「……」
無言で魔女の結界を突き進む。
道中現れる魔女の使い魔を、変わらず無言で蹴散らしながら中心部へと進んでいく。中心部に進むにつれて、魔女の結界はその本領を発揮するかのように異形の空間へと形を変えていく。
周辺の景色はすでに人間の理解を超えたものとなっている。どんな神経を持っていればこんな色を描き出せるのだろうか。どんな存在であればこんな風景を創りあげられるのだろうか。
やはり、魔女は普通の存在ではない。マトモじゃない。
自分自身でそう結論づけておきながら、その事実にまた恐怖する。自身が戦う相手はそういう相手なのだ。人知を超えたナニカ。あぁ、やっぱり恐い。
それでも、彼女は歩みを止めることは無かった。一度歩みを止めてしまったら、もう彼女は逃げ出してしまう。自分の弱いところを認めてしまうと、もうそのまま逃げてしまう。それを知っているからこそ、彼女は歩みを止めない。止める訳にはいかなかった。
「……」
彼女は無言で進んでいく。ずっと、ずっと、進んでいく。今回は時間稼ぎだ。魔女を狩るときよりもずっと安全なのは間違いない。それでも、彼女は恐いのだ。この空間では何が起こるか分からない。予想外、予測外のことが平気で起こる。しかも、それが人間では想定出来ない範囲でのものとして。
そういうことを何度も体験しながらも、彼女は生き残ってきた。それは何よりも彼女の実力を示すものとなるのだが、それでも彼女は恐いのだ。
魔女が怖い。
使い魔が怖い。
結界が怖い。
何もかもが怖い。
今だって近くに誰がいる訳でもないのに、無言で努めて無表情を装っているが、その内は弱気の固まりに他ならない。
頼れる相手がいたら今すぐその胸を借りて泣き出したい。そのまま眠って何もかも忘れたい。
そんな思いがいつだって、そして今でも、彼女の心の中にはあった。
「……ん」
少し進んだところで、空間の継ぎ目がしらばく先にあるのが見えた。おそらく、あの向こうには魔女がいるのだろう。今まさに動き出そうとしている、蠢く魔女がそこにいるのだ。
戦う準備をせねばならない。心を入れ替えなければならない。
使い魔と魔女では、何もかもが違う。強さも、行動も、その根底にある何かも。
どれだけ戦い慣れている彼女でも、一瞬の油断が命取りとなる。冗談でも何でもなく、魔女の結界の中にいる間は常に気を張り続けなけらばならない。でないと死ぬ。
"わたし"は死にたくない。死がとても怖い。何も知らない人間よりも死が身近にあるからこそ、死に対する感覚がより敏感になる。結界の中にいるだけでその空気が、死の空気が彼女に纏わり付く。それがさらに彼女を恐怖させる。魔女に勝つまではずっと、彼女の心の中に死への恐怖がまとわりついている。
彼女の死に対する臆病さは並大抵のものではない。この恐怖を克服したいといつも思いながらも、恐怖を感じないようになれば、そんな状態で死地に赴けばきっと自分は死ぬ。彼女はそう考えているからこそ、涙が流れるほど恐怖を感じるこの魔女の結界に対しても無理な克服をせずに、恐怖を感じる今の心のままにしているのだ。
「……怖いなぁ。行きたくないなぁ」
ここをあと一歩超えれば、確実に魔女は自分の存在に気づくだろう。それはつまり魔女との戦いの開始を意味する。いまここで引き返せば、運が良ければ魔女に気づかれること無く結界の外まで出られるかもしれない。それはそれで、魅力的な選択肢だろう。
しかし、その選択肢を彼女は選ぶことが出来ない。
どれだけ怖くても、どれほど恐ろしい思いをしていても、魔法少女である以上、目の前に魔女がいたならば戦いを避けることは出来ないのだ。それは自分自身が生き残るため、そして自分とこの世界を守るために必要なことだ。
どんなに怖くても、どんなに辛くても、どんなに逃げ出したくても、彼女が選んだ魔法少女という現実は逃げるという選択肢を許さない。そして何よりも、彼女が許さない。だからこそ、彼女はその一歩を踏み出すのだ。
「……な、なるようになれ。れっといっとびー。あの二人が来るまで生き残ればいいんだし、なんとかなる! きっと」
使い魔と魔女は簡単に言えば親子のような関係にある。つまり、似たようなものであるということ。
動物の形をした、影のような使い魔の親は、必然的に似た性質を持っていると云える。
だからこそ、今彼女の目の前に現れたその魔女も、その予想を外さないものであった。
「金平糖っぽい星っぽい形だねぇ。まぁとりあえずこっちに注意を引きつけさせないと」
そう言って、彼女は魔法少女としての力を十全に発揮するために、魔法少女としての力を解放する。魔法少女としての衣服は身を守る鉄壁の装甲となり、手に持つ魔法の武器はすべてを貫く矛となる。
勝つ為の戦いではない、死なない為の戦いでもない。ただ、あの二人が来るまでの時間稼ぎ。よっぽどヘマをしない限りは大丈夫。
彼女は心の中で呟く。負けない、死なない。…そう、大丈夫。
魔法少女としての装束が、手に持つ武器が、彼女に勇気を与える。自分は死なない。自分は負けない。自分は弱くない。
強さとしての意思がその瞳に灯る。
戦う為の意思がその身体に宿る。臆病な彼女は、魔法少女としての戦う少女へと変身を遂げる。
「とりゃっ…!」
その意志を行動へと移す。手に持つ武器を魔女に向かって投擲一本。
細く、長いその武器は一直線に、そして音を置き去りにするほどの速さで魔女へと伸び、肉薄する。彼女の来襲に気づいた異形の魔女はその身体を細かく収縮させながらうねうねと移動し、彼女の攻撃から逃れようとする。
しかし彼女の攻撃はその程度では避けられない。魔女が直撃範囲から逃れるよりも速く、彼女の攻撃は魔女へと届いた。魔力を込めていない、純粋な物理のみの攻撃であるために与えたダメージはそこまで大きくはない。しかし牽制攻撃としては効果は十分であり、そこでようやく魔法少女たる彼女と魔女の戦いが始まった。
永遠の攻撃を受け、若干よろめいた魔女であったが間を置かずに体制を立て直し、周りに侍らせている使い魔をお返しとばかりに彼女へと飛ばしていく。しかし彼女もこのタイミングでの反撃は既に予想済み。既に手元に戻していた先ほどの得物を用いて迫り来る使い魔を迎撃していく。
流れるように現れる使い魔を一匹、また一匹確実に切り裂き、突き刺し、それらを処理していく。この程度の仕事、彼女の実力からすれば片手間でも出来るような簡単なことだ。それでも彼女は全力で迎撃する。獅子は兎を狩るにも全力を尽くすという言葉があるが、彼女の場合はそれには当てはまらない。単純に、手を抜いて反撃されるのが怖いから。必要以下の攻撃は絶対に行わない。どうせやるなら過剰砲撃のがマシ。
逃がさない程度の攻撃でこちらに注意を引きつけながら、尚かつこちらが死なないように細心の注意を払ってこちらが逃げ回る。
見滝原の魔法少女、暁美ほむらと巴マミが到着するまでの時間稼ぎとはいえ、未だ連絡はこない。本当に来てくれるのかさえ分からない状況。
『ちょっとー。もう魔女と対峙しちゃってるなうなんだけどー。来てくれないと私逃げちゃうよー。スタコラサッサしちゃうよー』
この魔女の結界がどのような状態にあるか分からない故、このテレパシーが果たして外に届くかどうかは分からない。それでも先ほどと同じようにテレパシーを送る。その言葉の色は努めて軽く。少女達がイメージする彼女と合致するように。弱気など見せないように。
この魔女は先ほどまでの予想とは異なり、それほど強くはないように見える。ただこうやって時間を稼ぐだけなら、無勉強で挑んだ試験で満点を取るよりもよっぽど簡単なことだ。だからこそ彼女は体裁だけは取り繕う余裕があった。もちろん、その内面は今でも泣きそうな状態にあるのは変わりないが。
隙を窺い好機を逃さず攻撃の一手を着実に蓄積させていく。
現在の彼女にとって、魔力の燃費が最も効率的な戦い方で攻撃を加える。一手ずつ、少しずつ、確実に。
異形の姿をしている魔女からは、おおよそ感情や思考というものが読み取れない。そもそもそういったものが存在しているのだろうかとすら考えられる。ただ、この世界に害意をもたらすというその一手以外に、なにか目的はあるのだろうか。
いつになってもその答えが見つかる事は無いし、一度キュゥべえに尋ねた時は運悪く魔女が近くに現れてしまい、そのまま尋ねたことを忘れてしまっていた。その後もう一度尋ねるのはなんだかあのぬいぐるみに負けた気がするので、あえて聞く事無く一人で、時には仲間である同じ街の魔法少女と考えながら日々を過ごしてきた。
魔女の動きが当初よりも鈍ってきたのを彼女の目は捉えていた。倒すにはもうしばらく掛かるだろうが、足止めの役目としては十二分に果たせただろう。むしろ必要過多な攻撃を加えていた気配すらある。その結果にある程度の満足はしながらも、臆病な彼女は意識を緩めることなく魔女を視界に捉え続ける。
「反応がない。そして二人が来ない。私は悲しい」
先ほどのテレパシーから数分が経った。そういえば見滝原中学校の授業は何時までなんだろうと、ふと大事なことを思い出しつつも、目の前の魔女との戦いに集中しまた一手攻撃を加える。
相手の魔女の動きはあまり俊敏ではないものの、トリッキーな動きで先が読みにくい。相手の攻撃が当たることは無いが、先読みしてこちらが攻撃を当てるということもまた難しいという一種の膠着状態に入っていた。——もちろん、彼女が魔女を倒す気でいれば話は別だが。
「返事が無いのはさすがにちょっと悲しいかも。……もういいや。これだけ痛めつけておけば、しばらくは動けないだろうし任務完了ってことで、スタコラ逃げちゃおうっと」
せっかく二人が来るかもしれないと考えていつもの魔女退治の時のようななよなよした顔つきから、対外用のキリッとした顔つきに頑張って変えていたのに、これでは無駄な努力になってしまったではないか。
嘆きつつも彼女はそれを表に出す事無く、ほむらやマミたちと接していた時の心持ちで魔女と対峙し続ける。
そしてクリティカルな一撃を加え、魔女がひるんだところでこれでいいと逃げ出す準備をしていた時のことであった。
「待ちなさい」
どこからか、声が聞こえてきた。
彼女は周りを見遣り、声の発生源を探す。この凛とした声は確か……と頭を働かせつつ視界の端には魔女を置き、一挙一動を見逃さないように注意を払う。
「おっ」
声の発生源を彼女は見つける。長く黒い髪がなびき、制服を基調としたであろう魔法少女としての装束を纏う少女がそこにいた。
「ほむほむー! 来てくれたんだ! ちょー嬉しい!」
再び戻しかけていた心持ちを無理矢理持ち上げ、元気を装ってほむらへと話しかける。
テンションの高い彼女とは対照的に、ほむらは静かに彼女を見据えて口を開く。
「……本当に魔女と戦ってたのね。てっきり罠の可能性も考えていたのだけれども」
「そんなことする訳ないじゃんー。私の目的はただ一つ。これは変わらないよ」
「それがそもそも信用ならないと言いたいのだけれども」
決して遠くは無く、しかし近寄る事も出来ず。二人の距離はいまだ測りかね、無闇に動く事の出来ない位置にあった。
「ま、いいや。とりあえずほむほむが来てくれたなら私の用事は終わったし。用なしになったから帰るね」
「いいから待ちなさい。貴女には聞きたいことがあるのよ」
「およ、新手のナンパですか! いやーん、うれしー! そんな事言われたら私いつ迄も待っちゃうよ!」
にこにこと満面の笑みを浮かべながら彼女はびしっとほむらを指差し、上機嫌なのを隠さないままの声色で言い放つ。
当のほむらはそんな彼女を完全に無視して魔女との臨戦態勢に入る。
「そういやここで待ってたらほむほむの戦法とか分かっちゃうけど、見ちゃってもいいの? それとも外で待っといた方がいい?」
「それには及ばないわ。一瞬で終わらせるから」
ほむらが言い終えるや否や、その姿が一瞬にして消え去る。一瞬遅れて彼女がほむらの姿を再び知覚した時には、魔女の真横にその姿があった。そしてその姿を確認したと思えば次の瞬間にはまた元の位置へ戻っていた。
異様の戦法に彼女は気の抜けた声が漏れ出る。
「お、お…おぉー?! 何が起こったのかさっぱり分からないんだけど!」
彼女の言葉をかき消すように、魔女のすぐ傍が爆発する。そして少し遅れて爆風と爆音が二人の居た場所を過ぎ去る。
「おぉぉう?! 今のもしかしてほむほむの? 何か凄いんだけど! タネもしかけもございません! では一体どうやって!?」
興奮気味の彼女がまくし立てるようにほむらへと問いかける。ほむらは至って変わらず、しかし既に倒した魔女には見向きもせずに、彼女をただ見据えて立ち止まる。
結界の主が倒され、維持することが出来なくなったそれは、やがて崩れるようにして景色を元の世界へと戻していく。
外の世界ーー現実世界に戻った二人は、本題はこれからだと云わんばかりに相手から目を離さずに、しかし言葉を発することなく沈黙が流れる。
両者の視線は相手を捕らえ、決して放さない。相手の心の内を読むかのように、もしくは信用を勝ち取るためにその目は相手を見据えたまま。
数秒、もしくは数十秒。どれほどの時が流れた頃か、やがてその沈黙はほむらの言葉によって破られる。
「貴女、本当の目的は何なの? まさか、昨日のあれが本当の理由なんて事はないでしょう」
ほむらのその言葉に、彼女はあからさまに落ち込んだ様子でため息をつく。
「まだ信じてくれないの……。何度でも言うけど、私はあなたを救うために、そしてあのワルプルギスの夜をこの世から消し去るために見滝原に来た。これは何度でも言うけれど、それが私の目的であり、今の私の存在意義。あなた達が何も言わないならあの日までは私は何もしない。でも、それでもあの日がやって来れば、あなた達の事は無視して私一人でも立ち向かってみせるつもりだよ。
あなたと違って、私は自分の意志で世界を繰り返しているわけじゃない。いつも誰かの意志によって強制的に世界を戻されていった。……勘違いしないで欲しいのだけれど、別にだからといってあなたを責めているわけじゃない。元々こうなってしまった原因は恐らく私の魔法少女としての願いにあるから。むしろ私の願いがこうしてちゃんと叶ったことに喜びすら感じているから。
それでも、まだ私の願いの到達点には至っていない。何故繰り返す? 何故私が巻き込まれる? この疑問がある時点で、私の願いはまだ完全には叶っていない。私が自分の願いを完璧な形で成就させるためにも、私はあなたを救いたいの。
……ま、これで分かったでしょ? 何だかんだ言っても、私は自分のエゴのために動いている。だからワルプルギスの夜を倒すという確固たる目的がある以上、それ以外に無駄な行動を取る必要も理由もない。つまり、見滝原を縄張りにしている魔法少女を襲う理由がない。むしろ協力して倒したいの。倒したらとっとと私の住んでる街に戻るから。…あなたも目的は同じでしょう? なら残りの3週間、手を組むのは悪い話じゃないと思うのだけれど」
どうかな、と声は軽く、しかしその表情は真剣に、目の前の魔法少女へ問いかける。
二人の魔法少女の間に沈黙が流れる。意図を読み取るためのものではない。次の言葉を考えるためのものでもない。ただ、そこにあるべき姿の沈黙。
ふ、と息をつき、やがてその沈黙を破ったのはやはり暁美ほむらであった。
長い髪をかき上げる仕草と共に口を開く。
「……。今の時点ではキュゥべえでさえ予測できていない、数週間後にこの街にワルプルギスの夜が来るという事を知っている以上、貴女が時間を繰り返しているという話の信憑性はそれなりにあると判断出来るわ。何らかの手段で未来の出来事を知り得ているというのは疑いようがないわ。それなら、ワルプルギスの夜を倒したいという理由も分からなくはない。貴女の話はそれなりに理解は出来る」
もしかしたら似た者同士なのかもしれない。ほむらの表情の陰を察して、彼女はそんな事を思った。
その現実を受け入れる事が出来なくて、だから何回も繰り返して納得のいく未来を手に入れるまでやり直す。その過程で何度も失敗して、何度も悔しい思いをして、何度も絶望して。
それでも諦める訳にはいかなくて。だからこそ、こうして出会った。そんな彼女だからこそ次のほむらの言葉は想像に難くなかった。
「それでも私はあなたを頼れない。
貴女も繰り返しているなら分かるでしょう? 何度繰り返しても、私の望む世界には至れない。どれだけ努力しても、結末はワルプルギスの夜。そしてもう一つの悪夢。努力して、あらゆる力を尽くして、万全の準備を整えて挑んでも、結末はどうしても悲劇にしかならなかった。何度も繰り返すうち、期待すればするほど、それが裏切られた時の心の磨耗は酷くなるだけ。下手な期待をしない、無駄な希望を持たない。最後に頼れるのは、自分だけ。
……正直な話、あなたの申し出はとても嬉しいわ。飛びつきたいくらいに。でも、だからこそ、私に下手な希望を与えないで欲しい」
あぁ、やっぱり似た者同士だ。奇妙な安心感と友情を一人で勝手に感じた彼女は、そうして突き放すほむらをそれでも優しい表情で引き止める。
「ほむほむは優しいなぁ。だからこそ、余計にあなたを見捨てたくないと思っちゃうよ。あの大きな絶望に今まで何度も、きっと一人で立ち向かっていったあなたのその心の有様は、私がこうして故郷を捨ててまでやってきた意味と意義があったと思えるよ。
きっと、終わらせるよ…今回で、この世界で。あなたとこの世界を、絶対に救ってみせるよ。この私が、宮湖永遠が、あなたの魔法少女として救ってみせるよ!」
大きく手を広げ、後光が差さんばかりの慈愛に満ちた笑顔で微笑みかける。
きっと救ってみせる。その救いは必ず、自分を救ってくれるものになるから。彼女はいつだって、そうして自分の為に他人を救ってきた。それは希望を与えるヒーローのように、そして夢を振りまく魔法少女のように。
そんな彼女を見て、ほむらは一つ息をつく。勝手になさいと小さな声で口にして踵を返したほむらに向かって、彼女は大きな声で明るく、その感情が丸わかりな声でありがとうと言う。その言葉に反応してか、ほむらは再び彼女へと向き直り、口を開いた。
「最後に言い忘れてたわ。貴女がこの街で好きに動きたいのなら、私ではなくて巴マミに言いなさい。私は私の邪魔をしないのなら、貴女がどう動いていようが知ったことではないことだし。それに私は別に、この街を守っている訳でもないのだから」
「あーそういやキュゥべえもほむほむは最近この街に来たって言ってたもんね。んじゃ見滝原での行動に関してはもえもえに言ったらいいって訳だね。ワルプルギスの夜のことは私が言っちゃっていいの?」
「勝手になさい。…貴女がその話をして、巴マミが信じるかどうかは別の話だけれども」
私は帰るわ。
その一言と共に、ほむらは踵を返して今度こそ帰路へと足を進めた。
ほむらを見送り路地裏に一人残された永遠は、空を見上げる。暗くなり始めた空。路地裏からはほんの少ししか見えない空。それでも翳る空の合間に見える青空。それは彼女にとっての希望のように微かながらも、はっきりとそこにあった。
信頼された。たったそれだけの事。しかしそれが何よりも彼女にとって嬉しいことであった。
「……ぃやったぁ!!」
両手を空に上げて目に涙を浮かべながら、彼女は空を見続ける。刻一刻と色を変える空にはまだ青空が残っている。
彼女にとっての希望がひとつ、実を結んだ。
この世界の為に、暁美ほむらの為に、そして何よりも自分の為に、彼女は希望を手に入れた。