な、何か妙に照れ臭いんだが…………
「ちょっとカズマ、何照れてんのよ? 何とか言いなさいよ?」
アクアがニヤニヤ笑いながら俺にそう言う。
今気付いたが、俺の頭はアクアの膝の上だ。
「この私があなたを生き返らせてあげたのよ。何か言う事あるでしょう? ねえねえ?」
この駄女神と、さっきの可愛い方の女神様を取り替えたい!
因みに生き返ることが出来たのは半分は葵様のお陰だ!
「何とか言いなさいよぉ~? 感謝の言葉とか~? 今まで高貴な女神様に舐めた態度取って申し訳ありませんとか~?」
俺は一杯まで息を吸い込み、
「女神、チェーーーーーーーーンジ!!」
そう叫んだ。
「上等よこのクソニート! だったら今すぐ、エリスに会わせてあげようじゃないの!!」
雪原にアクアの叫びが響いたのだった。
【Side Out】
【Side エリス】
「………全く、君にも困ったものだ! 天界の規定を易々と破るなど………」
幸運の女神である私、エリスは、現在幸運の上級神様からカズマさんを生き返らせてしまった事のお説教を受けていました。
幸運の上級神様は男神で、能力は勿論高いのですが、少々プライドが高いと言うか、粘着質と言いますか…………
人の失敗をネチネチとしつこく追及してくる所が玉に瑕です。
「聞いているのかね!?」
「は、はい………!」
アルオイス先輩が強引に連れて行ったとは言え、天界の規定を破ったのは事実ですし、多少のお説教は我慢できます。
それに、アルオイス先輩に罪を擦り付ける訳には行きません。
あの場にアルオイス先輩が現れなかったとしても、どうせアクア先輩が無茶言って押し通したでしょうから。
ですが………
「…………全く君はなっとらん」
多少は我慢しますが………
「…………儂の若い頃はな………」
流石の私にも…………
「…………儂の若い頃はもっと………」
限界はあります…………
「………全く、儂の若い頃を見習わんか………!」
最早お説教というより、上級神様の若い頃の自慢話を延々と聞かされていた私は、つい間が差してしまいました。
「……………上級神様」
「……なんだね?」
「それ以上しつこく言われるのなら、上級神様が『アルオイス先輩にセクハラ紛いに言い寄った』事、奥様にご報告いたしますよ?」
アルオイス先輩から教えられた、魔法の言葉を放ちました。
これは言うつもりは無かったんですけど、つい………
「…………………………………………………………」
上級神様が言葉を失いました。
そして、
「それだけは何卒ご勘弁をっ!!!」
上級神様のジャンピング土下座が炸裂しました。
「…………………」
予想外の効果に私は逆に呆然としてしまいました。
「………コホン」
私は咳払いをすると、
「勿論天界規定を破ったのは事実ですから罰は受けます。ですが、必要以上の注意、警告はパワハラと受け取られることをお忘れなく」
「重々承知いたしました!」
「……………………」
何でしょう?
何で私は上級神様を土下座させてるんでしょうか?
私はただ、アルオイス先輩から聞いた言葉をそのまま言っただけなのに……………
やり過ぎたかもしれないと、私は後悔を覚えるのでした。
このすばクロス第6話目です。
今回はネタがあんまり思い浮かばなかったので短いです。
なんだかんだ言いつつしっかり女神やっちゃってる葵でした。
そしてエリスは上級神様を土下座させることに…………
さて…………正直カズマの屋敷購入とサキュバス関連はネタが無いからなぁ…………
このままデストロイヤー行っちゃおうかと思ってます。
予定が変わる可能性もあるかもしれませんが(その可能性は低い)
では、次もお楽しみに。