物音で目が覚めた。といっても、物騒な物音ではない。家庭的な、物音。どこか安心する物音。
網膜を刺激する暖かな日差しとかすかに鼻腔をくすぐる匂い。
そこまで認識したところで永遠の意識は覚醒した。そうだ、そういえば昨日は——。
「あら、おはよう。意外と早起きなのね」
見覚えのない……否、まだあまり馴染みのない顔が視界に入る。見滝原の魔法少女の統括的存在、巴マミ。
永遠は頭を巡らせて記憶を掘り起こす。何故この子の姿が朝っぱらから……。
そこまで考えて、ようやく記憶が繋がる。そういえば、そうだ。そういうことだった。そこまで頭が働いたところで隣を見ると、まだ夢の世界を満喫しているらしい二人の少女の姿があった。意外と、というと失礼かもしれないが寝相はいいようで、二人仲良く眠っている。
ふたたび見やると、キッチンでぱたぱたと動くスタイル抜群の少女の姿。手慣れたものであり、いくつもの作業を同時並行でやっているらしい。どうやら彼女は朝からしっかりとした料理を作るタイプのようだ。宮湖家はどちらかというと朝はコンパクトなタイプなので、朝からがっつりは正直、きつい。
そんなことを考えているうちに、どんどん頭が冴えてきた。どうやら久々に深い眠りについていたようで、普段よりも頭が働くのが遅い。
「(大してお互いの信頼度が高いとはいえない中で、相手の家でがっつり寝てるとか……)」
つい自分の行動にため息をついてしまう。
元来の性格が臆病者で小心者の永遠としてはありえない話だった。やはり、見滝原に来てから寝る時まで含めて、多くの時間を無理やり意識を変えていたからだろうか。普段やらないようなことをやっていたせいで、行動にまで影響が出てしまっている。しかも、あまり好ましくない方向に。
とはいっても、おそらく意識を切り替えている方の永遠しか知らないマミにとっては、まぁそんなものだろうというくらいの認識しか持っていない。そして両方の永遠を知っているまどかはまだ夢の中。
危機感を持っているのは永遠本人のみ。だが、過ぎたことに対してずっと考えていても仕方がない。大事なのは次、これからどうするかだ。とりあえず次にやるべきことは。
「お、おはよう。……お布団、ありがとうございました」
挨拶することだった。
正直いって、寝てる間に意識が切り替わって戻ってなくて幸いだった。ぶっちゃけると、他人の家にいるという事実だけで、たとえ意識を切り替えていても永遠にとっては相当なプレッシャーなのに、それに加えてがっつり睡眠をとって朝の挨拶を食らう。元来の永遠であれば、悲鳴を上げていてもおかしくはない。もちろん、大きな声は出せないので、控えめだったであろうが。
何にせよ、一度考える時間が必要だ。まずこの場から脱出せねばならない。
実際に尿意があったので嘘ではないが、用を足すという名目で一度この空間から逃げ出し、今後についてじっくり考えることのできる時間・空間的余裕を得ることができた。
ついでにというわけではないが顔を洗い、目を覚まさせる。そういえばいつも使っている洗顔料を忘れたことに今更ながらに気づく。
「(とりあえず、考えないと……。成り行きで泊まっちゃったけど、この後がノープラン過ぎて、どうすればいいのか全く分かんないよ……)」
頭をフル回転させ、必死で考える。全ての自分の意見を取捨選択し、なりふり構わず最良の選択を採択しようとするが、如何せん、意見を出すのは本性が全て頼りないこの宮湖永遠という少女、自分自身だ。全くもって使えない意見しか出てこない。
ダメだこりゃ、と自分で頭の中の議会を終了させ、とりあえずと言わんばかりに一度部屋へと戻ることにする。どうしようもないといえばどうしようもないが、ここで取って食われることはないだろうと楽観的な考えのもと、悩みを未来の自分に投げることにした。大体それでこれまでも後悔しているが、今の永遠にとって、それ以外の選択肢を採ることは出来なかった。
部屋に戻ると、まだ状況は変わっていなかった。寝ている者も起きている者も変わらず。よくよく時計を見てみると、まだ早起きといっていい時間だった。普段の永遠であれば、こんな時間に起きるのは珍しいとさえいえる時間。
さて、せっかく起きたのだからどうしようかと考えているところでマミと目が合う。立場はさておき、置かれた状況としてはゲストだが、だからといって何もしないのは何だか居心地が悪い。何か手伝おうかとマミに声を掛けてみるも、
「もうすぐで終わるから大丈夫よ。それよりも、鹿目さんたちをそろそろ起こしてもらえるかしら」
まだ早くないと喉元まで出かけた言葉を何とか飲み込んで了解の返事を返す。もしかして見滝原ではこの時間はもう普通に活動する時間なのだろうか。やっぱり先進都市は活動時間も先進的なのかとどうでもいいことを一瞬考えたが、すぐに頭から追い出し、言われた通りに未だ夢の中にいる二人を現実へと連れ戻すことにした。
「(結構むずかしい任務だねこれは…)」
生来からのコミュ障である永遠にとって、他人を起こすなんて経験はおそらく幼稚園児くらいの時に両親を起こす時にやったきりだ。少なくとも永遠の中の記憶ではそうなっている。そしてそれは勿論間違いではなく、正しいものであるために、永遠は無用な混乱を自分で勝手に引き起こしていた。
どうやって起こせばいいんだろう。
声だけでいいのかな、それともやっぱりゆり起こせばいいのかな、触ったら変に思われないかな、布団をひったくるのはやっぱり流石にだめかな。
ぐるぐると思考を巡らせるが、そんなことをしていると無駄に時間を食ってしまう。マミに変に思われないためにも、そろそろ動かねばならない。意を決して、
「お寝坊さんたち! 朝だよー!」
自分の声と携帯のアラームのコンボで起こすことにした。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末様でした」
マミが作ってくれた朝食を平らげ、さすがに全まかせは悪いと思い、後片付けを手伝う。もともと小食な永遠にとって、朝食はあまり食べなくてもいい食事に入るのだが、味の良さなのか、思ったよりも腹の中に収まった。朝は洋食という宮湖家の文化と偶然合致していたというのも大きかったが、他人の家で朝食を残すという無様を晒さなくてよかったと一人で勝手に安心していた。
「で、泊まって朝ごはんまで頂いたのはいいけど、このあと何かするつもりだった?」
皿洗いも概ね片付き、一息つくために紅茶をいただく。ふとテレビに目をやるとシリーズもののアニメがやっていた。魔法少女に憧れていたはずの自分が、今や本当の魔法少女になっているのだから、世の中何が起こるかわからないものだとしみじみ考える。
別に自分が映されている訳でもないのに、なんだか小っ恥ずかしくなって視線を外し、窓の外をみる。外出するには持ってこいと言わんばかりの日和。雲も少なく、まさに快晴という言葉を表すには持ってこいの空模様を見せている。
視線を部屋の中へと戻し、ふと気配を感じて目をやると、マミがこちらをじっと見ていることに永遠は気づく。
「宮湖さん。あなた、この先の見滝原での生活基盤はどうするつもり?」
「え、行き当たりばったりの適当にやるつもりだったけど……」
その辺は本当に何も考えていなかったのが実際のところであった。行動せねばもう駄目だという強迫観念じみたものに駆られて見滝原に来たはいいものの、その後どうするのかを考えずに来てしまったものだから、今に至るのである。
そんな永遠の話を聞き、ホームレス当然の生活をしていると勘違いしているマミはなんとかしようと考えるが、当の本人はそこまで危機感を抱いていなかった。
というのも、年齢の割に永遠は金を持っている。それは生来の金を出し渋る行動の積み重ねや、今までのお年玉やお小遣いに使い道がなかった結果だが、それが今となっては役に立っている。アルバイトをしている同級生ほどではないが金銭面を比較的気にすることなく行動できるのは強みであった。だがマミはそんなことを知る由もなく、ただ行くあてもない少女という認識しかない。
「だったら、このままここにいてもいいから、少しお買い物に行きましょう」
そういう訳で、半ば強制的にショッピングモールへ連れて行かれることになった。拒否権もなさそうな勢いに断ることもできず、名目上はパトロールではあったが、有名無実とはまさにこのことだと心の中でため息をつく。
向かった先は、永遠の地元にもあるような一般的な複合型ショッピングモールだったが、見滝原の建造物は一般的な見た目だと建築許可が下りないのかと疑問を持たざるを得ないほどだった。具体的にはデザインに力と時間と金がかけられているのが素人目にも分かる外観だった。
建物の中身こそ見滝原の外にあるモールと大きく変わるところはそうなかったが、やはり見滝原にいるということを実感するには充分な場所であるのは間違い無く、心なしか気分が高揚するような気すら感じた。
そんなモールの中を中学生3人と高校生1人がわいわいと、見た目上は楽しそうに買い物を楽しむ。どこからどうみても、その辺の学生と変わりはない。
魔法少女という役割さえなければ、何の憂いもなく楽しめていたのだろうか。自分はともかくとして、この3人はそういった世界を知らなければどんな人生を過ごすことになっていたのだろうか。ふと考えてみるが、やがて無駄なことだと気づき、その思考を破棄する。
そんな考えよりも目の前の現実のほうが大事である。
気づけば目の前の少女達の買い物に、そろそろ歯止めをかけないといけない具合になってきている。本当にそんなに買わないといけないのかというくらいに至る店で買い物を続けている。
懐事情にある程度の余裕はあったとはいえ、生活用品を一式買うとそれなりの金が飛ぶ。いくら少し余裕があるとはいっても、所詮はバイトもしてないしがない学生だ。万単位の金が飛ぶのを平気に見ていられるほどの財力はない。
「(生活用品買うのってこんなにお金かかるものなの……)」
これまでの人生で、生活必需品等を自分で買ったことなど一部を除いてほとんどなかった永遠にとって、一般的な相場というものがさっぱり理解できない。価格のモノサシを持っていないため、どれくらいの値段だとお得なのか、割高なのかというものがさっぱりわからなかった。年下の三人の盛り上がり方はそのあたりの感覚をしっかりもっているように見える。
ちょっぴり恥ずかしいような心もあるが、かといって今更どうにかなるものでもない。
いろいろ勧めてきてくれるこの少女たちの存在はとてもありがたい。同時に永遠自分の生活力のなさというものを実感する。これまで両親は何も言わなかったが、もしかするとイマドキの女子校生はこの程度の生活力を持っていないといけないのだろうか。そんな不安すら覚えてしまうが、どうせ今だけだとさっぱりその考えを切り捨てる。
魔法少女になって数年。様々な経験によりそれなりの自信を手に入れてきた自負はあるが、それでも生来の性格は変わらない。この先も、同じような人生を進むのであれば、あまり考える必要もないと結論づける。
「もう他に買わなくてもいいよね? ぶっちゃけ、魔法でほとんどのことは解決できるし」
だからこれ以上買うのは金の無駄だと言外に含ませる。
永遠としては、自分の買い物に三人を付き合わせているというこの状況自体が既に相当なストレスになっている。初めての経験だし、何よりも自分のために時間と労力を使わせているという罪悪感がすでに永遠の中に相当重くのしかかっているのだ。
慣れない場所で慣れない人たちと慣れない行動。慣れないことばかりで、正直なところ、永遠の内心はそろそろ仮面の誤魔化しが難しくなってくる頃であった。同じ魔法少女とはいえ、まだ出会って間もない少女たちとこうやって和気藹々と買い物を楽しむようなメンタルは、内気を煮詰めたような存在である永遠には持ち合わせていない。具体的にいうと、胃がキリキリしてるような幻覚を感じている。
「あら、せっかく楽しくなってきたのに、これだけでいいのかしら」
「十二分なくらいだよ。もはやお荷物レベルだよ……」
だからとっとと帰りたいと言外にアピールしてみるが、知ってか知らずか見事に無視されてしまう。
「あ、でもそろそろいい時間だし、お昼にするってのはいいかも」
助け舟を出してくれたのは新米魔法少女の美樹さやか。神様仏様さやか様…と心の中で合掌しつつ、彼女の言葉に全力で乗っかる。
「いいねそれよしお昼にしようそうしよう」
だからとっとと帰ろうと言いかけたところで、ストップがかかる。
「目的はあくまでも、魔女がいないか見て回るのだから、帰るのはまだ早いとは思わない?」
そんなことはないかなぁと言葉にはできない永遠だったが、せめてもの抵抗で雰囲気だけで帰りたいことをアピールするが、マミは都合よくそれを無視する。 正直、これ以上いろいろ聞かれてもそろそろボロが出てきそうなので、いい加減一度離れたいというのが永遠の心情であった。助け舟はないのかと残りの二人を見るが、さやかは乗り気な様子であり、まどかはこちらに加勢出来なさそうな雰囲気であった。
この場はもとより永遠にとって不利。アウェーである以上、抵抗も虚しく着いていかざるを得なかった。
モールの中心に近い場所に構えられたフードコートは建物の規模に比べるとかなり広く作られており、ピーク時でも席を確保でき、迷いそうだという一点を除けば快適であった。店舗の数も揃えられており、それぞれ好みの昼食を選びにいく。
「(こういう時は座席の確保で残るに限る……)」
荷物もそれなりにあったので、監視を兼ねて自分からその役目を買って出た。
適当に誰かと同じものにしておけばわざわざ店員と話すこともなく、食事にありつけるので、永遠にとっては願ってもないポジションだった。念のため軽く人除けの魔法を使っておけば、見ず知らずの誰かに話しかけられることもないので、不安に感じることもない。
ようやくそこで息をつく。
仮面の人格で動くこと自体はもはや慣れている。なにも見滝原に来てからはじめた話ではない。地元でだって魔法少女として活動するときは時折やっていることだ。
仮面を被る間は元来の内気な性格も隠し通せるし、本来の自分なら出来ないようなこともできてしまう。だがそれは飽くまでも仮面は被った自分自身だ。仮面を被り続けるのは息が詰まるし、演じることはストレスになる。
そのうちちゃんと打ち明けないといけないんだろうなと思いつつも、やはりまだ時期尚早かと考える。遅すぎると信頼関係の部分に悪影響が出るかもしれない。だが早すぎると信用されずに最悪追い出される可能性もある。こういったタイミングを図るのは永遠にとっては完全に苦手とするところであり、人間関係に関してのあらゆる能力に乏しい彼女にとって、それは想像での良否の判断すら出来ないものだ。
ため息をひとつ。
だがそれはもはやどうしようもないことだ。避けられないのだから、なんとかするしかない。わからないのなら、その時々で判断するしかない。
基本的に深く考えることが得意でない永遠は、なんとかなるだろうと根拠のない楽観的に思考に落ち着き、これ以上考えるのは無駄だと頭の中から追い出す。
周囲を眺める。
休みの日だからか、家族連れが多い。まだ一人で歩くのは難しそうな子、中学生くらいの双子の子、少し年の離れたきょうだい。それぞれに親がいて、楽しそうに食事を摂っている。別の方向に目を転じると自分と同じように席の確保をしているのか、小学生くらいの子がひとりで席を座っている。その近くにはデートなのだろうか、自分と同い年くらいの男女が楽しそうに談笑している。
それぞれに人生があり、ストーリーがある。とてもいいなと思う。魔法少女として活動するための十分すぎる理由だ。
そんな風にしばらく周囲の風景を眺め続けていると、ようやく注文の終わったらしい一行の姿が帰ってきた。それぞれ別の店で購入したにもかかわらず、タイミングがちょうど被ったのか、なんとも仲の良いことだとその姿を目に映す。
そういえば家族以外の誰かと一緒に食事をするのはいつぶりだろうかと思いを馳せる。知り合いの魔法少女たちと食事をした記憶はあるが、それもいつの頃かと思い出す程度には過去の記憶となってしまっている。
別に他人とのつながりを欲している訳ではないので、そこまで気になるわけでもない。
だが、誰かと共に生きていることが当たり前であるような生き方をしている存在を目の前にすると、やはり永遠は居心地が悪いと感じてしまう。どこまでいっても日陰者にしかなれないと自覚しているからこそ、日向にいるような少女たちの姿は永遠の目には眩しく写りすぎるのだ。
そう感じていても、今の永遠は仮面による日向者を演じている。そんな表情やしぐさは噯にも出さずに目の前の三人の少女たちとやりとりをする。
「ありがと。席は異状なく、守り抜いたよ」
「いや、守るもなにも、奪いに来るやべー人なんていなくないですか……」
そんな冗談もかませるくらいには、永遠は演じることが、出来ている。
食事を終わらせ、談笑のネタもひと段落し、さてそろそろお暇かなと考えていたころにまさにそのタイミングを図ったかのような機微を突いて口を開く。
「はいはい、そろそろ質問したいんですけど!」
都合を全く無視してこちらの領分へと入る少女の声に、その声の主へと若干辟易した様子で見遣る。
なりたて新人魔法少女の美樹さやか。元気なのは結構だが、正直にいうと永遠はあまり得意なタイプではない。仮面をつけて演じられている間はまだ大丈夫だが、本来の永遠が出会ったならきっと何も出来ずに硬直したままであろうことは想像に難くない。
相手が年下であろうと、魔法少女として後輩であろうと、永遠にとって自分のアドバンテージなどあってないようなものなのだ。ぐいぐいとくる相手はそれだけで、永遠の気力を全て奪っていくといっても過言ではない。魂が抜けてないのは9割9分仮面のおかげだ。
「なにかな。魔法少女一般とプライベートなことはまぁまぁ答えられるけど、プライバシーの部分は秘密にさせてもらうよ」
プライベートな部分など、話すほどの内容もないのでどれを話しても問題はないだろうと自分の中で結論づけ、少し気怠げに応える。
「差しさわりない範囲で教えてほしいんですけど、ぶっちゃけ、どんな願いで魔法少女になったんですか?」
プライバシーのど真ん中をブチ抜いてきたのはもはや感心せざるを得ないとさえ思う永遠だったが、あえて努めて表情を変えずにそのまま答えた。
「細かな内容は伏せさせてもらうけど、自分のためじゃなくて他人を願った内容なのは間違いないよ。後悔した時もあったけど、結局自分で折り合いをつけることができたからこの願いとも仲良く付き合ってるよ。まぁ能力自体も、一部を除けば悪いものじゃないからね」
「へー。魔法少女としての能力ってやっぱり願い事で結構左右されるもんなんですか?」
「うん。それは間違いない。例えば誰かの怪我や病気を治したいという願い事なら生命力に特化したものになるし、話を聞いてほしいという願い事なら催眠や誘導、洗脳といったものに特化したものになるかな。他にも多分、それぞれの願い事でいろんな能力が発現するんだろうけれど、やっぱりその辺はそれぞれが隠したい内容だから私もあんまり知らない」
願い事は魔法少女にとっての根源であり、人によっては何よりもの恥部になる可能性すら孕んでいる。願い事の内容を決める暇もない者もいれば、充分に考えた末にその結論に至った者もいる。そしてそのどちらでも、自身の願い事に満足している者と、後悔してる者がいる。
「やっぱり別の願い事に変えたい、なんてのは出来ないからね。その時の自分がよく考えた結果なんだって思えば、多少はどんな願い事だったとしても納得させれるものなんじゃないかな。自分の願い事を否定していると、魔法自体もそのうち使えなくなるし」
正確にいうと少々語弊があるが、永遠は言葉の綾ということで流しておく。おそらくマミは永遠の言いたいことを理解してくれているのか、あえて訂正はしてこなかった。
「魔法といえばなんですけど、魔法少女の魔法ってどのくらいのことが出来るんですか?」
自然に聞かれたくない部分から離せたと安堵しつつ、質問の内容を考える。
言葉だけでイメージすると、さも万能のように聞こえるが、実際のところそうではないのは魔法を使う本人たちが一番理解していることだ。あれもしたいこれもしたい。そんな願いを無限に叶えてくれるのなら、魔法少女の契約の代価なぞ、とうの昔に消し去っている。だがそれが出来ていない以上、万能ではない証左となる。
「まぁ常識的な範囲なら、結構いろいろできるよ。物理法則とか因果をねじ曲げたりだとかりするのはさすがに魔法では難しいだろうけれど、やりたいと思ったことに対してのイメージが続く限り、魔力があればいくらでも実行できると思う。たとえば戦闘機よりも早く空中を飛んで移動するとか、クソデカ巨大ロボットみたいなのを作ったり、……あとはまぁそれこそ分身作ったり簡易的な結界みたいな空間を作ったり」
試したことはないけれどと付け加え、その他適当な事象を並べる。基本的には様々なことができるということには間違いはない。だが、その事象を引き起こすにあたっての困難さやイメージの程度により、必要とする魔力の消費量は異なる。当然のことながら、あまりにも現実からかけ離れた事象は魔力の消費も大きく、実行困難であるのが実際のところである。
「とはいっても、言葉で説明するよりも実際にやってみた方が早いと思うよ。現実のイメージと魔法少女としてのイメージっていうのは結構異なるものだからね。ん-、そだね。具体的にいうと、例えば私は武器の一つに槍を持っているんだけど、投擲して魔女を効率的に倒すために、魔力でそれを複製する。現実としては槍が増えるなんてありえないけれど、魔力から作り出してる以上、魔力が残っていればそんなの出来て当たり前というイメージだから、魔力の消費は微々たるものなんだよね」
魔法ならできるというフィルターを通せば、案外いろいろできることは増える。それでも実行困難な事象が、やはり魔法少女としての魔法の限界なのだろうと永遠は考える。魔法少女に成りたての頃、まだまだノービスだった時に少しばかり教えてもらったが、今はもう聞けるような相手はいない。かろうじて聞けるとすればキュゥべえが詳しいのだろうけれど、あまり聞きたくないというのも実際のところなのだ。あれに頼るということがなんだか負けに感じてしまう永遠は、なるべく自分自身で解決しようとしている。
「まぁ一言でいうと、努力で割と解決できるかな。出来ないと思っていたことも、いろいろ試し続けると、できるようになったりするし。効率もだんだん上手く回せるようになるし」
自身の経験を基に少しだけ話をする。
初めは一辺倒の魔法少女だった。同じ得物による同じ戦い方しか出来なかった。だけれども知識と経験と重ね、イメージを深めることで様々なことができるようになった。尤も、彼女の場合はその性質に左右されているものが無いわけではなかったが、それでも魔法少女が持ちうる可能性としての、能力の幅を広げる過程としてはごく一般的なものであった。
そして、それから紆余曲折を経て今の永遠の戦い方が確立される。自身のみで強くなったとは思ってはいない。だが、確実に着実に経験を重ね、能力を磨き、研鑚していった。宮湖永遠という魔法少女の生きてきた日々。その結果生き残り、今がある。
「だから、経験が必要。ワルプルギスの夜をなんとかするためには、それまでに経験を積まないといけない。ありとあらゆる攻撃ができないと。手数が必要だね。魔女に対してどんな攻撃が効果的になるのか、何が効くのか、どういった戦い方が自分に合うのか。それを知るためにも戦って、訓練して、生き残って。経験して強くならないといけない」
強くなければならない。魔法少女として生き残りたいのであれば、それは必須条件になる。弱肉強食という言葉がまさに当てはまる存在だ。
弱いままでは魔女を狩ることは出来ず、そして魔女に食われるのみ。生き残りたければ、強くあれ。そして、今回のような条件であれば尚更だろう。
「あれはおそらく、生半可な攻撃じゃ何の意味も為さない。象に対して砂利の一粒を投げてもかすり傷どころか認識すらされないでしょ? そういうものだろうね」
今の状況は確実に実力不足であることは、遠目とはいえ、ワルプルギスの夜という弩級の魔女を実際にその目で見て、知りえている永遠が一番よく理解している。
「だから、強くなってね。一緒に戦ってくれるなら。この街が好きなら、尚更。生き残りたいなら、当然」
柄にもなく、真剣な話を続けてしまったと雰囲気を軽くしようと冗談の一つでも言おうとしたその瞬間。
「……っ!?」
突如身体を覆う違和感。それは数瞬も経たずにはっきりと認識させられた。
「魔女」
「えっ……?」
魔法少女の三人はそれを明確に感じとり、しかしその契約の外にいる少女だけは、それについていくことができない。
「そこまで遠くなさそう。これなら早い段階で処理できそうだね。……私はまどかちゃんを守るから、二人で先に行って。問題なければ、守りつつそっちの援護に向かうから」
この街の魔女退治はあくまでもこの街を管轄する魔法少女に委ねる。おそらく、永遠も加わればすぐに倒すことが出来るだろう。しかし、何の見返りもなくそれをやってはいけない。魔法少女としての暗黙のルールだ。縄張り争いは常にセンシティブな問題となって争いの種となる。見滝原の統括魔法少女が目の前にいる以上、誤解を受ける前提は存在しないが、それでもやはり初手は渡さなければならないものだ。
マミとさやかは無言で頷き、魔女の気配の濃い方向へと駆け出す。そして残された永遠とまどかは、
「とりあえず、お盆返して離脱準備しようか。……あなたの事は魔女からは守るつもりだけど、どうする? 二人を応援する?」
着々と準備を始めるまどかに追いかけるか否かを問う。だが優しいこの少女の答えは既に想定済みで、そしてその予想に違わぬものであった。
故に永遠はまどかとともに、その気配が濃くなる方向へと向かう。
「ちょっと待ってね」
向かう前に、一つの深呼吸。魔女の気配を感じてから、表情や声色には出さないようにしていたが、やはり身体は正直なもので、全身が強張っている。恐怖で筋肉が緊張しているのか、少し身体を動かしにくい。
やっぱり魔女は怖い。
直接対峙することがない、今回のような場面でも、やはり魔女に近づくという事実それだけで恐怖は身体を廻り、思考を支配する。
怖い怖い怖い怖い。
行きたくない。
できることなら向かうのは避けたい。
それでも、魔法少女の候補生に無様な姿はこれ以上見せられない。
「(私は宮湖永遠。魔法少女の宮湖永遠。強い身体と心を手に入れた、宮湖永遠。大丈夫、死なない。生き残れる。わたしは、負けない)」
自分をもう一度奮い立たせるために暗示のように自分に言い聞かせる。
ようやく身体の緊張が解れ、思考が比較的クリアになる。これなら大丈夫だと、自分を落ち着かせる。
永遠は自分を待ってくれていた少女を見やって、にこやかに口を開く
「お待たせ、行こうか」
「まどかちゃんはさ、実際のとこ魔法少女になりたいの?」
魔女の気配のする方向へ移動しながら、魔法少女の才能を見出された少女へと永遠は問う。
「…私も、分からないです」
「そっか。昨日今日で色々と言ったけどさ、正直言うと、私は魔法少女にならなくていい人生なら、わざわざ苦しいほうを選ぶ必要はないと思うよ」
たった一つの願い事のために、今後の人生すべてを犠牲にしなければならないのだ。
通常では叶えることのできない願いごと。たしかに、今の自分を懸ける価値はあるのかもしれない。だが、その後の人生まで本当に棒に振ってしまってまで手に入れたいものなのだろうか。
これだけあれば、自分の人生すべてを投げうってもいい。それほどの覚悟があって初めて契約に価値が生まれる。
それほどの強い思いがあるだろうか。
「強い思いがないのなら、きっぱりと諦めた方がいいかな。自分自身を含めて全員のためにも」
だが、そうでないならば。自分の人生と天秤にかけても、傾くほどのものであれば。それはもう誰にも何も口出しできるものではない。その後後悔したとしても、それは自分の責任だ。魔法少女になると決めたその時、その選択肢を選んだ自分自身が責任の所在となる。先達として、選ぶも選ばないもそのどちらの選択肢も提示する。それが宮湖永遠という少女の立ち位置である。
「これはあまり言いたくないことなんだけど。やっぱり魔女っていうトンデモ存在と戦う以上、私が知る限りの話だけど魔法少女ってどうしても短命なんだよね。魔法少女としての適性って思春期前後がピークらしくて、その頃にしか契約出来ないみたいなんだけど、ハタチを超えた魔法少女ってほとんどいないんだよね。大学生ですらあまり見かけない」
それだけ、長くやるということは難しい存在なのだ。戦えば戦うほど、様々なリスクを背負うことになる。魔女との戦いで命を落とすならまだ本望だろう。だが、時には魔法少女同士の戦いで命を落とす者すらいるのだ。
無駄、といってはさすがに言い過ぎかもしれないが、やらねばならないことを全うせずに別の事象によって命を落とすのは永遠にとっては理解できないことだった。もちろん、魔法少女同士の戦いの理由は理解できるし、実際そういった戦いをせねばならない時もあった。だが永遠は自分に降りかかるそれらの悉くをねじ伏せ沈黙させてきた。もちろん、命を奪うことはしなかったが、同じ使命を持った魔法少女同士で戦うこと自体が永遠にとっては理解できず、ただただ心身への負担にしかならなかった。
何にせよ、魔女にしても魔法少女同士にしても、命を落とすリスクというものは相当に高いのは間違いないのだ。
先輩、先達がいた数年前とは違い、もはや永遠の地元の周囲に永遠よりも年上や先輩魔法少女はもういない。最年長者かつ最も長寿な魔法少女なのだ。誰にも頼ることすらできず、彼女らの手本となれるように、日々研鑚を積み重ねてきた。だからこそ、いつ自分のこの命が、ソウルジェムが砕けてしまうのかという不安が常にあるのだ。
「出来ることなら、魔法少女なんて存在のことは知らないままで、一生を全うして欲しいよ。こんなことをしていて、命を落としていたら」
救われないよ。
それは言葉にしなかった。
自分に帰ってくる言葉を口にするには、永遠の心は少々強度が足りない。
そして、
「魔女の結界が近づいてきたよ。あっちから周囲の人間を飲み込むこともあるから気をつけてね」
不自然に人の気配が少なくなっている場所。そこの奥に一際違和感を放つ空間がある。魔法少女としての適正があるからか、ここまで来るとさすがにまどかもその違和感を肌で感じ取っている。
ソウルジェムを近づけ、不可視となっている魔女の結界が現実の世界へと質量をもって現れる。既に先客がいるためか、活性化しており、蠢いているようにも見える。
「準備はいい? アナタを守りながら進むから、あんまり突拍子もない行動はとらないでね」
手を取り、魔女の結界をこじ開けて中へと入る。一瞬の違和感の後、視界は現実から切り替わる。
魔女の結界の中は拍子抜けするほど単純な構造になっていた。戦闘中だからだろうか、使い魔も見かけず、結界を迷路にする余裕もないからか、ほぼ一直線の通路のようなものになっている。
魔法少女としての姿に変身した永遠が、まどかのやや前に出て警戒しながら前進していたものの、心配は杞憂に終わった。
「もうすぐ結界の最奥部だね。たぶん魔女のいる部屋だ。さすがにここからはもう少し気を引き締めていくよ。まどかちゃん、準備はいい?」
「は、はい」
魔女の結界に入った経験なぞ殆どないであろう少女は、やはりというべきか、やや怯えたような声色だ。無理もない。夢現と勘違いするような色彩の世界は、普通に生きていれば出会うことはない。
永遠ですら何度経験していても、慣れてるものではない。常に魔女そのものと死への恐怖と戦っている。生唾を飲む音が相手に聞こえていないだろうか、そんな不安を両者が抱きながら気持ちを落ち着ける。
魔女がいるであろう扉の先から戦闘の音がここまで聞こえてきている。銃声と金属音。そして化け物のような叫び声。
深呼吸。周囲を警戒する素振りでその動きを誤魔化したのち、足を踏み出し歩き出す。
「二人が戦ってるようだから、よっぽど危険じゃない限り私は加勢したりとかはしないつもり。まどかちゃんを守ることに専念するね。めいっぱい魔法少女の戦いを見ておくといいよ。そして、あなたが魔法少女として契約するかの判断材料のひとつにすればいい」
仲間が増えるのは、おそらく見滝原の魔法少女たちにとっては歓迎することだろう。魔女の数が足りなくなったりしない限りは、戦力を保持しておくのは選択肢としては間違いではない。だが、徒に増やしていいものでもない。様々な視点から、魔法少女というものを知り、そして最終的に判断してほしいと思う。永遠は少しお節介かなと自分のことを省みながらそう考えていた。
魔女の部屋へと続く最後の扉が開かれる。
異形の空間。魔女の空間。そこに座すは魔法少女の敵。
そしてそれに対峙するは二人の魔法少女。
「……よく見ておかないとね。魔法少女の戦いを」
既に幾度かは見ているだろうが、それでも何度でも見るといい。見なければならない。
魔法少女の戦いは決して優雅でも煌びやかでもない。
テレビの中の話でもなければ、御伽噺のような夢心地のものでもない。
ただの現実として、力を得た少女たちが、異形の存在と戦うだけだ。
傷付けば血が出て骨が折れ肉が断たれ、時には四肢を喪うほどの傷を負う。痛みは恐怖へと変わり、勇気はもがれて闘争の意思は逃走へと形を変える。そうした感情に打ち克つことが出来なかった魔法少女の運命はすべて同じ。
しかし血が出ても、骨が折れても、肉がこそげ落ちようとも、そして四肢、時には身体の大部分を失おうとも。魔法少女であるうちは無敵だ。その命の源たるソウルジェムを砕かれない限りは。
何度身体を滅ぼされても、どれだけ痛みを植え付けられても、ソウルジェムを守り、心が折れない限りは魔法少女は生きていられる。
だからこそ、永遠は今まで生きてこられたし、そうでなかった魔法少女たちは皆死んでいった。そんな魔法少女たちをいくらも見てきた。
キラキラ光る魔法やフリフリの可愛い衣装で、純粋な心を持つだけで戦えるような世界ではない。これまでの自分が知っていた、現実世界と同じなのだ。
ひとつの願い事と引き換えに、終わることのない戦いに身を投じなければならないのだ。中途半端な使命感や責任感だけでは、きっといつか折れてしまう。
「これだけ怖い思いをするのが魔法少女なんだよ。だからさ、中途半端な願いや思いだったら、その程度の心の持ち様であれば、初めから契約しない方がいいんだよね」
別の街の、まだ出会って幾らも経っていないような、赤の他人といってもいいような少女であっても、永遠はその子のことを考えずにはいられない。少しでもその存在を認知してしまえば、その子の幸せを願わずにはいられない。その子に訪れる不幸を知ってそれを放置することが出来ない。それを許容することが出来ない。
「よく考えないといけないんだよ。たぶん、いままでの人生で一番悩まないといけないことだよ」
悩んだ末の結果としての一つの未来、それが今目の前で繰り広げられている光景であり、そして二人の少女たちだ。
戦うことを選ぶのであれば、この二人とともに歩くことができる。しかし、それを選ばなければ同じ立ち位置に行くことはできない。
選ぶことができるのは、考えることができるのは幸せなことなのだ。選択肢があるならば、どちらを選ぶのかを決めることができるから。
「他のだれでもない、自分自身のために、よく考えないとね」
目の前の魔法少女と魔女の戦いは終わりに近づこうとしている。経験不足は明らかながらも、遠近のコンビはベテランのマミが上手くサポートし、戦闘を着実に有利に進めていた。リミットまでに間に合うかどうかは別にして、筋はよさそうだと永遠は感じた。近いうちに一人でも不安なく戦えるようになるだろう。
「さ、戦いがもう直ぐ終わりそうだよ。魔法少女の戦い、最後までしっかりと見ておかないとね」
魔女は狡猾だ。最後の最後まで気を抜くことは出来ない。
まどかとともにさやか達と魔女が戦う姿を眺めるが、同時に周囲への警戒も怠らない。何が起きるかわからないのが魔女との戦いだ。
倒したという油断が命取りになるというのは身に染みて実感している。その姿が完全に滅び、グリーフシードを落とすか結界を解除させない限り、魔女は生きている。
だが今回は順調に、型破りということもなく魔女はそのまま倒され、主を失った結界はそのまま形を失い消えていく。
結界の中から戻り、世界の喧騒が耳へと流れ込んでくる。そこでようやく、魔女と戦っていた二人は永遠とまどかの姿を認め、やや驚いた表情を見せる。
「鹿目さん、来ていたの」
「はい……」
「やっぱり魔法少女になるかどうかは実際の戦いを見せないとと思って。勝手に連れてきちゃった」
魔法少女としての装束を解きながら、マミへと軽い詫びを入れる。
当の本人は自ら望んだとはいえ、危険な環境へ晒されたことに対しては特に何も感じていないのか、気にしている様子はない。親友と魔法少女の姿について話をしているくらいで、危険についてはある意味想定しないなかったとさえ見受けられる。
「まどかちゃんがどういう選択をするにせよ、知るべきことは知っておいて欲しいからね。多分、これまでも何回か見ていたと思うけれど、魔法少女の現実を知る機会は多いに越したことはないし」
周囲の状況を再度確認し、他に巻き込まれた人がいなかったことを認めた後、マミへと向き直る。
「あの子は、まどかちゃんはおそらく、魔法少女になったらとても強いと思う。私が見える限りでも彼女の持つ素質は、文字通りの桁違いのものだし、それに振り回されない心のありようも持ってるように感じる」
諸所から感じ取れる、魔法少女の素質の大きさ。マミへといった言葉に偽りはなく、永遠の目に映るまどかの姿というのはまさにその通りなのだ。まだ知り合ってさして時間が経っている訳でもないが、それでも理解できる心のありようは、永遠にとっては充分に信頼に足るものだった。
ならばこそ、破滅の未来を回避するためには彼女を魔法少女にして戦力に組み入れるのが最も手っ取り早く、また確実な手段の一つだろう。
しかし、永遠はそれをしない。選ばなかった後悔も当然あるが、"選んだ事"による後悔も知っている。
「魔法少女なって一緒に戦ってくれたら多分、とても心強いとは思うよ。でも、それはこっちから強制しちゃいけないのは私も理解してる」
自らの判断で、自らの意思で、自らの欲求で判断しなければならない。自ら願い、希い、そうあれと望まなければならない。
「まどかちゃん自身が、どうありたいか判断できるように手助けはするけれど、魔法少女にならないという選択肢も残しておかないといけない」
「だから、危険な現場に連れてきたの?」
「んー、言い方に少し刺を感じるけど、結果だけみるとそうだね。もちろん、確実に守り切るという自信と自負はあったけれど、事実はかわらないね」
だからごめんて、と軽いトーンで謝罪をするものの、マミはまだ納得のいかない表情を見せていたがため息を一つ吐き、表情を切り替えた。
当の本人は親友との会話に夢中で二人の会話の内容が全く耳に入っていなかったらしく、その様子を見てマミはもう一度ため息を吐いて、永遠を見遣る。
「ま、何にせよ魔女は倒したのだから、お買い物を再開しましょう」
買い物は終わったはずでは…。
そんな永遠の心の内を知る由もなく、マミの一声にまどかとさやかは追従し、再びモールのある方向へ向かい歩き出す。
その様子を見て永遠もため息を一つ。まぁいいかと心の中で呟き、少し遅れて三人の後を着いていく。魔女との戦いの時間は終わりだ。また日常に戻れる。