ぐらんぶる〜もう1人の少年を添えて〜   作:夢見969

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838383 83を舐めると〜


パラオの海

朝が来た。

潮風が髪を揺らし、上り始めた太陽が肌をジリジリと焼いていく暑さを感じる。

 

最近の自分にしては随分とすんなり起きる事が出来たな…と和人は目を擦って辺りを見渡すと伊織と耕平はパンツ姿で転がっており、千紗と愛菜も薄い寝巻きのような格好で転がっていた。

……そうだ、パラオに来たんだったか。

 

パラオに到着して宿泊先で飲むも、バイト初日は朝早いと聞いていたので絶対に遅刻しないようにバイト先の目の前で飲んだんだ。

これなら間違いなく遅刻はしない!と時田先輩達から教わった技だった。

 

「あ、キリトくん起きた?」

 

「ん、おはよう…アスナ………アスナ?」

 

そうだ、このパラオ旅行?にはアスナも連れてきてたんだった…

 

ギギギギ…と油が切れたような動きで声の主の方へと首を回し見上げると彼女は笑顔で和人の事を見詰めていた。

 

「とりあえず、なんでみんなそんな姿なのか聞こうかな?」

 

おかしい、アスナも結構な量を飲んでいたはずだ。 若干、記憶をぶっ飛ばしてしまえば何とでも誤魔化せると考えていたフシもなくは無かったが…

 

「み、南の島…だからかな?」

 

「羽目外し過ぎじゃないかなぁ!?」

 

「ほ、ほら服を着てると苦しいし」

 

「服を着ていると苦しい!?」

 

あ、あれ? 俺なにか間違ってること言ったか!?

 

「ん…朝から騒がしいぞ和人……あ、おはようございます明日奈さん」

 

「まったくだ…おちおち寝てもいられない…む、おはようございます明日奈さん」

 

「う、うん、おはよう伊織くん、耕平くん。 …その、二人は何で下着姿…なの?」

 

「「南の島だから?」」

 

アスナが頭を抱えだした。

頭痛だろうか? いきなり海外に連れてきてしまったし…申し訳ないな…

 

「えっと、それでも服は着ていた方がいいんじゃない…?」

 

「「服を着ていると苦しいですし」」

 

「─ッ!!! ─ッ!!?」

 

声にならない何かを訴えるアスナを不思議そうに眺めながら伊織と耕平は辺りに散らばった缶ビールや瓶を手際よく片付けていく。

 

「明日奈さん、おはようございます…」

 

「おはようございます、明日奈さん…」

 

「…あ、おはよう千紗ちゃん、愛菜ちゃん」

 

いつの間にか逞しくなっていた千紗に愛菜はぺこりとアスナに頭を下げ、一緒になって酒盛りの残骸を片付けていた。 俺もやらないと…

 

「あの…二人はこの三人の格好見てなにか思わない…の?」

 

「えっと…いつも通り…です」

 

「…久しぶりに見たなーって感じですね」

 

「私がおかしいの…? あれ…?」

 

いけない、アスナが処理落ち仕掛けている。

 

「遠路はるばる、お疲れ様」

 

「オーナー!」

 

凛、とした声が聞こえた。

店の中から出てきたのはサングラスをかけた女性。 その女性は和人や耕平に一人一人に声をかけ、その口に棒付きの飴を差し込んでいく。甘い。

どうやらドルフィン パラオ支店のオーナーらしい。

 

「よく来てくれたわね、伊織君。アンタも久しぶり千紗」

 

「ん、伊織と千紗の知り合いなのか?」

 

「あぁ、言ってなかったか。あの人は古手川沙耶香。 千紗の母さんだよ」

 

 

 

 

 

 

「改めてよろしくお願いします」

 

「ヨロシクー!新米インストラクターのマキです。今日はオープン前の総仕上げってことで皆には困ったお客さんになってもらいたいんだ」

 

「スタッフの対応力を試すためにもね」

 

シレッとアスナも一緒にバイトすることになってるけどどうしよう。

「大丈夫だよ。私もキリトくんと一緒に働いてみたいし」

とは言ってくれたが。

 

「古手川店長から聞いたんだけれどキミ達はOWD(オープン)を取ったばかりなんでしょう?」

 

「はい」 「そうですね」 「その通りです」

 

伊織、和人、耕平は頷きながら答えるとマキは満足そうに笑顔で言葉を続けた。

 

「あと人として大事なものが欠けてるって! そうなの?」

 

(((あの男(オッサン)め……おのれ…!)))

 

「雑用として雇ったつもりが三人も思わぬ拾い物をしたね」

 

「「「いやいやいやいやいや」」」

 

オーナーとマキさんには悪いが非常識という烙印を受け入れるわけにはいかない。

 

「店長は誇張しすぎなんですよ」

 

「北原と桐ヶ谷は非常識ですが、俺はこのとおりまともです」

 

「えぇ、伊織と耕平と違って俺は常識人です」

 

ガンをくれ合う三人を千紗と愛菜は冷めた目で眺めており、アスナはオロオロとしている。

 

「古手川店長から事前に写真が送られてきてね? これを見て非常識人にピッタリ!って思ったの!」

 

見せられたのは素っ裸の三人が肩を組んでビールを飲んでいる写真だった。

これ何時の飲み会だっただろうか。

だがしかし…

 

「「「これの何処が非常識なんです?」」」

 

「オーナー…」

 

「とんだ逸材が居たもんだね」

 

「やっぱりキリトくん変だよ!?」

 

オーナーにアスナまで…っ!?

 

「千紗は店員をやりな。ほら、時間が無いからさっさと始める」

 

ぽいっ、と首根っこを掴まれて店の外に投げ出された和人と明日奈、以下三名は顔を突き合わせ普段通りいこうと決めて店の中へと入っていく。

 

「おはようございます」←伊織

 

「おはようございます。睡眠時間は大丈夫ですか?」

 

普通。

 

「「おはようございます」」←和人&明日奈

 

「おはようございます。疲れ等はありませんか?」

 

こちらも普通。

 

「お、おはようございます」←耕平

 

「おはようございます。移動疲れ大丈夫ですか?」

 

耕平が少し緊張気味。なんでお前が緊張してるんだよ。

 

「おはようございまーす」←悪鬼羅刹の如くケバい愛菜

 

「おはようござ………」

 

あ、マキさん崩れ落ちたな。

 

「ほらマキ。 ゲストさんの体調確認の一言を忘れずに」

 

「あ、ハイ! 頭の方は大丈夫ですか!」

 

「「なんて挨拶を」」

 

でも、鬼のようにケバいメイクを見てしまえば頭の具合を確かめるのも仕方が無いだろう。 和人は最早見慣れたモノではあるが明日奈は余計に目を回している。

 

「次は免責事項の確認お願いします」

 

病歴等…か。

 

「これで困った行動か…」

 

「どうしたものか」

 

「お前らは頭が悪いだろ」

 

「あの、このチェック項目…私乗り物酔いがかなり酷くて大丈夫でしょうか?」

 

殴り合う伊織、耕平、和人を後目に愛菜は項目に目を通して困った…程では無いがちょっとした問題持ちになったみたいだ。

 

「よし、俺達も」

 

「あの手でいこう」

 

「すみません、実は僕喘息持ちで。ららこたんを見ると苦しく…」

 

「水中でも咳は出来ますが…あまり多いと大変なので」

 

喘息持ちでもある程度は大丈夫…なのか。

続いて伊織が神妙な面持ちで手を挙げた。

 

「実は私、妊娠してまして」

 

「ブフゥゥ!!!」

 

「お客さんの事情で吹き出さないの」

 

「ち、チーフだって…!だって…!」

 

なんでよりによって妊娠を選んだんだ伊織。

 

「いやたまたま目に入ったから」

 

「俺は何も言ってないが…」

 

「和人の目が物を言っていた」

 

「キリトくん…伊織くんとは言葉を交わさなくても分かり合う仲なんだね…」

 

そして何故か虚ろな目をして遠くを見つめ始めたアスナ。

そんな俺たちを他所にマキさんを始めとする店員側の合わせでウエットスーツのサイズ確認から着用までを行った。

 

「皆さん大丈夫そうですね!」

 

マキさんの言う通りサイズはピッタリ。

それにしてもアスナはウエットスーツも似合うな…綺麗というか…

 

「桐ヶ谷、沈むか?」

 

「突然の死刑判決やめろ!?」

 

「どうせアスナさんのことを考えてたんだろう」

 

「だって綺麗だろう?」

 

「「「「まぁ、わかる」」」」

 

伊織と千紗、愛菜も同意して首を縦に振る。

ところで愛菜のPADがまたズレていてとんでもない事になってるのだが見て見ぬふりをしていた。

 

「ブッフゥ!!!!」

 

あ、マキさんが気が付いた。

 

「それはアウト」

 

「実際にある事だしね。 チーフ頼むよ」

 

「はい。 吉原さん、ズレちゃってます」

 

オーナーに頼まれたチーフはササッと素早い動きで愛菜の元へ近づくとストレートにコトを伝え、気が付いた愛菜は慌てて更衣室に引っ込んだ。

 

「それとなく気が付かせるのが正解じゃないんですか?」

 

伊織のそんな質問にオーナーは何をバカなことを言っているんだという目を向けていた。

 

「間違いだよ。ゲストの気持ちをわかっちゃいないね。 なんであの子が胸を盛ってると思う?」

 

「えー?」

 

愛菜は持たぬ者…だから?

 

「キリトくん?」

 

急に気温が下がった気がするので目を逸らした。

 

「気になる異性が居るからに決まっているだろう。 その相手に気が付かれる前にスタッフが教えてやる」

 

チラリとアスナを見てみる。 いや特に理由は無いのだけれど。

 

「キリトくん?」

 

少し顔を赤くしたアスナが見えた。

 

「よし、耕平。 ノコギリ持ってこい」

 

「北原、ここで切ったら店が汚れる。 縄で縛って山に連れていこう。そこから四肢を落として杭を打ち込む」

 

「よーし、お前らとりあえず手に持ったパイプとスコップをバックヤードに戻してこい。 相手になるぞ」

 

油断も隙もないなコイツら…!

 

「女なら普通にわかるよ千紗は気が付いてなかったようだけれど」

 

「…ッ!!」

 

千紗は顔を顰めて俯いてしまう。

 

「ほら、アンタらこれから海に出てもらうよ」

 

「え!?」

 

「初日から潜らせてもらえるんすか!?」

 

「むしろ初日だからだよ。明日からは忙しいからね」

 

オーナーのはからいで船に乗り込んだ俺たちは風を浴びながら先へ先へとすごい速度で進んでいく。

 

「早いね。高速船ってやつかな」

 

「みたいだな…というかアスナがOWDを持っててよかったよ」

 

「だいぶ前にね。お兄ちゃんとやった事があって」

 

「おい桐ヶ谷、明日奈さん! あっち!」

 

耕平が興奮気味に指をさしていた。 なんだなんだ、とその方向を眺めるとイルカの群れが併走するように船の真横を泳いでいるのが見えた。

 

「「お、おぉぉぉお!!!」」

 

凄い! 端的だがそんな感想しか今の俺には思い浮かばなかった。

暫くイルカ達は船の横を飛ぶように泳ぎ、ダイビングポイントへ着くとイルカ達をこちらが見送る形となった。

 

「ここはパラオで最もメジャーなポイント、ブルーコーナーです。楽しんでくださいねっ」

 

装具の点検、バディチェックを行ってイントラの合図で潜水を初めて行く。

 

潜ってすぐだ。何種類もの魚達が出迎えてくれた。

それに遠くが見えるほどに透明度が高い!

 

アスナの方に視線をやると彼女もコクコクと頷きOKのハンドサインをしていた。

 

これは人生観が変わるな…

 

 

 

 

「すっげぇ良かった!!!」

 

「ダイビングやっていて良かった…!!」

 

「こんな綺麗な海があるなんて…!」

 

「アスナを連れてきてよかった…!」

 

「私もキリトくんと一緒に潜れてよかったよ」

 

「ふふ、嬉しい感想だね」

 

次々に感想を語っている和人達はこのバイトをやりに来て良かった!!と叫ぶのだが…

 

「何言ってるんだい。バイトはこれからだよ」

 

「「「はぇ?」」」

 

「空になったタンクを運びな! 明日の器材の準備と店内の掃除!」

 

「マジか!!」

 

「くっ、流石は古手川母!」

 

「ちょっと、それどういうこと?」

 

「アスナ、俺頑張るから」

 

「わ、私も手伝うよ?」

 

「そこぉ! 隙あらばイチャつかないで!?」

 

ギャーギャーと騒ぎ立てる俺たちのパラオバイト初日はそうして始まって終わったのであった。

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