「おめでとう。若きウィザードよ」
「ありがとうございます!」
「先の試練で、お前の技量を見定めた。結論は言うまでもないだろう。……お前のようなアルカナ使いに出会えて嬉しいぞ」
「はい……!」
「さあ、これを受け取るが良い。伝説の肩書と共に、この勲章を贈ろう。お前にとっては初めて見る物ではないのだろう?」
「はい! ありが……へ、えっ?!」
「何処かの時空で、この勲章に籠められた力が暴走したようだ。そして、私たちの世界にお前が訪れた……。しかし今回は、カオスの使い手である私が居る。元の場所、故郷へ連れてやろう」
「元の……場所……!」
「お前の才能が、勲章に認められたのかもしれない。ある意味、私に打ち勝つのは必然だったのだろうな。……さあ、これ以上の立ち話は無用だろう。行くが良い」
「あ、はい! ああいや、えっと……スラさん。その前に、改めて自己紹介させてください。さっきは息切れだけで名乗りもしていなかったので」
「良いだろう。その名を伝説に刻む事を約束しようではないか」
「あ、それは恥ずかしいです……けど!」
「私の名前は、ウィレミナです!」
「伝説のウィザード、ウィレミナよ。その偉業と名はここに刻まれた! さあ、行くが良い!」
私の手によって掲げられた伝説の勲章は、掌からゆっくりと浮かび上がり、カオスの魔力が空間を歪ませ……。
「……む?」
どこか不安を煽るような表情のスラさんが見えて、そして視界が暗転した。
・
・
・
「……え……?」
「────さい。──てください!」
意識がふと浮き上がってきて、まず目に見えたのは、人の顔。
瞬きを繰り返して、ようやくその輪郭を正確に捉えた。
「あれ、ここ……」
「ああ、やっと起きましたね! 大丈夫ですか? お怪我は無いようですが……」
「あ、うん。大丈夫……だと思う」
直前の記憶は、ある。そしてそれは、夢ではない。
ここではない何処かで、現代の技術が見当たらない、しかし魔法という技術が発達していた時代。その大通りで、スラと評議会、そして多くの人々に見送られた。
カオスの試練、何度も挑む私、ようやく掴み取った勝利。そして、伝説の勲章……。
「あ、あの勲章……」
「勲章、ですか?」
「ん……確か、伝説の勲章で……カオスの試練の」
カオスの試練の主、マスター・スラから貰ったメダルの様な物だ。
アルカナに置いて重要な要素である五つの属性を五角形にして結んだ様な柄が特徴だ。
スラ曰く、私があの世界に迷い込んだのは、当時私が訪れていた博物館で、展示されていたメダルの力が暴走したからだそうだ。
私が持つ記憶の最後には、スラさんの力によって私の世界へと送ってもらった筈なのだが……。
「えっと……ごめんなさい。私にはその事を知りません。メイジの方々なら知っているかもしれませんが……」
「メイジ……?」
「あ、貴族の方々です」
「貴族???」
その単語を聞いて、私はハッとした。
ここは私が居た元の世界ではないのか? ついさっきまで居た世界ならばともかく、元々私が居た世界では貴族とかいう制度は無い。
「ちょ、ちょっとまって、こっちから質問しても良い?」
「はい、何でしょうか……?」
「カオスの試練って知ってる?」
「カオス、ですか?」
……知らなさそうだった。
きょとんとした顔を見て、私は次の質問に移る。
「じゃあ、アルカナは?」
「あ、聞いた事はあります。確か占いで……」
違う。
確かに占いで使うアルカナもあるが、私の主に知るアルカナというのはそれではない。
それは、特別な力を持つ絵師の筆によって描かれたカード。
色と造形、そして込められた魔力によって表現された『魔法』が、そのアルカナの一面を飾っている。
そしてウィザード、別名アルカナ使いがそれを扱うことで、その魔法を引き出すことができる……物である。
「アルカナ使いと聞いて、どんなイメージ?」
「え? ……占い師でしょうか」
「それ以外には」
「……いえ、特には……。あの、一体どうしたのですか?」
「いや、ちょっと……ちょっと……待って」
カオスの試練、アルカナ使い。この二つの言葉が知られていないという事は、その歴史が伝わっていない所か、あるいはそれらが存在しない世界。
私の故郷に相当する世界では、ある程度知られていたはずだ。博物館が建てられるぐらいだ。
で、最初に伝説の勲章の暴走に巻き込まれて迷い込んだ世界では、当然知られていた。私が飛ばされた所が、ちょうどカオスの試練が催される場所だったからだ。
「すると、私の故郷でもなくて、スラさん達の世界でもなくて……え、もしかして三つ目の世界?」
「えっと……いったい何を」
「あ……」
「……あ?」
「────あのスラさんのバカァァァ!」
・
・
・
「お騒がせしました……」
「は、はあ……」
一通り怒鳴り散らかした所で、私を起こしてくれたメイドさんに頭を下げる。
彼女は私の喜怒哀楽の荒ぶる様を見て、すこし引いてしまっている。いや申し訳ない。
「それで、ここは何処なの?」
笑顔を繕って顔をあげる。吹っ切れたからには平常心である。
「トリステイン魔法学院。メイジの方々が魔法を学ぶ場所です。私はその学院でメイドをさせて頂いております。シエスタって言います」
「魔法学院……」
「はい」
という事は、この世界でも魔法は一般化されているという事か。
しかも魔法学院という名から察するに、教育態勢まで整えられている。
「さすが異世界、見知らぬ文化が早速現る」
まあ前回ので慣れてしまったのだけど。
「ああそうだ。私は名乗ってなかったね。私はウィレミナ。レミィで良いよ」
思い出したように私も名乗る。
「え? えっと、ウィレミナさんですね」
「レミィ」
「えっと……」
「気の堅い人みたいだね。ウィレミナじゃあ言いずらいだろうし、何時でもレミィって呼んでね」
「はい……」
さて、自己紹介も済ませたところで……どうしよう。
私はぐったりと気持ちが堕ちて行くのを感じる。
前回は、試練へ挑むウィザードとして転移させられたせいか、それなりの待遇が待っていた。訓練設備や、試練へ挑むための装備品を溜め込む倉庫。そして生活に必要な家まで支給される。というか私は与えられた家の中に全部詰め込まれてた。
だが今回は?
寝床は? お金は? 仕事は? 身分は? ていうか寝床は?
ホームレス、無一文、私こそは食うべからずなり。ハハッ、つら。
「ごめんちょっと無理」
「ウィレミナさん?!」
現実逃避したいので、私は膝からガックリと床に倒れ伏しました。
「……よし、落ち着いた」
「あの、大丈夫なんですか? 情緒不安定というか……」
「大丈夫だよ。多分今日はこれ以上取り乱さない」
だってこれ以上落ちようがないし。
「で、ここは学院なんだよね? そういえば大丈夫なの? 私は不法侵入している状態なんじゃないかな、って思うんだけど」
「……ど、どうしましょう」
あ、なにも考えてなかったのね。
ふむふむ、それじゃあ学院長にでも相談でもしようかね。
ああでもトップにいきなり押しかけるのはあれか。それなら、そこらの教師でも探して状況を説明した方がいいか。
・
・
・
(プロット寄り雑文)
ゼロことルイズは、成功を確信した召喚を一度行うが、なぜか不発。しかし爆発せず。
今度こそは、と教師に最後の一回を申し出て、そしてみらいの旦那さんを召喚する。
アイデアにも程があるー!