えっと、皆様ありがとうございます…?
皆様大丈夫ですか?
沖縄二日目の朝。
今日はライセンス講習だ。
まさかダイビングのライセンスを取る事になるなんてSAO当時の俺に言っても信じないだろうな…と、朝日が差し込むリビングのソファから起き上がり身体を伸ばす。
結局、簡易ベッドは耕平がリビングのソファは和人が。 そして伊織は奈々華さんと梓さんの部屋で寝ることになった。 メッセージが届いているようでスマホがチカチカと光っている。
寝ぼけ眼を擦りながら開いてみると…
【未読通知24件】
「………ふぅ…」
少し震えた指でタップするとアプリが起動し通知を送ってきた面々の名前が出てくる。
【アスナ 4件】
【直葉 2件】
【伊織 18件】
アイツの身に何が起きたのだろう。
和人は差し込む陽射しによって目が覚めた為か時刻はまだまだ朝早い。少し外の空気でも吸うかと外に出ると気持ちいい風が吹いており腰を下ろしたらまた寝てしまいそうだ。なんて思いながら軽いストレッチを行っていた。
だいたい30分後くらいだろうか? 別荘内に居た他の面々が動き始めた。
「桐ヶ谷くんおはよう。早いんだね」
「おはよう千紗。 陽の光で目が覚めちゃってな」
「悪いな和人。リビングで眠れたか?」
「大丈夫ですよ。 色んな所で寝るのには慣れてますし」
同じく起きてきた寿先輩が冷蔵庫で冷やしていたスポーツドリンクを投げ渡してくれた。有難い。千紗や寿先輩が起きてきたということは同室の人達も起きてきたというわけでリビングは賑やかになっていた。
「あれ? 伊織はまだ起きてないの?」
「北原なら眠れてるのかすら怪しいぞ」
ほれ、と耕平が起きてきた愛菜にスマホを見せている。アイツのところにもメッセージを飛ばしまくっていたようだ。
寝不足で試験に落ちた…なんてことが起きたら笑えないが大丈夫だろうか。
「寝不足になって筆記試験の結果が散々だった場合マズイな?」
「ありそう……」
「いやいや大丈夫ですよ」
「そうなのか?」
伊織って普段バカをやっているイメージが強いが実は大学では頭が良いのか…?
「ヤツは寝不足関係なく頭が悪いですから」
バカも振り切ればここまで信用されるんだな。
「誰か少しは反論しろよ」
階段から何故か首元を真っ赤にした伊織が降りてきた。その様子は寝不足のようには見えず、寧ろしっかりと睡眠を取れているようにも見える。
「言っておくが耕平より高得点を取る自信があるぞ」
「フッ、バカが良く言うぜ」
「あぁん?! ドイツ語17点がよく言うぜ」
「けっ、たまたま20点が偉そうにしてんじゃねーよ!」
「なぁ、20点満点なのか?」
「100点だよ」
想像を超えていた。
いや、ドイツ語の講義や試験が凄く難しい可能性も捨てきれ無くはない。
「ちなみに私は86点だったよ」
やはりバカはバカだったのか。
それにしても先程の伊織の自信は虚勢なんかでは無く本気の言い方だったので何か策があるのだろうか。
実力や暗記をしたのではなく「策が有る」と考えている時点で和人は伊織の勉学における知能をバカにしているのだが。
「カンペの出来が悪かっただけだ!!」
「それは互いに同じ条件だろう!」
「カンニングしてその点数なの!?」
かく言う和人もライセンスの筆記試験に於いては不安なのだ。 なにせ今まで触れてきた分野とは全く別のジャンルなのだから。
「和人も心配そうだな。一応少し問題を3人に出してやろう」
時田先輩がそう言うと寿先輩と共に教本をパラパラと捲り始める。
「オープンウォーターダイバーが潜れる最大深度は?」
「「「18m」」」
常識問題の当たりを敢えて出して自信をつけさせようとしてくれているのか…それともバカ二人の為にか…
「着替える時は更衣室を『使わない』まだ問題の途中なんだけど…」
いや、そこは使うだろ他の男共。
…別に今はいいが何かの間違いでアスナやスグ達が来た時だけは更衣室を使って欲しい。 今はいいが。
「んじゃ、少し難しい問題だ。 保温しないと手が動かなくなる温度は?」
「え? それは…」
「「18℃」」
答えられたのは和人と伊織。 耕平と愛菜は信じられないものを見たような瞳で伊織を眺めている。
「ば、バカな…」
「やるじゃないか伊織。和人は大丈夫だと思っていたが」
大丈夫だと思われていたのか…それはそれで嬉しいがプレッシャーは大きいものだな、と一人考える和人を他所に伊織は昨夜の部屋の状況も物々しく生々しく語る。 所謂、怪我の功名というやつだったらしい。
耕平はそれが気に食わないらしく次々と伊織に問題を出すがそれでも
俺はついぞ伊織の事を実はバカなんじゃないかと疑っていたが…
「このハンドシグナルは!」
耕平は自らを指さす動作をして伊織を見つめる。 確か、こちらを見て下さい…か。
「おっぱい」
やはり馬鹿だったか。
「あぁ、いや違った…『こちらを見て下さい』のサインだ」
それじゃあこれは…と自らの耳を指差しバツを作る。
耳が抜けないだな。
「うなじを見てくださ…違うそうじゃない…そっちを見ちゃダメだ…教本に集中しないと…っ!!」
「脇目振りまくりじゃないか…」
「その程度の集中力か…だらしない」
やれやれと肩を竦める俺と耕平の頭を掴み階段の上を向かせる伊織。 それと同時にガチャりと扉が開け放たれると薄く身体のラインが浮かび上がる寝巻き…キャミソールなのだろうか?を身に纏った奈々華さんと梓さんが寝ぼけ眼を擦りながらゆっくりと降りてくる。
伊織の拘束を全力で振りほどき天を仰いだ和人と耕平は鼻から赤い液体を流すと共に呟いた。
「「見てないよ
年上のお姉さん二人は他の女子に部屋へ押し込められ衣服を正しに行った…助かった…
「それにしても眠れなかったんじゃないか?あれなら」
鼻血を拭きながら伊織を眺めると首に手形が付いているのが見える。
「自分で自分を締め落とした」
絶対に真似しないでください
それでもって筆記試験本番。
時田先輩と寿先輩の普段から考えたら有り得ないような真面目な言葉を頂いて望むこととなった。
問題自体はどれも難しいことはなく、教本をしっかりと読んでいれば解けるものだった。何故か途中で近づいてきた千紗が伊織に往復ビンタをして行ったがそれ以外は特に大きな問題もなく4人まとめて筆記の合格を貰うことが出来た。
さて、次は実技練習なのだが言葉で説明するのはだいぶ難しい。
タンクの初期残圧200をみんなで確認、60になったら浮上をするという事を話し合い「BCDの浮力調整」から始まった。
和人、耕平は上手く行うことが出来て伊織と愛菜はそれぞれ上手くいかず…
続くレギュレーターとマスククリアも和人、耕平はバッチリだったのだが、やはりあの二人は少し上手くいかないようだった。
昼を挟んで二度目の実技練習。
今度はバディのエアが切れてしまった時に自分のオクトパス(予備レギュ)を渡す練習。
愛菜の様子が多少おかしかったがこれは皆上手く出来た。
その後は午前と午後に習ったことや少しの水中散策をしていた所、奈々華さんがタンク圧の残量を聴いてきた。
【残圧は?】
【90です】 【80です】 【100です】
耕平、伊織、俺とそれぞれ圧を示す。
一瞬愛菜の指が止まったがすぐに60を示して全員で浮上することとなった。
浮上後に話を聞けば愛菜は自分の残圧が少ないせいで皆の足を引っ張ると考えてたらしく誤魔化そうとしたようで…
「全く、普段から伊織や耕平をバカだって言ってるのに誤魔化そうだなんてな」
「だ、だって…」
「シレッと自分を抜いたな和人」
俯く愛菜に梓さんは優しく声をかけ、それに時田先輩に寿先輩が続いていく。
コツは教えられるし自分たちだって初心者の頃はそうだったと。 普段のイメージとはだいぶ違うが根っこのところで優しい人はどこまでいっても優しいものだ。 俺はそんな人を何人も知っている。
「これからはこういったウソはダメだぞ」
「特に安全に関することはな」
そう言葉を〆てこの話を終えようとする先輩方に愛菜は涙を流す。
ここの先輩たちは一味違うのだ、と。
リーナ先輩も厳しかったけど優しく…良い人だった。 今の俺を見たら間違いなく激昂しそうだけれど…
「でもアレだねぇ。愛菜が私たちに気を使っちゃうのってさ」
「おう?」
「なんだ」
「身も心もさらけ出せてないからじゃない?」
「え゛」
そんな言葉を合図に先輩方は全てを脱いだ。
これが無ければなぁ…
さて、二日目の日程も終わり皆で市場に晩飯の食材の買い出しに来ているのだが伊織の様子がどうにもおかしい。 大方、先程の実技でこのままだと不味いとか言われたのだろうか。 何か手伝えると良いんだが…
「おい、伊織」
千紗も同じタイミングで伊織に声をかけたのだが…
「毒殺したらいいのか」
全力で距離を置こう。命が危ない。
当の伊織は考えていた。
まさか俺だけ不合格。 この事がヤツらに知られたら…
「まあお前じゃ仕方ないよな ※耕平」
「そうねぇ、私は合格出来たけど伊織じゃねぇ ※愛菜」
「バカはやっぱりお前だなぁ伊織 ※和人」
死に優る屈辱!!
むしろ死の方が温い…!
幸いマスクは持参しているし貸別荘にはプールがある。あとは奴らにバレないように練習するかだ…!
「潰すのは無理…、三人を拘束するには場所もない」
別荘の間取りを考えるがどれも無理だ…今は夕飯前の準備。だとすれば出来るのは!!
「毒殺したらいいのか」
「いい笑顔で何言ってるの」
「うぉ!? 千紗、盗み聞きとは趣味が悪いぞ!?」
「毒殺よりマシだよ」
誰にも知られてはならないと伊織はその場を走って逃げる。 運良く食材は別々に買い物をして夜に一人一品作ることになったのでこの間に奴らを毒殺出来るものを仕入れなければ…!
一人魚屋に向かえば並んでいる魚を眺める。
自慢じゃないが魚の種類なんて全くもって分からないのでここは店員に大人しく聴くことにしよう。
聞くはいっときの恥…だな!
「すみません!」
「あいよ兄ちゃん、何を探してるんだい?」
「一口で成人が昏倒するような毒魚を」
「ねぇよンなモン」