なんで? 大丈夫かみんな?
「決めた、私やっぱりキリトくんに会いに行く!」
「「「「えぇ!?」」」」
と言ったのが昨夜。 伊豆に行ってから一週間以上も連絡がなく、ようやく来たメールの内容も元気にやってるから心配しないで。大学で勧誘されたサークル活動をしているからALOにはしばらくログイン出来ない。しか書いてなかった。 優しいキリトくんの事だ、もしかしたら悪い先輩になにかされてるのかもしれない。
彼が伊豆に行ってから1ヶ月、また連絡がなく業を煮やしたアスナは決意を固めて休みの日に出向くことにした。
都心から伊豆まで数時間かけ、やっと和人が下宿している「Grand Blue」というお店に到着した。 潮風が心地よく景色もいい…和人と一緒にここを散歩とかしたら幸せだろうなー。と思いながら彼に会うべくお店の扉を開ける。
「こんにちは〜…」
「いらっしゃいませ。 お、始めてみる顔だ。お嬢ちゃんダイビングかい?」
「あ、あの…こちらに桐ヶ谷和人くんって男の子が下宿しているって聞いてきたんですが…」
「ん、和人の彼女さんか? あいつも中々やる男だったんだなぁ…俺はここの店長をしてる古手川登志夫ってんだ」
気さくそうなおじさんがにっこりと笑顔で出迎えてくれた。和人…と言ったので間違いなくここのようだ。
「しかしタイミングが悪かったなお嬢ちゃん…」
「…へ? タイミングが悪い…?」
「聞いてなかったか? アイツ
「お、沖縄ぁ!? な、なんで…!」
「無事到着と地元ビールとの出会いを祝って…」
「「「「かんぱーい!!!!」」」」
ギラギラと照らす太陽の下、時田先輩の音頭で俺たちはカシュッ…と快音を鳴らして皆で缶を煽り喉を鳴らす。
うん、美味い!
みんなでワイワイと日が登ってる時間からお酒を飲むのは楽しいなと思いながらこれからの予定を時田先輩に聴くことにした。
「それでこれからどうするんです?」
「早速、ライセンス講習ですか?」
「いや今日は店長が紹介してくれて貸別荘で一泊だな」
「そこにレンタカーで向かうんだ」
へぇ、レンタカー……
伊織→ビール
耕平→ビール
時田先輩を始めとする先輩方四名→ビール
和人→ビール
「どうするんですかこれ!? というか俺まで自然にビールを開けて…あぁ……!!?」
「遂に和人も無意識のうちにアルコールを欲し始めたか」
「ウェルカム Peek-a-Boo!」
「桐ヶ谷は今更だからどうでもいいですけど流れるようにお酒買ってましたよね!?」
アスナ…ユイ…俺汚されちゃったよ…
さめざめとなく和人をほっぽり出して伊織と耕平はヒートアップするも無意識の行動、責めるの良くない。で流されてしまった。
このままでは貸別荘に行くことが出来ない…となればこの場に居ない先輩達を頼る他ない。
「誰か他の先輩はいないんですか」
「ナイスだ和人! よく気がついた!」
「アイツらは三日後に宮古島で合流だからな」
「バカか桐ヶ谷! ぬか喜びさせやがって!」
コイツらマジで海に沈めてやろうか…
「大丈夫大丈夫。 ちーちゃん免許持ってるし」
「なんだそれなら大丈夫だな。千紗は伊織や耕平と違って酒バカじゃないし」
「そうだな、耕平と和人みたく酒クズじゃない」
「全くだ。古手川に限って北原と桐ヶ谷の同列など有り得ないだろう」
ブンッ!!(←伊織が和人を殴ろうと拳を振るった音)
バキィ…!!(←和人が躱して伊織の拳が耕平の顔面にぶち当たった音)
「北原貴様ァ!」
「このスカし野郎が躱したんだよボケェ!」
「愛菜も免許持ってるかもよ?」
梓さんの一声で俺たちは顔を見合せた。確かに彼女を勘定に入れるのをすっかり忘れていた。
申し訳なく思った和人は眉を下げながら頷き口を開く。
「まさか、愛菜が持ってるわけないですよ」
「いやそれは無いかと」
「アイツ、相当鈍そうですから」
三人それぞれ言葉は違うものの彼女に対する印象は同じだ。今も向こうでアイスクリームを地面に食べさせている。
万が一持ってたとしても不安だし、アクセルとブレーキを平気で間違いそうなレベルだ。
「和人、ひと月でホント染まったよね」
「俺は至って真面目です」
コイツらには悪いがそれはないと言い切れる。
とりあえず千紗に運転してもらうことになり謝りながら皆でレンタカー屋さんに向かう事となった。
九人乗れる車って言ったらかなりデカめのやつだろう。
そして四人乗りの所を無理やり六人詰め込み、時田と寿が屋根に座って和人は二人の先輩に腕を掴まれていた。
「どうした兄ちゃんたち」
心底不思議そうな顔でPaB一行を眺めるレンタカー屋のオジサン。
「これを見てどうしたって言えるあんたがどうした…」
「これにどうやって九人乗れと…」
「九人…? あちゃー、四人と九人を間違えちまったかー」
普通間違えないだろ!?
伊織、耕平と同じくギャーギャー文句を上げるとオジサンも流石に申し訳なくなったのか(もっと早くなれよとは思ったが)もう一台、オープンカーを用意してくれると店へ戻って行った。
オープンカーとは聞こえがいいが軽トラだった。確かに荷台はオープンだもんな。
「「バカにしてんのか!?」」
「八人、九人乗れる車とかって…」
「そんな大きな車、ウチには無ぇぞ?」
なんなんだこの店…!
一応二台に増えたお陰で全員乗ることは出来るようになったのだが千紗が運転出来るのはAT限定。 軽トラはMTだし、そもそもアルコール入っていないのは愛菜だけなのだ。どう考えたって詰みである。
「ねぇ伊織、和人」
ダメだ、振り向いたら俺たちは後戻り出来ない気がする。
背後から声をかけてきた愛菜はトタトタと足音を鳴らして前に回り込み、その手に持っているカードを見せてくる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
運転免許証
「伊織、耕平ぇ!」
「さいしょはグー!!」
「ジャンケン!!!」
「「「ポンッ!」」」
何のジャンケンかを言うまでもなく各々が手を突き出す。
負けられない戦いがここにあるんだ…!
和人・耕平 パー
伊織 チョキ
伊織は奈々華さん、梓さんと共に千紗の車へ。
俺と耕平、寿先輩は軽トラの荷台に積み込まれた。
「「
「あんたら本当に失礼ね!? 和人までそうだとは思ってもなかったわ!」
「これはこれで乗り心地いいんだな」
ブロォン! エンジンを鳴らし愛菜の合図で車が走り出し、和人と耕平は神へと祈り、寿と時田は笑っている。
いつまで経ってもエンストする様子もぶつかる様子もなく恐る恐る二人が目を開けると普通に車が走っていた。
いや、車が普通に走るのは当たり前なのだが。
免許取り立てとは思えないほどスムーズで快適な運転を不思議に思った。
「実家でこっそり乗ったりしてたのか? 例えば農家の手伝いとか」
「見事な程に慣れてるな」
「ま、ま、まさかぁ! 都会の似合うウチが車で畑ン手伝いばしよったとでも!?」
まさかの正解だった。
それにしても海岸線を走るの車からの景色は伊豆とはまた違う素晴らしい海の景色で潮風も心地よくアスナといつか一緒に着たいな。などと、考えるほどだった。 同時刻、当のアスナが「Grand Blue」に訪れている事は知る由もない。
しかしこうなると…
「ビールが飲みたくなるな」
「はっはっはっ! 和人も立派な俺たちの仲間だな」
はっ、俺は今何を!?
「むっ、対向車が来るぞ!!」
「ヤバい、隠れないとっ! 桐ヶ谷、何かないか!?」
「ち、小さいブルーシートが…っ!」
三人でブルーシートに何とかギリギリ隠れるも足先はシートから出てしまい傍から見れば死体を運んでいる軽トラに見えてしまう。すまない愛菜。
「あんた達なにやってんの!!?」
そんなこんな前途多難だった移動を乗り越えて到着した宿泊先はとても綺麗で庭にプールが付いているほど大きな別荘だった。
男部屋一室と女部屋二室に別れたのだが…
三人部屋に五人はみっちみち過ぎて一人が簡易ベッドを使ってもかなりキツイ。
こうなったら俺は下のソファで寝るか…
「簡易ベッドは伊織か耕平で使えよ。 俺はソファで寝るからさ」
「む、しかしそれは…」
「そうだぞ和人。ここは公平にだ」
「俺たちはベッドでいいのか?」
「先輩方は物理的に無理でしょうし」
「すまんなぁ…」
「まぁとりあえず決めるのはあとにして海に行きましょう」
そう言いながら衣服を脱ぎ捨て各々水着に…着替えることなく和人以外皆全裸で外へ出て行ったのだが案の定、愛菜が静かな怒りを見せて客が多く人目がある脱げないビーチへと移動する事となった。
「あれ伊織達は…?」
海の家で焼きそばとビールを買い自分達のパラソルの下まで戻ってきた和人はその場に居ない面々を探すように訪ねると皆は海を指さしていた。
バナナボートに乗った伊織、耕平、千紗の三人は楽しそうにはしゃいでいる。
「いいなぁ…青春っぽい」
「どしたの愛菜?」
「羨ましそうだな」
……いや、本当に楽しそうにはしゃいでいるのかあれ? 随分と力んでいる顔して……あ、振り落とされた。
プカプカと救命胴衣で浮きながら二人が砂浜に打ち上げられている。
「ねえねえ楽しかった!?」
「私は楽しかったけど…」
「愛菜も乗ってくればいいじゃないか」
「え、でも…」
チラリと愛菜は伊織に視線を移すと向こうも気が付いたようで愛菜に乗るかどうか聴いていた。
和人とは言うと…
「梓さんは遊びに行かないんですか?」
「んー、あたしはいいかな? ここで奈々華とちーちゃんと遊んでるからっ。和人こそ行かなくていいの?」
「俺も見ているだけで十分ですからね」
時田、寿と共にバナナボートへ向かう愛菜を見送りながら喧嘩を続けてるバカ二人に焼きそばとビールを手渡しみんなで食べながら日光に当たる。 まさか自分がこんな健康的なアウトドアを行うとは思ってもみなかった。菊岡さんの言っていた現実における自然の美しさをちゃんと実感出来るのが嬉しいとも思う。
本日二本目のビールを各々飲み始めると最早、和人も気が付くことなく飲んでいく。
彼は手遅れなのかもしれない。