「さ、さやかちゃん……なんで?」
その問いには一体いくつの何故が含まれているのだろうか。
まどかの心の内に浮かぶ疑問は途切れることはない。
何故ここに、魔女がいるこの現場にいるのか。その疑問から始まり、その格好は。その他にも問いは尽きないが、しかしそれゆえにそれ以上の質問をすることが出来ず、まどかはさやかを見据えたまま何も出来ず、その場から動けず留まるだけであった。
「いやぁ、心境の変化といいますか、なんといいますか……」
当の美樹さやかは軽く答える。
少しバツが悪そうに頭を掻きながら、逆の手に持っていた片手剣を軽く掲げるようにして虚空へと消し去る。その動作だけでも、十二分にさやかが魔法少女である証左となっていた。
まどかにとって、友人が自分に先んじて魔法少女となるべく契約したことよりも、契約"してしまった"という事実に心が動かないわけがなかった。
「あれだけいろいろ言ってくれていたマミさんには悪いかなと思ったんだけど、実は願いごと、最初から決めてたんだ」
その表情は少しの照れと罪悪感の織り混ざったもの。勝手に契約したことに対する罪悪感と、その願いごとが叶ったことに対する喜びからの照れか。
まどかはその様子から、さやかの願い事を察する。実の所、予想はすでに出来ていた。話題にも出していた。しかし、それで果たして良かったのか。その是非を先達に聞くために今日という一日を準備していたというのに、それらは件の当事者自身の行動によって、不要なものへとなってしまった。
「さやかちゃん、その願い事って………」
「……まどかにはやっぱり分かっちゃうかな。うん、そうだよ。そして魔女がいるって分かってて、これ以上無力なままってのは、あたし的にはどうかなってのがあって。それに、相談する時間も無かったしね」
その言葉にはしょうがないという色とともに、深い詮索を受けたくないという拒絶も含まれていた。
さやかとてこの行動が軽薄で、文句や誹りのひとつやふたつを貰っても仕方のないことであるとは理解していた。
それを理解していても、いま、叶えたい願いがあった。さやかにとっての選択は、そちら側に天秤が傾いたということであった。
その軽率な行動を、軽挙妄動ともいえるそれを批難するのは簡単だ。しかし、それをする資格がはたして自分にはあるのか。まどかは自問する。いまこの場においては、自分だけが魔法少女ではない。戦う資格を持たず、戦う理由を持たず、戦う必要性を持たない。そんな自分が、どんな経緯があったにせよ、魔法少女として戦うことを理解し、決意し、誓った彼女に対して何か言えるのだろうか。その自問の答えは、考えるまでもなく否であった。
「まどかはさ、多分あたしに言いたい事、たくさんあると思うんだ。あたしも、まどかに言いたい事とか謝りたいこととか、話したいこと、いっぱいある。でもさ、それでも先に一つだけ言っておくね」
周囲の異常の有無を確認し、落ちたグリーフシードを拾いながらまどかへと話しかける。そしてまどかへと向き直る。正対し、右手を胸に当て、まどかの顔を見据え、
「あたしは、後悔なんて、してないから」
絶対にしないから。そう言い切った。
それだけ言われてはもう、まどかは何も言うことも出来ず、言い返す事もなく。
たださやかの親友として、此度の魔女退治をねぎらうだけ。
あんな異形の化け物に対して物怖じすることなく、勇敢に立ち向かう親友はやはり自慢の親友だと、誇らしく思い、同時に尊敬する。どういう経緯があったにしろ、契約を誰にも相談せずに決断することが出来るだろうか。そして戦闘の指南を受けないまま、初めての戦闘でそのまま魔女を倒すために挑むようなことが出来るだろうか。
この親友が突っ走る気は確かにあることはまどかも認めているが、それが短所であると同時に、大きな長所でもあるのだ。他の人が躊躇うような場面でも、物怖じすることなく一歩を踏み出せる、その勇気は讃えられるべきものだと、そばにいるまどかが一番感じていることであった。
少しばかりの沈黙を破るかのように突然の物音と不意に近づく気配を感じ、三人がその方向へと振り向くと、そこにはさやかや永遠と同じく魔法少女の一人、謎多き暁美ほむらの姿がそこにあった。
すでに魔法少女たる変身後の姿であることから、恐らくは魔女退治に来たというのは想像に難くない。完全に出遅れたというよりも、すでに終わったあとではあるが。さやかは身構え、まどかは緊張が走るその空気に緊張し、永遠はただ事の推移を見守る。
ほむらが三人を視界に捉えその内の一人、美樹さやかのその魔法少女然とした姿を見るや、表情を僅かに変化させる。
「あなた……!」
その後の言葉は続かなかった。ほむらは状況が理解出来ず、不用意な言葉を発するのを躊躇った。代わりに永遠へとテレパシーを送る。
『あなたの差し金かしら?』
『へっ!?』
突然の言いがかりに永遠は混乱する。何を言っているんだこの少女はと一瞬訝しむが、状況を俯瞰して理解した。
『あー……まどかちゃんを連れてきたのは私だけど、もう一人の子も唆したのかって意味なら答えは違うよ。私がここに来た時には、もうあの子が一人で魔女を倒してたから』
信じてもらえるかは別として、彼女はなるべく誠実に事実を述べる。確かにこの状況だけ見れば、永遠が魔法少女候補生の一人であるさやかを唆して契約し、その緒戦としてこの魔女にさやかを充てた可能性というのもあり得なくはない。
その可能性に真っ先に思い当たるということは、自分はどう見られているんだろうなーと永遠は少しばかり思考を巡らせる。
『……そう。真実はともかくとして、話だけは聞いておくわ』
『真実もなにも、事実なんだけど……。ていうかそもそも私がこの子を契約させるメリットなくない?』
信用されてないなーと少ししょんぼりしながらも、一歩後ろに下がる。
契約したてとはいえ、見滝原の魔法少女が魔女を倒し、そして同じ町の先達の魔法少女が来たのなら、もう自分がすることはないだろうと永遠は撤退の準備を始める。準備といっても、携帯で今どこにいるのかを確認し、その後の行動・経路を頭の中で考えるだけなのだが。
本来ならば、ここで見滝原の魔法少女であるほむらやマミと出会い、そのまま話し合いの席を設けるつもりだったのだが、この状況、それも難しいだろう。マミもそのうち来るかもしれないが、昨日の今日でメンタルを充分に回復できるとは永遠も思っていない。
さてそろそろ帰ろうかと三人へと視線を巡らせると、何やら不穏な空気が漂っているのを察知し、外へと向きかかけていた足を留まらせる。
先ほどから周りの三人を見るばかりで言葉を発しないほむらに対してしびれを切らしたのか、沈黙を破ってさやかが突っかかる。それも、若干得意げな顔で。
「なにさ転校生。私が魔法少女になって不満な訳?」
「…それ以前の問題よ。あなた、魔法少女になるということがどういうことか、分かっているの?」
普段はほとんど表情を変えることのないほむらが、この時ばかりは誰の目にも分かるほどの表情の変化を見せていた。それを珍しいものが見れたと感心するのは比較的蚊帳の外にいるまどかと永遠の二人であり、当事者のさやかは気づいてすらいなかった。
「(なんだか置いてかれてる感…)」
永遠は戦わなくて済んだという安堵でテンポがずれたのか、現状の三竦みに全く参加出来ていなかった。尤も、三竦みは正しい表現ではなく実際のところはさやかとほむらがいがみ合っているように見えるところに、まどかが仲裁しようとその間でおろおろしているという構図であり、永遠はそれを遠巻きに眺めているだけだった。
埒が明かないのでそろそろ止めようかなと思ったところで、ほむらの言葉で、状況はさらに悪くなろうとしていた。
「あなたのその軽薄さが、後々どのような不利益を撒き散らすか、全く考えが及ばないようね」
「……なにそれ。あたしが軽い考えで契約したとでも思ってんの」
さやかの声色が一段下がる。
ほむらは答えない。しかし視線を逸らさずさやかと対峙する。何よりもの肯定の証であり、それがさやかをさらに苛立たせる。
さやかはほむらを睨みつける。
いつの間にか、さやかの右手には消し去っていたはずの片手剣が握られていた。それを確認しても、ほむらはさやかに対してただ対峙するのみ。武器も持たず、構えることもなく。そんな一触即発の状況に、まどかは声も上げることができず、ただ見ているだけしか出来なかった。
不用意に自分が何かを言うせいで、さらに状況が悪くならないだろうか。そう考えているのもあるが、ただ単純に、目の前の二人が怖い。
何の力も持たないただの人間である自分など、片手間で亡き者にしてしまえるであろう力を内包している二人がぶつかろうとしているのだ。足が竦むのも無理はなかった。
そんな現状をみてどうしようかと永遠は考える。ここで部外者である自分がほいほいと口出しすることで状況が打破されることはないだろう。むしろ、余計に状況が悪くなることは想像に難くない。しかし恐怖を前にして、なお立ち向かおうとするまどかのその心意気、決意を蔑ろにするのもよろしくないとも考えている。
そもそも論として、魔法少女同士の対立は元より歓迎すべきことではない。
どうしようかと、まどかはおずおずと止めようとし、永遠は止める手段をうんうん唸って考えている最中も、当事者二人は睨み合いを続けていた。
「いいよ、もともとあんたのことは気に入らなかったし、あたしも魔法少女になった今ならあんたも全力で戦えるでしょ」
「その浅はかさが愚かだと言ってるのよ。前提として、契約して間もないあなたと私が戦ったところで勝負にすらならないわ」
言ってくれるじゃんと、小さく低い声で呟く。
もはやさやかにとって、ほむらとの間に戦闘以外の意思疎通方法は存在していない。そんなように永遠は感じ、さすがにそろそろ止めるべきかと考え仲裁の準備を始めようかと思ったところに、
「そこまでよ」
凛とした声が一帯に響く。第三者の声。その場にいた四人全員がはっと我に返り、辺りを見渡す。工場の入り口からこつこつと足音をならしてやってきたのは、見滝原組残り一人の魔法少女、巴マミであった。
「話し合いも大事だけど、魔法少女として魔女を倒したなら、まだ他にやることが残っているはずよ」
そう言って永遠たちとは全く別の方向を向いて手を伸ばす。その先には
「あっ…完全に忘れてた……」
魔女の口付けにより自殺を誘引させられた一般人たち。
永遠が気絶させ、さやかが魔女を倒したことで完全に呪いから解き放たれてはいるものの、気を失っていることに代わりはない。このままでも大事には至らないだろうが、かといって放置のままというのも、よろしくない。
いち早く魔法少女としての変身を解いた永遠は懐から携帯を取り出し、119番へと通報を掛ける。淀みなく応対する姿は慣れを感じさせ、それはつまり、彼女が普段の魔女退治においても一般人を見捨てずになるべく救おうとしていたことが伺えた。
救急への連絡が落ち着いたところで適当な理由をつけて電話を切り、携帯をしまったところでふうと一息ついて周りを見渡す。いつの間にか全員の視線を一身に受けていたことに気づき、う、と一歩下がる。
「な、なにかな……」
魔法少女として活動している間は、仮面を被らない彼女とは大違いの気さくで明るい性格であるといっても、その根本はもともとの彼女自身だ。無言で四人もの人間から視線を受ければ緊張しない訳がない。
悪いことをした訳でもないのに、視線をそらして頬を掻く。照れているというよりも、居心地の悪さをその姿からは感じられた。
「いえ何も。……通報、ありがとう。おかげで助かったわ。ーー私たちの学校の生徒もいるみたいだし」
あぁそういえばと再び気を失っている一般人たちの方へと視線をずらす。私服や作業着、スーツの中、一人だけ見滝原の制服を着た少女がそこに横たわっている。まどかが言うにはひとみ、という名だっただろうか。永遠はぼんやりとした記憶を辿ってその少女に関する情報を思い出す。
「まぁそれに関してはお礼を言われるほどでもないし、むしろ指摘されるまで忘れてたのは痛恨のミスとも云えるからね……」
普段の彼女ならそんなミスを犯さなかったと云わんばかり。実際のところ、予期しないところで素の姿をまどかに見られたことが尾を引いているのは事実だろう。それさえなければ、もう少しスムーズに事を運べていたかもしれないと、後になって考える。
しかしそれも結果論に過ぎない。後からならばなんとでもいえる。それは彼女自身も理解していたので、それ以上考えることはしない。
「それよりも」
思い出したかと言わんばかりに、若干大きめの声で全員に話しかけるように口を開く。
「この子が魔法少女になったってこと。それがこれからの大きな問題になるんじゃない?」
そう言ってさやかを両手で差し視線を移す。それにつられて残りの全員がさやかの方へと視線を移していく。片手剣こそ既に持っていなかったが、未だ変身を解いていないさやかのその姿に、全員が視線を留まらせる。
青を基調とした軽装の剣士のような出で立ち。身軽さを売りにした立ち回りでもするのだろうかと永遠は少しだけ考える。
「それもそうね。……美樹さん、説明はしてもらえるのかしら」
「……はい」
責めるような口調ではないものの、いつもよりも固い口調にさやかの先ほどまでの威勢はどこへやら、しおらしく頷くしかなかった。
変身を解いて見滝原の制服に戻ったさやかは、若干の躊躇いを見せながらもおずおずとその手に持ったソウルジェムをマミへと見せる。
「ほんとはマミさんに相談してからにしようと思ったんですけど……、居ても立ってもいられない事情があってですね……」
視線をきょろきょろとあちらこちらに動かして、挙動不審な様を隠すことなくえーと、その…と続く言葉を紡げずにいた。
そんなさやかの姿を見て、マミはため息をひとつ。
「沢山言いたいことはあるけれど。まずは、ーー無事で良かったわ」
さやかの元へと足を進め、その身体を軽く抱きしめる。さやかが本当にそこにいるのかを確かめるかのように。優しく、しかし逃がさないと言わんばかりの抱擁。
マミにとっても魔法少女という仲間が増えることに反対の意思はないし、嬉しくない筈がない。
しかしマミは魔法少女という使命の過酷さを知っている。必要に迫られれば日常にも支障を来すことを身を以て理解している。
だからこそだ。
だからこそ、何も相談せずに契約されたことに対してマミは怒り、悲しむのだ。
「……ごめんなさい、マミさん」
それを理解したさやかは、何も言い訳することなくただ一言、自分の非を詫びる。
マミとて、謝罪の言葉が聞きたかった訳ではない。どうして。その疑問だけ。そしてその問いの答えも聞きたい訳じゃない。
無事を確認できれば、それでいいのだ。それだけで充分。
「さて、いろいろお話ししたいことはあるけれど、そろそろ救急の方もやってくるでしょうから、お暇する準備をしないと」
気づけば遠くからサイレンの音が鳴っているのがきこえた。こんな近未来な街でも、サイレンの音は他と一緒なんだなとどうでもいいところで感心する永遠をよそに、他の面々は既に逃げる算段を整えていた。
本来ならば通報した者の義務としてここに残るのが通例だろうが、通報したのが下校時間からかなりの時間が経った中学生と、家出真っ最中と判断されても仕方のない高校生ならば、そのまま対応するのはよろしくないだろう。変なところで細かい事情を聞かれても困る。それを理解しているためか、全員が素早く去る準備を整えられたというわけだ。
「お暇するといっても、宮湖さん、あなたには聞くことがいろいろあるし、美樹さんにも聞くことがたくさんあるから……。そうね、明日はどうせ学校はお休みだし、少し長い目に話し合いがしたいから……もしよかったら私の家に来るのはどうかしら。魔法少女たちのお茶会も兼ねて」
何ならお泊まりしてもいいわよ、とキュートなウインクをしながら魔法少女の面々を誘うマミ。別にそれはいいけれど唯一となってしまった候補生のまどかはどうするのだろうかと考える永遠。完全に無視して他の事を考えているほむら。魅力的な誘いながらもお説教が待っていると考えるとなんとも乗り気になれないさやか。そして、どうすればいいのか迷うまどか。
「…私は別に構わないけれど、他の子達はどっちにしても一旦戻った方がいいんじゃないの? 親に連絡とかもした方がいいし、着替えとかも」
昨日までの傷心し憔悴していた巴マミという少女はどこにいったのだろうと、永遠は横目にマミの姿を見ながら考える。それともその結果がこの誘いなのだろうかとも考える。
そして構わないといいつつ、実は永遠は乗り気ではなかった。まさか初めての"お泊まり会"がこんなタイミングで来るとは思ってもみなかったからだ。まだ確定した訳でもないのに、内心緊張しまくりなのだ。外面には現れていないがとにかくヤバいヤバいと、これからのことを一所懸命にシミュレーションしている永遠をよそに、まどか達見滝原組との話が進んでいく。
「私は遠慮させてもらうわ。まだやることもあるし」
と断ったのはほむら。
その返答は誰でも予想できていたとはいえ、それでも隠しきれていないマミの残念そうな表情にほむらは一瞬だけ動作を止めるが、やはりその返答を覆すことはなかった。
「あたしは、とりあえず親に相談してからですねー」
若干気乗りしない様を見せながらも、期待と不安が入り混じった表情を見せているのはさやか。話題の中心の一人になるのは確定しているため、気乗りしないところはあるが、それでも”お泊まり”そして”マミさんの家”という二つの魅力がそれを押しのけて頷こうとさせている。もちろんそれらも、両親の許可があってからの話にはなるが。
「私は……」
他の魔法少女たちが各々動く中、まどかは所在なさげにそれぞれの動きを眺める。そしてマミと視線が合ったところでまどかへとにっこりと微笑みかける。
「鹿目さん、あなたももしよかったら参加して欲しいのだけれど。いえ、むしろ都合さえ良ければ是非参加して欲しいわ」
是非にと詰め寄り、まどかの手をとって猛烈にアプローチをかけるマミに、かけられた本人はもとより、それ以外の三人も若干驚きの表情を浮かべる。
「え、えーと、私もパパとママに相談してからになるので……」
マミの熱心な姿に若干の苦笑いを見せながらも、照れを隠せないまどかを見て満足がいったのか、握っていた手を離し、最後と言わんばかりに永遠の方へと向き直る。
「宮湖さん。貴女の場合は拒否権はないのだけれども。そろそろ、腹を割った話もしたいと思っていたところだし」
「の、のぞむところ…」
この女、相手によって対応を変えすぎじゃないのかと心の中でぼやきながらも、その案自体には賛成だったので拒否する材料が存在しなかった。タイミング的にもちょうどいい頃合いなのは永遠も感じていた。お互いのことを最低限分かり合えた中で、そろそろもう一歩踏み込んだ話をするべきだと。場所さえもう少し精神的に持ちそうな場所であれば尚のことよかったのだが。
永遠がこの見滝原の街に来て、そしてこの街の魔法少女たちに出会ってまだ数日、一週間も経っていない。そんな短い期間の中ではお互いのことは探り探りの状態になっているのは否めない。だからこそ、このような場が必要だったのだ。だとすればこれは偶然が必然か、誰もが感じていたからこそのチャンス。逃さないわけにはいかない。ーー尤も、逃げようとしても逃げられない状態になっているのだが。
それぞれが連絡を取ったところ、週末で明日が休みということもあり、お泊まりは比較的簡単に許可が下りた。着替えなどの荷物の準備といった、各々の用意のために、まどかとさやかの二人は一旦自宅へと戻ることに。その流れでほむらは自然と自宅へと戻り、その場に残ったのは永遠とマミの二人だけになった。
「そういえば、貴女はどこに住んでいるのかしら。いままで近くであなたみたいな魔法少女の話は聞いた事がないのだけれども」
「えーとね、私は大城市ってところから来たから……。電車だと乗り継ぎ合わせても2時間くらいは掛かるかな」
マミにとっては聞いたことのない街の名前だ。ということはおそらくは近いところではないのだろう。電車で2時間となると、それなりに離れているのは想像に難くない。
ならば尚更気になる。まさか1日ごとに帰っているという訳でもあるまい。無理な距離だとは思わないが、それだと結構な交通費が掛かるだろう。もしかして目の前の少女はその程度なら懐が痛まないお嬢様なのだろうかとふと疑問が浮かぶ。
そんなマミの疑問をよそに、永遠は少し目を逸らしつつも正直に答える。
「……その辺で寝泊まりしているよ」
まさか勝手に空き家を使っているなどとは言えない永遠。堂々と使っているものの、人にいうのはさすがに憚れる。罪悪感は当然ながら持っている。行為を目的のために正当化しているしているだけであって、悪いことは重々承知している。だから詳細は口にできない。
それをどう受け取ったのか、マミはやたらと悲しい方向に受け取ってしまったらしく。
マミのその表情で情報伝達の齟齬を感じ取った永遠は訂正しようと口を開きかけたのだが、時すでに遅し。
押しに弱い永遠はそのまま流れるように、マミの自宅へと連れて行かれることとなった。