ジョハリの窓   作:碼椙 柊

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ラポール(rapport):カウンセリングにおける、セラピストとクライエントの間に生まれる信頼関係のこと。ラポールを形成し、お互いが症状が改善することを強く信じる事がカウンセリングで重要な要素の一つとなる。


03話「ラポール-rapport-」

 そして再び相見えるは見滝原の魔法少女たちと未来を知る外の街の魔法少女。

 場所を移し変えて、三人は見滝原中学からほど近いファストフード店に居た。

 

「ciao. また会えて嬉しいよお二人さん」

 

 先ほどと変わらぬペースで話しかける彼女と違い、向かいに座る二人の魔法少女は様子が異なっていた。

 敵対心を露にしていたお姉さん系の少女は、今は落ち着き払って相手……つまり彼女を見定めようとしており、先ほどは固まっていた見た目薄幸系の少女は、今は逆に警戒心を露にしていた。

 そんな二人を見て、ある程度は予想の範囲内だったのか特に気にすることなく、注文していたジュースを口にする。

 

 ふぅ、と一息ついてから目の前の二人の魔法少女をゆっくりと見やり、とりあえずと前置きを言って話を始めた。

 

「話し合いの前に、まずは遅くなったけど自己紹介をしておくね。私は宮湖永遠。気軽にみーちゃんとかトワちゃんって呼んでね。漢字的にえーちゃんでも問題ないよ。歌えないけど。

 んー、そだねぇ、魔法少女暦としてはかれこれ4,5年目になるかな。ちなみにJKだよ、君達より年上。こないだ2年生になったとこ。いやぁ、田舎は公立行くのが普通なところでねー、私あんまり頭よくないから合格までが大変だったよ。まぁ家から学校は近いから通学は楽なんだけど。で、私の住んでるところだけど、こことは地理的には県をまたいでるから見滝原とは割と離れてるかな。とても見滝原には敵わない田舎のとこでね、そこで私は魔法少女として近くにやってきていた魔女を狩っていた」

 

 ぽつぽつとゆっくり、しかし流れるように話す彼女は窓の外に広がる空を見る。

 

「時々は強い魔女もいて大変だったけれど、何だかんだで今まで生き残れたからね。経験はよく積めたと思うよ。あ、ちなみに私のところはもう一人一緒に街を管轄してる子がいてね、あと二人ほど隣の市にも可愛い子が……」

「貴女の身の上話をするのは勝手なのだけれども、それよりももっと大事な話をしてくれない?」

 

 彼女の話が熱を持ち始めようとしたところでストップをかけたのは黒髪薄幸系少女。

 屋上での時とは違い、敵意をむき出しにしているのはこちらの少女。この少女にとっては、自分以外知るはずの無い情報を知っている相手として、どうしても警戒せざるを得ない状況にある。直前までもう一人の少女に、会うのは危険だと警告していたくらいだ。それでもいざとなったらこちらは二人であるからと、結局押し通される形でこの場に参加してしまったのだが。

 

「あ、ごめんね。あ、それじゃあせっかくだし、話し始める前にそっちも軽く自己紹介してくれる? キュゥべえから一応名前は聞いたんだけど、忘れちゃった」

 

 てへっと可愛らしくアピールをするものの、目の前の二人は特に反応しない。双方ともその流れが無かったかのように、さらりと話は進む。

 

「私は巴マミよ。見滝原中学の3年生」

「巴マミちゃん。ともちゃん? マミちゃん? もえもえ?」

「暁美ほむらよ」

 

 相手を無視して勝手にあだ名を考えている彼女をこれまた無視するように、もう一方の少女が自己紹介をするものの彼女はまるで聞き流すかのように反応しない。

 

「マミっていうと小学校の時の同級生を思い出すなぁ。やっぱりもえもえの方がいいかなぁ。…あ、暁美ほむらちゃんね。あなたはほむほむで決定」

 

 悩む素振りすら見せずに一瞬で訳の分からないあだ名を決定されたものの、全くそれを無視して話を進める。

 

「前置きはこの程度でいいでしょう。早く本題に入りなさい」

「んー、ほむほむは厳しいなぁ。まぁいいや、んじゃ話すね。といってもそんな長い話……になっちゃうなぁ、場合によるけど。まーそのためにこうやって場所を変えたんだけどね」

 

 

 

 ふぅ、と一息ついて先ほどまでのへらへらした空気を一瞬で消し去り、真剣な空気へと変える。

 

「んじゃマミ吉とほむほむ。まず私が何で見滝原に来たのかというところから話をするね。さっき学校でも少し言ったけれども、私は未来のことが少しだけ分かる。まぁ未来が分かるって言っても、言葉どおりのそんな大層な、凄いものじゃないよ。今から大体3週間先くらいまでのことを少しだけ知ってるだけ。何故知っているのか、それの答えは簡単。言葉どおり、『実際にその時間を生きていたから』。ま、それもとある日までのお話なんだけどね」

 

 

 淡々とありえない事を話す彼女に、二人はそれぞれの反応をしていた。お姉さん系少女——巴マミは今だ理解不能といったような顔を見せ、薄幸系少女——暁美ほむらは努めて無表情を作ろうとしているのが丸分かりであった。

 

「さっき学校で聞いたときも分からなかったのだけれども、それは一体どういうことなの?」

「ちょっと黙ってなさい巴マミ。貴女はしばらく話にはいってこないで。……あなた、宮湖永遠、と言ったわね。貴女は…、知っているのね。あの日の、あの見滝原を。この世界の行く末を」

「……これまでの話から私が勝手に推測したモノだけど、あなたが主犯だよね。いや、主犯って言い方は悪いか。この時間の巡りを作り出したのはあなただよね。…そう、私は知ってる。これから世界がどう変わっていくか。見滝原の行く末を。私が知っているだけでも4回、そしてこれが5回目。その都度"あれ"に壊された世界は、気づけば元通りになっていた。時間も戻って、ね」

 

 世界が巡る。この世が巡る。同じ時間を繰り返す。誰の意思か、誰の願いか。何故と問う暇も無く、何がと知る余裕も無く、ただただ、時間が過ぎて、そして戻った。繰り返す世界は当然の如く同じ時間を繰り返し、同じ出来事を繰り返した。避けられないそれはやがて絶望となり、少女の心を黒く染めていった。

 

 しかし少女は諦めなかった。諦めればそこで終わると知っていた。諦めればもう動けなくなってしまう。それは世界への敗北を意味していた。

 負けていいはずが無い。そんなに簡単に諦められるほど、私の頭は軽く出来ていない。

 諦めない。何度目になっても、私は諦めない。

 こんな世界は変えてやる。私の原点は、願いは、そこにあったはずだ。ならばどうする。分かっている。さぁ始めよう。この世界はもう始まっている。

 

 

「この街の崩壊とは別に、私は私なりに絶望した出来事を、このループの中で何度も体験した。一度でも見たくない光景を何度も見せつけられた。見たくもないのに、何度も繰り返させられて、防ごうとしても絶対に起きてしまうあれは……」

 

 

 思い出したくもない光景。決して在り得てはいけない光景。

 

 

「あれは辛いよ。とっても辛かった。でも、私のそんな絶望を飲み込むほどの絶望が毎回、最後に現れた。避けようのない滅びが、防ぐ事のできない嘆きが必ずやってきた。そして、その最期を何度も繰り返すうちに、やがて分かった事があった。"あれ"は必ず見滝原に来る事、"あれ"が現れてからしばらくしてから、時間が戻ること」

 

——私の知る絶望が何度繰り返しても起こってしまうように、"あれ"が見滝原に出現することも何度繰り返しても同じ結果だった。

 彼女の脳裏に浮かぶのは、故郷での思い出したくもない悪夢。どれだけ力を尽くしても、どれだけ行動を重ねようと、起こる結果が変わらない。そして絶望する彼女を襲うのは、世界の終末という新たな絶望。

 

「何よりも辛かったのは、この何度も繰り返す時間遡行を知っているのが自分だけであるということ。他の人間は何も知らない。家族や街の人たちは当然のこと、他の魔法少女すら気づいていない。事実を、真実を知るのは私一人だけだった。未来に起こる出来事も、その苦痛も悲しみも、誰とも共有できない。一人で抱えていかなければならなかった」

 

 本当に、これは辛かったと、呟くように口にする。その顔は影に隠れて窺うことは出来ない。

 

「だから、私も辛かったけど、きっとこの巡りを作ってるその子はもっと辛いかもしれない。あんな絶望を何度も目の当たりにして、平静を保ってられる訳がない」

 

 知っているから分かる事。もう一度やり直せたら、なんて思う事はあるけれど、それは実際には起こりえないことだからこそ、空想できる世界の話。彼女のように、そして暁美ほむらのように、その身に実際に起こり、体験している人間は、"もう一度"の言葉の重みが違う。

 

 日々繰り返す同じ日が、変わらない毎日がとても辛いのだ。もう一度繰り返せば失敗しない。その一度のためにどれだけ心が削られるのか。そして再び失敗してしまった時、心はさらに磨耗していく。

 このままではいけない。

 繰り返す時間は感情を平坦にしていく。衝撃的な光景も、繰り返されればただの記憶になる。思い出したくない記憶も、覚えていたくない記憶も、繰り返せばその分、鮮明に頭の中に記録され記憶されていく。

 ずっと繰り返していく。同じ時間を繰り返す。時間は心を殺していく。

 とても耐えることが出来なかった。

 

 

「ま、でもね。そんな他人の事なんかより、何よりも私が保たなかったっていうのがあるんだけどね。これ以上繰り返されると、私の心が保たない。だからこそ、こうやって私が見滝原までやってきたって訳。この繰り返す悪夢を終わらせるために、この時間の檻に閉じ込められているあなたを救うために、いま、私はここにいる」

 

 そう言って一度話を区切るように、ジュースを一口飲み、目の前の少女に向かって微笑みかける。

 

「私がこの街にきた理由はただ一つ、暁美ほむら、あなたの抱えるその運命を切り開くために、協力させて欲しい。この世界はもっと先に続かなければならない。もっと幸せにならなければならない。ここで繰り返しているのは、世界の理に反している。人は、世界はもっと先の時間を生きなければならない。私も、あなたも、ね」

 

 きっと私達が見たことの無い未来は、素晴らしいものだから。

 

 

 

「だから、暁美ほむら。私に協力させなさい。あと3週間しかない。もう、時間は少ないのは知ってるでしょ」

 

 

「その言葉はありがたく思うけれど」

 

 ほむらは一度言葉を区切り、そして声色を変えずに、淡々と言い放った。

 

「お断りするわ」

「っ! なんでっ……」

「えぇ、貴女の言う通りよ。そうよ、私はこの1ヶ月を何度も繰り返してきた。私の意志で、私の願いのために。その中で私が学んだ事は一つ。誰にも頼らない、誰も頼れないということ。この繰り返しは私が、私の意志で行った事。まさか、貴女のようにそれを観測出来る、その身で知ることの出来る人が現れるとは私も予想外だったけれど、それでも変わらないわ。私は私のやり方で終わらせる。貴女の助けは不要よ」

「そんなこと言ったって! "あれ"がそう簡単に倒せるわけないのはあなたが一番よく分かってることじゃないの!? ゴリ押しで倒せるような相手じゃないのは分かるでしょう!」

「貴女も何度も繰り返しているのなら見ているはずよ。"あれ"自体は倒す事は不可能じゃないし、実際倒したこともある。でもそうじゃない。ただ倒すだけじゃ駄目なのよ。私の願いはそれだけじゃ、叶わない」

「じゃあ……!」

「そもそも、あなたがどれほどの戦力になるか分からない以上、簡単に信用出来ないわ。信用させて奪えるものを奪いに来た、なんてこともありえるし」

 

 

 

 もう話す事はないと言わんばかりに荷物を持って立ち上がるほむらを、彼女は必死で止める。

 

 

 

「3週間後に破壊される街なんて奪いに来たってどうしようもないでしょ! 変な意地っ張りは辞めて素直に私を受け入れなさいって言ってるのッ!!」

 

 彼女にとって、この街に来た意味は、自身の故郷の安全をある程度放棄してでも有り余るほどの大きな理由にある。

 その意味を、理由を、使命ともいえるそれを果たすまでは、彼女は戻るわけには行かない。

 しかしほむらは彼女のそんな心の内を知るはずも無く、彼女を一瞥した後振り返ることなく店を去っていった。

 

「バカじゃないのっ……! 変な強がりしたところで意味なんてないのに……」

 

 去っていくほむらを見て、歯軋りを立てるように歯を食いしばる彼女。

 ファーストコンタクトは失敗といってもいい結果だった。ループの張本人との繋がりを作れなかったとなると、この先が非常に苦しい展開となる。

 

「あ、あの……」

 

 ほむらの姿が見えなくなったあと、力なく椅子に座り直してぶつぶつと呟く。

 そこで今まで口を挟まず話を聞いていたマミが彼女へと向き直り、ようやく口を開いた。

 

「私には、何が何のことだか、さっぱり分からないのだけれども、どういうことなのかしら?」

「ん……。もしかして、あの子とそんなに仲が良くなかったりするの? 同じ街の魔法少女なのに」

 

 巴マミの存在を今の今まで忘れていたと言わんばかりの反応の彼女に、無言で頷き返す。

 ほんの少しの沈黙が流れた後、巴マミが再び口を開く。

 

「あの子が魔法少女として見滝原に現れたのはつい最近の話よ。それまでは私一人だったし、何よりも彼女は転校してきたばかりで情報が少ない。加えて行動が不思議で、正直、少し怪しいし……」

 

 はぁ、と彼女は大きなため息を一つついて、なるほどねーと呟いた。

 

「少なくとも、開始時点では関わりが無かったと。これからの行動で今までも変化してたってことかなつまりは。となると……」

 対面に相手がいることを忘れているかのようにぶつぶつと呟く彼女に対して、マミが口を挟もうとしたところで、顔をあげてマミに向って口を開く。

 

 

「さっき話したことがすべてなんだけど、まぁ分かんないところもあるよね。私がこの街に来た理由はもちろん私のためなんだけど、そもそもの要因はあの子にあるから、残念だけど私からこれについての話をするのはちょっとね」

 

 ごめんねと悪びれる様子もなく謝る彼女だが、目の前の少女はそれを聞くことで余計に混乱してしまう。

 

 

「……さっぱり分からないわ」

「ひとつ言える事は、あの子は少なくとも悪意を持って行動してる訳じゃないよきっと。何があったのかは知らないけど、あんまりぎすぎすしないで、ひとつ腹を割って話をしてみるのもいいかもね」

 

 

 案外、気持ちのすれ違いなのかもしれないよ、と自身の経験からのアドバイスをマミにする。

 しかしそれでも納得の出来ないマミの様子を見て、ため息を吐き、徐に口を開く。

 

 

「まぁでもこのままじゃあなたも収まりがつかないだろうし、さっきの会話である程度は予想できてると思うけど、私とほむほむは時間を繰り返してる。それこそもう沢山。繰り返してる理由はおそらくただ一つ。"こんなはずじゃない"世界を変えるため。時間の普遍性を魔法で捻じ曲げてでも、私達はそれを達成させる」

 

 意志の強さを示すかのようにその声色に遊びの部分はない。出会ってから雰囲気が常に緩んでいるといってもいい彼女の周りの空気も、その時だけは引き締まっているようにマミは感じた。

 その尋常ではない意志の強さと、あまりにも真剣味を帯びすぎて後ずさりしてしまいそうな雰囲気があっても、告げられた中身は簡単に納得出来ない。

 理解は出来る。マミとて魔法少女として短くない期間を生きてきたのだ、常識を逸した出来事など五万と体験している。常軌を逸した事象を成し得るのが魔法少女なのだ。それでも尚、この告げられた内容には戸惑いを隠せない。

 時間を繰り返す。時間を巻き戻す。

 漫画やアニメなどの物語では時折聞くものだが、現実の魔法少女としての能力では聞いたこともない。そもそも観測出来るものでもないだろうが、それを考慮に入れても聞いたことも見たこともないものだった。それを目の前の彼女と件の転校生、暁美ほむらは実際に体験し、そして何度も繰り返してきたという。

 俄には信じがたい事だった。

 魔法少女といえど、そんな事が実際に可能なのか。時間の流れは一方通行なのが世界の真理では無いのか。あらゆる事象を捻じ曲げることの出来る魔法少女といえど、時間の流れまではさすがに変える事は出来ないのではないだろうか。

 現実を否定する材料を集めようとするが、彼女らの雰囲気では嘘をついているようには見えないし、仮に彼女らがこの見滝原を奪いに来たための演技だとしても、それにしては暁美ほむらの先ほどの演技には見えなかった動揺や行動は不可解なものになる。

 考えれば考えるほど、彼女らの言うことが正しいように思えてきて仕方が無い。名実ともに自分はこの見滝原を守る魔法少女だ。だからこそ、彼女らのような存在には敏感にならなくてはいけない。

 信じていいのだろうか。彼女の言うことは事実なのだろうか。考えれば考えるほど、嵌っていってしまうような、そんな状況。仮に嘘だった場合は、仮に本当だった場合は、この二つを考えるだけでも、かなりのパターンがマミの頭の中に無数に浮かび上がる。自分と共に戦ってくれる魔法少女が増えるということは、マミにとってはたまらなく嬉しいことだ。信頼していた魔法少女と決別し、この1年ほどを孤独に戦ってきたマミにとっては今の状況はまさに幸福度急上昇といえるほどなのだ。

 自分勝手な思いが魔法少女としての使命の邪魔をする。彼女らが心優しい魔法少女で、言葉の通りこの街のために戦ってくれるのならば、それはどんなに嬉しい事か。どんなに頼もしい事か。

 巴マミという個人と、魔法少女としての使命の中でマミは葛藤する。信ずるべきはどれなのか。信じた場合、信じなかった場合。どの選択肢を選ぶか。考えれば考えるほど、分からなくなってしまう。

 

「(下手に手を打ってもどうしようも無いし、ここは静観するしかなさそうね……)」

 

 今の段階ではどちらを採るべきかの判断がつかない。かといって話に流されるのは危険すぎる。そう考えたマミの結論は、状況維持という名の静観だった。

 そんな悩み続けるマミの様子を見てこれ以上は何も実りが無いと判断した彼女は周りを一度見遣ってからマミを見て口を開いた。

 

「でもどちらにしても、今回はお開きだね。あの子があんな風じゃ、私も動きようが無いし……。はぁ…」

 

 大きなため息をひとつ吐いて、目の前の彼女は立ちあがった。そして指を一度鳴らすと、静かだった周りが急に騒がしくなる。どうやら人除けの結界を張っていたらしい。違和感の正体はこれだったかと、自分の感覚ですらも気づかないほどの精度の結界を張る目の前の相手に、少し警戒感を増やしながらもマミも同じく立ち上がった。

 

「えぇ、そうね。あなたにはいろいろと聞きたいこともあるけれども、どうやら今は話すつもりが無いようだし、これ以上は時間の無駄かしら。明日、暁美さんに話を聞いてから、またあなたに話を聞くことにするわ」

「そうするのが一番だね。私としても、ちゃんと状況を理解してる相手の方が話しやすいからね」

 

 まぁファーストコンタクトとして考えると及第点かなと、独り言のようなものを呟きながら彼女は店の外に出る。

 

「とりあえず、私の目的はそんな感じだし、しばらくは見滝原にいるつもりだから用事があったら呼んでね。あ、心配しなくても、魔女は倒さないし、グリーフシードを勝手に取るってことも無いから安心してちょうだい。その位はちゃんと弁えてるから安心してちょうだいな」

 

 にこりと笑い、マミに向かってウインク。一見爽やかに見えそうでもないその挙動だが、マミにとっては胡散臭さしか感じることが出来なかった。それを感じ取ったのか、彼女もてへと悪ぶる様子もなく、可愛ぶる。

 

「ま、そんな感じで今日はバイバイだね。また明日とかあさってとかには会えると思うよ。それじゃあねー」

 

 手をひらひらと振りながら、彼女は街の喧噪へと消えていった。

 マミをそれを見送るように眺め、やがて彼女の姿が見えなくなると、これからの苦労を想像しため息を一つ吐き、食材の買い出しのために彼女と同じ方向へ歩き出した。

 

 

 

 

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