もう一回見てきます。
一部映画ネタが入っているため皆はVamosダンスで調べて一緒に踊ろう!
「おぉ、ダイビングショップなんて初めてきた」
「私も! というか伊織と耕平もでしょうけどね」
愛菜と二人、若干興奮気味な和人。 未知への探求からか、それとも単に遠足前のような気分でテンションが上がっているからか。何にせよ、ここ数日のあの飲み会のせいで人としての大事な何かが欠落しつつあるのは確かではある。
先輩や他のメンバーに着いて行く形で歩いていると伊織が棚の前で止まり物珍しい瞳で商品を見つめていた。
「これがダイコンか…」
「へぇ、深度と潜水時間を測定して減圧症のリスク低減…か。 俺はまだ潜った事ないからわからないけど必要なのか?」
伊織に尋ねると彼が応えるよりも早く、寿先輩と時田先輩が答えてくれた。
「ダイコンから揃えるべきという考え方もある」
「自分用の安全器材を持って
※減圧症……体内に取り込んだ気体が気圧の変化で気化し、血管を閉塞させる障害。
「ある程度の深さまで潜ったり、インストラクターから離れて動き回るダイバーに必要なものだな」
ダイビングに関する事になると四人とも何処か落ち着いているというか随分と印象が変わる。などと一人妙な感覚に襲われる和人だが例の如く、数日後にはそれに慣れてしまう。 自分の取り巻く環境の変化に素早く順応してしまうのはSAOでの2年間デスゲーム生活によるものだろう。
今回の生活に至っては全く誇れるものでは無い。
「「最初はタオルだけあればいい」」
「「なるほど」」
え、水着は…?
「じゃあ、好きに見回っていいぞ」
「分からないことがあったら声をかけてくれ」
自由行動ということで各々気になるコーナーへと散っていき、少しした時に和人の瞳に映ったのは珍しい形のカメラだった。
マジマジと眺めていると真横に千紗が居た。
「桐ヶ谷くんも気になるの?」
「あぁ、これが気になる…ってよりはこういう形で防水のプローブを作れたらいいな…ってさ」
「えっと…私はあまり詳しくないしよく分からないけど…どうしてそこまで?」
「………AIの娘が居るって言ったら信じるか? おい、俺を伊織や耕平を見るような目で見るなよ」
「待て和人。 なぜ千紗の顔を見て俺の名前が上がる耕平ならまだしも」
めちゃくちゃ不名誉な瞳で見られた。
まぁ、でもVRMMOや人工フラクトライトによる研究で様々な界隈が賑わったが海に心を惹かれている千紗やPaBのメンバーが昨今のAI事情に知らなくても仕方がない。それにSAOでの出自を話さなければ興味のない人々には信じてもらえるかも怪しいだろう。
俺だって最近有名な俳優とか歌手の話をされても全く分からないし自分の興味とは違う畑の話をされたら人間こんな反応をするものなのだ。
「しかし千紗。最近のAIってのは凄いんだぞ? 自分で物を考えて話したり人間と何ら変わりのないぐらいになってるんだ」
「そうなの?」
「なんだっけか…えーと、そうだ。 1〜2年前に記者会見をしたアリスって人工知能が有名になったぐらいだしな」
「そうだったんだ…ごめんね桐ヶ谷くん。 今村くんを見るような目で観ちゃって」
「気にするなって。ちゃんと説明しなかった俺も悪かったし…今度みんなに会わせるよ」
ユイにもアスナにも…今の状態を見せる訳にはいかない。だからこそ今度だ。
少なくとも沖縄から帰ってくるまでに伊織と耕平の行動を少しでも矯正しなければ。
「因みに伊織。 何を持ってるんだ?」
「なんだと思う」
手に持っているのはフックの様な道具。
見た目から判断するに何かに引っ掛ける…?
「耕平の鼻に引っ掛けて引っ張る道具だ」
「なんだその限定的な使い方」
「カレントフックだよ。 潮の流れがある所で留まって回遊魚の群れとかを見るのにそれを岩とかに引っ掛けるの」
そうだったのか…と戦慄する様子を見せる伊織を放ってウエットスーツのコーナーへ行くと耕平が二つのダイビングスーツの目の前で跪いていた。
なんとも近寄り難い…というか知り合いだと思われたくないんだが…。
「む、桐ヶ谷と北原…お前たちもここに導かれたのか!!」
「ウエットスーツが欲しいのか?」
「買う気はなかったがこれは気になっている」
「確かに見た事ないデザインだもんな」
伊織の答えに耕平は信じられないものを見たような顔で詰め寄っていた。
「伊織、多分それコラボアイテムってヤツだよ。アニメのヤツだろ」
「へえ、そんなのもあるのか。これしかサイズないなら試着は無理だな」
「いや俺は着なくていいんだが…」
伊織、違うそうじゃない。
「そうか、着られるやつに頼んで感想を貰えるんだな」
「うん? そういう意味じゃ…」
〜数分後〜
「うん、着心地いいと思う」
「ただジッパーがないタイプだから好みが別れるかな?」
「だとさ耕平」
そこには綾○レイ風の愛菜と惣流・ア○カ・ラングレー風の千紗が更衣室から出て来た。
耕平は平伏し天を仰ぎ、一日の心の友を誓った。
……見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ…
…と、まぁ知り合いと思われたら恥ずかしい出来事が多々あったが色々なものが見れたし、防水性のプローブへのアイデアも手に入った。あとは本来の目的である水着とマスクか。
水着に関してはテキトーな黒いものを選びカゴに入れマスク売り場に来ると耕平が品定めをしていた。 伊織と梓さんは棚の影から何かを覗き見しているがスルーだ。
「桐ヶ谷か…水着は要らんだろう」
「要るからな? お前たちじゃないんだぞ?」
「マスクは中々悩むな。 サイズもそうだがデザインも気になるものがある。俺としてはららこたんをイメージできるような物がいいんだが」
「公式サイトにコラボして欲しいジャンルでダイビングとか書けばいいんじゃないのか」
「既に何度も送っている」
自分の趣味となると余念が無いな。
「ただいまー」
「あ、みんなおかえりなさい。いっぱい買い物してきたのねっ」
「俺たちはマスクを」
「私はカメラを…」
各々の買ったものを袋から出し奈々華さんに見せる。 何だかみんなで同じようなものを買う経験って実は初めてじゃないだろうか。それも同年代の連中とだ。別に帰還者学校で友達が居なかった訳では無いが、彼らは結局SAOという同じ世界に居たある意味での運命共同体だった人達であって、ここに居る出会ったばかりのゲームとは別の趣味を持つ人は本当に初めてだ。
「沖縄に行く費用も掛かるのに器材まで買っちゃうなんて頑張ったのね」
「「「「あ…」」」」
「ん? どうしたんだみんな」
フリーズするみんなを他所に和人だけはキョトンとしている。 それもそのはず、先立つものは菊岡の、ラースの手伝いやアリスに関する出来事でそこらの同年代学生よりは遥かに持っている。
翌日、梓さんを含めた五人はバイトへと出向き俺は俺で寿先輩、時田先輩の指導の元で海へ潜る講習を受けることとなった。(おかげで前夜の飲み会からは逃げることが出来た)
「という訳で和人。 お前は初めて海に潜る訳だが」
「器材の名前やハンドサインは一頻り覚えているようだな」
「そりゃ…覚えとかないと不安はあるし」
「いい事だ。 因みに伊織と耕平はつい先日覚え始めた」
マジかアイツら。
先輩方の指導を受けとりあえず簡単なことから。
レギュレータを咥えて大きく深く息をすることを意識しそのまま海へと潜ってみる。 大きく呼吸をすると酸素が入ってきた…凄いな水の中に居るのに呼吸ができる…。
ふと、呼吸に意識を置いていたせいで景色を見てなかったと視線をあげる。
浅瀬で頭を下げて水中に入っただけだというのに、そこはまるで異世界で。何処までも続く澄んだ先には魚やサンゴ、輝く水面…いや、水中から見える空と言ったところか。 身体を包む水の温さが心地よく、音は自らが呼吸する音だけでそのまま溶けてしまいそうな感覚が身を襲う。
あぁ、なるほど。 これはもっと見たいと思ってしまう。 あの馬鹿二人が魅せられたのも分かる。 この世界は今のVRMMOには再現出来ないかもしれない。
ザバァ…と、音を上げて水面へ出ると先輩方が満面の笑みでこちらを見ていた。
何となくとか、言われたからサークルに入ることになったけれど…
「どうだった?」
「もっと、知りたいと思いました」
「そっか。 じゃ、沖縄でライセンス取らないとな」
バシッと少し強めに背が叩かれるも歓迎のように感じられて。
それは決して悪いものじゃないと俺は思うことが出来た。
そしてまた夜の事。
そろそろ落ち着いたしアスナやユイに連絡をしないとな…と思いながらいつも通りの飲み会が開かれていた。
ここに来てまだ数日の筈なのに随分と見慣れた光景だ。
そんな時、寿先輩が聞き捨てならない言葉を吐いた。
「しかし和人が来てもう
…1週間? いや、まだ4日だろ?
と、考えた瞬間鈍痛が走る。 いや、記憶にない飲み会…?
「最初なんて2日程まるまる寝込んでいたからな」
「でも夜の飲み会には参加してたな」
待て俺がここに来たのは6月頭…それじゃあなんで今日…6月の10日をカレンダーは示している!?
つまりアスナに1週間も連絡を取っていないことになり端末にどれ程のメールや電話が届いているのか考えるだけで背筋が凍る。
「馬鹿な…」
「さてと、和人…飲もうじゃないか」
「い、嫌だぁぁぁ…がぼっ!?」
伊織と耕平はその光景に恐怖した。
未だPaB式の飲みに耐えられない和人の五臓六腑、そして脳を酒に満たすためとんでもない度数のモノを口に注ぎ込んでいる光景に。
あれはエグい。 あれほど無理矢理飲まされれば急性アル中になって運ばれてもおかしくはないのにそうはならない。 何故か?
PaBが脈々と受け継いできた知識によって限界点の一歩手前を弁えているからだ。
「和人が犠牲になっているうちに…」
「俺たちは逃げるか…さすが北原だ。クズの考えだな」
伊織と耕平はくるりと反転し店の扉へと全力で駆け出す。
今日の飲み会はなんだかマズいと心が叫びたがっていた。
「
寿先輩の叫びで身体が急停止する。
バカな扉は目の前なんだぞ…?! なんなんだVamosって…
「おかしい…知らないはずなのに…なぜ身体が動く…!」
「まるで別の俺たちが経験したかのようなこの感覚はなんだ!?」
体が勝手に踊り出す。
逃げられない。
軽快なリズムと共に口も動く
UNO DOS TRES
Fuego!!
「助けて…!」
「くれ…!!」
その日の夜はイケメンな俳優が素っ裸で撮影を行う映画の夢を見た気がした。