ぐらんぶる〜もう1人の少年を添えて〜   作:夢見969

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いざパラオ!
とは行かずに次回は帰省のお話になりまする。


納涼祭!

「いやー、来週からパラオなんて急だねぇ」

 

「梓さん達は行かないんですか?」

 

「私ら一応3年だしね。和人も行くの?」

 

「えぇ、留学前の予行演習だと思って行くことにしました」

 

「海外だと知っていれば俺は断ったのですが…」

 

「今更足抜けは許さん」

 

そう、この話を聞いた時に耕平な絶対断ると分かっていたため少々卑怯な言質を取ってメンバーに捩じ込んだ。

先輩達は酒を呷りながら静かに呟く。

 

「俺たちの夏はそろそろ店仕舞いだな」

 

「だな」

 

それもそうか。先輩達は3年だし、4年になったら就活とか色々追い込みの時期だもんな…ということはサークル自体も送る会みたいのしないといけないんじゃないか?

チラり、と伊織に視線を送るとウィンクを飛ばしてきたので一発殴った。

 

「か、和人…なにを……!」

 

「バカは放っておいて今日明日は俺たちはまだこっちに居ますし先輩、何かやり残したこととかないですか?」

 

和人がそう言うと先輩達一同は少ししんみりした様子を漂わせながら紙に次々とやりたい事を記していく。

耕平も桐ヶ谷にしてはいいことを言うな、と素直に褒めていた。

 

「やり残しか…」

 

「折角だし紙に書き出してみるか」

 

 

 

 

・皆のちゃんとした浴衣姿が見たい!

 

・たこ焼きをやりたい!

 

・記憶に残る飲み会をやりたい!

 

 

 

 

「たこパだな」

 

「たこ焼き飲み会だな」

 

「特に変なこともなさそうだし」

 

「よし、伊織も耕平も千紗も問題ないな。 先輩、これ全部やりましょう!」

 

「おー、そうか。んじゃ浴衣を着て集合な」

 

「奈々華もやろー」

 

「いいわよー」

 

なんて、先輩方のやりたい事にしては随分と良識的な内容に安堵しながら各々浴衣を着て店に集まる事となったのだが…

 

「どうした和人?」

 

「いや、考えたら俺は浴衣がないなってさ。実家ならあるかもしれないけどこっちには」

 

「あー、俺は甚兵衛あるからそれを着るよ」

 

裏切り者め…

伊織が部屋へと歩いていくのを飲みかけのビールを飲み干しながら睨み付けていると梓さんが背後から抱き着いてきた。

 

「やっぱり困ってるねぇ和人」

 

「そりゃ困ってますよ。やろうって言ったは言いけれど俺は浴衣ないですし」

 

「そんなことだと思って和人のちゃぁんと用意してあるよ」

 

「本当ですか!? 借りてもいいなら借りさせてもらいます…」

 

梓に抱きつかれて居るのだが、それを意に介さないのは慣れなのかなんなのか。

まぁ、普段の距離感だと言われれば納得せざるおえないのだが明日奈や直葉が見れば憤慨モノだろう。

とりあえず梓の提案にホイホイと着いて行った和人であった。

 

 

 

 

 

「それじゃあ夏の締めくくりということで……」

 

「「「「「「かんぱーーーーい!!!!」」」」」」

 

浴衣に着替えた一同は近所のスーパーで軽く買い物を済ませ日も沈まぬ頃合からジョッキを傾け、焼きたてのたこ焼きを頬張り混みながらどんちゃん騒ぎをしていた。

 

「……普通だな?」

 

「今のところな」

 

「…(もぐもぐ)」

 

先輩達の様子は普段の飲み会通り。 どんな無理難題を吹っ掛けられるかと思っていたが、結局のところ今の皆で普通に楽しく飲み会をしたい…というのが先輩たちの願いだったのだろう。

 

「あ、先輩たち!」

 

「「「「ん?」」」」

 

伊織がカメラを構え、集まった先輩達の姿を写す。記憶に残る飲み会…か。

 

いや、待てよ…?

 

「それだと記録に残る飲み会だろ」

 

「あ、そうか」

 

「そうそう、それだと違うだろ?」

 

………っ!?

突然の悪寒。SAO時代に培った第六感が凄まじい警鐘を脳内に鳴らしている。逃げなければ…!

和人が何も言わずに転身した直後、梓が腰に抱きつくように手を回して来た。これでは逃げれない…!!

視界の端では先輩達がやりたい事を書き留めた紙を受け取る伊織が映る。

 

「ほれ、ちゃんと読め伊織」

 

「なになに…ん、隅っこになにか…」

 

「ダメだ伊織! その折り込みを捲るな!?」

 

左端、折り込まれた部分を捲ると【最重要】と書かれた一文が追加されていた。

 

 

全てPaB式で!

 

 

「逃げろ、3人とぐぼぁ!?」

 

叫ぶよりも先に焼きたてアツアツのたこ焼きを口内にぶち込まれた和人は地面をのたうち回り、三人も逃げることは出来ず各々先輩達に捕縛されていた。なんという悪質…!!

 

「やり残したことは全てやるんだよなぁ?」

 

「俺達は優しい後輩を持ったなァ?」

 

「悪質詐欺のそれですよコレェ!?」

 

「最期のひと文が余計過ぎるッ!!」

 

「…………………!!」

 

伊織、耕平の抗議なんてその。先輩達は清々しい笑みを見せながらビールのジョッキではなくウィスキーやら焼酎やらスピリタスの瓶を片手に高らかに叫ぶ。

 

「これよりPaB式納涼祭を始める!!!」

 

「「「「「「イェェェエエエエエエエエイ!!!!」」」」」」

 

「「「イヤァァァァァァァァ!!!!!」」」

 

またこうなるのか!? 結局!?

 

「という事で、先ずは私からねー」

 

「梓さん? 梓さんの要望は浴衣でしたよね?」

 

「うん、ちゃんとした浴衣姿だよ? 浴衣って…下着付けないのがちゃんとしたなんだって。 伊織のは浴衣じゃなくて甚兵衛でしょ?」

 

逃げようとした千紗は浴衣を着てきた奈々華さんに捕まり店の奥へと引きずり込まれ、先輩方と耕平は浴衣の下のパンツを脱ぎ捨て、伊織は裸に帯だけ巻いていた。

 

「変態かよ」

 

「仕方ねぇだろ!? つーか和人お前もさっさとパンツ脱げ!」

 

「履いてないが?」

 

「ブラは?」

 

「付けてるわけ無いだろう!? バカかお前は!」

 

「いや、最初にツッこまなかった俺達も悪いが堂々と女物の浴衣を着て大和撫子風なキリコちゃんを見たらつい…?」

 

「梓さんが着付けしてくれたからな。 完璧だろ」

 

青色地に金木犀の天ノ川、ツツジの花凜が咲く可憐な浴衣を身に纏い最早慣れてしまった黒髪ロングのウィッグを軽く片手で撫でる。

 

「………綺麗」

 

「ありがとう千紗」

 

ふふっ、と微笑む和人…もといキリコちゃんに梓は満足気に腕を組み頷き、千紗は普通に見惚れて耕平と伊織はドン引きしている。

あといつの間にか店内に居た男とアルゴが写真を数枚撮って足早に逃げていった。

 

あの二人まだ伊豆に居たのか…!?

 

「いやー、やっぱり可愛いわ和人」

 

「嬉しくないけどありがとうございます梓さん」

 

「よし、エッチしようか」

 

「アンタは何言ってるんだ!?」

 

「諦めろ和人。俺も諦めた」

 

「伊織も何を言ってるんだ!? 耕平、鼻血を流してないでなんとかしろ!!」

 

わーわーと騒いでいる男子勢を他所に千紗は寿先輩の方へと歩いて行く。胸元を押えながら。

 

「あの浴衣は分かったんですけど…PaB式のたこ焼きって…」

 

「俺たちが揃えた材料で作ればPaB式だ。心配するな」

 

☆たこ焼き粉☆

 

☆卵☆

 

☆水☆

 

「「「ダウト!ダウト! その水ダウト!」」」

 

ラベルに96%なんて書いてある水がある訳ない。

 

「むぅ、しかしこうでもしないとPaB式にならんぞ?」

 

「そもそもPaB式が間違えているんですが…」

 

「しかし動画ではこうしていたぞ?」

 

「動画…?」

 

怪訝そうな表情をする俺たちに先輩がタブレットに表示された動画を見せる。これ通りに作れば…出来るのか…?

 

 

 

 

 

§

 

 

『姫路瑞希の女子ご飯っ』

 

『今日はお酒が大好きなあの人を射止めるお酒を使ってお酒にピッタリなたこ焼きを作りたいと思いますっ』

 

『まず用意するのはスピリタスですっ。お酒が大好きな彼の為に一番度数の高いものを用意しましたっ。 これをたこ焼き粉と混ぜるのですが…』

 

『ここでワンポイントっ。 スピリタスは揮発しやすいので手早く混ぜていきます。この時、揮発したアルコールが目に染みないように注意してくださいねっ』

 

『しっかり混ぜたらアルコールで分離する前に一気に流し込み具材を入れて焼き上げますっ。焦げないように気を付けてっ』

 

『ここからワンポイントっ☆』

 

『今回はたこ焼きにかけるソースも作っちゃいます。中濃ソースにめんつゆ、ケチャップとハチミツを混ぜるだけでも美味しいですがここに先程よりは度数の低いお酒(エバークリア 95%)も少し入れちゃいましょう。またソースを作り過ぎて長い間保存しておくのも…と思う方も多いと思います。そんな方のためにソースを長持ちさせる為、硝酸カリウムを少し多めに入れます』

 

『またオリジナルソースを作りたい方は酸味の為にクロロ酢酸を入れるのもいいと思いますよ』

 

『焼きあがったたこ焼きをお皿に盛り付けソースをかけたら…はいっ、お酒の大好きな彼の特製たこ焼き出来上がりです♡』

 

 

§

 

 

 

 

 

料理の結果、たこ焼きでは無く化合物Xが出来上がった。

 

「絶対食いたくない」

 

「たこ焼きにあるべき姿じゃない…」

 

「何焼きなんだよこれ…」

 

「何気にする事はない。火が入ればアルコールは飛ぶだろ」

 

「ソースに火は入ってませんけどね!!」

 

「ほれ食ってみろ」

 

寿先輩が化合物Xを差し出すが和人も伊織も耕平も首を振り、千紗は先輩の焼いた普通のたこ焼きを必死に食べてる。最後の晩餐が化合物Xなんてお断りしたい。

 

「お、たこ焼きか? はは、随分と不格好だなぁ…どれ、いただきます」

 

「「「あ」」」

 

登志夫さんが化合物Xをヒョイッと一摘み口に放り込み…

 

バタンっ…ガクガクガク…ビクンビクンッ!!!!

 

「…予想以上にやばいシロモノだぞ!?」

 

「おいお前たちが作ったんだしお前たちが食えよ!?」

 

「桐々谷、何一人で逃げようとしている。 貴様も調理を止めなかった時点で同罪だ!!」

 

野郎三人(一人女装)が取っ組み合いながらギャーギャー騒いでいると千紗が不意に化合物Xを手に取った。

まさか食べる気か!? と思ったのだが…

 

「はい、伊織」

 

「食えるか!?」

 

「恋人らしいことしないと」

 

なるほどその手があったか。

くるりと身を翻し、千紗と伊織のやり取りを写真に収めて後の脅しのための材料にしようとしている耕平に化合物Xを突き出した。

 

「耕平、あーん」

 

「…血迷ったか桐ヶ谷?」

 

「いやいやまさか。スグに合わせる前にお前を葬っておこうって思っただけだよ」

 

微笑みながら耕平にあーんをさせようとしている姿はさながらカップル。 こいつ顔だけはいいからな。

 

直葉ちゃん(俺の妹)に会うまで俺は死なんぞ!! おい貴様、写真を撮ったな!?」

 

「お前だってさっき俺と千紗の撮ってたから同じだろうがバカめ! いいぞ和人、もっと顔を近づけろ。この写真を山本たちに見せれば耕平はあの世行きだ!!」

 

「おいおいお前たち喧嘩はダメだぞ」

 

「「「「だってこのバカ(伊織/耕平/和人/千紗)が!!!!」」」」

 

珍しく…というか無人島辺りから千紗もだいぶ振り切れるようになってきている気がする。

 

「こういう時はいつも通りゲームで解決だな」

 

「ほい和人。ゲームを決めるあみだくじっ」

 

手渡された紙に書かれたゲームは三種類。

 

ビールでイッキ飲み!

たこ焼き一気食い!

水イッキ飲み!

 

………ビールだ!せめてビールだ!!!!

 

 

30分後。 後輩達は死屍累々となっていた。

 

「まさかコイツらが気を使ってくれるとはな」

 

「なんだかんだ言って可愛いところがあるんだよな」

 

「私は最初っから全部かわいいと思ってたけどね〜」

 

倒れ込んだ後輩達を眺めながら諸先輩方は正真正銘、普通のたこ焼きを食べながら呟く。

 

「和人も色々とあったらしいが…年相応の楽しみ方をしてくれてるようだしな」

 

「遊んでなんぼだろうしなこの歳頃なんて」

 

たまたま和人が伊豆大に来て、たまたまこの店に下宿して…複数の偶然が重なった結果がご覧の有様になったのだが…来たばかりの和人は少しどこか遠慮しているようだったので心配だったのだ。自分たちとそう年齢の変わらない彼が難しい顔をしているのが。

 

「しかしこれで就活に集中できるな」

 

「俺らは製図とレポートあるしな。和人が居るうちは手伝ってもらうつもりだが」

 

「記憶に残る楽しい飲み会だった」

 

「もっともこいつらにとっては記憶に『障害が』残る飲み会になったようだが」

 

 

 

 

 

 

翌日、伊織が実家にパスポートを送って欲しいと電話したところ栞ちゃんが絶対に送らないと言われて電話を切られたらしい。不思議な事もあるもんだ。

 

「俺も実家に電話しておかないと…あとあっちにも…」

 

数度深呼吸して通話ボタンを押す。

平日の昼間だけど出てくれるか…? 数度のコールの後、心配の必要はなかったのか相手が出てくれた。

 

『────』

 

「お久しぶりです、桐々谷和人です。実は…えーと、用意して欲しい物がありまして…」

 

「なんだ和人もやっぱり実家に一度帰るのか」

 

耕平の首を締め上げている伊織は何だか初めて見る和人の様子に首を傾げながら眺めていた。

 

「…離せ北原…ッ!! 俺は栞ちゃん()直葉ちゃん()に会わねばならないのだ…っ」

 

「…何言ってるんだコイツ」

 

「もう電話終わったの?」

 

「あぁ、少し知り合い…?にお願いしてただけだしな。 伊織の実家に俺も着いて行っていいか?」

 

「おぉ、和人ならいいぜ? コイツは捨てて起きたいが…」

 

耕平は顔を青くしながらも未だしつこくのたうち回っている。なんて言う執念だ。

 

こうして伊織の実家&和人の実家巡りツアーが計画されたのである。

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