ぐらんぶる〜もう1人の少年を添えて〜   作:夢見969

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今話はモブキャラの出番が少し多めです。

モブキャラです。えぇモブキャラですよ?
次回はバイトのお話になります。それとSAOからのゲストキャラも出る予定です。

モブキャラですからね!


酒とバカとミスコンテスト (後)

時刻は18時を回りケバッ子カフェの営業が終了した。

和人は一生分の恥と男からナンパされ続けるという地獄の空間を抜け出して青女の廊下を歩く。 因みに衣服は女物の衣服でウィッグ(茶髪)ももちろん付けたまま。というのも愛菜が色々とやらかして和人としての服が着れなくなってしまったからで…メイド服で出歩く訳にもいかずお店を手伝ってくれたお礼に、と愛菜と同じ学部で和人と似たような背格好の女子が予備で持ち込んでいた衣服を貸してくれたのだ。

恥の上塗りである。

 

今頃、耕平は水樹カヤのライブを見ているだろうし一度追い出された伊織も何かの手を使って校内にいるらしい。 伊織と合流して帰るか。

 

と、思って伊織がメッセで記していた教室を覗くと丁度ヤツが女性の頭にビールをぶっかけていた。

アイツ何やってるんだ…?

 

伊織、以下馬鹿共が教室を出て行き残された三人の女子は慌てに慌ててる。

 

「何よあいつら!? 最悪なんですけど…!」

 

「た、タオルタオル!」

 

「桜子大丈夫!?」

 

大慌てしている女性陣を放って置くのも気分が悪いし何があったのかそれとなく聞いてみるか…とバッグからタオルを取り出し素知らぬ顔で近寄る。 もちろん裏声で。

 

「大丈夫ですか、これ良かったら使ってくださいっ」

 

「あ、ありがとう…はぁ…なんなのよあいつら…っ」

 

「何かあったんですか?」

 

「聞いてよ…!」

 

事の始まりは水樹カヤのステージ設営から始まったらしく、設営を手伝っていたこの三人は伊織達に誘われてこの教室で飲むことになったらしくその時点では耕平も一緒に居たらしい。

耕平は水樹カヤのライブに行くと途中抜けをしたのだがビールをかけられた女性 桜子が「耕平の為」と声優ライブの整理券をひっそりとパクったようでそれを伊織達に言ったところ急にあいつらがキレて今に至ると…

 

「あんな歳になってアニメとか声優とかみっともないでしょ!」

 

なるほど…手元に飲み物があったら俺もぶっかけていた。

人が本気でやっていることを邪魔するのは許せない。

 

「ちょ、桜子! ミスコンの時間までそんなにないよ!」

 

「早くシャワー浴びて浴衣借りに行かなきゃ!」

 

「本当だ…もう最悪…っ! タオルありがと、今度返すから!」

 

足早に教室を出ていった三人の背を見ながら和人はスマホを操作し伊織に連絡を取る。

 

「もしもし俺だ」

 

『貴様…良くもぬけぬけと連絡を取れたな…っ!』

 

「お前が先に連絡してきたんだろ。 それより見てたぞ女の子にビールぶっかけたの」

 

『…あー、ちょっと色々あってな』

 

「大丈夫だ。内容はだいたい聞いたからな…因みにお前は何処に?」

 

『ミスコン見るんだよ。お陰でナンパ出来なかったしな。せめて可愛い子だけ見て帰りたい』

 

「ミスコンか…さっきの女も出るみたいだぞ?」

 

『げっ、マジか……』

 

不意に伊織が何かを考え込むように押し黙ったので和人も余計なことを口に出さず少し待つ。だいたい何を言い出すのかは分かってるんだけどな…

沖縄で一緒に騒いでこの前、腹を割って話せたぐらいからかだいたいコイツらが考える事が分かってきた気がする。気がするだけなのかもしれないが。

 

『なぁ、和人。耕平の為に…ってのも癪だけどよ力貸してくれないか?』

 

「…ま、いいぜ。 俺に出来ることならなんでも」

 

受け入れてくれた友人だ。一肌ぐらい脱いだって構わないだろう。

 

 

 

 

 

「なんでもって言った確かに言ったけどお前バカじゃないか!?」

 

「完璧だキリコちゃん」

 

「ついに脳みそも溶けたのか? ん?」

 

十数分後、伊織と合流した和人はあれよあれよと言う間に浴衣に着替えさせられていた。

つまるところ、ミスコンにエントリーしてしまったのである。

 

「だいたいなんでミスコンが耕平のためなんだよ!?」

 

「実はな、優勝賞品が賞金10万と優勝者のお願いを何か1つ叶えてくれるらしいんだよ。もちろん大学生ができる範囲に留まるらしいけど」

 

「………それで」

 

「まぁ、元はと言えば俺が耕平をあの女達の飲み会に誘っちまったからアイツはライブに入れなくなっちまった訳だからな」

 

「お前がミスコンに出て優勝しろよ顔だけはいいんだから…!」

 

「和人の方が美少女に仕上がるだろ? 俺は信じてるんだキリコちゃんの可能性を!」

 

いけしゃあしゃあと良く言いやがる…!

もう既にエントリーされてしまっている和人はどうにかしてこの下手人を地獄に落とせないか考えていると風に流れて写真が1枚飛んできた。

 

なんだ…と手に取り写真を見るとそこには……

 

【メイド服キリコちゃん(チラ見せver.)】

 

「なっ!?」

 

なぜこの姿の写真がある…!!

 

「………中々のベストショット無くしたら大変…」

 

「お前はケバッ子カフェに居たムッツリ!」

 

「……ムッツリじゃない」

 

写真を追っ掛けてなのかいつの間にか現れた小柄な男は首をちぎれんばかりにブンブンと振っている。そんな男に対して伊織は写真を横から掻っ攫いまじまじと眺めて…

 

「へぇ、よく撮れてるじゃないか」

 

こいつ…自分の姿が撮られてないのをいい事に…!

 

「……1枚300円」

 

「えーと、千紗に梓さんに先輩方だろ…10枚くれ」

 

「……毎度」

 

「お前は何を買ってるんだ伊織」

 

「違う、俺は和人の女装になんて興味はないんだ! この写真を周りに配ったら…お前が不幸になって俺は楽しいなって…」

 

「このクズ野郎…」

 

何処までも性根が腐った男だ…!

 

「む、お主達はミスコンの参加者かの? そっちはまだ着付けもしておらぬのか…時間が惜しい。 早く済ませてしまおう」

 

ズルズルと変わった喋り方をする女の子に引き摺られていく伊織。

 

「ちょっと待て、俺は男だぞ!!?」

 

「何心配ない。ワシの友人も男じゃがバッチリメイクを決めて出場するからの」

 

「いやいやいや、俺はミスコンになんて…!」

 

「可愛くしてもらおうなイオリちゃん?」

 

死ぬ時は一緒だぞ、俺の友達。

 

 

 

 

《さあ、始まりました! 青海女子大学後夜祭メインイベントの浴衣ミスコンテスト! 女子大学なのにミスコンとはこれ如何にっ! でもお客さん男性多いし私も可愛い姿見れるからいいけどね。司会の一年 きっこでーす。 そして審査員は今回浴衣を提供して頂いた"浴衣の小畑"さんから社長の小畑さん! そして今年度は残念ながら優勝は出来なかった元ミスター伊豆大 工藤会長! 》

 

会場のボルテージはアルコールの力なのか、それとも学園祭という特異な空気感からなのか既に最高潮に達しており凄まじい熱気がステージ裏まで届いてくる。最も、ステージ裏の一部は死んだ空気になっているのだが。

というか、きっこが司会で居る時点で和人と伊織の正体がモロバレなのだ。

伊織も工藤という名前を聞いて何故か頭を抱え、もう一人の男も小畑と聞いた時に顔面が蒼白になっていた。 一体彼らに何があったのだろうか。

 

《審査方法は得点式で参加者16名の中から審査員が独断と!偏見で!得点を入れていきます! また観客の皆さんの反応も採点に加わるので皆さんじゃんじゃん盛り上げてくださいね!》

 

ワーーーーーーー!!!!! ととんでもない歓声が聞こえてくるのだがキリコちゃん、イオリちゃん、あともう一人の男にとっては死刑宣告に他ならない。

 

最初の8人がステージにあがり質問を受けてPRしており、観客の男たちも大盛り上がりだ。イベントとしては間違いなく成功の部類に入るだろう。 次の登壇で男3人が現れることを除けば。

メイクのお陰でまるで別人のような美少女が出来上がっているので余計に変な感覚だ。

 

「よ、よろしくねキリコちゃん、イオリちゃん」

 

「ミスコンに自ら望んで出るとか変態か…それともバカか…」

 

「バカじゃないよぉ! ちょっと人よりお茶目なだけで…それに優勝しなきゃいけない理由があるんだ!!」

 

「大学生になってお茶目はないだろ」

 

「イオリちゃんとどっこいだな」

 

胸ぐらをつかみ合う和人と伊織だがせっかく着付けた浴衣がよれると直ぐに手を離しガンのくれ合いをしつつ話しかけてきたもう一人の男に優勝しなきゃいけない理由とやらを聞いてみる事にした。

 

「それでわざわざ女装してまで参加する理由ってなんなんだ?」

 

「実は友達と旅行に来てたんだけど…財布落としちゃって…日雇いのバイトでステージ設営やったんだけどね? その、宿泊代に届かないから優勝しないと今夜は野宿になっちゃうんだ」

 

「バカだな」

 

「バカだ」

 

「そんなバカバカ言わなくていいじゃないか! それだったら君達だって女装してる俺可愛いだろ!って変態じゃん!」

 

「いや、俺達には小石より小さく水溜まりより浅い理由があるんだ」

 

かくかくしかじか…計画とはいえないほど情けない児戯のような事を彼に伝えるとなるほど…賢いね!なんて言ってきた。バカなのか…

 

「でもいいね。お願いを友達の為に使うだなんて」

 

「ま、キリコちゃんが優勝出来ればだけどな」

 

「お前が優勝しろよイオリちゃん?」

 

《次の組の方どーぞー!》

 

くっ、もう出番か……!

ステージに登壇すると物凄い数の観客に一瞬気圧される。ここで会場の客に女装だとバレる訳にはいかないんだ…!

 

《それじゃあ二組目、トップバッター9番の方から。 お名前を教えて頂けますか?》

 

「神崎ひでりでぇす☆」

 

《どうです、審査員の小畑さん!》

 

《そうですねぇ、浴衣が似合っていていいと思いますよ》

 

《おぉ、これは好評価だ! 工藤会長はいかがですか?》

 

《とても可愛いと思うな。どうだい、今度一緒に旅行でも》

 

《はいはーい、ナンパは後にしてくださいね。それでは10番の………10番の方はなんとエントリーぎりぎり飛び入りで参加してくれた他校の方です!》

 

ダメだ。きっこは俺と伊織の正体に気が付いたのか口角が上がって何とか笑いをこらえてる段階だ。

でも、これも耕平の為………なんで耕平如きの為に体を張らないといけないのか考えたら負けだが。

 

「キリコですっ。 よろしくお願いしますっ」

 

《艶やかな黒髪に大きく綺麗な瞳、オジサンに連絡先を教えてくれないかな?》

 

何言ってんだこのおっさん(審査員)

 

《スポンサーの小畑さんはすこーし熱中症気味な様ですが放っておいてキリコさんにもどんどんと質問させてもらいますね。 今回キリコさんは青の浴衣を着ていますがチョイスした理由は!》

 

「え、えっと…友人が好きな色だったので…勇気を借りる…みたいな理由で…」

 

《素晴らしい理由だ。よく似合っていると思うよ》

 

「ありがとうございます…っ」

 

ごめんユージオ。

言い訳はしない。

 

《小畑さん、キリコさんの浴衣の着こなしについて何か質問ありますか?》

 

《下着はどのようなものを》

 

《ここが女子大学って分かってます〜?》

 

いやどのようなって言われても女物の下着なんてつけてる分けないだろ…きっこが何とか諌めてくれるのを期待したいんだが…

 

きっこは特に止めるわけでもなくにっこにこの笑顔で和人を見つめている。

 

《しかしまぁ、同じ女性として気になる点ではあるので差し支えなければどのような下着を?》

 

「つ、つけてません…」

 

ボクサーパンツなんて言えるか。

 

《キリコさん、何とか浴衣の下は何もつけてないとの事! お客さん盛り上がり所ですよぉウェーブ! ウェーブ!》

 

「私もつけてません!!!!!」

 

《おっと、12番! 12番の秋子さんも大胆なカミングアウトだーー!!》

 

「「「「「うぉおおおおおおお!!」」」」」

 

鋼鉄の浮遊城でデスゲーム宣告を受けたあの瞬間よりも今の方が地獄に感じるのはどうしてだろうか。

会場の熱気によって横に居る伊織は最早死に体状態。というか明らかに前の9番の人よりも持ち時間多い気がする。

 

《名残惜しいですが次の11番の方にマイクを回しましょう! キリコさんありがとうございましたー!》

 

きっこの満面の笑みが怖い。

何はともあれ自分の番が終わったことに安心する和人は横の伊織を軽く小突いて耕平の為なんだろ…と小さく告げると伊織もなんで耕平の為にこんな恥辱を…と呟いた。元凶はお前だろ。

 

《では11番の方、お名前をどうぞっ!》

 

《イオリですっ!》

 

《イオリさんはスラッとしたこれまた美人さんですね。 どうですか工藤会長? あ、小畑さんはまだ座っててくださいねー五月蝿いので》

 

《とてもレベルが高くて驚いてるよ。さっきの子もすごく可愛かったけど俺はイオリちゃんが優勝候補かなぁ》

 

《おーっと! 審査員の一人がイオリさんを優勝に押したァ!!》

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら工藤会長を眺めている伊織はマイクを握り唐突に笑顔になる。

 

「ありがとうございます工藤会長。 工藤会長は男性に告白したと聞いたことがあったので…応援してくださって嬉しいです」

 

《確かに先程あったタレコミによると工藤会長は伊豆大祭で男性に告白したらしいですね》

 

《あれは何かの間違いだ! だいたいあれはPaBの奴らが……ゴホンッ…とりあえず俺からは以上だよ。小畑さんはどう思いますか?》

 

《是非ボンデージを着たイオリさんにピンヒールで踏んでいただきたいですね》

 

「誰がやるかボケぇ!」

 

《お小遣いもあげよう》

 

「ダメだキリコちゃん、こいつ話を聞かねぇ」

 

「耐えろイオリちゃん」

 

「そうだよイオリちゃん! 殺るならコンテストが終わった後で裏で殺ろう! 手伝うから」

 

12番までそんなことを言う始末である。

 

《……おや? そちらの秋子さん…以前どこかで…》

 

先程の下着つけてない宣言の時は和人に視線を奪われていた小畑が今は12番をまじまじと見つめている…まさか知り合いだから登壇前の様子がおかしかったのか…? いや女装する時点で男性陣の様子はおかしかったけどさ。

 

「…はい…」

 

《はーい小畑さんは少し黙っててくださいね。 それではマイクを12番、秋子さんに回しまして質問といきましょー。 彼氏はいますか?》

 

「い、いません! 今まで一度だって!」

 

《おぉ! これは会場に居る男性諸君にとっては朗報ですね!》

 

《連絡先交換しないか?》

 

《いくら欲しい?》

 

《審査員といえど弁えてくださいね》

 

審査員の12番に対する怒涛の質問攻めは止まることがない。

 

《吉井さんは一人暮らしなのかな》

 

《やはり昔ミスコンで会った方だ!》

 

和人と伊織、その他の参加者に観客達も何が何だかと首を傾げているときっこが強引にマイクを次へと渡して質問を打ち切る。 多少強引な方が司会として有能なんだな、とどうでもいい事に関心を覚える和人。

しかし審査員の食い付きを見るにまさかの12番が優勝候補なのかもしれない。

 

《はい、13番の方どーぞー!》

 

「1年 桜子です。 よろしくお願いしまーす」

 

出た、伊織にビールをぶっかけられていた女の人だ。

 

《おお、ようやく青女の生徒! それに浴衣も似合っていますねー。 どうですか浴衣を提供した小畑さん》

 

《興味無いね》

 

《うん、可愛いんじゃないかな?》

 

《それよりも10番、11番、12番を中心に水着コンテストでも》

 

「「「絶対嫌です」」」

 

桜子と名乗った女の子を完全放置な魔境とかしたミスコン会場。 空気は最悪…かと思いきや、きっこの盛り立てや小畑の欲望に忠実過ぎる質問、そして見目麗しい浴衣美人達(男数名)が並び立つ光景に会場の男共(バカ共)の様子はテンションが高く今にもステージへなだれ込みそうな程に前に押し寄せている。

 

嫌な予感がした。

 

「もっと前で見てぇんだよ!」「おい押すなって!」「可愛いなぁ!!」「……これは不味い…!」「連絡先を!!」「いやこのあとデートを!」「ま、待つのじゃお主ら!」「いいや押すね!」「最短で最速で!」「やべぇなこれ…!おいお前ら逃げ…!」

 

咄嗟の判断。

 

キリコちゃんもイオリちゃんも、近くに居た他の女性参加者の手を取ってステージの後へと強引ながらも連れ去る。それと同時に野郎共の波はステージを襲った。

モンスターハウスかよ!!

 

《ちょ、これはさすがに無理無理!!》

 

《く、貴様らには秋子さん達を渡さんぞ! 渡さんからな!!!》

 

《お、小畑さん暴力はダメで…ぐぼぁ!?》

 

ステージの上は大乱闘。

なんて醜い絵面なんだ…

恐怖のあまり泣き出す女性もおり何とかならないかととりあえず安全な場所へと参加者たちを避難させているとあの波から逃れてきたきっこが紙を持ってやってきた。

 

「はぁ…疲れた…」

 

「お疲れ様きっこ」

 

「その紙、一応はコンテストの結果なのか?」

 

「まぁねー? 賞金とかもあるしサラサラっと発表しちゃうよ」

 

何のめでたさも盛大さもなくきっこが読み上げたのは優勝は12番とのこと。

めちゃくちゃ汚い字で《優勝!!!! ご両親に挨拶!!》と12番の欄に書かれているので本当に青女の生徒たちの身が危なかった可能性があると考えると冷や汗ものだ。 良かった12番が男で。

 

「えっと準優勝はキリコちゃんね」

 

「は!?」

 

「良かったなキリコちゃん。美人で」

 

「イオリちゃんは三位ね」

 

「は!?」

 

「良かったなイオリちゃん。美人で」

 

上位3人が男という始末。

節穴過ぎるんじゃないかあの審査員達…

あまりにもあっさりとした発表だった為に他の参加者は悔しさも特になくおめでとー! と言って会場を去っていく。

まぁ…せっかくのイベントがこうなったら気分も冷めるよな…

 

「あら…貴女、タオル貸してくれた子よね?」

そんな残念な結果発表の中、賞金を受け取って小躍りしている12番(バカ)を眺めていると声をかけられた。

 

「え、えぇ…桜子さんも出てたんですね。驚きました」

 

「準優勝おめでとう…って言ってもあんな審査員(クズ)に評価されるなんてまっぴらだわ。そっちの貴女もそう思うわよね?」

 

「…………」

 

全力で顔を逸らしている伊織を不思議に思ったのか近寄ってくる桜子は顔を隠した奴を覗くように顔を寄せる。

 

「……手を避けなさい」

 

「…嫌です」

 

「そう、力ずくがいいかしら?」

 

「雑!?」

 

唐突な脳筋反応についつい手を離すと満面の笑みの桜子が伊織を見つめていた。

 

「あらぁ、さっきぶりねぇ? それにしても女装が趣味だったとは驚いたわぁ……?」

 

この女、伊織と同族の匂いがする。

ニタニタと笑う桜子に対し、焦った伊織は距離を置くように走り去りながら捨て台詞の如く言葉を吐き捨てた。

 

「お前の魅力、俺たち以下でやんの!」

 

「やめとけよ伊織。可哀想だろ?!」

 

「………コロス」

 

「あ、ちょ、ちょっとキリコちゃん!イオリちゃん!」

 

後ろから12番(バカ)の声が掛けられるも伊織の挑発によって修羅と化した桜子が怖すぎるので振り返る余裕もなく逃げることとなった。

 

「秋子さん……いや、本当の名前は?」

 

「あはは…やっぱり女装だって分かった? ……ってそうだ! 優勝したら賞金の他にお願いも1つ叶えてくれるんだよね?」

 

「あー、うん。 叶えられる範囲でだけどね」

 

「それじゃ、お願いがあるんだけどさっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」

 

修羅(桜子)から逃げ続けていると天に向かって吼えている耕平が居た。そんなに悔しかったのか…

 

「耕平…」

 

「まぁ、なんだ…ライブはまたあるかもしれないだろ…?」

 

「あまりにもKAYA様のライブが素晴らしすぎて涙が…!」

 

チケットをスられて観れなかったのでは?

 

「ライブ…見れたのか?」

 

「設営のチーフが口を聞いてくれてな」

 

「いい席だったのか?」

 

「いや1番後ろだった…チケットを無くして絶望していたが…ライブに参加したら全て吹っ飛んでしまった」

 

泣きながら笑う耕平に和人と伊織は苦笑し肩を竦める。

 

 

いや待て。それじゃあ俺と伊織は何のために…?

 

「和人、こいつの金で焼肉でも食いに行こうぜ」

 

「いい案だな伊織」

 

「なっ!? なぜだ!?」

 

まったく…こっちは大変だったというのに…和人は肩を落としながらため息を吐くも嬉しそうにライブの内容を語る耕平を見ると自然と笑ってしまった。

 

「ほら行くぞ」

 

「さっさと行かないと閉まっちまう」

 

「まだ奢るとは言ってないぞ!? それと、なんでお前らは女装をしているんだ?」

 

「「深くは聞くな!!!」」

 

 

翌日の事だ。

Grand Blueで昨夜のライブを思い出して未だにニヤついている耕平と何故かブチ切れてる千紗に吊るされている伊織を眺めながら和人がビールを飲んでいると珍しいお客を愛菜が連れてきた。

 

「お邪魔しまーす」

 

「お、昨日はお疲れ様キリコちゃん」

 

「その呼び方は二度とするなきっこ」

 

「ダイビングしに来てくれたの!?」

 

「いやいやそうじゃなくて…」

 

千紗の質問に苦笑しながら飯田かなこは鞄を開けると一枚の色紙を取り出し耕平へと手渡した。

 

「私の姉さんから耕平くんにって」

 

これ、水樹カヤさんのサインか!?

 

「お、ぉおおおぉぉぉおおおおおおおお…………………!」

 

色紙を掲げたままへたり込む耕平に戸惑う飯田は戸惑いながらも姉が耕平の応援を喜んでいたと告げると輝くような笑顔を浮かべながら涙を流す。

 

「伊織くんと和人くんの事も褒めてた」

 

「え、俺たち?」

 

「なんだろうな…?」

 

キョトンとしながら顔を見合わせる俺たちにきっこが続く。

 

「はい、これはミスコンの優勝者から」

 

水樹カヤのサイン色紙3枚にサイン入りのTシャツ3枚。

それぞれ北原伊織、今村耕平、桐ヶ谷和人と名前入りのモノだ。

 

「これは…?」

 

「ミスコン優勝者ってあの12番だよな?」

 

「そ、明久くんが優勝した時のお願いでね。 友達のために頑張ってた二人に水樹カヤさんのグッズをプレゼントしてあげて欲しいって」

 

耕平は感情が壊れたのか呆然とした表情を浮かべたまま2枚目の色紙とシャツを抱きしめている。

 

「アイツ…変なやつだな」

 

「ま、結果オーライってやつだ」

 

耕平は数時間に渡り水樹カヤについて永遠と語り、旅行客の男四人組が店に入ってくるまで続いた。

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